鍼灸臨床における統合医療を模索して筑波技術大学保健科学部附属東西医学統合医療センター2009年度 鍼灸部門 外来報告 筑波技術大学 保健科学部附属東西医学統合医療センター 近藤 宏 櫻庭 陽 堀 紀子 平山 暁 青柳一正 要旨:東西医学統合医療センター鍼灸部門の2009年度における外来患者統計を報告する。診療日数は239日で、延べ来診患者総数は、8693人であった。内訳は、新患489人、再診8204人であった。男女比は女性63.4%、男性36.6%であった。年代別では、30歳代が最も多かった。主訴で最も多かったものは、腰痛111件で、次いで、肩こり69件、逆子37件と続いた。インシデント・アクシデントに関する報告は、63件あった。分類別では、「鍼の抜き忘れ」15件が最も多く、次いで「主訴の悪化」、「内出血」6件と続いた。 キーワード:統合医療,鍼灸,患者動向,統計,インシデント 1.はじめに  開設後17年を経過し、漢方・鍼灸・西洋医学を統合した新しい医療というコンセプトを模索している。平成17年度秋から、四年制の筑波技術大学保健科学部附属のセンターとして活動を継続している。  東西医学統合医療センター(以下センター)所属の常勤職員は、11人で、教員4人(医師2人、鍼灸師2人)、技術スタッフ5人(看護部2人、臨床検査部、薬剤部、放射線部各1人)、事務2人である。その他、非常勤職員が在籍している。  センターは診療部門と施術部門(以下、鍼灸部門)に分かれている。診療部門は漢方内科、内科、小児科、神経内科、整形外科、精神科、放射線科を持ち、センター所属の教員および鍼灸専攻、理学療法専攻の教員がローテーションで診療にあたっている。鍼灸施術部門は、センター所属の教員2人とともに鍼灸学専攻の教員9人が曜日別で3~4人体制で外来にあたっている。  当センターは、鍼灸学専攻学生の臨床実習の場としての機能をはじめ、本学における医科学の教育研究に係る診療の場として機能するとともに、西洋医学と東洋医学を統合した診療及び施術を通して、地域医療の向上に寄与することを目的としている。  また、日本東洋医学会の専門医のための研修施設として医師の研修および鍼灸師の卒後臨床研修を行っている。研修制度は1993年から発足している[1]。2009年度は8名の研修生を受け入れ、2年目以降の研修生をあわせると21名(2009年4月時点)が在籍している。  研修生は鍼灸師養成学校で資格を取得した後の卒後教育として、指導教員のもとで鍼灸臨床に必要な刺鍼技術や問診法や徒手検査の技術、鍼灸施術の安全性、また、鍼灸外来の環境維持業務を通じて治療室運用の実務までを学んでいる。  本センターでは、より良い医療サービスの提供と充実した教育・研究活動のために、ソフト面を充実することが今後の課題となっている。  2009年度(2009年4月1日~2010年3月31日)の本センターの年間診療日数は239日であった。患者総数は、15251人で、その内、診察部門は6558人であった。診察部門の内訳は、新患1242人、再診5163人、検査等153人であった。一方、鍼灸部門は8693人であった。 2.施術部門(鍼灸部門)の外来実績  2009年度の鍼灸施術外来実績について報告する。2008年の延べ来診患者総数は、8693人であった。内訳は、新患489人、再診8204人であった。 2.1 再診の患者数  月平均の再診患者数は683.7±68.2人であった。なお、診療日数の月平均は19.9±1.6日であった。  再診患者数を月別にみると、3月(805人)が最も多く、次いで、10月(759人)、7月(737人)と続く。最も少ない月は、5月(561人)であった(図1)が、外来1日当たりの平均再診患者数でみると、9月(38.3人)が最も多く、次いで3月(36.6人)、10月(36.1人)と続く。最も少なかったのは4月(30.0人)で、次いで5月(31.2人)であった。4、5月の減少は新年度による研修生等スタッフの入れ替わりに伴って実際の施術者数が減少することが影響しているかもしれない。 2.2 新患の内訳  新患数489人であった。月平均の新患者数は、40.8±9.6人であり、新患数を月別にみると、6月(58人)が最も多く、次いで、3月(51人)、1月(48人)と続く。最も少ない月は、11月(25人)であった(図1)。  診療日数の影響を除くために月別の1日当たりの平均新患者数でみると、6月(2.6人)が最も多く、次いで1月(2.5人)と続く。最も少なかったのは11月(1.3人)であった。性別では女性310人(63.4%)、男性179人(36.6%)であった(図2)。  年代別でみると、30歳代が最も多く(20.4%)、次いで、50歳代(19.2%)、60歳代(17.4%)と続く(図3)。  居住別にみると、つくば市外の茨城県内48.5%、つくば市内45.4%、茨城県外の関東4.7%、関東以外1.4%であった。  紹介状の有無については、有り32件(6.5%)、無し457件(93.5%)であった。紹介元の内訳は、診療所・病院20件(62.5%)、助産院11件(34.4%)、鍼灸院1件(3.1%)であった。  症状については、1人あたりの愁訴数は1.4件であった。愁訴上位10位は、腰痛111件、肩こり69件、逆子37件、腰下肢痛32件、肩関節痛31件、下肢痛27件、頚部痛25件、膝痛21件、下肢しびれ19件、頚肩部痛19件であった(表1)。  愁訴の上位2症状の腰痛、肩こりは、平成19年国民生活基礎調査[2]での有訴者率の上位2症状と同様の結果であった。これらの愁訴に対して鍼灸を希望する者が多いことがうかがえる。 2.3 インシデント・アクシデント報告について  WHOが1999年に「鍼の基礎教育と安全性に関するガイドライン」を発行し、日本においてもこれまで以上に安全性に関する関心が高くなり、近年、新たな鍼灸治療における安全性ガイドラインの発行[3]や鍼灸に関連する有害事象の報告[4]やインシデントに関する報告[5-8]が数多く報告されている。  センターでは、1992年の開設当初より有害事象を報告することを義務づけてきた[9]。2000年からより安全な鍼灸臨床を実施していくため、外来終了時のミーティングにおいてインシデント・アクシデント報告を実施している。  2009年度のインシデント・アクシデント報告総数は52件で、発生総数は、63件であった。分類は「鍼の抜き忘れ」15件が最も多く、次いで「主訴の悪化」、「内出血」各6件、「一過性の気分不良」、「刺鍼部の疼痛(刺鍼中)」各5件、「火傷」、「患者の放置」、「疲労または倦怠感」、「出血」、「刺鍼部の疼痛(刺鍼後)」各2件、「血腫」1件であった。また、「その他」15件であった(表2)。  最も多かった「鍼の抜き忘れ」について具体的にみると、抜き忘れた鍼の本数は、平均1.2±0.4本で、1本12件、2本3件であった。部位別にみると、頭部、大腿部2件、頚部、肩上部、背部、腰部、殿部、腹部、前腕、肘関節、手部・手関節、下腿部、足部・足関節が各1件であった。発見場所は、施術ブース内およびベッド上が10件で最も多く、施術ブース以外は、患者宅4件、センター内トイレ1件であった。発見者は患者14件、施術者1件であった(図4)。施術者と抜鍼者が同一の場合が14件、別の場合が1件であった。忘れた理由では「タオルで隠れていた」3件、「うっかり」3件、「他の施術部位に意識がいっていた」2件、「不明」2件、「衣服・下着で隠れていた」2件、その他3件であった。  インシデント・アクシデント発見時の報告は患者から直接報告されたことが最も多く42件、次いで電話による報告が9件、未記入1件であった。情報源は患者35件、施術者本人13件、スタッフ4件であった。インシデント・アクシデントの月別報告数については、4月10件が最も多く、9月9件、3月6件、6月および10月4件と続いた。  処置および対処方法については、「鍼灸師のみが関与」が42件、「所外の医療機関が関与」4件、未記入6件であった。また処置のための医療費については、なし42件、患者負担3件、未記入7件であった。  今回得られた結果からアクシデントを未然に防ぐための最も効果的な方法や問題点等を改善するための方策について検討し、臨床にフィードバックしていきたいと考える。 参考文献 [1] 山下 仁,津嘉山 洋,他:鍼灸師の卒後研修.筑波技術短期大学テクノレポート5:211-216,1998. [2] 厚生労働省大臣官房統計情報部編:平成19年国民生活基礎調査第2巻.厚生統計協会,東京,2009. [3] 尾崎 明弘,坂本 歩,他:鍼灸医療安全ガイドライン.医歯薬出版株式会社,東京,2007. [4] 山下 仁,江川 雅人,他:国内で発生した鍼灸有害事象に関する文献情報の更新(1998~2002年)および鍼治療における感染制御に関する議論.全日本鍼灸学会雑誌54(1):55-64,2004. [5] 山下 仁,津嘉山 洋,他:視覚障害をもつ鍼灸師が特に注意すべき医療過誤-附属診療所における6年間の記録-.筑波技術短期大学テクノレポート6:207-209,1999 [6] Yamashita H, Tsukayama H:Safety of acupuncture: incident reporting and feedback may reduce risks. BMJ 324:170-171,2002. [7] 江川 雅人,石崎 直人:より安全な鍼灸臨床のためのアイデア 鍼の抜き忘れ防止の工夫.全日本鍼灸学会雑誌57(1) :3-6,2007.[8] 山下 仁:より安全な鍼灸臨床のためのアイデア インシデント報告システムの効果.全日本鍼灸学会雑誌57(1):7-9,2007. [9] Yamashita H, Tsukayama H, Tanno Y, Nishijo K.: Adverse events related to acupuncture. JAMA280: 1563-1564, 1998. Activities of an Acupuncture Clinic at the Center for Integrative Medicine for 2009 Kondo H., Sakuraba H., Hori N., Hirayama A., Aoyagi K. Center for Integrative Medicine, Tsukuba University of Technology Abstract: This is a statistical report on the patients who visited the outpatient department for acupuncture and moxibustion at the Center for Integrated Medicine in the fiscal year 2009(April 1,2009 to March 31,2010). The total number of outpatients was 8693 (first outpatients 489, revisit outpatients 8204).The sex ratio was 1:1.73(male:female). The most common age group was 30-39 years, and the most common complaints of the patients were lower-back pain (n=111), stiff neck (n=69), and breech presentation (n=37). The total number of treatment-related complications reported during this period was 63.The most common incident classification was forgotten needles(n=15),followed by internal bleeding(n=6). Keywords: Acupuncture and moxibustion, Statistics in outpatient, Center for Integrated Medicine