オーディエンス・レスポンス・システムを導入したDVD講座の取り組み 筑波技術大学 保健科学部 保健学科鍼灸学専攻 池宗 佐知子 東條 正典 成島 朋美 大越 教夫 要旨:医学基礎教育の教材の一つとしてDVD教材を整備し、希望者を対象としてDVD講座を開講した。講座には、オーディエンス・レスポンス・システムを導入した。DVD講座は週3回全10回週毎に同一単元の学習を行った。その結果、DVD視聴前後での正答率の向上と自主学習時間の増加が認められた。しかしながら、DVDのスピードについていけないという問題もあり、今後は個別に対応していく必要がある。さらに、視覚障害に配慮した資料の作成をすることで、本講座が自習のきっかけとなる。 キーワード:DVD講座,オーディエンス・レスポンス・システム,自主学習 1.はじめに  近年、教育の方法として、教員主体の一方向的な授業から、学生主体の授業へ方向転換が進められている[1]。学生の自らの思考を促す能動的な学習として、「学生参加型授業」や「PBL(Problem/Project Based Learning)」、「課題解決/探求学習」などが導入されている。2005年度に発表された、学習法の実践報告では、「医歯薬」の分野においてPBLなどを導入した報告件数が多かった[2]。医療を学ぶ学生にとっては、自主的にかつ問題意識を持った学習をすることが望まれている。  昨年度本学では、医学基礎教育教材として、DVD教材を整備した。看護学部などでは、様々な手技や技術、また講義補助教材、自習教材として、DVD教材が整備されている[3][4]。授業DVDは、欠席した授業の補充や聞き漏らし等に対応しており、学習支援の一環とも考えることができる[3]。また、授業補助資料としてのDVD教材は、自習教材に適していたという報告もある[5]。DVD教材は、チャプターを使うことで、自分のペースで視聴可能なため、自習教材となることが報告されている[6]。今回は、DVDを一斉授業形態で視聴する講座を開講し、学生の自主的参加を促した。本講座を通して、自主学習環境の構築と共に、講座の進行上の問題点等について報告する。 2.DVD講座の概要および調査方法 2.1 講座対象者  月、火、木の週3回、DVD教材を活用した講座を開催した。利用したDVD教材は、(株)医学映像教育センター(東京)より発行されている、「生体のしくみ」、「目で見る医学の基礎」、「目で見る病気」の3本とした。各講座の開講に先立ち、案内を掲示し受講者を募集した。月曜日に開講した「生体のしくみ」は、1、2年生を対象とし、解剖学や生理学の復習として位置づけた。火曜日には全学年を対象として「目で見る医学の基礎」を開講した。これは、解剖・生理・病態の基礎的な学習として位置づけた。木曜日には3、4年生を対象として、病理学を中心とした病気の成因に関するDVDである「目で見る病気」を開講した。 2.2 オーディエンス・レスポンス・システム  各講座は、TurningPoint(Keepad Japan、大阪)を利用した、オーディエンス・レスポンス・システム(ARS)を採用した。各講座受講学生には、予め決められたレスポンス・カードを配布した。このカードには、12個のボタンがあり、質問に対する回答をボタンの中から1つを押し、レシーバが電波を受信する。レシーバは、USB端子にてPCに接続されており、受信データをPC上のソフトウェアにて即座に集計、グラフとして表示するものである(図1)[7]。DVD視聴前後で、Turning Point ARSを利用して、10問程度の問題演習を行い、各単元の理解度について評価した。 2.3 アンケート調査  参加学生に対して、各講座最終日に、自記式アンケート調査を行った。アンケート項目は、自主学習に対する意識調査とDVD講座に関するものとした。なお、アンケート回答者は月曜3人、火曜6人、木曜3人であった。 図1 TurningPointを利用した問題と集計例 3.結果 3.1 各講座参加者数の推移  本講座の参加者数の推移を図2に示す。月曜日の参加者は平均3.9人、火曜日は平均4.8人、木曜日は平均3.7人であった。また、参加学年は、全て3、4年生であった。 3.2 ARSを利用した講座前後での理解度  各講座において、Turning Point ARSを用いて四者択一問題に解答させた。2回目から9回目までは、週毎に類似した内容のDVDを視聴させた。問題作成は、DVD視聴上のポイントとなる点を中心とした。図3に示す様に、全ての回で、DVD視聴後は得点率が上昇した。 3.3 自主学習に関するアンケート結果  自主学習に関するアンケート項目には、復習の程度、学習時間の増減、自主学習のきっかけの3項目とした。まず、各講座の復習の程度を聞いたところ、毎回必ず復習をしたと答えたものはいなかったが、時々復習したと答えたものが、月曜で66.7%(2人)、火曜で83.3%(5人)、水曜で100%(3人)であった(図4-a)。次に学習時間の増減に関する項目では、月曜の受講者全員、学習時間が増えたと答えた(図4-b)。最後にアンケートに回答した全員が、本講座が自主学習のきっかけになったと答えた(図4-c)。 3.4 DVD講座に関するアンケート  DVD講座を開講する上で、今後検討すべき課題等も考え、DVDの内容等5項目について調査した。まず、DVDの内容については、「内容が簡単だった」と答えるものはいなかった(図5-a)。次に、DVD講座は画像を用いた説明が多かったため、DVDの映像を理解することができたか聞いた。その結果、火曜、木曜では、「映像を理解できた」と答えたものが各1人いたが、その他のものは、「どちらとも言えない」もしくは「できなかった」と答えた(図5-b)。音声だけで、DVDの内容を理解できるかどうかについては、思うと答えたものはいなかった。また、DVDは複数で視聴したため、学生個人の理解度に合わせているものではない。そこで、DVDの進行について聞いたところ、全員が「速かった」と答えた(図5-d)。最後に本講座の有用性については、全員が「役に立った」と答えた(図5-e)。 3.5 DVD視聴のメリット・デメリット  講座に参加した学生の中に、全盲の学生はいなかった。しかし、本講座のデメリットを抽出した結果、大きく3つのカテゴリーに分けることができた。一つ目は、視覚に関する点、二つ目としては、DVDそのものに関する点、三つ目に自主学習に関する点であった。 視覚に関する問題点には、グラフ、文字、画像など画面上に映し出されているものが見えないなどが挙げられた。DVDそのものに関する問題点としては、前述のアンケートにもあったが、スピードが速くてついて行けない、メモをとる時間がないなどであった。最後に自主学習に関しては、十分な復習ができていない、復習するのが大変だったなどであった。一方本講座のメリットは、自主学習のきっかけ作りになっていることであり、より多くの情報について学習をすることができた、理解を深めることができたなどが挙げられた。 図2 DVD講座参加者数の推移 図3 DVD視聴前後での理解度の変化 図4 自主学習に関するアンケート a)DVD講座後の復習について b)DVD講座受講前と比べて自主学習時間 c)DVD講座は自主学習のきっかけになったか 図5 DVD講座に関するアンケート a)DVDの内容について b)DVDの映像を理解することができたか c)DVDの内容を音声のみで理解できると思うか d)DVDのスピードはどうだったか e)DVD講座は役立ったか 4.考察  学生の自主学習環境構築の一貫として、一斉授業形式によるDVD講座を開設した。さらに、DVD視聴と共にARSを用いた学習を取り入れた。本講座は、個別授業やグループ授業の前段階として実施し、学生の学習ニーズを明らかとした。今回ARSとして使用したTurning Point ARSは、即座に解答したものが集計されグラフとして表されるのである。DVD視聴前に利用することで、視聴するポイントを押さえることができ、視聴後の得点率の増加につながった可能性がある。  DVD講座を受講した学生は、本講座が自主学習のきっかけとなり、学習時間の増加につながっていた(図4-c)。DVDを用いた学習は、現在教育の中で広く取り入れられている[3][4]。よって本学においても、医療系学部などで導入されているDVD教材を活用した講座を開講した。その結果、本講座で用いたDVDの内容を簡単だったと答えたものはおらず、内容を十分に理解するためには、予習、復習が不可欠であったことが考えられる。このような講座を含めた学習環境の提示は、学生の自主学習のきっかけ作りとなる可能性がある。  今回使用したDVDは、映像により学習効果の効率を上げるために作成されたものであるが、映像を理解できた学生は少なかった(図5-b)。講座に参加した学生の中には、全盲の学生はいなかったが、参加した学生の視覚障害の程度は様々であった。一般に文字の処理は、障害の程度による影響が大きいと言われている[8]。また、一度に見ることのできる文字数が5文字を切ってしまった場合には、視覚による読みは現実的ではなく、音声や点字での読書に移行することとなる[9]。本講座は映像と音による学習法であったが、本学の学生にとっては、音声による読み上げと類似した学習法であった。しかしながら、「音声による理解ができると思うか」の問いに対しては、「思う」と答えたものはいなかった(図5-c)。一般教材用として作成されるDVDには、指示語が多用されている傾向がある。現在、弱視学生のためには、バリアフリー教材として拡大教科書が作成され利用されている[10]。しかしながら、このような教材も全ての学生に満足したものではないため、テキストデータの提供なども工夫されている。一般の学習用DVD教材に関しても、この様な取り組みが必要である。その一つとして、ナレーションにおける指示語の減少や、図表の詳細な解説、また、ナレーションをデータ化したものの無償提供などバリアフリー化の取り組みが望まれる。  さらに今回のDVD講座は、一斉授業の形式をとっていたため、個々の学習スピードに合わせて視聴することはできなかった。よって、スピードが速い、メモをとっている間に次々内容が進んでしまうこと等が自由記述において挙げられた。この点に関しては、自分のペースで学習出来るようDVDを配備する必要がある。今後は、学生が興味を持った教材を図書館などに配備し、貸出し方式として対応していく予定である。  本講座の開講は、より理解を深めるために学習するきっかけ作りとなった。今後は、個々の学習ペースに応じた対応や、障害の程度に応じた資料を作成することで、さらに自習のモチベーションや学習の効率を上げる可能性がある。 謝辞  本研究は平成22年度文部科学省特別教育経費「視覚に障害を持つ医療系学生のための教育高度化改善事業」の一部として実施した。 参考文献 [1] 木野 茂: 大学授業改善の手引き−双方向型授業への誘い, ナカニシヤ出版, 京都, 2005. [2] 溝上 慎一: アクティブ・ラーニング導入の実践的課題. 名古屋高等教育研究7:269-287, 2007. [3] 田中丸 治宣: 受講学生が随時利用できる授業DVDによる学習支援. 静岡県立大学短期大学部研究紀要22: 41-45, 2008. [4] 浅野 弘明, 林 恭平 他: 看護教育におけるDVD教材の有効性. 京府医大看護紀要12: 9-13, 2002. [5] 浅野 弘明, 林 恭平 他: 看護情報教育におけるDVD教材の有効性−自習教材として−.京府医大看護紀要13: 9-15, 2003. [6] 浅野 弘明, 園田 悦代 他: 看護情報教育用DVD教材の有効性の検証:学生による評価を用いて. 医療情報学24(1): 169-175, 2004. [7] 篭谷 隆弘: 授業応答システムと学習管理システムを活用した授業実践. 仁愛大学研究紀要:83-88, 2009. [8] Legge GE, Rubin GS, et al. : Psychophysics of reading--II. Low vision. Vision Res 25(2): 253-65, 1985 [9] 渡辺 隆行, 安村 通晃 他: 視覚障害者の聴覚認知の解明と音声対話への利用に向けて. 電子情報通信学会技術研究報告104(751): 7-12, 2005. [10] 千田 耕基,澤田 真弓:バリアフリー教材「拡大教科書」への取組の現状と課題. 国立特別支援教育総合研究所紀要35: 3-14, 2008. Approach of DVD course that introduces audience response system Sachiko Ikemune, Masanori Tojo, Tomomi Narushima, Norio Ohkoshi Course of Acupuncture and Moxibustion, Department of Health, Faculty of Health Sciences, Tsukuba University of Technology Abstract: We prepared the DVD as one of the educational of basic medicine education. We started the course that used DVD educational material and ARS. This course was organized three times a week for ten weeks in all. Moreover, the same unit was studied every week. As a result, the correct answer rate improved after having seen DVD. Additionally, the self-study time has increased, too. However, there was a problem that it was not possible to understand enough because the progress of DVD was fast. Therefore, it will be necessary to correspond individually in the future. In addition, this course becomes the chance of self-study because it makes material that considers the visual disturbance. Keywords: DVD course, audience response system, self-directed leaning