聴覚障害のある医学生の臨床実習(Clinical Clerkship)における手話通訳に関するワークショップ 筑波技術大学 障害者高等教育研究支援センター 蓮池 通子 白澤 麻弓 石野 麻衣子 磯田 恭子 萩原 彩子 中島 亜紀子 要旨:国立大学法人筑波技術大学では、2008年から2009年にかけて一般社団法人日本手話通訳士協会および地元の聴覚障害者情報提供施設の協力を得てT大学の医学部に在籍する聴覚障害のある医学生の臨床実習(Clinical Clerkship)の手話通訳支援を実施した。この過程では、手話通訳者の事前学習と医学生・手話通訳者が相互理解を深めることを目的に、継続的なワークショップを実施した。本稿では、本学が支援協力を行い、臨床実習(Clinical Clerkship)の支援期間中に開催された、このワークショップの開催経緯ならびにその実施内容について報告をする。 キーワード:聴覚障害,臨床実習,手話通訳,医学生支援 1.はじめに  国立大学法人筑波技術大学障害者高等教育研究支援センター(以下、本学)では、聴覚障害学生支援のための拠点形成を目指して2007年度より「高等教育機関のアクセシビリティ向上を目指した筑波聴覚障害学生高等教育テクニカルアシスタントセンター(T-TAC)構築事業」に取り組んできた。本事業は、聴覚障害学生支援に関する様々なノウハウを蓄積するとともに他大学に対する情報発信を行うものである。本事業において、2008年度から2009年度にかけて、T大学の医学部に在籍する聴覚障害のある医学生の臨床実習(Clinical Clerkship)において手話通訳支援を行った。しかしながら、本支援はこれまでに前例のほとんどない高度専門領域である医学に関する内容の手話通訳であり、さらに病院という特殊な環境下で通訳を行わなければならず、大変な困難を伴うものとなった。これら通訳現場での困難点については、「聴覚障害のある医学生の臨床実習(Clinical Clerkship)における手話通訳支援」(蓮池ら,2010)に詳しい。今回は、その困難点を少しでも改善するために聴覚障害のある医学生と手話通訳者、それを支える支援関係団体担当者の3者が合同で行った「臨床実習における手話通訳に関するワークショップ」についてその方法と内容をまとめ以下に報告する。 2.ワークショップ開催の経緯  臨床実習における手話通訳支援では、事前にある程度の困難さを予想していたものの、実際に支援が始まると様々な通訳上の困難点が挙げられることとなった。これらの内容は、通訳者が日々の活動状況を報告する日報などにも詳しく示されている。このような中で、聴覚障害のある医学生は、この臨床実習期間中に行われた本学主催のアメリカ視察に参加する機会を得た。その視察を通して、医学生はアメリカで現役の医師として活躍する聴覚障害者に、自分自身が臨床実習の中で感じる困難点などを直接相談する事ができた。アメリカで医師として活躍している彼らが、医学生であった時、どのようにして臨床実習で学んできたのか、どのようにして自分に必要な情報を得る事ができたのかなどについて、たくさんのアイディアや助言をいただいた。その助言の中にあったのが、聴覚障害のある医学生と手話通訳者が一緒に行うワークショップであった。これを参考に、聴覚障害のある医学生本人より、帰国後ワークショップの開催について発案があり、その要望を受ける形で本学が事務局となって、ワークショップを実施する運びとなった。 3.ワークショップの概要  ワークショップは、臨床実習のほぼ半分が経過した2009年3月から、実習終了後の同年10月まで、ほぼ月1回のペースで合計7回開催された。参加者は、聴覚障害のある医学生、支援に入っている手話通訳者4名、そして支援団体である一般社団法人日本手話通訳士協会(以下、士協会)、情報提供施設、本学関係者から各1~2名であった。毎回全員が集まるということは難しいが、それでも各回5~6名で開催する事ができた。また第1回から第5回までは、臨床実習期間中に開催されたもので、医学生と手話通訳者との間で通訳に関する話し合いを中心に行われた。そして、第6回と第7回は臨床実習期間が終了してから開催されたもので、第6回は手話通訳者と支援団体関係者のみが出席して支援を提供する側からの視点で今回の手話通訳支援全体を通して振り返りを行った。また、第7回は聴覚障害のある医学生を含め、全員で今回の臨床実習における手話通訳支援の振り返りを行った。なお、ワークショップは本学を会場として開催し、日程およびそれぞれの回のテーマは以下表1の通りであった。 表1 ワークショップの日程およびテーマ一覧 4.ワークショップの主な内容  ワークショップでは、現場でのさまざまな困難点を少しでも改善するための話し合いが行われた。各回の構成は、1)診療科で取り扱う病気等に関する学習、2)手話表現の創作、3)手話通訳場面での悩みの共有、4)支援の全体的な状況の確認という流れであった。以下に1)~4)のそれぞれの内容について報告する。 4.1 診療科で取り扱う病気等に関する学習  臨床実習では、1週間から長くて4週間という期間をかけて、一つの診療科の医師や看護師と共に実際の病院の医療現場で治療の流れや立居振舞いなどを学ぶ。それぞれの診療科では、日々使われる医療用語や医療器具、患者の病名や医薬品名なども異なり、その科の特徴が現れる。それら各診療科の特長や頻出用語について、実習支援に入る前に知識を得ることが、この学習の目的である。この診療科についての学習では、聴覚障害のある医学生が次に実習に入る診療科に関することおよびその診療科での頻出用語を自ら事前に調べ、特に医学生自身にとって知りたいと思うポイントなどを通訳者に講義形式で指導を行った(写真1)。  手話通訳者は、これらの講義を受けることで、医学生自身が診療科の用語をどのように手話で表現するのかを見て確認する事ができるうえ、医学的知識を得て、より医師達の会話を聞き取ることができるようになり、話を理解しながら通訳をする事ができるようになった。また、ワークショップを行っていなかった間は、手話通訳者は自ら次に通訳を担当する診療科について情報を集めなければならず、人によって情報収集の方法が異なることや、的外れの情報を収集してしまうという事態が生じる恐れもあったが、この学習を進めることで、通訳者ごとの事前知識の差は改善され、そして医学生が望む情報を出せるようにポイントを絞ることも可能となった。  例えばカンファレンスなどで、入院してすぐの患者についての病状報告を行う時には、「新患サマリー」という定型様式に従って患者の様子が報告される。「新患サマリー」は、主訴、現病歴、既往症、家族歴、生活歴、入院時身体所見、入院時検査所見、入院時処方、プロブレムリスト、入院後経過などの項目からなり、その下に細かな検査項目や報告すべき数値や事柄が並べられている。通訳支援開始当初はこの様な定型様式があることさえ知らずに通訳を行っていたため、先ほど挙げた基本項目ですら聞き取れない状況があった。しかし、ワークショップにおいて、カンファレンスでの困難点を話しあう中で「新患サマリー」には定型の様式があることを知り、前述の項目や検査値の単位などを学習することで、より音と用語の関連づけが促進され、聞き取れない事態が減少した。さらに、ワークショップを進めて行くと、院内で同じ「新患サマリー」を使っていても、診療科によって重視している項目や検査数値などがあることが医学生から説明され、手話通訳者は通訳が困難な状況であっても、重要な部分を聞き取り、伝える努力をする事が可能となった。  一方、通訳者が医師らが話す医学用語に慣れたり、現場で話されている事柄についてイメージをつかめるようにするために、各診療科の特徴や、大学病院内で実施されている最新の治療方法、使用される器具等についても学習を行った。  例えば、実習の行われる大学病院では、たいていの場合、各診療科でホームページを開設している。ここには、その大学病院で行われている最先端医療の内容や、治療効果について記載されており、様々な情報を手に入れることができる。特に、どのような手術を行っているのか、また得意としている手術法や治療に関する考え方や姿勢、診療科に在籍する医師の氏名、顔写真、肩書き、所属学会等は通訳者にとって有用で、これらを用いた学習も効果的であった。例えば、初めて担当をする診療科では、そこに所属している人々の顔や肩書きを事前に確認でき、どの人が多く話をするのか見当をつけたり、通訳しづらい場面で誰にお願いをしたら効果があるのかなどを想像し、考えるための助けになった。同様に、診療科の医師が多く所属する学会(例:日本皮膚科学会、日本腎臓学会など)のホームページを閲覧することも、病気や症例についての理解を深めるための助けとなった。これらは、大学の附属病院に関する情報を集める事に慣れていた、薬剤師資格を持つ手話通訳者の情報収集方法であった。偶然、ワークショップにおいて情報収集方法に悩んでいた他の通訳者へのアドバイスとして紹介された方法であったが、通訳に入る前にこれらの診療科のホームページに目を通すだけでも現場で医師が話す難解な医学用語を理解する上でとても役に立つものであった。  さらに別の学習方法として、医師独特の言い回しについて通訳方法を検討するために、実際の症例から模擬通訳を行う方法も取り入れた。これは、インターネットを使い、各種学会の勉強会などで行われている症例検討や症例報告の事例を用いて行うもので、短めの文章にまとめられた題材を選んで音読し、通訳練習を行った。例えば第4回のワークショップでは、日本消化器内視鏡学会甲信越支部のホームページから、各地方会のプログラムとして発表されている症例を利用した。このホームページに掲載されている症例はどれも800文字程度でまとめられており通訳練習には非常に扱いやすいものであった。以下の図1に、模擬通訳に実際に使用した症例の文章を一つ紹介する。  このような文章は、難解な医療用語が含まれており、文字を見ながら音読することさえ難しい箇所がいくつも含まれている。また、音を聞いただけでは、何の事を指しているのか判別しづらい部分も多く含んでいる。このような題材を使い、音読する者と通訳練習する者に分かれ、交代しながら模擬通訳を行った。またこの模擬通訳を聴覚障害のある医学生に原文と比較しながら見てもらい、その後どのようなところがわかりにくいのか、どういう情報が欲しいのかなどについて意見交換を行った。この意見交換の中から、新たな手話表現の方法を考えたり、省略した表現について相談することができ、それぞれの通訳者の表現についてより深く話し合いを行うことが可能であった。 4.2 手話表現の創作  臨床実習の手話通訳支援で大変であったことの一つに医学の専門用語に関する手話表現がないことが挙げられる。現在、書店などで販売されている医療に関する手話単語集は、専門家である医療従事者が、専門家ではない一般の市民に対して話をする時に使用する医療用語が主なもので、病院の中で専門家同士が話をする場合の医学用語に関しては、皆無に等しい状態であった。この様に、手話の単語がない医学用語の場合には、基本的に指文字を使い表現をする事になるが、この方法ばかりでは、とうてい通訳が追いつかなくなってしまう。このため、4.1のような次の診療科についての学習で出てきた頻出用語について手話表現の創作を行った。しかしながら、全くゼロの状態から創作するのは困難を極めるため、病名や体の各器官などについては、財団法人全日本ろうあ連盟出版部発行の『医療の手話シリーズ』に掲載されている表現などを参考にした。また、創作する手話表現については、①医学生・通訳者の双方にとって見やすく表現しやすいこと、②手話表現が伝えたい用語や物の形などからかけ離れすぎないこと、③既存の単語やその他の似たような頻出医学用語と表現をし分けられること、などの条件を満たしている必要があった。また、従来の手話表現は動作が多く、時間的制約の大きい通訳下では使用しづらかったため、極力1~2動作で表せるものを考案した。図2は、今回の支援で創作された手話単語の一例である。  しかしながら、手話表現のない医学用語すべてについてこのような創作を行っても、通訳者が短期間でそれだけの手話を覚えて使えるようになるには困難なであるため、創作が必要な医学用語のうち、頻繁に使われるであろうと考えられるものを医学生自らが選んで絞り込む必要があった。  この手話創作を行うようになってから、聴覚障害のある医学生が、それまでバラバラであった手話表現が統一され、より見やすくなったとの感想を寄せてくれた。  一方、手話表現の中には、通訳者間で統一しづらい物も存在した。それは、アルファベットの表現であった。手話通訳者によっては、アメリカ手話の片方の手だけで表現できるアルファベットの指文字を身につけておらず、日本手話にある両手で表現するアルファベットを日頃から利用しており、アメリカ手話の指文字を表現しようとするとそれだけで通訳が追いつかなくなってしまうという状態が生じた点である。これについては、医学生との話し合いの結果、可能であればアメリカ手話の指文字を使用する方が好ましいが、素早く情報を出すことを優先するために、日本手話の表現方法でも良いということとなった。この様な話し合いができたという面でもワークショップは非常に有益な場となった。 4.3 手話通訳場面での悩みの共有  手話通訳者は、日々の通訳活動について日報を提出し、その情報は関係者間で共有されていた。この中には、通訳現場であるという特性から、手話通訳者はさまざまな判断に迫られている様子がわかった。例えば、日々の臨床実習では、手話通訳者から見れば、医学生が他の学生から孤立しているように見える事があった。この場合に聴覚障害のある医学生に対し、どのようにその状況を伝えるか、または、そもそも伝える必要があるのか判断に迷う例が複数報告されていた。また別の例では、医師が、一生懸命に言葉を紙に書きながら医学生に説明を行っていたが、筆談としては不十分で、聴覚障害学生には通じづらい場面もあった。この様な場合、その旨をそれとなくその医師に伝えるべきか、また医学生から伝えてもらうべきか、判断に困ったと述べられていた。また、筆談として不十分であると伝えることで、担当の医師は、筆談をすることすらやめてしまうのではないかと葛藤にさいなまれるとのことであった。  ワークショップを開催する前は、こうした聴覚障害学生と手話通訳者の間で起きる細かなすれ違いを修正する時間をとれないことも多かった。そのためワークショップでは、手話通訳者から日々挙げられている通訳現場での悩みを取り上げ、それを皆で話しあい、共有することとした。  これにより聴覚障害学生は、手話通訳者がどのようなことを考えながら通訳しているのか、またどのようなことに注意を払ってその場で動いているのかなど通訳者の視点から現場を知ることができるようになった。これとは反対に、手話通訳者は、聴覚障害のある医学生がどのようなことを考えながら通訳を受けているのか、どのような立場でこの現場にいるのかなど、医学生の視点から現場を知ることができるようになった。ワークショップでこの様な話し合いができるようになって、医学生と通訳者の間でお互いの要望や見方などについて、より深い話し合いがもてるようになった。  例えば、カンファレンスの場面において、手話通訳者は、診療科の指導を担当する医師らに対して、話すスピードを少し落としたり、可能な限り紙に書くなどするサポートを引き出してより多くの情報を伝えられるようにしたいと考えていることが日報などで報告されていた。一方、聴覚障害学生は、その場はその場として、わからない事はレジデント(研修医)や先輩、同じ学生らから情報を得ているので問題はないと考えていることがワークショップを通してわかった。このように、それぞれの考え方を出し合うことで、それぞれの行動の理由を理解してそれに合わせて行動することが可能となる。また、それでも解決の糸口が見つからない場合には、ワークショップとは別に定期的に開催される、大学側との支援検討会において医学生とともに解決できない悩みを伝え、学部長や学科長、そして担任の先生と話し合いの機会を持ちながら解決策を検討するという取り組みも行った。 4.4 支援の全体的な状況の確認  ワークショップでは、医学生と手話通訳者に加えて、支援関係機関の担当者が出席をした。支援者が約1カ月に1度集まることができる良い機会でもあるため、現場のことに限らず、支援全体を振り返り、今後の支援について確認する場も設けた。実際に業務委託契約を結んでいる情報提供施設の担当者から大学側との連絡や時間調整の状況などを報告していただいたり、支援団体と大学間で定期的に行われる支援検討会の様子が報告されたり、今後の手話通訳支援の継続の有無などの情報が報告された。聴覚障害のある医学生とともにこれらの情報を共有することで、医学生自身も手話通訳支援が組織的にどのように行われているのかなどを把握する事ができ、自らを取り巻く環境を知る上で有効であったと考える。 写真1 医学生による説明 図1 模擬通訳に使用した症例日本消化器内視鏡学会 甲信越支部 ホームページよりhttp://www.jges-kse.jp/program/071117/66.html 図2 創作された手話の例 5.ワークショップに関する情報共有について  ワークショップでは、事務局が聴覚障害のある医学生と事前に連絡を取合い、当日に配布する資料を作成し、それを元にワークショップを行った。そして、話し合われた内容や創作された手話表現などを文字だけでなく写真や図でも記録を行った。その後、ワークショップ当日に話し合われた内容や写真・図などを整理してまとめ、報告書として関係者全員に送付した(写真2)。また、ワークショップ当日はビデオカメラを準備し、医学生の講義や手話の創作を行っている様子などをすべて録画し、記録として保存した。これらの記録は、事務局で保存をすると共に、臨床実習の支援において、日報や配付資料などの情報共有に使用したウェブプラットフォームmoodleを利用し、パスワードで保護されたホームページ上に掲載した。  当日資料はワークショップ開催前に、報告書や当日のビデオ録画映像は終了後に速やかにアップロードし、欠席した関係者が情報を得るため、また出席したものの再度確認をしたい時には自身の都合の良い時間に、いつでもアクセスできるような環境を整えた。このようなmoodleの使用によって、通訳者は必要な情報に必要な時にアクセスする事ができ、非常にわかりやすいとの声を得る事ができた。また、医学生が診療科に関する講義を行っている様子も、動画映像で共有することができたため、ワークショップを欠席した通訳者でも手話表現の統一や事前情報の差異を減らす事に非常に役立ったと言える。 写真2 ワークショップ各回の報告書 6.まとめ  第1回目のワークショップを開催したときに、聴覚障害のある医学生が最初にふと漏らした印象的な発言がある。その発言とは、「毎日必ず会っている手話通訳者が、今日は一人ではなく、全員目の前に並んで座っている事が不思議に感じる」というものである。この様な感想が漏れるのは、日々の通訳支援が見た目にはつながっているように見えるが、実際は分断されているように感じていたことの現れと言えよう。  全7回のワークショップを通じて、医学生は自分の知識を手話通訳者に受け渡して、より良い支援を受けることを希望した。一方手話通訳者たちはその医学生の希望に応えようと月1回のワークショップに足を運び、不足している知識を得るため努力をした。ワークショップは、医学生、手話通訳者がともに学び合い、成長をする場であり、お互いのつながりを確認するための重要な場となっていたと考えられる。しかしながら、今回の支援では本学が会場や事務手続き、さらには情報共有手段なども含めて、様々な形で支えることが可能であったために、このワークショップが実現したものと言える。もし、他の大学で同様の支援が実施される場合には、どこがこの支えを担うのか、これは今後の課題でもあると言える。  本ワークショップの効果を鑑みると、聴覚障害医学生の臨床実習における手話通訳支援においては、こうした医学生と手話通訳者の間の勉強会の実施が不可欠であると言える。加えて、医学用語や病気に関する学習では、医学生を指導する担当の教員の協力を得られれば、より現場に即した無駄のない学習が行えたのではないかと考えられる。こうした学習会は、一見すると手話通訳者のために開催しているものと考えられがちである。しかし、本ワークショップの実施から、これらの学習会が、聴覚障害学生の主体性発揮のためにも重要な役割を担っていると考えることができた。すなわちこれらは、手話通訳者を自分に合わせて「カスタマイズ」していく過程であり、聴覚障害学生にとって真に必要な支援体制を整えていくために不可欠な会であったと言える。今後より高度な専門領域に進む聴覚障害学生が、自分のニーズを明示し、より良い手話通訳支援を得られるために、本研究の知見が少しでも活用されていくことを願う所である。 参考文献 [1] 高等教育機関のアクセシビリティ向上を目指した筑波聴覚障害学生高等教育テクニカルアシスタントセンター(T-TAC)構築事業編 :聴覚障害学生サポートネットワークの構築をめざして アメリカ視察『医療分野で活躍する聴覚障害者の職場・教育環境』報告書, 2009. [2] 蓮池 通子,白澤 麻弓,萩原 彩子,磯田 恭子,中島 亜紀子,石野 麻衣子:聴覚障害のある医学生の臨床実習(Clinical Clerkship)における手話通訳支援.筑波技術大学テクノレポート 17(2):18-23,2010. Workshops Supporting the Using of Sign Language in Providing, Clinical Clerkship Training to a Deaf Medical Student. Michiko Hasuike, Mayumi Shirasawa, Maiko Ishino, Kyoko Isoda, Ayako Hagiwara, Akiko Nakajima Research and Support Center on Higher Education for the Hearing and Visually Impaired, National University Corporation Tsukuba University of Technology Abstract: The National University Corporation Tsukuba University of Technology (NTUT) , in cooperation with the Japanese Association of Sign Language Interpreters (JASLI) and the Information Support Center for Deaf and Hard-of-hearing in local community supported a deaf medical student in undergoing Clinical Clerkship Training from 2008 to 2009. During this training, the NTUT organized workshops for Sign Language Interpreters, which provided a platform for the deaf medical student to communicate effectively with the sign language interpreters and to understand each other. In this paper, we provide an overview of these workshops and discuss its objectives. Keywords: Deaf and Hard-of-hearing, Clinical Clerkship, Sign Language Interpreting, Supporting Medical Students