地域医療における統合医療を目指して筑波技術大学保健科学部附属東西医学統合医療センター2010年度 鍼灸部門 外来報告 1)筑波技術大学 保健科学部附属 東西医学統合医療センター 2)保健科学部 保健学科 鍼灸学専攻 近藤 宏1) 櫻庭 陽1) 平山 暁2) 柴崎 正修1,2) 要旨:東西医学統合医療センター鍼灸部門の2010年度における外来患者統計を報告する。診療日数は240日で、延べ来診患者総数は、9392人であった。内訳は、新患が437名、再診が8955名であった。男女比は男性が38.0%、女性が62.0%であった。年代別では、60歳代が最も多かった。主訴で最も多かったものは、腰痛110件で、次いで、肩こり59件、肩関節痛36件と続いた。インシデント・アクシデントに関する報告は、67件あった。分類別では、「鍼の抜き忘れ」(20件)が最も多く、次いで「内出血」、「愁訴の悪化」(各13件)であった。 キーワード:統合医療,鍼灸,患者動向,統計,インシデント 1.はじめに  大学附属の診療所として1992年に開設し、19年が経過した。平成17年度秋から、四年制の筑波技術大学保健科学部附属のセンターとして臨床活動を継続している。東西医学統合医療センター(以下センター)所属の常勤職員は、11名で、教員4名(医師2名、鍼灸師2名)、技術スタッフ5名(看護部2名、臨床検査部、薬剤部、放射線部各1名)、事務2名である。その他、非常勤職員が在籍している。 センターは診療部門と施術部門(以下、鍼灸部門)に分かれている。診療部門は漢方内科、内科、小児科、神経内科、腎臓内科、精神科、整形外科、放射線科を開設している(平成23年11月現在、平成23年度内にリハビリテーション科と循環器内科が新設されている)。診療はセンター所属の教員および鍼灸専攻、理学療法専攻の教員が医師として診療にあたっている。鍼灸施術部門は、センター所属の教員2名とともに鍼灸学専攻の教員9名が曜日別で3~4名体制で外来臨床にあたっている。  当センターは、鍼灸学専攻学生の臨床実習の場としての機能をはじめ、本学における医科学の教育研究に係る診療の場として機能するとともに、西洋医学と東洋医学を統合した診療及び施術を通して、地域医療の向上に寄与することを目的としている。また、日本東洋医学会の専門医のための研修施設であり、鍼灸師の卒後臨床研修も行い、有資格者の卒後研修の場としても機能している。  鍼灸の研修制度は1993年から発足している[1]。2010年度は8名の研修生を受け入れ、2年目以降の研修生をあわせると17名(2011年11月時点)が在籍している。研修生は鍼灸師養成学校で資格を取得した後の卒後教育として、指導教員のもとで鍼灸臨床に必要な刺鍼技術や問診法や徒手検査の技術、鍼灸施術の安全性、また、鍼灸外来の環境維持業務を通じて治療室運用の実務までを学んでいる。 2.外来実績  2010年度(2010年4月1日~2011年3月31日)の本センターの年間診療日数は240日であった。患者総数は、16,284名で、その内、診察部門は6,892名であった。診察部門の内訳は、新規患者(以下、新患)1280名、再診5449名、検査等163名であった。一方、鍼灸部門は9,392名であった。 3.施術部門(鍼灸部門)の外来実績  2010年度の鍼灸施術外来実績について報告する。2010年度の延べ来診患者総数は、9,392名であった。内訳は、新患437名、再診8,955名であった。 3.1 再診の患者  月平均の再診患者数は746.3±81.6名であった。なお、診療日数の月平均は19.5±1.2日であった。  月別の再診患者数(図1)は7月(831名)が最も多く、次いで10月(826名)、9月(820名)であり、最少は3月(549名)だった。外来1日当たりの平均再診患者数は、12、1月(ともに42.2名)が最も多く、次いで7月(41.6名)、10月(41.3名)で、最少は3月(29.7名)だった。3月の患者数の減少は、平成23年3月11日に発生した東日本大震災によって休診したことが影響していると考えられる。 3.2 新規の患者  新患437名だった。月平均の新患数は、36.4±9.2名で、月別では7月(56名)が最も多く、次いで6月(47名)、2月(41名)と続き、最少は12月(22名)だった(図1)。  次に、診療日数の影響を除外する目的で月別の1日当たりの平均新患数を算出した。その結果、7月(2.8名)が最も多く、次いで2月、3月(ともに2.2名)であり、12月(1.2名)が最小であった。  性別は女性271名(62.0%)、男性166名(38.0%)であった(図2)。  年代別では60歳代が最も多く(107名、24.5%)、次いで30歳代(80名、18.3%)、40歳代(71名、16.2%)であった(図3)。居住別にみると、つくば市外の茨城県内48.7%、つくば市内42.3%、茨城県外の関東7.8%、関東以外0.9%であった。  紹介状の有無については、有り26件(5.9%)、無し407件(93.1%)であった。紹介元の内訳は、診療所・病院18件(69.2%)、助産院7件(26.9%)、鍼灸院1件(3.8%)であった。  症状について、1人あたりの愁訴数は1.4件であり、内容は腰痛(110件)、肩こり(59件)が多かった(表1)。この2症状は、平成19年国民生活基礎調査[2]での有訴者率の上位2症状と同様の結果である。 3.3 インシデント・アクシデント  WHOが1999年に「鍼の基礎教育と安全性に関するガイドライン」を発行し、日本でもこれまで以上に安全性に関する関心が高くなった。近年、新たな鍼灸治療における安全性ガイドラインの発行[3]や鍼灸に関連する有害事象の報告[4]やインシデントに関する報告[5-8]が数多く報告されている。  センターでは、開設当初より有害事象を報告することを義務づけてきた[9]。2000年以降、さらに安全な鍼灸臨床を行うために、外来終了時のミーティングにおいてインシデント・アクシデント報告を行い、情報を集積している。2010年度の報告総数は67件で、発生総数は86件であった。内容は、「鍼の抜き忘れ」(20件)が最も多く、次いで「愁訴の悪化」、「内出血」(各13件)であった(表2)。月別報告数は、4月(11件)が最も多く、次いで6、11月(ともに7件)、10月(6件)であった。  最も多かった「鍼の抜き忘れ」について、鍼の抜き忘れが発生した際の抜き忘れた鍼の平均は1.3±0.7本であった。内訳は、1本が15件、2本が4件、4本が1件であった。部位別では大腿部が7件、腰部が3件、膝関節部が2件であり、その他、頭部、頚部、胸部、腹部、肩上部、上腕部、肘関節、足部・足関節が各1件あった。  発見場所は、施術ブース内およびベッド上が12件で最も多く、患者宅でも2件発生した(その他6件)。発見者は、患者が13件、施術者が7件であった。施術者と抜鍼者が同一の場合が15件、別の場合が4件だった(未記入が1件)。忘れた理由については、「タオルで隠れていた」が8件と最も多かった(図4)。  インシデント・アクシデント発見時の報告については、「患者から直接」が51件と最も多く、次いで「電話」が12件であった(その他が3件、未記入が1件)。情報源は「患者」が47件、「施術者本人」が15件、「他のスタッフ」が3件、「その他」が2件だった。処置および対処方法は、「鍼灸師のみが関与」が57件、「所内の医師が関与」が3件、「所外の医療機関が関与」が1件だった(未記入が6件)。また、インシデント・アクシデントに対する処置で発生した医療費を患者が負担したケースは2件であった(未記入が9件)。  以上の結果から、アクシデントを未然に防ぐための最も効果的な方法や問題点等を改善するための方策を検討し、臨床にフィードバックすることが大切であると考える。 図1 月別患者数(新患および再診) 図2 新患の性別内訳 図3 新患の年代内訳 表1 新患の愁訴 表2 インシデント・アクシデント分類 図4 鍼を抜き忘れた理由 参考文献 [1] 山下 仁,津嘉山 洋,他:鍼灸師の卒後研修.筑波技術短期大学テクノレポート5:211-216, 1998. [2] 厚生労働省大臣官房統計情報部編: 平成19年国民生活基礎調査第2巻.厚生統計協会,東京,2009. [3] 尾崎 明弘,坂本 歩,他:鍼灸医療安全ガイドライン.医歯薬出版株式会社,東京,2007. [4] 山下 仁,江川 雅人,他:国内で発生した鍼灸有害事象に関する文献情報の更新(1998~2002年)および 鍼治療における感染制御に関する議論.全日本鍼灸学会雑誌54(1):55-64, 2004. [5] 山下 仁,津嘉山 洋,他:視覚障害をもつ鍼灸師が 特に注意すべき医療過誤-附属診療所における6年間の記録-.筑波技術短期大学テクノレポート6:207-209, 1999 [6] Yamashita H, Tsukayama H:Safety of acupuncture: incident reporting and feedback may reduce risks.BMJ 324:170-171, 2002. [7] 江川 雅人,石崎 直人:より安全な鍼灸臨床のためのアイデア 鍼の抜き忘れ防止の工夫.全日本鍼灸学会雑誌57(1):3-6,2007. [8] 山下 仁:より安全な鍼灸臨床のためのアイデア インシデント報告システムの効果.全日本鍼灸学会雑誌57(1):7-9, 2007. [9] Yamashita H, Tsukayama H, Tanno Y, Nishijo K.: Adverse events related to acupuncture. JAMA280: 1563-1564, 1998. Activities of an Acupuncture Clinic at the Center for Integrative Medicine for 2010 KONDO Hiroshi, SAKURABA Hinata, HIRAYAMA Aki, SHIBAZAKI Masanao Center for Integrative Medicine, Tsukuba University of Technology Abstract: This is a statistical report on the patients who visited the outpatient department for acupuncture and moxibustion at the Center for Integrative Medicine in the fiscal year 2010(April 1,2010 to March 31, 2011). The total number of outpatients was 9392 (first outpatients, 437; revisit outpatients, 8955). The sex ratio was 1:1.63 (male:female). The most common age group was 60 - 69 years, and the most common complaints of the patients were low back pain (n=110), stiff neck (n=59), and shoulder pain(n=36). The total number of treatment-related complications reported during this period was 67.The most common incident classification was forgotten needles(n=20),followed by internal bleeding(n=13). Keywords: Acupuncture and moxibustion, Outpatient statistics, Integrative medicine