保健科学部における学生による授業評価―平成18年度から23年度― 筑波技術大学 保健科学部 保健学科 高橋 洋 大越 教夫 要旨:平成18年度から23年度前期における保健科学部の「学生による授業評価」を概観した。すべての質問項目の評価はおおむね改善している。質問項目別にみると、「教員の授業に対する熱意」は高く評価され、「強くそう思う」学生が多くなっている。その他すべての質問項目も経年変化をみると「強くそう思う」との回答割合が多くなっており、授業評価の効果が上がっていると考えられる。今後の一層の改善のために、結果の公表をどのような形で行うかが重要になると思われる。 キーワード:授業評価,経年変化,結果の公開 1.はじめに  保健科学部における学生による授業評価は平成7年度からは前期と後期の2回行われており、平成7年度か12年度については筑波技術短期大学テクノレポートNo.8(2001)にまとめられている。その結果平成8年度から11年度の平均評定値は3ヶ年で得点パターンがほとんど変わっていない。評価の高い項目は「教官の専門知識」「教官の熱意」「学生の出席率」であった。逆に評価の低い項目は「学生の学習度」「学生の理解度」であった[1]本学は平成17年10月に筑波技術大学として開学し、平成18年度から第1期の入学生を迎えている。そこで、今回18年度から23年度前期までのすべての科目の平均とその推移を概観したので報告する。 2.方法と対象  現在の調査票は資料1のごとくで平成12年度の調査票に比べ評価基準は変わりないが、質問項目が整理されており、内容に大きな違いはない。学生はそれぞれの質問項目に対して、当てはまると思われる評価基準の数字を記入する。  実施の手順は以下のごとくである。 科目全部の授業終了時にアンケート用紙を全学生に渡す。⇒学生が記入後クラスの代表者が回収し、封入し教務係に持って行く。⇒集計作業は外注する⇒集計結果は教務係に渡される⇒結果は封入後該当する教員に渡される。教員個人に渡される結果の内容は、それぞれの質問ごとの回答数と平均点、及び評価点の頻度(数字とヒストグラム)、自由記載文である。ヒストグラムや平均計算に於いては無回答はカウントしない。  アンケート対象は保健科学部の在校生であるが、平成18年度は大学1年生、短大2,3年生の3学年である。平成19年度は大学1,2年生、短大3年生の3学年である。平成20年度は大学1,2,3学年の3学年である。平成21年度以降は大学1,2,3,4年生の4学年である。  結果の集計・分析は質問10までを行った。質問11と12は、学外の集計者と科目担当の本人以外は見ることができないので今回の集計・分析から除外した。統計はスペアマンの順位相関を用い、有意水準を5%以下とした。 3.結果 3-1 平成18年度から22年度前期までの評価の平均点比較(表1)  「強くそう思う」を5点、「ややそう思う」を4点、「どちらとも言えない」を3点、「あまりそう思わない」を2点、「全くそう思わない」を1点として平成18年度から23年度前期までの10項目の項目別平均点を比較した。中央値は3になる。その結果、教員の熱意は高くそのための努力はしているが、教材の障害補償及び授業が有意義かどうかは評価が低かった。また学生は予習復習をあまりしていない。 表1 質問別平均点順位 表2 質問項目の評価レベル割合の平均と経年変化(平成18年度~平成23年度前期) 3-2 評価レベル別の質問別比較(表2)  「強くそう思う」「ややそう思う」を合わせた割合は「授業に対する教員の熱意」が1番高く70%以上になっている。60%台は「話し方が障害に配慮」「全体として有意義」「分かりやすい説明」「適切なスピード」「教材の障害補償」「授業が積極的に参加できる形」であった。評価の低い質問項目は「よく学習(予習・復習)した」(45.0%)、「内容を十分に理解」(53.5%)、「関心が喚起された」(57.1%)であった〈表2、図1〉。  「どちらともいえない」の割合が高いのは「よく学習(予習・復習)した」「内容を十分に理解」「関心が喚起された」で30%台であり「強くそう思う」「ややそう思う」の回答割合が低い質問項目であった〈表2、図2〉。  「全くそう思わない」と「ほとんどそう思わない」の割合が低いのは「授業に対する教員の熱意」「全体として有意義」「分かりやすい説明」「話し方が障害に配慮」であり、「強くそう思う」「ややそう思う」の回答割合が高い質問項目であった(表2、図3)。「あまりそう思わない」と「全くそう思わない」の割合の高い質問項目は、「よく学習(予習・復習)した」「内容を十分に理解」「関心が喚起された」で30%台であり、「強くそう思う」「ややそう思う」との回答割合が低い質問項目であった。要約すると教員の熱意はあり、そのために内容や技術的な努力はしているが十分とは言えない。多くの学生を理解させ、科目に対する関心を持たせるに至っておらず、学生は予習復習をあまりしないと言えよう。 図1 「強く思う」「やや思う」の経年変化 図2 「どちらとも言えない」の経年変化 図3 「あまり思わない」「全く思わない」の経年変化 3-3 評価レベル別の経年変化  「強くそう思う」「ややそう思う」の割合は全体として増加傾向である。有意に増加したのは「適切なスピード」「積極的に参加できる形」「全体として有意義」の4項目であった(表2、図1)。「どちらとも言えない」は経年変化がなかった(表2、図2)。「あまりそう思わない」「全くそう思わない」は10項目中4項目について平成18年度以降全体として減少傾向にある。有意に減少したのは「教員の熱意」「教材の障害補償」「内容の理解」「良く学習した」の4項目であった(表2、図3)。以上から全体として授業評価制度の成果が上がってきていると考えられる。 表3 「強くそう思う」と「ややそう思う」の割合と経年変化 3-3-1 「授業に対する教員の熱意」  教員の熱意に対しては69~77%の学生が「ややそう思う」「強くそう思う」と回答している。2つの回答を合わせた数の全体の回答に対する割合は年々増加はしていない。しかしながら年々「強くそう思う」割合が有意に増え(相関係数=0.93)、「ややそう思う」割合が有意に減っており(相関係数=-0.95)、評価内容としては向上の傾向にある。「どちらとも言えない」との回答は24~33%であり、一方「全くそう思わない」「あまりそう思わない」を合わせた回答は4~8%で有意に減少している。 3-3-2 「授業計画書に従い、適切なスピード」  「ややそう思う」「強くそう思う」の2つの回答を合わせた割合は57~68%であり経年変化していないが、年々「強くそう思う」割合が有意に増え、「ややそう思う」割合が有意に減っており、評価内容としては向上の傾向にある。一方「どちらとも言えない」の回答は24~30%であり増減がない。「全くそう思わない」と「あまりそう思わない」を合計した割合は6~13%以内で減少傾向にある(相関係数=-0.79)。 3-3-3 「理解できるよう分かりやすい説明」  「ややそう思う」「強くそう思う」の2つの回答を合わせた割合は経年変化はないが、年々「強くそう思う」割合が有意に増え、「ややそう思う」割合が有意に減っており、評価内容としては向上の傾向にある。一方「どちらとも言えない」の回答は19%~31%以内であり経年変化がなく、「全くそう思わない」と「あまりそう思わない」を合計した割合は8~15%以内で減少傾向にある(相関係数=-0.75)。 3-3-4 「積極的に参加できる形の授業」  「ややそう思う」「強くそう思う」の2つの回答を合わせた割合は変化していないが、年々「強くそう思う」割合が有意に増え、「ややそう思う」割合が減少傾向にあり(相関係数=-0.74)、評価内容としては向上の傾向にある。一方「どちらとも言えない」の回答は24~31%以内で減少傾向にあり(相関係数-0.72)、「全くそう思わない」と「あまりそう思わない」を合計した割合は4~16%以内で減少傾向にある(相関係数=-0.77)。 3-3-5 「教材が視覚補償に配慮されている」  「ややそう思う」「強くそう思う」の2つの回答を合わせた割合は60~66%であり経年変化はないが、年々「強くそう思う」割合が有意に増え、「ややそう思う」割合が有意に減っており、評価内容としては向上の傾向にある。一方「どちらとも言えない」の回答は25~32%であり経年変化がない。「全くそう思わない」と「あまりそう思わない」を合計した割合は7~12%以内で有意に減少している。 3-3-6 「話し方が障害に配慮」  「ややそう思う」「強くそう思う」の2つの回答を合わせた割合は61~75%であり経年変化はないが、年々「強くそう思う」割合が増え、ややそう思う割合は有意に減少している。一方「どちらとも言えない」の回答は19~31%であり経年変化はない。「全くそう思わない」と「あまりそう思わない」を合計した割合は6~11%以内で減少傾向にある(相関係数=-0.76)。 3-3-7 「全体として有意義な授業」  「ややそう思う」「強くそう思う」の2つの回答を合わせた割合は58~68%であり経年変化はないが、年々「強くそう思う」割合が有意に増え、「ややそう思う」割合が有意に減っており、評価内容としては向上の傾向にある。一方「どちらとも言えない」の回答は22~28%であり経年変化はない。「全くそう思わない」と「あまりそう思わない」を合計した割合は8~16%以内で減少傾向である(相関係数=0.81)。 3-3-8 「内容を十分に理解した」  「ややそう思う」「強くそう思う」の2つの回答を合わせた割合は46~59%であり経年変化はないが、年々「強くそう思う」割合が有意に増え、「ややそう思う」割合が減少傾向にあり(相関係数=-0.80)評価内容としては向上の傾向にある。一方「どちらとも言えない」の回答は29~36%であり経年変化はないが他の質問項目に比して高い。「全くそう思わない」と「あまりそう思わない」を合計した割合は10~20%以内であり有意に減少しているが他の質問項目に比較しやや多い傾向にある。 3-3-9 「私はこの授業についてよく学習(予習・復習)した」  「ややそう思う」「強くそう思う」の回答を合わせた割合は35~51%であり10の質問中最も低いが、「強くそう思う」が有意に増加しており、評価内容が向上傾向にある。一方「どちらとも言えない」の回答は33~36%であり経年変化はないが他の質問項目に比して一番高い。「全くそう思わない」と「あまりそう思わない」を合計した割合は14~30%以内で他の質問に比し最も高いが、経年変化は有意に減少しており、学生の自学自習は増えている傾向にある。 3-3-10 「科目の関心が喚起された」  「ややそう思う」「強くそう思う」の2つの回答を合わせた割合は35~51%であり他の質問に比べ低く経年変化はないが、年々「強くそう思う」割合が有意に増え、「ややそう思う」割合が減っており、評価内容向上の傾向にある。一方「どちらとも言えない」の回答は26~33%と高く経年変化はない。「全くそう思わない」と「あまりそう思わない」を合計した割合は8~21%以内で、他の質問項目に比較しやや多い傾向にあるが減少傾向にある。 4.考察  全体的にはすべての質問項目での経年変化をみると、強くそう思う」との回答割合が多くなっており、授業評価の効果が上がっていると考えられる。評価レベル別にみた各質問の割合で「ややそう思う」と「強くそう思う」と答えた学生の割合が多いのは「教員の熱意」「話し方が障害に配慮」「全体として有意義」であり、教員が内容を向上させ、熱意を持って分かりやすいように授業しているといえよう。  「よく学習した」について経年変化をみると「強くそう思う」と「ややそう思う」と回答した学生が増加しており、「全くそう思わない」「ほとんどそう思わない」学生の割合が減っていることから学生の自学自習が改善していると考えられる。しかしながら他の質問に比べ学生の自学自習の評価が悪い傾向がある。「演習・宿題等の頻度とアフターケアが学生の自己学習時間を決めている。学生は教員による指導が自分に及ぶことを望んでおりアフターケア等様々なケアでそれが実現されれば課題が課されることをいとわない」の報告があり[2]、課題を課すことは自学自習時間を増やすことになり単位の実質化にもつながる。個々の学生に対するアフターケアは教員の熱意が必要であるが、本学の少人数の割に教員数が豊富であることを考えると実行可能な方法であると考えられる。  「内容の十分な理解」は「全くそう思わない」「ほとんどそう思わない」と回答した学生の割合が減っており、教員が障害に配慮した話し方をし、学習している学生が多くなっていることが影響していると考えられる。しかしながら「全くそう思わない」「あまりそう思わない」の回答割合の高い質問は「良く学習した」(19.6%)「内容を理解した」(13.0%)「関心が喚起」(12.9%)であり、興味を持たせる科目内容と工夫、内容理解のための工夫、自学自習の動機作りなど、さらなる努力が必要と思われる。  大学における授業評価は、その実施時期が遅いため、学生へのフィードバックがほとんどないのが現状である。そのため携帯電話のメール機能を活用した連絡網システムを用いる[3]、毎時間の講義終了前約1分間で講義の理解度と教員の授業態度などについてアンケートを行う[4]、通年授業の場合は中間で授業評価を行う[5]等の方法の報告があるが、本学の特性や事情に合わせた最適かつ合理 的なアンケート方法や公開方法を模索する必要があろう。 教材の障害補償については必ずしも高い評価は得ていない。これを工夫していない教員はいないはずであるが、すべての学生のさまざまな障害状態に応じて対応することのむずかしさを示していると考えられる。経年変化がみられることから改善傾向にはあるが、本学は視覚障害・聴覚障害学生のための日本で唯一の国立大学法人であるので、教員一人一人の一層の努力が必要であろう。  今回記述式の質問項目については科目担当者本人と集計者以外は見ることができず、集計・分析からはずさざるを得なかった。記述式の質問の中に参考にすべきヒントや興味深い内容が含まれている可能性が高く、今後のさらなる授業改善の重要なポイントとして公開方法の検討を進めてゆく必要がある。 参考文献 [1] 加藤 宏 大武 信之 他:視覚部の「学生による授業評価」:平成7年度から12年度.筑波技術大学テクノレポートNo8.:121-126,2001. [2] 合田 正毅 丸山 武男 他:「授業実態・効果アンケート調査」に基づく授業改善の指針.工学・工業教育研究講演会講演論文集 平成15年度,129-132, 2003. [3] 坂本 健成:ファカルティ・ディベロップメントとして効果的に授業改善を行うためのリアルタイム授業評価実施の提案.流通科学研究 4(2), 71-82, 2005. [4] 本田 知己:実時間授業評価アンケートによる授業改善とその教育効果.工学・工業教育研究講演会講演論文集 平成14年度,505-506, 2002. [5] 福井 正康 奥田 由紀恵 他:学生授業評価の特徴と結果公表による効果.日本教育情報学会学会誌 21(3), 21-31, 2006. 資料1.学生による授業評価に関する調査票 科目番号 Student Evaluation of Lectures in the Faculty of Health Sciences-2006 to 2011 TAKAHASHI Hiroshi , OHKOSHI Norio Department of Health, Tsukuba University of Technology Abstract: We surveyed the Student Evaluation of Lectures from 2006 to 2011 in the Faculty of Health Sciences. The evaluation of all items on the questionnaire improved by and large. “Enthusiasm for the lecturer’s subject” was highly evaluated and many students answered “I definitely think so”. As the rate of the answer “I definitely think so” on all other items has increased every year, the Student Evaluation is considered effective. The way in which the results are examined will be im-portant for further improvement. Keywords: Student Evaluation of Lecture, Annual change, Release of results