教育用情報機器のリサイクル・リユース 筑波技術大学 障害者高等教育研究支援センター 村上 佳久 要旨:教育用情報機器は、4年程度の年数が経過すると機器更新が必要とされてきたが、昨今の省エネルギーと省資源化の流れから長期間に渡る利用が望ましくなってきている。また、短期間で機器更新される教育用情報機器のリサイクルとリユースを推進することにより長期間にわたる運用を可能とすることが可能となる。さらに教育用情報機器の導入段階で十分に検討すれば、長期間で安価に対費用効果の高いシステムが運用できることが指摘された。 キーワード:リサイクル,リユース,リデュース,パソコン 1.はじめに  東日本大震災以降、省エネルギーが大きく注目されるようになったが、政府の財政問題に起因する文教関連予算の削減から、各自治体の教育用情報機器にも予算の削減が大きな問題となっている。それらを解決する1つの手段として、3Rがある。3Rとは以下の3つを指す。 ・リデュース(REDUCE):使い終わった後のごみの量をなるべく少なくすること。 ・リユース(REUSE):一度使ったものをごみにせず何度も使うようにすること。 ・リサイクル(RECYCLE):使い終わったものをもう一度再資源化すること。  この3つを念頭に置いて教育用情報機器を検証すると幾つかの問題点を指摘することができる。その中で最も注目すべき点は、教育用パソコンの利用時間の少なさである。教育用パソコンは、使用時間が短い割に4年程度で更新されることが多いが、昨今の不況と予算削減の折から、4年以上利用するケースも多く見られる。その場合に問題となるのが、システムの陳腐化である。そこで、少額の費用でシステムの陳腐化を解消し、教育用パソコンを長期間にわたって運用する改良とノウハウが必要となる。ここでは幾つかの事例を元に3Rを活用して、教育用パソコンを運用する方法などについて検証したので報告する。 2.パソコンの寿命 2.1 パソコンの寿命とは  パソコンの寿命とはどの程度であろうか。逆に言えば、どのくらいの間安心して利用できるかであろう。一般的には、次のように考えられているケースが多い。 使用環境温度:15~30℃  一日当たり10時間稼働、年間200日稼働とすると、1年当たり2000時間稼働。  4~5年稼働させると、約8000~10000時間稼働。不良率を2%と仮定し、100台中2台程度が故障するのがパソコンの寿命とすると、この程度の利用時間でパソコン類を更新すると安定的に安心して稼働させることが可能となると考えられている。但し、使用環境温度が5℃上昇すると不良率は約倍になることが経験的に知られている。 2.2 教育現場でのパソコンの利用時間  前項の経験則は、一般企業の例であるため、教育現場でのパソコンの寿命はどうであろうか。  最初に教職員の場合は、一日当たり8時間稼働、年間200日稼働とすると1年当たり1600時間稼働。5~6年稼働させると、約8000~9600時間稼働となり、一般企業と比べてほぼ同等となる。従って6年程度のサイクルで機器更新を行えば、一般企業並みとなると考えられる。  次に教育用パソコンについて検証すると、小・中・高等学校の場合、一日当たり4時間稼働、授業期間から年間170日稼働とすると、1年当たり680時間稼働。6年稼働させると約4080時間となり、一般企業や学校教職員に比べて、半分以下の稼働時間となる。  実際の情報教育室のパソコンが、平均で1日当たり4時間稼働することはほとんどなく、この半数以下であることが多いとされているため6年稼働させても2000時間程度となる。  大学の場合はどうであろうか。本学を例にとると、前述のように毎日利用する教職員を除いて、情報教育を行う教室で検証する。1日当たり4時間稼働すると仮定すると、授業期間が年間30週で、1週当たり5日なので年間150日となる。すると1年当たり600時間となり、学生の自習時間を考慮しても年間1000時間を超えることは少ない。  すると、約8年程度利用しても一般企業レベルの利用時間であることがわかる。逆に言えばこの程度は利用できる可能性があると言うことである。 2.3 パソコンの寿命に影響する要因  寿命に影響する要因として、以下に挙げるものが考えられる。 1)環境温度  おおよそ10~30℃の範囲で稼働するのが望ましい。パソコン機器の内部温度を考慮すると、上限としては35℃程度である。 2)内部温度  60℃以下が望ましいが、一部の高負荷のソフトウェアなどの利用では80℃程度にまで上昇する場合もある。その場合でも短時間の利用にとどめるのが望ましい。 3)環境塵埃  埃の程度は少ないほどよいが、小・中・高等学校では、情報機器室を土足厳禁として対応している例も見られる。大学の場合はほとんどが、土足対応である。 4)通電時間  稼働していないが、通電している時間が問題となる。特にディスプレイの場合、基板に電圧がかかっている機器も多く、電子基板の寿命に影響を与える問題となる。  これらの要因を考慮すると、夏期の温度上昇と未利用時間の通電時間が問題となることが示唆される。 3.リサイクル・リユース・リデュース  リサイクルとは、使い終わったものをもう一度再資源化することであるからパソコン機器の場合は、機器の経時変化による機器の劣化とソフトウェアの陳腐化という現象を考慮する必要がある。またリユースとは、一度使ったものをごみにせず何度も使うようにすることであるので、同様に経時変化に伴う機器の陳腐化を検討する必要がある。となれば、一度使い終わった情報機器を精査して、選別し、再整備と機器拡張を行って、リサイクルとリユースを組み合わせ、更にゴミの量を減らすという、リデュースを加えた3Rでの対応が考えられる。  実例で検証すると次のように考えられる。 3.1 廃棄処分  筑波技術大学 春日キャンパスでは年に一度、不要品の廃棄処理を11月末に行うが、この時にかなりのパソコンが廃棄される。その中には、あまり利用されないで、時間が経過したので廃棄されるものも結構見受けられる。学生が、それらのパソコンを再生できないかという相談をよく受ける。学内の不用品を処理することは新陳代謝と言うこともあり望ましいことであるが、逆にどれだけ利用したのかと言う点も気になるところである。数時間から数百時間程度の利用で破棄されるなどは、あってはならない。  本学ではパソコンを破棄する場合は、情報流出の危険性の観点からHDD(ハードディスク)などの記憶素子を取り外して破棄するのが一般的であるが、情報流出の心配がない場合は、そのまま破棄される例も見受けられるようである。これらのパソコンを学生が再利用することは学生の学習も含めて有用であると考えられるため、多くの学生がこの時期、競って廃棄されたパソコンを回収しているようである。 3.2 分別  廃棄され回収された不用品の中から、再資源化して再利用するためには、分別作業が必要である。以下の要領で行われる。 1)分解  各部の部品を取り外しチェックする。見た目で損傷が激しい場合は廃棄か部品交換を行う。 2)清掃  内部の塵埃をエアースプレーで吹き飛ばし、ケーブルなどの汚れをアルコールで洗浄する。 3)再組立  再び組み立て、電源が入るかどうかチェックする。 4)再設定  始めにBIOSと呼ばれるハードウェアレベルでの基本プログラムを起動させる。  ここまで、動作することが確認できたものだけを選別して、他の部品についても同様に選別を行い、再資源化できないものをゴミとする。これでかなりの部品をリデュース(ゴミの減量)することが可能となる。 3.3 部品のチェック  次に各部品のチェックを行う。パソコン類で主要な部品は次の通りである。 1)CPU  CPUは、電源投入で動作すればさほど問題は少ない。問題となるのはCPUを冷却するための電動冷却ファンである。異音などがなく、BIOSで正常回転が確認できれば、問題ないと思われる。 2)HDD  最も劣化が疑われる部品である。他の機器で、HDDの内部情報を調べることにより、状態を把握する。ここでは、HDD(ハードディスク)の内部IC情報「S・M・A・R・T」を参照する。SMART(Self-Monitoring Analysis and Reporting Technology)とは、HDDの自己診断機能の1つで、温度やデータ読み込み・書き込みエラー率、不良セクタ数や磁気ヘッドのシークエラー率、電源のON/OFF回数などが確認できる。これらの情報によって、利用総時間数や電源投入回数などが参照可能となるため、極めて重要な情報である。但し、5000時間以上利用している場合には、廃棄して交換する方が望ましい。 3)RAM  メモリは、他の機器で正常動作のチェックとストレスチェックを行い、安定に動作する場合は再利用する。但し、OSの種類などによっては、メモリの容量不足が考えられるので、場合によっては中古品や新品の購入を考慮する必要がある。 4)GPU  通常、ビジネス用のパソコンでは、GPUはオンボードで組み込まれている場合が多い。この場合、OSの種類やメモリの状況によっては、GPUの性能が十分でない場合も考えられるため、中古品や新品のGPUの購入も視野に入れておく必要がある。 5)電源  電源は、埃などの塵埃が最大の問題である。電源部分を分解して、埃を飛ばし、電圧をBIOSで確認する。また、目視でコンデンサなどをチェックして、膨張などしていないかどうか検証する。 4.システム再構築  部品のチェックが終われば、パソコンを組み立て、OSを導入してシステムを再構築する。 4.1 OS  ここで問題となるのは、OSのライセンスの問題である。しかし、パソコンのOSも最近はリカバリーディスクもなく、OSのディスクも添付されないのが一般的となった。そこで、Linux系のOSを利用するか、Windowsのディスクを見つけるかである。WindowsのOSディスクがない場合は、Linux系のOSを検討するが、最近は秋葉原などでも中古のWindowsのOSが安価で販売されている例も見られるので、中古品を利用するのも一考である。但し、学校現場で組織的にシステム再構築を行う場合には、あらかじめWindowsのライセンスを購入する方が望ましい。幾つかのバージョンのWindowsを導入できる権利も購入でき、数量によって安価になることもあるので、ライセンスでのOS購入を推奨する。 4.2 再組立  入手したOSと機器のCPUの性能から、HDDの容量やRAMの必要量を割り出す。この作業を行い、場合によっては、部品の購入などの手段を選択する。  一般的には、次のような経験則に基づいてOSとHDDやRAMなどを選択する。 Windows Xp CPU:Pentium 4 3GHz程度 HDD:40GB以上 RAM:1GB程度 Windows Vista CPU:Pentium 4 3GHz以上 HDD:60GB以上 RAM:2GB程度 Windows 7 CPU:Pentium 4 3GHz以上 HDD:80GB以上 RAM:2GB以上 GPU:nVidia GT210クラス以上が望ましい 4.3 チューンナップ  システム再構築を行う場合は、多くを欲張らないことである。多くのソフトウェアを稼働させるのではなく、メモリに見合ったソフトウェアのみをインストールして、最小限度の利用にとどめるのが、ノウハウである。ある程度の速度低下は、機器が最新型でないので諦め、安定動作させることを最優先すべきである。 5.実際の例  廃棄処分で廃棄されたパソコンの再整備の状況を写真と共に以下に示す。 1)パソコンを分解し、部品を取り外す。 2)内部の埃などを清掃する。 3)部品のチェックを行い、必要な部品を取りそろえる。 4)パソコンを再構築して、組み立てる。 5)電源を投入し、BIOSをチェックして、動作確認を行う。 6)OSのインストールを行う。 7)安定動作を確認する  この作業によって写真の廃棄されたパソコンは、Windows 7が起動可能なパソコンとして再整備された。 CPU:Pentium 4 3GHz RAM:2GB(元は1GB) HDD:60GB GPU:nVidia GT210(新規に追加 ¥2,980) HDD利用時間:870時間(SMART情報より) Photo 1. 廃棄処分されたパソコン Photo 2. エアーダスターで埃を飛ばす Photo 3. GPUボードを新品に取り替える Photo 4. 再整備の終わった廃棄パソコン 6.新しい情報機器の利用方法  ここでは、学校現場における情報機器の新しい利用方法の提案を試みる。前述のように学校現場では、6~8年程度利用しないと、一般企業レベルの利用時間とならず、教育用パソコンの予算における利用時間のコストパフォーマンスは、非常に悪いものとなる。そこで、7~8年程度の利用を考慮した上で、新しい情報機器の利用方法を検討する。 6.1 教育システムの哲学  最初に行うべき内容として、教育システムそのものを検証する。これは、教育用パソコンをどのように利用させるのかという哲学をはっきりさせることで、これからのパソコンの必要なシステム概要が明確になるためである。  次のような項目に従って検証を行う。 1)利用する教科 2)利用するソフトウェア 3)利用する時間数(年間)  この時点で、教育用パソコンのスペック(仕様)を明快にすることが可能となる。[1][2] 6.2 新しい教育用パソコンの仕様  現在、世間で一般的に利用されているコンピュータで利用されているOSは、マイクロソフト社のWindows 7であるが、このOSを利用するための最小スペックを検証すると、マイクロソフト社推奨のスペックとは異なり、経験的に必要なシステムを検討する。マイクロソフト社のシステム要件は以下の通りである。 1)1GHz以上の32bit(x86) CPUまたは、64bit(x64) CPU 2)1GB RAM(32bit)または、2GB RAM(64bit) 3)16GB(32bit)または、20GB(64bit)の空き容量のあるディスク領域 4)Windows Display Driver Model(WDDM)1.0以上のドライバーを搭載したDirectX9 GPU  しかし、2012年には新しいOSであるWindows 8が登場する事となっているため、それを見越して長期的な利用に合致するような要件を見通すことが必要となる。 1)3GHz以上の周波数で、4つ以上のCoreを有するCPU 2)最低16GBまで搭載可能なメモリスロットを有する 3)80GB以上のディスク領域(HDDまたはSSD) 4)拡張用GPUを搭載可能な電源と拡張スロットを有するマザーボード  これは、およそ3~4年ごとにOSを変更してバージョンアップすることが可能な仕様とするためのものである。例えばRAMであるが、現在のWindows 7では、64bit版で4GB以上が十分な性能を引き出すための必要量であるが、次のOSであるWindows 8では、8GB程度が必要となろう。更にその次のOSではその倍の16GB程度が必要になると推察される。  CPUは変更が出来ないため、現状で出来るだけ十分な性能のものを用意する必要がある。最も問題なのはGPUで、画面の出力が遅いと利用者には相当なストレスがかかる。そのため、機器類の追加でGPUの機能を拡張することによりGPUの性能が確保できれば2世代後のWindowsにも対応可能となる。 6.3 利用するソフトウェア  ハードウェアの仕様が検討できれば、次にソフトウェアの選別に入る。  始めにOSやワープロ・表計算などのOfficeソフトなどの基幹ソフトウェアについては、価格と共に検討する。  Microsoft社のライセンスでは、単体のパソコンに付属するOSライセンスとは別に、OSやOfficeソフト、サーバのアクセス権(CAL)などが購入することが出来る。基本的に3年契約で、延長することが可能である。この契約では、OSやOfficeなどが新しくなると、そのOSやOfficeソフトに対する利用権が設定されている。また、別途でサーバのOSについても同様のライセンスがある。  このライセンスを購入すると、新しいOSやOfficeソフトが販売された時点で、そのOSやOfficeソフトのインストールディスクが購入可能となる。つまり、ライセンスを契約している期間中は、常に新しいOSやOfficeソフトが利用可能となる。サーバを利用するためにはサーバのアクセス権(CAL)が必要となるため、3点セットで購入すると安価になる。[3]  但し、最近では、高価なOfficeソフトを購入しないで安価なOffice互換ソフトの導入を検討することも一考である。  ライセンスによるソフトウェアの購入は、ソフトウェアの更新時期に、自分で作業しなければならないと言った問題点はあるが、おおよそ半分程度の価格で更新が出来る利点もある。自分で更新作業が出来ない場合は、業者に依頼する方法もあるが、その作業分の価格は負担しなければならない。長期間にわたる利用を考慮すると価格面での優位性やソフトウェアの陳腐化を阻止できると言う、有力な手段となりうる。 6.4 サーバ  サーバの運用は、小・中・高等学校の現場の教員では荷が重く、商業や工業高校などの専門知識を有する教員がいない限り難しい。その意味で、学校現場では管理が簡単な家庭用のサーバや小規模会社用のサーバの導入を勧める。家庭用や小規模会社用のサーバは、専門知識がないユーザ向けのサーバ製品なので、安心して利用できる。このサーバを利用する限り、サーバのアクセス権(CAL)の購入は不要なことが多い。但し、機器もOSも安価なので6年程度での機器更新をお勧めする。 7.おわりに  安価(Low Cast)で長期間(Long Period)、しかも全体の出費(Total Cast Ownership)も出来るだけ低減させて、効率的で対費用効果の高い(Cost performance)システムを導入することが、これからの教育用情報機器の重要な課題である。その意味で3Rに基づいたシステムの再構築や長期間にわたる運用をはじめから検討したシステムの導入が、強く求められる時代となった今、非常に重要なのは、このような概念を利用者側が認識しているかどうかである。  業者は、利益を追求するため安易な提案を行うことが多いが、教育現場がこのような概念を理解し、高い理想を実現するための技術的背景を確認し、業者の提案をよりよい方向に変更させていくだけの能力を持たないと、最終的な利用者である児童・生徒・学生に不利益が転嫁される可能性がある。その意味で、『4年経過したので機器更新』と言う安易な発想はもう終わりにした方がよい。始めに情報機器を導入する理念が、最も重要であることを肝に銘じる時代である。 参考文献 [1] 村上 佳久:地球温暖化に対応した超省電力の視覚 障害学習支援システムの開発,筑波技術大学テクノレポートVol.17(2) pp72-78, 2010. [2] 村上 佳久:地球温暖化に対応した超省電力の視覚障害学習支援システムの開発,筑波技術大学テクノレポートVol.18(1) pp46-53, 2010. [3] 村上 佳久:学習支援システムにおけるコストダウンの試 み,筑波技術大学テクノレポートVol.14 pp269-274, 2007. Recycling and Reuse of the Information Appliance for Education MURAKAMI Yoshihisa Research and Support Center on Higher Education for the Hearing and Visually Impaired, General Education Practice Section for the Visually Impaired, Tsukuba University of Technology Abstract: Apparatus updates for education information appliances are required every four years. However, the appliances’ longterm use must also meet the need for energy saving and exploit resource savings. In addition, recycling and reusing PCs ensure that the computers are used for long. Furthermore, a low-cost, cost-effective system could be useful over the long term if considered enough during the planning stage for the education information appliance. Keywords: Recycle, Reuse, Reduce, PC