~第4回三大学連携障がい者のためのスポーツイベント実施報告~ 筑波技術大学 障害者高等教育研究支援センター 及川 力 香田 泰子 天野 和彦 中村 有紀 栗原 浩一 要旨:2007年度から地域の障害者スポーツ振興を目的として、スポーツイベントを開催している。翌年度からは近隣の2大学(茨城県立医療大学及び筑波大学)等と協力して、三大学連携のスポーツイベントを実施してきた。2011年11月に本学として5回目となるイベントを開催し、スタッフを含む過去最多の159名が参加した。障害者のスポーツ活動の機会や場所はまだ十分とはいえず、このようなイベントが重要な役割を果たしていると考えられる。 キーワード:障害者,スポーツイベント,スポーツ振興,地域貢献 1.はじめに  近年、大学の国際化と地域貢献が大きくクローズアップされるようになってきた。本学でも関連したさまざまな活動を行っているが、2007年から開始した「障がい者のためのスポーツイベント」もその1つである。  障害のある人が抱えるスポーツや運動実施上の困難点には、練習場所の確保、周りの人とのコミュニケーション、施設までの移動、家族の負担、指導者不足、介助ボランティアの確保、障害者対応プログラムの不足などが挙げられる[1]。活動するスペースの確保、エリアへのアクセス、マンパワーの確保、プログラムの提供などが大きな課題と言えだろう。本学は聴覚と視覚に障害のある学生のための大学であることから、こういった課題に少しでも貢献できることを願って、2007年から本イベントを開始し今回で5回目になる[2][3][4][5]。なお、2008年度からは近隣の筑波大学及び茨城県立医療大学とともに、お互いの大学の特長を生かした連携イベントとして実施するようになった。2006年に県内の大学、医療機関の関係者が集まって、茨城県障害者スポーツ研究会を設立したが、これをきっかけに各大学が個別に行なうよりも連携して実施する方が認知度が高まるのではという意見にまとまり、2008年度から「三大学連携障がい者のためのスポーツイベント」として、茨城県、つくば市や阿見町の後援を得て実施することとなった。県内の障害者スポーツ振興にかかわる茨城県障害者スポーツ研究会や同障害者スポーツ指導者協議会も共催として加わってもらっている。  本報告では本学が実施した内容や参加者の反応、今後の課題などを中心に報告する。 2.連携イベントの計画、内容  毎年7月中に連携3大学・機関で実行委員会を組織し、各大学の実施日、予算等を確認する。今年度も従来と同様、3大学(筑波技術大学、筑波大学、茨城県立医療大学)及び2団体(茨城県障害者スポーツ研究会、茨城県障害者スポーツ指導者協議会)の共催の形式をとった。各大学のイベントは、筑波技術大学が2011年11月23日に、茨城県立医療大学が12月4日に、最後に筑波大学が12月10日に開催することを決めた。大学毎の主な内容とイベントの運営のしかたは次の通りである。 2.1 筑波技術大学  ボッチャ、ビームライフル、フリークライミング、卓球(音卓球)、フライングディスク、レクリェーション(自由遊び)及びスポーツ吹矢を終日、時間交代で用意し、専門の指導者あるいは障害者スポーツ指導員を各ブースに配置する。参加者は自分の希望するブースに行き、必要に応じて指導者の指導・援助を受けながら楽しむ。また、情報交換スペースを設置する。なお、一般学校の特別支援教育にかかわる教員や障害者スポーツに関心のある一般の人も対象とする。 2.2 茨城県立医療大学  午前中は茨城県障害者スポーツ研究会(障害者スポーツの講演会や研究発表等)を開催し、午後に車イスバスケットボール、ボッチャ、ビームライフルの体験会を実施する。 2.3 筑波大学 つくりんピック(地域の知的障害児、肢体不自由児を対象としたイベント)を開催する。Gボール、ストラックアウト、ボールプール、バッティング、遊びの広場など、レクリェーション的種目のブースを用意し、参加者は基本的にスタッフ(学生)とマンツーマンで、各自ができることをできるやり方で楽しむ。  8月中には、茨城県、つくば市等への事業後援申請を行なうとともに共通ポスターを作成し、近隣の小中学校、特別支援学校、社会福祉協議会、障害者団体、障害者福祉施設等へ送付した。さらに、最初の開催である筑波技術大学のイベントに合わせて、発行部数が地域最大のミニコミ紙常陽リビングに連携イベントの情報を掲載してもらい情報発信に努めた。また、大学のホームページにも同様の情報を早期の段階からアップした。 図1 連携イベント用ポスター 3.本学でのイベントの計画、運営、内容  本学でのイベントは、毎年11月23日の勤労感謝の日に固定して行なっている。本学の健康・スポーツ科目担当の教員4名他が夏期休業前に集まり、実施日、実施種目及び予算を相談した。その結果、2011年度はボッチャ、ビームライフル、フリークライミング、卓球(音卓球)、フライングディスク、レクリェーション(自由遊び)及びスポーツ吹矢の7種目を用意し、参加者は好きな時に来て好きな種目に参加するという従来からの自由選択形式を踏襲することにしたここ数年はボッチャ、ビームライフル、フリークライミング、卓球(音卓球)、フライングディスク、レクリェーション(自由遊びは毎年実施し、1つだけ新種目を採用することが多い。今年度はスポーツ吹矢を取り入れることにした。  8月になると、各種目の指導者・指導補助者として専門家や障害者スポーツ指導員へ指導を依頼し、内諾を得た後、後日、派遣依頼状を発送した。  イベント実施ほぼ1週間前に健康・スポーツ科目担当の教員4名他が打合せを行ない、当日の進行方法、役割分担等を確認した。また、当日は開始1時間前に各ブースを担当する指導者及び指導補助者等に集まってもらい、準備状況や障害者への接し方などについて確認した。  また、社会力のある人間を養成するためのオフ・キャンパス・プログラムを推進している筑波学院大学からの学生受入れの依頼に本年度も引き続き協力し、中国人留学生2名、韓国人留学生1名の計3名をボランティアとして受入れた。  さらに、当日、ビームライフルの指導者を兼ねて、特別ゲストとして長野、トリノ両パラリンピックバイアスロン競技金メダリストの井口 深雪さん(筑波技術短期大学卒、名誉卒業生)を迎えることにした。 図2 本学イベント用パンフレット 4.参加者アンケートから  当日はスタッフを含む159名が参加した。スタッフは健康・スポーツ教育担当教員等5、専門指導者10、指導補助者11、その他5の合計31名である。  学内外から128名の視覚障害者、聴覚障害者、肢体不自由者、知的障害者及び保護者を含む付添者が参加し、そのうち、20名の参加者からアンケートの回答が得られた。なお、回答者は7歳から60歳までの年齢幅があり、小学生が6名、中学生が1名、高校生が8名、成人が5名であった。また、障害別では肢体不自由者8名、知的障害者8名、その他2名、未回答2名であり、性別では男性16名女性4名であった。なお、本人が回答できない場合は保護者または付添者に記載を依頼した。  まず、今回のイベントへの参加が何回目になるかを尋ねた。「初めて」参加した人がほとんどであったが、この傾向は今回を含め過去3回とも同様であった(図3)。  次に、どの種目に参加したかを複数回答で尋ねたところ、ビームライフル、フライングディスクに参加した人の割合が高かった(図4)。この2種目とフリークライミングは終日(10時から15時)実施しているためだが、フリークライミングの数字が低いのは、実施場所が体育館から少し離れた場所にあるため、体育館でアンケートを書いてからフリークライミングに向かう人が多かったためではないかと思われる。アンケートの依頼のしかたなどに何らかの工夫が必要であろう。  また、イベントは「(とても+まあまあ)面白かった」と全員が回答しており、イベントの満足度はとても高い。この傾向も今回を含め過去3回とも変わっていなかった(図5)。  「今回のようなイベントの開催回数はどれくらいがよいか」聞いたところ、年間2回の開催を望む声が50%で、年に3、4回(33%)、年に1回(17%)がそれに続いた(図6)。この傾向も過去3回変わっていないが、経費などの問題もあり複数回の開催は実現には至っていない。  イベント内容、スタッフのサポート、会場などについて自由記述してもらった。楽しかった、また来たい、親切で対応がよかったとするものがほとんどであったが、中に、「開催する際5分10分でも、主催の方からごあいさつがあると、主旨がわかっていいと思いました。」や「段取りが悪いと感じた(いつスタートしたのかわからない。)」という意見があった。今まで開催趣旨の説明やスタートの合図はしていなかったが、さまざまな障害者が参加するこのようなイベントでは、より細やかな対応が必要と思われるので、来年度から取り入れていきたい。  次に、スポーツ活動に対する意識について尋ねた。  それによると、定期的にスポーツ活動を行っている人の割合は61%であった(図7)。ただし、この数字には特別支援学校での体育の授業やクラブ活動が含まれている。  スポーツ活動に対する参加希望(複数回答)については、「日常的にやりたい」、「気が向いたときにできればよい」、「イベントがあるときに参加できればよい」で大きな開きはなかったが、60%の人が「障害のある人たちのスポーツクラブがあれば参加したい」と回答した(図8)。  スポーツ活動をするとき参加できる活動範囲については、約2/3の人が「自分が居住している市町村」内なら参加しようと思うと回答した(図9)。  自身のスポーツ環境に関する自由記述では、次のような意見が寄せられた。 ・一人での移動ができないので、どうしても制限があって、プールもできません。バスケットやテニスなどできる所は決まってしまうので、小さい所でできるとうれしいです。激しいスポーツばかりではなくても楽しめるものがあればどんどん参加していきたいと思います。 ・どうしても障害者は参加しにくいジム等ばかりで不満。 ・遠方でしかありません。近くであれば参加できます。 ・県北地区(注:茨城県を5つに分けた地域の1つ。)での開催をお願い致します。 ・障がいを持っていてもできるスポーツの紹介をもっとしてほしい。  香田らは、総合型地域スポーツクラブは、基本的に住民が徒歩で行ける範囲を想定しているが、障害者がスポーツをするには、徒歩圏内で行ける範囲での活動が難しいと考えていることを指摘している[5]。参加できる活動範囲の希望は今回も同様の結果であり、また、障害者のスポーツクラブがあれば参加したいという希望が多いのも、障害があってもできるスポーツ、楽しめるスポーツをやりたいというニーズが必ずしも満たされていない現状の反映ではないかと考えられた。今後の本イベントへの参加については、90%の人がまた参加したいと回答した(図10)。このことは、障害があってもできるスポーツ、楽しめるスポーツをやりたいというニーズに本イベントの内容が合っているということ以外に、このような機会がまだまだ圧倒的に少ないことを示しているのではないかと思われる。 最後に、本イベントをどうやって知ったか、広報に関することを尋ねた。それによると、地域ミニコミ紙である常陽リビングやポスター類も見られているが、一番多かったのはその他で、知人や友人を介してイベントの開催を知ったり、(特別支援)学校を通じて知ったという回答が多かった(図11)。また、メールでの事前申込・問合せは15件あった。 図3 イベントへの参加回数 図4 参加した種目 図5 イベントに対する満足度 図6 イベントの開催頻度の希望 図7 スポーツ活動の実施状況 図8 スポーツ活動に対する参加希望 図9 スポーツ活動に参加しやすい地域の範囲 図10 今後のイベントへの参加希望 図11 イベントを知った手段 5.まとめ  2007年から開始した本学のイベントも今回で5回目となり、参加者も概ね増加傾向にある(表1)。  今回、特別ゲストとして本学名誉卒業生の金メダリスト井口さんに指導者を兼ねて参加してもらった。井口さんは金メダルを多くの障害のある子どもたちに触らせてくれた。金メダルを首にかけた子どもたちのうれしそうな表情が非常に印象的であった。保護者の1人は「子どもたちの将来に希望が持てます。」と言っていたが、こういうことも本学が果たすべき役割の1つなのかもしれない。  また、2008年度からスタートした三大学連携イベントについても、今年度は筑波技術大学159名、茨城県立医療大学130名、筑波大学320名、計609名が参加した(スタッフ数を含む。)。他の2大学でも以前より参加者が増え連携の効果が出ているようだということであった。増加している障害者のスポーツ活動に対するニーズに、今後とも応えていくことがぜひとも望まれる。このようなイベントを継続して実施することが何よりも重要であると思う。  一方、本学のイベントに関して、今までの実践から見えてきた次に進むべきいくつかの検討課題もある。例えば、次のようなものが挙げられる。 ・定期的な活動への発展:スポーツ教室の開催や日常的なクラブ活動など。 ・障害者のスポーツに関する情報の定期的な発信  また、3大学の連携イベントについては、筑波技術大学が障害者のための大学として、茨城県立医療大学が医療系の大学として、筑波大学が体育の教員養成大学として、それぞれの特長を生かしたイベントを運営、実施してきたが、今後はさらに連携のメリットを生かした活動を追求していくことが望まれる。 図12 イベントの様子1(筑波技術大学) 図13 イベントの様子2(筑波技術大学) 引用・参考文献 [1] 東京都障害者スポーツ振興計画 http://www.sporttokyo.metro.tokyo.jp/sport/council/syogaisya_plan/shougaisha_kihonkeikaku_honbun.pdf [2] 香田 泰子,及川 力,天野 和彦,中村 有紀:「筑波技術大学 障害者のためのスポーツ体験イベント」実施報告.筑波技術大学テクノレポート16巻(1号):149-152,2009. [3] 香田 泰子, 及川 力,天野 和彦,中村 有紀,和田野 安良,齊藤 まゆみ:「三大学連携・障がい者のためのスポーツイベント」実施報告.筑波技術大学テクノレポート16巻(1号):153-157,2009. [4] 香田 泰子,及川 力,天野 和彦,中村 有紀:障害者のためのスポーツイベント実施報告と今後の展望.筑波技術大学テクノレポート17巻(2号):144-148,2010. [5] 香田 泰子,及川 力,天野 和彦,中村 有紀:障害者のためのスポーツイベント・2010年の実施報告.筑波技術大学テクノレポートVol.19(1):71-75, 2011. 本イベントは以下の助成を受けて実施した。 1 平成23年度筑波技術大学障害者高等教育研究支援センター教育研究等推進経費 2 平成23年度筑波技術大学教育研究助成財団助成経費 3 平成23年度日本体育学会アダプテッドスポーツ科学分科会活動支援助成経費 Report on a Sporting Event for People with DisabilitiesHeld at Tsukuba University of Technology in 2011 OIKAWA Chikara, KOHDA Yasuko, AMANO Kazuhiko, NAKAMURA Yuki, KURIHARA Koichi Research and Support Center on Higher Education for the Hearing and Visually Impaired, Tsukuba University of Technology Abstract: Since 2007, we have sponsored an annual event to promote sports activities for people with disabilities. Beginning in 2008, three neighboring universities, Tsukuba University of Technology, Ibaraki Prefectural University of Health Sciences, and Tsukuba University, located in the southern region of Ibaraki Prefecture, have joined to hold sporting events for people with disabilities at each university. Three neighboring universities also held sporting events in November and December 2011. A total of 128 people with a variety of disabilities participated in an annual event held at Tsukuba University of Technology. Everyone who attended enjoyed the event. Our sporting event is significant because limited opportunities are available for people with disabilities to participate in sports. Keywords: People with disabilities, Sporting events, Sports promotion, Contributions to community