過去問反復学習を取り入れた国家試験への取組とその効果の検証 筑波技術大学 保健科学部 保健学科 鍼灸学専攻 池宗 佐知子 成島 朋美 東條 正典 緒方 昭広 佐々木 健 大越 教夫 要旨:授業の補完的に過去問を用いた国家試験対策を行い、その学習効果を模擬試験にて評価した。模擬試験の受験者は6名であった。模擬試験実施時に国家試験対策が終了していた科目は全国平均よりも約10%高い値であった。さらに、自己学習時間の伸長が認められ、過去問対策の必要性が示された。今後は、視覚障害学生に対応した教材を作成し、国家試験に向けた自学自習環境の整備を推進する。 キーワード:反復学習,国家試験補習,視覚障害学生,自主学習 1.はじめに  はり師・きゅう師、あん摩マッサージ指圧師の国家試験(国家試験)に向けた勉強法として、過去に出題された問題(過去問)を利用することは一般的である。しかしながら、視覚に障害を有する本学学生においては市販されている過去問集や参考書を活用することが困難な場合がある。このような学生達が活用でき、かつ国家試験合格という目標に合わせた資料や問題集、参考書等が必要となる国家試験対策は繰り返し学習することが必要であるといわれている[1]。長期間の反復学習は、課題に対する問題解決能力や判断力などを改善する可能性が報告されている[2][3]。反復学習は、同じような問題に繰り返し取組ものであるため、多くの時間を必要とされる。授業時間内で行うことは、必要な課題をこなすことが出来なくなるなど時間的制約のため困難である[3]。そのため、授業時間外の空き時間を有効活用し、授業の補完的に過去問の反復学習(国家試験過去問対策)を試み、その学習効果について外部の模擬試験(外部模試)を利用して評価することとした。 2.対象と方法 2.1 対象  国家試験の過去問対策の対象は、昨年度の進級試験(平成24年1月実施)において得点率60%未満であった4年生および、自主的に参加を希望した学生13名とした。本報告は、この中で自主的に外部模試を受験した6名を対象とした。 2.2 過去問学習教材  過去問学習教材は、はり師・きゅう師・あん摩マッサージ指圧師の過去問(第10回から第20回)を科目別・単元別に分類し、問題、解説、出題回数等を記載したものを作成した。なお、解説には、日本理療科教員連盟、社団法人東洋療法学校協会の編集した書籍を参考とし、各問題の学習参考ページを記載した(図1)。  また、過去問に関する知識の定着を図る目的で、学習教材より、ランダムに抽出した単元別のテスト(確認テスト)を準備した。  なお資料は、学生の視覚障害の程度に応じた墨字資料、点字資料、データファイルを配布した。 2.3 学習の進行  1つの単元につき確認テストで9割以上の得点を2回獲得することを合格の条件とし、合格した者から次の単元に進むこととした。なお、全ての単元が終了した後、同条件で科目ごとの総合テストを実施する、反復学習を行った。実施にあたり学習支援コーディネーターとして特任教員を配置した。学生は、1週間ごとの単元合格目標を設定させた。学習支援コーディネーターは、目標到達に向けた学習の支援を行った。学習支援コーディネーターによる確認テストおよび総合テストの実施頻度は各学生の自主的な参加よるものとした。なお、各学生の確認テスト開始単元は国家試験対策進捗状況ボードに貼り付けた(図2)。  学習の進行は、次の科目順とした。 1.解剖学 2.生理学 3.衛生学 4.東洋医学概論(東医概論) 5.経絡経穴学 6.東洋医学臨床論(東医臨床論)(あん摩マッサージ指圧師→はり師・きゅう師) 7.理論(あん摩マッサージ指圧師→はり師→きゅう師) 8.医療概論 9.関係法規 10.リハビリテーション(リハビリ) 11.病理学 12.臨床医学総論(臨床総論) 13.臨床医学各論(臨床各論) 2.4 外部模試の実施による過去問対策の効果検証  A社で行われている模擬試験を6月28日と7月2日のそれぞれ13時より実施した。受験に際しては、国家試験に準じた視覚障害保障を行った。効果の検証は、外部模試を受験した学生6名と同模試を受験した836名の全国平均とを比較することとした。 2.5 アンケートの実施 過去問対策の実施について、参加頻度、自宅学習の時間、理解度等のアンケートを行った。アンケートは、全て単純集計を行った。 図1 過去問学習教材 資料例 図1 国家試験対策進捗状況ボード模式図 3.結果 3.1 過去問対策進捗状況と外部模試の結果  外部模試の実施時に解剖学の全単位が終了していた学生は6名、生理学が終了していた学生は4名であった。外部模試の問題数は解剖学が16問、生理学が14点門であった。表1には、過去問対策が終了した単元についての外部模試の結果を本学と全国の平均で示す。その結果、解剖学で約6%、生理学で約10%得点率が高かった。表2には、過去問対策が終了していない科目についての結果を示した。問題数が10問以下の科目では全国平均とほとんど差は認められないが、問題数が10問を越える東医概論、経絡経穴学、東医臨床論、臨床各論では、本学の平均と全国平均では10%以上の差が認められる結果となった。 3.2 アンケート結果  過去問対策への1週間あたりの参加頻度を図3に示す。週2~3回程度参加している者がほとんどであった。  次に、過去問対策実施前後での自主学習時間の変化を図4に示す。これは、1日あたりの学習時間の平均である。6名中4名が学習時間の伸長が認められた。さらに、過去問対策実施前には自主学習に3時間以上費やすものは1名であったが、過去問対策実施後には自主学習時間に3時間以上費やすものが3名となった。  「過去問対策を実施して、終了した単元の理解について、変化はあったか」という問いに対して、2名が「より理解できた」、4名が「理解できた」と答えた。  また、「これまでの模試と比較して、終了した単元の得点は変化したか」という問いに対しての自己評価を図5に示す。その結果、学生6名全員、得点が少なからず上昇していると考えている。最後に、「過去問対策は自分にとって必要だと思うか」という問いに対しては、6名全員が「思う」と解答した。 表1 外部模試の結果(過去問対策単元終了科目) 表2 外部模試の結果(過去問対策単元未終了科目) 図3 過去問対策への1週間辺りの参加頻度 図4 学習時間の推移 図5 得点の変化の自己評価 4.考察  過去問対策を実施した結果、全単元を終了した科目では、全国平均よりも解剖学で約6%、生理学で約10%上回る結果となった。一方で、単元の終了していない科目で問題数の多いものは全国平均よりも10%以上得点率が下回る結果であった。過去問対策において単元ごとの確認テストで9割以上の点数を2回獲得するという反復学習の実施は、科目や単元の内容の理解・定着につながり、終了した科目については全国平均を上回ったものと考えられる。現在進行中ではあるが、配点の比較的高い科目についても順次過去問対策を実施し、全ての科目において合格範囲内である60%以上の得点を取得することが望まれる。  今回対象となった6名の学生は、週2回以上過去問対策に参加している。この週2回以上参加し、それぞれ目標に合わせた単元の確認テストに合格するためには、これまで以上の自主学習時間の確保が必要である。そのため、自主学習時間が伸長した学生が増加したものと考えられる。さらに、学習時間の伸長は、わからない内容を調べる、整理するという学習の基本習慣を身につけられる可能性があった。  アンケートにおいて6名全員が終了した単元の理解や得点の変化について肯定的に解答した。これは、確認テストの実施により、理解の不足している単元や内容を抽出し、再度学習することが反復学習となり、単元の理解、得点の上昇につながったと思われる。  過去問対策の必要性は全員の学生が感じていた。自主学習習慣の身についていない学生には、学習を習慣化させるために、学習支援コーディネーターによる週ごとの目標設定や苦手な単元や内容の補足は有効であると考えられる。  今後は、国家試験合格という目標に対して、①学生の苦手問題の抽出、②過去問対策について自学自習可能な環境の構築の2点が必要となる。現在は特任教員による学習支援を必要としているが、今後は、苦手問題等の分析を踏まえ、人的支援がなくとも学生自身で過去問を中心とした国家試験対策が実施できる環境を作りに努める。 5.結語  障害学生に対応した教材を作成し、反復学習を実施することで、自学自習時間の伸長や学習内容の理解を深めることにつながった可能性がある。今後は、さらに発展した国家試験に向けた学習環境の構築を行う必要がある。 謝辞  本研究は平成24年度文部科学省特別経費「視覚に障害を持つ医療系学生のための教育高度化改善事業」の一部として実施した。 参考文献 [1] 伊藤 春樹,酒井 美和 他:e-Larningを用いた学習方法.医療福祉研究 第6号:111–120,2010 [2] 石川 眞理子,吉田 甫:易しい課題の反復学習が子どもの国語と算数問題の解決におよぼす影響.立命館人間科学研究 13:31-39,2007 [3] 多田 知正、丸田 寛之:プログラミング教育における反復学習を採り入れた授業方式.京都教育大学紀要 116:123-134,2010 Verification of the Effects of an Approach to Repetitive Learning on Students Preparation for the License Examination in Acupuncture and Moxibustion SACHIKO Ikemune, TOMOMI Narushima, MASANORI Tojo, AKIHIRO Ogata, KEN Sasaki, NORIO Ohkoshi Course of Acupuncture and Moxibustion, Department of Health, Faculty of Health Sciences, Tsukuba University of Technology Abstract: We verified the effects on an approach to repetitive learning on students’ preparation for the License Examination in Acupuncture and Moxibustion (LEAM). We based our approach on a review of past examinations. Six students participated in a supplementary class held after the school day ended. During the class, they practiced review exercises for the LEAM. All of the students took a trial examination two months after the class began. At the time of that test, all of the students had completed their study of anatomy and four students had completed their study of physiology. As a result, these student subjects achieved grades that were about 10% higher than the national average. In addition, during the time that we observed the extension of the self-study period, we discovered that the course was vital to student success. In the future, we will promote the development of self-study environments to assist visually impaired students in their preparation for the LEAM. Keywords: Repetitive learning, Supplementary preparation class for national examination, Visually impaired students, Self-study