アダプテッドスポーツコーディネーターとしての研修活動報告 筑波技術大学障害者高等教育研究支援センター 栗原 浩一 要旨:本学障害者高等教育研究支援センターは、平成21年に文部科学大臣から教育関係共同利用拠点として認定された。筆者はその事業の一環である聴覚・視覚障害学生のスポーツコンテンツ開発に携わる特任研究員として着任した。着任以降これまで一年間の活動について報告する。 キーワード:アダプテッドスポーツ,聴覚障害,障害者高等教育拠点,教育関係共同利用拠点,視覚障害 1.はじめに  本学障害者高等教育研究支援センター(以下、支援センター)は高等教育機関における障害者教育に関する全国的な活動を期待され、平成21年に文部科学大臣から教育関係共同利用拠点として認定された。筆者は本事業の中でスポーツ系コンテンツ開発に携わる者としての役割を持って平成23年10月に特任研究員として着任した。本稿では着任してからこれまで一年間の活動について報告する。 2.教育関係共同利用拠点事業について 2.1 教育関係共同利用拠点制度  文部科学省は、「多様化する社会と学生のニーズに応えるべく、各大学において、それぞれの教育理念に基づいて機能別分化を図り、個性化・特色化を進めながら教育研究活動展開していくことが重要。質の高い教育を提供していくためには、個々の大学の取組だけでは限界があるため、他大学との連携を強化し、各大学の有する人的・物的資源の共同利用等の有効活用を推進することにより、大学教育全体として多様かつ高度な教育を展開していくことが必要不可欠」[1]との見解を示した。これに基づいて、大学の機能別分化の促進、大学間ネットワークの構築を進め、各大学が自らの強みを持つ分野へ取組を集中・強化するとともに、他大学との連携を進めることによって、大学教育全体としてより多様で高度な教育を展開していくために、文部科学大臣による「教育関係共同利用拠点」の認定制度を創設し、国公私立大学を通じた教育関係共同利用拠点の整備を推進することとし、平成21年9月に初めての認定が行われた。 2.2 障害者高等教育拠点  支援センターは、教育関係共同利用拠点事業の中でも特に障害者教育に関する全国的な拠点としての役割を期待され、障害者高等教育拠点と位置付けられている。事業名は「聴覚・視覚障害学生のイコールアクセスを保障する教育支援ハブの構築−情報保障と障害特性に基づく教育方法の協調的開発と資源共有に向けて−」であり、事業計画期間は平成23年度から26年度までの4年間となっている。事業の内容としては、全国の大学で学ぶ聴覚・視覚障害学生及び障害者教育に関わる教職員を対象に、支援センターを拠点として情報支援技術の提供や教育方法・教育資源の共有および教職員への研修や情報提供など様々な活動を計画しており、これらの情報はウェブサイトや大学間ネットワークを通して全国の大学に提供される。 2.3 アダプテッドスポーツコーディネーター  本事業の内のスポーツコンテンツの開発の中で、アダプテッドスポーツコーディネーターの養成事業がある。アダプテッドスポーツコーディネーターとは、一般的な呼称ではなく、この事業を実施するためにあたって特に作られたものであり、全国の高等教育機関に在籍する聴覚・視覚障害学生の教育的支援に資するため、特に視覚障害者の体育・スポーツ活動に高い専門性を持つ人材のことを指している。  アダプテッドスポーツとはいわゆる障害者スポーツと同義であるが、理念はその範囲だけにとどまらず、「ルールや用具を障害の種類や程度に適合(adapt)することによって、障害のある人はもちろんのこと、幼児から高齢者、体力の低い人であっても参加することができるスポーツ」[2]を意味している。 3.着任までの活動の履歴  特任研究員との関連において、本学に着任するまでの活動と、そこでの障害者スポーツとの接点について述べる。 3.1 健康運動指導士としての活動 3.1.1 健康運動指導士とは  健康運動指導士とは、「個々人の心身の状態に応じた、安全で効果的な運動を実施するための運動プログラムの作成及び指導を行う」[3]とされ、全国の健康増進センター、保健所、市町村保健センター、民間健康増進施設(フィットネスクラブ、アスレチッククラブなど)、病院、学校などを活動の場としている。その養成事業は、昭和63年から厚生大臣(当時)の認定事業として、生涯を通じた国民の健康づくりに寄与する目的で創設され、平成18年度からは公益財団法人健康・体力づくり事業財団独自の事業として継続して実施されている。 3.1.2 これまでの活動  筆者は健康運動指導士として、茨城県牛久市、福島県伊達市、新潟県新潟市などの自治体の特定保健指導に関わり中高齢者のメタボリックシンドローム予防を目的とした運動指導、生活習慣指導を行ってきた。また、高齢者の介護予防を目的とした転倒予防、歩行機能改善のための運動指導にも携わるとともに、そこに関与する運動指導員の養成講習会において講師を担当するなどの活動を行ってきた。  対象者の中には中途失聴者の方がいたケースもあり筆談や個別に対応するなどの配慮が必要になった場面もあった。また、特に高齢の対象者には視力や聴力の低下した方が多く、低体力に対する指導方法やプログラム運営に関する配慮だけでなく、コミュニケーションの方法についても工夫や配慮が必要であると強く実感した。 3.2 総合型地域スポーツクラブでの活動 3.2.1 総合型地域スポーツクラブとは  総合型地域スポーツクラブとは、「人々が、身近な地域でスポ-ツに親しむことのできる新しいタイプのスポーツクラブで、(1)子どもから高齢者まで(多世代)、(2)様々なスポーツを愛好する人々が(多種目)、(3)初心者からトップレベルまで、それぞれの志向・レベルに合わせて参加できる(多志向)、という特徴を持ち、地域住民により自主的・主体的に運営されるスポーツクラブ」[4]を指す。全国では1,318の市区町村において3,241のクラブが育成(創設及び創設準備)されている(2011年)[5]。 3.2.2 NPO法人アクティブつくばでの活動  NPO法人アクティブつくばは、つくば市を拠点とする総合型地域スポーツクラブであり、「つくば市民の誰もが、いつでも、どこでも、気軽にスポーツを通じて交流し、自己表現を体感できる生涯スポーツ社会を実現することを基本理念とする『つくば市スポーツ振興基本計画』に則り、年齢、性別、障害の有無などに関わらず、市民一人ひとりが、スポーツに関わる活動を満足に行うことができるように、地域における人材、施設、情報、ネットワークなどのスポーツ資源を有効に活用し、様々なイベントやプログラムの運営及び支援事業を通して、健康でいきいきとした生活(Active Life)をおくることができる『スポーツによる健康な街つくば』の実現を目指す」[6]ことを活動理念として2003年に設立される。  筆者はアクティブつくばのスタッフとして、スポーツを指導したい人と指導者を探している人との交流を支援するスポーツ人材ネットワークを構築する事業に携わり、自身もラグビーの指導者として、小学生に対するミニラグビーの指導ならびに普及活動や、デフラグビーチームと健聴者との練習試合や合同練習会などの交流を推進する活動を行ってきた。  また、小学生を対象としたマルチスポーツプログラムである「つくばスポーツ探検隊」の企画や運営にも携わり、小学校の授業で扱われる種目にとどまらず、ブラインドサッカーやボッチャ、車椅子バスケットボールなど障害者スポーツを積極的に取り入れることに力を入れ、それぞれの種目を専門の指導者の下で体験させる取り組みを行ってきた。 4.アダプテッドスポーツコーディネーターとしての研修活動  着任以降これまでに、アダプテッドスポーツコーディネーターとしての専門性を高めるべく取り組んできた活動を以下に述べる。 4.1 障害学生の体育・スポーツ活動に関する実態調査  拠点事業の一つであり、全国の大学・短期大学における障害のある学生に対する体育実技の現状把握および事例の収集を目的として実施した「障害学生に対する体育実技についてのアンケート」調査に担当者の一人として関わった。詳細については現在集計中である。 4.2 本学の体育授業での実習  保健科学部開講の健康・スポーツ1、2(一年次必修)、健康・スポーツ3、4(二年次選択)、健康・スポーツ5、6、シーズンスポーツA、B(三・四年次選択)において全ての授業に関わりながら視覚障害者スポーツについての知見を深めることに努めた。フロアバレー、グランドソフトボール、ゴールボール、サウンドテーブルテニス、ブラインドサッカー、などいわゆる視覚障害者スポーツについて、プレーヤーや、競技の指導者や審判を含む支援者(伴走、ガイド、コーラー)など、視覚障害者スポーツに関わる様々な役割の知識や経験を深めるとともに、フライングディスク、ターゲットバードゴルフ、水泳、マリンスポーツ、フリークライミング、ラート、インラインスケート、Gボール、ストレッチポール、マシンを使った有酸素運動や筋力トレーニングなどの一般種目における視覚障害者への対応や応用についても知識や経験を同様に深めた。  また、産業技術学部開講の応用健康・スポーツ(三年次選択)においてもタグラグビー、マリンスポーツの指導補助に携わり、聴覚障害者のスポーツ活動についても知見を広げることに努めた。  さらに、課外活動や個人的なトレーニングで体育館を利用する学生の支援や、学生自身の健康と運動に関する助言を行う中で、現在の生活習慣と健康状態、今までの運動履歴、障害や疾病を抱えながらトレーニングを実施することについての動機づけと成果などについて当事者からの直接の考えや意見に触れることができ、それは非常に貴重な経験であった。  4.3 講習会などの受講 ①茨城県障害者スポーツ指導者養成講習会 主催:茨城県障害者スポーツ指導者協議会 期日:平成24年1月28日~29日、2月5日 会場:茨城県立リハビリテーションセンター 目的および概略:地域における障害者スポーツの指導者を育成することにより、障害者スポーツの振興を図り、障害者の自立と社会参加の促進に寄与することを目的とする。 障害者福祉政策と障害者スポーツ、ボランティア論、障害の理解とスポーツ(身体障害、精神障害、知的障害)、公認障害者スポーツ指導員制度、全国障害者スポーツ大会の概要、障害者スポーツの意義と理念、安全管理についての講義ならびに障害に応じたスポーツの工夫・実施、障害者との交流についての実技・実習を受講し、日本障害者スポーツ協会公認障害者スポーツ指導者(初級障害者スポーツ指導員)を取得した。 ②視覚障害者リハビリテーション基礎講習会 主催:社会福祉法人日本ライトハウス 期日:平成24年8月6日~8日 会場:社会福祉法人日本ライトハウス 視覚障害リハビリテーションセンター 目的および概略:視覚障害等障害・福祉関係機関、盲学校等教育機関、医療機関、研究機関等の職員(事務・庶務関係職員等も含む)に対し、視覚障害・視覚障害福祉・視覚障害リハビリテーションの初歩からの基礎的な知識、視覚障害者への接し方の基本について、講義、及び実技(アイマスク体験)を通じて解説を行うことを目的とする。  視覚障害者のリハビリテーション、視覚障害者の福祉、コミュニケーション訓練、視覚障害者とスポーツ、日常生活動作訓練についての講義ならびに手引きによる歩行・屋内歩行、日常生活動作訓練、弱視とコミュニケーションについての実技を受講した。また、講習会受講者ならびに講師である日本ライトハウス職員と視覚障害者のリハビリテーションに関する現状や展望についての意見交換を行った。 ③ガイドヘルプ技術研修 主催:本学教員による企画 会場:筑波技術大学春日キャンパス 期日:平成24年9月3日~4日 目的および概略:視覚障害の方を誘導する機会のある方、視覚障害の方を誘導する際にホスピタリティーを体現したい方などに勧める技術研修を目的とする。  視覚障害の理解、誘導の基本、食事支援についての講義ならびに誘導の基本、狭所、階段、ドア、乗用車、トイレ等での誘導についての実技を受講した。また、講師スタッフと視覚障害者支援やスポーツ活動についての意見交換を行った。 4.4 競技会などの視察 ①ニュースポーツEXPO2012 in多摩 期日:平成24年3月18日 会場:味の素スタジアム 概略:インディアカ、キンボール、グラウンド・ゴルフ、視覚障害者クライミング、スポーツ吹矢、フライングディスク、縄跳び、ユニホックなどニュースポーツの体験を行った。  以下の障害者スポーツ競技会については、視察と同時に、視覚障害者スポーツの資料映像収集のための撮影を行った。 ②ロンドンパラリンピック柔道競技日本代表候補選手選考大会 期日:平成24年5月27日 会場:講道館 女子部道場 ③2012ジャパンパラ陸上競技大会 期日:平成24年6月2日~3日 会場:長居陸上競技場 ④2012ジャパンパラ水泳競技大会 期日:平成24年7月15日~16日 会場:なみはやドーム ⑤第12回全国障害者スポーツ大会 期日:平成24年10月13日~15日 会場:岐阜メモリアルセンター他 種目:水泳競技、陸上競技、障害者ゴルフ、サウンドテーブルテニス、グランドソフトボール  また、上記①~⑤全てのイベントや競技会において、大会運営スタッフや競技団体関係者と、種目の現状、普及のための取り組み、障害者スポーツイベントの運営などに関する情報収集や意見交換を行った。 5.今後について  着任以降、この一年間を振り返って、これまで本学での実習で得られた聴覚・視覚障害者への体育・スポーツ活動の指導に対する配慮や安全管理の知識は、健常者においても有益かつ汎用できるものであり、広く周知、活用していきたいと思う。今後さらに研修、実習を通して、本学ならびに全国の高等教育機関に在籍する聴覚・視覚障害学生の体育・スポーツ活動を支援する者としての知識や経験を深め、この分野での専門性をさらに高めていきたいと考えている。  また、健康運動指導士や総合型地域スポーツクラブに関わった者としての観点と、アダプテッドスポーツコーディネーターとしての知見との両者を活かして、学校における運動の機会の保障や中高齢期にわたる運動習慣の継続など、障害の有無に関係なく全ての人々が健康増進や自己実現のために生涯スポーツを行うことのできる環境づくりに尽力していきたいと考えている。 参考文献 [1] 文部科学省:教育関係共同利用拠点について(概要),(cited 2009-11-30),(http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/22/03/_icsFiles/afieldfile/2010/03/23/1291858_1.pdf). [2] 矢部 京之助・草野 勝彦・中田 英雄:アダプテッド・スポーツの科学~障害者・高齢者のスポーツ実践のための理論~,市村出版(2005). [3] 公益財団法人健康・体力づくり事業財団:健康運動指導士,健康・体力づくり事業財団,(cited 2012-11-15),(http://www.health-net.or.jp/shikaku/shidoushi/index.html). [4] 文部科学省:総合型地域スポーツクラブ育成マニュアル,(cited 2012-11-15),(http://www.mext.go.jp/a_menu/sports/club/main3_a7.htm). [5] 文部科学省:平成23年度総合型地域スポーツクラブに関する実態調査結果概要,(cited 2012-11-15),(http://www.mext.go.jp/component/a_menu/sports/detail/_icsFiles/afieldfile/2012/02/14/1234682_7.pdf). [6] NPO法人アクティブつくば:特定非営利活動法人アクティブつくば 定款,(2004). In-Service Training of an Adapted Sport Coordinator KURIHARA Kouichi Research and Support Center on Higher Education for the Hearing Impaired and Visually Impaired, Tsukuba University of Technology Abstract: The Research and Support Center on Higher Education for the Hearing and Visually Impaired was accredited as the Joint Usage Center on Education of Higher Education for the Disabled by the Minister of Education, Culture, Sports, Science and Technology in 2009. For this project, I arrived at my new post as a project researcher, specifically engaged in the development of sports and physical education curriculum for students with hearing and visually impairments. This article was written a year after my arrival at the post to advance my specialty as an adapted sport coordinator. Keywords: Adapted sport, Hearing impaired, Higher education for the disabled, MEXT-approved Joint Usage Center on Education, Visually impaired