視覚障害ユーザのタッチスクリーン端末利用のための教育方法とユーザインタフェース改善に関する研究 坂尻 正次 筑波技術大学 保健科学部 情報システム学科 キーワード:視覚障害,タッチスクリーン,スクリーンリーダ,ユーザインタフェース 1.背景と目的  近年,スマートフォンやタブレット端末等のタッチスクリーン端末が一般の健常者の間で普及してきている。今後は,キーボードインタフェースを持つPC等の端末の代わりにタッチスクリーン端末が普及していくものと予想されることから,視覚障害者のタッチスクリーン端末利用時のアクセシビリティの確保が課題となっている。これまでの研究では,視覚障害者のスマートフォン・タブレット端末の利用状況とニーズの調査を実施した。調査の結果,視覚障害者向けにタッチスクリーン端末操作を指導する講習会実施のニーズや触覚的手がかりを利用して操作するインタフェースのニーズがあげられた。  本研究ではこのようなニーズに対処するために,視覚障害者向用マニュアルを作成したうえで模擬的な視覚障害者向け講習会を実施し,教育方法の評価と改善をおこなうことを第1の目的とした。また,触覚的手がかりを利用した視覚障害者向けインタフェースを提案し,その評価と改善をおこなうことを第2の目的とした。 2.視覚障害者向け講習会の成果の概要  タッチスクリーン端末の視覚障害者向け講習会を開催するための準備として,事前に簡易マニュアルの作成と支援者の養成をおこなった。なお,本講習会ではスクリーンリーダを利用して操作する全盲者を主な対象とした。  本講習会の参加者は,視覚障害のある受講者(12名)と支援者(8名),講師(1名)であった。受講者の脇に支援者が配置された。講習事項は次のようになる。  ・端末についての解説と電源のon/off  ・アクセシビリティ機能の設定方法  ・スクリーンリーダ(VoiceOver)使用時のジェスチャ練習  ・その他,各参加者が興味を持つアプリケーション(ブラウザなど)の使い方。  本講習会修了後に,受講者及び支援者にアンケート調査を実施し,次のような全盲者向け講習会のための改善指針を策定した。   受講者1名に対して,なるべく支援者が1名は付けられるようにすること   ジェスチャは掌をなぞって伝達すること   スクリーンリーダの音声に集中しにくくなるのを防ぐため,イヤホンを導入すること   操作可能領域を具体化するために,スクリーンの枠部分などを触って分かるようにすること   画面の説明の際,マニュアルのほかに補助として立体コピーを用いて画面に表示されるオブジェクトを触れるようにすること  今後は以上の改善指針を視覚障害教育や支援の実践の場で活用していく。 3.視覚障害者向けインタフェース提案の成果の概要  スクリーンリーダを使用している状況下において,視覚障害者にとって押しやすいボタンのサイズや配置場所を調べるための評価実験をおこなった。9種類のサイズ・形状のボタンを用意し,ダブルタップ,スプリットタップ,フリックで選択後にダブルタップするという3種類の入力方法により押下する課題を実施した。  実験の結果,次のようなことがわかった。ダブルタップ・スプリットタップ共にボタンサイズが大きくなると,ボタンの探索時間が減少する傾向にあった。特に,ダブルタップ・スプリットタップの際に,8mmのボタンでは20~30秒程度かかっていた一方で,12mmのボタンでは10~20秒程度に減少した。ただし,16mmのボタンでは概ね10~15秒程度であった。フリックの場合はボタンサイズの影響はなかった。ボタンの提示場所ごとの探索時間について,ダブルタップ・スプリットタップの場合,左上・中央部での探索時間が短い一方で,特に右上側で探索時間が長くなった。  以上の結果から,(1)右側にあまりボタンを配置しない,(2)操作時間の短縮のためボタンサイズは可能な限り大きくするという視覚障害者向けインタフェースのガイドラインが導かれた。  今後は得られた視覚障害者向けインタフェースのガイドラインを実際のアプリケーション等の開発に利用していく。 4.成果の学会発表  本研究における成果の学会発表等は次のようになる。 T.Miura, H.Matsuzaka, M.Sakajiri, H.Tatsumi, T.Ono: A questionnaire survey on usage of and requirements for touchscreen interfaces among the Japanese visually impaired population; NTUT Education of Disabilities, Vol.11, pp.16-22 (2013) T.Miura, H.Matsuzaka, M.Sakajiri, T.Ono: Usages and needs of current touchscreen interfaces in Japanese visually impaired people: a questionnaire survey; 2012 IEEE International Conference on Systems, Man, and Cybernetics, pp. 2927-2932 (2012) 松坂 治男, 三浦 貴大, 坂尻 正次, 巽 久行, 小野 束:視覚障害者へのタブレット端末の操作方法の教示~全盲者向け講習会を通じて~;HCGシンポジウム2012, pp.468-471(2012)(電子情報通信学会HCGシンポジウム2012年度学生インタラクティブ奨励賞 受賞) 松坂 治男, 北村 直也, 中岫 謙, 松尾 政輝, 坂尻 正次, 巽 久行, 小野 束, 三浦 貴大:iOSを中心としたタッチスクリーン端末における音声読み上げの現状-iOSのバージョンアップに伴う漢字詳細読み機能の付加とアプリケーションの活用-;ライフサポート学会視聴覚障害者バリアフリー技術研究会(2012)