鍼灸,あん摩マッサージ指圧刺激が自律神経-内分泌-免疫系に及ぼす効果―サーモグラム・心拍変動・胃電図・瞳孔反応と白血球分画― 森 英俊1),大沢 秀雄1),久下 浩史2),田中 秀明2) 筑波技術大学 保健科学部 保健学科 鍼灸学専攻1) 鍼灸学専攻(客員研究員)2) キーワード:鍼灸,冷え症,高齢者,瞳孔 成果の概要  本研究は,鍼灸・手技療法の科学化において神経(特に自律神経)-内分泌-免疫系のホメオスタ-シスの三角の関係を明らかにする研究である。  今回の事業では,①鍼灸療法による冷え症の効果,②温熱刺激(温灸)の効果,③鍼灸療法による高齢者のNK細胞活性の効果,④指圧刺激による瞳孔反応の効果を明らかにする目的で検討した。 1.鍼灸療法による冷え症の効果について 1.1 冷え症と不定愁訴との関係 1.1.1 冷え症について 1)三陰交への低周波鍼通電療法は冷え症者の全身症状および健康関連QOLの改善に寄与し,その効果は健康関連QOLが低い(体の痛みが強い)ほど高いことが示唆された。  『日本温泉気候物理医学会雑誌』若年女性の冷え症に対する下肢への低周波鍼通電療法の効果―SF-8の下位尺度‘体の痛み’得点を指標とした比較検討―2012;75(4):248-255 2)冷え症者は冷えの程度が男女とも冬季に強くなり,一方,健康関連QOL尺度において男性は「体の痛み」と「心の健康」が冬季に低く,女性ではいずれの季節おいても全体的なQOL低下の傾向を示し,「日常的役割機能(精神)」が冬季に低くなることが示唆された。  『Quality of Life Journal』冷え症の程度,健康関連QOLからみた冬季冷え症の性差と季節変動 2012;13(1):39-50 1.1.2 不定愁訴の肩こりについて  鍼灸治療で遭遇することの多い肩こりに着目し,肩痛・肩こり症状で日常的に妨げられる活動項目を抽出し,新たな症状特異的尺度の作成を試みた。その結果,本調査票は,日常生活の上肢帯の動きと活動力を示しており,鍼灸治療の効果判定に利用できる1つの可能性が考えられた。  第62回全日本鍼灸学会に「日常生活活動を指標とした肩こり質問紙の作成」を発表予定(2013.6) 1.2 圧刺激による末梢循環反応  井穴圧刺激によるサーモグラフィと心拍数の変化について検討した。腹部の皮膚温上昇と心拍数が減少した。  現在,論文作成中である。 2.温熱刺激の効果について 2.1 Hot Stone刺激のサーモグラフィの変化  Hot stoneの1ヶ所刺激と3ヶ所刺激の刺激ヶ所数の違いによって下腿部・足部の皮膚温反応に差異があるのかどうかを検討した。腹部Hot stone刺激による下腿部・足部の皮膚温上昇を示し,1ヶ所刺激と3ヶ所刺激間で足趾部の皮膚温反応に差異を示した。  現在,外国論文へ投稿中である。 2.2 温灸刺激のサーモグラフィの変化  足三里穴への温灸3分間刺激と9分間刺激の刺激時間の違いによって下腿部・足部の皮膚温反応に差異があるのかどうかを検討した。足三里穴の温灸刺激は下腿部・足部の皮膚温上昇を示し,左側刺激と右側刺激間(3分間刺激),3分間刺激と9分間刺激間で下腿部・足部の皮膚温反応に差異はなかった。  第30回日本サーモロジー学会に「足三里温灸刺激による下腿部・足部のサーモグラフィに及ぼす効果」を発表予定(2013.6) 2.3 温灸刺激が胃運動に及ぼす効果  胃運動の研究では,中脘穴に対する温灸刺激が胃運動および心拍数に及ぼす影響を検討した。その結果,中脘穴の温灸刺激は,心拍変動周波数のHFを低下させ,胃電図周波数成分を低下させることから胃活動の抑制が伺われた。  第62回全日本鍼灸学会に「中脘穴に対する温熱刺激による胃運動と心拍数の影響」を発表予定(2013.6) 3.鍼灸療法によるNK細胞活性の変化について  高齢者に対して愁訴別に鍼治療前後におけるNK細胞活性,脈拍数及び疼痛強度の変化について検討した。高齢者の鍼治療によって脈拍数の減少と肩・腰・膝の痛みが緩和し,NK細胞活性は減少した。  『Journal of Integrative Medicine』現在,印刷中である。 4.指圧刺激による瞳孔反応および脈拍数(心拍数)・血圧の変化について  仙骨部への指圧刺激が瞳孔直径および心拍数・血圧に及ぼす効果について検討した。指圧刺激によって①瞳孔直径は刺激終了後に有意に縮小した。②脈拍数(心拍数)は刺激中,刺激終了後に有意に減少した。③収縮期血圧は刺激終了後に有意に上昇し,拡張期血圧に有意な反応はみられなかった。  現在,論文投稿中である。  成果の今後における教育研究上の活用及び予想される効果 1.鍼灸療法による冷え症の効果  冷え症者は,季節によって健康関連QOLに及ぼす影響が相違しており,男性では冬季に体の痛みが強くなり,女性ではいずれの季節においてもQOLが低いことを示した(Quality of Life Journal, 2012)また鍼通電による三陰交刺激では,健康関連QOLの体の痛みが低い冷え症者ほど治療効果が高いことを報告した(日本温泉気候物理医学会雑誌,2012)。三陰交の鍼通電治療は,冷え症に対して痛みを伴う者への第1治療として臨床ならびに教育に活用できるものと考える。 2.温熱刺激(温灸)の効果  Hot Stoneの1ヶ所刺激と3ヶ所刺激で差異を示した。また温灸の3分間刺激と9分間刺激間で差異はなかった。刺激ヶ所・刺激時間について臨床・教育に活用できるものと考える。 3.鍼灸療法による高齢者のNK細胞活性の効果  鍼治療が高齢者に与えるNK細胞活性の影響は鍼治療後NK細胞活性の低下を示し,痛みの緩和心拍数減少を示すと報告した(Journal of Integrative Medicine, 2013)。鍼治療によってNK細胞が増加する報告もあるが臨床・教育に活用できるものと考える。 4.指圧刺激による瞳孔反応の効果  鍼刺激は,明順応時・暗順応時ともに鍼刺激で副交感神経機能の亢進によって縮瞳を示すと報告してきた。指圧刺激によって縮瞳することは,指圧刺激が副交感神経の機能亢進を示唆するものと考えられる。指圧刺激が副交感神経の機能亢進として臨床・教育に活用できるものと考える。