視覚障害学生の理学療法教育における客観的臨床能力試験(OSCE)─外部評価と内部評価の違い─ 大圖 仁美1),渡邊 昌宏3),松井 康2),石塚 和重2),大越 教夫2) 筑波技術大学 保健科学部附属 東西医学統合医療センター1) 筑波技術大学 保健科学部 保健学科2) つくば国際大学 医療保健学部 理学療法学科3) 要旨:本学では平成24年度から客観的臨床能力試験(OSCE)の外部評価を導入した。外部評価を導入することで,教員は実習前の学生の能力を的確に把握しやすくなり,学生指導で具体的な対策をとることが可能になると考えられた。また,今回外部評価を導入するのは初めての試みであることから,外部評価者と内部評価者で評価にどの程度の差が生じるかと,外部評価者と内部評価者で学生の視覚状態の認識に違いがあるかを調べる為に見え方についてのアンケートを実施した。その結果,外部評価者は内部評価者と同程度学生の視覚状態を把握しており,内部評価者より高い評価点数をつけることが分かった。これは,今回評価を行った外部評価者が,本学学生の実習指導を数年にわたり受け持ち,視覚障害学生と接触体験を多くしているため,学生の視覚状態を把握することに慣れていたためではないかと考えられた。 キーワード:視覚障害,理学療法,客観的臨床能力試験(OSCE),外部評価 1.はじめに  理近年,臨床技能を評価する方法として客観的臨床能力試験(以下,OSCE)が注目され,看護や理学療法などの医療分野においても導入されてきている[1][2][3]。一般的に理学療法の評価もしくは治療に係わる知識および技術を教授し,学生の理解度を確認するために測定可能な個別目標は,認知領域,情意領域及び精神運動領域の3領域に分けられると言われている[4]。また,OSCEにより達成できる個別目標も,その3領域であると報告されている[4][5][6]。本学でも,平成22年度から学生の臨床能力の向上を目的にOSCEを実施し,平成24年度からは視覚に障害のある理学療法教育で初めて外部評価を導入した。外部評価は学生の試験を客観的に評価できるため,外部評価を導入することで,教員は実習前の学生の能力を的確に把握しやすくなり,学生指導で具体的な対策をとることが可能になると考えられた。外部評価を導入するのは初めての試みであることから,外部評価者と内部評価者で評価に差が生じるかを検討した。また,外部評価者と内部評価者で学生の視覚状態の認識に違いが生じるかについて調べるため,見え方についてのアンケートを実施しそれらについても検討した。 2.方法 2.1 学生および評価者  OSCEの対象学生は,平成24年度本学理学療法学専攻の3年次13名(男性10名,女性3名)とした。評価者について,外部評価は病院で臨床実習指導者を行っている理学療法士2名が行い,内部評価は本学の教員6名が行った。 2.2 OSCEの試験内容  脳血管疾患の片麻痺(以下,片麻痺)と整形外科疾患の人工股関節全置換術(以下,THA)を対象疾患とした。実技時間は各13分とし,それぞれ76点満点で行った。評価項目は,片麻痺で血圧測定,腱反射,Brunnstrom stage(以下,Br‐Stage),起居動作,移乗動作,概略評価とし,THAでは,起居動作,関節可動域測定(以下,ROM測定),徒手筋力検査(以下,MMT),概略評価とした。実技の評価は,主に「患者への説明が適切か」などに関して点数をつけ,概略評価は,「言葉遣いが良かったか」,など8項目に関して点数をつけた。また,評価の中に総合印象という項目を作成し,各評価者は学生が実習地において実習遂行に問題があるかどうかを調べた。OSCEでは外部評価者と内部評価者の評価点数の比較を行った。OSCE終了後,学生と評価者全員に見え方についてのアンケートを実施した(図1,2)。アンケートは片麻痺とTHAに分けて実施した。選択肢は3択とし,1.よく見える,2.一部見えない,3.全然見えないとし,学生には,どの程度見えているか,評価者には,どの程度見えていると思うかを質問した。データ処理に使用した項目内容は,実技の際の見え方について6項目(血圧測定,Br‐Stage,起居動作,移乗動作,ROM測定,MMT)を選択した。また,見え方についてのアンケートは,学生の回答と評価者との一致率を調べた。一致率は,学生の回答に対して評価者の回答が一致したかどうかの割合を求めた。 図1 片麻痺 見え方についてのアンケート 図2 THA 見え方についてのアンケート 2.3 データ処理  統計処理には,IBM SPSS statistics19を用いて対応のあるt検定を行った。有意水準は5%未満とした。 3.結果 3.1 OSCEの評価点数  片麻痺では,外部評価が42.9±13.4点で,内部評価が31.1±19.7点であった。THAでは,外部評価が53.5±14.9点,内部評価が43.9±12.3点であった。それぞれ外部評価の方が内部評価と比較して有意に高かった(表1,2)。各項目の点数では,起居動作,ROM測定,Br‐Stage,概略評価で外部評価は内部評価と比較して有意に高かった。 表1 片麻痺各評価項目の点数(mean±SD) 表2 THA各評価項目の点数(mean±SD) 3.2 見え方についてのアンケート  見え方の一致率について「Br_Stage」,「起居動作」で内部評価が高く,「移乗動作」,「ROM測定」で外部評価が高かった。「血圧測定」「MMT」では,同等であった(表3)。 表3 見え方の一致率(%) 4.考察 4.1 OSCEの評価点数  一般にOSCEにおいて外部評価と内部評価の評価結果には差が生じると言われており[7],本研究でも片麻痺・THA共に内部評価の評価点数の方が有意に低くなった。また,各項目の差については,血圧,Br‐Stage,ROM測定,起居動作,概略評価で内部評価の点数が有意に低くなっていた。概略評価の結果からも,内部評価者の方が厳しい採点を付けるという結果になった。これらの要因の一つとして,教科を担当した教員の方が,学生が技術を安全に行えるかどうかの能力を全般的に厳しく判定する傾向があるためと言われている[8]。さらに,差が生じた要因としてOSCEの評価経験が少ない評価者は,評価経験を積んだ評価者よりも甘くなる傾向があると報告されており[9],今回外部評価の導入は,初めての試みであったため,初めて評価を行う外部評価者は内部評価者に比べ甘く評価をつけたのではないかと考えられる。本研究では,外部評価者と内部評価者での見え方についてのアンケートの一致率が同等であったことから,評価者の視覚障害の把握の程度が点数に与えている影響は少なく,晴眼学生に対するOSCEの先行研究と同様に,授業を受け持っている内部評価者が厳しく評価を行う傾向であったと推察された。 4.2 見え方についてのアンケート  山内らは,一般的に障害についての理解というのは接触体験の有無や多さが関係すると述べている[10]。今回,外部評価者が学生の視覚状態を内部評価者と同程度把握できていた要因として,評価を担当した外部評価者は,視覚障害学生の実習指導を数年にわたり受け持っており,視覚障害のある学生との接触体験を多くしていたためではないかと考える。また,実習指導者は,実習中には学生の安全に配慮する必要があるため,学生の視覚状態を把握することに慣れていたことも一要因ではないかと考えられる。 5.謝辞  本研究は,平成24年度の文部科学省特別経費「視覚に障害を持つ医療系学生のための教育高度改善事業」の支援を受け実施した。 参照文献 [1] 高橋 由紀,浅川 和美,沼口 知恵子,他.全領域の教員参加によるOSCE実施の評価:看護系大学生の認識から見たOSCEの意義.茨城県立医療大学紀要.2009; 14:P. 1-10. [2] 山路 雄彦,渡邊 純,浅川 康吉,他.理学療法教育における客観的能力試験(OSCE)の開発と試行.理学療法学.2004; 31: P .348-358. [3] 坂井 康友,篠崎 真枝,坂本 由美,他.理学療法教育におけるクラークシップ型臨床実習に対応したBasic OSCEの開発.理学療法いばらき.2006; 10: P .22-26. [4] 藤田 智香子,岩月 宏奏,佐藤 秀一.理学療法検査技術に向けた客観的臨床能力試験(OSCE)の試行‐関節可動域訓練を課題として‐.青森健康大雑誌.2009; 10(1): P.35-42. [5] Mossey AD, Newton PJ. The structured Clinical Operative Test (SCOT) in dental competency assessment. British Dental Journal.2001; 14: p.387-390. [6] Reznick RK, Regehr GY, G., Rothman A, Blackmore D, Dauphinee D. Process-rating forms versus task-specific checklists in an OSCE for medical licensure. Medical Council of Canada. Academic Medicine. 1998;173: p.97-99. [7] 小島 賢久,福田 文彦,水野 浩一,他.外部評価からみたOSCE外部評価導入の検討(第2報).全日本鍼灸学会誌.2007; 57(3) :P.380. [8] 田中 正則,二宮 省吾,亀井 隆弘,他.問題解決型学習終了後にOSCEを用いた臨床実習開始前の学生評価について.理学療法学.2005; 32(2) :P.272. [9] 村上 純子,竹中 秀夫,堀越 昶,他.客観的臨床能力試験(OSCE)における医療面接評価の問題点‐評価の客観性をより高めるために‐.医学教育.2001; 32 :P. 231-237. [10] 山内 隆久.偏見解消の心理・対人接触により障害者の理解.ナカニシヤ出版,1996. Objective Structured Clinical Examination in Physical Therapy Education of Visually Impaired Students -Difference Between External and Internal Evaluation OHZU Hitomi1), WATANABE Masahiro2)3), MATUI Yasusi2), ISITUKA Kazusige2), OHKOSHI Norio2) Center for Integrative Medicine, Tsukuba University of Technology1) Course of Physical Therapy, Department of Health, Faculty of Health Sciences, Tsukuba University of Technology2) Tsukuba International University3) Abstract: We introduced the external evaluation of the OSCE in the physical therapy course at Tsukuba University of Technology in 2012. Because the students are visually impaired, they may read more slowly and perform practical tasks in a different manner than sighted students. Therefore, we considered that external evaluators, unaware of the students’ vision status, might evaluate them more harshly than internal evaluators. Accordingly, we compared the points awarded during external and internal evaluations. In addition, we administered a survey regarding the visual ability of the students to all evaluators and students, in order to investigate whether the differences in understanding of students’ vision status affected the evaluation. The results showed that external evaluators were aware of students’ vision status to the same degree as internal evaluators, but gave them higher points. We concluded that the external evaluators who participated in the current evaluations had experience in judging vision status, because they had been guiding visually impaired students for a long time and had considerable experience of contact with similar students. Keywords: Visually impaired, Physical therapy, OSCE, External evaluators