車の自動運転実現に向けた路車間・車車間通信の共用に関する研究 筑波技術大学 産業技術学部 産業情報学科1) 服部有里子1) キーワード:ITS,路車間通信,車車間通信,自動運転 成果の概要 1.はじめに 安全で環境に配慮した車の自動運転の実現に向けて,走行する周囲の車両や路側機と高レスポンス,高信頼に通信を行い,連携する技術について研究した。 これまでは路車間・車車間通信がそれぞれ独立したシステムとして構築されてきたが,車の自動運転実現に向けては路車間・車車間通信を効率よく切り替える,あるいは共存させる路車・車車共用方策が必要となる。本研究では,一つの車載器で路車間通信 (DSRC: Dedicated Short Range Communication [1, 2])と車車間通信 (WAVE: Wireless Access in Vehicular Environments [3]) が利用できる路車間・車車間通信共用 WAVE/DSRCシステムを製作し,フィールド試験により,システムの機能・性能を検証した。 2.課題設定と要求条件 現行の WAVE標準の通信装置は,通信領域が 400m〜1kmと広域であり,安全やセキュリティを目的とする通信領域が 10m程度の ITS (Intelligent Transport Systems)スポット通信にそのまま適用することが困難である。道路課金に対応する ITSスポット通信システムが満たすべき要求条件を以下にまとめる。 .通信領域は狭域で,約 6.5m×4mであること。 .車速 120km/hで走行中に,約 400バイトのアプリケーションデータを,路側機から車載器へ双方向に 2回送受信すること。 .路側機は少なくとも 2台の車載器と同時に通信すること。 3. 課題解決のための技術的工夫点 3.1 無線干渉に対する対策 WAVE標準の通信装置は,コントロールチャネル(CCH)とサービスチャネル( SCH)を切り替える。現行システムでは,隣り合うアンテナ間の通信領域のオーバーラップによって無線干渉が発生する。これに対応するため,隣り合うアンテナにおいて, CCHと SCHを交互に割り当てることによって,アンテナ間の干渉なしに通信できるようにした。 3.2 同期間隔の短縮 車速 120km/hで通信領域が 10m程度であるため,通信可能時間は約 300msecである。 WAVE標準では同期間隔が 100msecであるため,通信失敗により同期エラーが発生すると,時間ロスが問題になる。そこで,チャネル切り替え時間を 20msecに短縮し,再接続と再同期のための時間ロスを少なくした。 4. フィールド試験 フィールド試験では,実際の交通状況を想定した 3タイプの条件(@3台の車両をパラレル走行,A車速 120km/hで走行,B2台の車載器を 1車両に搭載)の下で,道路課金システムにおける路側機と車載器間の双方向通信の信頼性を評価した。 フィールド試験の結果, WAVE/DSRCシステムは, 道路課金システムとして通信エラー率 10-5以下で, DSRCと同様に ITSスポット通信システムに適用可能であることが実証された。5.おわりに 今後は,走行試験により,通信不安定や高速走行での電波環境において WAVE/DSRCシステムの通信性能を評価するとともに,路車間・車車間通信のシームレスな切り替えが要求されるアプリケーションに適用する予定である。 路車間・車車間通信を共用,補完することにより,様々なアプリケーションを実現することが可能となり,自動運転支援におけるユーザメリット拡大,システム構成の合理化が期待できる。 本研究の研究成果は,電子情報通信学会 Communications Expressに英文論文を投稿し,採録された。 参照文献 [1] Association of Radio Industries and Businesses. ARIB STD-T75, Dedicated Short-Range Communication System. ARIB Standard (Tokyo), 2008. [2] Association of Radio Industries and Businesses. ARIB STD-T88, DSRC Application Sub-Layer. ARIB Standard (Tokyo), 2007. [3] IEEE 802.11p. IEEE Standard for Information technology -Local and metropolitan area networks -Specific requirements -Part11: Wireless LAN Medium Access Control (MAC) and Physical Layer (PHY) Specifications Amendment 6: Wireless Access in Vehicular Environments. IEEE Standard, 2010.