固形食品の圧縮およびせん断による破断特性とその力学的モデリング 筑波技術大学 産業技術学部 産業情報学科 下笠 賢二 キーワード:嚥下障害,介護食,レオロジー特性 1.背景及び目的  嚥下能力が低下した高齢者などを中心とした介護食の食品物性基準として,日本介護食品協議会が定めた ユニバーサルデザインフードの区分が嚥下困難者用食品の許可基準や現場で調製の目安として用いられてお り,舌でつぶせることが区分の一つとして明記されている.しかし,現在用いられている評価法は単軸圧縮 での硬さ測定が基準であり,実際の咀嚼や嚥下などの挙動とはかけ離れていることや,レオロジー特性の考 察が不十分であることが指摘されている.そこで本研究では,舌と口蓋での押し潰し動作を模擬的に再現す ることが可能な実験装置を製作し,ゲル状固形食品の濃度とレオロジー特性の関係について調べた. 2.方法  実験装置は,リニア駆動機構,ロードセル,データロガー,制御用PCで構成され,圧縮時の反力の測定 と同時に高速度カメラを用いて変形挙動の撮影を行い,得られた画像から応力を算出した.測定用試料のサイズは各辺16mmの立方体形状に成形した固形のゲル状食品である寒天ゲルを用いて,濃度の選定のために圧縮試験による硬さ測定を行った.測定結果を基にユニバーサルデザインフードの硬さ基準に基づき,各区分に対応した濃度を決定した.圧縮試験には直径40mmのプランジヤを用い,圧縮速度1Omm/s,圧縮率75%とした. 3.成果の概要  ユニバーサルデザインフードの硬さ区分をTable. 1に圧縮試験の測定結果をTable.2に示す.濃度0.4%の 時は区分4, 0.75%で区分3, 1.0%で区分2に相当する硬さとなることが明らかとなった. Table. 1 Universal food standard Classification section4 section3 section2 section1 Hardness (kPa) 5.0 20.0 50.0 500 Table.2 Hardness of each concentration Concentration(wt%) 0.4   0.5   0.75   1.0 Hardness (kPa)  5.21  9.53  21.5  42.0 さらに本研究で用いた寒天ゲルの濃度別のレオロジー特性の評価を行うために,レオメータ(HAKKE RheoStress600:HAKKE)を用いて貯蔵弾性率G'と損失弾性率G"の測定を行った.測定結果をTable.3に示す. Table.3 Rheological property Concentration(wt%) 0.4   0.5   0.75   1.0 G'(Pa) 339.1 900.3 1578 4613 G"(Pa) 144.2 105.8 310.1 171.3 この測定結果からユニバーサルデザインフードの区分として定義される硬さとレオロジー特性の関係が明ら かとなった.舌と口蓋の動作と従来の測定法による測定結果を関連付けるためには,これらの結果が変形や 破断などの力学特性,挙動にどのような影響を与えるかを様々な食品を対象として詳細に調べることが重要 である.それらの知見を活かし,食品の新しい力学的評価基準を提案することがさらに優れた介護食品の開 発に寄与すると考えられる. 4.今後の展開と情報発信  今後は,対象の食品を固形から液状食品へと広げて検討を行う予定である.また,その成果の一部は日本 レオロジー学会討論会,及び日本機械学会流体工学部門講演会において発表予定である.