第6回三大学連携・障がい者のためのスポーツイベント実施報告 天野和彦1),及川 力1),香田泰子1),中島幸則1),栗原浩一1) 筑波技術大学 障害者高等教育研究支援センター 障害者基礎教育研究部1) 要旨:2007年以降,本学で実施されてきた障害者スポーツイベントは今回で7回,三大学連携となってからは6回を数えることとなった。2013年11月に本学で開催されたイベントでは,スタッフを含む64名が参加した。イベント開始以来,参加者からは好評を得られ,障害者のスポーツ参加・社会参加への扉を開くきっかけとして,重要な役割を果たしているものと考えている。障害者にとって,スポーツへの参加がごく日常的なものになり得るためにも,今後ともこのようなイベントを継続していくことが強く求められる。また,三大学連携のメリットを生かす一方,連携を契機に各大学がそれぞれの強み・特長を再認識することにより,各大学の独自性をさらに深化・発揮させていくことが期待される。 キーワード:障害者,スポーツイベント,スポーツ振興,地域貢献 1.はじめに 現在わが国では,障害者を含む全ての国民のスポーツ振興が謳われている。これまでわが国のスポーツ振興に貢献してきた「スポーツ振興法」の公布(1961年)以来50年が経過し,スポーツを巡る状況が大きく変化してきたことを踏まえ,さらなるスポーツの推進を目指し,2011年に「スポーツ基本法」が公布・施行された。スポーツ基本法の大きな特長として,その基本理念において,障害者スポーツの推進を明確に謳っていることが挙げられる。そのような中,社会における障害者スポーツの理解は少しずつ進みつつあるが,障害者のスポーツ人口は健常者に比べて未だ低く,障害者が健常者と同じレベルでスポーツに親しむ状況には至っていない。今後,障害者が日常的にスポーツを楽しむためには,健常者以上に積極的なアプローチが必要であり,またその支援者としての健常者に対する啓発も重要と考えられる。これらの課題に対して本学では,地域の障害者のスポーツ活動の振興を目的として,平成19年度は「筑波技術大学 障害者のためのスポーツ体験イベント(支援センター長裁量経費による事業)」を実施し,翌年からさらに発展させて,平成20.24年度には「三大学連携・障がい者のためのスポーツイベント(本学基金の助成や支援センター長裁量経費等による事業)」を実施してきた[1][2][3][4][5]。本学および近隣の大学(茨城県立医療大学,筑波大学)や障害者スポーツ振興に関わる団体(茨城県障害者スポーツ研究会,茨城県障害者スポーツ指導者協議会)と共催し,茨城県やつくば市,つくば市教育委員会,阿見町の後援を 得て行った。過去6回本学を会場にして開催したイベントでは,地域の障害者等の参加者は年々増加してきた。また参加者へのアンケート結果によると,6回ともに全ての参加者がイベントを楽しんだことが明らかになり,今後も継続的な実施を望む声が高かった。このように,本イベントは本学での恒例行事として認知されてきている。 2.イベント全体としての計画・内容 例年,まず連携の大学や組織で実行委員会を立ち上げ,各大学でのイベント開催日および予算を確認する。今回は8月に実行委員会が組織され,これまで同様,3大学(筑波技術大学,筑波大学,茨城県立医療大学)と2団体(茨城県障害者スポーツ研究会,茨城県障害者スポーツ指導者協議会)が共催することが決定した。イベント開催日については,本学が11月16日,茨城県立医療大学が12月8日,筑波大学が12月14日となった(図1)。各大学におけるイベントの概略については次のとおりであった。 2.1 筑波技術大学 午前中2時間・午後2時間を使い,複数種目を実施した。実施種目は,ビームライフル,クライミング(ボルダリング),フライングディスク,ボッチャ,卓球・音卓球・卓球バレー,スポーツ吹矢,自由遊び(レクリエーション)であった。各種目には専門の指導者または障害者スポーツ指導員が配置され,参加者は必要に応じて,指導・支援を受けられる。 参加資格については,障害当事者のほか,特別支援教育に携わる教職員も含め障害者スポーツに関心のある一般の人も対象とした。 2.2 茨城県立医療大学 午前中は第9回茨城県障害者スポーツ研究会を開催し,午後は車いすバスケットボールの体験を実施した。午前中の研究会では,日本パラリンピアンズ協会長の河合純一氏をお招きし,「東京パラリンピックの課題と展望」というタイトルでご講演いただいた。 2.3 筑波大学 午前中2時間を使い,「つくりんピック2013」と銘打ったイベントを実施した。筑波大学体育系アダプテッド体育・スポーツ研究室の学生がスタッフとして参加した。実施種目は,まとあて,フライングディスク,Gボールなどであった。 図1 三大学連携イベントのポスター 3.筑波技術大学でのイベントの計画・運営・内容 3.1 開催日時および実施種目など 本学でのイベントについては,これまで原則的に11月23日・勤労感謝の日に固定し開催してきた。しかし,今回は推薦入試と重なったために1週間繰り上げて11月16日に開催することとした。 実施種目については前述の通りである。新しく卓球バレーを取り入れたほかは第5回の内容を踏襲することとした。参加形式については,これまで同様,参加時間・参加種目とも制限を設けない自由選択形式とした。 3.2 スタッフの確保 8月ごろからは本格的にスタッフ確保のために,関係団体・者への依頼を始めた。実施種目の指導者および指導補助者として,各種目の専門家や障害者スポーツ指導員へ依頼し,内諾が得られた後,本学事務と連携して派遣依頼書の送付など必要な手続きを進めた。総数で25名のスタッフ参加を得ることができた。種目(ビームライフル,クライミングなど)によっては,より早い時期からの調整が必要である。今回,筑波学院大学からオフ・キャンパスプログラムの一環としてのボランティア参加はなかった。 3.3 共催・後援依頼,広報など 学内においては共催名義および施設の使用申請を,茨城県・つくば市・つくば市教育委員会に対してはそれぞれ後援申請を8月に行った。また,今回は筑波研究学園都市50周年にあたっており,筑波研究学園都市50周年記念連携事業としての登録にも申請し承認された。広報については,本学ホームページの利用,ポスターの送付(近隣の小中学校,県内の特別支援学校,社会福祉協議会,障害者関係団体・施設など)による宣伝活動を行った(図2)。 図2 本学開催分イベントのポスター 3.4 その他 イベント実施のおよそ1週間前に,本学健康・スポーツ科目担当教員ほか5名により,当日の運営やスタッフ個々の役割分担などについて打ち合わせを行った。当日は,イベント開始1時間前をスタッフ全員の集合時刻 とし,全体の流れや参加者への接し方,緊急時の避難場所と経路などについて確認した。 4.参加者へのアンケート調査 当日は総数で64名が参加した。その内訳は,スタッフ25名,参加者39名(保護者・付添を含む)であった。つくば市にあるスポーツ関係団体のNPO法人アクティブつくばからの視察もあった。イベント参加者数としては,イベント開始以降の増加から一転して大幅な減少をみた(図3)。その大きな理由として,例年固定されていた開催日の変更があると考えられる。開催日の変更により,近隣の特別支援学校の学校行事と重なってしまったこと,参加者が例年どおりの開催日と思い込んでいたこと(事実,今回の開催後に日時の問い合わせがあった)などが参加者減につながったものと思われる。 図3 イベント参加者数の推移(人) 当日,参加者にアンケート調査を実施し,19名からの回答を得た。回答が得られた範囲での回答者内訳は,年齢では11歳.62歳の幅があり,10代5名,20代2名,30代1名,40代4名,60代1名であった。性別では,男性10名,女性3名であった。障害別では,視覚障害3名,肢体不自由5名,知的障害3名,その他2名であった。なお,本人が回答できない場合には,保護者または付添が回答した。 4.1 イベントへの参加回数 「初めて」の参加者が31%で,2回以上が69%であった。これまでの傾向では「初めて」の参加者が圧倒的に多かったが,開催回数を重ねるとともに,リピーターも増えてきたことを示している(図4)。 4.2 イベントでの参加種目および参加満足度 参加種目については,「ビームライフル」,「卓球・音卓球・卓球バレー」への参加が50%を超え,以下「,フライングディ スク」,「スポーツ吹矢」,「フリークライミング」と続き,ほぼ例年の傾向と同様であった(図5)。 図4 イベントへの参加回数 図5 イベントでの参加種目(%) また,参加満足度については,「回答なし」を除けば,「とても面白かった」および「まあまあ面白かった」との回答が100%であり,例年同様,参加者からは高い満足度を得られた(図6)。 図6 イベントへの参加満足度 今回のイベントに関して自由記述で寄せられた意見でも,「楽しかった」,「スタッフの方の対応は年々良くなっている」との評価であった。同時に,「車いすを利用しているので,トイレに多目的シートがあると助かります」との記述があり,本学のイベントは参加者の障害種を問わないことから,学内バリアフリーの側面を含め,幅広くきめ細かい準備・対応が必要であることを改めて実感した。 4.4 イベントへの今後の参加希望および希望する開催頻度 今回同様のイベントへの今後の参加希望について,90%が「参加したい」と回答した(図7)。 図7 今後のイベントへの参加希望 また,今回同様のイベントの開催頻度に関する希望については,「年に2回程度」とする回答が42%と最も高く,「年に1回程度」との回答が27%,「年に3.4回程度」との回答がほぼ同率の26%であった(図8)。上記項目への回答傾向もほぼ例年どおりであった。このようなイベントへの参加希望は高く,また1年に複数回の開催が期待されていることがわかる。 4.5 参加者のスポーツ活動および環境に対する意識 図8 イベントの開催頻度についての希望 日常生活におけるスポーツ活動への参加希望については,「イベントがある時に参加できればよい」との回答が50%あり,以下,「障がいのある人たちのスポーツクラブがあれば参加したい」が25%,「日常的にスポーツ活動をやりたい」が17%と続いた(図9,回答数12,複数回答)。また,自由記述においては次のような意見があった(原文まま)。・スポーツを楽しめる環境が増えるとよいです・生涯できる,好きなスポーツがみつかるとよいです(長期的な目標)・身辺で障害者がスポーツ参加できる環境が欲しい・色々な方と接する機会ができて,うれしいです 図9 日常生活におけるスポーツへの参加希望(%) 障害者のスポーツ参加はもちろん社会参加にとっても,さらに障害者がスポーツを身近なものにしていくステップとしても,本学のイベントが重要かつ有意義な役割を担っているものと思われる。 5.まとめ 2007年以降,本学で実施されてきたスポーツイベントは今回で7回,三大学連携となってからは6回を数えることとなった。イベント開始以来,参加者からは好評を得られ,障害者のスポーツ参加・社会参加への扉を開くきっかけとして,重要な役割を果たしているものと考えている。障害者にとって,スポーツへの参加がごく日常的なものになり得るためにも,今後ともこのようなイベントを継続していくことが強く求められる。同時に,このようなイベント開催は本学の地域貢献にとっても大切な役割を担うものである。その一方で,及川らはこれまでのイベント実践を踏まえた上での将来的な検討課題として,「定期的な活動への発展:スポーツ教室の開催や日常的なクラブ活動など」,および「障害者のスポーツに関する情報の定期的な発信」を挙げている[5]。今般,特に前者の課題克服に焦点をあて,これまでの年1回のイベントに加え,障害者が定期的日常的にスポーツに参加できる機会の提供を本学で毎月1回の頻度で試行することとした。イベントの実施を通じ,三大学連携のメリットを生かす一方で,連携を契機に各大学がそれぞれの強み・特長を再 認識することで,各大学の独自性をさらに深化・発揮させていくことが期待される。 本イベントの実施にあたっては,次の助成を受けた。 1 平成25年度筑波技術大学基金助成事業経費 2 平成25年度障害者高等教育研究支援センター教育研究等推進経費 3 平成25年度日本体育学会アダプテッド・スポーツ科学専門領域活動支援助成事業経費 参考文献 [1] 香田泰子,及川力,天野和彦,他.「筑波技術大学 障害者のためのスポーツ体験イベント」実施報告.筑波技術大学テクノレポート.2009; 16: p.149-152. [2] 香田泰子,及川力,天野和彦,他.「三大学連携・障がい者のためのスポーツイベント」実施報告.筑波技術大学テクノレポート.2009; 16: p.153-157. [3] 香田泰子,及川力,天野和彦,他.障害者のためのスポーツイベント実施報告と今後の展望.筑波技術大学テクノレポート.2010; 17(2): p.144-148. [4] 香田泰子,及川力,天野和彦,他.障害者のためのスポーツイベント・2010年の実施報告.筑波技術大学テクノレポート.2011; 19(1): p.71-75.[5] 及川力,香田泰子,天野和彦,他..第4回三大学連携障害者のためのスポーツイベント実施報告..筑波技術大学テクノレポート.2012; 20(1): p.93-98. Report on a Sporting Event for the Disabled in 2013 AMANO Kazuhiko1), OIKAWA Chikara1), KOHDA Yasuko1), NAKAJIMA Yukinori1), KURIHARA Kouichi1) 1)Division for General Education for the Hearing and Visually Impaired,Research and Support Center on Higher Education for the Hearing and Visually Impaired,Tsukuba University of Technology Abstract: We held the 7th annual sporting event for disabled individuals at Tsukuba University of Technology on November 16, 2013, aiming for positive promotion of sports for disabled individuals and contribution to the community. This event has been held for six consecutive years since its second occurrence, one of several collaborative activities with three neighboring universities. A total of 64 participants, including our staff, were involved in the event, and almost all enjoyed it. It is strongly recommended that we continue to hold such sporting events to accomplish our aforementioned aims. Keywords: Disabled, Sporting event, Sports promotion, Contribution to community