盲ろう職員の職場定着に資するIT技術の活用支援に関する研究 白澤 麻弓1),後藤 由紀子1),高橋 彩加1),磯田 恭子1),高橋 伸幸2),岩渕 政憲2),和田 智子2),石田 裕貴2),森 敦史2),福永 克己3),坂尻 正次3),河野 純大4) 筑波技術大学 障害者高等教育研究支援センター1) 総務課2) 保健科学部情報システム学科3) 産業技術学部総合デザイン学科4) キーワード:盲ろう者, 職場定着, IT技術活用支援 1.問題の所在と目的  全国盲ろう者協会(2013)によると,聴覚と視覚の両方に身体障害者手帳2級以上の障害のある盲ろう者(2,163名)のうち,日中,仕事に就いている方はわずか43名(2.0%)過ぎない[1]。このため,盲ろう者の就労支援に関する研究は少なく,わずかに事例が散見できる程度である。本学では,令和2年度より先天性重度盲ろう者を契約職員として採用し(以下,盲ろう職員),手探りながらも本人の可能性を引き出せるよう支援してきた[1][2][3][4]。この結果,基本的な職務については,自立的にこなせる状況となったが,業務の効率化やチームにおける共同作業では,課題が残っていた。そこで本研究では,職場における盲ろう職員の就業状況を観察分析し,特に課題となっている場面を抽出するとともに,その改善策を提案することで,盲ろう職員の職場定着と能力向上に資することを目的とした。 2.方法 1)課題の抽出  盲ろう職員の就業状況をビデオカメラにて撮影し(8時間×4回),何度も同じ操作を繰り返すなど,つまずきが見られる場面を抽出した。撮影にあたっては,本人が使用しているノートパソコンに外部モニタを接続し,このモニタと本人の手元が映るような形で映像を収録したが,本人以外の支援者や周囲の職員とのやりとりが発生する場面では,その様子を撮影した。盲ろう職員の業務は,基本的にパソコンを用いた事務作業であり,表1に示すようなパソコン環境を用いていた。 2)課題に対する改善方法の検討と本人への指導  1)で抽出した課題を元に,より効果的・効率的に職務が遂行できるための方法を検討し,仕事の合間を見て,本人にその方法を提案・指導した。この際,パソコン操作については,本人と同じ環境で操作方法を試し,覚えやすく,少ないキーストロークで利用できる方法を検討した。また,研究開始前後に本人に対するインタビュー調査を行ったほか,研究終了時の質問紙調査により提案した解決策の活用状況を尋ねた。 3)倫理上の配慮  筑波技術大学研究倫理審査委員会の承認を得るとともに(承認番号2021-28),本人ならびに周囲の職員に対して十分な説明を行い,書面により同意を得た。 3.結果  本人の就業状況を撮影し,インタビュー調査と合わせて課題となっている箇所を抽出したところ,表2に示すとおり,①パソコン操作,②情報の提示方法,③コミュニケーションの3つの課題に大別できた。  このうち,パソコン操作に関する課題については,スクリーンリーダーで使用できるショートカットキーを中心に操作方法を指導したところ,全体的に作業効率が改善し,パフォーマンスの向上に寄与できた。  一方,情報の提示の方法については,本人の努力のみでは解決しきれない問題であるため,支援者に必要な情報をテキスト化してもらう等の方法で改善を図った。コミュニケーションに関する課題では,新たに1対1や複数で使用できるチャットシステムを導入したり,無線環境で使用できるよう調整したりすることで,スムーズなやりとりに繋げることができた。 4.考察とまとめ  本稿では,盲ろう職員の職場定着に資するため,IT技術を効果的に活用することで,本人の就業上の課題を改善し,一定の解決策を提示することができた。しかし,提案した解決方法の中には,十分定着していないものもあり,その要因については,検討の余地がある。また,本人によるインタビュー調査では,仕事上の優先順位の付け方やイレギュラーな事態が発生した時の解決フロー等,IT技術のみでは解決しきれない悩みなども語られており,今後はこうした側面へのアプローチについても検討が必要と言える。 表1 盲ろう職員が使用しているパソコン環境 ノートパソコン(HP 250 G7/Windows10)+外付けキーボード+点字ディスプレイ(Extra Focus 40 Blue V) スクリーンリーダー:PCtalker, NVDA 主な使用ソフト:Braille Works, Office Works, Net Reader Neo, Google Chrome, Outlook(Web版), Microsoft Teams(Web版), Microsoft Word, Microsoft Excel等 参照文献 [1] 全国盲ろう者協会(2013)厚生労働省 平成24年度障害者総合福祉推進事業「盲ろう者に関する実態調査報告書」. [2] 白澤 麻弓,後藤 由紀子,磯田 恭子,高橋 伸幸,岩渕 政憲, 和田 智子,石田 裕貴,戸井 有希,森 敦史,福永 克己,坂尻 正次,河野 純大(2021)盲ろう職員に対する職場環境整備を通した本学教職員の教育力向上.筑波技術大学テクノレポート, 29(1), 127-128. [3] 後藤 由紀子,白澤 麻弓,磯田 恭子,岩渕 政憲,和田 智子,森 敦史,石田 裕貴(2021)盲ろう事務職員の在宅勤務に関する事例報告. 筑波技術大学テクノレポート, 29(1), 60-65. [4] 森 敦史,後藤 由紀子,白澤 麻弓(2020)盲ろう者の大学事務職における就労事例―コロナ禍での在宅勤務を経験して―. 第28 回職業リハビリテーション研究・実践発表会 発表論文集,40-41 表2 抽出された課題と解決方法(◎日常的に使用/〇必要に応じて使用/△あまり使用していない)