第19回日本聴覚障害学生高等教育支援シンポジウム報告書 ※テキストデータの説明:[]はページ数 [0]もくじ 1.はじめに・・・1 2.開催要項・・・2 3.企画報告 1)全体会企画「一人ひとりの聴覚障害学生の“ニーズ”を支える」・・・ 6 2)セミナー「みんなで積極的に考えよう!聴覚障害学生のキャリア」・・・26 3)聴覚障害学生支援に関する実践発表2023・・・ 47 4)情報交換スペース ・・・ 62 4.参加型企画報告「聴覚障害学生支援に関する実践事例コンテスト2023」・・・66 5.シンポジウム実施体制・・・ 72 [1]はじめに 第19回日本聴覚障害学生高等教育支援シンポジウム 大会長 筑波技術大学 学長 石原保志 今年度で第19回目となった日本聴覚障害学生高等教育支援シンポジウムですが、今回は3年ぶりに対面開催で実施いたしました。定員を限定しての開催ではありましたが、ようやく久しぶりに参加者の皆様に直接お会いすることができました。また、残念ながら現地での参加が叶わなかった方々にも企画をお届けできるよう、当日の様子を収録した映像を作成し、後日配信も行いました。結果、対面での参加が関係者を含めて174名、収録映像の後日配信はのべ731名の方々がご覧くださり、さまざまな形で多くの方々にご参加いただけましたことを大変嬉しく思っております。 さて、障害者差別解消法の施行など、障害学生支援を取り巻く現状は大きく飛躍してきましたが、逆に合理的配慮のメニュー化によって個々人のニーズが埋もれてしまうことへの懸念を感じるようになってきました。そこで、今回のテーマは「一人ひとりの聴覚障害学生の“ニーズ”を支える」とし、改めて聴覚障害学生の“声”に耳を傾ける機会としました。全体会企画も全体テーマと同じテーマでお届けし、聴覚障害学生にとっての意思表明の難しさ、教職員に求められる視点など、いわゆる「ニーズ」と言われているものの本質を考え直すことができた時間になったのではないかと思います。 全体企画の他にも、「聴覚障害者のためのキャリアサポートセンターの設置事業」と共同で実施したセミナーや、「聴覚障害学生支援に関する実践発表」「情報交換スペース」など、充実した内容でお届けできたのではないかと思います。また、参加型企画として定番となった「聴覚障害学生支援に関する川柳コンテスト」では、「届けよう あなたの想い 川柳で」というテーマのもと、今回も作品を募集し、その投票結果を現地にて発表しました。作品は、それぞれの立場で支援と真剣に向き合う姿が感じられるものばかりで、ご来賓の文部科学省学生支援課長 吉田光成様からもあたたかなコメントと励ましのお言葉をいただきました。 このシンポジウムは、聴覚障害学生支援に関わるあらゆる方々が集う、貴重な場だと自負しております。大学教職員、聴覚障害学生、支援学生や支援者など、さまざまな立場の方々が集い、知恵を出し合うからこそ生まれるものがあると我々は考えています。PEPNet-Japanの活動は、本当に多くの方々に支えられております。今後も、すべての学生が充実した学生生活を送ることができる社会を目指して活動して参りますので、引き続きご協力の程、何卒よろしくお願い申し上げます。 最後に、本シンポジウムの開催にあたり、多大なご協力をいただいた講師、情報保障者、そして、ご参加いただいた全ての皆様に深く御礼申し上げます。特に、本シンポジウムにおける文字通訳を第1回からずっと担当してくださっていた、キャプショニング・ペガサスの皆さまが2023年12月をもって活動を終了されたということで、長きにわたりPEPNet-Japanを、そして日本の聴覚障害学生支援を支えてきてくださったことに、この場をお借りして厚く感謝を申し上げたいと思います。本当にありがとうございました。 [2]開催要項 名称:第19回日本聴覚障害学生高等教育支援シンポジウム テーマ:一人ひとりの聴覚障害学生の“ニーズ”を支える 目的:筑波技術大学に事務局を置く日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワーク(PEPNet-Japan)では、特に聴覚障害学生への支援体制が充実し、積極的な取り組みを行ってきている大学・機関と共同で、聴覚障害学生支援に関するノウハウを積み重ね、先駆的な事例の開拓を行ってきた。そして障害者差別解消法の施行をはじめとする昨今の情勢の変化を受け、本ネットワークは..2018年度から新体制をスタートさせ、より広く強固なネットワークの構築を目指している。本シンポジウムは、全国の大学における聴覚障害学生への支援実践に関する情報を交換するとともに、本ネットワークの活動成果をより多くの大学・機関に対して発信することで、今後の高等教育機関における聴覚障害学生支援体制発展に寄与することを目的としている。 対象:全国の大学等で障害学生支援を担当する教職員、及び聴覚障害学生、支援者その他高等教育機関における障害学生支援に関心のある方々 主催:国立大学法人 筑波技術大学 日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワーク(PEPNet-Japan) 共催:筑波技術大学「聴覚障害者のためのキャリアサポートセンターの設置」事業(日本財団助成) 後援:文部科学省 独立行政法人日本学生支援機構(JASSO) 一般財団法人全日本ろうあ連盟 社会福祉法人日本視覚障害者団体連合 東京大学 障害と高等教育に関するプラットフォーム(PHED) 京都大学 高等教育アクセシビリティプラットフォーム(HEAP) [3]開催形式: 1)現地開催 ①日程 2023年11月5日(日)10:00~16:00 ②会場 つくば国際会議場 大会議室101/102(茨城県つくば市) ③定員 150名 2)収録映像の後日配信 ①日程 2023年12月~1月31日 ②方法 現地開催で実施した企画のうち一部の収録映像を配信 プログラム: (★は後日配信を行ったもの) (1)開会挨拶★ 主催者挨拶 筑波技術大学 学長/日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワーク 代表 石原保志 来賓挨拶 文部科学省 高等教育局 学生支援課長 吉田光成様 (2)全体会「一人ひとりの聴覚障害学生の“ニーズ”を支える」..★ ファシリテーター:松﨑 丈氏(宮城教育大学) 登壇者:岡田 孝和氏(明治学院大学) 楠 敬太氏(大阪大学) 大川公佳氏(筑波技術大学大学院 技術科学研究科 在籍) (3)アフタヌーンセッション ①セミナー「みんなで積極的に考えよう!聴覚障害学生のキャリア」★ 登壇者:藤野友紀氏(札幌学院大学) 笠原桂子氏(住友重機械工業株式会社 人事本部 人事戦略部) 永川智晴氏(関西テレビ放送株式会社 クリエティブ本部 報道局 報道センター) 大田竜聖氏(同志社大学 政策学部..4年次生) 司会:後藤由紀子(筑波技術大学) モデレーター:日下部隆則(筑波技術大学) ※筑波技術大学「聴覚障害者のためのキャリアサポートセンターの設置」事業(日本財団助成) ②情報交換スペース 13:00~15:15 ③聴覚障害学生支援に関する実践発表 13:00~14:00 ④筑波技術大学およびPEPNet-Japan活動紹介 13:00~15:15 [4] (4)聴覚障害学生支援に関する川柳コンテスト 2023結果発表★ 発表者:文部科学省高等教育局学生支援課長吉田光成様 筑波技術大学学長/日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワーク 代表 石原保志 (5)閉会挨拶★ 日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワーク運営委員長 松岡克尚 現地スケジュール: 10:00~ 12:00(1)開会挨拶(2)全体会「一人ひとりの聴覚障害学生の “ニーズ ”を支える」講義スペースにて 12:00~ 13:00休憩(60分) (3)アフタヌーンセッション ①14:00~15:00 セミナー「みんなで積極的に考えよう!聴覚障害学生のキャリア」講義スペースにて ②13:00~15:15 情報交換スペース 講義スペースにて ③13:00~14:00 聴覚障害学生支援に関する実践発表(ポスター発表)ポスタースペースにて ④14:00~15:15 筑波技術大学およびPEPNet-Japan活動紹介 ポスタースペースにて 15:15~15:30休憩 15:30~16:00(4)聴覚障害学生支援に関する川柳コンテスト結果発表および閉会挨拶 講義スペースにて [5]企画報告(中扉ページはタイトルのみ) [6]全体会企画 「一人ひとりの聴覚障害学生の“ニーズ”を支える」 ファシリテーター 松﨑 丈 氏(宮城教育大学) 登壇者 岡田孝和 氏(明治学院大学) 楠 敬太 氏(大阪大学) 大川公佳 氏(筑波技術大学大学院技術科学研究科 情報アクセシビリティ専攻在籍) ※所属はシンポジウム実施当時 1.企画主旨 大学等の高等教育機関における聴覚障害学生への支援については、ノートテイク等の情報保障の必要性が理解されるようになってきたものの、2020年以降のコロナ禍で、従来通りの方法で支援することが難しくなり、多くの聴覚障害学生が困難に直面することとなった。聴覚障害学生の授業参加を保障するためには、音声の情報が単に文字化されているだけでは十分とは言えず、授業形態の多様化や、軽度難聴、人工内耳装用学生など聴覚障害学生のありようの多様化も踏まえ、一人ひとりのニーズに応じた丁寧な対応が求められる。 本企画では、聴覚障害学生が授業に参加できる環境とはどのようなものか、それを実現するためには何が必要とされているのかについて、議論を深めることを目的とする。一人ひとりのニーズをどのように把握し、ニーズを支えていくにはどうしたらよいかについて、関係者の方々とともに考える機会としたい。 2.内容 企画は、まず大川氏から学部4年間での経験について話題提供があり、ファシリテーターの松﨑氏から質問や補足を挟みながら、学生のニーズとその変化について掘り下げた。その後松﨑氏、楠氏、岡田氏から、それぞれ聴覚障害学生と関わる支援者の立場から、ニーズの捉え方や「ニーズを支える」ための課題等について発言があり、最後に全体でディスカッションを行った。 以下、その内容について報告する。 (1)話題提供:現役学生からの情報提供(大川公佳氏) 1)大学入学時について 私は中学部までろう学校、高校は一般校で学び、2つの異なる環境を経験して大学入学を [7]迎えた。そのため情報保障の必要性を十分認識していたものの、実際には、自分の状況やしてほしいことを具体的に説明するのはなかなか難しいことだった。合格がわかってすぐに支援室に連絡し、合理的配慮についての説明を受けられたことは非常にありがたかった。大学へ提出する要望書について、例を作り、その内容を一つひとつ確認しながら一緒に作成するというサポートもしてくださった。また、PEPNet-Japanが作成した「聴覚障害学生サポートブック-18歳から学ぶ合理的配慮」というテキストを読んで初めて、自分に学ぶ権利、支援を求める権利があるということを明確に理解した。 松﨑氏/高校までのあいだに、ニーズ表明の方法を学ぶ機会は? 大川氏/高校生のときに障害者差別解消法が施行されたが、十分な教育を受ける権利について、自分は理解できていなかったと思う。ろう学校では、昔のろう者たちの大変さについて話を聞く機会はあっても、自分のニーズについて改めて考えるような機会はなかったと思う。 2)情報保障支援を利用し始めて 1年生の時はまだコロナ禍前で、講義数も多かった。予算の関係上、ノートテイクに加えて手話通訳もつけるのは難しく、また私自身も1年生当時は、手話より日本語での支援が合っていたので、パソコンノートテイクを希望し全ての授業につけていただいた。一方で、支援に伴う負担を感じることもあった。例えば授業を一日欠席する時は、1~5限までの支援者全員に連絡をしなければならず、体調不良の中での連絡作業は大変だった。また、支援学生は前後に自分の授業があって時間に余裕がないため、代わりに私が支援機器の準備や片付けをしていたので、ほぼ毎日、休憩時間は無いに等しい状況だった。支援利用に伴う必要な作業だと理解していても、自由に出席したり欠席したりできる他の学生をうらやましく思うこともあった。支援室の方々は、時間や予算の制約がある中で最善の努力をしてくださったので、こうした負担感にまで対応をお願いすることは憚られ、特に相談はしなかった。 松﨑氏/負担感について支援室にはなかなか言い出せないのは、他のろう・難聴学生も同じではないか。聴覚障害学生同士で相談したり、悩みを話し合ったりすることは? 大川氏/大阪大学では、私が4年生になるまでろう学生が他にいなかったので、情報保障について話し合う相手がいなかった。また、全日本ろう学生懇談会に所属していたが、近年では全国的に支援体制のある大学が増えてきため、会の活動は交流企画が中心で、支援の悩みを共有するような機会はなかった。 (写真:講演する大川氏) [8]松﨑氏/聴覚障害学生が情報保障に関する悩みを話せる場は、まずは支援室だと思うが、そこに言えないとなった時、悩みを話せる別の場が用意されているかどうかがポイントになる。 大川氏/補足すると、大阪は聴覚障害学生の数が比較的多い地域だと思うが、それでも当時は相談先がなかった。聴覚障害学生が少ない地域では、さらに話せる場がないのではないか。 3)コロナ禍での支援の変化 2年生になってコロナ禍となり、皆さんも記憶の通り当初は大変な混乱だった。1年生の時は週に1回、少しの時間でも支援室に行って、授業の様子を話す機会があったが、支援室との連絡はメール中心になり、半年に1回Zoomによる面談を行うに留まった。授業はほとんどがオンデマンドになり、授業動画や資料を見てレポートやコメントを提出する形式となった。 授業動画には、最初は文字起こしを提供してもらったが、パソコン画面上の情報量が多く、視線の移動がとても大変で、目の充血や頭痛がずっと続くという状況だった。それで、「文字起こし資料は大変助かるが、視線の移動が多く大変だ」ということを支援室に伝えたところ、授業動画に字幕を挿入すれば、画面が一つ分減って負担も軽減できるのではないかとの提案を受けた。私自身の負担を軽減する方向で支援を考えてもらえたことは、大変大きな助けとなった。 (図1:オンデマンド授業での負担(当日資料より抜粋)) 後期になるとリアルタイムでグループ討議を行う授業もあり、方法を話し合った結果、captiOnline(キャプションライン)という遠隔の文字通訳システムを使ってリアルタイムで参加することにした。ただし、全てのリアルタイム授業にそのような方法で参加したわけではなく、連続して受講する際の負担も考え、授業によっては講義を録画し字幕をつけ、後から視聴する方法を取ることもあった。 そのほか、授業担当の先生から提案を受けるケースもあった。グループワークを行うリアルタイム配信の授業では、全てのグループで討議の方法をチャットに統一してくださったおかげで、グループが変わるたびにパソコンノートテイクについての説明をする必要がなく大変助かった。また、字幕はどの学生にも有効だということで、字幕つきの動画を全ての学生が見られるようにした先生もいた。実際友人たちは、大変メリットがあったと言っていた。 なお、こうしたサポートに関する支援室との相談は全てメールで行った。コロナの時期は大学生の孤独・孤立が問題となっていたが、私自身は孤独の辛さに悩むことはなかった。メール [9]であってもきちんと対話ができていて、情報保障も提供されていたからではないかと思う。 松﨑氏/合理的配慮として行っていたことが、他の学生にも有用だと気づき授業のユニバーサルデザインに移行していったという流れは、今後コロナが収束した後も、ぜひ続いてほしいと思う。一方、頭痛や目の疲れについて、思い切って伝えたら理解して対応してもらえたというエピソードがあったが、これを機に支援室に対して、それまで言えなかったことも相談できるようになったのかどうか教えてほしい。 大川氏/視線移動の大変さを伝えたらすぐに対応していただけたので、伝えるのは悪いことではない、むしろ良い支援を作っていくために必要だとわかった。それ以降は、大変さを伝えることへのハードルが下がったと思う。 4)ニーズの変容~再び現れた議論に参加することの難しさ 3年生以降、ディスカッションの機会が増え、それまで利用してきたパソコンノートテイクでは、ディスカッションへの参加が難しいと感じるようになった。文字情報から発言の意図がつかみきれなかったり、5~10秒のタイムラグによってどうしても意見を言う機会を逃してしまうことが多く、どうすれば議論に参加できるかと悩むことが増えていた。 また、研究室でのコミュニケーションになかなか入っていくことができないという悩みもあった。「たかが雑談」と思われるような会話の中では、卒論の書き方のコツや先輩の経験談、イベントの情報などが話されていたが、当然情報保障はなく、私にだけ情報が入ってこなかった。 一方、2年生の頃から、大阪のろうの子どもたちを集めて活動する「こめっこ」と、「全日本ろう学生懇談会」という2つの学外活動に参加するようになった。これらの活動を通してろう者との出会いがあり、日本手話を使う機会が増えたことで、“100%通じるコミュニケーション”や、高度な話題について手話で議論する経験ができた。 こうしたさまざまな経験を通して大学における支援ニーズも変化し、手話を使ってディスカッションに参加したいと思うようになったが、同時にジレンマもあった。大学では基本的に日本語で議論が進むため、それを日本手話で通訳してもらうことになるが、専門用語が出てきた時に、日本手話の表現と専門用語とを結びつけるのに時間がかかることもあり、また手話通訳を見るだけでは十分に議論の中身が把握できないこともあった。さらに、私自身日本手話を使う経験がまだ浅く、学術的な内容を手話でアウトプットすることに慣れていなかったため、言いたいことが思い浮かんでも、それを日本手話に翻訳して話すのが難しい状態だった。このような状況を支援室に相談したところ、卒論発表会では手話通訳とパソコンノートテイクの両方をつけて参加することになった。 この一連の経験を通してわかったことは、ニーズは変化するということや、支援に伴うジレンマがあるということについて、支援室だけでなく大学の教員や関係者にも理解してもらうことの重要性だった。手話通訳をつけたいと希望しても、先生方にこうした理解が浸透していな [10]ければ、「日本語ができるのだから今まで通りの文字の支援で良いではないか」と返されてしまう。さらには、自分の中でもうまく整理ができていない段階だと、理由を説明することが難しく、黙っていると、特に理由なく手話通訳を希望していただけだと誤解されてしまう恐れもある。聴覚障害学生は、ニーズが変容することもあるということを、周囲の方にはぜひ理解していただきたいと思う。 こうした経験を踏まえ、大学院への進学を考えたとき、十分な支援があり、他の学生と対等な立場で研究に取り組める環境を選びたいと考えた。今在学している筑波技術大学の大学院では、自分だけでなく学生全員が何らかの支援を受けている状況なので、聴覚障害のことを一から説明する必要もなく、ストレスなく過ごすことができている。、あくまで私個人の考えになるが、進学先を決める際、学ぶ環境の良さは優先順位というよりもむしろ前提条件に近いと思う。どんなに関心のある研究分野であっても、十分な支援や環境整備があって初めて、学びを享受することができるのだと思っている。 松﨑氏/今の話題に関して2点質問したい。まず、卒論発表会でパソコンノートテイクと手話通訳の両方をつけた結果、どういった効果やメリットを感じたか教えてほしい。 大川氏/両方あることで安心感があった。手話通訳では見逃してしまう心配のあった専門用語はパソコンノートテイクで確認でき、逆に手話通訳がいたお陰で、手話で発言することができた。文字も手話も確認することで理解でき、安心して発表会に臨めたと思う。 松﨑氏/2つ目に、ニーズが変容することをうまく説明するのが難しかったという点について。こめっこの活動では似た経験を持つろう者の先輩たちがいたと思うが、ニーズの説明方法について相談することはあったのかどうか、教えてほしい。 大川氏/こめっこで活動していた先輩たちは、自ら環境を変えなければ、という意志を持った方が多かった。悩みを相談するというよりもロールモデルとして、自分もあのように振る舞おうと思うことができた。 松﨑氏/最後に全体を通して、「ニーズを支える」という今回のテーマを考えると、まず学生が悩みを開示しようと思えることがスタートになると思う。なかなか悩みを言い出せない学生が少なくない中で、大川さんが、コロナ禍のオンデマンド授業で視線移動の負担が大きいことを支援室に打ち明けられたのは、どんなきっかけがあったのか。 大川氏/コロナ禍の当初は同級生と..LINEでやりとりし、オンデマンド授業の苦労などを話し合っていたが、聞こえる学生たちが話す苦労より、私が感じている負担のほうがかなり大きいのではないかと感じるようになった。支援室に伝えるほどではないのかもしれないと躊躇した [11]が、とにかく身体的な負担を解決したくて思いきって話してみると、丁寧に対応していただけたので、言ってよかったと思う。 松﨑氏/ニーズがハッキリするまで言い出せない、ではなく、まず自分の状況を話せたことで状況が変わってきたということ。現状を話して、それから一緒にニーズを探す、というのは重要なポイントだと思う。 --------松崎氏ディスカッションここから-------- (2)ディスカッション1:「改めて“ニーズ”とは何かを考える」(松﨑丈氏) ■ニーズの顕在化の流れ 聴覚障害学生のニーズについて考えるため、まず先ほどの大川さんの発表の中から、新しく表れたニーズを抽出した(図2参照)。こういった問題が生じた時に初めて、それを解決してスムーズに授業を受けるためのニーズが顕在化する(図2丸印部分)。このニーズ顕在化の背景には、自分自身が持つ知識や手段と問題状況とがかみ合わなかったり、自分自身のニーズについて明確に説明できないといったエピソードもあった。つまり、ニーズというのは、学生が一人で発見し表明するのは難しく、大学側との丁寧な話し合いの中で、共に見い出して表明につなげていくことが重要だと考えられる。 (写真:講演する松﨑氏) (図2:学生のニーズとその顕在化の流れ(スライド資料より抜粋)) 実際、大川さんの例から見てわかるとおり、大学入学前から既に課題が積み残されている状態、すなわち、合理的配慮やニーズの表明について学ぶ場がないまま大学に進学してきている。手話通訳に関して言えば、大学に入る前に手話を使って議論する経験をしてきていない。このような積み残された課題が、大学に入った後で、新たにニーズとして顕在化していると考えられる。しかし大学側は、ニーズとは「学生が表明してくるもの(あるいはすでに表明できるもの [12]とみなす)」だと思っている節がある。私たち支援者は大学入学後の学生の姿だけ見ていればよいわけではなく、入学前までに学生がどういった経験をしているのか、もしくはしていないのかを丁寧に聞き取り、学生にとってニーズとなる可能性を多角的に見出すような対話が大事になると言える。 ■表明するニーズを聴覚障害学生が選別する また、差別解消法にもとづく合理的配慮の提供に大学が懸命に取り組む中で、聴覚障害学生自身が、「自分のニーズ=合理的配慮」と思いこんでいる傾向も見られる。例えば、通訳をつけてほしいという要望は合理的配慮に結びついていくが、大川さんが経験したような、オンデマンド授業の連続で目がとても疲れて困るといった問題が生じた時、これは法律や合理的配慮とは関係ないので自分だけの問題であり、支援室に申し出るようなことではない、と考えてしまう。このように、聴覚障害学生自身のニーズの捉え方が変化してきているように思う。 別の例で、学生Aには「支援学生に対して、挨拶をすることができない」「お互いに助け合うという積極的な関わり合いを持てない」というニーズがある。Aの背景を見ると、高校までに聴者との対人関係で何らかの問題を抱えていたり、希望していない情報保障を周りの意向で押し付けられた経験から、支援学生との関わり方がわからずにいる可能性がある。しかし本人がこれを、合理的配慮とは関係ないから個人の問題だとして捉えてしまうと、ニーズとして表面化しないままになってしまう。 Bの例では、「レポートが書けないために単位が取れない」「議論の輪に入れない」という状況で、そこには、日本語の力が十分ついていないことや、集団での会話経験が不足している、といった背景がある。 ■改めて「ニーズを支える」とは これらの例から改めて整理すると、ニーズとは、個々の学生が積み重ねてきた様々な経験が、困難に直面したときに顕在化してきたものだと言える。しかし、「ニーズ=合理的配慮」という思い込みから、ニーズの範囲を自ら狭めて捉えてしまう学生もいる。聴覚障害学生のニーズを支えるためには、合理的配慮と直接関わらないニーズに対して、教育的・心理的視点からどのように対応するかが、今後の課題と言える。 --------松崎氏ディスカッションここまで-------- --------楠氏ディスカッションここから-------- (3)ディスカッション2:“ニーズ”を支えるとは「障害学生支援コーディネーターの立場から」 (楠敬太氏) 今日は障害学生支援のコーディネーターの立場から、また話題提供の大川さんが2年生から4年生の間、メインでコーディネーターを担当していた立場から、「“ニーズ”を支える」ことについてお話したい。 [13]■支援利用に伴う負担 聴覚障害学生が入学すると、多くはノートテイク等の支援を提供するが、大川さんの話のように、そのことによって負担が生じる場合もある。私自身、いつも横に支援者がいたらうっとうしく感じるだろうと思う。また、支援者がいるゆえに授業を休みにくいとしても、「サボる権利」というのはなかなか伝えにくいことでもあると思う。大川さんが卒業したあと、無線LAN接続を使うなどしてパソコンの準備作業は軽減してきたが、今後も負担を減らすための整備が必要だと感じている。 (写真:講演する楠氏) ■支援手段の選択とニーズの変化 しかし、そうした負担を伴いながらノートテイクをつけていっても、高度なディスカッションでは支援として十分でない場合も出てくる。例えば、「(絶対に)それは違うと思います!」と「(五分五分だけど)それは違うかな?」というニュアンスの異なる発言であっても、文字に起こすとどちらも「違うと思います」となりその違いが伝わらないかもしれない。そういう意味で、ノートテイクは合理的配慮の一手段に過ぎず、場面に応じて適切な手段を選ぶことが大切だと思っている。もしかすると、予算がないためにノートテイクの代わりに音声認識を活用するというケースがあるのかも知れないが、そうした捉え方は間違いで、ノートテイクは人の手で校正された文字情報、音声認識は冗長語なども含む全ての音情報が入ってくる文字情報、というように、提供される情報の質が異なっている。その違いを踏まえて、場面によって支援手段を選ぶことが大事である。 また、ニーズが変化することも当たり前だと捉えている。私は視力が0.6なのでメガネがなくても日常生活は支障ないが、運転するときはメガネが必要、つまり支援が必要になる。状況によって支援の必要性が変わるのは当然のことで、コーディネーターの仕事は、最初に話し合って支援の方法を決めるだけでなく、提供した支援が本当にそのニーズに合っているのか、他にどんな方法があるのかを見極めていくことのほうが、重要になるのではないか。 コロナ禍でも、遠隔情報保障を導入したからといって全てのオンライン授業で一律に文字通訳を行うのではなく、一部の授業は字幕挿入をして事後視聴にするなど、本人の負担を見ながら調整していった。そうしたことの大切さを、コロナを通して学ばせてもらった。 ■ニーズを出さない学生への対応 学生本人が困り感を感じていない一例としては、最近、人工内耳装用の学生が増えており、高校まで情報保障を受けていなかったから大学でも必要ないという学生がいる。授業は何となく理解していて、テストでは100点が取れたという学生もいる。しかし、知識を得ることが中心の高校の学びと違い、大学ではその知識をどう活かし、どう自分の考えに繋げていくかが重要なため、キーワードだけではなく授業内容を深く理解する必要がある。このことを学生本 [14]人が理解せず、生育歴から「何となくわかればOK」と考えている可能性もあるので、丁寧な聞き取りが必要だと思う。ただし、ニーズの聞き取りそのものが、学生の負担になるのではないかという思いもある。大学生活は忙しいのに、毎週支援室に来てニーズを話してほしいというのは負担ではないかと。もちろんこまめな聞き取りが必要な学生もいるので、個々に応じてSNSを活用するなど、聞き取りの方法も変えていく必要があると思っている。 ■大学での学びを支えるために 大川さんの話にもあった授業以外の情報保障については、大学の学びとは何かという視点においても重視すべき部分だと考えている。しかし、協力を得られるよう周囲の理解を育てるというソフト面のアプローチは、事前的環境整備の中でも一番難しいと言われている。私は大学時代に取り組んできた障害理解の研究から、アイマスクや車いすを使用した「できない」体験ではなく、障害があってもこうすればできるという「できる体験」を通して、障害理解が深められると考えてきた。大学として、そうした取り組みができればと思う。ニーズを支えるためには、個人の力ではなく、大学全体で支えることが重要だと思う。 --------楠氏ディスカッションここまで-------- --------岡田氏ディスカッションここから-------- (4)ディスカッション3:「“ニーズ”を支える」際に大学として留意しておくべきと思われること(岡田孝和氏) ■ニーズの概念的理解 ニーズの捉え方については、ブラッドショーの分類を参考にしている(図3参照)。このうち「規範的ニード」とは、法律やガイドラインなどの基準に照らして、「本当はこうしたニーズがあるのでは?」と考えること「比較ニード」は、他者や他の集団との比較から同様に「本当はニーズがあるのでは?」と考えることであるが、本人から表明されていないからニーズがないというわけではないという点が重要である。 そして、こうしたニーズがどのようにして生まれてくるかについて、色々なきっかけがあると思うが、私からは「体制の整備・充実」を挙げたい。自らのニーズが叶えられる可能性をクライアントが感じればそれを表明しやすくなると言われており、私もそのように感じている。 (写真:講演する岡田氏) ニーズを捉える際にもう一つ留意している点としては、「表明されたニード」が本当にニーズなのか、あるいはウォントなのかと考えるようにしている。例えば「手話通訳がほしい」と言った時、実は、「ディスカッションに参加しにくい状態を何とかしたい」ということが本当のニーズであったりする。その時、手話通訳は手段でしかなく、もっと別の工夫ができたり、問題をもたらしている本当の原因を見極めて潰していくこともできるかもしれない。そうしたことをいつも気にかけ、対応している。 [15](図3:「ニーズ」の概念的理解(スライド資料)) ■ニーズには100%応えなければいけない、という論理 聞こえる学生は生の情報にそのままアクセスできるという意味で100%である。一方、情報保障を利用している聞こえない学生は、間接的な情報を得る、人を介しているという意味で、よほどの条件が整わない限り100%はあり得ない。ということは、この全体会でここまで話されてきたような、聴覚障害学生が日々悩みながら自分のニーズとは何だろうと考えたり、大学側が学生のニーズを何とか引き出そうとする営みは、結局のところ100%に至る道程の途中の話で、その段階でもがいているような構図ともいえる。ただ、法律や文部科学省の検討会報告には「同等・平等」とうたわれており、そうであるならば、本来は文字通り聞こえる学生と同等の100%を目指さなければならないし、大学側はまさに規範的(Normative)にという所に立っていなければならない。そう考えた時、100%に至る過程の中にある「ニーズにこたえる」ことに対しても、当然真摯に向き合い、100%の実現を目指さなければならないということになる。これが、ニーズには100%答えなければならないという「論理的な帰結」である。 この点は、1人の聴覚障害当事者としても改めて強調したい。ニーズにこたえると言うと何か特別なことをしている、+αのことと受け止められがちだと感じているが、そうではない。合理的配慮を提供する、支援をする上で、当然その中に入ってくるものである。100%を目指さないことは、聴覚障害学生を他の学生と同じスタートラインに立たせられていないことになり、ややもすれば差別にもなりかねない。本来、高等教育は長い歴史の中で培われた、高尚なものであるはずである。100%を目指さなければその高等教育を我々が内側から崩すことにもなってしまう。障害学生支援には、学生を支援することと同時に、高等教育の高貴さ、英語でインテグリティ(Integrity)というが、それをキープする役割が求められていると感じており、だからこそ妥協せずに100%を目指さなければいけないと考えている。 [16]■ニーズの表明を促し、それを受け止められる体制の構築 冒頭でも話したように、聴覚障害学生のニーズを支えるためにはそれと両輪をなす体制の整備が不可欠だと言える。今日は管理的な立場の方や、文部科学省の方もいらっしゃっているのでぜひお伝えしたい。「聴覚障害学生支援=ノートテイカーの配置」であるとよく誤解されるが、本当に配置するだけでは、聴覚障害学生のニーズに応えることは難しい。「もっとノートテイクの質を上げてほしい」、「手話通訳を利用したい」といったさまざまなニーズが表明された時、十分な体制がなければ応えることはできないし、実現できなくても何らかのアクションを起こして学生にレスポンスすることが大切だと考えると、やはり一定以上の体制整備がなければニーズを支えきれないと思う。 「聴覚障害学生は1人だからそれほど大変ではない」と人数に基づく話がよく聞かれるが、聴覚障害学生が1~2名いれば、そこに関わるノートテイカーは何十人に もなり、授業が週に数十コマ、担当する先生も数十人、それらの連絡調整を考えると相当な業務量になる。スライドに示したようなモデル(図4参照)はあくまでも一例で、黒い波線の下部分をどう広げていくかは各大学で大きく異なってくるが、来年度から私立大学も合理的配慮の提供が義務化されるというこのタイミングで、そもそもの制度設計として、聴覚障害学生支援に必要なリソース量について、ぜひ再考していただきたい。 (図4:情報保障者の配置につながる運営軸の例(スライド資料より抜粋)) ■ニーズを叶える主体は誰なのか 学生が表明したニーズに対するアプローチとして、カスタマーサービスのように動くのか、ソーシャルワーク的に学生と大学環境とに動きかけるのか。いろいろな動き方が思い浮かぶが、あらゆるアプローチを使い分け、聴覚障害学生自身が周りに働きかけてニーズを叶えていくのを、サポートすることが大事だと思う。何もかも学生にやらせるということではなく、学生が表明したニーズを一緒に分析し、どこに働きかければ実現できるかを一緒に考え、実際に動くときには後方支援をする。セルフコーディネーションやエンパワメント、セルフアドボカシーといったさまざまな考え方があるが、いずれにしても卒業する時に、準備万端で安心して社会に出て行けることが、理想ではないかと思っている。 --------岡田氏ディスカッションここまで-------- (5)全体ディスカッション それぞれの登壇者からの発言を受け、松﨑氏から楠氏と岡田氏に質問が投げかけられ、議論が掘り下げられた。 [17]松﨑氏/お二人にはさらに3点、補足のコメントをいただきたい。 まず、ニーズはコーディネーターとの対話から浮かび上がってくるということだが、大学によっては発達障害や精神障害の学生へのサポートもあり、なかなか聴覚障害学生との丁寧な対話に手が回らないという状況もある。対話の中でニーズを見いだすためにまずできる工夫とはどんなことか。 2つ目に、ニーズ表明を支えるために体制整備の必要性が挙げられたが、学生が悩みを言いやすくなるような環境整備としてどんなことができるのか、これから支援体制を構築する大学に向けて、参考に教えてほしい。 3つ目に、楠さんのご報告で「できる経験」の大切さが挙げられていたが、聴覚障害を理解するための「できる体験」とは何か、具体例があれば教えてほしい。 岡田氏/自分の学生時代を振り返って、非常に助かったのは、週1回でもきちんと話を聞いてもらえたこと。その中で、困っていることや、要求してはいけないと思っていたようなことが、意外にも「できるよ」と言われてビックリしたことがあった。週に1回30分でもいいので、話す機会を設けてもらえれば、回を重ねる中で学生からポロッと本音が出てくるタイミングがある。管理者の方は、最低でもそれくらいの対応ができる体制を確保してほしいと思う。 楠氏/ニーズの聞き取りですぐできることは、共感すること、学生の立場に立つこと。以前学校の教員をしていたときは、保護者から相談があれば、まずは「そうですね。保護者の方も大変ですね。」と言葉を掛けていた。同じように、大学の立場で見ると難しいと思えることであっても、まずは学生の視点に立って、「そうだよね。」と聞くことで、信頼関係を築くことができる。 3点目の聴覚障害理解のための「できる」体験は、例えばノートテイクを見てもらって、これがあれば情報がわかるという体験。できれば他の情報保障の方法も体験して、「支援があるとできる」ということを知るのが大事ではないか。 3.まとめ 最後に、ディスカッションの内容を受けて大川氏から、また企画全体を通して松﨑氏から、まとめのコメントがあった。 大川氏/聴覚障害の一番の問題は情報取得の壁だが、その壁は固定的ではなく環境によって変化する。たとえば、現在私は筑波技術大学で学んでいて、手話で行う授業の場合、情報保障を必要としないが、もし手話のわからない学生が来たら、その学生に対して手話通訳が必要になる。聞こえないから支援するのではなく、どう環境を整備するかという視点が重要だと改めて思った。また、個々の聴覚障害学生のコミュニケーション状況は多様であり、特に日本語に [18]苦手意識のある学生には、支援室とのやりとりが円滑にできるよう配慮を講じることが大切だと思う。 岡田さんが話された「100%を目指す」ことはとても重要な指摘だと思う。聴覚障害学生は得られた情報が100%なのかどうか自分で判断することが難しいため、支援者側からの見極めも必要なのだと実感した。最後に、4年間支援していただいた楠先生と、このような場で再び話す機会が得られたことは驚きでもあり、大変嬉しく思っている。ありがとうございました。 松﨑氏/聴覚障害学生のニーズは、私が学生だった約20年まえから現在まで、ほとんど変化していないように思う。しかし、制度や法律の変化が聴覚障害学生自身のニーズの捉え方に影響を与え、合理的配慮と直接関わらない人間関係や日本語力などの悩みは、個人で解決すべき問題だと捉える傾向が出てきている。つまり、合理的配慮という社会モデルの考え方の中にありながら、一部の悩みは個人の問題すなわち医学モデルとして捉えるという状況に陥っているのではないか。そうした状況を解消するには、まだニーズかどうか曖昧なものも含め学生があらゆる困りごとを話しやすい体制を作り、ともに整理していくことが必要ではないか。 また、大川さんの話題提供から、聴覚障害学生の“ニーズ”とは実に多様であることがわかっていただけたと思う。支援担当者の方々は、今日の話をもとにぜひ想像力を働かせ、目の前の聴覚障害学生がどんなことに困っているのかを丁寧に聞き取って、一緒にニーズを分析・発見していけるような関係性を作っていただきたい。なお、ニーズの多様さについては、近著「聴覚障害×当事者研究」(金剛出版)で詳述しているので、参照いただければありがたい。 これからも、学生がニーズ表明できないという状況を少しでも減らしていけるよう、PEPNet-Japanの場でも議論を続けていきたい。 報告者:中島亜紀子(筑波技術大学 障害者高等教育研究支援センター) --------ここから全体企画スライド-------- [19]1 タイトルスライド:全体会企画 一人ひとりの聴覚障害学生のニーズを支える 2 企画趣旨 ・聴覚障害学生への支援として、ノートテイク等の情報保障の必要性が各大学で理解されるようになってきた一方で、授業形態の多様化や、軽度難聴や人工内耳装用学生なども含め聴覚障害学生のありようが多様になっていることから、まだ十分に支援が行き渡っていない修学場面も残されている。 ・そのような中、コロナ禍で従来通りの方法での支援が難しくなり、多くの聴覚障害学生が授業参加にあたり困難に直面した。聴覚障害学生の授業参加を保障するためには、音声情報がただ文字化されているだけでは十分でなく、一人ひとりのニーズに応じた丁寧な対応が求められる。 ・本企画では、聴覚障害学生が授業に参加できる環境とはどのようなものか、それを実現するためには何が必要とされているのかについて、議論を深めることを目的とする。一人ひとりのニーズをどのように把握するか、ニーズを支えていくにはどうしたらよいか、関係者の方々と一緒に考える機会としたい。 3 登壇者紹介 ファシリテーター 松﨑丈氏(宮城教育大学) 話題提供 大川公佳氏(筑波技術大学大学院情報アクセシビリティ専攻 学生) コメンテーター 楠敬太氏(大阪大学キャンパスライフ健康支援・相談センター)、岡田孝和氏(明治学院大学学生サポートセンター) 4 企画の流れ 企画趣旨・講師紹介 現役学生からの話題提供 ディスカッション “ニーズ”とは何か?/「ニーズを支える」とは? まとめ 大川氏スライド p1 タイトルスライド:現役学生からの話題提供 筑波技術大学 技術科学研究科 情報アクセシビリティ専攻1年 大川 公佳 P.2 1 大学入学時 ニーズ表明(意思表明)することの難しさ [20]P.3 1 大学入学時 ニーズ表明(意思表明)することの難しさ ・中学までろう学校+高校は一般校 ・重度難聴(両耳110dB弱) →比較的ニーズ表明のしやすい立場。それでも実際には難しかった ・入学前から合理的配慮について支援室の丁寧な説明を受けることができた →「自分には学ぶ権利があり、そのために必要な支援を受ける権利がある」ことを明確に知る P.4 2 情報保障支援を利用し始めて 支援を利用することに伴う負担 P.5 2 情報保障支援を利用し始めて 支援を利用することに伴う負担 ・大学1年はコロナ前→すべての講義にPCテイクが付いた ※手話通訳は予算上の制約と私自身が希望せず ・良質で十分な情報保障支援だったが… →欠席連絡や授業前後のPC機材の準備・片付けなど、支援に付随するさまざまな負担 ・情報保障を受けるために必要な作業だと理解しつつも、他の学生がうらやましかった ・支援室に話すことへのためらい P.6 3 コロナ禍での支援の変化 オンライン環境での支援を作り上げた過程 P.7 3 コロナ禍での支援の変化 オンライン環境での支援を作り上げた課程 ・2年~コロナ禍に突入→メールでのやり取り+半年に1度Zoom面談 ・前期:オンデマンド形式がほとんど 図 ノートパソコンの画面の様子 画面の左上:講義動画 画面の左下:講義資料 画面の右半分:文字起こし資料 パソコン画面のほかに「自分用のメモ」 (それぞれの画面間に両方向の矢印で視線の移動が多い様子を表現) ノートパソコンのが面からふきだしで「目の負担大きい」 P.8 3 コロナ禍での支援の変化 オンライン環境での支援を作り上げた課程 女性のイラストから吹き出し:文字起こし資料はありがたいが視線移動が多くて目の負担が大きい… 男性のイラストから吹き出し:確かにそうですよね。講義動画に字幕を挿入する形であれば画面の数が一つ減って負担が減ると思うがどうか? →字幕挿入で対応する形に。 「とにかく私の負担を軽減する方向に支援する」スタイルは後期や学年をまたいでも一貫していた [21]P.9 3 コロナ禍での支援の変化 オンライン環境での支援を作り上げた課程 後期では… ・Zoomなどリアルタイム形式のオンライン講義→CapiOnlineでの参加 ・こちら側の負担を考え、すべての講義にCapiOnlineで対応するのではなく、従来通り字幕動画で情報保障を行うような支援も継続 下のような提案をしてくれる教員も! ・グループワークの際、すべてのグループにチャットのみでのやりとりを指示 ・字幕動画を授業用ポータルサイトにUP P.10 3 コロナ禍での支援の変化 オンライン環境での支援を作り上げた課程 ・これらすべての支援;メールでのやりとりが主 →文量や頻度が多く大変ではあったものの「着実に情報を得られる」「周囲の音声情報を気に掛ける必要がない」という面で心理的負担が少なかった! ・コロナ禍で学生の孤立化が問題になっていたが、私は意外とそうでもなかった →メールであっても建設的対話が行われ、その結果きちんとした情報保障という形にあらわれていたからだろう P.11 4 ニーズの変容 再び現れた議論に参加することの難しさ P.12 4 ニーズの変容 再び現れた議論に参加することの難しさ ・3~4年:ディスカッションの機会が増える PCテイク中に自分から発言することの難しさ周りの状況把握の限界、発言タイミングの掴めなさ etc. ・講義以外の時間:少人数の人間関係雑談の輪に入れず、重要な情報の取りこぼし 以下、枠囲み 「2年ごろから学外の活動(NPOこめっこ、全日本ろう学生懇談会)を通じて日本手話やろう者と出会う →日本手話で100%通じるコミュニケーションの体験+高度なレベルの話題について手話で議論する経験 =大学の支援におけるニーズに変容が生じた」 P.13 4 ニーズの変容 再び現れた議論に参加することの難しさ 女性のイラストから吹き出し:2年まで:手話よりも日本語、筆談でのコミュニケーションが最も自分の思いを伝えられる! 女性のイラストから吹き出し:3年後半から:手話の方がよどみなく話せるし、手話通訳の方が理解しやすい! 「手話を使って議論に参加したい!」と思うと同時にジレンマも… P.14 4 ニーズの変容 再び現れた議論に参加することの難しさ ・日本語と日本手話の間を行ったり来たりしながら議論に参加することの難しさ→支援室に相談し、卒業論文の発表会では手話通訳・PCテイクで参加 プラス自己のニーズの変容、ジレンマやその難しさについて教員など関係者の理解を得ることも重要 ・更なる進学を志したとき、真っ先に生じた不安「このままの環境で研究にエネルギーを惜しみなく注げられるのだろうか?」 [22]P.15 4 ニーズの変容 再び現れた議論に参加することの難しさ ・色々考えた結果、「環境の良さ」を優先 支援を受けられることは前提として、他の学生と同じようにのびのびと思うままに研究を進められる環境に身を置きたい! ・筑波技術大学の大学院を選択→皆が何らかの支援を受けている環境の中に居ることが心地よく、ほとんどストレスなく過ごせている ・もちろん、学びたい・研究したい分野を第一に考えることが理想なのだろうが… 松崎氏スライド P.1 改めて『ニーズ』とは何かを考える ファシリテーター 松﨑丈 (宮城教育大学教授、しょうがい学生支援室副室長) P.2 図(入学から卒業までの時間軸に沿って大川さんのニーズ顕在化の流れを表現) 大川 入学時:意思の表明の方法がわからない 顕在化したニーズ(一部):現場での連絡・体制の負担感、遠隔情報保障の視線移動の負担感 ←自身の心身や生活の状態と、合理的配慮や支援体制とのかみ合わなさ 卒業前:ディスカッションの文字通訳の限界←学外活動で日本手話での会話や議論を実践 P.3 (P2の図に以下の内容を加筆) 卒業前:手話通訳の評価方法がわからない→学問的知識や情報保障経験の蓄積によって通訳利用者としてのニーズの精微化がはかられる可能性。 P.4 (p3の図にさらに以下の内容と矢印を加筆) 入学前:合理的配慮に関わる教育の経験が皆無→「意思表明の方法がわからない/自身の心身や生活の状態と合理的配慮や支援体制の?み合わなさ」につながる 入学前:日本手話での会話や議論の経験が不足→「学外活動での会話や議論を実践」につながる 上記2点の入学前の項目から矢印→大学に入学する前に積み残された事体(問題)との相互作用によって出てくるものもありうる 入学~卒業の間の項目から矢印→ニーズの顕在化プロセスには大学に入学してから学生が遭遇する事態との相互作用によって出てくるものとは限らない P.5 (p4の図の入学前~卒業までの全項目から矢印で以下の内容を加筆) →現場で生じた諸問題や顕在化したニーズの中には、合理的配慮(法的義務)の対象の範囲内に含められるのか、含まれない場合は対応する必要があるか否か、議論を引き起こすものが含まれる。 [23]P.6 図(入学から卒業までの時間軸に沿って学生Aのニーズ顕在化の流れを表現) 入学前:聴者との対人関係経験の不足や課題→入学後に顕在化したニーズ:支援学生との関係形成の困難やトラブル  入学前:家族や学校の影響で情報保障への抵抗感の形成→入学後に顕在化したニーズ:情報保障は受け入れるが利用者発信をためらう 多くは自分に問題があると思い、顕在化せず。カウンセリングに基づいた自己理解と問題整理を行うことで顕在化。支援資源の確保が課題(発達・精神障害関係に集中)。 P.7 図(入学から卒業までの時間軸に沿って学生Bのニーズ顕在化の流れを表現) 入学前:日本語指導の不足→入学後に顕在化したニーズ:レポートを書けず単位を落としがち 入学前:集団会話の経験が皆無→入学後に顕在化したニーズ:全員手話を使うが議論の流れをとらえて発言するのが苦手 日本語指導、集団会話スキル指導、通訳評価方法指導など教育支援を行う必要?それを担う支援資源は? P.8 (大川・学生A・学生Bの図のうち、「入学前」の項目のみを改めて再掲) 大川:合理的配慮に関わる教育の経験が皆無/日本手話での会話や議論の経験が皆無 学生A:聴者との対人関係経験の不足や課題/家族や学校の影響で情報保障への抵抗感の形成 学生B:日本語指導の不足/集団会話の経験が皆無 上記の全項目から矢印→大学に入学する前に積み残された事態(問題)との相互作用によって顕在化するニーズを想定しておく必要がある? P.9 改めて「ニーズを支えるとは」 ニーズとは何か ・ニーズとは、ある経験や身体を持つ聴覚障害学生とその時々の困った事態との相互作用によって顕在化されるものが多い。 ・障害者差別解消法施行によってそのニーズが大学教育を受ける権利と関わるか否かで二分されてしまうのでは?「大学等における合理的配慮とは,「障害のある者が,他の者と平等に「教育を受ける権利」を享有・行使することを確保するために,大学等が必要かつ適当な変更・調整を行うこと。(障害のある学生の修学支援に関する検討会報告(第二次まとめ)」 ・聴覚障害学生のニーズを支えるにあたって、情報保障の量的確保と質的担保、現場運営体制の改善・向上は最重要課題。さらに聴覚障害学生の教育・心理的なニーズに対する対応をどこまでどうするかも今後議論と実践を重ねる必要。 楠氏スライド P.1 “ニーズ”を支えるとは 障害学生支援コーディネーターの立場から 大阪大学キャンパスライフ健康支援・相談センター 相談支援部門 楠敬太 P.2 イラスト(難聴の女性(聞き取りにくい表情)と授業の様子) 授業の内容が聞き取れない→ノートテイカーの配置→授業内容が理解できるように→授業を休みにくい→メール連絡が必要な場合が 吹き出し:ノートテイクの配置がニーズ(負担)を発生させる場合に ⇒これらを仕方ないで終わらせてもよいのか→体制の整備が必要 [24]P.3 イラスト(学生がスクリーンの脇で発表している様子、5名の学生のディスカッションの様子) 授業内容が高度に、ディスカッション中心に→ノートテイクでは不充分の場合も ・タイムラグ ・微妙なニュアンス等々 吹き出し:ノートテイクは合理的配慮の1つに過ぎない ニーズが変化していくのは当たり前 →合理的配慮提供の調整だけがコーディネーターのぎょうむではない その合理的配慮が適切かどうかを見極めるのも重要である P.4 イラスト(人工内耳をつけて授業を聴いている男子学生と授業の様子) 人工内耳装用のため聴覚活用→本人としては情報保障は不要→なんとなくは授業を理解している 吹き出し:なんとなくで良いのか? 本人自身に困り感が生じていない →高校と大学では、学びの質が変化する。困り感を感じにくいのも障害・生育歴等の影響の可能性も。 P.5 イラスト(3人の学生が談笑する様子、少し離れたところに輪に入れず寂しそうに友達を見ている女子学生の様子) 授業・ゼミには情報保障がついている→しかし、授業ゼミ以外、他学生とコミュニケーションがとれない 吹き出し:授業だけの配慮でよいのか 大学として求められる配慮(本来業務付随)は行っている →しかし、大学での学びは授業だけではない。教職員・学生等の障害理解を高めるための取り組みも重要 岡田氏スライド p1 「“ニーズ”を支える」際に大学として留意しておくべきと思われること ―「ニーズを支える」をどのような全体構造の中で理解するか コメンテーター 明治学院大学 学生サポートセンター 岡田 孝和 P2 「ニーズを支える」際に見落としてはならないと思われること ・「ニーズ」にはまだ顕在化していないものもあるし、必ずしも本人から表明されることがすべてではない。 ・「ニーズ」が表明されても、真のニーズは別のところにある可能性もあることには留意しておくべき。 ・「ニーズ」にはどこまでも応えていかなければならない』という論理的な構造がある。 ・「ニーズを支える」ことは、特別なことでも、“職人技”でもない。検討会報告等を遵守して、平等で同等の高等教育を聴覚障がい学生にも提供するためには欠かせないプロセスである。 ・「ニーズを支える」ためには、それを受け止める体制も必要で、両輪の関係。その際、聴覚障がい学生支援に必要なリソース量の問い直しが必要かもしれない。 ・「ニーズを叶えていく主体」は誰なのか?ここをどう考えるかによって具体的な手法や制度のありようが変わってくる可能性も。 P3 「ニーズ」の概念的理解 J.Bradshaw 図 縦軸 左側:客観的ニーズ(他者視点) 右側:主観的ニーズ(本人視点) 横軸 上側:顕在的ニーズ 下側:潜在的ニーズ 上側に行くほど「ニーズレベル」高い 図の左上側:顕在的ニーズかつ客観的ニーズ(他者視点)のエリア ・規範的ニード(Normative need)、比較ニード(Comparative need) 「本当はこういうニーズがあるのでは?」「本当にこれだけでいいの?」 ・「これはNeedsなのか、をれともwantsなのか?」P.Kotler ・オレンジ色の枠:体制の整備・充実、 ・オレンジ色の枠:支援者とのやり取り≒意思表明支援 図の下側:潜在的ニーズのエリア ニーズの源泉となりうるもの(一例) ・感得されたニード(Felt need)  ・オレンジ枠線:入学後の学内外での様々な経験 図の右上側:顕在的ニーズかつ主観的ニーズ(本人視点)のエリア ・Expressed need(表明されたニード) ・オレンジ枠:入学前からの考え・意識 左エリアの「体制の整備充実」「支援者とのやりとり(意思表明支援)」、下エリアの「入学後の学内外での様々な経験」から「Expressed need」に向かって矢印 [25]P4 「ニーズには100%応えなければならない」という論理 聞こえる学生:加工されていない情報に直接アクセスできるという意味では常に100% 聞こえない学生:Normative のレベルで初めて“同等”“対等”が実現しうる。 ・p2の図の再掲:これらの営みはそもそも≦100%のレベルで行っていこと。決して+αのことをしているわけではない。 ・Normativeの水準に近づくこと、自らのニーズを表明することは、聞こえる学生と同等な学習環境に限りなく近づいていくプロセスの一環。 ・学生自身がそこまでのニーズを「今」表明していないとしても、大学側はNormativeの水準にいるべき。(学生が言ってこない≒ニーズがない、対応しない、目標水準を下げていい、ではない) 枠囲み:法や検討会報告の記述 障害のある学生に提供する教育については…授業内容や教科書、資料等へのアクセシビリティを確保することで、全ての学生が同等の条件で学べるようにすることが重要である。大学等における合理的配慮とは、「障害のあるものが、他のものと平等に「教育を受ける権利」を亨有・行使することを確保するために、… P5 ニーズの表明を促し、それを受け止められる体制の構築 図 1本の軸に沿って、上から項目と説明が記載されている 軸の説明:最終的に「情報保障者配置」に収束されていく運営軸 (上から順に) ・情報保障者配置:これだけでは表明されたニーズに応えられないことも。 (波線で区切ってその下に3項目) ・支援者養成・支援者集団の形成 ・教職員との調整・連絡 ・学外支援者の開拓 (上記3点を囲んで)周りからは見えにくく、理解されにくいが不可欠な取り組み ・日々の支援コーディネート ・部署内のマネジメント・業務フローの構築 ・全学的な支援体制のマネジメント 2人の人物が話し合う図 ・ニーズの表明 ・支援体制を整え、ニーズを表明しやすくする。表明されたニーズを実現する。少なくとも何らかのレスポンス・変化を起こす。 障害学生支援に必要なリソース量をどう考えていくか? =聴覚障がい学生は〇人だけ。 or =聴覚障がい学生〇人×ノートテイカー△人×養成に必要な労力・時間×授業数(教員数)×日々のやり取り量×イレギュラーな対応の頻度。 P6 ニーズを叶える主体はへ誰なのか? 学生の「ニーズを支える」ために大学はどこに対してアプローチするべきか? 左側の図(1人の人物から「個人」「相互作用」「環境」に向かって矢印、「個人」から人物に向かって「ニーズの表明」の矢印、「個人」と「環境」の間に双方向の矢印) 右側の図(1人の人物を起点に枠(コミュニティ)の広がりを表現、小さく近い枠から大きく遠い枠へ広がる様子)  (以下、小さい枠から順に) ・情報保障チーム ・情報保障コミュニティ ・所属学科 ・大学全体 ・卒業後の社会 学生が自分自身で周りに働きかけ、自分自身でニーズを叶えていけるようにサポート --------ここまで全体企画スライド-------- --------全大会企画ここまで-------- [26]セミナー企画 「みんなで積極的に考えよう! 聴覚障害学生のキャリア」 登壇者 藤野友紀 氏(札幌学院大学) 笠原桂子 氏(住友重機械工業株式会社 人事本部 人事戦略部) 永川智晴 氏(関西テレビ放送株式会社 クリエティブ本部 報道局報道センター) 大田竜聖 氏(同志社大学政策学部..4年次生) 司会 後藤由紀子 (筑波技術大学) モデレーター 日下部隆則 (筑波技術大学) ※所属はシンポジウム実施当時 ※筑波技術大学「聴覚障害者のためのキャリアサポートセンターの設置」事業共催 1.企画主旨 「大学は学生のキャリア支援のために何をしたら?」「ITツールをうまく使った働きやすい環境を作るには?」「企業はどんな学生を求めている?」など、聴覚障害学生のキャリアに関する疑問や不安はさまざまである。 そこで本セミナーは、キャリアに関する疑問等について、聴覚障害当事者、企業関係者、大学教職員というそれぞれの立場からのリアルな声を届け、フロアとの意見交換を行なうことでその疑問や不安を解消することを目的として実施した。 2.発表内容 本セミナーは、聴覚障害当事者および企業や大学のキャリア領域の担当者のリアルな声を届け、これから社会に出る聴覚障害学生を勇気づけることを目的にしたものである。 セミナー当日は、就職活動を経験した現役学生と社会に出てキャリアを重ねる社会人(大田氏、永川氏いずれも聴覚障害当事者)、障害者の採用と育成を担当する企業人事(笠原氏)、大学で障害学生のキャリアをサポートする教員(藤野氏)という多様な視点で、それぞれの立場から目的に沿う示唆に富んだメッセージを発信していただいた。(発表資料は本稿末に掲載) 本稿は当日の発表内容も含みつつ、当日扱いきれなかった話題を中心に掲載する。 3.講師とのQ&Aのご紹介 講師とモデレーターによる深掘りされたコミュニケーションを以下のとおり、Q&Aの形で掲載したい。 [27]シンポジウム当日は、時間の制約で講師の方々に十分にその思いを伝えていただくことができないことを承知しながらも、あえて多様な立場の講師にご登壇頂いたのは、本報告書でこのようにQ&Aを掲載することを前提にしていたことが大きな理由であった。本報告により、それぞれの立場の方に「積極的にキャリアを考える」ための何らかのヒントを提供することができるものと考え、事前に講師とモデレーターとで交わしていた話題について以下にまとめる。 なお、当日いただいた会場からの質問もこれらのQ&Aに重なると考え、掲載を割愛させていただいた。ご了承いただきたい。 (写真:セミナー企画ディスカッションの様子 左から後藤氏、日下部氏、藤野氏、笠原氏、永川氏、大田氏 ) (1)大田竜聖氏 大田氏には、現役の聴覚障害学生として、就職活動を通した知見や同じ障害のある後輩たちへ伝えたい思いを語っていただいた。 --------大田氏Q&Aここから-------- ■就職活動の成功要因 Q1:就職活動を通して、希望する会社に内定をいただいたとのことですが、大田さん自らの分析による成功要因を聞かせてください。 A1:自分の回答に根拠がしっかりと伴っていたこと、自分の意見をしっかりと根拠をもって説明できたことが大きかったと思います。例えば、 (私)「御社で○○したいです。」→(採用側)「どうして○○がしたいの?」 (私)「こういう場面でこういうことをしました。」→(採用側)「どうしてそういう行動をしたの?」 といった質問に対して「なぜなら、○○だったからです」としっかりと相手を納得させる応答できたことを評価してもらえたと思っています。 [28]Q2:やはり面接官は学生のロジカルシンキングの素質を確認しているように受け止めました。大田さんは、聞こえないというハンディキャップがありながら、どのようにしてそのような論理力をベースにした対応スキルを身に着けることができたのですか? A2:ひとつは、在学中にランチタイム手話というイベントの講師を続けるなどの挑戦をしてきました。その挑戦の経験の中で得られた達成感や、時には失敗したり壁にぶつかった時に生じる感情も大切にして、なぜそのような感情になったのかを都度言葉にしていたためだと思います。もうひとつは、年齢が異なる人とたくさんコミュニケーションをしてきたことが挙げられます。在学中は支援室(SDA室)の大人、学年の異なるサポートスタッフやサークルの人たちとコミュニケーションを取る中で、そのようなスキルが身についたのだろうと思っています。 ■障害者雇用と一般雇用 Q3:就職活動は「障害者雇用枠に決めていた」とのことですが、なぜそのように決定したのですか? A3:私は「障害者枠」には自分のことを知ってもらうことができる良い機会だというイメージを持っていました。幼いころからあらゆる場面で聴覚障害というマイノリィティの立場として、他人に自分の障害のことを知ってもらいたいと、いろいろな人に自分を説明することに努力した経験があったからこのように言えるのだと思います。 Q4:内定先は「障害者雇用枠」と「一般雇用枠」で入社後の仕事や処遇に区別がありますか? A4:障害者枠で入社しても、入社後は一般雇用枠の人と同じ扱いになり、差別も優遇もされることは一切ないとのことです。 ■キャリアセンターのサポート Q5:大学のキャリアセンターを利用する中で、この対策はしておいた方がよかったというものがあればご教示をお願いします。 A5:特にキャリアセンターに協力してもらって対策してよかったのは面接対策でした。私は、面接官役の職員さんからの多種多様な想定質問にも最初はしどろもどろでうまく応答できませんでしたが、練習を重ねるごとにうまく答えることができるようになりました。何度も練習につきあってくださったキャリアセンターの皆さんには大変お世話になりました。 (写真:質問に答える大田氏(右端)) [29]■実際の面接を振り返って Q6:ご縁のない会社も当然あって「お祈りメール」ももらったと思いますが、どのように切り替えましたか? A6:その会社は自分には合わなかった(やりたいことは出来ない)と割り切りました。ダメだった理由は、企業研究が足りなかったのと、本気で行きたいとは思っていなかったため、その会社に入って達成したいビジョンが作れなかったためだと分析しています。 --------ここから大田氏スライド5ページ-------- 内定先での面接 面接は、静かな個室で1対1の環境。 UDトークとパソコンを接続した大画面電お文字情報保障。 また、会話する際にはマスクを外して口を大きく開けていただいた。 志望動機や自己PRはもちろん、どのような障がいを持っているか、仕事をするうえでどのような支障が出るのかという質問があった。 モノづくりを通して様々な特性を持った人も含めて人々の日常生活をさらに便利にしたいという熱意と自身の障がいの状況と、どのような配慮をしてほしいかをしっかり伝えることを心掛けた。 --------大田氏スライド5ページここまで-------- Q7:面接のコミュニケーションはどのような形でしたか?それを踏まえた後輩へのアドバイスをお願いします。 A7:私がエントリーした全ての企業が音声認識アプリを用いた面接でした。私は聞こえないことによって遮断される情報を文字という形でできるだけ補いたいという強い思いを常に持っているため、どれだけ音声認識アプリや文字起こしからの情報量が長くても最後までしっかり読み通すことができています。聞こえる人と比べて得られる音声情報が少ない分、文字情報に頼って、いろいろな情報を仕入れることで会話の幅が広がったり、知識の幅が広がったりした経験がたくさんありました。後輩の皆さんもその経験をしてほしいです。 Q8:障害によって生じる仕事への支障(懸念事項)を聞かれたとのことですが、それにはどう答えたのですか? A8:大人数での会話、機械からの音声の聴き取り、遠くからの伝達・呼びかけ等には対応ができないと正直に伝えました。 Q9:面接で印象に残っている質問があれば教えてください。また、それにどのように応えたのですか? A9:内定先から問われた「大田さんが弊社で仕事をすることによって社会がどうなっていけばいいですか?」という質問が印象に残っています。その質問には、「社会生活を営むすべての人々、様々な特性を持った方々を含めて、その人たちが何を必要としているのか、その声をしっかり聴いて分析して製品創造につなげることで、そうした人たちの生活がより向上し、それを通して社会全体がゆたかなものになっていけばいいと思っています」と回答しました。これはキャリアセンターで行われた多くの模擬面接の時に似た質問をしてもらっていて、どう答えたらよいのか頭を悩ませた経験があったのでうまく対応できました。 [30]■後輩たちへ伝えたい思い --------ここから大田氏スライド6ページ-------- 聴覚障害学生に伝えたい事 ①学生のうちに様々なことに挑戦してほしい。いろいろな人との出会い、関わることで自分のやりたい事が見つかったり、その延長線上で就職につながる大きな転機が訪れたり無限の可能性がある。 ②自身の障がいの状況と、してほしい配慮をしっかりと言語化して、遠慮せず願い出てほしい。 配慮を受けることは「権利」であり、心地よい最適な環境を作るためにもしっかりと相手に伝えることを躊躇しないでほしい。 --------大田氏スライド6ページここまで-------- Q10:後輩に伝えたい思いとして「学生時代にいろんなことに『挑戦』してほしい」というキーワードがありました。大田さんはずっと「挑戦」するキャラクターだったのですか? A10:もともとは挑戦するキャラクターではありませんでした。ただ在学中でいえばコロナになって約2年いろいろなイベント・行事が無くなってなにもできない状態が続いたことが一番のきっかけだったように思います。せっかくの大学生活をふいにしたくなかったという気持ちがあったから、行事が再開されてからは、意識していろんなことに挑戦するようになりました。 --------大田氏Q&Aここまで-------- (2)永川智晴氏 永川氏には、社会に出たあとの転職でキャリアアップを重ねた中での経験やそれを踏まえた後輩へのメッセージを語っていただいた。 --------永川氏Q&Aここから-------- ■転職活動と成功要因 Q1:SBMから毎日新聞そして関西テレビ(現職)とキャリアアップされてきた永川さんですが、ご自分では何がキャリアアップの成功要因だと考えていらっしゃいますか? A1:転職先は自分で探してHPから応募しましたが、いきなり思い立って転職したわけじゃなく、「こういう仕事がしたい」「もっとこういうことができる会社はどこかな」と調べて、リサーチ、自己分析、履歴書の練習など日頃からコツコツと準備していました。それが結果につながったのだと思います。また、聴覚障害のことを説明する時は、プラスして「電話できないけれど、他の人には負けないこの部分を持っています」というように説明しました。仕事も「〇〇はできる?」と聞かれても「難しい部分はあるかもしれないが、このように工夫したらできます、頑張ってみたいです」と言うようにしました。 単に聴覚障害のある人という視点から、どう障害を抜きにして人として興味を持ってもらえるのかということを説明することが長けていたのだと思います。面接でも聴覚障害者が要求しがちな「すべて筆談で」「職場の人は事前に理解を」「聞こえないから〇〇してください」というのがなかったのも大きいと思います。 (写真: 質問に答える永川氏) [31]■転職エージェントと転職活動 --------ここから永川氏スライド5ページ-------- 質問① <転職理由> ・年収のアップとキャリアアップ ・働くにつれ、将来のキャリアプランが明確に ・「障害スポーツ」に携わる仕事がしたいという思いが強くなった <転職先の情報の取得> ・マスコミ関連にあまり興味がなかった事と、契約社員ばかりの紹介のため、転職エージェントは使っていない ・障害者採用と書いていない場合もあるので、志望会社のHPを見て直接問い合わせや申し込みをした --------永川氏スライド5ページここまで-------- Q2:転職エージェントは使わなかったとありますが、なぜ転職エージェントをお使いにならなかったのでしょうか? A2:転職エージェントを使わなかった理由は、紹介先にマスコミ関係がなかったのはもちろんなのですが、転職エージェントを通してだとうまくいかなかったことがあったのも理由です。障害者枠がある会社や、障害者を雇用した会社、そして年収が低く、契約社員を募集している会社が多く、また、障害だけで見て判断するエージェントが多かったという実感があります。 それなら、行きたい会社に直接申し込みをして、私自身を見てもらいたいと思ったのがきっかけです。私が働きたかったマスコミ業界では障害者採用と書いてあるところは少ないのですが、諦めずに人事のメールアドレスがHPに載っているので、そこから問い合わせをしていきました。 Q3:転職の面接時に印象に残っている質問事項があればご教示をお願いします。 A3:「どうして前職を辞めてまでうちに?」とはどこの会社でも聞かれました。新卒と違って、やっぱり仕事のスキルやコミュニケーション力はより高いレベルのものを求められるので、これまで培ってきたコミュニケーション能力やその他の仕事上の能力をアピールしていました。 ■後輩たちに伝えたいこと --------ここから永川氏スライド6ページここから-------- 質問② <当時の人事部長や周囲からの評価> ・キャラクターが良い ・誰よりも前向きな心 ・ハンデはあるけれどそれを補うに余りある人間力がある <学生時代や社会人のときにやっておくべきこと> ・若い間にたくさん失敗すること ・自分の強みや弱みを自己分析する。普段から情報集めなど就職活動をコツコツする ・先生をはじめとする大人に助言をもらう。そのために大学卒業後も先生とは連絡を取っておく ・上司など周りから可愛がられる人になる。素直に、そして嘘をつかないこと。 --------永川氏スライド6エージここまで-------- Q4:「大人に助言をもらうことが大切」って、これもまたとても重要なアドバイスです。永川さんは、どんなきっかけで大人に助言を得る必要性に気づかれましたか? A4:もともと筑波技術大学は、先生と学生の距離が近く、そこが他の大学にない強みだと思います。実は、私は大学時代に一部の人たちとうまく行かなかった時期があり、その時に大学の先生たちに心配してもらったり、助言をもらったりしていました。そんなときにも前を向いていられたのは、私自身のいい所をずっと肯定し続けてくれてくださっていた先生たちのおかげです。 [32]Q5:永川さんにはロールモデル(有名無名を問わず)は存在しますか?存在するなら、その人から何を学んで、どのように自分の糧にしていらっしゃいますか? A5:ロールモデルは、これまで出会った人すべてです。答えにならないかもしれませんが、私は、すごく人に恵まれていて、運のいい人生だと自負しています。嫉妬していないで、いいなと思った人の行動や仕事の仕方を真似するようにしたり、飲みに誘って、秘訣を聞いたり、アドバイスをもらうようにしています。 Q6:「可愛がられる人になる」ってとても大切なことだとも思います。ただ、その大切さに気づいたとしても、具体的にどうすればいいのか?と悩む学生も多いと思います。何かアドバイス的なものがあれば頂きたいです。 A6:「怒られない人にならない」ということです。大部分の人は、怒られないようにしたい、怒られることが嫌って人が多いですよね。私も怒られるのは嫌です。でも、怒られないようにと考えたら、ごまかしたり嘘をついたりするようになりますよね。逆に、人を怒るのって疲れるしエネルギーがいります。怒られるイコール期待されている、成長してくれると信じてくれているから怒ってもらえるのだと思います。怒られたこと、指摘されたことを次からしないようにすれば いいだけです。私は怒られないようにするのではなく“素直でいる”ようにしています。 --------ここから永川氏スライド7ページ-------- 質問③メッセージ <仕事上で心掛けていること> ・挨拶やお礼は声を出してしっかりと(発音は下手でもOK) ・重要な件はメールと筆談 ・報告・連絡・相談(ほうれんそう)はしっかりと ・自分の機嫌は自分で何とかする(いつも笑顔) ・障害を理解してもらえるようにする。周囲に助けてもらえる人になる <転職について> ・普段からコツコツと準備しておく(地道な活動が実を結ぶ) ・面接のときに人事や役員の方を観察して、会社の雰囲気や社風が自分に合っているかを確認しておく ・将来のヴィジョンが明確でないのに人間関係やお金のためだけでの転職は危険。最初に入社した会社より条件が悪くなる。それはキャリアアップではない --------永川氏スライド7ページここまで-------- Q7:「自分の機嫌は自分で何とかする」って、これもまたとても大切なことですが、どうすれば「機嫌を自分で何とかする」ことができるかアドバイスをいただきたいです。 A7:やっぱり、コミュニケーションだと思います。組織が求めているのは、もちろん有能な人なのでしょうが、私の経験上は何よりも組織の人間関係を良くする人だと思います。人間関係って、難しいようで簡単です。 与える(give)ばかりも求める(take)ばかりもどっちもしんどい。言葉は悪いですが、障害者に多いのは、takeしてもらったからgiveする。私はこの考え方が間違えていると思っていて、私は、giveしたからtakeしてもらえたと思っています。何事においても、“Take and Give”じゃなく、“Give and Take”を大事にしたら、自分の機嫌もよくなって、周囲との人間関係もうまく回るんじゃないかなと思っています。 --------永川氏Q&Aここまで-------- (3)笠原桂子氏 笠原氏には、聴覚障害学生の採用や採用後の人材育成のご経験から、採用側の視点で聴覚障害学生に求めることや期待を語っていただいた。 [33]--------笠原氏Q&Aここから-------- ■採用担当者としての思い Q1:採用担当者として学生へのアドバイスや期待するスキルについて思うことをお聞かせください。 A1:就活とは何かを改めて考えてみてほしいと思います。よくある、「御社に入社するまでにとっておいたほうがいい資格はありますか」のように、資格さえ取れば有利だと思い込んでしまうとか・・・そもそも資格って、付加価値でしかないのに、資格試験に向けてがんばることで、就活をやっている気になっちゃうという勘違いをしている学生さんが多い気がします。また、「私はこんなことを大学で勉強しているけれど、それを活かせる仕事はありますか?」と、今、勉強している内容の延長を会社の業務に期待したりする方もいらっしゃいます。 企業の採用試験は、結局、この学生さんがここ会社に入ったらどんな風に活躍してくれるかな?という画を描けるかどうかがポイントなわけです。仕事に必要なスキルは社員教育の範疇ですが、18 年、20年、22年、24年と年齢を積み重ねてきた中でできあがったご本人の質みたいなところは、社員教育では変えられないので・・・採用試験ではなによりも、お人柄を見られていると思ってほしいです。その積み重ねこそが、社会で求められる「日常生活の積み重ねのマナー」になるわけです。面接中のアティチュードが良くない→今まで、指摘してくれる人がいなかったなんてことはないはず→そういうアドバイスが入らないタイプかも→会社での教育も入りにくい・・・と思われてしまうのではと考えます。会社の教育はコンプライアンスに関わることも多く、ここは重要な視点だと考えます。 また、聴覚障害者が往々に指摘される「わかってない、伝わってないのに伝わったふりをしてしまう癖」について。意外なことに、聴覚障害者が多い会社や、障害者のことを勉強しています、障害者への理解があります、とアピールする会社に多いのですが、「わかってないのにわからなかったと言えない」と、聴覚障害者にラベルを貼ってしまう。 もちろん、当事者の個性で「わからなかった」と言えないのもあるかもしれませんが、「あとでわかるんじゃないか」と全体が終わるまで様子を見ている場合とか、自分が聞き取れた範囲で「分かった」と思い込んでいる場合とか、わからないのは、聞こえなかったからだけなのに、頭が悪いと思われて差別的に見られてしまうんじゃないかみたいな恐怖や自己防衛的な心理とか。あるいは、「こっちがこんなにやってあげてるんだからわかれよ!」という相手の圧に負けてしまったとか、 相手によっても違うわけで、そんな単純じゃないじゃないですか。 だから私は一律に考えたくなくって、「聞き取れず、内容をつかめないことも多いので、その際は確認をさせてもらいます」ということを伝えておき、あとは仕事以外でコミュニケーションをしっかりとって、日ごろから、自分とのコミュニケーション方法を知ってもらっておく。そのうえで、業務上はわからない部分があればやっぱり成果に影響するから、「お互いに確認すること (写真:質問に答える笠原氏(左)) [34]が当たり前」の空気を作っちゃうのが最良の手段なんじゃないかと今は考えています。 ■転職エージェントについて Q2:貴社は障害者雇用に関して新卒、転職のエージェントをお使いですか? A2:前職でも今も使っています。理由として、前職では、中途求人のサイトがなかったので、中途を採用する手法のひとつとして、エージェントを利用していました。現職では、「障害者枠」を設けておりませんので、障害者を募集していることをわかってもらうすべのひとつです。さきほど永川さんがおっしゃったことも一理ありますが、それがすべてではないということはここでお伝えさせてください。 ■アドバイス Q3:ご自分では何がキャリアアップの成功要因だと考えていらっしゃいますか? A3:自分自身のやりたいことに素直であり続け、それに対して努力をし続けたこと。就活をすると、「10年後のキャリアを考えよう」みたいなテーマにぶつかるかと思いますが、私自身は自分のやりたいこと、ワクワクすることを選択し、その選択に責任をもって努力し続けられる自分でありたいと思ってきました。迷い悩むことも今まででは少なくなかったですが、そういうときには必ず誰かが助けてくれて、その差し伸べられた手を信じてまた努力を重ねる、の繰り返しで、結果、「キャリアが向こうから歩いてきてくれた」感じでしょうか。 私は自分の気持ちに素直に、好きだな、やりたいな、と思うことに夢中になり続けてここまで来た感じです。もちろん、大変なことはここで言語化できないくらいたくさんありましたが、それを「大変だ、いやだな」と思うか、「よっしゃ~!お祭りだ!」と思うかですかね。(笑) ですから、だれかに言われてやるのではなくて、自分の気持ちに素直になって就職活動をしてほしいと思います。 「障害への配慮がある」会社を軸に就活している場合じゃないんです。やりたいことを実現できるフィールドがあるところに身を置いてほしい。そのためには、自分は何をやりたいのかをちゃんと言語化してほしい。学生さんには一貫してそこをお伝えしております。 「障害への配慮がある」という軸ではなく、自分のやりたいことを軸に、自分の能力発揮を軸にしなければどんなに障害への理解があっても、配慮があっても、仕事そのものにワクワクしなかったら続かないと思いますし、そんな職業人生もったいないと思うのです。自分がやりたいことは自分でつかむ。でもそうは言ってもやっぱり合理的配慮は必要なことが多いから、それを伝えられる準備をすれば活躍につながるよ、ということです。 Q4:「雇用上の工夫は企業によってさまざまで、正解はひとつではない」とありますが、そこで当事者に対して希望すること、現時点で抱えておられる課題なども可能な範囲で詳しくお聞きしたいです。 [35]--------ここから笠原氏スライド4ページ-------- 1聴覚障害のある社員の雇用上の工夫 雇用上の工夫は企業により様々。正解はひとつではない。 図: 聴覚障害のある社員⇔コミュニティ・異業種交流・補聴機器・外部支援(自身で必要なものを選択) 聴覚障害のある社員⇔研修・OJTなどの社員教育(情報保障) 聴覚障害のある社員⇔上司や同僚との面談,1ON1(情報保障ツール・手法)←【目的】能力開発・能力発揮・活躍支援・定着支援 聴覚障害のある社員⇔上司や同僚とのコミュニケーション(ツール・手法) 聴覚障害のある社員⇔定着支援サポート(ツール・手法) --------笠原氏スライド4ページここまで-------- --------ここから笠原氏スライド5ページ-------- 2聴覚障害のある社員が身につけておくべきこと 就職活動 自己分析→やりたいこと/かなえたいこと/自分の強み/どんな価値を社会に提供したいか/どう社会に貢献したいか←企業側が求める人材とのマッチング 自己分析+合理的配慮の説明→活躍のために必要な合理的配慮?/その合理的配慮の仕組み←【企業側】活躍支援、能力発揮への手がかり --------笠原氏スライド5ページここまで-------- A4:「文字情報をお願いします」「手話通訳をお願いします」という以上、その仕組みをわかっていてほしいと思います。企業側が知っていて当然、というベースから始めないこと、という感じですね。音声認識などはここ数年技術が飛躍的に進みましたが、その使い方を理解していない方もいらっしゃる現実があります。配慮を求める以上、どんなところがどんな技術のものを出しているのかをちゃんと理解して、自分で使ってみて、使い勝手はこうで、こんな違いがある、だから自分はこれとこれが使いやすいです・・・のような感じで提案をしてほしいと思います。 また、企業において手話通訳をつけるということは、音声認識導入以上にそれなりの予算を取っておくことが必要ですが ①手話通訳手配にお金がかかることやその金額 ②会社の仕組みとして予算必要、という仕組み これを理解しているのといないのとでは配慮を求めるときにアプローチが違うと思います。さらに、今の会社や部署の経営状況がどうで、情報保障のための経費をどこかから回してこれるのかなどを知ることも重要です。 同時に代案を出せるのも大事だと思っています。これが自分としては一番いい配慮なのだけれど、難しい場合はこちらでも・・・と、A案、B案、C案くらいまでは持っていてほしいし、単にA案しか持たずに、それがNGとなったときに、「理解がない」で片づけようとする方が多い現実がありますから、そこを何とか良い方向にしていきたいと思っています。そうした改善の向こうにキャリアの開発が待っているのですから。 そのためには、やりたいことへのパッションを持つ。すぐにはできないかもしれないけどいずれはパッションを感じられる仕事に就く。そのために努力をする。これが就職活動だけでなく、入社後のキャリア開発に関してはとても大事なことですから。 ■一般雇用と障害者雇用 Q5:採用側として、「一般雇用」と「障害者雇用」の違いについてご教示をお願いします。 A5:会社によって様々な形態があると思います。例えば、求人の手法として、一般枠、障害者枠のようになっている会社もありますし、入社した後のキャリアなどが分かれている場合、分 [36]かれていない場合があるかと思います。ちなみに、前職では、求人の枠は分けていましたが、入社後には変わりはありませんでした。現職では、そもそも求人の段階でもわけておらず、一般の学生さんと同じようにエントリーされています。どちらが正解、どちらのほうが進んでいる、ということはないと思います。しっかり、その会社の中身を知っていただくことが重要だと思います。一般雇用も障害者雇用も条件は同じだ(差をつけない)という会社も多いことを知ってほしいです。 また弊社では、「仕事ありき」の求人のため、採用基準を下げることはありません。「この仕事をする人」という採用の仕方で、障害が何なのかは関係ないという考え方です。また、求職者にはこの仕事がしたい!この力を生かして社会に貢献したい!そういうパッションが私たち企業は知りたいのです。そのうえで、聴覚に障害があるのですね?では、どんな配慮があったらそのパッションを弊社で実現できますか?あなたの活躍を支援できますか?ということです。 ■合理的配慮の運用 Q6:実際に企業で障害者雇用、合理的配慮の提供の施策を進めるにあたっての課題はありますか? A6:聴覚障害者が多い職場を経験した時に感じていたことですが、「聴覚障害者はこう」みたいなイメージが本当に邪魔だと思いました。ひとりひとりを人間として見ず、「聴覚障害者のAさん」になってしまうというようなことです。あの仕事を担当しているAさんって、聴覚障害があるらしいね。ってあとからそんな情報が出てくるくらいの会社を、社会を、目指したくて私はこの仕事をしています。 ちなみに、前職も、現職でも、「働くうえで必要な配慮」をエントリーシートや面接時に確認しています。その内容が合理的でなかった場合は、その時点で面接官から対話があります。例えば、実際にあった例でいうと、「仕事の時はすべて日本手話で説明してほしい」という希望を出した学生がいましたが、面接官より、「手話ができる社員は限られている、日々の仕事は筆談、メール、チャット等の文字情報がメインになるが、どうか?」というような感じです。 --------ここから笠原氏スライド7ページ-------- 3みなさんへのメッセージ ありたい姿 私の人生の主役は私。 キャリアは私が描き、私が歩んでいくもの。 自分のやりたいことに素直に。 「仕事を通じた自己実現」をしよう! そのために・・・「障がいが基軸の就活」から、「やりたいことをかなえる就活」に。 --------笠原氏スライド7ページここまで-------- ■学生へのメッセージ Q7:最後の「障害が基軸の就活」から「やりたいことをかなえる就活」に、というメッセージが素敵です。そのために必要なことは「勇気」。この点に関してコメントをお願いします。 A7:今の時点では、勇気が出せない自分自身も大切にしてほしいと思います。このシンポジウムを聞くことで、「私には無理かも」と思う人を出したくないです。勇気の出ない自 [37]分自身に向き合い、なぜ勇気が出ないのかをしっかり自己分析すること、それがもう就活のスタートだから大丈夫、不安があったらいつでも相談してね、と伝えたいです。勇気を出したら、今まで想像していたのと違う世界が広がっているかもよ、ってことにできたら早目に気づいてほしいですね。 --------笠原氏Q&Aここまで-------- (4)藤野友紀氏 藤野氏には、大学の教員の立場で、当事者学生が十全に参加できる環境構築の大切さや安心できる関係性構築の必要性を語っていただいた。 --------ここから藤野氏Q&A-------- ■聴覚障害学生への思い Q1:キャリアの視点で、このような学生が社会で評価される、という特徴があればご教示いただけたらと思います。 A1:私の独断が多分に混じっていますが、以下の点でしょうか。 ①約束を守る(ごく当たり前のことですが、遅刻しない、無断欠席をしない、期限までにできない場合には事前に報告する) ②わからないことや困ったことがあれば早めに相談する(相談してくれればこちらも状況を把握できるし余裕を持って対策を考えられるので) ③他者を信頼している(その上で、いつもでなくて良いけれど、利他的行動が取れる人) ④自分で工夫しようとする(やらされてやるのではなく、自分なりに面白がれる人) ■合理的配慮の学内啓発 Q2:学内の合理的配慮に関するご説明を担っておられるとのこと。ご苦労されている点、工夫されている点を差し支えない範囲でお伺いしたいです。 A2:今年初めて聴覚障害学生が入学した他学科の教職員に対して、合理的配慮の説明をしました。その時に留意したのは以下のことです。 ①誰が見てもわかりやすい資料を作成すること(口頭で伝えるだけでなく手元に残るもの、繰り返し参照してもらえるもの) ②合理的配慮は「思いやり」「配慮」ではなく、大学側の義務であり、それは全国的にも世界的にもスタンダードなのだということを当たり前にサラリと、かつ、はっきりと明記すること ③教職員は何をすれば良いか、場面ごとに具体的に列記すること ④わからないとき、困ったときは障害学生支援部署への相談歓迎と伝えること ただし、一回の説明で全てを理解して実行してもらえるとは思っていません。定期的に聴覚障害学生から授業の様子などを聞きながら、障害学生支援部署と連携して必要な手立てを打っていくようにしています。 [38]■就職活動のサポート --------ここから藤野氏スライド2ページ--------- ①現状の取り組み キャリア支援課による標準のサポート ・1年後期から3年後期まで、段階的にキャリア科目「職業と人生」の開講 ・3年生の秋に各学科担当のキャリア支援課職員が学生一人ひとりと面談 ・企業情報の紹介、エントリーシートの添削、希望者には面接指導 「障がい学生のためのキャリアガイダンス」 ・毎年1月ごろにキャリア支援課が開催、ウェブ・サーナやクローバーナビの紹介 アクセシビリティ推進委員会の取り組み ・「障害のある学生のための進路セミナー」(2014~2018年度) ・折々の機会を活用して、インフォーマルに卒業生と在学生の顔合わせ --------藤野氏スライド2ページここまで-------- Q3:エントリーシートの添削の際、聴覚障害学生の文章に何か気になる点はございますか? A3:聴覚障害学生だから気になるということはあまりありません。もっとも、先天性のろうで音声がほとんど入ってきていない学生の場合に、助詞や言い回しに時々誤りが見られることはあり、そのときはこちらで適宜添削します。でもそれは例えば私が英語でアブストラクトを書いたときに、英文校正業者にチェックしてもらうのと同じだと思っています。 他方、聴覚障害の有無に関わらず、「とりあえず字数は埋めているし、日本語として成立しているけれども、何を伝えたいのかよくわからない文章」に出会うことはあります。きっと自信がないままにフワフワと自己完結して書いたエントリーシートだからではないかと思います。 対話を通して本人の強みやアピールできる点を一緒に発見していく過程があれば、何に焦点を当てて書けば良いのかがわかり、少しずつ良いエントリーシートになっていくように感じています。 本学では、キャリアセンターの学科担当者がエントリーシートを添削します。ただし、学生がエントリーシートを持って相談に来れば、です。また、どれだけ学生個人と対話し、これまでの歩みや個性を言語化するための伴走をするかは、職員にも依ると思います。ゼミの担任がエントリーシートを添削することもあります。いつでもどの学生にもするわけではありませんが、学生の方から相談に来た場合には添削しますし、就職活動に行き詰まっているように見える学生にこちらから声をかけたりします。 ■大学が提供できること、提供すべきこと --------ここから藤野氏スライド3ページ-------- ②到達点/教員として大切にしていること ・必要かつ重要な場面では「聞こえない」と言える勇気 そのためには聴覚障害に対する周囲の理解と安心できる関係性が必要 ・さまざまな情報保障手段を知り、状況に応じて使いこなす力 学生時代は自由に試せる期間、普段の授業の情報保障もその一環 ・早い時期にロールモデルとの出会いを 聴覚障害学生も保護者も大学教職員も自分の「思い込み」を崩していく ・通訳等の社会資源に関する知識とそれへのアクセルルートを 大学は通過点、5年後、10年後に社会人として活躍する姿を想像して --------藤野氏スライド3ページここまで-------- Q4:スライド3ページに書かれていらっしゃる「勇気」。これってホントに色んな場で求められる資質だと思います。とはいうものの、勇気を持つ、勇気を出すことって経験の少ない若い人たち、特に学生さんにはハードルが高いこともあろうかと認識しております。この点に対して、大学の教育という面でなにかアドバイスを頂戴できますでしょうか。例えば、ここにお書きになられている「安心できる関係性が必要」、あるいは近年は「心理的 [39]安全性」という概念が企業組織にも浸透しつつありますが、それを促進するために、当事者は、周囲はどんなことをすればよいでしょうか? A4:自分で書いておきながら、「聞こえない」と言う勇気を持つのは難しいことだなと思っています。なぜ言えないのか。それは聴覚障害学生個人の問題ではなく、そうさせてきた周囲の環境の問題ですよね。聴覚障害学生を見ていて、デフファミリー出身の学生よりは聴者家庭に育った学生の方が、そして聾学校出身の学生より地域の一般校で育った学生の方が、「聞こえない」と言いづらい傾向にあるように感じます。育った家庭や学校の違いは、「会話の内容が全てわかって周囲と同等に参加できる」場が保障されていたかどうかに直結します。 私はスライドに「必要かつ重要な場面では」と限定的に書きました。これは、「いつでもどの場面でも聞こえない時には『聞こえない』と言わなければならない」とは考えていないからです。あまりコミットの必要性を感じない場面では、本人にとってやり過ごす方が楽ということもあるし、やり過ごす自由もあると思います。ただ、「自分にとって必要かつ重要な場面」では「聞こえない」と言うことが、周囲を自分の参加しやすい環境に変えていく一歩になります。 それでも、「聞こえない」と言うのは勇気がいることです。その勇気を出すモチベーションは「自分も十全に参加したい」という気持ちであり、それを支えるのは「十全に参加したことがある」「十全に参加できたら自分はこんなに力を発揮できる」という経験に基づいた自信だと思うのです。これが、大学が提供できる・提供すべきことではないかと考えています。 Q5:学生が勇気を出すにあたって、大学や大人は、能天気に「大丈夫だよ。勇気出せ」とポンと背中を押すだけではなく、その前にしっかりと「経験にもとづいた自信をつけさせる」必要性がある。・・・じゃあ、どうやって自信をつけさせるのか、何を経験させるのがよいか、という新たな問いにつながるものと理解しました。 そうすると大学に求められるのは、参加意識、当事者意識、成功体験を持たせるための環境の構築ということになりますでしょうか? A5:先ほど言いたかったことの第一は、(私も含めて)聞こえる教職員への自戒です。すなわち、「聞こえない時は聞こえないって言った方がいいよ」「聞こえているフリをする必要ないよ」と正論として簡単に言って済ませるのはやめよう、ということです。なぜ「聞こえない」と言えないのか、なぜ聞こえているフリをしてしまうのか、その背景を想像し、学生の気持ちに思いを巡らせることなく簡単に言ってはいけない。言われた側は、「そんな簡単にできることなら、とっくにやっているよ!」と、口には出さないけど思っているはずです。そして簡単に正論を言ってくる教職員には心を開かなくなる。聴覚障害学生には想像するよりずっと長くて深い、他人には見えづらい経験があるとの認識を、聞こえる教職員は持つ必要があります。 (写真:質問に答える藤野氏(右) ) [40]「大学に求められるのは、参加意識、当事者意識、成功体験を持たせるための環境の構築」と言語化していただきました。自分では意識していなかったですが、こうして整理していただくと、なにも聴覚障害学生に限ったことではなく、どの学生に対しても負っている教育責任だなと感じました。聴覚障害ではないけれども、さまざまな事情を持った学生の顔がたくさん目に浮かびました。でも聴覚障害学生にカスタマイズして具体的に考えますと、大学にできるのは(大学がしなくてはいけないのは)次の二つだと思います。 ひとつは、参加しやすい状況を作ること。これには情報保障が大きな役割を果たします。ただ、情報保障技術はもちろんですが、ゼミなどで同等に参加できるよう教員が場を調整することも同じくらい重要だと思います。聴覚障害学生を受動的な存在とみなすのではなく、良い発信をする主体として期待しているというメッセージになりますし、その教員の場の調整の仕方を見た他の学生がそれを真似することで、ゼミというコミュニティの共通の文化になっていくからです。 もうひとつは、その学生の良さを発揮できる場を見つけていくこと。学生それぞれ異なりますので、どうやって自信をつけさせるのか、何を経験させるのかについては一概には決められないですよね。その学生が挑戦できそうな課題を設定し、「頑張っているな」「素敵だな」と思ったら、正のフィードバックを本人も含めたみんなに返す。その地道な繰り返しかなと思います。 ■ロールモデルの必要性 Q6:ロールモデルの必要性について尋ねしたいのですが、ロールモデルの存在が有意義に作用することってどのようなことに対してでしょうか? A6:ロールモデルは、「実際に聴者の中で働いている聞こえない先輩の存在」を知ること、「聴覚障害があると仕事が限られてしまう」という思い込みを崩すこと、「就職活動の手順や利用できる資源」を具体的に把握すること、において有効に作用すると思います。 しかし、ロールモデルを提示するときには注意も必要です。大学教職員側にその意図はなくても「押し付け」として受け取られる可能性はあります。「こんな素晴らしい先輩がいるよ」という紹介の仕方では、「あなたもそうなれるように頑張りなさい」というメッセージとして受け止められてしまいます。聴覚障害学生の現在の心理的状況やニーズに合わせて、自然に小出しに計画するほうがうまくいくような気がします。 ■聴覚障害学生へのエール --------ここから藤野氏スライド4-------- ③今後の課題 エンパワメントも含めた体系的なキャリアサポート ・企業側の考え方や合理的配慮の実例を具体的に紹介 ・インターンシップ先との接続をバックアップ ・本学卒業生に限らず、多様な業界の先輩社会人とのアクセル機会を保障 道内企業への就職を希望する学生へのサポート ・本州都市圏のほうが採用件数も多く、働きやすい環境であるという現状 ・障害学生を対象とした説明会は道内では開催されない ・しかし、道内企業も優秀な学生を採用したいはず… 大学として、私たちにできることは? 「聞こえ」と「社会人として働く能力」は全く別のものです。「聞こえ」がバリアにならない環境づくりをそれぞれの立場で進めていきましょう! --------藤野氏スライド③ここまで-------- Q7:「聞こえ」と「社会人として働く能力」は全く別のもの。ほんとにその通りです。聞こえないことに起因してできないことがあれば、そこは助けてもらえばよいと考えますが、このようなメッセージと受け止めてよろしいでしょうか。 A7:はい、その通りだと思いますが、「聞こえないことに起因してできないことがある」のは、「聞こえることを前提にして課題や業務が設定されている」ということです。そう考えると、「助けてもらう」という言葉は少し違うようにも思います。 [41]「聞こえることを暗黙の前提とした課題や業務を、きこえなくてもできるように改善する」「それでもなお聞こえることが必要とされる課題や業務であれば、適材適所で担当を振り分ける」ということかなと思います。でも、あまり言葉にこだわりすぎるのも本質から逸れてしまいますし、「課題や業務の改善」を行なっていく過程で自分のニーズを伝えて助けてもらう(環境改善の理解者を増やす)ことは必要ですよね。学生の皆さんには「助けてもらう」のは「自分ができない」からではなく、「自分やひいては後輩たちの働く環境を良くしていくためだ」という意味づけをしてもらいたいなと思います。 --------藤野氏Q&Aここまで-------- 3.まとめ 本企画を終えて、4名の登壇者による「聴覚障害があっても積極的にキャリアのことを考えていいんだよ」というあたたかさに満ちたメッセージに、どこかで必ず勇気づけられる学生がいると確信した。今後も、一人でも多くの聴覚障害学生に必要なアドバイスが届くよう、より一層の有意義な情報発信に努めたい。 報告者:日下部隆則(筑波技術大学産業技術学部) --------ここからセミナースライド-------- [42]進行スライド P.1 第19回日本聴覚障害学生高等教育支援シンポジウム ~一人ひとりの聴覚障害学生の“ニーズ”を支える~ セミナー みんなで積極的に考えよう! 聴覚障害学生のキャリア 司会:後藤由紀子(筑波技術大学) ◆元障害者職業カウンセラー (障害がある方の就労支援をしていました) ◆現在は、聴覚障害学生の就職相談、聴覚障害のある社会人向けのリカレント教育等の担当しています。 資格:精神保健福祉士、手話通訳士、キャリアコンサルタント モデレーター:日下部隆則(筑波技術大学) 登壇者:藤野友紀氏(札幌学院大学) 永川智晴氏(関西テレビ放送株式会社 クリエティブ本部 報道局報道センター) 笠原桂子氏(住友重機械工業株式会社 人事本部 人事戦略部) 大田竜聖氏(同志社大学 政策学部4年次生) ※筑波技術大学「聴覚障害者のためのキャリアサポートセンターの設置」事業(日本財団助成 P.2 日本財団助成事業「聴覚障害者のためのキャリアサポートセンターの設置」 筑波技術大学にて、令和元年度~令和5年度の5か年計画で受託。 当事業の目的は、「聴覚障害学生が自らの進路を積極的に選択できるための情報や機会の提供、就職後の職場環境に関する提案ならびに相談対応、大学卒業後も学び続けられる場の整備 などを通じて、多面的なキャリアサポート体制を構築すること」。 「聴覚障害者のためのキャリアサポートセンターの設置」事業 (「聴覚障害者のためのキャリアサポートセンターの設置」事業に関する説明の表) 当事業について  企業等で就労している聴覚障害者が、業務を遂行する上で周囲とのコミュニケーション等に困難を感じることがあります。しかし大学在学中から就職後にかけて、就職に向けた不安や職場での困難さについて相談できる場所は多くありません。  当事業は、聴覚障害のある社会人の方々、聴覚障害者を雇用している/これから雇用する企業の方々、大学等に在学中の聴覚障害学生の方々を対象としております。  就労上の困りごとに関する相談対応やスキルアップ・キャリアアップに資するサポート講座の開催、現役学生へのキャリア教育、聴覚障害者を雇用する企業への理解啓発などを通して、聴覚障害者の生涯を見据えたキャリアサポートに取組みます。 事業概要 当事業の概要は、以下の通りです。 社会人対象事業 就労上の悩みや情報を交換する情報交換会の開催 職業生活に役立つ知識、情報を提供する 相談対応拠点事業 つくば拠点(筑波技術大学内)、東京拠点(サテライトオフィス)にて相談対応を行います。 企業対象事業 会社説明会におけるコミュニケーション支援 聴覚障害者の雇用管理等に関する相談 等 現役学生対象事業 社会人の聴覚障害者の話を聞く会の開催 ⇒就労する上で必要なスキルを在学中に学ぶことを目的としています。 企業説明会の開催 等 当事業は、日本財団の助成を受けて行われています。 ホームページはこちら! ⇒https://tsukutech-social.net/site/ お問い合わせ先 〒305-8520 茨城県つくば市天久保4-3-15総合研究棟R207室 国立大学法人筑波技術大学 「聴覚障害者のためのキャリアサポートセンター」つくば拠点 EL/FAX 029-858-9021 E-mail career_support@tsukutech-social.net 詳しくは、会場後方の 「実践発表(ポスター)展示」で! チラシも配布しています。 P.3 本題に入る前に… 皆さまのことを教えてください!(手をあげてください) 大学教職員の方? →聴覚障害のある学生さんの支援経験のある方? →聴覚障害のある学生さんの就職支援経験のある方? 大学生の方? →就職活動中の方? 企業関係の方? →聴覚障害のある方の 採用経験 or 一緒に働いた経験のある方? P.4 セミナー「みんなで積極的に考えよう!聴覚障害学生のキャリア」 聴覚障害学生のキャリア・キャリア支援に関する疑問や不安 「大学は学生のキャリア支援のために何をしたら?」 「ITツールをうまく使って働きやすい職場を作るには?」 「企業はどんな学生を求めている?」 などなど…  このセミナーでは、 聴覚障害当事者 企業関係者 大学教員 それぞれの立場からのリアルな声をお届けするとともに 参加者の皆さまと意見交換をしていきます。 P.1 本日の進行について(1) 1.モデレーター 日下部 隆則 くさかべ たかのり筑波技術大学 聴覚障害者のキャリアサポートセンター 聴覚障害当事者) ・大手民間企業で人材育成業務等に従事 ・聞こえるメンバーだけの組織のマネジメント職経験 ・前職の私立大学でコーディネーターとして障がい学生支援業務に従事 2.講師とご発表内容について 配布資料をご確認ください ① 現役学生(聴覚障害当事者の視点で発表) ② OG社会人(聴覚障害当事者の視点で発表) ③ 企業人事(採用、育成側の視点で発表) ④ 大学教員(大学側の視点で発表) P.2 本日の進行について(2) 3.具体的な進行 ①講師のご発表 ※この後で会場再設定に3分程度お時間を頂きます。その間に質問票にご記入ください。 ②モデレーターと講師のコミュニケーション ③会場からのご質問と講師のコミュニケーション ④講師のご感想・コメント ⑤クロージング (お断り)本日すべての質問を取り上げることは時間的に不可能ですが、後日発行される報告書ではご質問への回答内容を記載予定ですのでぜひ積極的なご質問をお願いします。 [43]大田氏スライド P.1 PEPNet-Japanセミナー 聴覚障害学生のキャリア形成 ~就職活動を通して~ 同志社大学  大田竜聖 P.2 自己紹介 大田竜聖(おおた りゅうせい) 同志社大学 政策学部 政策学部 4年次(2020年度入学) 聴覚障害:両耳感音性難聴(右95デシベル、左98デシベル) 来春から京セラ株式会社に就職 写真:夕日を背景にした浜辺のブランコで撮った写真 図:KYOCERAのアイコン P.3 就職活動の状況 3年次の春から就職活動を開始(障がい者枠雇用に決めていた) →学内のキャリアセンターに通って情報収集、面接練習等の対策 ※キャリアセンターの障がい学生担当の方との面談(6月~翌6月) →並行して、ウェブサーナでも情報収集し、障がい学生向けの企業説明会にも複数回参加(8月~翌4月) →SPI、複数回の面接を経て、4年次の6月末に内定獲得 P.4 私が京セラ入社を希望したきっかけ 学内で実施された字幕システムの実証実験にユーザーモニターとして参加。 →中間報告会にて、改善点を徹底的に追及する姿勢と、製品だけでなく、 それを必要とする人々の生活背景にまで目を向ける姿勢に感服 →ユーザーに寄り添い、生活の不便を解消するモノづくりを体感する →どこまでもユーザーに 寄り添ったモノづくりに挑戦したい 写真:京都新聞2023年1月24日(火)一面(記事詳細:リアルタイムで会話文字変換・表示 字幕システム広がる 京セラ開発7か国語翻訳機能も P.5 内定先での面接 面接は、静かな個室で1対1の環境 UDトークとパソコンを接続した大画面での文字情報保障 また、会話する際にはマスクを外して口を大きく開けていただいた 志望動機や自己PRはもちろん、どのような障がいを持っているか、仕事をするうえでどのような支障が出るのかという質問があった ←モノづくりを通して様々な特性を持った人も含めて人々の日常生活をさらに便利にしたいという熱意と 自身の障がいの状況と、どのような配慮をしてほしいかをしっかり伝えることを心掛けた P.6 聴覚障害学生に伝えたい事 ①学生のうちに様々なことに挑戦してほしい →いろいろな人と出会い、関わることで自分のやりたい事が見つかったり、その延長線上で就職につながる大きな転機が訪れたり無限の可能性がある ②自身の障がいの状況と、してほしい配慮をしっかりと言語化して、遠慮せず願い出てほしい →配慮を受けることは「権利」であり、心地よい最適な環境を作るためにもしっかりと相手に伝えること躊躇しないでほしい [44]永川氏スライド P.1 PEPNet-Japanシンポジウム 筑波技術大学5期生 関西テレビ放送(株)報道部報道センター 永川智晴 P.2 自己紹介 ・大阪出身 ・高校卒業までは健常の学校 ・聴力は両耳100db超え(電話での聞き取りは不可能) ・関西テレビ放送(株)報道部で働いてもうすぐ2年目 ・6・7歳頃に関西テレビのドキュメンタリー「ちはるとちえ」に出演(当時の動画がカンテレのYouTubeにアップされる予定) ・「聞こえないけど、婚活してみました…!?」を出版 写真1:女の子2人が洋食と共に撮られた写真 写真2:聞こえないけど婚活してみました・・・!?の表紙 P.3 会社経歴 大学卒業後… ・ソフトバンクモバイル社に入社 営業職(2年4カ月) 主な業務:ショップスタッフの育成や研修の動画作成 ・毎日新聞大阪本社に転職(5年半) 4年間は人事・総務部 その後、点字毎日部に異動 (経理や新聞の発送などの事務) 写真:東京オリンピック聖火ランナーでトーチを持ったご本人の写真 P.4 会社経歴 現在…関西テレビ放送(株)報道部 ≪業務内容≫ ・テレビで報じられたニュースを読み物記事として、配信媒体にアップ ・配信されたニュースがどれくらい読まれているかを分析 ・独自に取材し記事作成/配信 <これまで取材したこと> ・2025年東京デフリンピック ・難聴のプロバスケ選手 ・手話カフェ 写真1:オフィスで人に話しかけている様子の写真 写真2:座ってインタビューをする写真 写真3:男性とのツーショット写真 P,5 質問① <転職理由> ・年収のアップ/キャリアアップ ・働くにつれ、将来のキャリアプランが明確に ・“障がい者スポーツ”に携わる仕事がしたいという思いが強くなった <転職先の情報の取得> ・転職エージェントは使っていない→マスコミ関連はあまりない/契約社員ばかり ・志望会社のHPを見て直接問い合わせや申し込み→障害者採用と書いていない場合もある P.6 質問② <当時の人事部長/周囲からの評価> ・キャラ ・誰よりも前向きな心 ・ハンデはあるけれどそれを補うに余りある人間力がある <学生時代/社会人のときにやっておくべきこと> ・若い間にたくさん失敗すること ・自分の強み/弱みを自己分析!→普段から情報集めなど転職活動をコツコツする ・先生をはじめとする大人に助言をもらう→大学卒業後も先生とは連絡を取っておく ・上司など周りから可愛がられる人に→素直に嘘をつかないこと [45]P.7 質問③メッセージ <仕事上で心掛けていること> ・挨拶/御礼は声出してしっかりと(発音は下手でもOK) ・重要な件はメールと筆談 ・報連相はしっかりと! ・自分の機嫌は自分で何とかする(いつも笑顔) ・障害を理解してもらえるようにする→周囲に助けてもらえる人に <転職について> ・普段からコツコツと準備をしておく(地道な活動が実を結ぶ) ・面接の時に人事や役員の方を観察→会社の雰囲気や社風が自分に合っているかを確認 ・将来のヴィジョンが明確でないのに…人間関係やお金だけで転職は危険! →最初に入社した会社より条件が悪くなる。キャリアアップではない 笠原氏スライド P.1 みんなで積極的に考えよう! 聴覚障害学生のキャリア 住友重機械工業株式会社 笠原桂子 P.2 (スライド投影のみ) P.3 (スライド投影のみ) P.4 1聴覚障害のある社員の雇用上の工夫 雇用上の工夫は企業により様々。正解はひとつではない。 図: 聴覚障害のある社員⇔コミュニティ・異業種交流・補聴機器・外部支援(自身で必要なものを選択) 聴覚障害のある社員⇔研修・OJTなどの社員教育(情報保障) 聴覚障害のある社員⇔上司や同僚との面談,1ON1(情報保障ツール・手法)←【目的】能力開発・能力発揮・活躍支援・定着支援 聴覚障害のある社員⇔上司や同僚とのコミュニケーション(ツール・手法) 聴覚障害のある社員⇔定着支援サポート(ツール・手法) P.5 2聴覚障害のある社員が身につけておくべきこと 就職活動 自己分析→やりたいこと/かなえたいこと/自分の強み/どんな価値を社会に提供したいか/どう社会に貢献したいか←企業側が求める人材とのマッチング 自己分析+合理的配慮の説明→活躍のために必要な合理的配慮?/その合理的配慮の仕組み←【企業側】活躍支援、能力発揮への手がかり P.6 (スライド投影のみ) P.7 3みなさんへのメッセージ ありたい姿 私の人生の主役は私。 キャリアは私が描き、私が歩んでいくもの。 自分のやりたいことに素直に。 「仕事を通じた自己実現」をしよう! そのために・・・「障がいが基軸の就活」から、「やりたいことをかなえる就活」に。 藤野氏スライド P.1 自己紹介 氏名:藤野友紀 所属:人文学部人間科学科心理・教育専攻 担当科目:発達心理学、保育内容、フィールドワーク、ゼミナール等 校務の一つとして:アクセシビリティ推進委員会委員(10年目) ・聴覚障害学生の入学前面談への同席、教職員に対して合理的配慮を説明 ・情報保障の改善に向けた体制構築と各所連携 学科教員として:これまで7人の聴覚障害学生のゼミ担任 地域活動:(公務として)北海道聴覚障がい者情報センター運営委員 (個人として)手話サークル、時々、登録手話通訳者の活動 [46]P.2 ①現状の取り組み キャリア支援課による標準のサポート ・1年後期から3年後期まで、段階的にキャリア科目「職業と人生」の開講 ・3年生の秋に、各学科担当のキャリア支援課職員が学生一人ひとりと面談 ・企業情報の紹介、エントリーシートの添削、希望者には面接指導 「障がい学生のためのキャリアガイダンス」 ・毎年1月頃にキャリア支援課が開催、ウェブ・サーナやクローバーナビの紹介 アクセシビリティ推進委員会の取り組み ・「障害のある学生のための進路セミナー」(2014~2018年度) ・折々の機会を活用して、インフォーマルに卒業生と在学生の顔合わせ P.3 ②到達点/教員として大切にしていること 必要かつ重要な場面では「聞こえない」と言える勇気を そのためには聴覚障害に対する周囲の理解と安心できる関係性が必要 さまざまな情報保障手段を知り、状況に応じて使いこなす力を 学生時代は自由に試せる期間、普段の授業の情報保障もその一環 早い時期にロールモデルとの出会いを 聴覚障害学生も保護者も大学教職員も自分の「思い込み」を崩していく 通訳等の社会資源に関する知識とそれへのアクセスルートを 大学は通過点、5年後・10年後に社会人として活躍する姿を想像して P.4 ③今後の課題 エンパワメントも含めた体系的なキャリアサポート ・企業側の考え方や合理的配慮の実例を具体的に紹介 ・インターンシップ先との接続をバックアップ ・本学卒業生に限らず、多様な業界の先輩社会人とのアクセス機会を保障 道内企業への就職を希望する学生へのサポート ・本州都市圏のほうが採用件数も多く、働きやすい環境であるという現状 ・障害学生を対象とした説明会は道内では開催されない ・しかし、道内企業も優秀な学生を採用したいはず…大学として、私たちにできることは? 「聞こえ」と「社会人として働く能力」は全く別のものです。「聞こえ」がバリアにならない環境づくりをそれぞれの立場で進めていきましょう! --------ここまでセミナースライド-------- [47]アフターセッション 「聴覚障害学生支援に関する実践発表2023」 企画コーディネーター 磯田恭子(筑波技術大学) 1.概要 4年ぶりの対面開催となったことから、参加者間での情報交換と事例共有を目的として本企画を実施した。本企画については参加者投票や表彰を行わず、また、発表者の属性も問わない形で、幅広いテーマでの発表者を募集した。 2.当日の様子 学生を中心とした日々の支援活動に関する実践報告や、教職員の事例・研究報告など13件hの発表が行われた。どのブースでも活発な意見交換の様子が見られ、熱気に溢れていた。 久しぶりに参加者同士が直接意見を交わす場を設けることができ、発表者からは「他の機関や大学の実践を知ることができ、また発表することで自らの実践を見つめ直すこともできた」という感想も頂戴した。このように参加者同士が実践を交換し、交流を深められる場を今後も継続して設けて行ければと思う。 最後に、発表団体とタイトルは以下の通りである。(発表内容はP49以降に掲載) ①愛知教育大学 学生支援課 障害学生支援室  情報保障支援学生団体「てくてく」におけるピアサポート活動の成果と課題 ②千葉大学 ノーテテイク会 少人数世代が中核を担う情報保障活動の持続 ③大阪教育大学 障がい学生修学支援ルーム 学生主体の「PCテイク特待生」の紹介 ④東京都立大学 ダイバーシティ推進室 支援からはじめよう!支え合う社会の実現 ⑤宮城教育大学 しょうがい学生支援室 つなぐ~過去から現在そして未来へ~ ⑥日本福祉大学 学生課 学生支援センター 学生支援センターとサポート学生の取組み 情報保障を支える仕組みの紹介 ⑦愛媛大学 アクセシビリティ支援室 オンデマンドと対面を併用した支援者養成 ⑧北星学園大学 アクセシビリティ支援室 聴覚情報保障のためのソフトウェア活用選定に関する実践報告 ⑨九州大学 インクルージョン支援推進室 大学間連携によるノートテイク共同実践の効果と課題 -ノートテイカー学生への聞き取り内容から - ⑩筑波大学大学院 人間総合科学研究科 石田祐貴 難聴者の情報保障の選択に関わる要因 - 1事例の検討 - ⑪東京大学先端科学技術研究センター 当事者研究分野 熊谷研究室 当研究室における「雑談の見える化」の取り組み ⑫筑波技術大学障害者高等教育支援センター 大杉豊 発話者の方向と反応を表示する音声認識アプリが示す情報保障の可能性 報告者:磯田恭子(筑波技術大学 障害者高騰教育研究支援センター) --------ここから実践発表ポスター-------- ①愛知教育大学 タイトル:情報保障支援学生団体「てくてく」における学生講座の成果と課題 発表者:細川祥吾 後藤恵 萩梨奈 大口万里亜(愛知教育大学 てくてく) ■背景 ◆今年度100名を超える1年生が情報保障支援学生団体「てくてく」に加入した。 ◆長年の課題として「支援の質の保障」があり、その改善策として、てくてくでは「学生が主催する保障の質の向上を目的とした学生講座(以下、学生講座)」を始めた。大学では「学生支援者の養成を目的とした講義」が開講された。 ◆学生講座について、今年度は2つの活動が行われた。 ①パソコンテイクを利用者側で疑似体験する活動と、手話の理解と支援学生同士のつながりを増やすことを目的とした②手話部の活動である。 ■①パソコンテイクの疑似体験 目的:支援学生が授業のパソコンテイク支援について利用者側の視点で疑似体験し、支援の質を高める方法を考える。 講座内容:昼休みに約30分のワークショップ(同じ内容)を2回開催し、延べ10名の参加があった。利用者役(ヘッドホン着用)は文字情報だけで授業を体験し、支援者役は模擬授業のパソコンテイクを行った。その後お互いの立場から感想や改善点を共有した。これを利用者役と支援者役の立場を交代して再度行った。 写真:ノイズが流れるヘッドホンをして、文字情報だけで授業を受ける体験をする様子 写真:利用学生と支援学生で行った研修会の集合写真 ■課題 課題として、活動の継続の難しさが挙げられる。今回のような活動に、より多くの支援者が参加し研修できるように団体として継続的に企画・運営を行う基盤作りが課題である。後期は毎週木曜日の昼休みに支援者向けのミニ講座を計画している。 ■成果 「『文字情報』と『授業のスライド』と『話者』を同時に見るのはとても大変だった」という感想が多かった。授業支援を行うのみでは気づかない発見であり、講座の目的を達成することができた。また、講座を企画・運営した学生からは「当日の準備や改善点の共有を学生同士で行えたことに、大きなやりがいを感じた」という感想を聞くことができた。これは、学生主体の活動特有の成果と言える。 ■②手話部 目的:手話の学習を通して学生同士の交流を深める。 講座内容:毎週木曜日の昼休みに約30分のワークショップを合計13回行った。 毎回10~20名の参加があり、昼食を取りながら和んだ雰囲気で学習を進めた。 講座内容は、前半で指文字や基本的な手話を教えた後、後半は実際に手話を使って参加者同士の交流を行った。指導者は、特別支援教育専攻の3年生が担当した。聴者の支援学生だけでなく、聴覚障害のある利用学生が手話の指導を行うことで、授業以外の交流の場となった。 写真:手話部の様子。4人の小グループで手話で会話する様子 写真:8人が輪になり、手話で自己紹介をしている様子 ■成果 手話部の活動を通して、定期的にてくてく関係者の学生が集まることで、授業での緊張した時間と違って、互いについて情報共有をする場が生まれた。参加学生から「学生間のつながりがより強くなった」「支援をすることへのモチベーションが上がった」との感想が挙げられ、目的を達成することができた。 ■課題 課題として、参加学生の偏りが挙げられる。毎週同じ曜日の同じ時間に行ったため、授業や課外活動により都合が付かず、参加できる学生が限定されてしまった。手話に興味のある学生は多いので、手話部の活動の機会を増やしていきたい。 ■まとめ 学生が主体となって企画・運営を行った学生講座は、両講座ともに当初のそれぞれの目的に加えて、学生同士の学び合いから、支援の枠に留まらない場作りや新たな気づきを学生に提供することができた。これは、教員が教えて学生が学ぶ正課の活動では得ることのできない学生講座特有の学びであった。今後もこのような学生講座を継続し、学生同士で学び合うことで質の向上を図りたい。 以上 ②千葉大学 ポスタータイトル:少人数世代が中核を担う情報保障活動の持続 発表者:千葉大学ノートテイク会 ■① 千葉大学ノートテイク会の現状 テイクを主に担える学生の不足 表:2023年度前期のデータ (利用学生:3 年生1名 週あたり派遣コマ数:7コマ 固定担当テイカー:7名 登録テイカー:17名) コロナ禍入学の少人数世代であること、また、利用希望コマとテイカー空きコマの不一致が生じ、テイクを主に担える学生の不足。 固定担当充足率は66.7%で高い派遣中止リスクがある。 ・補足:千葉大学ノートテイク会のテイク派遣システム 固定担当テイカー:半期の間、同一曜限のテイクを担当。 臨時テイカー:各週、固定担当者の欠席・不足枠を充足。 *各授業を担当できるテイカーが1人の場合、テイク不能として派遣中止。 ■② 2023年度前期の取り組みと成果 固定担当テイカー+臨時テイカー制で、毎週担当できない学生もテイク参加可能にし、98%派遣達成(テイカー充足率94%)。なお、臨時テイカーへの情報共有・引継として、頻出単語・Fキー用語・配布資料を共有。 入会直後の練習会・研修会重点開催と、テイク技能検定実施時期の弾力化といった、新入会員の迅速な育成により、学期中のテイカー2名増員を実現。 写真:2人の学生がPCノートテイクの練習をしている様子(練習会活動風景) ■③ 今後の課題 情報保障の質向上。 安定的なテイカー数確保に向けた広報活動。 ・問い合わせ先 千葉大学ノートテイク会 会長:信太郁美 副会長:大江夏菜・吉原光咲・中島朋幸・森高楓 メール:info<アットマーク>ntkal.skr.jp サイト:http://ntkai.skr.jp X:@chiba_ntkai 以上 ③大阪教育大学 【タイトル】 学生主体のPCテイク研修「PCテイク特待生」の紹介 【発表者】 大阪教育大学 障がい学生修学支援ルーム 小馬加奈子 谷口慧 ■研修体制 サポート学生になるときにすべての活動の基礎となる基礎研修を受講し、「インクルーシブ教育」や「合理的配慮」、「大学における支援」への理解を深める。 その後、それぞれの支援の応用研修を受講して支援活動に参加できるようになる。 PCテイクの応用研修であるPCテイク特待生は、全6回(必修3回+応用3回)構成。 必修を終え、タイピングが基準速度(3.5key/秒)に達すると、研修完了となる。 「基礎研修(基礎動画・ガイダンス・障がい者支援入門)」を受講したのちに、「PCテイク」「字幕挿入」「手話」「テキストデータ化」の応用研修を受講できる。 ■特待生 「PCテイク特待生」は、教職員の管理の下、学生が講師となって行われる実践研修。23年度は前期7コマ、後期3コマ開講。 毎週1コマ(90分)、受講生1~4人/講師1~3人程度の小グループに分かれて研修を行う。 講師担当の学生はPCテイカーから募集し、通常の支援活動と同じ謝金(1100円/時間)が支払われる。 研修計画に沿って研修は行われ、知識の伝達だけではなく、実際に入力し実践することを大事にしている。 特待生研修の前には講師同士で情報共有を行い、期間中もグループチャットで進捗やおすすめの教材などを共有している。 研修各回ごとの内容は報告書に記載し、教職員が確認・フィードバックを行う。 その他、特待生特別編やテイカー勉強会などの機会を設けて技術を途切れさせないようにしている。 第1回:タッチタイピングなど入力の基本 第2回:発展的な入力方法、トラブル対応 第3回:CaptiOnlineを用いて連携の実践 第4回~第6回:模擬授業動画等を用いた連携入力の実践、発展的な状況でのテイク練習 (第1回~第3回が必修、第4回~第6回が応用) (特待生活動中に教えあう様子の写真2枚) (特待生実施報告書の実例) ■受講生から ・学生同士で行うので “研修”の堅い雰囲気があまりない。  →支援というものが遠いもの、難しいものではなく、自分でも取り組みやすそうだと思える。 ・できることが増えたときに褒めてもらえることがモチベーションにつながる。 ・テイクでのトラブルや、その際の対応について実際に起こったことを聞くことができる。 ・デビュー時の相方が特待生講師の先輩で安心してデビューできた。 ・自分が教えてもらった講師から誘われて講師を担当することにした。 ・教えることで、自らの知識を再確認することができる。 ・他の講師とテクニックを交流したり、自分とは違うポイントを知ることができる。 ・普段行っているテクニックやポイントを繋ぐことができる。 ・学生同士で教える工夫や準備などが自らの糧になる。 ■講師から ・自分が教えてもらった講師から誘われて講師を担当することにした。 ・教えることで、自らの知識を再確認することができる。 ・他の講師とテクニックを交流したり、自分とは違うポイントを知ることができる。 ・普段行っているテクニックやポイントを繋ぐことができる。 ・学生同士で教える工夫や準備などが自らの糧になる。 ■サポート学生の支援に対する気持ちの変化 ①「支援」って難しそう、なにができるのかわからない。 特待生への参加 ②できることが増え、支援が身近なものになる ③学生同士の関係が深まりルームが居場所になる ④その中で主体的に活動していく ⑤支援が「あたりまえ」に ■職員より ・PCテイクのニーズが少なかった年も、特待生研修を行うことでモチベーションの維持や、技術をつないでいくことができた。 ・個々の進捗状況や、テイクスキルが報告書にまとめられているので、テイカーのコーディネートの際に参考になる。 ・学生間でのコミュニケーションが活発になることで、支援に対する理解が深まり、想いの共有の場となっている。 ・普段の支援活動では、トラブルや改善案があったとしても学生からの提案が少ないが、特待生の講師間での話や、報告書などで課題に気が付いたり改善点を提案してもらえたりと、支援について主体的にかかわるきっかけとなっている。 ・学生が主体であるからこそ、学生の負担にならない形を探していきたい。 ・学生同士の空きコマに行われるため、どうしても合わず、次回の研修となることがある。 以上 ④東京都立大学 タイトル:東京都立大学ダイバーシティ推進室の活動紹介 支援からはじめよう!支え合う社会の実現 発表者:東京都立大学ダイバーシティ推進室 ■Mission 誰もが誇りに思える社会の創造を ■Vision 価値観をアップデートすることで、お互いを仲間として受け入れられる社会の実現 ■Value ・お互いの違いに気づき、向き合い、そして共に歩む ・どんな時もワクワクと楽しむ心を大切にする ■支える 充実した支援体制の構築 ・パソコンテイク ・ノート代筆 ・字幕挿入 ・養成講座 ・点訳本の簡易製本作業 ■拡げる 誰もが利用しやすい大学への改善 ・バリアフリーチェック講習会 ・言葉の地図 ・都立大生のための手話動画辞典 ■学ぶ 多様性に関する新たな知識の獲得 ・ダイバーシティウィーク ・BF講習会 ・外部講師による手話講習会 ・専門手話表現の開発(自主ゼミ) ・他大学&機関見学 ■交わる イベントを通じた交流機会の提供 ・高尾山&BBQなど ・オープンキャンパス&青鳩祭 ・よるダイバー 問い合わせ先:東京都立大学ダイバーシティ推進室 〒192-0397 東京都八王子市南大沢1-1 南大沢キャンパス図書館1階 Tel:042-677-1337 Email: diverwww<アットマーク>tmu.ac.jp HP:https://diversity.fpark.tmu.ac.jp/ X(Twitter):https://twitter.com/diver1_official 以上 ⑤宮城教育大学 タイトル:「つなぐ」~過去から現在そして未来へ~ 発表者:宮城教育大学しょうがい学生支援室 TEL・FAX:022-214-3651 Email:csd<アットマーク>grp.miyakyo-u.ac.jp (写真:運営スタッフ7名の写真 左から 聴覚2年宮脇瑞季 聴覚3年繁在家鈴香 聴覚3年須貝あずさ 聴覚4年八島奈々 聴覚3年籾山千笑実 聴覚2年佐藤亮太朗 聴覚2年芳賀弘基 が紹介付きで並んでいる) (図:宮城県の図形から宮城教育大学の場所にピンが刺さっている。ピンの場所を起点とし右端にかけて虹がかかっている。虹には、起点近くに過去の文字、中心あたりに現在、右側あたりに未来の文字が入っている。過去には2つの吹き出し、現在には4つの吹き出し、未来には1つの吹き出しがついている。) 過去 ■情報保障の技術継承 T-TAC Captionにおける連携入力の技術や手書きノートテイクの方法、音声認識通訳の誤字修正などの技術を未経験者に教えつないできた。 ■学生運営スタッフの運営方法の伝承 広報、練習会、イベントという3つの柱を軸に利用学生と支援学生をつなぐ運営の方法を基盤とした。 現在 ■不定期イベント 利用学生と支援学生が講義以外で交流できる場をつくるために様々なイベントを企画し行っている。 (例:交流会、反省会、顔合わせ会など) ■練習会 支援学生を集め、より質の高い情報保障を目指し、授業と同様に話した内容をペアで打ち込む、連携入力の練習を行っている。 (写真:正面の画面にはT-TAC Captionの様子を映し出し、6人の人がパソコンを見ている。2人の人がパソコンを見ている人に説明をしている) ■自己紹介カード 利用学生が支援学生を、支援学生が利用学生やペアの支援学生を知ることができるよう自己紹介カードを作成してもらい、クラスルームで公開している。 ■説明会 情報保障の活動に興味がある学生を集め、情報保障とは何のために、どのように行っているのかを説明し、支援学生の勧誘を行っている。 (写真:4人の人が輪になり机に座っている。パソコンを開きながら座り会話をしている。) 未来 ■他大学等での情報保障 技術をこれからも伝承していくために、支援学生の足りない他大学において、遠隔パソコンノートテイクという形で、本学の支援学生がともに情報保障を行うという方法も・・・ 以上 ⑥日本福祉大学 発表者:日本福祉大学学生支援センター ■本学の障害学生の実態 本学の障害学生は全体で138人におり、そのうち聴覚障害学生は25人、重複障害学生は15人在籍している。 円グラフ:本学の障害種別割合について 視覚障害7% 聴覚障害16% 肢体障害16% 内部障害9% 発達障害17% その他25% 障害の重複10% 表:本学の障害種別人数について 視覚障害10人 聴覚障害25人 肢体障害24人 内部障害14人 発達障害26人 その他39人 合計138人 ■サポート学生の配置状況 支援を必要とする授業数は、UDトーク修正が72コマ、手話通訳が1コマ、ノートテイクが8コマ、ポイントテイクが12コマの計93コマにサポート学生を配置した。 実際に、社会福祉学部が37名、教育心理学部が21名、スポーツ科学部が5名、健康科学部が6名、経済学部が3名、国際福祉開発学部1名、看護学部0名、のサポート学生が活動した。 ■支援体制 支援体制には、キラットとプレミアという制度があり、 キラットはサポートしたい気持ちを優先するもので初心者でもOK、同時履修OK、空きコマでもOK、障害のある学生の支援ならどんな活動でもOKとしている。 手続きは、サポート学生登録をするだけ。支援に入るとキラットポイントをもらうことができ、そのポイントと引き換えに障害学生支援活動奨励金として、年2回、ポイントに応じて500円~20,000円の金券等がもらえる。 プレミアは技術と責任を持って支援に入ってもらうもので、活動経験があること、自分の空きコマで 活動すること、授業内支援としてUDトーク修正、ノートテイク、パソコンテイク、肢体障害学生の代筆、 資料めくり等がある。 手続きとして、採用手続きのための書類の提出が必要であり、毎回、支援の開始時刻と終了時刻を報告すること 勤務報告書の提出が必要となる。 給与は短期兼務職員として時給990円(2023年度前期)をお支払いしている。 本学では、サポート学生を中心に支援体制を整えています。流れとしては ①障害学生が支援センターに必要な支援を依頼 ②依頼情報をサポート学生に共有 ③サポート学生が希望する支援を申し込む ④学生支援センターが学生同士をマッチングして、活動開始。 ■支援の内容 ①UDトークという自動音声認識アプリを使用し、誤変換や不足している情報を修正・補足する支援です。 支援者は教室内で講義を聴きながら、パソコンやスマートフォンを使って修正・補足支援をしています。 基本、学生2名体制で支援を行っています。 ②パソコンテイク・ノートテイク 講義時に先生が話した内容を、パソコンや専用用紙を使って文字起こしをする支援です。 パソコンテイクは2人以上で行い、周囲の音もリアルタイムで伝える筆記通訳です。 ポイントテイクは1人で行い、各利用学生のニーズに合わせて支援を行います。 ③映像の字幕付け 字幕を付ける会くまじという有償ボランティアのサークルがあります。 先生からの依頼で、授業の映像教材で字幕を付ける活動をしています。 各自の空きコマを使って、期日までに字幕付け作業を仕上げます。 活動コマ数に応じて、キラットポイントという報酬が貰えます。 ■手話サロン 月に2~4回、学生スタッフが手話を学ぶきっかけづくりとして、手話サロンを行っています。 主な企画として、指文字練習、自己紹介、週末のことを話そう、大学で使える手話表現 絵本を手話で表現してみようなどをテーマに学んでいます。 サロンを通して簡単な手話を身に着けて、支援で活かしている学生もいます。 ■支援体験会 支援体験会では、支援に興味があるけど一歩が踏み出せない、どのようにやったらいいのかイメージがわかない そんな学生の背中を後押ししています。 主な体験内容としてUDトーク修正、パソコン・ノートテイクなど体験しています。 様々な支援経験のある学生スタッフと一緒に練習します。 先輩の体験談も聞けるため、初めて支援に入る人は、不安を解消する場にもなります。 以上 ⑦愛媛大学 タイトル:オンデマンドと対面を併用した支援者養成 発表者:愛媛大学アクセシビリティ支援室 ■愛媛大学では、コロナ禍をきっかけに、支援の方法及び支援者養成の再構築を行った。 コロナ禍前、3コマ(90分×3)の時間を利用して、土日を利用して支援者養成講座を行っていたが、現在は、オンデマンド教材で共通事項を事前に学び、その後、対面講座で文字通訳が現場でできるように、機材のセットアップから、文字通訳の基礎知識を修得するカリキュラムを組んでいる。 (吹き出し: 愛媛大学 基礎情報 ・聾・難聴者の学生 全10名 ・文字通訳利用者 9名 ・その他利用者 2名 支援者数 ・学生の支援者 116名 ・外部支援者 14名) (イラスト:愛媛大学マスコットキャラクターえみかのイラスト) ■見出し:支援者養成の流れ 講座の流れの説明 ①学期前 ・全在学生にメールで周知 ・CBPからの呼びかけ ・支援者の口コミ ・フォームから受講申込み 補足:支援者養成講座の申込み条件 1.在籍中の学生であること 2.オンライン講座を受講後、土曜日に開催する対面での 機材セットアップ講座を受講可能な方 3.タイピングチェックでB+ランク以上を出せる方 4.学期中、週に1回もしくは2回支援に入ることが可能な方 ②オンライン講座受講 ・moodleを利用 ・支援のマナーの確認 ・支援時の連絡方法の確認 補足:オンライン講座の補足説明 オンライン講座の内容(moodle) 1.守秘義務について 2.合理的配慮について 3.補助犬に対する基礎知識 4.支援の際の注意事項 5.支援募集の流れの理解 6.支援キャンセルの手順 7.支援活動開始から終了までの必要事項の理解 (画像:オンライン講座の画面のスクリーンショット) ③対面講座 ・必要書類の記入 ・Microsoft Teams講習 ・captiOnlineの講習 ・文字通訳(遠隔)講習 補足:対面講座の補足説明: 対面講座の内容(4名~6名が同時受講 計2時間) 1.給与支払いのための必要書類記入 2.自分のPC・MACで学内で支援ができる状態か確認 3.Microsoft Teamsのチームコラボレーションツールの使い方の練習 4.captiOnlineの使用方法・設定の修得 5.文字通訳(遠隔)の基礎講習を行う ④支援実習 ・週1コマ固定支援に入る ・ベテランの支援者と現場へ ・スキルアップ講座を受講する 吹き出し:聴覚障害学生は文字通訳(遠隔)を選択する学生が多いです。 授業のスタイルや内容に合わせて、文字通訳(手書き)や 手話通訳を選択する学生もいます。 支援方法については学生と担当で話し合い、必要に応じて柔軟に変更を行っています。 支援者は、授業の形式や学生の希望に合わせ、教室・自宅等、支援をしやすい場所から支援活動に入ることが可能です。 (イラスト:何かをひらめいた、愛媛大学マスコットキャラクターえみかのイラスト) ■見出し:現在の支援者養成方式のメリット・デメリット 現在の支援者養成方式のメリット・デメリット <メリット> ・支援者の質が上がった ・支援ルールを誤解する学生が減り支援指示の統一がしやすくなる ・講座開催に伴う職員の負担軽減に繋がる (イラスト:笑っている、愛媛大学マスコットキャラクターえみかのイラスト) <デメリット> ・支援者登録数が減る ・ICTスキルの低い学生の申込み率が低くなる ・次学期に向けた講座資料の修正及び支援方針を早めに策定する必要がある (イラスト:愛媛大学マスコットキャラクターえみかのイラスト) ■問い合わせ先 愛媛大学教育学生支援部学生生活支援課アクセシビリティ支援室 TEL:089-927-8114 E-mail: accessibility<アットマーク>stu.ehime-u.ac.jp HP: http://accessibility.office.ehime-u.ac.jp/ 以上 ⑧北星学園大学 タイトル:聴覚情報保障のためのソフトウェア活用選定に関する実践報告 発表者:北野麻紀・蒔苗詩歌 (北星学園大学アクセシビリティ支援室) ■問題 聴覚情報保障を行うとき、様々な個別・環境要因を考慮してソフトウェアを選定していく必要がある。  ・学生側の個別要因 障害特性、専攻の分野、自前の機器、履修したい科目など  ・教員側の個別要因 専門分野、授業形態、情報保障経験、シラバス、使用機器  ・大学側の環境要因 教室節義、ネットワーク環境、受講者数、機器の価格  これら要因が相互に重なりあっているため、支援者側は個別ケースの条件とソフトウェアの特徴を踏まえて使用するソフトウェアを選定していく必要がある。 ■目的 ・本学で活用可能なソフトウェアの把握 ・聴覚情報保障時に参照できる活用表の作成 ■方法 障害学生・支援学生・担当教員等の利便性を整理、本学での活用選定に関わる評価項目を作成。 講義室環境で実践検証しながら特徴を評価。 ■活用選定に関わる評価項目として設定した10項目とその評価基準 1. 導入の簡便さ  利用学生・支援学生が自身のPC環境でもインストールしたりアクセスしたりすることができる。 2. 日常会話  マスク着用時の会話補助に使える。オンライン面談や対面での会話補助に使える。 3. 専門用語  社会福祉士関連の講義や法律、教職等科目の類似した専門用語を識字できる。 4. 出力の即時性  音声入力からのタイムラグが少なく文字化される。 5. 音声/マイクによる入力  音声入力ついて他作業をしながらでも使える。 6. 文字起こし  音声データを文字起こしとして使える。 7. 遠隔時の利用  他アプリと同時利用できる。 8. NT  音声認識できない箇所についてNTによって修正できる。 9. 不具合  音声認識されない、動かない等の報告(=本学ネットワークシステムや設備との相性) 10. ステレオミキサーとの併用  音声精度を上げるためのインターフェイスを組み合わせることができる。 ■評価基準に対しての達成度ごとに4段階評価 ◎  90%以上 手直し不要か変換ミスを直す程度で理解できる 〇  80-89% 手直しがなくてもぎりぎり内容が理解できる △ 70-79% 手直しが必要だが音声を文字化できる ?  70%未満 ほぼこの方法のみでは情報保障不可 評価項目について13種類のソフトウェアを講義室環境で使用しながら、◎、〇、△、×で評価した。 他、特記すべき事項があれば記載して表を作成した。 ■ソフトウェアごとおける10項目の評価内容 ■ソフトウェア1 導入の簡便さ〇 ・ダウンロード必須 個人で入手可(無料) ・法人契約有(有料) 日常会話〇 ・話し方が精度に影響 ・専門用語は単語登録が必要 専門用語△ ・単語登録により精度向上の可能性 ・話し手(科目教員)の協力が必要 ・出力の即時性〇 音声/マイクによる入力× ・原因不明で急にマイク停止事案多数 ・聴覚障害学生自身では音声入力の停止に気がつかない可能性あり 文字起こし△ ・長時間になっていくとログが順次消える 遠隔時の利用〇 ・方法の確認は必要 誰でも利用可 ・API連携による利用可だが一機器のみ ・複数への遠隔配信不可 ノートテイク〇 ・パソコン版をダウンロードすることで利用可 不具合 ・パソコンとの接続時に不具合が起こりやすい ・ログ保存はアプリのみだがうまくいかないことが多い ・1時間くらいでログは消える ステレオミキサーとの併用 ・インターフェイスを使うと教室内のマイクや映像音声の取り込み可 ・インターフェイスの接続により他機器との併用可 ・接続次第では最大17人で会話可 ■ソフトウェア2 導入の簡便さ〇 ・無料で利用可 ・アカウント作成不要 ・リンクより利用可 日常会話△ ・話し方が精度に影響 専門用語△ 出力の即時性△ ・画面共有のみ可 音声/マイクによる入力〇 文字起こし 特記事項なし 遠隔時の利用 特記事項なし ノートテイク× 同時共有不可 ・不具合確定まで時間を要する ステレオミキサーとの併用〇 ■ソフトウェア3 導入の簡便さ△ ・無料で利用可 ・アカウント作成必須 日常会話〇 専門用語〇 出力の即時性〇 ・改行、自動スクロールなし 音声/マイクによる入力× ・他操作をすると停止する 文字起こし  特記事項なし 遠隔時の利用  特記事項なし ノートテイク ・複数で同時に資料編集をするとバグが起きる 不具合  特記事項なし ステレオミキサーとの併用〇 ■ソフトウェア4 導入の簡便さ△ ・無料で利用可 ・専用のクラウド 日常会話◎ 専門用語△ 出力の即時性〇 ・プレスで自動改行 音声/マイクによる入力〇 ・最小化利用可 ・バックグラウンド利用可 文字起こし〇 ・ステレオミキサーの利用で、音声再生しながら利用可 ・音声入力箇所で自動で開始 ・停止を押すまで入力持続 遠隔時の利用〇 ノートテイク ・訂正可 不具合 ・よく雨天時に不具合発生 ステレオミキサーとの併用〇 ・遠隔アプリとの同時利用可 ・遠隔アプリ内の音声を認識可 ■ソフトウェア5 導入の簡便さ〇 ・無料で利用可 ・個人PCで利用可 日常会話◎ 専門用語〇 出力の即時性△ ・画面共有可 音声/マイクによる入力× ・アクティブ状態時の利用 ・他操作をすると止まる 文字起こし〇 ・識字率良好 遠隔時の利用  特記事項なし ノートテイク ・複数で同時に資料編集をするとバグが起きる 不具合  特記事項なし ステレオミキサーとの併用〇 ・トランスクリプト機能の利用で200MBまで映像・音声データアップロード可 ・25分程度で2-3分 ・タイムコード、話者分け、保存が良好 ・確認しながらの修正可 ■ソフトウェア6 導入の簡便さ〇 ・ダウンロード必須 ・登録すると時間制限なく利用可 ・登録なしは1ヶ月90分まで ・Windows、Macに対応 日常会話 特記事項なし 専門用語 特記事項なし 出力の即時性 特記事項なし 音声/マイクによる入力 特記事項なし 文字起こし◎ ・90分を2-3分で自動字幕作成 遠隔時の利用 ノートテイク 特記事項なし 不具合 特記事項なし ステレオミキサーとの併用 特記事項なし ■ソフトウェア7 導入の簡便さ〇 ・無料で利用可 ・ダウンロード必須 日常会話 不明 専門用語 不明 出力の即時性〇 音声/マイクによる入力 特記事項なし 文字起こし ・ログが3日間保存され、コピペ利用可 遠隔時の利用 特記事項なし ノートテイク 特記事項なし 不具合 特記事項なし ステレオミキサーとの併用 特記事項なし ■ソフトウェア8 導入の簡便さ〇 ・無料で利用可 ・ダウンロード必須 日常会話〇 専門用語 不明 出力の即時性 〇 音声/マイクによる入力〇 文字起こし〇 遠隔時の利用〇 ノートテイク 特記事項なし 不具合 特記事項なし ステレオミキサーとの併用 特記事項なし ■ソフトウェア9 導入の簡便さ△ 無料で利用可 ・毎年度の利用申請必要 ・専用部屋が必要 日常会話  特記事項なし 専門用語  特記事項なし 出力の即時性 ・ノートテイクの連携入力のみ可 音声/マイクによる入力  特記事項なし 文字起こし  特記事項なし 遠隔時の利用  特記事項なし ノートテイク ・連携入力可 ・カスタマイズ不可 ・アプリによる利用可 不具合  特記事項なし ステレオミキサーとの併用  特記事項なし ■ソフトウェア10 導入の簡便さ△ ・無料で利用可 ・アカウントの作成必須 ・15分未満は、手続き不要で利用可 ・15分以上は、携帯電話番号の登録必須 日常会話  特記事項なし 専門用語  特記事項なし 出力の即時性 ・リアルタイム配信のみ可能かもしれない 音声/マイクによる入力  特記事項なし 文字起こし〇 ・作業者および利用学生がどこからでも利用可 遠隔時の利用 ・オンデマンド形式にのみ有効 ノートテイク  特記事項なし 不具合 ・アップロードと自動字幕作成に時間を要する ステレオミキサーとの併用  特記事項なし ■ソフトウェア11 導入の簡便さ〇 日常会話 特記事項なし 専門用語 特記事項なし 出力の即時性 特記事項なし 音声/マイクによる入力 特記事項なし 文字起こし〇 遠隔時の利用 オンデマンド形式のみ有効 ノートテイク 特記事項なし 不具合 特記事項なし ステレオミキサーとの併用 特記事項なし ■ソフトウェア12 項目評価なし、使用時に関するメモのみ ・ウェブブラウザによる利用 ・リアルタイム字幕可 ・チャットツールで複数人が参加するチャット会議、打合せ等で利用可だが即時的な情報のみ ・議事録作成可だが登録必須 ・多言語(英語、ポルトガル語、スペイン語、中国語)への自動翻訳機能あり ■ソフトウェア13 導入の簡便さ〇 ・ダウンロード必須 ・無料で利用可 ・iPhone、iPadのみ利用可 日常会話 特記事項なし 専門用語 特記事項なし 出力の即時性 特記事項なし 音声/マイクによる入力 特記事項なし 文字起こし 特記事項なし 遠隔時の利用 特記事項なし ノートテイク 特記事項なし 不具合 特記事項なし ステレオミキサーとの併用 特記事項なし ■まとめ ・活用表作成で特徴を整理したことで、情報保障方法を提案する際の参考になった。 ・本報告は、あくまでも北星学園大学特有の結果にとどまる。しかし、活用選定の評価項目(10項目)は、他大学における選定時の視点として参考になるのではないか。 以上 ⑨九州大学 タイトル:大学間連携によるノートテイク共同実践の効果と課題-ノートテイカー学生への聞き取り内容から- 発表者:下中村武・岸川加奈子・横田晋務・田中真理(九州大学) ヘッダー:第19回日本聴覚障害学生高等教育支援シンポジウム 聴覚障害学生支援に関する実践発表2023 2023/11/5(日)13:00-14:00 つくば国際会議場大会議室101・102 ■Ⅰ.ノートテイク共同実践の経緯と目的 1.ノートテイカー学生養成講座の体制 聴覚障害学生等へのノートテイクを実施するためには、継続的にノートテイカー学生(NT学生)を養成することが必要であり、各大学で養成講座が実施されている。 NT学生養成講座の体制には、大学主催によるもの(69%)、学生主催によるもの(24%)、その他(7%)など、さまざまな形態がある(白澤,2007)。 学生主催の養成方法は、研修参加学生がリラックスして参加できる、発言しやすい、共に学ぶ姿勢で取り組める、という効果がある(下中村ら,2022)。 学生主体の研修プログラム開発について検討することには、学生内でノートテイク技術の継承を行うことができるとともに、養成講座での指導を担当する学生(指導担当学生)自身のノートテイクに関する理解の深化が期待できるというメリットがある。そのため、本学では学生による研修方法について検討し、養成を行っており(下中村ら,2023)、支援が実施可能な体制としている。 聴覚障害学生の有無に関わらず、常に支援を提供できる体制を維持することが重要であり、近隣の大学と連携したNT学生の共同実践や交流機会の設定は、 NT学生の安定確保と技術の維持、NT学生のモチベーションの維持、NT学生グループの活性化にもつながる(JASSO, 2015)。 2.NT学生養成の課題 本学では、NT学生養成研修を2019年度から継続的に実施しているが、NT学生は10名~15名程度で推移してきた。本学では1科目あたり4名のNT学生配置を基本としているが、配慮申請科目10科目程度に対して、1科目4名を配置するためにはNT学生は不足していた。 NT学生の負担や情報保障の質保障が懸念される事態が生じたため、他大学にNT学生派遣を依頼し、ノートテイク共同実践を行うこととなった。 3.ノートテイク共同実践の効果と課題(PEPNet-Japan, 2016) 効果と課題が明らかになっているが、各大学のNT学生の活動状況によって結果は異なると考えられる。 効果:「自分の大学の支援方法を振り返ることができること」「支援学生の支援に対する意識の向上が望めること」 課題:「事前の複数回の共同練習が必要であること」「支援ルールの統一が必要であること」 大学間連携によるノートテイク共同実践の効果と課題を明らかにする ■Ⅱ.方法:ノートテイク共同実践に関する意見の聞き取り 1.調査対象 X年度後期、(X+1)年度前期に、受入側A大学の学生8名と協力側B大学の学生3名、合計11名を調査対象とした。 2.共同実践の手続き ①ノートテイクの留意点に関する説明会(60分程度) ②ノートテイク共同実践(captiOnlineまたはUDトークを使用)(90分) ③授業直後の共同実践振り返り(授業後に15分程度) ④共同実践の全体振り返り(座談会形式で1回あたり60分程度) 3.調査手続き ④で得られた聞き取り内容を分析対象とした。 共同実践の全体振り返りの際にNT学生に質問した内容は、大学間連携によるノートテイク共同実践についての感想や意義、大学間連携ノートテイク共同実践の課題、大学間連携ノートテイク共同実践に関する今後の要望などであった。 4.調査時期 すべての支援が終了した時期に実施した。具体的には、X年12月に1回、(X+1)年1月に1回、2月に1回、8月に2回であった。 5.分析方法 NT学生から得られた聞き取り内容について、①意味のまとまりごとに切片化する、②切片を「ノートテイク共同実践の効果」と「ノートテイク共同実践の課題」のいずれかに分類する、③切片を類似した内容でまとめ、項目名をつける、という作業を行い、整理した。 6.倫理的配慮 データ使用目的やデータの取り扱いに関するプライバシー保護、自由意思での参加について説明し、結果を公表することについて、口頭および書面で同意を得た。 ■Ⅲ.結果:ノートテイク共同実践の効果と課題の分類 NT学生から得られた聞き取り内容の分類結果:切片数224 ノートテイク共同実践の効果(大学間連携特有):55件/9項目 ノートテイク共同実践の課題(大学間連携特有):66件/12項目 *A大学⇒受入側、B大学⇒協力側 [表1] ノートテイク共同実践の効果 ■共通 ・共同実践に関する提案 他大学にもノートテイクを頑張っている人がいると知ることができたので、一緒に頑張ろうという気持ちになった。機会があれば、一緒にノートテイクしたい。(A) 積極的に大学間連携のノートテイクの機会を設定してもらえると、参加したい気持ちが大きい。(B) ・徐々にできる感覚 技術が上がっていったことを感じられた。最初は分からないこともあったが、だんだんと手順が分かってきたので、回数を重ねるのは大事なことだと思う。(B) ・テイカー同士の関係構築 何回か支援経験を重ねていくうちに、一緒にテイクをしてくれる皆さんが優しい人ばかりで、緊張感もほぐれた。支援が終わった後の振り返りでも、言いたいことも言える。テイク中も困ったときにサポートしてくださるので、疎外感はなく、チームに入れていただいた。助けていただきながら支援できたことがよかった。(B) ・大学間連携の継続 UDトークを使う機会があり、幅広い知識を得られたと思うので、満足している。4年生になるが、気持ちに余裕があったら、また参加させてほしい。(B) ■Aのみ ・テイカーの成長 話を振ったときに自分が気づかなかったところにも意見をたくさん出してくださったり、積極的に発言してくれたりした。振り返りもスムーズに進められたので、皆さんの積極性や、気づける力に助けられた。 ・人数が増えたことのメリット UDトークも、captiOnlineも、2人は大変。常に入力している状態なので、入力も、誤字も訂正しないといけなくて、タイムラグが生じる。訂正している間に情報が抜け落ちてしまうことがあるので、入力している人とは別に、訂正のために待機している人がいるのは大きかった。 ・普段と変わらない支援 大学間連携という面ではスムーズで、大学をまたいでいる感じはあまり感じられなかった。A大の中での支援とあまり変わらない感じでできた。自分が迷惑をかけているだけかもしれない。 ■Bのみ ・実践的学び 今回の大学間連携の取り組みで、身近な人でない人のノートテイクを見れたので、学びがあった。 ・安心感 思ったよりは緊張せず、安心感があった。***先生から「A大の2人がすごい」と聞いていたので、2人がいてくれるだけで安心できた。 [表2] ノートテイク共同実践の課題 ■共通 ・共同練習の機会の確保 一緒に練習をしたことがないので、連携がうまくいかず、チグハグで、文末がおかしいこともあった。 一緒に練習したい。(A) 事前練習がなかったので、知識をあらかじめ共有できていない、能力を共有できていないので、練習はあったほうがいい。(B) ・テイカー同士の関係構築 事前の打ち合わせで顔合わせはあったのは、お互いの顔、話す感じは少し分かって支援に入れたのでよかった。 地理的な距離の問題さえクリアできれば、対面で会うのもいい。(A) ・事前準備・確認・打ち合わせ 回数を重ねるごとに振り返りがあったので、だんだんと連携も取れたと思う。 こうしようみたいな打ち合わせができると、早い段階からよかったかもしれない。(B) ・大学間連携時の留意事項・マニュアル・引き継ぎ 今後、定期的にいろいろな大学から手伝ってくれる人が入ってくれるなら、大学間連携用のマニュアルも作ったら、意識の統一が簡単になるのではないか。(A) ■Aのみ ・ペアとの連係入力 A大のペアは組みなれている2人、B大でペアは組みなれている2人を一緒にテイクすると、支援に入る前に事前に連係する練習する時間が取れなくても対応できると思った。(A) ・他大学の状況把握 相手がどういうことを知っているのか、こういうことは確認できているなど全員認識できるので、よりスムーズに連係に入ることができる。 ・文字表記の統一 A大で練習をしている中では、ひらがなで統一しましょうと共通認識を持っていた。 B大でも、表記の統一ルールがあったかもと思った。ズレがあったのかなと思った。 ・訂正の方法 訂正してほしいところに訂正が入らないことがあった。 自分が入力担当のときに念を送っても届かない場面があった。 ・振り返り方法の改善 画面オフで振り返りをやっていた。B大のテイカーさんには怖かったかも。やりづらかったのかも。 ・普段と変わらない支援 大学が違うからと言って、UDトークでの修正に課題はなかった。 どこをどうしたら何が動くかという認識の違いはあったが、大学の違いはなかった。 ■Bのみ ・入力・訂正以外の役割 ***さんがいなくなってタイマーが止まったけど、操作はしていない。誰かが止めるとかルールがあるかと思って。誰か1人いない中でタイマーが進んでいる中で、どうしたらいいかとか思った。 ・大学間連携と通常のノートテイクの比較の難しさ B大でノートテイクをしたことがなかったので、形式の違い、作法、技術面など、今回やったのがお手本という感じだった。いつもしているものがないので、どこが課題か比べにくい。 ■Ⅳ.考察:ノートテイク共同実践の効果と課題の背景、今後の大学間連携について ・効果について、「身近でない人のノートテイクを見れたので、学びがあった」(実践的学び)や「機会があれば、一緒にノートテイクをしたい」(共同実践に関する提案)から、自大学の支援の振り返りや支援意識の向上(PEPNet-Japan, 2016)と同様の結果が得られた。 一方で、「B大学のテイカーは(中略)適応力もある人だった」(テイカーの成長)のように、本実践独自の内容も明らかになった。大学間連携は人数が増えたことのメリットだけではなく、学生同士で学ぶ機会になることが示唆される点で、教育的な意義もあると考えられる。 ・課題について、共同練習の機会の確保や訂正の方法などから、事前練習の必要性や支援ルールの統一(PEPNet-Japan, 2016)と同様の結果が得られた。 一方で、本実践では謝金に関する意見は見られなかった。 依頼段階で活動時間と謝金単価を明示したことに加えて、協力側ではノートテイク実践経験が少ないことから、聴覚障害学生支援の経験を積むことが可能なこと、他大学の支援技術を知ることなどの意義があると考えられた。 依頼段階で受入側の支援実施状況も明示することで、大学間連携への参加につながる可能性が考えられる。 今後の大学間連携について、大学間連携時の留意事項・マニュアル・引き継ぎに関する言及が見られたように、その内実を明確化していく必要がある。 ※引用:PEPNet-Japan(2016)“いつでもどこでも”の情報保障の実現に向けて-遠隔情報保障事業成果報告書-.https://www.pepnet-j.org/support_contents/textbook/20160331enkaku 【問い合わせ先】九州大学キャンパスライフ・健康支援センターインクルージョン支援推進室 *メール:inclusion<アットマーク>chc.kyushu-u.ac.jp *電話:092-802-5859(平日9:00-17:00) *所在地:〒819-0395 福岡県福岡市西区元岡744 センター1号館1階 以上 ⑩宮城教育大学 タイトル:しょうがい学生への就職支援に関する取り組み~将来教員として働くために~ 発表者:宮城教育大学 しょうがい学生支援室 前原明日香 佐藤晴菜 五十嵐依子 ■教員養成系大学の本学では、卒業後に多くの学生が教職に就くが、近年、教職に就いたしょうがいのある卒業生が職場でしょうがいに対する適切な理解・配慮等を得られず、休職や離職をするケースが見られている。在籍するしょうがい学生が、より具体的に働くイメージをもち、学生のうちに身につけるべき力を考えるきっかけになればと、現在教職に就いている聴覚しょうがいのある卒業生を講師として迎え、話を聞く機会を設けた。 ■企画内容 <講師(卒業生)について> ①小学校勤務 ②特別支援学校勤務 <お話しいただいた内容>※参加学生・教職員からの質疑応答含む ・教員採用試験でお願いした配慮について ・教員として勤務を始めた際に学校側に伝えたこと、お願いしたこと ・同僚、子どもたちとのコミュニケーション方法について ・周囲に理解を求めるために実施していること、気を付けていること ・学生時代にやっておくとよいこと、心がけておくとよいこと ・教員になって良かったと思うこと ・今後課題になると思うこと ■当日の写真 教室前方中央にあるモニター右側に講師2名が横並びで座り、モニター左側に司会の教員が立って手話で説明している様子。参加学生3名が司会の方を向きながら座っている。 ■まとめ 教育実習の時点では気づかなかったが、学校現場で働き始めてからしょうがいを受容し、自分に必要なことや周囲にお願いしたいことを改めて考え直したというお話もあった。いずれの講師も、しょうがいゆえに難しいことやお願いしたい配慮、支援ツールの紹介などを記載した自己紹介カードを作成し、職場で配布・説明をしていた。また、学校の中で相談できる人を1人でも見つけることや同じ聴覚しょうがいのある教職員等、仲間をつくることの大切さを伝えていた。 ■参加学生・教職員の感想 ・実際の教育現場で求められる大人たちとの関わり方や組織の中での立ち回り方など、教育実習だけではわからない教育現場の実情が聞けた。 ・現場のリアルな状況を聞く機会があまりなかったため、今のうちにどういうことをしておいたらよいのかや、現場でのほかの教員との接し方についてなど知ることができた。 ・将来、一緒に働くことになるかもしれない学生にも多く聞いてもらいたいと思った。 ・事務職員として今後学生と関わる際、どんな配慮を必要としているか、どんな配慮ができるか、学生やしょうがい学生支援室と確かめながら学生にとって安心しながら挑戦できる環境を整えていけるようにしたいと感じた。 問い合わせ先:宮城教育大学しょうがい学生支援室 TEL・FAX:022-214-3651 メール:csd<アットマーク>grp.miyakyo-u.ac.jp 以上 ⑪筑波大学 タイトル:難聴者における情報保障の選択に関わる要因ー1事例を通した検討ー 発表者:石田祐貴(筑波大学人間総合科学研究科)、岡田雄佑(筑波技術大学障害者高等教育研究支援センター) ■背景と目的 ・「両耳の聴力損失が60dB未満又は補聴器を使用すれば通常の話声を解することが可能な程度」と定義される難聴学生は、高等教育機関に在籍する聴覚障害学生の約75%を占め、その中で支援を受けている学生は約62%と報告されている(日本学生支援機構,2023) ・聴覚障害学生の支援に対する受け止め方や意思表明スキルの獲得プロセスの検討では、支援の段階を経るにつれて、学生自身が支援ニーズについて意識し始め、自分に合った情報保障手段を模索し、授業形態に合わせて手段を選択する段階に至ることが示されている(有海・羽田野,2022; 吉川,2016) →本報告では、多様な情報保障を経験してきた難聴学生の1事例を取り上げ、受けてきた情報保障の変遷やそれに関わる経験を整理するとともに、高等教育段階に焦点をあてて情報保障の選択に関わる要因について事例的に検討を行った. ■報告事例に関する基本情報 【きこえについて】 ・混合性難聴(身体障害者手帳3級) ・裸耳聴力:右耳90~100dB、左耳85~90dB 【日常生活におけるきこえ】 ・埋め込み型骨導補聴器(Baha@Cochlear)装用 ・装用時聴力:20~30dB(右耳のみ装用) ・日常的に音声言語でコミュニケーション ・きこえへの影響要因(雑音,物理的距離,声質とボリューム,疲労感,etc.) 【コミュニケーション手段】 ・聴覚口話(幼少期からのメイン)、手話(高校時代に習得) Table1:教育歴と情報取得方法の変遷 ※縦軸:教育段階→幼児期、小学校、中学校、高校、大学、大学特別専攻科、大学院の7項目 ※横軸:教育環境、講義・授業での情報取得手段・ツール・支援 幼児期:(教育環境)地域の幼稚園、難聴児通園施設,(講義・授業での情報取得手段・ツール・支援)補聴器 小学校:(教育環境)地域の小学校、通級指導教室(月1),(講義・授業での情報取得手段ツール・支援)補聴器・補聴援助システム(FM) 中学校:(教育環境)地域の中学校、通級指導教室(週1),(講義・授業での情報取得手段ツール・支援)補聴器、補聴援助システム(FM) 高校:(教育環境)聴覚特別支援学校,(講義・授業での情報取得手段ツール・支援)補聴器、手話 大学:(教育環境)私立大学(専攻科:社会学部),(講義・授業での情報取得手段ツール・支援)補聴器、文字通訳(ノート・PC) 大学特別専攻科:(教育環境)国立大学(専攻:特別支援教育),(講義・授業での情報取得手段ツール・支援)補聴器、文字通訳(PC) 大学院1:(教育環境)国立大学博士前期課程(専攻:障害科学),(講義・授業での情報取得手段ツール・支援)補聴器、文字通訳(PC)、補聴援助システム(ロジャー) 大学院2:(教育環境)国立大学博士後期課程(専攻:障害科学),(講義・授業での情報取得手段ツール・支援)補聴器、文字通訳(PC)、補聴援助システム(ロジャー) ※環境・状況に応じて組み合わせながら利用. ■高等教育機関の講義の受講における情報保障 【講義における情報の取得方略】 授業者の発言及びスライド・板書,etc.:メインで活用→音声・口形・パラ言語情報・視覚教材 文字通訳等の情報保障支援:サブ的に活用(未知語・聞き逃した時 etc.)→支援における文字情報 Table2:講義形態における情報保障支援の選択と活用経験 ※縦軸:支援手段、横軸:講義形態 ※◎は優先的に選択および多く活用経験あり、○は状況に応じて選択および活用経験あり. 講義形式:文字通訳(PCテイク)◎、補聴援助システム◎、支援なしで受講(支援不要)○ グループディスカッション:文字通訳(PCテイク)○、文字通訳(ノートテイク)○、支援なしで受講(支援不要)◎ 演習型講義(スポーツ、実習,etc.):文字通訳(ノートテイク)、支援なしで受講(支援不要)◎ ゼミ・研究会(15人以下):文字通訳(PCテイク)○、補聴援助システム○、支援なしで受講(支援不要)◎ 面談:音声認識システム○、支援なしで受講(支援不要)◎ 発表会:文字通訳(PCテイク)○、補聴援助システム◎、支援なしで受講(支援不要)○ ■講義における情報保障の選択に関わる要因 図:講義における情報保障の選択に関わる要因を「講義形態」、「物理的環境」、「人的環境」、「背景状況」の4つの要因に整理 講義形態:講義の形態、講義スタイル(進行方法/資料の提示方法)、資料の配布の有無,etc. 物理的環境:教室の広さ・音環境(距離/マイクの有無)、受講人数(騒がしさ)、聞こえやすい座席の確保のしやすさ,etc. 人的環境:授業者の声質・ボリューム、障害・きこえに対する授業者や受講者の理解、受講生の内訳(同学部の割合/友人の有無),etc. 背景状況:講義の位置付け(必修科目/発表会etc.)、講義日の時間割スケジュール(疲労感)、選択できる情報保障支援の種類,etc. ■リソースを主体的に活用する力を育むためにー考察 表:聴覚障害学生の支援に対する受け止め方の変化,吉川(2016)より引用 ※縦軸段階、横軸:時間 無支援~支援認知:消極的反応 支援認知~支援依頼~支援体験~要望提起:受動的依頼 要望提起~支援活用:主体的活用 支援活用~:共生的変革 消極的反応→面談と養成講座への参加:支援室や支援担当者とのつながり 消極的反応→行事を利用した支援体験:入学式・オリエンテーション等でのPCテイク(個別/全体,etc. 受動的依頼→大学生活全般のサポート:支援室の活用, 先輩とのつながり, 時間割作成のアドバイス,etc. 受動的依頼→自己・障害理解の深まり:聴覚障害に関する知識, 自身のことを語る機会,etc. 主体的活用→自由な選択の余地:オリエンテーションを活用した試用期間,etc. 共生的変革→さまざまな経験:多種多様な講義の受講, 支援に関する知識, 支援者養成への関わり,etc. 【文献】 有海順子・羽田野真帆(2022)聴覚障害学生の意思表明スキル獲得および活用プロセスの検討.障害科学研究,46, 13-26. 日本学生支援機構(2023)令和4年度(2022年度)大学、短期大学及び高等専門学校における障害のある学生の修学支援に関する実態調査結果報告書. 吉川あゆみ(2016)聴覚障害学生の意思表明とその支援.日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワーク(編),トピック別聴覚障害学生支援ガイドPEPNet-Japan TipSheet 集(改訂版).筑波技術大学, 40-42. 以上 ⑫東京大学 発表団体:東京大学先端科学技術研究センター 当事者研究分野 熊谷研究室 発表タイトル:当研究室における「雑談の見える化」の取り組み テキストデータ(一部文字による補足説明あり) 以下、ポスター内容 ■当研究室における「雑談の見える化」の取り組み 発表者:佐藤晴香・本田杏子・牧野麻奈絵・神野《じんの》浄子・廣川麻子 ■背景 2018年10月ろう者《ろうしゃ》メンバーAが着任 2019年2月ろう者《ろうしゃ》メンバーBが着任 2020年3月コロナ禍による会議のオンライン化、雑談の減少、研究室内における雑談ニーズの高まり、情報保障担当者が着任、行動制限の緩和により対面で集まる機会が増加、聴者メンバーの増加、難聴メンバーが着任 2022年7月雑談の見える化の試行 ■方法 ・2022年7月ごろから2023年10月まで、研究室居室に投影用のモニターを配置し、文字起こしアプリを起動したタブレット端末とモニターとを接続した。 ・2023年10月に、一部メンバーと意見交換を行った後、研究室のコミュニケーションツールを用いて、「『雑談の見える化』の実践を経て、感じたことや考えたこと」を自由に記載してもらった。また、対面で意見交換の機会を設けた。 ・下記は、使用した文字起こしアプリケーションの一例。UDトーク、YYProbe、YY文字起こし、Grop Transcribe(Microsoft) ■結果と考察 ●ろう者《ろうしゃ》・難聴者 ・盛り上がっていることはわかるが理由がわからない、感情共有ができないという問題の解決につながりうると思う。〈難聴者/中途失聴〉 ・(ろう者《ろうしゃ》2名が「入職時と現在で最も大きく変わったことはなにかと聞かれて」)情報保障担当の職員の入職が最大の変化であり、雑談の見える化はそれに次ぐ大きな変化である。 ・以前の職場で、自分以外の手話話者が入職して初めて、周りが手話に関心を持ち始めるということがあった。 ・UDトークを法人契約していたものの、自分以外誰も使用していない職場も過去体験したが、ここはそうではない。使用を継続していける理由が気になる。 ●聴者 <意識の変容> ・文字起こしを見ながら、自分の話し方を調整する(大きな声で、ゆっくり、はっきり話す)ようになった。 ・文字起こしの正確性を優先するがゆえに、複雑な言葉遣いを避けるようになった。 ・自分は雑談中に手話通訳をすることがあるため、文字起こしの近くに座って参加するようになった。(手話通訳者の回答) ・文字起こしに誤字があった場合は、それを指さして言い直しをしている。 <不安・懸念の芽生え> ・複雑な言葉遣いを避けることを、相手に失礼と思われていないか不安。 ・ろう者《ろうしゃ》や難聴者がいる場で文字起こしがない場では、安心して話ができなくなった。 ・音声発話を一方通行で伝える方法なので、ろう者《ろうしゃ》に口話を強いてしまっていないかが気になる。(ろう者《ろうしゃ》との会話で手話単語を用いて話す聴者の回答) ■意識変容・取り組みの継続の要因は? ・環境(図の補足説明:手話話者、聴者が複数名いる環境を表したイラスト) ・情報保障ありの会議の定期開催(図の補足説明:zoom ミーティングにおいて、手話通訳と文字通訳が常に参加者全員が見える状況) ・機器の簡便化、慣れ(図の補足説明:iPadで文字起こしアプリを立ち上げ、HDMI変換アダプターとモニターを接続する作業方法の説明。) ・複数メンバーからの前向きなフィードバック(図の補足説明:一人目のコメント「いいところに目を付けたね!重要だね!」二人目のコメント「こうするともっと見やすくなりそう!」) 以上 ⑬筑波技術大学 [タイトル] 発話者の方向と反応を表示する音声認識アプリが示す情報保障の可能性 [発表者] 大杉 豊 筑波技術大学 [発表者連絡先] osugi<アットマーク>a.tsukuba-tech.ac.jp [概要] きこえる人複数による会話や会議に参加する際、手話言語通訳者の配置によって参加者の発言(音声)内容を知ることができる。しかし、発言者が誰であるか、また発言者以外の参加者の反応(音声)などの情報をリアルタイムで得るのが困難という課題がある。通訳者もこれらの情報を瞬時に伝えるに限界がある。本発表では、音声認識アプリの新製品「VUEVO(ビューボ)」のインターフェイスがいかにして上記の課題を解決するかの事例を紹介し、情報保障の新しい可能性を考える。 1.問題の所在 筆者は、本学できこえる教職員や研究者数名とテーブルを囲んで会議や議論をする場面では、手話言語通訳者を配置をして意思疎通を図るのが常である。以前に音声認識アプリの併用を試みたことが数回ある。しかし、きこえる人の発言行為を発言内容はもちろんのこと、それ以外の要素も含めて、会話全体の流れを把握することが最も重要であるとの考えにより、音声認識アプリの併用は断念した。具体的には、発話の重なりや相槌を含めて、「誰が」「どんな内容を」「どのタイミングで」発声したのかの情報を音声認識アプリで生成される文字画面からは得られないと言うことである。これらの情報は手話言語通訳を通して得ているが、その情報の質量が通訳者によって変わってくるために、発言内容を把握できても、会話全体の流れを把握する作業が安定しない問題がある。 2.新製品「VUEVO(ビューボ)」の特徴(ピクシーダストテクノロジーズ株式会社のウェブサイトより) [複数人での会話や会議の際、発話内容を360度全方向から集 音発話した内容をリアルタイムに発話者の方向に表示] [独自技術で開発した精度の高いワイヤレスマイク] ピクシーダストテクノロジーズの独自技術で、設計・開発したワイヤレスマイクです。限られた内部スペースに8つの高性能マイクを内蔵し、360度全方向から音声を集音しながら発話者の方向を特定。精度の高い音声認識で正確なテキスト変換と方向表示を実現します。 マイクは軽量・コンパクトで携帯しやすく、ワイヤレスで使えます。 [複数人の会話内容を直感的に理解しやすいインターフェース] 360度ビューの直感的なユーザーインターフェースにより、会話や会議の進行中でも発話の内容と共に発話者の方向をわかりやすく表示します。 最大8方向の表示が可能で、視覚的に見分けがつきやすい専用カラーを各方向に配色しています。 テキストのフォントサイズも設定からかんたんに変更可能で、ユーザーの好みや共用の画面でビューを投影し使用する際にも最適なサイズに調整できます。 独自技術で開発した精度の高いワイヤレスマイク複数人の会話内容を直感的に理解しやすい [360度高精細な集音] 8つの高性能マイクを搭載し、集音特性を高める設計。環境ノイズの影響を受けにくく、精度の高い音声情報の検出を可能にしています。 [音源特定アルゴリズム] 雑音や室内の反響に強い音源特定アルゴリズムを開発。高精度かつリアルタイムな発話方向特定と音声テキスト表示を実現しました。 [信号分離アルゴリズム] 複数音源の分離と検知を可能にする、空間的信号分離アルゴリズムを開発。最大3方向からくる音声情報を同時に認識しテキスト表示が可能です。 3.本学におけるトライアルで得られた活用例 2023年6月22日から8月31日まで本学にて「VUEVO」のトライアルを実施した。筆者がきこえる教職員や研究者数名とテーブルを囲んで会議や議論をする場面での試用は14件中4件であった。この4件における筆者の「VUEVO」活用例について述べる。筆者がきこえる教職員4名とテーブルを囲んで会議をする形で、筆者の真正面に手話言語通訳者が位置する。テーブル上、中央部分に「VUEVO」の集音マイクを置き、その手前にiPadを設置して「VUEVO」アプリの360度ビューインターフェイスが画面に出るようにした。その結果、筆者の席から見ると手話言語通訳者が手腕を動かす範囲のちょうど下に重ねるように iPadの画面を見られる形となる。 筆者は手話言語通訳者の胸上あたりに視線を置くという基本を変えないが、発声を瞬時に色で表示する「VUEVO」の360度ビュー画面が視野の下部に入っているため、「誰が」「どんな内容を」「どのタイミングで」発声したかという情報を難なく得ることができる。参加者それぞれの発声情報が異なる色と角度で画面に示されるため、発声が重なるなどのタイミングを自然に把握できる点、そして「うんうん」「そっか」など相槌を打つような内容の文字も出される点を含めて、手話言語通訳者に向けている視線を動かさずにこれらの情報をほぼ得られることは筆者にとって初めての経験であった。また、必要に応じて画面に出されているテキストを確認するときも視線を最小限に動かすだけで「誰が」の情報を含めて確認できる点も優れている。 4.今後の可能性 「VUEVO」は、筆者がきこえる教職員や研究者数名とテーブルを囲んで会議や議論をする場面で、手話言語通訳配置と併用することで、「誰が」「どんな内容を」「どのタイミングで」発声したのかの情報を得るに大変有効なシステムであることがわかった。何よりも重要なことは、ろう者が会議や議論などに完全参加を果たすために必要な情報保障のあり方を、当事者も主体的に開発者と連携して追求していくことである。今後も本学で「VUEVO」の活用事例を重ねていくことで、活用できる場面とそれぞれに必要な機器の有無を整理していくとともに、学生のキャリア教育への導入の可能性を探っていきたい。また、手話言語通訳者の視点では、「VUEVO」の併用により、「誰が」と「どのタイミングで」の情報や参加者全ての発声情報を通訳者だけが伝える必要がなくなることで、負担が軽減されることが予想されるだろう。 「VUEVO」に関する詳細は ピクシーダストテクノロジーズ株式会社 https://vuevo.net/ 以上 --------実践発表ポスターここまで-------- [62]~[63]アフタヌーンセッション 「情報交換スペース」 企画コーディネーター  岡田雄佑(筑波技術大学) 1.概要 本企画は、情報交換スペースとして、参加者同士で自由に情報交換が行えるスペースとなるよう、学生向けテーブル、教職員向けテーブル、支援機器・システム体験テーブルの3テーブルを設け、途中参加・途中退席が自由の企画として実施した。また、参加者同士でコミュニケーション方法も検討いただきながら交流できるよう、情報保障者や常駐するスタッフの配置は行わず、各テーブルにコミュニケーション用のツールを準備した。あわせて、テーブルごとに簡易的なルールと、学生向けテーブルおよび教職員向けテーブルには各6つのトークテーマを掲示した。当日各テーブルに用意した機器・システム、準備物、トークテーマは以下の通りである。 ■学生向けテーブル準備物 ・リアルタイム字幕・チャットツール「UniTalker」 【開発:筑波技術大学産業技術学部鈴木拓弥教授】 ・模造紙(筆談用) ・サインペン ・本テーブル利用にあたっての注意 ■学生向けテーブルトークテーマ ・日々の支援で嬉しかったこと ・聴覚障害学生支援の「ギモン」 ・日々の悩みや想いを語ろう「これってどうしてる?」 ・こうなったら良いのにな「聴覚障害学生支援のあれこれ」 ・支援紹介!うちの大学の支援の特徴! ・フリートーク (写真:学生向けテーブルの様子) ■教職員向けテーブル準備物 ・模造紙(筆談用) ・サインペン ・PEPNet-Japan発行コンテンツ (写真:教職員向けテーブルの様子) ・本テーブル利用にあたっての注意 ■教職員向けテーブルトークテーマ ・全体会の感想を語ろう~ニーズを支えるとは?~ ・とりいれて良かった気になっている支援技術 ・私のおすすめ教材又はフリートーク ・きこえのサポートについて考えよう ・他大学の皆さんに「これは聞きたい」 ・オンラインでの支援を語ろう! ■支援機器・システム体験テーブル準備物およびシステム ・遠隔情報保障システムT-TAC Caption【開発:筑波技術大学障害者高等教育研究支援センター三好茂樹教授】 ・ウェブベース遠隔文字通訳システム captiOnline【開発:筑波技術大学産業技術学部若月大輔教授】 ・リアルタイム字幕・チャットツール「 UniTalker」 【開発:筑波技術大学産業技術学部鈴木拓弥教授】 ・VUEVO【運営:ピクシーダストテクノロジーズ株式会社】 ・YYSystem【運営:株式会社アイシン】 ・ロジャー【販売:ソノヴァ・ジャパン株式会社】 ・筆談用ブギーボード ・各システム概要および使用方法に関する資料 ・本テーブル利用にあたっての注意 (写真:支援機器・システム体験テーブルの様子) 2.当日の様子 学生向けテーブルでは、コミュニケーション用に準備した UniTalkerや模造紙を用いて筆談での会話を中心としつつ、各大学での支援活動や大学生活等について話されている様子が見られた。また教職員テーブルでは、手に取った PEPNet-Japanのコンテンツ、事前に設定したトークテーマなどをきっかけにしながら情報交換がなされていた。そして支援機器・システム体験テーブルでは、システムの活用方法や工夫などについて参加者同士でレクチャーしあう様子が見られた。参加者からは「他大学の教職員や利用学生・支援学生の大勢の方々と、対面で悩みを語り合ったり、支援のヒントをいただいたりして、「心が通い合った」対話を重ねることができました」という感想をいただき、小さなスペースではあったが、非常に有意義なものとなったと感じている。 (報告者:岡田雄佑(筑波技術大学障害者高等教育研究支援センター)) [65]参加型企画 聴覚障害学生支援実践事例コンテスト報告(タイトルのみ) [66]アフタヌーンセッション 「聴覚障害学援に関する川柳コンテスト2023」 表彰プレゼンテーター 吉田光成氏(文部科学省高等教育局 学生支援課 課長) 石原保志(筑波技術大学 学長/PEPNet-Japan代表) 司会 白澤麻弓(筑波技術大学/PEPNet-Japan事務局長) 企画コーディネーター 吉田未来(筑波技術大学) 1.コンテスト概要 本コンテストは、「川柳で つながる思い 結ぶ縁」というテーマのもと、さまざまな想いを込めた川柳を募集し、学生部門・教職員部門に分けて実施した。作品は、日々の聴覚障害学生支援の中で感じる想いや大切にしていること、支援を通して経験する様々なことなどを「五・七・五」の川柳に込めて応募いただいた。その後、PEPNet-Japan Webサイトおよび公式X(旧Twitter)で全作品を公開するとともに、ウェブ投票にて部門ごとに最優秀作品賞・優秀作品賞・次点の各3賞(計6作品)を決定した。 また、シンポジウムの当日に壇上にて、結果の発表を行なった。 2.応募状況 学生部門は22作品、教職員部門は41作品(計63作品)と、大変多くの作品が寄せられた。両部門とも、障害学生支援に対する「想い」や、コミュニケーションに関する作品が多く集まった印象で、日頃真剣に支援に向き合っているがゆえの悩みや歯がゆさを感じた出来事を作品に託しているように感じられた。 (写真:会場内に掲示した応募作品一覧のポスター) [67]3.投票結果 受賞作品は以下のとおりである。 【学生部門】 (作品のあとの表記はペンネーム) 最優秀作品賞 音の壁文字で越えてく駆けていく 古市 優秀作品賞  指躍るあなたのための耳になる  こんがり 次点     講師たち語る言葉に追いつけず  島次郎 【教職員部門】 (作品川柳のあとの表記はペンネーム) 最優秀作品賞 雑談も大事な情報伝えたい    あさちゃん 優秀作品賞  ごめんなさい百回聞いても*****  すず 次点     目を合わせ心通わせ文字を書く  ちまぞう 全ての応募作品は、本稿末に掲載しているので、ぜひご覧いただきたい。 4.『聴覚障害学生支援に関する川柳コンテスト2023』結果発表および閉会挨拶 (写真:結果発表(講評)の様子) 閉会式では、本会運営委員長である関西学院大学松岡克尚先生より閉会挨拶を頂戴した。挨拶では、ギリシア神話「プロクルステスの寝台」を例に、合理的配慮が画一化してしまうことへの懸念と個々のニーズを支える重要性についてまとめていただいた。 結果発表では、ご来賓の文部科学省高等教育局学生支援課吉田光成課長ならびに本学石原学長から結果発表および講評を頂戴した。学生部門では、吉田様から「支援する学生さんの想いがうまく表れていました。特に作品のどれもそうですが、パソコンノートテイクの場面を思い出すようなものが多かったように思います。支援をする立場からも、まさにご縁を直接感じられるのかなと思いました。その中でも選ばれた 3つの作品は、私が読んでも、授業中の情景がパッと目に浮かぶような印象がありまして障害のある学生さんを支援する学生さんの楽しさややりがいが感じられるよい作品だと思いました。」とのコメントを頂戴した。 教職員部門は石原学長より「選ばれた3つの作品、どれも私が普段から感じていることを言葉に表していただいたかなと思います。最終優秀作品賞の「雑談も大事な情報」これはセミ [68]ナー企画でも質問があったように、大学生活の中でも、あるいは社会に入ってからも大変なことがあると思います。川柳として上手に言葉にしていただき、大変ありがたく思います。」と講評をいただいた。 本コンテストはコロナ禍となり、対面でのシンポジウム開催が難しくなった2020年度第16回シンポジウムから実施しており、今年度で 4回目となる。対面での支援が再び行なわれるようになり、その中で感じたことを川柳に乗せた句が多く、日常が戻りつつある様子を感じることができた。今年度のテーマであった「川柳でつながる思い結ぶ縁」のもと、各大学での聴覚障害学生支援の取り組みなどが川柳を通じて伝わり、大変有意義な企画となった。 来年度は本コンテストが、さらに学生や教職員が繋がれる交流の場となるよう検討を重ね、より充実した内容で実施できるよう目指していきたい。 末尾ながら、作品をご応募いただいた皆様、投票やコメント、ご協力いただいた皆様に感謝申し上げる。 (報告者:吉田未来(筑波技術大学障害者高等教育研究支援センター)) (写真:コンテスト記念品) [69]学生部門応募作品一覧(受賞者以下順不同) (川柳の下はペンネーム) 1 (最優秀作品賞) 音の壁 文字で越えてく 駆けていく 古市 2 (優秀作品賞)   指躍る あなたのための 耳になる こんがり 3 (次点)      講師たち 語る言葉に 追いつけず 島次郎 4 周囲の目 臆せず逆手に 得る支援者 グリーンリーフ 5 お互い様 支えてもらって もう4年 ラウンジの座敷童   6「ありがとう」 次も頑張る 活力に bonobono 7 前よりも しゅわべり 人口増えたかな rose 8 サイレント 知名度アップ してくれた M 9 届けたい 世界を彩る 言葉たち ブルーラビット 10 テイクする 文字だけじゃない 想いのせて ringo 11 予想語句 Fキーいちげき 気持ち良い まえ 12 友だちの できるやれるが 僕らの光 ヤス 13 届けたい あなたのために 打っテイク チーズドリア 14 伝えよう 一文字一文字 丁寧に はりー 15 誤字っても 頭で変換 続けてね セイントドラゴン 16 絶え間ない 文字のバトンが 皆を繋ぐ 京極 17 正確か 時間をとるか 立ち止まる さきいか 18 頼ってよ いつまでたっても 変わりなく 青葉こもれび 19 追いつけねぇ マシンガントークに 指をつる しがない教職大学院生 20 パートナーと 息を合わせて さあ打つぞ! mikan 21 (  )には 伝える力 無限大 さえ 22 今のとこ ミスなく打ててる 絶好聴 箕輪 [70]教職員部門応募作品一覧(受賞者以下順不同) (川柳の下はペンネーム) 1 (最優秀作品賞) 雑談も 大事な情報 伝えたい あさちゃん 2 (優秀作品賞) ごめんなさい 百回聞いても ***** すず 3 (次点) 目を合わせ 心通わせ 文字を書く ちまぞう 4 新学期 先生教科書 ペア初見 アンシャンテ 5 OurTeam 強さの秘訣は 多様性 ダイバーシティ 6 伝えたい 走る指先 願い込め かなっぺ 7 伝えたい! もっとがんばろう 手話活動 音楽が大好き   8 授業終わり ほほえみ交わる 学びの日々 ももちゃん 9 支援より ひろがる笑顔 もらい泣き ははこころ 10 リカレント 手話に触れ知る ろう文化 ヒデじい 11 呼び戻し 差し手じゃなくて F9で にわかにもなれないsumo女 12 つながるよ 支援のこころは 豊かなキャリアに 支援のこころ 13 お願いだ backspace 効いてくれ 入力少年 14 “ありがとう” 手話で覚えてすぐ使う ノートテイクは一日にして成らず 15 難関は 誤字修正中の こみ上げ笑い 漢字にうるさいスタッフ 16 消さないで 思いも重なる 一行目 喜竹 17 先輩に フォロー任せた 仏教用語 だって実家寺だもの 18 留学生 時間があれば 字幕付け 日本語勉強中 19 あのテイク その1コマが 忘れられない 山の上にも8年 20 お仕舞バイ 初めて覚えた 手話がこれ!? 肥後のモッコスじいさん   21 不明箇所 ペアよ分かった? 聞き取れた? 修正は任せた 22 無問題 君にもできるさ 二刀流 オオタニサーン 23 画面上 絆深まる チャット欄 秋桜 24 今一番 推しているのは 手話活動 栗のお菓子 [71]25 サポート中 いつもそばには 笑顔あり コーディこころ 26 愛おしい 音声認識 誤変換 玉響 27 参加への 学びの舞台照らす 明日への光 たまちゃん 28 つながらない まずは確認 有線接続 充電ドックの守護神 29 届けたい 思う気持ちは 令和にも ただいマスタード 30 ドラマ見て 支援者登録 急増中 ピカピカモルモット 31 あーだめだ ペップに連絡 感謝です 笑飯店が恋しい支援者 32 (A)あっというまに19年(R)連綿とつないできたよね(E)縁(えにし)のこころ ARE 33 ミスタイプ あとはよろしく ペアの友 コーディネーター 1回生 34 痛たたた 指文字しすぎて 指がつる 牢名主 35 しっとりと たたくエンター 思いやり なごみ系通訳 36 AI(あい)ちゃんに つられつられず 字幕付け 君の名はAI(エーアイ) 37 「伝えたい」思い指に込め 届け文字 カンカンマン  38 通訳中 ワタシのキャラは ひたかくし カウンター裏からちらり 39 あん肝の ああアン肝の 暗記物 痛風もち 40 学生一 講義終盤の 集中力 ガツ盛りらーめん風月 41 キリストの 詞(ことば)つたえる字幕付与 EAGOが掴む! [72]実施体制 大会長 筑波技術大学 学長 石原保志 事務局長 筑波技術大学 障害者高等教育研究支援センター 白澤麻弓 スタッフ(所属は全員「筑波技術大学」) 障害者高等教育研究支援センター 三好茂樹(全体会司会) 産業技術学部 河野純大 (会場・機材) 障害者高等教育研究支援センター 萩原彩子(セミナー、式典、広報、申込対応、報告書) 障害者高等教育研究支援センター 中島亜紀子(全体会企画、情報保障コーディネート) 障害者高等教育研究支援センター 磯田恭子(実践発表、会場・機材、映像収録・編集) 障害者高等教育研究支援センター 吉田未来(川柳コンテスト、会場・機材、受付・掲示、広報) 障害者高等教育研究支援センター 岡田雄佑(セミナー、情報交換スペース、情報保障コーディネート、申込対応) 障害者高等教育研究支援センター 田中真理子(受付、テキストデータ作成、事務補佐) 障害者高等教育研究支援センター 森脇千賀子(事務補佐) [73]日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワーク(PEPNet-Japan)事務局 【事務局長】 筑波技術大学障害者高等教育研究支援センター・教授 白澤麻弓 【事務局長補佐】 筑波技術大学障害者高等教育研究支援センター・助教 萩原彩子 【事業コーディネーター】 筑波技術大学障害者高等教育研究支援センター・助教 磯田恭子 筑波技術大学障害者高等教育研究支援センター・助教 中島亜紀子 【事務局員】 筑波技術大学障害者高等教育研究支援センター・センター長 三好茂樹 筑波技術大学産業技術学部総合デザイン学科・教授 河野純大 筑波技術大学聴覚障害系支援課・課長 元井洋一 【事務補佐員】 筑波技術大学障害者高等教育研究支援センター・特任研究員 吉田未来 筑波技術大学障害者高等教育研究支援センター・特任研究員 岡田雄佑 所属・肩書きは2023年11月時点 日本聴覚障害学生高等教育支援シンポジウム報告書第6号 「一人ひとりの聴覚障害学生の“ニーズ”を支える」 (第19回) 発行:第19回日本聴覚障害学生高等教育支援シンポジウム実行委員会 発行日:2024年2月21日 編集:日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワーク(PEPNet-Japan)事務局 〒305-8520茨城県つくば市天久保4-3-15 筑波技術大学障害者高等教育研究支援センター ※本事業は、筑波技術大学「聴覚障害学生支援・大学間コラボレーションスキーム構築事業」の活動の一部です。 (図:筑波技術大学のロゴ・PEPNet-Japanのロゴ) 表紙・アイコンデザイン:石井菜野葉(筑波技術大学産業技術学部総合デザイン学科) --------ここまで--------