日常利用としてのシェアサイクルの認識 櫻庭 晶子1),山本 健斗2) 筑波技術大学 産業技術学部 産業情報学科1) 総合デザイン学科2) 要旨:日常利用のシェアサイクルに着目し,シェアサイクルへの市民の認識を明らかにすることを目的とした。回答者数1,056名の全国調査を実施し,設問には①回答者属性,②利用経験の有無,③シェアサイクルを知ったきっかけ,④利用したいと思う理由,⑤利用しない理由,⑥利用する場合の目的,⑦必要だと思う方策を設定した。その結果,シェアサイクルの利用経験ありが8.7%で,利用経験無しが91.3%であった。シェアサイクルの利用を促進する方策では,シェアサイクルの「自転車・ポートに関連する方策」と「利用・登録方法」,「広報・周知」を得ることができた。 キーワード:シェアサイクル,意識調査,自転車,促進策 1.はじめに  世界でシェアサイクルが普及し始めている。特にヨーロッパではパリ,ロンドン,バルセロナやコペンハーゲンを中心にシェアサイクルが公共の一部もしくは公共交通を補完するものとして位置づけられている。中国ではポートレス型シェアサイクルが普及してきたが,交通結節点等の利用が集中する箇所への乗り捨てが問題化し,放置自転車,駐輪場公共スペース占拠,破壊行為などが社会問題化した[1]。ニューヨークでは,2013年からシティバイク(シェアサイクル)が稼働している。利用が多い日では1日に平均で1台が7~8回利用される。ニューヨークでは自転車の走行量が増加すると自転車事故率は低下するというデータがある[2]。日本ではポート型のシェアサイクルを中心として発展してきており,乗り捨てや放置自転車問題も解消されてきたと思われる。日本では自転車活用を推進することを目的として,2018年に自転車活用推進法が施行され,国民の身近な交通手段である自転車による環境負荷の軽減,災害時における交通機能の維持,国民の健康増進を目指している。  レンタサイクルに関する研究として,まず,鈴木らは,観光における今後のレンタサイクルの活用可能性を明らかにするために,ヒアリング調査とアンケート調査を行い,シェアサイクルの活用可能性を見出している[3]。次に,橋口らは,観光地運営側の視点から見た,今後の観光振興におけるレンタサイクル活用を検討し,観光レンタサイクルに取り組んでいる市区町村の特徴と,他の交通手段との補完関係を明らかにした[4]。  日常利用としてのシェアサイクルでは,橋本らは,岡山市コミュニティサイクル「ももちゃり」を対象として,利用者のCCS(コミュニティサイクルシステム)に対する評価を明らかにするとともに,CCS導入がまちの魅力に与える効果を検討した[5]。次に,佐藤らは,名古屋市において約3万人が参加したCCSの社会実験で得られたデータを用いて,大規模CCS実現のキーポイントとなるステーション配置を決定する際の有用な知見を得た[6]。一般財団法人自転車産業振興協会が2020年度に実施した有効回答数600件の大規模アンケートでは,シェアサイクルの利用実態が報告されており,主にシェアサイクルの整備されている大都市に限定した調査ではあるが,定期的に利用しているが22%であった[7]。また,利用理由や利用目的,利用頻度,認知要因を明らかにしている。しかしながら,全国を対象とした調査とはなっていない。  本研究では,日常利用のシェアサイクルに着目し,シェアサイクルへの市民の認識を明らかにすることを目的とした。今後のシェアサイクルの全国的普及の検討も配慮して,シェアサイクルの整備されていない地域を含めた全国調査とした。 2.研究の方法  シェアサイクルを利用するにあたって重視する項目を調査するため,全国のスマートフォン利用者を対象として,2023年1月にアンケートを行った。調査には民間企業のスマートフォンリサーチを利用し,11,784件のアンケートを配布し,1,056件の回答を回収し,回収率は9.0%である。  アンケートでは,シェアサイクルを利用しない理由や,利用する場合の目的,どのような方策があれば利用促進につながるかを明らかにした。設問の内容は①回答者属性,②利用経験の有無,③シェアサイクルを知ったきっかけ,④利用したいと思う理由,⑤利用しない理由,⑥利用する場合の目的,⑦必要だと思う方策の7問を調査した。 図1 アンケート回答者の基本属性(n=1,056) 3.結果 3.1 回答者の属性  回答者の性別,年代,職業,婚姻状況,居住地を図1に示した。図1のように性別はほぼ同数の50%程度であり,年代別では20代以上の回答者数は日本の年代別人口割合に近い回答を得ている。職業についても会社員やパート,学生など多様な回答を得ている。婚姻状況については未回答が10.7%あるが,日本の有配偶率(男性60.8%,女性57.0%)に近い既婚54.6%の回答を得ている。日本の都道府県別の回答者数でも,日本の総人口に対する各都道府県の人口割合と,総回答数に対するそれぞれの都道府県の回答割合とが,誤差3%以内の近い値となっている。 3.2 シェアサイクルの利用の有無と回数  利用の有無では,有りが8.7%(92名),無しが91.3%(964名)であった。利用経験のあった92名の内訳は1回(37名),2回(10名),3回(12名),4回から9回(13名),10回から99回(14名),100回以上(6名)であった。 3.3 シェアサイクルを知ったきっかけ  シェアサイクルを知ったきっかけを複数回答可でアンケートし,全体と年代別に回答割合をグラフ化したのが図2である。各年代はそれぞれの年代の回答数に対する割合であり,全体は回答者数全体に対する割合である。全体を見ると,「シェアサイクルステーション/ポートを見て(32.1%)」「テレビ・ラジオ(24.2%)」「このアンケートで知った(22.8%)」「走っているシェアサイクルを見て(22.0%)」「インターネット検索・SNS(15.4%)」「駅・公共施設のポスターなど(10.3%)」となっている。実際のシェアサイクルの利用やシェアサイクルのステーション/ポートを見ることで知ることがある。一方で,テレビ・ラジオやインターネット,ポスターなどでの広告・宣伝がシェアサイクルを知るきっかけともなっている。図2には全体の回答割合が10%以上の選択肢のみを示したので,他の選択肢の回答として,「友人・知人・家族等からの紹介(5.2%)」「覚えていない(4.9%)」「街頭でのキャンペーン(4.9%)」「パンフレット・チラシ(2.9%)」「その他(1.2%)」があった。シェアサイクルを「このアンケートで知った(22.8%)」は,このアンケートをするまでシェアサイクルを知らなかった回答者がいたことを示している。年代別の特徴としては,10代では「このアンケートで知った(50.0%)」「インターネット検索・SNS(22.2%)」で,10代では,まだシェアサイクルを知らない人も多い。20~50代にかけては,「シェアサイクルステーション/ ポートを見て(30.1~38.0%)という回答が最も多かった。また,「走っているシェアサイクルを見て(21.4~26.8%)」という選択肢の回答も多い。他の特徴としては,「テレビ・ラジオ」の選択肢が10代(9.7%)から60代(39.5%)と増加し,一方で, 「インターネット検索・SNS」が10代(22.2%)から60代(9.2%)となっている。 3.4 シェアサイクルを利用したいと思う理由  設問では,「シェアサイクルを利用したいと思う理由はなんですか?(複数回答可)」と設定した。ただし,シェアサイクルを利用したいと思わない回答者の理由を除くため,「利用したいと思わない」選択肢(単回答)を設定した(図3)。まず,利用したいと思わない回答者が全体の43.0%程度いる。残りの57.0%の回答者が利用したいと思う理由では,「乗り捨て(片道利用)ができるから(32.0%)」「出先で移動ができるから(30.0%)」「色々なところを巡るのに便利だから(18.4%)」「目的地までの移動費用が抑えられるから(16.7%)」の回答が多く,主に移動に関係する理由からシェアサイクルを利用したいと考えている。また,「自転車のメンテナンスを自分でしないで済むから(13.1%)」「駐輪場を借りなくて済むから(11.2%)」「他の手段より短い時間で目的地へ行けるから(11.2%)」などの使いやすさの観点の回答も一定数いた。 3.5 シェアサイクルを利用しない理由  設問では,「シェアサイクルを利用しない理由は何ですか?(複数回答可)」と設定した。ただし,シェアサイクルを利用している回答者については,「シェアサイクルを利用している」選択肢(単回答)を設定した。まず,図4の全体で見ると,「自転車を持っているから(26.9%)」「近くにシェアサイクルのポートがないから(25.3%)」の回答が多く,自転車を持っているか,ポートが近くに無いことを理由としている。図4,5に掲載した以外の選択肢としては「他の交通機関が充実しているから(9.9%)」「毎回料金がかかるから(9.8%)」「電車・バス・自家用車などより不便だから(8.8%)」「事故が心配(4.3%)」「体力に自信がないから(3.8%)」「自転車に乗れないから(2.5%)」「自転車のデザインが悪いから(0.9%)」「CO2削減など環境面に興味が無いから(0.1%)」であった。図4の年代別に見ると10代の「自転車を持っているから(51.4%)」が突出している。図5の男女別では,「自転車を持っているから(女性30.8%,男性23.1%)」「近くにシェアサイクルのポートがないから(女性28.1%,男性22.5%)」となっていた。 3.6 シェアサイクルを利用する目的  図6に示したようにシェアサイクルを利用する場合の目的として,全体では「観光での移動(38.5%)」「他の交通手段がない目的地の移動(35.0%)」「近い距離の移動(32.9%)」が多かった。年代別に見ると観光での移動は,「60代(44.6%)」「30代(44.1%)」であるのに対して「10代(25.0%)」「20代(30.9%)」であり,年代により数値に違いが見られた。他の交通手段がない目的地の移動では,「20代(44.4%)」が他の年代よりも高い値となっていた。10代では,「観光での移動(25.0%)」「他の交通手段がない目的地の移動(33.3%)」「近い距離の移動(25.0%)」と他の年代より低くなっているが, 「趣味・遊び(19.4%)」「健康増進・トレーニング(6.9%)」「通勤・通学(8.3%)」は他の年代より高い値となった。男女別の結果(図7)では「観光での移動(男性33.8%,女性43.4%)」は女性が高く, 「近い距離の移動(男性36.0%,女性29.6%)」では,男性の方が高い値となっていた。 3.7 シェアサイクルの利用の促進方策  設問では,「シェアサイクルの利用を促進する上でどのような方策が必要だと思いますか?(複数回答可)」の問に対して図8,図9の回答を得た。シェアサイクルの自転車・ポートに関連する方策(選択肢)では「サイクルポートを増やす(48.8%)」「自転車の台数を増やす(23.6%)」の回答があった。シェアサイクルの利用・登録方法では,「利用料金を安くする(45.6%)」「利用できる時間帯を伸ばす(25.6%)」「会員登録を簡単にする(25.5%)」「交通系ICカードを使って利用できる(22.8%)」「事故発生時の補償がある(25.2%)」となった。広報・周知に関連する方策では,「利用方法を周知する(31.4%)」「WEBやアプリ上でポートの位置を確認できる(18.5%)」「交通ルール・マナーの周知徹底(17.7%)」となった。年代別で,全体より5%以上値が高くなっているのは,「交通系ICカードを使って利用できる(全体22.8%,20代32.7%)」「利用方法を周知する(全体31.4%,60代37.9%)」「利用できる時間帯を伸ばす(全体25.6%,10代30.6%)」「交通ルール・マナーの周知徹底(全体17.7%,40代24.0%)」となっていて,年代によって重視する方策が異なる部分もある。図9の男女間の差を見ると,「利用方法を周知する(男性26.6%,女性36.3%)」「サイクルポートを増やす(男性45.6%,女性52.0%)」「WEBやアプリ上でポートの位置を確認できる(男性15.9%,女性21.0%)」となっていた。 図2 シェアサイクルを知ったきっかけ(年代別) 図3 シェアサイクルを利用したいと思う理由(年代別) 図4 シェアサイクルを利用しない理由(年代別) 図5 シェアサイクルを利用しない理由(男女別) 図6 シェアサイクルを利用する目的(年代別) 図7 シェアサイクル利用する目的(男女別) 図8 シェアサイクルの利用促進に必要な方策(年代別) 4.まとめ  回答者数1,056名の全国調査におけるシェアサイクルの利用経験ありが8.7%で,利用経験無しが91.3%であった。シェアサイクルのある大都市の調査では定期的に利用が22%[7]と高い値であったのに対して,今回の全国一律調査ではシェアサイクルの整備されていない地域を含めて調査している。このため,シェアサイクルが整備されれば,今後利用率の向上が期待できる。シェアサイクルを知ったきっかけは,広報宣伝だけで無く,実際のシェアサイクルの利用風景を見ることも知るきっかけになっていた。また,シェアサイクルを利用しない理由では近くにシェアサイクルのポートがない(25.3%,図4)からも,シェアサイクルの整備を進めることで,利用推進の可能性がある。シェアサイクルを利用したいと思わない回答者が43%いたが,残りの57%がシェアサイクルを利用したいと思っており,その利用したい理由では,乗り捨て(片道利用)ができる(32.0%,図3)や出先で移動ができるから(30.0%,図3)があげられていた。シェアサイクルの利用目的では観光(38.5%,図6)だけでなく,他の交通手段がない時の移動(35.0%,図6)や近距離移動(32.9%,図6)も目的となっていた。シェアサイクルの利用を促進する方策では,シェアサイクルの「自転車・ポートに関連する方策」と「利用・登録方法」,「広報・周知」があった。「自転車・ポート」の方策ではサイクルポートや自転車の台数を増やし,「利用・登録方法」では,利用料金を安くし,時間帯を伸ばし,交通系ICカードなどの活用も検討しながら会員登録を簡単にする。「広報・周知」では利用方法を周知することに加えて,WEBやアプリ上でポートの位置を確認,交通ルール・マナーの周知徹底があげられる。シェアサイクルは,他者を介せず直接利用できる交通手段であり,聴覚障害者でも利用し易い移動手段となるため,この意味でもシェアサイクルの推進方策を今後検討することが望まれる。 図9 シェアサイクルの利用促進に必要な方策(男女別) 参照文献 [1] 国土交通省,シェアサイクルに関する現状と課題.国土交通省ホームページ(cited 2023-9-13),https://www.mlit.go.jp/road/ir/ir-council/sharecycle/pdf01/03.pdf [2] 古倉 宗治.進化する自転車まちづくり.大成出版,2018;p.187-198. [3] 鈴木 繁,十代田 朗,津々見 崇.23区による公共レンタサイクルへの施策と観光利用特性に関する基礎研究.都市計画論文集.2008;43(3):p.613-618 [4] 橋口 結樹,十代田 朗,津々見 崇.観光振興におけるレンタサイクルの活用に関する研究.都市計画論文集.2013;48(3):p.1101-1106 [5] 橋本 成仁,中島 那枝.コミュニティサイクルの導入がまちの魅力に与える効果に関する研究.都市計画論文集.2017;52(2):p.188-197 [6] 佐藤 仁美,酒井 良輔,三輪 富生,他.コミュニティサイクルシステムの利用実態とステーション配置に関する研究.土木学会論文集D3(土木計画学).2013;69(5):p.I_563-I_570 [7] 一般財団法人自転車産業振興協会.2020年度シェアサイクル利用実態調査報告書(概要版).自転車産業振興協会ホームページ(cited 2023-9-13),https://jbpi.or.jp/wp-content/uploads/2022/12/rep_jgy_20210415.pdf. Survey on awareness of shared bicycles for daily use Shoko SAKURABA1), Kento YAMAMOTO2) 1)Department of Industrial Information, Faculty of Industrial Technology, Tsukuba University of Technology 2)Department of Synthetic Design, Faculty of Industrial Technology, Tsukuba University of Technology Abstract: Focusing on the daily use of shared bicycles, this survey aimed to clarify citizens’ perceptions of shared bicycles. A nationwide survey of 1,056 respondents was conducted, with questions on the following topics: (1) respondent attributes, (2) whether they have used the service, (3) how they learned about shared bicycles, (4) reasons for wanting to use them, (5) reasons for not using them, (6) purposes for using them, and (7) measures they believe are necessary. The results showed that 8.7% of the respondents had experience using shared bicycles, and 91.3% had no experience using them. Measures to promote the use of shared bicycles included “measures related to bicycles and ports,” “how to use/register for shared bicycles,” and “publicity and awareness.” Keywords: shared bicycle, recognition survey, bicycles, promotion plan