骨髄細胞刺激が骨再生に与える影響の解析と新しい骨再生治療の開発 菅谷 久 筑波技術大学 保健科学部 保健学科 理学療法学専攻 キーワード:骨髄細胞,骨再生,間葉系幹細胞 成果の概要: (本文,図表,参照文献等,成果の今後における教育研究上の活用及び予想される効果,成果の学会発表等を含む)  申請者は,骨盤から採取した骨髄血に含まれる骨髄間質細胞・成長因子を移植することを目的として,これらを含む雑多な集団を遠心分離後に有核細胞層を中心としたバフィーコート層として抽出し,壊死部に移植する骨再生を目的とした治療法(濃縮自家骨髄血移植術) を開発し,大腿骨頭壊死症に対する新規骨新生治療として臨床研究を行ってきた。移植細胞の量を補完するために脂肪組織に着目した。ヒト同一患者から採取した骨髄由来間葉系幹細胞と脂肪由来間葉系幹細胞とを比較してみると,分化能が同程度にも関わらず脂肪由来間葉系幹細胞で増殖速度が5倍以上速いという結果を得た。この結果,多くの骨新生を追求した場合には骨髄由来間葉系幹細胞よりも脂肪由来間葉系幹細胞の方が同数の細胞を移植した場合には有利である可能性があることがわかった。脂肪組織から培養した間葉系幹細胞を移植する骨再生治療を難治性骨折に対して適用することで,骨髄血から培養した間葉系幹細胞を移植した骨再生治療に対する優位性を検討するとともに,停止した生物学的活性を安定して再開させる機序を明らかにできるものと考え,本研究を着想した。  12週齢Fischer 344ラット(雄)を使用した。右大腿骨は骨髄腔を21G針でリーミングを行った後生理食塩水でフラッシュし骨髄成分を可及的に除去した後,骨幹部中央に骨切りを行って骨折部を作成し,骨折部を中心に周囲の骨膜を10mmずつ全周性に切除し,1.25mmのK-wireを髄腔内に挿入し内固定を行い,モデルを作成する。また,別に準備した4週齢Fischer 344ラット(雄)10匹を使用し,骨髄由来・脂肪由来間葉系幹細胞を各々単離培養し,その後4週間の培養・継代で1回の移植あたり1×107個の細胞が可能となるように細胞数を確保する。対照群,骨髄由来間葉系幹細胞移植群,脂肪由来間葉系幹細胞移植群の3群を用意し,N=8ずつとして,対照群には生理食塩水1mlを,骨髄群・脂肪群には1×107個の移植細胞を溶解した生理食塩水1mlを各々難治性骨折部に移植する。移植後12週で屠殺し,放射線学的および組織学的評価により骨形成・骨癒合を評価した。  骨髄由来間葉系幹細胞・脂肪由来間葉系幹細胞とも,骨・脂肪いずれにも分化することを確認し,研究に使用する細胞が多分化能を有していることを確認した。単純X線による評価では,脂肪由来間葉系幹細胞移植群では8個体中7個体で骨癒合が得られた。骨髄由来間葉系幹細胞移植群では8個体中6個体で骨癒合が得られた。対照群では8個体中1個体で骨癒合が得られた。組織学的評価でも単純X線の結果と同様に,脂肪由来間葉系幹細胞移植群では8個体中7個体,骨髄由来間葉系幹細胞移植群では8個体中6個体,対照群では8個体中1個体で骨癒合が得られた。HE染色では骨癒合が得られたものは骨梁および骨細胞で連続性に覆われているが,骨癒合が得られなかったものは骨折部は肥厚した線維性組織がみられた(下図左:脂肪由来間葉系幹細胞移植群,右:対照群)。現在X線CTを用いた骨形成量の定量解析を進めており,結果をまとめた後論文誌上に公表することを計画している。 【図】