聴覚障害学生の敬語と配慮表現に関する困難点の把握と教材作成 脇中 起余子 筑波技術大学 障害者高等教育研究支援センター 障害者基礎教育研究部 キーワード:敬語,配慮表現,尊敬語,謙譲語,丁重語 1.背景と目的  筑波技術大学の聴覚障害学生に対する1年次必修科目「日本語表現法A・B」は,助詞や敬語を使う力,論理的に書く力の向上を目的としている。  2020年度は,コロナ感染拡大のためオンライン授業となった。授業では,Zoomでの解説後,ラーニングボックス(以下LBと記す)で問題に取り組ませることとした。LB問題は,授業前半の解説やLBに載せた解説を読めば回答できる問題を中心とし,80%以上得点すれば「合格」とした。授業時間内や締切日までに出た点数の中で最も高い点数を評価すると伝えたため,多くの学生が高得点を目指して何回も取り組んだ。2019年度までの対面授業では,「教師によるていねいな解説」の時間を長くとったが,オンライン授業では,パソコン画面を長時間見ることによる疲労やアクティブラーニングの効果などを考え,「学生自身による繰り返し学習」への転換を図ったと言えよう。  2021年度の1学期は,ハイブリッド授業(対面での受講生が大多数)となり,15回の授業が可能となったため,敬語に関する指導を増やしたいと考え,2021年3月に,敬語に関するレッスン1~16のそれぞれで,事前に見る解説(以下「事前解説」と称する)とLB問題を作成したが,特に丁重語や会社における敬語の使い方の問題の作成に苦慮した。問題は正誤がすぐに見られるようにしたが,その答えになる理由の解説(以下「問題解説」と称する)の必要性を感じた。また,中学で学習済みの「五段活用」や「未然形」に関して,事前解説や問題も作成したいと考えた。 2.方法・手順  2021年4~7月に,2021年度1学期に学生に取り組ませた事前解説と問題(旧「レッスン1~16」)を「(新)レッスン5~20」とし,「(新)レッスン1~4」として「五段活用」や「未然形」など中学文法のうち敬語の事前解説と関連するものを作成した。また,2021年度の学生の結果から,問題や問題解説,事前解説を追加した。  「異論があるものは使わないことを勧める」という方針のもとに,さらに敬語に関する諸文献を読み,筆者の考える正答や説明の仕方で良いかを再検討・修正した。  2021年7~11月に,以前Web助詞問題を作成した時の協力者である1名(聴覚特別支援学校の元教員)から修正意見をいただき,2021年11~12月に,全ての事前解説と問題文,問題解説を再修正した。さらに,2022年1~3月に,LBに事前解説と問題を載せ,2022年度の授業で取り組めるようにした。 3.事前解説や問題,問題解説の作成  文化審議会(2007)は,「①ご~される」は誤用で,「②ご~なさる」は使えるとしているが,学校では「する」の尊敬語は「される・なさる」と教えられており,「①は使えないが②は使えるとするのは,混乱を招く」という指摘があるため,「ご~になる」という尊敬語の使用を勧めるというように,「意見が分かれる表現は使わないのが無難」という立場をとることとした。  各レッスンの内容と問題数を表1に示した。また,事前解説は,プレゼンテーションファイルに載せるため細かく分けて作成した。事前解説の例を,図1と図2に示した(修正意見を受けて修正したもの)。事前解説では,長文による説明より図や絵による説明のほうがわかりやすいという聴覚障害者に多い傾向に配慮して,表や絵を用いた説明が多くなるようにした。 図1 事前解説の例(レッスン5-2b) 図2 事前解説の例(レッスン12-1) 表1 各レッスンの内容と問題数 4.意見を反映した修正の例 ・解説や問題の解説の中での用語の統一  「古語/文語」「可能形/可能動詞/可能表現」など,語が統一されていないと指摘され,修正した。 ・見やすさの追求  表の中で「丁寧語」や「丁重語」が「③丁/寧語」「④丁/重語」のように「/」のところで改行されて見づらいなどの指摘を受け,見やすいようにレイアウトなどを修正した。 ・用語の説明の追加  「解説で突然『ソト』という語が出てくると戸惑う」のように,用語の説明が必要という指摘を受け,説明を加えた。 ・問題文や正答の範囲の訂正  正答の範囲を迷うものがあり,迷うことがないよう,問題文や答えの範囲を修正した。 ・問題の移動  「客がいる場面の問題はレッスン19に移すのがよい」という指摘を受け,移動させた。  その他,聴覚障害者に多いと言われる認知特性に配慮して解説になるよう,修正加筆した。 参照文献 [1] 脇中 起余子 2021 聴覚障害学生の日本語に関する困難点の分析(7)~遠隔授業の実施と敬語に関する理解状況~.筑波技術大学学術・社会貢献推進委員会 筑波技術大学テクノレポート,29(1),7-13. [2] 文化審議会 2007 敬語の指針.文化庁ホームページ(cited 2022-4-21), https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/kokugo/hokoku/pdf/keigo_tosin.pdf