視覚障がい者はeスポーツをプレー可能か?─eスポーツが視覚障害者の心身面に及ぼす影響─ 松井 康 筑波技術大学 保健科学部 保健学科 理学療法学専攻 キーワード:eスポーツ,視覚障害,心拍数 成果の概要  eスポーツとはelectronicスポーツの略称である。近年,世界的にeスポーツが注目されており,2017年の調査ではeスポーツの視聴者は世界中で3億8500万人以上いる[1]とされており,盛り上がりを見せている。  国際大会においてeスポーツが導入した例として,2018年のジャカルタで開催されたアジア競技大会が挙げられる。このアジア競技大会では,サッカーをベースとしたウイニングイレブン2018をはじめとした合計6タイトルが,eスポーツの参考競技として実施された。オリンピックでの導入に関して,2024年パリオリンピックの組織委員会は,国際オリンピック委員会や様々なeスポーツの専門組織と大会中のeスポーツイベントについて協議した[2]。最終的に組織委員会は,eスポーツをメダル種目として2024年大会に採用しない結論を出したが,大会中のeスポーツに関連する他のイベントについては除外しなかった[3]。このようにeスポーツは徐々に既存のスポーツ大会での実施も検討され始めており,今後この流れはさらに強まることが予想される。  我が国においては,2019年茨城国体から文化プログラムにて「全国都道府県対抗eスポーツ選手権2019IBARAKI」が,つくば国際会議場にて実施された。この大会ではefootballウイニングイレブン2020,グランツーリスモ,ぷよぷよeスポーツの計3タイトルが競技として行われた。また2020年鹿児島国体はコロナ禍の影響で2023年に延期されたが,eスポーツ競技である「全国都道府県対抗eスポーツ選手権2020 KAGOSHIMA」のみ,オンライン上で実施されたという経緯もあり,コロナ禍という状況においても実施可能であるeスポーツの強みが改めて実感されることなった。このようにeスポーツの大きなメリットとして,感染症による問題でスポーツの実施が難しい状況においても,オンライン環境下でプレーできるということが挙げられる。  本学では,コロナ禍の影響で2020年3月より対面での運動系サークル活動は休止を余儀なくされている。スポーツによる心身への影響の研究では,1週間に運動を2時間以上しているグループはまったく運動しないグループに比べて,1年後に抑うつになるリスクが約半分であった[4]との報告がある。また,うつ症状を有する12〜18歳の青少年を対象とした研究にて,うつ症状の変化を運動群(12kcal/kg/weekを消費)と対照群であるストレッチ群(4kcal/kg/week未満を消費)と比較したところ,12週間後には両群とも一定の改善効果がみられたが,運動群では対照群と比較して,より短期間に抑うつ度が低下したことと寛解の割合も高かったことが報告されている[5]。このようにスポーツは心身に大きな影響があると考えられており,本学の運動系サークル休止によって,運動不足になった学生への心身への影響は大きいと予測される。そこで,このようなスポーツの実施が難しい状況において,その代替方法としてeスポーツのプレーを考えた。eスポーツが心身に及ぼす影響に関する研究報告は現在のところ見当たらないが,仮説としてeスポーツのプレー中には心拍数が増加することを考え,プレーによる心身面への影響があるのではないかと考えている。一方で懸念点として,eスポーツはモニターを通してプレーすることから視覚の影響を受ける。そこで今回は,視覚障がい者(主に弱視)でもeスポーツのプレーが可能かどうかを検討すること,またeスポーツのプレーが可能であった場合,eスポーツが心身面にどのような影響を与えるのかを検討することを目的とする。  対象は視覚障がい者7名(年齢21.7±1.3歳)で,見え方に関するアンケートを実施し,実際にeスポーツをプレーしてもらい,プレーが可能であったかどうかを調査した。また,プレー中の心拍数を計測し,プレー後に心身面への影響に関するアンケート調査をおこなった。  対象者の視力は裸眼で右0.050±0.043,左0.042±0.057,矯正視力が右0.063±0.043,左0.052±0.057で,視覚障害の種類は病的近視,視野狭窄,中心暗点,夜盲,白濁等であった。eスポーツのプレーに関するアンケート調査の結果は,自身の視覚障害の影響によるプレーのしづらさ感じるという回答(6名)が多かったものの,7名全員がトラブルなくプレーすることができたという回答結果であった。また,eスポーツの大会は楽しいと感じたか,eスポーツをプレーすることは気分の改善に繋がると感じたか,今後も継続してeスポーツをプレーしたいと感じたかという質問では,全ての対象者がそう思うと回答し,eスポーツに対してポジティブな回答結果であった。プレー中の心拍数は,プレー前のベースラインの値が82.0±16.3で,プレー中の平均心拍数は91.4±18.5,最大心拍数は102.9±19.8であった。eスポーツをプレーすることは,弱視者にとってプレーのしづらさは感じるものの,トラブルなくプレーすることができ,eスポーツをプレーすることで気分の改善に繋がったり,心拍数が変動する等,心身への影響があることが明らかになった。 図1 eスポーツの大会の様子 参照文献 [1] Toptal-Esports: A Guide to Competitive VideoGaming.  https://www.toptal.com/finance/market-researchanalysts/esports(2022年4月30日閲覧) [2] Paris Olympic bid committee is open to esports on 2024 Olympic program.  https://www.espn.co.uk/olympics/story/_/id/20286757/paris-open-esports-competition-2024-summer-olympics(2022年4月30日閲覧) [3] Video Games Won't Be Part of the Paris Olympics. Fortune.  https://fortune.com/2018/12/10/olympics-video-games-paris-2024/ (2022年4月30日閲覧) [4] 甲斐 裕子,永松 俊哉,山口 幸生,徳島 了.余暇身体活動および通勤時の歩行が勤労者の抑うつに及ぼす影響.体力研究.2011; 109:1-8 [5] Hughes CW, Barnes S, Barnes C, DeFina LF, Nakone- zny P, Emslie GJ. Depressed Adolescents Treated with Exercise (DATE) : Apilot randomized controlled trial to test feasibility and establish preliminary effect sizes. Ment Health Phys Act 6: 2013. doi: 10.1016/ j.mhpa.2013.06.006.