「聴覚障害」「聾」「難聴」などの呼称に対するイメージ~聴覚障害学生の回答結果と諸文献における記述~ 脇中 起余子 筑波技術大学 障害者高等教育研究支援センター 障害者基礎教育研究部 要旨:筑波技術大学における「日本語社会とコミュニケーション」の受講生で同意書が得られた聴覚障害学生23名に障害の呼称について尋ねたところ,「聞こえない」を用いる人は「聾」を用いる人が多く,「聴覚障害」は「聞こえない」と「聞こえにくい」を含めた概念あるいは「聾」と「難聴」を含めた概念と思われる結果となった。「おし」「つんぼ」などのいわゆる放送禁止用語は,筆者が調べた範囲では,大人向けの国語辞典では現在も掲載されているが,児童向けの国語辞典では1990年頃から削除されていた。「聾」について,以前は難聴者や中途失聴者を意味したが,最近は重度の聴覚障害者で手話を用いる者をイメージする人が増えていると思われた。 キーワード:聴覚障害,聾,唖,難聴,放送禁止用語 1.はじめに  筑波技術大学産業技術学部の2年次選択科目「日本語社会とコミュニケーション」では,学習管理システムの「ラーニングボックス(LB)」を用いて事前課題に取り組ませ,全員の回答結果をまとめて次時の授業で紹介し,いろいろな考え方があることを知らせてきた。  本稿では,受講生24名中同意書が得られた23名について,障害の呼称に関する回答結果を集計し,特に「聾」や「唖」の語の辞典における記述の変遷などを通して,意味の移り変わりを考察する。 2.本学学生の回答結果  聴覚障害学生が自分の障害を説明する時,「聴覚障害」「聞こえない」「聞こえにくい」「ろう(聾)」「難聴」「耳が不自由」「耳が悪い」のどれを使うかを尋ねたところ(複数回答可),それぞれの呼称を選んだ比率は,「聴覚障害」が82.6%と最も高く,「聞こえにくい」が52.2%,「聞こえない」が34.8%,「難聴」が30.4%,「ろう(聾)」が26.1%であった。  「聞こえない」と「聞こえにくい」において,前者だけを選んだ7名(30.4%),両方とも選んだ1名(4.3%),後者だけを選んだ11名(47.8%),両方とも選ばなかった4名(17.4%)に分け,それぞれで他の語の選択状況をまとめた(表1)。  「聞こえない」を選び「聞こえにくい」を選ばなかった7名のうち5名が「ろう(聾)」を選んだが,「難聴」を選んだ者は皆無であった。「聞こえにくい」を選び「聞こえない」を選ばなかった11名のうち3名が「難聴」を選び,1名が「ろう(聾)」を選んでいた。また,「ろう(聾)」を選んだ6名のうち5名が「聞こえない」を選び,1名が「聞こえにくい」を選んでいた。「難聴」を選んだ7名のうち4名が「聞こえにくい」を選び(うち1名は「聞こえない」も選ぶ),「聞こえにくい」を選ばず「聞こえない」を選んだ者は皆無であった。  それぞれの語に対するイメージを自由に記述していただいたところ,「聴覚障害」は,「軽度と重度を含める」が10名(43.5%)であった。「聾」は,「聞こえない・重度」が10名(43.5%),「手話を使う」が8名(34.8%)であり,「難聴」は,「聞こえにくい・少し聞こえる」が10名(43.5%),「音声を聞く」が9名(39.1%)であった。「聞こえにくい」と「聞こえない」の違いをきこえの度合いと関連づけていた者は17名(73.9%)であった。  以上の結果から,「聴覚障害≒聞こえない+聞こえにくい」,「聴覚障害≒聾+難聴」,「聾≒聞こえない」の傾向があり,「難聴≒聞こえにくい」の傾向がややあると言えよう。  次に,「障害」「障碍」「障がい」のどれを使うかを尋ねたところ(複数回答可,表2),「障害」が16名(69.6%),「障がい」が12名(52.2%),「障碍」が3名(13.0%)であった。自由記述では,「障害」は「一般的,硬い」,「障碍」は「難しそう,古い」,「障がい」は「柔らかく言い換えた,小学生向け」のような記述が多かったが,「3つとも同じ」という回答もみられた。  聴覚障害がない人の呼称は(表2),「健聴者」が22名(95.7%),「聴者」が1名(4.3%)であった。「聴者と健聴者は同じ」の他に,「聴者は,難聴者や聴覚障害以外の障害のある人を含む」と記した者がみられた。 表1 「聞こえない/聞こえにくい」の選択別の結果 表2 本学学生の回答結果(複数回答可) 3.国語辞典より  大人向けの辞典では,未知の語に接した人がその語の意味を調べるため,差別語や放送禁止用語であっても意味を調べられるようその語が掲載されるのに対し,児童向けの辞典では,児童の理解と獲得を期待する語を選ぶため,差別語や放送禁止用語は掲載されないと思われる。そこで,広辞苑と小学学習国語辞典を数冊取り上げて調べてみた。 3.1 広辞苑における記述の変遷  広辞苑では,第2版(1987年)から現在の第7版(2018年)まで「ろう(聾),聾唖,聾者,おし,つんぼ,難聴,めくら,弱視,もう(盲),盲人,かたわ,不具,いざり,ちんば,びっこ,せむし,低能,白痴,精神薄弱」の項目が掲載されていた。そこで, 「ろう(聾)」「聾唖」「聾者」「おし」「つんぼ」「難聴」について,広辞苑における記述の変遷をまとめた(表3)。なお,「聞えぬ」が「聞こえない」に,「その人」が「そういう人」に変わった場合,新しい版の記述を記した。  この結果, 「ろう(聾)」の記述について,第2版では「耳が聞えないこと。つんぼ。みみしい。」と記されていたが,この「つんぼ。みみしい。」は第3版から第6版にかけて削除された。「聾唖」について,第3版までは「つんぼとおし。」と記されていたが,第4版以降「つんぼ」や「おし」を使わない文に変更された。また,「聾者」について,第2版では「耳の聞えない人。つんぼ。」と記されていたが,第3版で「つんぼ」が削除され,第6版で「特に手話を日常言語として用いる人を言う。」という文が追加された。これらは,「つんぼ」や「みみしい」という語を用いるのは好ましくないという考えが背景にあると思われる。  「おし」について,第2版から第7版まで同じような記述であり,いずれも「おうし」という語が記されていた。また, 「つんぼ」について,第2版から第7版まで同じような記述であり,いずれも「みみしい」と「つんぼう」という語が記されていた。この「つんぼう」は「つん坊(聾坊)」のことと思われる。上述の「ろう(聾)」や「聾唖」,「聾者」の記述では,「つんぼ」や「みみしい」,「おし」という語が削除されたのに対し,「おし」や「つんぼ」の記述において,現在も「おうし」や「みみしい」,「つんぼう」という語が残されている理由は不明である。 表3 広辞苑における記述の変遷 3.2 小学国語辞典におけるいろいろな語の変遷  「ろう(聾),聾唖,聾者,おし,つんぼ,難聴,めくら,弱視,もう(盲),盲人,かたわ,不具,いざり,ちんば,びっこ,せむし,低能,白痴,精神薄弱」について,旺文社の『小学学習国語辞典』で,1981年のもの(奥付で「重版」とあり,第何版か不明)と第4版(2010年)における掲載状況を表4にまとめた。なお,この辞典は,第5版はなく,現在絶版となっている。両方に掲載されていた項目は「盲人」だけであったが,1981年は「めくらの人」,2010年は「目の見えない人」と説明されていた。また,「おし,つんぼ,めくら,かたわ,不具,びっこ,せむし,低能,白痴」は,1981年の辞典に掲載されていたが,2010年の辞典では削除されていた。これらはいわゆる放送禁止用語であるため削除されたと思われる。「いざり・ちんば・精神薄弱」が1981年の辞典に掲載されていなかったのは,児童には難しいと判断されたためと思われる。  次に,小学館の『例解学習国語辞典』の第6版(1993年)と第11版(2019年),三省堂の『例解小学国語辞典』の第7版(2020年),ベネッセコーポレーションの『チャレンジ小学国語辞典』の第2版(2021年)のそれぞれで,項目の掲載状況を調べてみた(表5)。  「聾唖」という語は最近見聞することは少ないと思われるが,現在販売されている3冊において,「聾唖」があり,「ろう(聾)」と「聾者」がない理由は不明である。旺文社の辞典で1981年にあったが2010年になかった項目は,これらの辞典でも掲載されていなかった。 表4 旺文社の小学学習国語辞典における変化 表5 他の小学学習国語辞典における状況 4.以前の「聾」と難聴者・中途失聴者  「つんぼ」と「ろう」は,どちらも同じ「聾」という漢字で表されるという。江戸時代から明治時代にかけての「聾」は,日本語を一定獲得した軽度の聴覚障害者や中途失聴者を意味していた可能性や,当時の「聾」は「唖」と比べると差別的な意味合いは少なかった可能性を考えた理由を,以下に述べる。 4.1 「唖乞食」と「(日本最初)盲亜院」  小林一茶の「しぐるるや親碗たたく唖乞食」という歌では,「聾」ではなく「唖」が使われている。また,『京都府盲聾教育百年史』によると,日本盲聾教育の祖である古河(古川)太四郎は,1878年に「日本最初盲唖院」を設立したが,ここでも「聾」ではなく「唖」という字が使われている。これらのことから,江戸時代から明治時代にかけて,先天的な聴覚障害ゆえに日本語の獲得が困難であった者は「唖」とされていたことがうかがえる。 4.2 諺や慣用句における表現  新明解国語辞典(三省堂,第3版,1987年)では,「つんぼ」の項目で「つんぼの早耳」と「つんぼ桟敷」という諺や慣用句が紹介されていたが,「おし」の項目で「おし」を使った諺や慣用句は掲載されていなかった。この辞典では,「つんぼの早耳」は「(前略)用事の時はよく聞こえないのに,悪口を言われた時などはよく聞こえること」と記されていたが,全聾であれば話の一部が聞こえることはないであろう。また,「つんぼ桟敷」は「舞台に遠く,せりふのよく聞こえない桟敷(後略)」と記されていたが,全聾であれば舞台に近くてもせりふは聞こえないであろう。このことから,これらの諺や慣用句で使われている「つんぼ」は,音声が少し聞こえる難聴の状態の人を意味したと思われる。 4.3 古川家文書目録より  古川家文書註1(個人蔵,京都府立山城郷土資料館保管)の中に,「聾田●■郎」(本稿では●と■の漢字を伏せておく)からの書簡が3通(1905~06年,図1)あり,この「聾田」は某郡役場の収入役を務めていた。  名字について,1870年から1875年にかけて「平民苗字許可令」「苗字必称義務令」などが定められ,庶民が名字をつける方法として,江戸時代から有していた名字(名乗りを許されなかった場合を含む)を使う方法や,地元の住職などにつけてもらう方法があったという。上記の明治時代に社会的に重要な役職についていた「聾田」が江戸時代からその名字を有していたかは,不明である。  なお,地名由来の名字も多いとされていること,上記の古川家文書で「直次郎」と「直二郎」のように読みは同じだが漢字が異なるもの(同じ人が書いたもの)がかなりみられたことから,「聾田」は,地名註2に由来する当て字であった可能性も否定できないと思われる。 図1 聾田氏のサインと印鑑 4.4 末森(2020,2022)より  末森(2020)は,諸文献を分析し,「中古中世日本語は聾概念と唖概念がそれぞれ独立し」ていたと述べている。また,末森(2022)は,『童解英語図絵』の聾図像と唖図像を比較し,「聾者と唖者の社会的地位(=階層)の違いを暗示している可能性」を指摘している。さらに,『百面相』の聾図像では筆談や耳を傾けるしぐさがみられ,唖図像では「日本手話単語<男>の描写」がみられるという。その一方で,末森(2022)は「聾札」註3は仮名で書かれており,漢字で書かれた聾札はないことや,「聾札は芸能人や乞食がかけるものであり,町人が使うものではなかった可能性」を指摘していることから,ひらがな表記の「つんぼ」と漢字表記の「聾」のそれぞれの意味が微妙に異なっていた可能性が考えられよう。江戸時代に漢字表記の「聾」や「唖」,ひらがな表記の「つんぼ」や「おし」にどのような意味がこめられていたのか,関心がもたれる。 4.5 その他  「聾」を名前に含む例として,儒者の兼子天聾(1750~1829,聴覚障害の有無を筆者は把握していない),戦前に議員を務めた涌上聾人(1888~1966,聴覚障害があったという)がみられる。また,江戸後期の陶工・画家の青木木米(1767~1833)は,聴力損失後「聾米」という号を用いたという。  「つんぼ(聾)の笠印」という語があり,聞こえない旅行者が自分は聾だと笠に記すことを意味する。『東海道中膝栗毛』に,他人に話しかけられないようわざと笠に記した話が掲載されているが,ひらがなと漢字のどちらを笠に記したかは不明である。  福井藩の史書『片聾記』(「かたつんぼき」「へんろうき」)のタイトルには,著者の「小耳に挟んだことを書き留めたもの」と謙遜する気持ちがこめられているという(https://crd.ndl.go.jp/reference/modules/d3ndlcrdentry/index.php?page=ref_view&id=1000034337,2022年9月8日閲覧)。このことから,「聾」という漢字には「断片的・曖昧に聞こえる」意味があった可能性が考えられる。  ちなみに,「龍」という漢字は,「朧(おぼろげな意)」や「籠(くぐもる意)」という漢字でも使われており,「はっきりしない」という意味が共通している。 5.口話教育の広がりと「聾」「唖」の意味の変容  西川 吉之助は,聴覚障害が判明した娘はま子のために当時の京都市立盲唖院を見学し,娘に「唖」の「辱」を受けさせたくないと考えて口話教育を始めたこと(『口話式聾教育』1925 年),その後川本 宇之介や橋村 徳一とともに口話法の普及に努め,1928年に滋賀県立聾話学校を創立したことは有名であるが,この校名では「唖」は使われず,「聾」が使われている。手話を禁じる口話教育が主流となり,全国的に「聾唖学校」の「唖」をはずす学校が続出した。  現在もそうであるが,口話教育の成果は,残存聴力の有無や程度と密接な関わりをもつ。口話教育の普及と聴力検査の始まりにより,それまで漠然としていた軽度の聴覚障害者と重度の聴覚障害者の違いが顕在化したと思われる。そのため,「難聴」という語がいつから使われるようになったかに関する研究も望まれよう。  それまでは先天的な重度の聴覚障害者を「唖」と呼んでいたが,口話教育の広がりにより「唖」の使用が減り,音声言語が話せない者を「聾唖者」「ろう(聾)者」と呼ぶことになった可能性が考えられる。  戦後,聾学校に幼稚部が作られ,補聴器が普及すると,全く音声言語が話せない子どもはさらに減少した。現在の多くの聾学校は手話法と口話法を使用しており,手話を大切に考える人は多いが,自分のことを「ろう(聾)者」ではなく「聾唖者」と名乗る人は,筆者の周囲では見かけない。  1965年5月18日の京都新聞(夕刊)は,太鼓の音にも反応しない幼児の話を記事にしたが,そこで「つんぼ」が使われていた。これは,「つんぼ」を重度の聴覚障害の意味で用いた例であろう。また,「強度の難聴」という語も使われており,これは「感音難聴」を「感音聾,感音聴覚障害」と言わないことと関連すると思われる。  「全日本ろうあ連盟」は,HPの「連盟について」のところで「ろう者の当事者団体」と述べ,定款第3条(目的)で「聴覚障害者」という語を用いている。また,団体名を「Japanese Federation of the Deaf」と英訳し,「World Federation of the Deaf」を「世界ろう連盟」と訳しているが,「ろうあ・聾唖」「ろう(聾)」「聴覚障害者」をどのように使い分けているかについて,筆者は把握していない。 6.放送禁止用語との関連  本学の授業で「つんぼ」という語を紹介すると,「聞いたことがない」と言った学生が相当数みられた。これはいわゆる差別語や放送禁止用語とされるが,その定義や範囲,可否については,様々な見解がみられる。 6.1 放送禁止用語が掲載されていた文献の例  放送禁止用語が掲載されていた文献の例を紹介する。 ・1965年発行の『田園交響楽』(偕成社の少女世界文学全集,今官一訳)では,「つんぼ」「めくら」「精薄児」などの語が,1969年発行の『田園交響楽』(新潮社,1952年神西清訳)では,「つんぼ」「不具(ルビ:かたわ)」などが使われていた。 ・1972年頃に出版された『少年探偵 江戸川乱歩全集』(ポプラ社)では,放送禁止用語が多数使われていた。2022年発行の本(江戸川乱歩の著作)では,巻末のところで「本文中には,唖者(ルビ:おし)・気ちがい・びっこ・片輪者・不具者・低能児など(中略)不当・不適切と思われる語句や表現がありますが,作品発表時の時代的背景を考え合わせ(中略),底本のままとしました」と記されていた。 6.2 放送禁止用語の言い換えの動き  1970年代から差別語や放送禁止用語が話題になり,言葉狩りのような出来事が起きるようになった。政府は,1981年に医師法などの「つんぼ」や「おし」「めくら」を別の言い方に改めた。共同通信社の『記者ハンドブック』は,初版(1956年)から第14版(2022年)まで発行されているが,趙(2016)は,「おし,つんぼ,めくら,不具,気違い」のような差別語の言い換えが掲載されたのは第4版(1981年)であると述べている。  これらの動きは,児童のための国語辞典で「おし,つんぼ」などの項目を削除し,現在販売されているどの辞典でもこの項目が見当たらないことと関連すると思われる。また,2022年9月に店頭販売されていた諺に関する辞典を10冊調べたところ,「つんぼ」が語頭にある語が掲載されていた辞典は1冊のみ(「つんぼの早耳」のみ)であったことから,「つんぼ」という語やそれを使った諺を聞いたことがない人は今後も増えるであろう。 7.「聾」や「唖」の語の変遷の研究の必要性  江戸時代から明治時代にかけて,「聾」という語は,「音声言語を有するが,曖昧に聞こえる」,すなわち軽度の聴覚障害者や中途失聴者を意味したが,最近は,重度の聴覚障害者や手話を日常的に用いる人の意味合いを強めていると言えよう。実際,本学の聴覚障害学生は,「聾」のイメージとして,44%の者が「聞こえない・重度」,35%の者が「手話を使う」と記していた。ただし,ひらがな表記の「つんぼ」と漢字表記の「聾」は異なる意味合いで使われた可能性を否定できない。一方,「唖」という語は,先天性の聴覚障害があり,日本語の獲得が難しかった者を意味したと思われる。  その後,聾教育が始められ,日本語の獲得を目指す口話教育の広がりや補聴機器の進歩に伴い,聴覚障害が重度か軽度かによる違いが顕在化し,重度の聴覚障害は「聾」,軽度の聴覚障害は「難聴」と形容されることが増えたと思われる。  ひらがな表記の「つんぼ」「ろう」「おし」と漢字表記の「聾」「唖」,「聾唖者」「聾者」「難聴者」「聴覚障害者」について,江戸時代から現在までの使用頻度や意味の変遷に関するさらなる研究が必要であろう。 註1)2009年に筆者の生家で見つかった古文書の目録が,2016年に資料館から筆者に送られてきた。この古川家は,盲聾教育の祖である古河 太四郎と無関係である。 註2)「つんぼ池」が全国各地にみられる。他,地名として「高聾山」「小聾谷川」がみられる。 註3)末森(2022)によると,「つんぼふだ」「ろうふだ」「ろうさつ」と呼ばれる。「つんぼ」と記された首にかける札のことであり,漢字表記の札はないという。 謝辞  同意書を書いてくださった学生の方々,お世話になった資料館関係の方々に厚くお礼を申し上げます。 参照文献 [1] 盲聾教育開学百周年記念事業実行委員会編集部会.京都府盲聾教育百年史,京都府教育委員会,1978. [2] 末森 明夫.中古中世字書における聾唖吃字彙の受容と変容~聾概念と唖概念の独立性,唖概念と吃概念の連続性~,ろう教育科学,2020;62(1):p.13-24. [3] 末森 明夫.聾札と唖札~デジタル史料批判による聾唖図の考察~,障害史研究,2022;第3号,p.41-52. https://doi.org/10.15017/4772325(2022年9月8日閲覧) [4] 趙 凌梅.日本語における差別語概念の変遷―1960年代以降の差別語問題から考える―,東北大学機関リポジトリ,2016.http://hdl.handle.net/10097/00096915(2022年9月8日閲覧) Images of Terms Such as “Hearing Impairment,” “Deaf,” and “Hard-of-Hearing” Answers from Hearing-impaired Students and Changes in Descriptions in the Literature WAKINAKA Kiyoko Division for General Education for the Hearing and Visually Impaired, Research and Support Center for Higher Education for the Hearing and Visually Impaired, Tsukuba University of Technology Abstract: When we asked 23 hearing-impaired students of Tsukuba University of Technology who were taking the course “Japanese Language Society and Communication” and had provided informed consent, their responses showed the following tendencies: “Hearing disability≒hard to hear + cannot hear,” “Hearing disability ≒ hard-of-hearing (nancho) + deaf (ro)”, “cannot hear ≒ deaf (ro)” and “hard to hear ≒ hard-of-hearing (nancho).” As far as I have researched, so-called broadcast-banned words such as “oshi” and “tsumbo” are still included in Japanese dictionaries for adults, but have been deleted from around 1990 in Japanese dictionaries for children. In the past, the word “ro” meant a person with partial hearing loss, but recently it seems that people are increasingly thinking of people with severe hearing impairment who use sign language in relation to this term. Keywords: Hearing impairment, Deaf, Mute, Hard-of-Hearing, Terms prohibited from broadcast