半導体検出器用電子部品の評価 稲葉 基 筑波技術大学 産業技術学部 産業情報学科 キーワード:高エネルギー物理学実験,半導体検出器,バイアス回路,高電圧コンデンサ  加速器を用いて基本粒子や重イオンを加速し,その衝突反応を詳しく調べる高エネルギー物理学実験では,厚さ数百ミクロンの半導体センサーを採用した検出器が増えてきている。  比較的大きな検出セルからアナログ信号を読み出すパッド型検出器では,高めのバイアス電圧を印加してp-n接合を完全に空乏化しておく必要がある。長期運用期間中の放射線損傷を考慮し,p型シリコン基盤の検出器では,最大 1000Vまでバイアス電圧を印加できるように設計する。アナログ信号は,高電圧コンデンサを使ってバイアス電圧を遮断して読み出すので,信号読み出し電子回路を全滅させないためにも,高電圧コンデンサの特性を把握しておくことが求められる。  高電圧コンデンサの放射線耐性試験も重要であるが,本研究では,6メーカーの表面実装型コンデンサから計 12種類の候補を選び,電気的特性を測定することを目的とした。サンプル数は1個で,カタログ上の静電容量はいずれも10000pF である。  まず,測定対象のコンデンサをデシケータから取り出し,測定用ピンをはんだ付けをして,RLCメータZM2371 で室温での静電容量 C[pF]と損失係数 Dを測定した。そして,動作温度範囲の温風を当てて C が変化するかどうかを確認した。その後,開発済みの高電圧試験装置を用いて 10秒ごとに 10ボルトずつ印加電圧を上げていき,絶縁破壊を起こす電圧を調べた。最後に,RLCメータで絶縁破壊後の CとDを測定した。  測定結果は,表1のようになった。一般的に,C は抵抗の値と比べてバラツキが大きいと言われるが,No.6 はカタログ上の許容誤差が小さいこともあり,最も理想的な Cを示した。一方,No.1とNo.3 の測定値は,カタログ上の許容誤差範囲を超えていた。D は,0 に近ければ近いほど電力損失が少なく,理想的なコンデンサの特性を持っていると言える。今回の測定の中では,No.7とNo.9 が特に優れた Dを持っていた。温風を当てると,ほとんどのサンプルは,Cが小さくなる方向に変化した。No.9 だけは,目立った C の変化が見られず,カタログ上でも温度特性が CLASS1(温度補償用 ) に属している。また,カタログ上の定格電圧は,No.3 が 1500V,No.5 が 2000V,他が 1000Vであり,いずれのサンプルも定格電圧に対して十分に高い電圧まで絶縁破壊を起こさなかった。No.10 に関しては,定格電圧のおよそ 6.4 倍まで耐えた。絶縁破壊を起こすと,基本的にD が大きく増え,さらに C が小さくなるサンプルが多いことが分かった。絶縁破壊時の発光の仕方とC や D の変化の間に相関は見出せなかった。No.2 については,D が大き過ぎて,Cを測定できなかった。絶縁破壊を1回起こした後に再度定格電圧まで印加できたのは No.6 だけであった。これは,No.6 が大きな容積を持っていることに関係していると考えられる。他のサンプルは,C が大きく変化していなくても,漏れ電流が大きく増えた。仮に,大きな電流を出力できる電源を準備したとしても,漏れ電流によって電気的ノイズが増えることが予想され,アナログ信号読み出しには適さないと考えられる。  結論として,いずれの候補も,開封直後の状態では半導体検出器を1000V のバイアス電圧で動かすための十分な特性を持っており,低コストで入手可能な No.4 が有利と言える。しかし,何らかの理由で1箇所でも絶縁破壊を起こすと,No.6 以外は漏れ電流によって全信号チャンネルを失いかねない。 謝辞 本研究は,2020 年度学長のリーダーシップによる教育研究等高度化推進事業A競争的教育研究プロジェクト②産業技術に関する研究に「大面積半導体検出器用前段アナログ信号処理回路の製作」という研究課題名で申請し,採択および申請金額の 10%を配分していただき,財務課予算・決算係承認のもと,研究課題名を「半導体検出器用電子部品の評価」に変更して,研究を遂行したものである。 表1 6メーカーの高電圧コンデンサの仕様と測定結果