修士論文 聴覚障害者スポーツ競技団体事務局の現状と課題-情報コミュニケーションの問題を中心に- 平成 30年度筑波技術大学大学院 修士課程技術科学研究科 情報アクセシビリティ専攻 平井望 目次 第1章序論 5 第1節研究の背景 5 第2節本研究の目的 6 第3節本論文の構成 6 第4節用語の定義 8 第2章本論 11 第1節研究1 11 第1項目的 11 第2項方法 11 第3項結果 14 第4項考察 66 第2節研究2 69 第1項目的 69 第2項方法 69 第3項結果 75 第4項考察 96 第3章総合考察 98 第1節研究のまとめ 98 第1項研究1 98 第2項研究2 98 第2節総合考察 99 第4章結論 100 資料 101 引用・参考文献 111 謝辞 114 筑波技術大学修士(情報保障学)学位論文 第1章序論 第1節研究の背景 障害者スポーツの研究においては、障害者アスリートを取り巻くトレーニング環境や心理に関するテーマ 1) 2)、体力測定やスポーツ補助具などの科学的なテーマ 3) 4)、リハビリテーションなど医学的なテーマ 5)に関する調査報告が多く、アスリートを支援する側の例としては、大会ボランティアの事例が報告されている 6) 7)。しかし、前者と比べて、支援者の本質的な調査報告が数少ないのが現状である。 障害アスリートを支援する調査に関して、スポーツ庁において文部科学省障害者スポーツ推進タスクフォース(2016)8)が 2016年 12月 14日に発表した「障害者スポーツ団体の支援ニーズ等に関する調査結果」を挙げる。同調査は、日本障がい者スポーツ協会(以下、「JPSA」)および日本パラリンピック委員会(以下、「JPC」)に加盟している障害者スポーツ競技団体 76団体を対象に、「民間企業からの支援状況」、「民間企業からの支援への具体的ニーズ」、「団体運営における課題」、「障害者スポーツの推進に必要な取り組み」の 4項目について、アンケート調査を行っている。76団体のうち 46団体から得た回答内容を以下にまとめる。 ・スポンサーや協賛企業から高額の支援を受けている団体がある一方で、支援なしの団体も多数あり、団体間の大きな格差がみられる。 ・回答を主なニーズごとに分類したところ、日常生活支援(46団体)、大会イベント支援(18団体)、選手支援(5団体)、事務局体制支援(30団体)、広報支援(22団体)の 5つのカテゴリーになった。 ・多くの団体が事務局体制や運営資金などの活動の基盤が極めて脆弱である。 ・障害者スポーツに係る認知度向上のための普及促進、団体の財務・会計・広報等を代行する総合的な事務局支援、活動の場の確保、教育現場での障害の有無に関わらないスポーツ活動の推進、障害者と健常者が一体となった活動の推進等について、支援を求めている。 上述のとおり、障害者スポーツ競技団体が主に事務局運営の人材不足、資金不足、障害者スポーツの認知度の低さなどを課題としてあげていることが明らかになっているが、運営スタッフ自身の障害の有無や聴覚障害特有の情報・コミュニケーションの問題に関する項目の調査は行われていない。 実際、筆者自身も聴覚障害者スポーツ競技団体の事務局運営に関わり、日本スポーツ振興センター(以下、「JSC」)より受けている助成金の会計処理、経理報告を担当した経験があり、事務局運営において数多くの課題に直面してきた。助成金が年々上昇しており、事業報告書の量が倍増している中、専門知識を持つスタッフがほとんどおらず、人手不足で少人数で運営しているため、業務による長時間の拘束によって身体的・精神的にスタッフにかかる負担が大きい。また、資金不足のため、ほとんどボランティアで行っているが、スポーツ庁の意向によるガバナンス・コンプライアンスの整備・強化に伴い、専門知識を要する管理を求められるなど、法人資格を有する競技団体の運営をボランティアだけでは賄えきれないという現状がある。 第2節本研究の目的 本研究では、先行調査の結果を踏まえて、障害者スポーツ競技団体が共通して実施している「競技力向上事業」を対象とし、聴覚障害者スポーツ競技団体事務局における情報・コミュニケーションの現状と課題を明らかにすることを目的とする。 第3節本論文の構成 本論文は、第1章序論、第2章本論、第3章総合考察、第4章結論の全4章で構成する。 まず、第1章では、障害者スポーツ競技団体の支援ニーズに関する先行調査の概要を本研究の背景として述べる。次に、第2章では、質問紙調査および、半構造化面接調査の目的、結果を述べる。第3章で結果の考察を行い、最後に、第4章で結論を述べるものとする。 【図 1】本論文の構成 第4節用語の定義 1.障害者スポーツ 日本における障害者スポーツは、以前は厚生労働省の管轄下であったが、スポーツ振興の観点から平成 26年度に文部科学省に移管され、スポーツ庁において障害者スポーツの推進に取り組んでいる。 陶山(2007)9)は、「国際的には障害者の定義が統一されていないため、一般的には「障害者スポーツ」とは障害のある人のスポーツ」と解釈するのが適切である」と述べている。また、障害者スポーツ参加者の持つ障害の種類について、日本国内では身体障害者、知的障害者、精神障害者、重複障害者などであると示している。 陶山(2008)10)は、障害者スポーツの分類について、「障害者のある人のスポーツは、リハビリテーションスポーツ(医療スポーツ)、生涯スポーツ、競技スポーツなどに分類される」と述べている。 本研究における「障害者スポーツ」の定義は、「身体障害者、知的障害者、精神障害者、重複障害者、すべての障害者がリハビリテーションスポーツ、生涯スポーツ、競技スポーツの目的で行うもの」とする。 2.デフスポーツ 国際ろうスポーツ委員会(The International Committee of Sports for theDeaf:以下、「ICSD」)憲章11)にある定義には、表 1のように記載されている。” a hearing loss”は「聴覚障害」と訳し、” Deaf Person”は「聴覚障害者」と示す。” Any sports in which Deaf Persons participate”は「聴覚障害者が参加するスポーツ」と訳し、 ” Deaf Sports”は「ろう者スポーツ(デフスポーツ)」に訳される。 【表 1】ICSD憲章におけるデフスポーツの定義 用語 意味 Deaf Sports Any sports in which Deaf Persons participate Deaf Person A person with a hearing loss 五町(2010)12)は、聴覚障害者スポーツについて、ICSDでは “ Deaf Sports ”という言葉を用いていると述べており、“ Deaf Sports ”は競技の意味を含んだデフスポーツであり、“ Deaf Sport ”は娯楽や楽しみ、気晴らしの意味を含んだスポーツ活動としてとりあげると示している。また、五町の研究では、” Deaf Sports”の日本語表記について、「デフスポーツ」と表記している。本研究では、ICSDが示している定義をそのまま使うこととし、日本語のカタカナ表記で「デフスポーツ」を使用する。 3.パラスポーツ 近年、日本では、障害者スポーツに関して「パラスポーツ」という呼称が広まりつつある。パラリンピックの認知度が高まってきたことが要因のひとつではあるが、明らかな定義はあまり見られていない。 ⑴国際パラリンピック委員会(The International Paralympic Committee:以下、「IPC」)13)の“Strategic Plan 2015 to 2018”(和訳:戦略計画 2015~2018年)によると、IPCの目標・ビジョン・価値では、パラリンピック・ムーブメントの究極の目標を「パラスポーツを通じて障がい者にとってインクルーシブな社会を創出する(※JPCによる和訳)」とされている。 ⑵JPC(2016)14)の「IPCが IFを務める IFの名称および競技名の変更について」によると、2016年 11月 30日付けで、IPCが IF(国際競技団体)の役割を担う 10競技について、表 2のとおり、IF名および競技名が変更になった。 【表 2】「パラ」を使用した競技名 ⑶JPC(2018)15)の用語集「①障がい者スポーツ用語/和訳_20180329」では、下記の表 3のとおり、「Para」の名称をつけた単語の 3点が記載されており、それぞれの単語の頭に日本語のカタカナ表記で「パラ」と表している。一番下の「Para sport」は、和訳では日本語のカタカナで「パラスポーツ」と表記されている。 新競技名 旧競技名 パラ陸上 陸上 パラパワーリフティング パワーリフティング パラ水泳 水泳 パラアルペンスキー アルペンスキー パラバイアスロン バイアスロン パラクロスカントリースキー クロスカントリースキー パラ射撃 射撃 パラダンススポーツ 車いすダンススポーツ パラアイスホッケー アイススレッジホッケー 【表 3】「Para(パラ)」を使用した名称 ・ Para athlete(和訳:パラアスリート) ・ Para Games(和訳:パラ競技大会) ・ Para sport or sport for athletes with an impairment(和訳:パラスポーツ、障がい者スポーツ) 以上であるが、本研究では、デフスポーツとそれ以外の障害者スポーツに分けて比較するために、デフスポーツ以外の障害者スポーツを「パラスポーツ」と表記することとする。 4.競技団体 文部科学省やスポーツ庁の掲示している公式サイトや資料では、「スポーツ団体」と「競技団体」の使用が混合されているが、「競技団体」の表記は次のとおりである。 ⑴ JPSA定款 16)(平成23年11月25日内閣府認定)より 第 6章日本パラリンピック委員会「(加盟)第 46条 JPCには、第 52条により登録している競技団体のうち、パラリンピック競技大会、デフリンピック、アジアパラ競技大会及びIPCに加盟している障害別競技団体の大会において実施している競技の競技団体が加盟する。」 ⑵ JPSA(2018) 17)「わが国の障がい者スポーツの歴史と現状」より「(4)障がい者スポーツ競技団体 わが国でいち早く設立された競技団体は、昭和 38(1963)年の日本ろうあ体育協会(現全日本ろうあ連盟スポーツ委員会)であった。その後、1970年代に入ると、身体障がい者スキー、車椅子バスケットボール、アーチェリーの各組織が設立された。また、1980年代に入ると、卓球、水泳等 7団体が設立された。さらに、1990年代に入ると、障がい者優先利用スポーツ施設の増加と相まって競技団体が増加していった(28団体増加)。なお、競技団体間の情報交換の場として、平成元(1989)年に「種目別競技団体協議会」が発足した。また平成 11(1999)年には、財団法人日本身体障害者スポーツ協会の寄附行為改正に伴い「障害者スポーツ競技団体協議会」として協会組織に位置づけられた。」 以上に示唆されるように、競技団体は娯楽やリハビリの目的ではなく、オリンピック、パラリンピック、デフリンピック、世界選手権などの大会に参加する競技者などで構成されるものとする。 また、デフスポーツの競技団体を「デフスポーツ競技団体」とし、デフスポーツ競技団体は「デフ団体」、その競技団体に所属するスタッフ個人については「デフ個人」と表記する。そして、パラスポーツの競技団体を「パラスポーツ競技団体」とし、パラスポーツ競技団体は「パラ団体」、その競技団体に所属するスタッフ個人については「パラ個人」と表記する。 第2章本論 第1節研究1 第1項目的 研究 1では、障害者スポーツ競技団体の中において、デフスポーツ競技団体事務局に共通して特有な傾向を明確にすることを目的とする。 第2項方法 JPCに加盟している障害者スポーツ競技団体(61団体)に選択・記述式の書面による質問紙(資料)を郵送にて送付し、回答を得た。また、その 61団体に所属するスタッフ個人に質問紙を送付し、回答を得た。詳細は以下のとおりである。 1.対象 ⑴ JPCに加盟している障害者スポーツ競技団体の代表者または、運営責任者 ⑵上記の競技団体に所属し、競技力向上事業に携わるスタッフ個人(※⑵はプライバシー保護のため、個人の氏名は記入不要とした) 2.期間平成 30年 2月 1日~4月 31日 3.方法 ⑴研究の背景(自分の経験と先行調査の結果)に基づき、質問項目を作成した。 ⑵選択・記述式の書面による質問紙を各団体の事務局宛てに郵送した。 ⑶競技団体には 6カテゴリー 15項目、個人スタッフには 5カテゴリー 24項目の質問項目を設けた。 ⑷スタッフ個人は 1団体につき 4人までとし、各団体にて同封してある転送用切手を必要な人数分で貼り、スタッフ個人それぞれに質問紙を転送していただいた。 ⑸いずれも手書きによる回答紙を郵送にて返送していただいた。 ⑹選択式の回答結果は、クロス集計の方法でデフ群とパラ群に分けて集計し、カイ二乗検定によって分析した。 ⑺自由記述式の回答は、KJ法で整理してまとめた。 ⑻得られた結果により考察を行った。 4.質問項目の設定 ⑴競技団体向けに、①団体の運営状況について②人材について③資金について④活動について⑤連絡について⑥競技力向上事業における団体内の課題について、と 6カテゴリー計 15個の質問項目を設定し、各団体の代表者に回答を依頼した。 ⑵スタッフ個人向けに、①フェイスシート②競技力向上事業の業務について③会議・説明会・研修会について④競技力向上事業の業務の理解度について⑤競技力向上事業の業務における個人の事情と課題について、と 5カテゴリー計 24個の質問項目を設定し、各団体のスタッフに回答を依頼した。 5.倫理的配慮筑波技術大学の研究倫理審査委員会の承認を受けて実施した。(平成 30年 1月 9日) 6.回答数 ⑴障害者スポーツ競技団体 61団体のうち 24団体(回収率 39.3%) 内訳:デフ団体群 10団体、パラ団体群 14団体 (デフ団体) ・一般社団法人日本聴覚障害者陸上競技協会 ・日本ろう者バドミントン協会 ・一般社団法人日本ろう武道連盟 ・日本ろう自転車競技協会 ・一般社団法人日本ろう者サッカー協会 ・一般社団法人日本ろうあ者卓球協会 ・一般社団法人日本ろう者スキー協会アルペンスキーチーム ・一般社団法人日本ろう者スキー協会カーリングチーム ・一般社団法人日本ろう者スキー協会アルペンスノーボードチーム ・一般社団法人日本ろう者スキー協会スノーボードフリースタイルチーム (パラ団体) ・一般社団法人日本身体障害者アーチェリー連盟 ・一般社団法人日本障がい者バドミントン連盟 ・一般社団法人日本障害者カヌー協会 ・一般社団法人日本パラサイクリング連盟 ・一般社団法人日本障がい者乗馬協会 ・特定非営利活動法人日本ブラインドサッカー協会 ・一般社団法人日本車いすバスケットボール連盟 ・特定非営利活動法人日本障害者スキー連盟 ・一般社団法人全日本視覚障害者ボウリング協会 ・特定非営利活動法人日本車いすダンススポーツ連盟 ・認定特定非営利活動法人ローンボウルズ日本 ・一般社団法人日本 FIDバスケットボール連盟 ・特定非営利活動法人日本知的障がい者サッカー連盟 ・一般社団法人日本知的障がい者卓球連盟 ⑵スタッフ個人55人内訳:デフ個人群 28人、パラ個人群 27人 第3項結果 ⑴団体向け質問紙調査の回答結果 1.団体の運営状況について 問1-① 団体専用の事務所(パラリンピックサポートセンター含む)はありますか? (1.ある 2.ない) 【図 2】団体専用の事務所の有無 団体専用の事務所の有無について尋ねたところ、デフ団体は 10団体のうち 3団体が「ある」、6団体は「ない」と回答し、無回答は 1団体であった。パラ団体は 14団体のうち 11団体が「ある」、3団体が「ない」と回答した。 カイ2乗検定を用いて検定した結果、デフ団体群とパラ団体群の有意差が認められた(p=0.048 <0.05)。残差分析により、表 4のとおり、デフ団体群で、「ある」と回答した団体は、度数が 3であるのに対して期待度数は 5.8であり、期待値よりも有意に少ない。また、「ない」と回答した団体は、度数が 6であるのに対して期待度数は 3.8であり、期待値よりも有意に多いことが分かった。よって、デフ団体群は、パラ団体群と比べて事務所のある団体の数が少ないといえる。 問1-② 競技力向上事業の事務をどちらで行っていますか? (1.団体内 2.外部委託 3.両方) ※「団体内」とは、競技力向上事業の事務を団体内で行うものであり、「外部委託」とは、競技力向上事業の事務を外部に委託しているものである。そして、「両方」とは、団体内と外部委託の両方にて競技力向上事業の事務を行うものである。「外部委託」の事務を任せる内容や範囲については、競技力向上事業に関係するものであればすべて対象とする。 【図 3】競技力向上事業における事務委託の有無 競技力向上事業における事務委託の有無について、図 3に示した。デフ団体は、10団体すべてが「団体内」と回答した。パラ団体は、14団体のうち 12団体が「団体内」、2団体が「両方」と回答した。 カイ2乗検定を用いて検定した結果、デフ団体群とパラ団体群の有意差は認められなかった(p=0.212 >0.05)。 2.人材について 問2-① 競技力向上事業に携わっている事務スタッフは何人いますか? 基本情報として組織の状況を把握するために、各団体の競技力向上事業に携わる事務スタッフの人数を尋ねた。 競技力向上事業に携わる事務スタッフの人数について、デフ団体は、10団体のうち、1人が 3団体、2人が 2団体、3人が 0団体、4人が 3団体、5人、6人、7人が 0団体、8人が 1団体、9人が 0団体、10人が 1団体と回答した。パラ団体は、14団体のうち、1人が 5団体、2人が 3団体、3人が 1団体、4人が 1団体、5人が 0団体、6人が 2団体、7人、8人、9人、10人が 0団体と回答し、無回答が 2団体であった。 カイ2乗検定を用いて検定した結果、デフ団体群とパラ団体群の有意差は認められなかった(p=0.362 >0.05)。 問2-② 問2-①の中に選手兼事務スタッフはいますか? ( 1.いる(人)2.いない) 【図 5】選手兼事務スタッフの人数 競技力向上事業に携わる選手兼事務スタッフの人数について、デフ団体は、10団体のうち、1団体が「1人」、1団体が「2人」、1団体が「4人」、1団体が「8人」と回答した。パラ団体は、14団体のうち 2団体が「1人」と回答した。 カイ2乗検定を用いて検定した結果、デフ団体群とパラ団体群の有意差は認められなかった(p=0.392 >0.05)。 問2-③ 事務スタッフはどのように採用していますか?(※複数選択可) 【図 6】事務スタッフの採用方法 事務スタッフの採用方法について、デフ団体は、10団体のうち、1団体が「ホームページや SNSでの公募」、4団体が「知人の紹介」、7団体が「選手として関わっていた人」と回答した。パラ団体は、14団体のうち、1団体が「ホームページや SNSでの公募」、5団体が「知人の紹介」、3団体が「選手として関わっていた人」、4団体が「その他」と回答し、2団体が無回答であった。 問2-④ 団体内の会員(平成 29年度)は何人ですか?会費を払っている会員の人数を記入してください。 【図 7】団体内の会員数 団体内の会員数について、デフ団体は、10団体のうち「100人未満」が 7団体、「100~199人」が 1団体、「200~299人」が 1団体、「300~399人」、「400~499人」、「500人以上」が 0団体と回答し、無回答が 1団体であった。パラ団体は、14団体のうち「100人未満」が 4団体、「100~199人」が 2団体、「200~299人」が 4団体、「300~399人」、「400~499人」が 0団体、「500人以上」が 1団体、「会員登録制ではない」が 1団体と回答し、無回答が 2団体であった。 カイ2乗検定を用いて検定した結果、有意差は認められなかった(p=0.447 >0.05)。 3.資金について 問3-① 競技力向上事業の助成金から謝金を事務スタッフに支給していますか? 【図 8】助成金による事務スタッフへの謝金支給の有無 事務スタッフに助成金から謝金を支給しているのか尋ねた。 助成金による事務スタッフへの謝金支給の有無について、デフ団体は、10団体のうち、「支給あり」が 6団体、「支給なし」が 3団体、「両方」が 1団体と回答した。パラ団体は、14団体のうち、「支給あり」が 5団体、「支給なし」が 7団体、「両方」が 2団体と回答した。 カイ2乗検定を用いて検定した結果、有意差は認められなかった(p=0.497 >0.05)。 問3-② 競技力向上事業で自主財源から事務スタッフに謝金や日当を支給することはありますか? 【図 9】自主財源による事務スタッフへの謝金日当支給の有無 自主財源による事務スタッフへの謝金日当支給の有無について、デフ団体は、10団体のうち、「ある」が 3団体、「ない」が 6団体と回答し、無回答が 1団体であった。パラ団体は、14団体のうち、「ある」が 9団体、「ない」が 5団体と回答した。 カイ2乗検定を用いて検定した結果、有意差は認められなかった(p=0.172 >0.05)。 問3-③ 競技力向上事業の助成金(1回目と 2回目)が団体の口座に入金されるまでの間の合宿・遠征などの立て替えはどうしていますか?(※複数選択可) 【図 10】合宿・遠征などの立替費用の出所 国による助成金の金額検討や手続きの関係により、助成金が年度初めではなく年度の半ばに各競技団体におりてくるため、入金されるまでの間に実施する合宿や遠征などの費用をどうしているか尋ねた。 合宿・遠征などの立替費用の出所について、デフ団体は、10団体のうち、「団体の自主財源」が 4団体、「役員」が 3団体、「スタッフ」が 6団体、「選手」が 6団体、「その他」が 2団体と回答した。パラ団体は、14団体のうち、「団体の自主財源」が 9団体、「役員」が 5団体、「スタッフ」が 2団体、「選手」が 4団体、「その他」が 3団体と回答した。 4.活動について 問4-① 今年度の強化合宿(未実施分も含む)は何回実施していますか?(回/年) 【図 11】強化合宿の実施回数(平成 29年度) 強化合宿の実施回数(平成 29年度)について、デフ団体は、10団体のうち、「10回未満」が 4団体、「10~19回」が 2団体、「20~29回」が 2団体、「30~39回」が 1団体、「40~49回」が 1団体、「50回以上」が 0団体と回答した。パラ団体は、14団体のうち、「10回未満」が 10団体、「10~19回」が 2団体、「20~29回」が 1団体、「30~39回」、「40~49回」が 0団体、「50回以上」が 1団体と回答した。 カイ2乗検定を用いて検定した結果、有意差は認められなかった(p=0.37 >0.05)。 5.連絡について 問5-① 団体内の通信手段を用いた連絡で何を利用していますか?(※複数選択可) 1.文字 (テキスト、メール、LINE等)による連絡 2.音声 (電話等)による連絡 3.手話 (ビデオチャット等)による連絡 4.音声と手話通訳(電話リレーサービス等)による連絡 5.その他 【図 12】団体内における通信手段の連絡方法 団体内における通信手段の連絡方法について、デフ団体は、10団体のうち、「文字」が10団体、「音声」が 1団体、「手話」が 8団体、「音声・手話」が 1団体、「その他」が 1団体と回答した。パラ団体は、14団体のうち、「文字」が 14団体、「音声」が 8団体、「手話」、「音声・手話」が 0団体、「その他」が 2団体と回答した。 問5-② 上記①の通信手段で最も利用するのはどれですか?(※1つのみ選択) 【図 13】団体内における通信手段で最も利用する連絡方法 前問の問5-①の通信手段で最も利用する連絡方法について、デフ団体は、10団体のうち、「文字」が 9団体、「音声」、「手話」、「音声・手話」、「その他」が 0団体であった。パラ団体は、14団体のうち、「文字」が 13団体、「音声」、「手話」、「音声・手話」、「その他」が 0団体であった。 デフ団体群とパラ団体群はどちらも通信手段で最も利用するのは「文字」と回答しており、両群の差はみられなかった。 6.競技力向上事業における団体内の課題について 問6-① 財政面での課題はありますか? 【図 14】財政面での課題の有無 財政面での課題の有無について、デフ団体は、10団体のうち、「ある」が 7団体、「ない」が 2団体と回答し、「無回答」が 1団体であった。パラ団体は、14団体のうち、「ある」が13団体、「ない」が 1団体と回答した。 カイ2乗検定を用いて検定した結果、有意差は認められなかった(p=0.281 >0.05)。 表 5は、財政面での課題について自由記述にて回答してもらったものである。 財政面での課題(自由記述回答) デフ団体 助成金に頼らない自主財源の確保をはじめとする財政基盤の強化 選手の負担が減らない チームの自主財源がなく専門スタッフを雇う資金がない 事務所を構えたいが、その維持費に必要な経費もない 外部コーチを招へいすると同時に手話通訳が必要になる為、それにかかる費用が事業助成金を圧迫していることもあり、結果的に合宿の回数や参加するスタッフを減らす等の調整に苦慮している 実際の金額と帳簿の金額が一致しない 専用の事務所を借りる資金がない 専門スタッフを雇用する資金がない パラ団体 スタッフの謝礼が十分でない 海外遠征を増やせない ユニホームの財源が不足 コーチやスタッフへの報酬の資金を含む大部分が助成金頼り 自主財源がない 強化費が足りず、自主財源(スポンサー)などセールスする必要あり 立替が多い 収入の増加 助成金額の決定が遅く計画が立てられない 助成金の入金が遅いため、銀行借入をするがその利息は自主財源のため苦しい 必要な強化活動が十分行えるだけの助成金が得られない 会計処理が非常に煩雑 ボランティアレベルで出来る仕事量ではない 資金が少なく遠征に行けない 自主財源がないので突発対応ができない NPO法人なので助成金に頼った活動となっている 将来が不安 お金が足らない スポンサーの獲得を考えている(今はなし) 負債 【表 5】財政面での課題の回答(自由記述回答) 問6-② 運営面での課題はありますか? 【図 15】運営面での課題の有無 運営面での課題の有無について、デフ団体は、10団体のうち、「ある」が 6団体、「ない」が 3団体と回答し、「無回答」が 1団体であった。パラ団体は、14団体のうち、「ある」が10団体、「ない」が 4団体と回答した。 カイ2乗検定を用いて検定した結果、有意差は認められなかった(p=0.468 >0.05)。 表 6は、運営面での課題について自由記述にて回答してもらったものである。 運営面での課題(自由記述回答) デフ団体 強化事業以外の広報・普及活動の充実化 余裕のある運営をしたい 公認会計士がいなく、運営に関する知識や経験のある有望な方が少なく大変である 資料などを保管できる事務所がまだないため、事務処理も含めて事務担当の家で行っている状態 財政面が弱い 本業の仕事に追われて〆切を過ぎてしまうことが多くある 強化スタッフの課題意識が薄い(責任感がない) パラ団体 委員会の設置が形だけで、人員不足 ・規定やルールの不備がある・マネジメント能力など組織運営の人材が不足 事務スタッフの確保 スタッフを増強し、運営安定 毎年 3月に世界選手権があるため、処理がぎりぎり過ぎて厳しい 金銭的余裕を世界選手権で持てず、派遣の縮小につながらざるを得なくなる スケジュールがなかなか決まらない 冬季競技のため4月~3月のスケジュール合わせで申請及び報告等が非常につらい 人が足らない 自主財源があれば人材を増やすことも考えているが、組織内の役割が明確にされていない為、まとまらない 事務員がいない 【表 6】運営面での課題の回答(自由記述回答) 問 6-③ 人材面での課題はありますか? 【図 16】人材面での課題の有無 運営面での課題の有無について、デフ団体は、10団体のうち、「ある」が 7団体、「ない」が 2団体と回答し、「無回答」が 1団体であった。パラ団体は、14団体のうち、「ある」が10団体、「ない」が 4団体と回答した。 カイ2乗検定を用いて検定した結果、有意差は認められなかった(p=0.455 >0.05)。 表 7は、人材面での課題について自由記述にて回答してもらったものである。 人材面での課題(自由記述回答) デフ団体 専門知識を持った人材確保 人材を増やしたい 事務スタッフは本業を持ちながら団体の事務も行っているため、専属事務スタッフを採用していく必要がある 現在、事務担当が一人のみのため、負担が大きい状態になっている スタッフのみの人が不在(全員が選手兼スタッフのため) 補助金内で人材を確保したい 実施報告書をきちんと作成できるスタッフが少ない 経理作業ができるスタッフが少ない 強化スタッフの問題意識が弱い 率先して行動できるスタッフがいない パラ団体 事務局が二人体制(会長と事務局)で限界を超えている ボランティア主体であり、スキル的、経験的に人材を要求できる状態ではない 業務が多くなり、人が 1~ 2名足りない 増員 専任事務スタッフがいない(専任事務スタッフを持つだけの財政的余裕がない) 支援学校の先生方が中心の組織だが、ボランティア意識が強く、責任を持って業務を遂行することが難しい 3競技5チームの運営及びその他の業務に対して事務局員が少ないが、金銭面では現状で続けるしかない 営業に行くスタッフがいない ●●(競技)がまだまだ新しいため、人材を育てることが大事なので、人材を集めて全体で育てて作っていく段階となっている 事務員の確保 【表 7】人材面での課題(自由記述回答) 財政面・運営面・人材面での課題の自由記述回答をKJ法で整理したものを表 7、表 8、表 9に示した。 【表 8】財政面での課題の自由記述回答の KJ法による整理 【表 9】運営面での課題の自由記述回答の KJ法による整理 【表 10】人材面での課題の自由記述回答の KJ法による整理 KJ法で整理した結果、財政面での課題は、「財源不足」、「強化活動への影響」、「助成金頼み」、「知識・技術の不足」、「手話通訳」という 5分類になった。運営面での課題は、「体制」、「人材(数)」、「人材(質・意識)」、「日程」、「財源不足」の 5分類になった。人材面での課題は、「増員」、「スキル」、「財源不足」、「意識」の 4分類になった。これらの分類を財政面・運営面・人材面の共通課題として大きくまとめると「財源不足」、「スタッフの人員不足」、「スタッフの意識が低い、スタッフの知識・技術が低い」との分類になった。また、情報・コミュニケーションの観点でみると、ひとつではあるが、手話通訳が必要だが費用がかかるといった特記事項がみられた。 ⑵スタッフ個人向け質問紙調査の回答結果 1.フェイスシート 問1-①性別 【図 17】事務スタッフの性別 事務スタッフの性別について、デフ個人は、28人のうち、男性が 16人、女性が 12人と回答した。パラ個人は、27人のうち、男性が 10人、女性が 17人と回答した。カイ2乗検定を用いて検定した結果、有意差は認められなかった(p=0.135 >0.05)。 問1-②年齢 【図 18】事務スタッフの年齢 事務スタッフの年齢について、デフ個人は、28人のうち、10代が 0人、20代が 2人、30代が 12人、40代が 10人、50代が 2人、60代が 2人と回答した。パラ個人は、10代が 0人、20代が 2人、30代が 6人、40代が 10人、50代が 4人、60代が 5人と回答した。 デフ個人群は 30代が最も多く、次いで 40代が多い。パラ個人群は 40代が最も多く、次いで 30代が多い。 カイ2乗検定を用いて検定した結果、有意差は認められなかった(p=0.415 >0.05)。 問1-③ 身体障害者手帳・療育手帳・精神障害者手帳のどれかを持っていますか? 【図 19】身体障害者手帳・療育手帳・精神障害者手帳の有無 先行調査のスポーツ庁調査では、競技団体のスタッフの障害の有無、障害名などの調査結果がみられなかったため、身体障害者手帳・療育手帳・精神障害者手帳の有無などについて尋ねた。 デフ個人は、28人の全員が手帳を持っていると回答した。パラ個人は、27人のうち、手帳を持っているのが 1人と回答した。 カイ2乗検定を用いて検定した結果、デフ個人群とパラ個人群の有意差が認められた(p= 0.00 <0.05)。残差分析により、表 11のとおり、デフ個人群で、「ある」と回答した人は、度数が 28であるのに対して期待度数は 14.8であり、期待値よりも有意に多い。また、「ない」と回答した人は、度数が 0であるのに対して期待度数は 13.2であり、期待値よりも有意に少ないことが分かった。よって、デフ個人群は、パラ個人群と比べて障害者手帳所持者の数が多いといえる。 【表11】障害者手帳の有無の比較 「持っている」と答えた方のみ、障害名を教えて下さい。 【図 20】身体障害の種類 身体障害の種類について、デフ個人は、全員が聴覚障害と回答した。パラ個人は、1人が肢体不自由と回答した。 デフ個人群は全員が聴覚障害者であり、パラ個人群は肢体不自由が 1人だけという、両群の差が明らかになった。よって、デフ団体は聴覚障害当事者が運営しているという傾向がみられる。 障害の階級(1級~6級) 【図 21】障害の階級 障害の階級について、デフ個人は、28人のうち、2級が 27人、6級が 1人と回答した。パラ個人は、1級が 1人と回答した。デフ個人群は、ほとんどが重度の聴覚障害を有することが分かった。 問1-④ 団体内における役職の有無を教えてください。 (1.理事2.理事以外3.役職なし) 【図 22】団体内における役職の有無 団体内における役職の有無について、デフ個人は、28人のうち、「理事」が 20人、「理事以外」が 6人、「役職なし」が 1人と回答し、無回答が 1人であった。パラ個人は、27人のうち、「理事」が 7人、「理事以外」が 13人、「役職なし」が 7人と回答した。 カイ2乗検定を用いて検定した結果、有意差が認められた(p=0.02 <0.05)。残差分析により、表 12のとおり、デフ個人群で、「理事」と回答した人は、度数が 20であるのに対して期待度数は 13.7であり、期待値よりも有意に多い。「理事以外」と回答した人は、度数が 6であるのに対して期待度数は 9.7であり、期待値よりも有意に少ない。「役職なし」と回答した人は、度数が 1であるのに対して期待度数は 4.1であり、期待値よりも有意に少ないことが分かった。よって、デフ個人群は、パラ個人群と比べて理事を担っている人の数が多いといえる。 【表12】団体内における役職の有無の比較 問1-⑤ 競技をされていた経験(継続中も含む)はありますか? 【図 23】競技経験の有無 競技経験の有無について、デフ個人は、28人のうち、「ある」が 25人、「ない」が 3人と回答した。パラ個人は、27人のうち、「ある」が 16人、「ない」が 11人と回答した。カイ2乗検定を用いて検定した結果、有意差が認められた(p=0.011 <0.05)。よって、デフ個人群は、パラ個人群と比べて競技経験者の数が多いといえる。 問 1-⑥ 競技力向上事業とは別に仕事(本業)をされていますか? 【図 24】本業の有無 本業の有無について、デフ個人は、28人のうち、「はい」が 27人、「いいえ」が 1人と回答した。パラ個人は、27人のうち、「はい」が 13人、「いいえ」が 13人と回答し、無回答が 1人であった。 カイ2乗検定を用いて検定した結果、有意差が認められた(p=0.00 <0.05)。残差分析により、表 13のとおり、デフ個人群で、「ある」と回答した人は、度数が 27であるのに対して期待度数は 20.4であり、期待値よりも有意に多い。また、「ない」と回答した人は、度数が 1であるのに対して期待度数は 7.1であり、期待値よりも有意に少ないことが分かった。よって、デフ個人群は、パラ個人群と比べて本業のある人の数が多いといえる。 【表13】本業の有無の比較 職業の種類(問 1-⑥で「はい」と答えた方のみ) 【図 25】職業の種類 職業の種類について、デフ個人は、28人のうち、営業職が 1人、事務が 4人、技術職が3人、製造業が 3人、専門職が 4人、金融系が 1人、公務員教員が 1人、建設業が 2人、その他が 7人と回答し、無回答が 1人であった。パラ個人は、27人のうち、営業職が 1人、事務が 4人、技術職が 3人、製造業が 3人、公務員教員が 1人、研究職が 1人、医療系が 2人、その他が 2人、複数回答が 3人と回答した。 2.競技力向上事業の業務について 問 2-① 競技力向上事業に携わって何年になりますか? 【図 26】競技力向上事業の経験年数 競技力向上事業の経験年数について、デフ個人は、28人のうち、「1年未満」が 0人、「1年」が 1人、「2年」が 2人、「3年」が 7人、「4年」が 5人、「5年」が 3人、「6年」が 0人、「7年」が 2人、「8年」が 1人、「9年」が 0人、「10年以上」が 3人と回答した。パラ個人は、27人のうち、「1年未満」が 2人、「1年」が 4人、「2年」が 4人、「3年」が 7人、「4年」が 1人、「5年」が 1人、「6年」が 2人、「7年」が 0人、「8年」が 2人、「9年」が 0人、「10年以上」が 4人と回答した。 デフ個人群とパラ個人群での発生率を、カイ2乗検定を用いて検定した結果、有意差は認められなかった(p=0.282 >0.05)。 問 2-② 直近 3ヶ月間(10~12月)の平均で、競技力向上事業の業務にかけている時間はどれくらいですか? 競技力向上事業の業務にかかる時間について、デフ個人は、28人のうち、「10時間未満」が 2人、「10~29時間」が 8人、「30~49時間」が 4人、「50~69時間」が 5人、「70~89時間」が 3人、「90~109時間」が 1人、「110~129時間」が 0人、「130~149時間」が 1人、「150~169時間」が 1人、「170時間以上」が 0人と回答し、無回答が 3人であった。パラ個人は、27人のうち、「10時間未満」が 1人、「10~29時間」が 4人、「30~49時間」が 0人、「50~69時間」が 4人、「70~89時間」が 1人、「90~109時間」が 4人、「110~129時間」が 2人、「130~149時間」が 1人、「150~169時間」が 4人、「170時間以上」が 4人と回答し、無回答が 2人であった。 カイ2乗検定を用いて検定した結果、有意差は認められなかった(p=0.085 >0.05)。 問 2-③ 報酬(賃金)をもらっていますか? 【図 28】報酬(賃金)の有無 報酬(賃金)の有無について、デフ個人は、28人のうち、「はい」が 5人、「いいえ」が22人と回答し、無回答が 1人であった。パラ個人は、27人のうち、「はい」が 22人、「いいえ」が 3人と回答し、無回答が 2人であった。 カイ2乗検定を用いて検定した結果、有意差が認められた(p=0.00 <0.05)。残差分析により、表 14のとおり、デフ個人群で、「ある」と回答した人は、度数が 5であるのに対して期待度数は 13.7であり、期待値よりも有意に少ない。また、「ない」と回答した人は、度数が 22であるのに対して期待度数は 12.7であり、期待値よりも有意に多いことが分かった。よって、デフ個人群は、パラ個人群と比べて報酬をもらっている人の数が少ないといえる。 【表14】報酬の有無の比較 問 2-④ JPSA(JPC)や JSCとの通信手段を用いた連絡で何を利用していますか?(※複数選択可) 1.文字(テキスト、メール、LINE等)による連絡 2.音声(電話等)による連絡 3.手話(ビデオチャット等)による連絡 4.音声と手話通訳(電話リレーサービス等)による連絡 5.その他 【図 29】JPSA(JPC)や JSCとの通信手段を用いた連絡方法 JPSA(JPC)や JSCとのやりとりにおける通信手段の連絡方法について、デフ個人は、28人のうち、「文字」が 28人、「音声」が 2人、「手話」が 1人、「音声・手話」が 2人「その他」が 1人と回答した。パラ個人は、27人のうち、「文字」が 27人、「音声」が 17人、「手話」が 0人、「音声・手話」が 1人、「その他」が 0人と回答した。 問 2-⑤ 上記④の通信手段で最も利用するのはどれですか?(※1つのみ選択) -、 【図 30】JPSA(JPC)や JSCとの通信手段で最も利用する連絡方法 デフ個人群、パラ個人群ともにほとんどのスタッフが「文字」の連絡方法を最も多く用いており、差はみられなかった。 問 2-⑥ あなたの業務担当に該当する番号に〇をつけてください。(※複数選択可) 【図 31】競技力向上事業における担当業務 競技力向上事業における担当業務について、デフ個人は、28人のうち、「宿泊先や交通費等の領収書の収集」の 21人が最も多く、次に多かったのは「収支簿、完了報告書の作成」の 20人が回答した。パラ個人は、27人のうち、「貴団体と JPSA(JPC)や JSCとの間の連絡」の 23人が最も多く、次に多かったのは「公印の押印、文書の郵送」の 21人が回答した。 3.会議・説明会・研修会について 問 3-① JPSA(JPC)主催の競技力向上事業に関わる会議・説明会・研修会では、どのような方法で情報を受け取っていますか?(※複数選択可) 【図 32】JPSA(JPC)主催の競技力向上事業に関わる会議・説明会・研修会での情報の確保方法 JPSA(JPC)主催の競技力向上事業に関わる会議・説明会・研修会での情報の確保方法について、デフ個人は、28人のうち、「手話通訳」の 25人が最も多く、次に多かったのは「スクリーン」の 20人、その次に多かったのは「配布資料」の 17人と回答した。パラ個人は、27人のうち、「配布資料」の 23人が最も多く、次に多かったのは「スクリーン」の 19人および、「音声」の 19人と回答した。問 3-② JPSA(JPC)主催の競技力向上事業に関わる会議や説明会で話される内容をすぐに理解できていますか? 【図 33】JPSA(JPC)主催の競技力向上事業に関わる会議・説明会・研修会での内容の理解度 JPSA(JPC)主催の競技力向上事業に関わる会議・説明会・研修会での内容の理解度について、デフ個人は、28人のうち、「そう思う」が 2人、「ややそう思う」が 17人、「あまりそう思わない」が 6人、「そう思わない」が 1人と回答し、無回答が 2人であった。パラ個人は、27人のうち、「そう思う」が 13人、「ややそう思う」が 9人、「あまりそう思わない」が 3人、「そう思わない」が 0人、「参加したことがない」が 1人と回答し、無回答が 1人であった。 カイ2乗検定を用いて検定した結果、有意差が認められた(p=0.017 <0.05)。残差分析により、表 15のとおり、デフ個人群で、「そう思う」と回答した人は、度数が 2であるのに対して期待度数は 7.6であり、期待値よりも有意に少ない。「ややそう思う」と回答した人は、度数が 17であるのに対して期待度数は 13.2であり、期待値よりも有意に少ない。「あまりそう思わない」と回答した人は、度数が 6であるのに対して期待度数は 4.6であり、期待値よりも有意に多い。「そう思わない」と回答した人は、度数が 1であるのに対して期待度数は 0.5であり、期待値よりも有意に多いことが分かった。よって、デフ個人群は、パラ個人群と比べて理解度が低いといえる。 【表15】説明会などでの内容の理解度の比較 問 3-③ ②で内容がすぐに理解できない時はどうしていますか?最も多いものを1つ選んでください。 【図 34】問 3-②で内容がすぐに理解できない際の対応方法 前問の問 3-②で内容がすぐに理解できない際の対応方法について、デフ個人は、28人のうち、「その場で質問する」が 2人、「別の機会にメールや電話等で質問する」が 4人、「配布資料や手引き等で確認する」が 10人、「その他」1人と回答し、無回答が 4人、無効が 7人であった。パラ個人は、27人のうち、「その場で質問する」が 2人、「別の機会にメールや電話等で質問する」が 8人、「配布資料や手引き等で確認する」が 8人、「その他」0人と回答し、無回答が 6人、無効が 3人であった。 カイ2乗検定を用いて検定した結果、有意差は認められなかった(p=0.597 >0.05)。 4.競技力向上事業の業務の理解度について 問 4-① 競技力向上事業の書類の処理の仕方が難しいと思いますか? 【図 35】競技力向上事業の書類の処理の仕方の難易度 競技力向上事業の書類の処理の仕方の難易度について、デフ個人は、28人のうち、「そう思う」が 7人、「ややそう思う」が 14人、「あまりそう思わない」5人、「そう思わない」が1人と回答し、無回答が 1人であった。パラ個人は、27人のうち、「そう思う」が 6人、「ややそう思う」が 14人、「あまりそう思わない」4人、「そう思わない」が 1人と回答し、無回答が 2人であった。 カイ2乗検定を用いて検定した結果、有意差は認められなかった(p=0.973 >0.05)。 問 4-② 競技力向上事業に関して、事務手引きの内容、重要業績評価指標(KPI)・ガバナンス・コンプライアンス等用語の意味をよく理解できていない時はどうしていますか? (※複数選択可) 【図 36】競技力向上事業における専門用語を理解できない際の対応方法 競技力向上事業における専門用語を理解できない際の対応方法について、デフ個人は、28人のうち、「手引き等書類を読む」が 20人、「団体内で確認する」が 20人、「JPSA(JPC)等に聞く」が 11人、「その他」が 3人と回答し、無回答が 1人であった。パラ個人は、27人のうち、「手引き等書類を読む」が 20人、「団体内で確認する」が 14人、「JPSA(JPC)等に聞く」が 16人、「その他」が 2人と回答し、無回答が 1人であった。 5.競技力向上事業の業務における個人の事情と課題について 問 5-① 競技力向上事業に携わっている理由、きっかけは何ですか?(※複数選択可) 【図 37】競技力向上事業に携わっている理由、きっかけ 競技力向上事業に携わっている理由、きっかけについて、デフ個人の回答は、28人のうち、「他にやる人がいない」の 12人が最も多く、「スキル・経験を活かしたい」の 11人、「自分が競技をやっていた」の 11人が次に多かった。パラ個人の回答は、27人のうち、「競技が好き」の 11人、「他にやる人がいない」の 11人が最も多く、「選手と一緒に勝つ喜びを味わいたい」の 10人が次に多かった。 問 5-② 競技力向上事業に携わることによって生じる個人としてのメリットとデメリットを教えてください。 表 16は、競技力向上事業に携わることによって生じる個人としてのメリットについて自由記述にて回答してもらったものである。 【表 16】競技力向上事業に携わることによって生じる個人としてのメリット 表 17は、競技力向上事業に携わることによって生じる個人としてのデメリットについて自由記述にて回答してもらったものである。 【表 17】競技力向上事業に携わることによって生じる個人としてのデメリット 競技力向上事業に携わることによって生じる個人としてのメリットとデメリットの自由 記述回答を KJ法で整理したものを図 38、図 39に示した。 【図 38】競技力向上事業に携わることによって生じる個人としてのメリットの自由記述回答の KJ法による整理 【図 39】競技力向上事業に携わることによって生じる個人としてのデメリットの自由記述回答の KJ法による整理 【表 18】業務における個人としてのメリットとデメリットの比較 表 18のとおり、KJ法で整理した結果、メリットは「知識・技術の習得」が最も多く、次いで「人脈・ネットワーク作り」、「チームワークの向上」という内容であることが分かった。デメリットは「時間の問題(自分の時間がなくなる、本業との両立が困難)」が最も多く、次いで「業務内容の問題(業務の量が多すぎる、身体などに影響が出る)」、「対価の問題(報酬が少ない・無報酬)」の内容であった。問 5-③ JPSA(JPC)との質疑応答や相談に満足していますか? 【図 40】JPSA(JPC)との質疑応答や相談に対する満足度 JPSA(JPC)との質疑応答や相談に対する満足度について、デフ個人は、28人のうち、「はい」が 11人、「いいえ」が 19人、「担当ではないので当てはまらない」が 9人、「どちらでもない」が 1人と回答し、無回答が 1人であった。パラ個人は、27人のうち、「はい」が19人、「いいえ」が 2人、「担当ではないので当てはまらない」が 5人と回答し、無回答が1人であった。 カイ2乗検定を用いて検定した結果、有意差は認められなかった(p=0.181 >0.05)。 問 5-④ 競技団体内の質疑応答や相談に満足していますか? 【図 41】競技団体内の質疑応答や相談に対する満足度 競技団体内の質疑応答や相談に対する満足度について、デフ個人は、28人のうち、「はい」が 17人、「いいえ」が 6人、「担当ではないので当てはまらない」が 3人と回答し、無回答が 2人であった。パラ個人は、27人のうち、「はい」が 13人、「いいえ」が 5人、「担当ではないので当てはまらない」が 7人と回答し、無回答が 2人であった。 カイ2乗検定を用いて検定した結果、有意差は認められなかった(p=0.531 >0.05)。 問 5-⑤ 競技力向上事業に携わることにやりがいを感じていますか? 【図 42】競技力向上事業に携わることに対するやりがいの有無 競技力向上事業に携わることに対するやりがいの有無について、デフ個人は、28人のうち、「そう思う」が 7人、「ややそう思う」が 13人、「あまりそう思わない」が 6人、「そう思わない」が 1人と回答し、無回答が 1人であった。パラ個人は、27人のうち、「そう思う」が 11人、「ややそう思う」が 12人、「あまりそう思わない」が 4人、「そう思わない」が 0人と回答した。 カイ2乗検定を用いて検定した結果、有意差は認められなかった(p=0.507 >0.05)。 問 5-⑥ 今の状況で競技力向上事業に今後も携わりたいと思いますか? 【図 43】競技力向上事業の業務の継続希望の有無 競技力向上事業の業務を継続したいという意識の有無について、デフ個人は、28人のうち、「そう思う」が 4人、「ややそう思う」が 11人、「あまりそう思わない」が 7人、「そう思わない」が 5人と回答し、無回答が 1人であった。パラ個人は、27人のうち、「そう思う」が 7人、「ややそう思う」が 12人、「あまりそう思わない」が 6人、「そう思わない」が 1人と回答し、無回答が 1人であった。 カイ2乗検定を用いて検定した結果、有意差は認められなかった(p=0.465 >0.05)。 問 5-⑦ もしも、競技力向上事業で安定した生計を立てられる場合、この仕事に専念したいと思いますか? 【図 44】競技力向上事業で安定した生計の場合の就業に対する希望 競技力向上事業で安定した生計の場合の就業に対する希望について、デフ個人は、28人のうち、「そう思う」が 12人、「ややそう思う」が 6人、「あまりそう思わない」が 4人、「そう思わない」が 5人と回答し、無回答が 1人であった。パラ個人は、27人のうち、「そう思う」が 6人、「ややそう思う」が 11人、「どちらとも言えない」が 1人、「あまりそう思わない」が 3人、「そう思わない」が 5人と回答し、無回答が 1人であった。 カイ2乗検定を用いて検定した結果、有意差は認められなかった(p=0.467 >0.05)。 第4項考察 本項では、前項に示した質問紙調査の回答結果のうち、デフ団体群およびデフ個人群に共通して特有な傾向と認められるものを取り上げて考察する。 【競技団体】 1.団体の運営状況について(問1-①) 2020年パラリンピックの東京開催が決定されたことを機に、パラリンピック出場種目の対象になっているパラスポーツ競技団体の中には、日本財団よりパラリンピックサポートセンター内にある事務所スペースを無償で提供されている。一方、デフスポーツ競技団体は、パラリンピック出場種目の対象ではないため、日本財団から事務所スペースを提供されていない。これがデフ団体の多くが団体専用の事務所を持っていないという結果と関係していると考えられる。 2.人材についていずれも有意差は認められなかった。 3.資金についていずれも有意差は認められなかった。 4.活動についていずれも有意差は認められなかった。 5.連絡について いずれも有意差は認められなかった。なお、団体内における通信手段の複数回答では、デフ団体群は「文字」と「手話」を主に用い、パラ団体群は「文字」と「音声」を主に用いている。両群とも最も用いるものとしては「文字」をあげている。しかし、デフ団体群が「文字」を最も利用している理由は不明である。この点については、研究2の半構造化面接法による調査にて確認する。 6.競技力向上事業における団体内の課題について(問6-①,-②,-③) いずれも有意差は認められなかった。なお、財政面・人材面・運営面のいずれも、両群とも多くの団体が課題を抱えており、この結果は、「財源不足」、「スタッフの人員不足」、「スタッフの意識が低い、知識・技術が低い」といった一般的な課題をあげており、先行調査の結果と一致している点がみられた。 【スタッフ個人】 1.フェイスシート(問1-①,-②,-③,-④,-⑤,-⑥) ・デフ個人群は、回答者全員が聴覚障害者であることがわかった。聴覚障害者が中心になって運営していることがうかがえる。しかし、これはあくまでも回答者の範囲であるため、実際、デフ団体のスタッフの中にきこえる人がいるかは不明である。この点については、研究2の半構造化面接調査にて確認する。一方、パラ団体の事務スタッフは健常者がほとんどであることから、当事者以外の人が中心になって運営していることがうかがえる。 ・デフ個人群は、団体の理事を担っている傾向にある。理事が事務スタッフも担っており、業務に対応する人材が不足していることが考えられる。 ・デフ個人群は、競技経験のあるスタッフが多い傾向にあり、競技をやっていたことから、そのつながりで競技者から事務スタッフになり事務局運営に関わっていると考えられる。 ・デフ個人群のほとんどが本業と両立しながら業務を行っていることが分かった。要因として団体内の有給専属スタッフがいないことが考えられる。 2.競技力向上事業の業務について(問 2-③,-④,-⑤) ・デフ個人群は報酬をもらっておらず、ほぼボランティアとして業務に携わっている傾向がみられた。これは、団体内の資金が少ないことが考えられる。 ・ JPSA(JPC)、JSCとの通信手段では、デフ個人群は「文字」を主に利用しており、パラ個人群は「文字」と「音声」の 2つを主に利用している傾向にある。この傾向から、デフ団体群はパラ団体群と比べて、よく利用する通信手段が少ないとみられる。JPSA(JPC)、JSCには「手話」でやりとりができる人が実際にいるかは不明であるが、聴覚障害者が利用できる「音声・手話(電話リレーサービス)」の手段があるにも関わらず、デフ個人群が積極的に電話リレーサービスを利用している様子がみられていない。その要因については、研究2の半構造化面接法による調査にて確認する。続いて、両群とも最も用いるものとしては「文字」をあげている。デフ個人群が「文字」を最も利用している理由については、研究2の半構造化面接法による調査にて確認する。 3.会議・説明会・研修会について(問 3-①,-②) ・ JPSA(JPC)主催の競技力向上事業に関わる会議・説明会・研修会での情報の確保方法の質問では、デフ個人群の回答で最も多かったのは「手話通訳」であった。会議・説明会・研修会で説明される内容は、事務処理のルールやコンプライアンスなど専門的な知識を要するものが多いが、デフ個人群は「手話通訳」で内容をどの程度理解できているか不明である。この点については、研究2の半構造化面接調査にて確認する。 ・ JPSA(JPC)主催の競技力向上事業に関わる会議・説明会・研修会での内容の理解度では、デフ個人群はパラ個人群と比べて理解度が低い傾向にあることが分かった。要因としては明らかになっていないため、研究2の半構造化面接調査にて確認する。 4.競技力向上事業の業務の理解度について いずれも有意差は認められなかった。なお、デフパラに関係なく、競技力向上事業の事務処理が難しいと感じるとの回答の割合が高く、障害者スポーツ競技団体の全体における共通の課題であることが考えられる。 5.競技力向上事業の業務における個人の事情と課題について(問 5-①,-②) ・競技力向上事業に携わっているきっかけについて、デフ個人群とパラ個人群に共通する最も多かった回答は「他にやる人がいない」であった。人材不足が大きな要因であることがうかがえる。 ・業務における個人としてのメリットとデメリットの自由記述回答では、デフ個人群とパラ個人群に共通する課題が多い中、デフ個人群の回答の中に、「メールのやりとりに慣れる(説明能力が向上する)」、「スキルアップ(メールの書き方や PCスキル等)」というメリットがあげられている。デメリットの回答では「内容が難しく理解するまで時間がかかる」、「文章が難しいので文章の意味が分からない」という回答があり、パラ個人群の回答にはない、書記日本語の理解力に関する要素がみられた。我妻(2000)33)、澤(2010)34)が述べているように、聴覚障害者は日本語の読み書きが苦手な傾向にあり、競技力向上事業の業務にも現れていることがうかがえる。 第2節研究2 第1項目的 研究1の障害者スポーツ競技団体を対象にした質問紙調査において、デフスポーツ競技団体に特有な傾向が存在することが明らかになった。研究2では、デフスポーツ競技団体に特有の傾向に焦点をあて、半構造化面接法による調査にて具体的な内容および要因を明らかにする。 第2項方法 デフスポーツ競技団体に所属する事務スタッフを対象に、質問紙調査で回答した団体に所属する事務スタッフを対象に、手話言語を用いた半構造化面接法による調査を実施し、得られた回答を分析する。 1.対象 質問紙調査で回答した JPCに加盟しているデフスポーツ競技団体に所属し、競技力向上事業に携わるスタッフ個人 11人(※プライバシー保護のため、所属団体名と氏名は伏せる) 2.期間 平成 30年 10月 1日~11月 30日 3.方法 ⑴研究 1の考察を、情報・コミュニケーション、お金、人材、運営に対しての意識、の4大項目で整理し、関連する文献を参考に質問項目を検討した。 ⑵質問紙調査で協力を得たデフスポーツ競技団体(10団体)にメールで依頼し、承諾いただいたその団体に所属する聴覚障害のある事務スタッフ 11人に協力していただいた。 ⑶手話言語による、半構造化面接法による調査(1人あたり約 60分)を実施し、ビデオカメラで撮影した。 ⑷実施場所は、聴覚障害者スポーツ競技団体の事務所あるいは、合宿・遠征先などの施設とした。 ⑸撮影したビデオカメラの映像にある手話言語を日本語に書き起こして作成した、日本語データを分析し、まとめた。(いずれも筆者本人のみで行った。) 4.質問項目の設定 半構造化面接法による調査の質問項目と質問の理由は以下のとおりである。(5項目 15質問) ⑴フェイスシート 問1-① 性別、年代、本業の有無、身体障害者手帳の有無(等級)、スタッフの経験年数、競技経験の有無、日本代表経験の有無 問1-② 主なコミュニケーション手段(手話、口話、筆談、その他) 本研究の重要ポイントである「情報・コミュニケーション」の傾向を分析するために、必要な基本情報としておさえる。 ⑵情報・コミュニケーションについて 問2-① 質問紙調査で、団体内での連絡手段・ JPCとの連絡手段は「文字(メールなど)」が最も多いということが分かりました。実際、「文字(メールなど)」での連絡手段でやりとりする中で問題はありませんか? 質問紙調査の結果では、団体内で「文字」と「手話」の 2つを使っているが、JPSA(JPC)、JSCとの間では「文字」のみとなることが明らかになっている。この理由は、パラ団体が団体内でも JPSA(JPC)、JSCに対しても「文字」と「音声」の 2つを使えている状況と違い、情報・コミュニケーションに制約があるためだと予想される。この点について、デフ個人がどのように意識しているのか、どのように解決しようとしているのかを明らかにするため、問2-①として、「文字」での連絡手段でのやりとりについて聞くこととした。 問2-② 競技力向上事業に関する説明会や研修会では、情報保障の質によって内容の理解が変わることはありますか?そのことによって、競技力向上事業の業務に影響を与えることはありますか? デフ群の情報の確保方法で最も多かったのが手話通訳であった。その情報保障では内容の理解が十分であるかを聞くこととした。 電話リレーサービス ※1は、聴覚障害者が文字(メールなど)を使用せず、手話言語できこえる人とやりとりができる。(※1電話リレーサービスとは、聴覚障害者ときこえる人を電話リレーサービスセンターにいる通訳オペレーターが手話言語や文字と音声を通訳することにより、電話でリアルタイムに双方向につなぐサービスである) デフ個人の全員が聴覚障害者である。ゆえに、聴覚障害者同士であれば、ビデオチャットを利用して手話言語でやりとりをするかを聞くこととした。 デフ個人にとって、連絡手段、情報保障以外にも困難に感じていることはあるかを聞くこととした。 ⑶費用について 問3-① 合宿や遠征、視察などで情報保障にかかる費用を考慮することによって、合宿の回数やスタッフの人数を減らすなどの調整をすることはありますか? JPC主催の説明会や会議などでのデフ個人群の情報の確保方法で最も多かったのが手話通訳であることから、情報保障を重視しているかによって、情報保障以外の予算で妥 協せざるを得ないところがあるかを聞くこととした。 ⑷人材について 齋藤・荒川(2014)18)の、スポーツを実施している 18歳以上の聴覚障害者を対象にした質問紙調査では「聴覚障害者自身が運営するものである」との問いに 132人が「思う」、「どちらとも」が 77人、「思わない」が 38人の回答があった。デフスポーツ競技団体の聴覚障害スタッフの場合はどう思っているかを聞くこととした。 問4-② デフ競技団体に聴者スタッフはいますか?聴者スタッフがいない場合、理由は何ですか? デフ個人はすべて聴覚障害者であるが、実際には、きこえるスタッフはいるかを聞くこととした。 問4-③ 聴者スタッフがいる場合、手話のできる人はいますか?手話ができない聴者スタッフの場合、どんなコミュニケーション手段でやりとりしていますか? デフスポーツ競技団体として、手話言語ができることを前提に、きこえるスタッフを採用しているかを聞くこととした。 ⑸運営に対しての意識について デフ個人のほとんどの人がほぼボランティアで業務を行っているため、業務に対する意識はどうなっているかを聞くこととした。 質問紙調査での個人にとってのメリット・デメリットについての自由記述回答では、業務が多く自分の時間がない、身体的・精神的負担が大きい、などといったデメリットの回答が多く見られたため、社会貢献と自己犠牲のどちらを感じているかを聞くこととした。 どの人間関係でも必ずコミュニケーションがつくものであり、情報・コミュニケーション面で困難に感じている要因が、どの人間関係にあって、どのようにあると考えているかを聞くこととした。 及川(1998)19)は、世界ろう者スポーツ委員会(CISS)の運営について「理事会や各国の組織は聴覚障害者によってコントロールされなければならないという規約があるのは CISSだけである。」と述べている。また、ICSD(2008) 13 ”Deaf Sports & Deaflympics” (p.3)によると、「デフリンピックは、専らろう者のコミュニティに属する者によって運営されている点において、他の IOCの認可団体と一線を画している。ICSDの会議において投票権を持つ代表者、理事会および執行部の構成員は、ろう者に限られている。(和訳:全日本ろうあ連盟)」と示されている。 全日本ろうあ連盟やそれに加盟している都道府県の聴覚障害者団体もトップが聴覚障害者である。デフ個人もそれと同様に考えているかを聞くこととした。 5.倫理的配慮筑波技術大学の研究倫理審査委員会の承認を受けて実施した。(平成 30年 9月 25日)第3項結果 表 20は、対象者 11人のフェイスシートをまとめたものである。 【表 20】1-①、1-②半構造化面接法による調査フェイスシート 1-①基本情報について 調査協力者の 11人全員が聴覚障害を有する者であり、本業と両立している。また、ほとんどの人が競技経験を持っており、いずれも質問紙調査の結果と一致する。 1-②主なコミュニケーション手段について 11人全員が手話言語を主なコミュニケーション手段として使用する。これは協会(団体内)でのコミュニケーション手段であるが、職場や学校では、団体内とは違い、きこえる人中心の環境になるため、手話言語メインではなく口話や筆談でコミュニケーションをとっている。 以下、回答全文の中から質問に応じた回答のみを列記し、共通する内容および特記事項をまとめる。 【表 21】2-①「実際、「文字(メールなど)」での連絡手段でやりとりする中で問題はありませんか?」 【問題はある】・・・11人中 2人【問題はない、または解決できている】・・・11人中 9人 メールのメリット ・時間の問題(本業、家庭など)のため、メールが都合良い。 ・記録・証拠に残せる。 メールのデメリット ・文章が難しく読むのが苦手なスタッフが多数いる。 ・内容に対する認識の差、違い、ずれが生じる。解決方法 ・団体内でのスタッフ同士のフォロー(協調性・チームワーク) ・ビデオチャットや合宿などで直接会って話し合う。 【表 22】2-②「競技力向上事業に関する説明会や研修会では、情報保障の質によって内容の理解が変わることはありますか?そのことによって、競技力向上事業の業務に影響を与えることはありますか?」 【業務への影響はある】・・・11人中 5人 【業務への影響はない、または解決できている】・・・11人中 5人【参加したことがない】・・・11人中 1人 現状 ・手話通訳の質があまり良くない。本来あるはずの情報量が減ってしまう。解決方法 ・配付資料やスクリーンを見ればほとんど理解できる。 ・情報保障がついていても不明点が出るので、団体内で確認するか、後日メールで JPCに聞く。 【表 23】2-③「電話リレーサービスを利用することはありますか?利用しない場合、その理由は何ですか?」 【利用する】・・・11人中 3人【利用しない】・・・11人中 6人【担当ではない】・・・11人中 1人【サービスを知らなかった】・・・11人中 1人 利用しない理由 ・メールで十分である。メールの方が都合良い。 ・サービスを知っているが JPCとのやりとりで使えると思っていなかった。利用する場合の問題点 ・電話リレーサービスの終了時間が早いため、利用しにくい。 【表 24】2-④「競技団体内で、ビデオチャットを利用して会議や打合せを行いますか?利用しない場合、その理由は何ですか?」 【利用する】・・・11人中 8人【利用しない】・・・11人中 3人利用しない理由 ・時間が合わない ・実際に集まって話し合っている。 【表 25】2-⑤ 「競技力向上事業において、情報・コミュニケーション面で、特に困難だと感じることはありますか?ある場合、内容を教えてください。」 【困難に感じることはある】・・・11人中 8人【困難に感じることはない】・・・11人中 2人【困難に感じることはないがフォローは必要】11人中 1人 困難に感じることがある場合の理由 ・文章が難しくて理解が大変、理解するまで時間がかかる ・確認することが多く手間がかかり、時間的なロスも大きい。 ・本業があるため、時間があわない。 ・JPC業務の量が多く大変。解決方法 ・ビデオチャットで説明する。 【表 26】3-①「合宿や遠征、視察などで情報保障にかかる費用を考慮することによって、合宿の回数やスタッフの人数を減らすなどの調整をすることはありますか?」 【調整することはある】・・・11人中 2人【調整することはない】・・・11人中 9人 調整する理由 ・助成金自体が少ない。 ・競技特性によって多くの通訳者が必要である。調整しない理由 ・手話のできるきこえるスタッフがいる。 ・指導者が聴覚障害に対する理解を深めるために通訳を介せず、身振りなどを使ってコミュニケーションをとっているという目的から通訳を依頼していない。 【表 27】4-①「デフ競技団体の運営は聴覚障害者のみで行うものであると思いますか?そう思う場合とそう思わない場合のどちらでも、その理由を教えてください。」 【そう思う】・・・11人中 2人【そう思わない】・・・11人中 9人 そう思う理由 ・過去にきこえる人とのトラブルがあった。そう思わない理由 ・聴覚障害者だけの運営では難しいので、きこえる人の力が必要。 ・きこえる人の立場からの意見がほしいから。 【表 28】4-②「デフ競技団体に聴者スタッフはいますか?聴者スタッフがいない場合、理由は何ですか?」 【いる】・・・11人中 6人【いない】・・・11人中 5人 きこえるスタッフがいない理由 ・過去にきこえる人とのトラブルがあったため採用していない。 ・探す時間がない、出会いがあまりない。 【表 29】4-③「聴者スタッフがいる場合、手話のできる人はいますか?手話ができない聴者スタッフの場合、どんなコミュニケーション手段でやりとりしていますか?」 【いる】・・・11人中 6人【いない】・・・11人中 5人 手話ができないきこえる人がいる場合のコミュニケーション方法 ・簡単な手話や身振りなどでコミュニケーションをとっている。 【表 30】5-①「競技力向上事業において、報酬をもらっていない、または少ない場合でも、積極的に業務に関わっているという意識を持っていますか?」 【意識が高い】・・・11人中 5人【意識が低い】・・・11人中 6人【回答なし】・・・11人中 1人 意識が高い理由 ・お金をもらっている以上、プロとしての意識を持つべきだと思う。 ・チームのためにサポートしたい。 ・〇〇(競技)が好きだから。意識が低い理由 ・業務の負担が大きく自分の時間がなくなる。 ・仕事が嫌いだから。 ・育児を優先したい。 ・選手もやっており、競技に専念したい。 【表 31】5-②「競技力向上事業において、社会貢献と自己犠牲のどちらをより感じていますか?」 【社会貢献】・・・11人中 5人【自己犠牲】・・・11人中 3人【両方】・・・11人中 3人 社会貢献に感じている理由 ・チームのためになる。 ・メダルを獲る、大会で勝つという目標がある。 ・自分が日本代表選手として活躍してきたので恩返ししたい。 ・チームの監督になりたい夢があるので、苦痛に感じていない。 ・選手の人生を預かっている。 ・合宿に参加する意義を感じている。自己犠牲に感じている理由 ・報酬がない。 ・自分の時間がなくなる。 ・好きでやっているわけではない。 ・本業ではない上に、仕事が難しく責任を求められるのが苦痛。 【表 32】5-③「競技力向上事業において、下記のどの人間関係が業務に最も影響を与えていると思いますか? 1.スタッフ同士 2.スタッフと選手 3.スタッフと JPC 4.その他」 【スタッフ同士】・・・11人中 6人(※複数回答あり)【スタッフと選手】・・・11人中 3人(※複数回答あり)【スタッフと JPC】・・・11人中 4人 「スタッフ同士」と回答した理由 ・業務をスタッフと共同で行っているため、お金の使い方や業務の進め方で意見がぶつかることが多い。 「スタッフと選手」と回答した理由 ・助成金の使い道が選手と直接関係するため、選手への説明がとても重要で、選手の理解が必要になる。 「スタッフと JPC」と回答した理由 ・ JPC業務の量が多く、スタッフの負担が大きい。 【表 33】5-④「競技団体をまとめるリーダーは聴覚障害者でなければならないと思いますか?そう思う場合とそう思わない場合のどちらでも、その理由を教えてください。」 【そう思う】・・・11人中 2人【そう思わない】・・・11人中 6人【そう思うが厳しい】・・・11人中 3人 そう思う理由 ・聴覚障害者団体のトップが聴覚障害者であることで、聴覚障害者にとってロールモデルになる。 ・聴覚障害者が活躍できる場や機会を作れる、聴覚障害者社会の活性化につながる。 そう思わない理由 ・聴覚障害者、聴者のどちらでも良いが、聴覚障害者が主体的になって運営するには、きこえる人の聴覚障害者に対する理解が必要。 ・知識や経験はきこえる人の方が上なので、力を借りた方が聴覚障害者はスムーズに運営できる。 第4項考察 ⑴フェイスシート 半構造化面接調査の協力者の全員が聴覚障害者であり、いずれも2級の重度難聴であった。コミュニケーション手段は、団体内では主に手話言語を使用し、団体以外の職場や学校では、相手のほとんどが健常者であるため、口話、筆談など手話以外の手段が使用されている。 ⑵情報・コミュニケーションについて ・メールでの連絡手段は、時間に縛られない、記録・証拠に残せるというメリットがあり有効な方法ではあるが、難しい文章を読むのが苦手なスタッフがおり、不明点については団体内でフォローしあっている。 ・競技力向上事業に関する説明会などにおける情報保障(手話通訳)の質はあまり良くない状況であるが、配付資料やスライドを見れば大体理解できるという。質問紙調査で最も多かった回答が手話通訳であるが、書類の複雑なルールや専門用語が多く、配付資料やスライドなど複数の方法で情報を確保することが有効であると考えられる。 ・電話リレーサービスを利用しない人が半数以上いることから、利用時間の制限など利用のしにくさ、普及・定着化があまり進んでいないことが考えられる。 ・ほとんどの人がビデオチャットを利用しており、高い割合で有効としているが、お互いの時間が合わないというデメリットもある。 ・全体の半数が「文章が難しくて理解が大変」という苦手意識を持っている。 ⑶資金について ・ほとんどの人が情報保障のために情報保障以外の予算を調整することはないとの回答している。選手への理解を深めるために手話通訳を介せず直接コミュニケーションをとらせるケースもあった。その一方、調整することがあると回答した理由として、助成金自体が足りない、競技の特性によりそれぞれの種目に合わせた通訳者の人数が必要なため多額の費用がかかるといった内容である。 ⑷人材について ・デフスポーツ競技団体の運営は聴覚障害者だけでは厳しい状況であるため、きこえる人の協力が必要だという認識を持っているが、聴覚障害者主体で運営したいという考え方が強い。 ・きこえるスタッフの有無については、五分五分の割合で分かれており、手話のできる人がいる一方、できない人は身振りや筆談などでコミュニケーションをとっている。 ⑸運営に対しての意識について ・競技力向上事業の業務に対する意識については、報酬の有無、人間関係、目標、自身のおかれている状況によってまちまちではあるが、意識が低くても選手の頑張りやメダル獲得を励みにしている人が多い。また、業務に携わっている中で、社会貢献と自己犠牲のどちらを感じているかというと前者をあげる人が多い。 ・①スタッフ同士の関係、②選手との関係、③JPCとの関係のうち、①スタッフ同士の人間関係が業務に最も影響を与えている。必然的にスタッフと共同で業務を行うため、選手、JPCとの関わりと比べて接する機会が多いと考えられる。 ・デフスポーツ競技団体をまとめるリーダーは聴覚障害者であるべきという認識を持つ人が多い。聴覚障害者のロールモデルとして目標になるなど、当事者としての意識で考えている。 ・聴覚障害者のみでの運営は厳しいため、きこえる人の方が運営に関する知識や経験が豊富なので、きこえる人の協力は必要である。 第3章総合考察 第1節研究のまとめ 第1項研究1 質問紙調査では、デフ団体・デフ個人群の、パラ団体・パラ個人群との差が明らかになった回答として、次の傾向がみられた。 ・デフ団体群は、団体専用の事務所を持つ団体が少ない。 ・デフ個人群は、スタッフ全員が聴覚障害を有し、その多くが競技経験を持ち、所属団体の理事を担っている。 ・デフ団体は聴覚障害のある当事者による事務局運営が行われており、ほとんどの人が本業の傍ら、無報酬で業務に従事している。 ・JPSA(JPC)主催の競技力向上事業に関わる会議・説明会・研修会での内容の理解度について、デフ個人群はパラ個人群と比べて理解度が低い傾向にある。 以上により、デフスポーツ競技団体事務局に共通する特有な傾向が明らかになった。 第2項研究2 研究1で明らかになったデフスポーツ競技団体事務局特有の傾向および情報コミュニケーション面において要因が分かっていない項目に焦点をあて、その団体に所属する聴覚障害のあるスタッフを対象に半構造化面接法による調査を実施した。 ⑴メールを用いた連絡方法を最も利用する傾向について、日本語を不得手にするスタッフがいるが、本業などによる時間的制約のこともあり、記録に残るメールの方が都合良いという。一方、不明点がある場合、団体内でフォローしあうという傾向がみられた。また、ビデオチャットによるリアルタイムでのやりとり、質の高い手話通訳者の確保、電話リレーサービスの利用方法に課題があることがわかった。 ⑵情報保障はもちろん重要ではあるが、聴覚障害への理解を深めるためにあえて直接コミュニケーションをとらせる団体がある一方、予算不足を理由に必要な情報保障にかける余裕がない団体も存在している。 ⑶デフスポーツ競技団体事務局の運営については、健常者の支援なしでは厳しいという回答が多くみられた。 ⑷多くのスタッフは、デフスポーツ競技団体事務局の運営を社会貢献になると考え、チームの一員として選手のサポートに尽力するとともに、さまざまな困難を抱えながらも聴覚障害者社会におけるロールモデルとして事務局運営の取組みを前向きに捉えていることがわかった。 第2節総合考察 パラスポーツ競技団体事務局がほとんど健常者によって運営されているのに対し、デフスポーツ競技団体の事務局は選手活動を経験した聴覚障害当事者中心で運営されていることに大きな特色があることが明らかになった。デフスポーツ競技団体は、お互いのコミュニケーションでは手話言語を用いるが、JPCなど上部団体との連絡においては書記日本語によるメールの方法で行っている。パラスポーツ競技団体事務局ではメールのほかに音声言語で電話連絡を取る手段がある一方、デフスポーツ競技団体事務局では、音声日本語話者との電気通信を中継する電話リレーサービス利用という手段があるが、それに対する認知不足や、利用する上で時間的な制約があるため、有効に利用されていない傾向にあることが分かった。この問題を補完する社会的な課題としては、総務省による電話リレーサービスの制度化(日本財団、2017)32)が急務であると考える。 次に、JPC助成金のルールでは、競技力向上における情報保障の費用は助成金に含むことになっており、競技力向上にかけるべき費用が情報保障のために使われるという現状がある。先に述べた電話リレーサービスの制度化に加え、助成金の費目に情報保障費を設け、競技力向上のための資金と障害特性に応じた事務費用を区分して支給することの検討が必要であろう。 加えて、デフスポーツ競技団体事務局の運営を聴覚障害者中心で行っている中で、運営経験および専門知識などを持つ健常者の協力が必要であるとの考えが多いことが明らかになっている。よって、聴覚障害者とコミュニケーションが円滑に行える健常者スタッフの育成や採用の方法を検討することが重要であると思われる。 最後に、聴覚障害者が積極的に健常者と関わることはもちろん、聴覚障害者自身の能力向上、自己啓発、人脈作りなどエンパワメントの取組みが求められる。そのためには、聴覚障害者中心の事務局運営を支援する健常者スタッフの人材の確保が必要であると考える。 第4章結論 障害者スポーツ競技団体事務局には運営面、財政面、人材面で様々な課題があることが指摘されているが、本研究により、デフスポーツ競技団体事務局はこれらに加えて、情報コミュニケーション面における通信手段の課題があることが明らかになった。これは、聴覚障害当事者中心で運営されることによって生じるものであり、デフスポーツ競技団体事務局の当事者中心の運営を円滑に実現させるには、下記の事項が必要であろう。 ・電話リレーサービスの制度化、競技力向上における情報保障の費目設定などの法規・制度整備 ・聴覚障害者中心の事務局運営を支援する健常者スタッフの人材の確保 ・聴覚障害スタッフ自身の能力向上、自己啓発、人脈作りなどエンパワメントの取組み 本研究を、デフスポーツ競技団体事務局における運営の課題を改善するための糸口につなげるものとし、本研究の成果が事務局運営の円滑化に導く検討材料として役立つことを願う。 資料 1.質問紙調査依頼文書(競技団体の代表者あて) 2.質問紙調査依頼文書(スタッフ個人あて) 3.質問紙調査回答用紙(競技団体用:全2ページ) 4.質問紙調査回答用紙(スタッフ個人用:全4ページ) 引用・参考文献 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また、本研究を行うにあたり、多くのご助言をくださいました、大杉研究室のゼミの皆様をはじめ、筑波技術大学大学院情報アクセシビリティ専攻および産業技術学専攻の先生方、先輩・同期・後輩の皆様、そして、研究のきっかけとなるロシア研修の機会をいただきましたダスキン愛の輪基金に心から感謝いたします。最後になりますが、私の研究生活を応援してくださった家族に「ありがとう」の気持ちを伝えます。 本研究を活かして、今後、デフスポーツの発展に役に立てるよう貢献してまいりたいと思っております。