下肢の感覚異常に対する鍼通電刺激および軽擦刺激の効果と評価 平成26年度 筑波技術大学大学院修士課程技術科学研究科 保健科学専攻鍼灸学コース 甲斐 乱子 第1章 序論 1.1 研究の背景 1 1.2 感覚異常に対する鍼灸治療の現状 1 1.3 Pain Visionについて 2 1.4 正座による感覚異常 4 1.5 鍼灸刺激による血流の変化 4 第2章 下肢の感覚異常に対する鍼通電刺激および軽擦刺激の効果と評価 2.1 実験の目的 8 2.2 対象と方法 8  2.2.1 対象 8  2.2.2 実験プロトコール 8   2.2.2.1 鍼通電刺激 8   2.2.2.2 軽擦刺激(マッサージ) 9  2.2.3評価方法 9   2.2.3.1 Pain Visionの測定 9   2.2.3.2 シビレ感の聴取 9   2.2.3.3 足趾皮膚血流の測定 9  2.2.4 統計処理 10 第3章 結果 3.1 正座負荷による左右足趾皮膚血流の変化 10  3.1.1 Pain Visionで測定した「シビレ度」の鍼刺激による経時的変化 11  3.1.2 正座解除後の足趾皮膚血流の変化と鍼通刺激による影響 11  3.1.3 シビレ感の種類と鍼通刺激による分布の変化 11  3.2.1 Pain Visionで測定した「シビレ度」の軽擦刺激による経時的変化 12  3.2.2 正座解除後の足趾皮膚血流の変化と軽擦刺激による影響 12  3.2.3 シビレ感の種類と軽擦刺激による分布の変化 13  3.2.4 正座解除後の軽擦刺激による「シビレ度」と足趾血流の変化の比較 13 3.3「シビレ度」と足趾皮膚血流量の無刺激群・鍼通電刺激群・軽擦刺激群の3群比較 13 第4章 考察 4.1 シビレ感の評価法としてのPain Vision 13 4.2 正座負荷で出現するシビレ感について 14 4.3 シビレ感の分類と変化 15 4.4 しびれ感に対する鍼灸及び手技療 15 第5章 本研究の限界と今後の展望 17 第6章 結論 18 謝辞 19 引用文献 20 図・表 筑波技術大学 修士(鍼灸学)学位論文 第1章 序論 1.1 研究の背景  シビレは、頭痛、めまいと同様に多く自覚される症状で1)、その病態は様々である。一般に言われるシビレは、多種類の感覚障害だけでなく運動障害の概念にまで及ぶ包括的・総合的な表現となっている2)。患者によって、外的刺激が加えられないのに自覚する「異常感覚」、外的刺激によって異なる感覚が生じる「錯感覚」、触覚・痛覚などの表在感覚が低下する「感覚鈍麻」、筋の脱力が主の「運動麻痺」などの症状を指し2,3)、実際にはこれらが混在している場合が多い。原因として、免疫性、中毒性などのニューロパチー、脊髄疾患、栄養障害、化学療法の副作用、精神疾患などがあげられ4,5)、糖尿病患者6)や脳卒中患者7)は約半数がシビレ感を自覚している。  糖尿病性神経障害については、糖尿病患者における最も重要な合併症のひとつとされており8)、糖尿病に伴う末梢神経障害は末梢神経への微小循環が障害されるために変性が生じると考えられる2)。糖尿病患者の増加と共に閉塞性動脈硬化症を有する例も急増しており、慢性的な動脈硬化による狭窄や閉塞が原因で、血流障害が生じ、シビレ感が出現している9)。  脳血管障害は、知覚の伝導路の遮断によって、損傷部位より中枢側の神経回路が再構成されることで神経が異常興奮するため10)、後遺症として麻痺側にシビレや痛みを慢性的に訴える。  また、腰部脊柱管狭窄症による下肢のシビレ感は骨性要素や椎間板、靱帯性要素などによって脊柱管や椎間孔が狭窄し、馬尾神経や神経根が圧迫されることにより11)、神経の栄養血管の血流低下や神経の炎症を引き起こすためと考えられており12)、腰部脊柱管狭窄症手術後の下肢残存症状としてシビレ感が高率で存在することが報告されている13,14,15)。  一般的に、シビレ感の治療としては、薬物療法、神経ブロック、理学療法などの保存療法が中心で、一部には外科的手術が行われている16)。 1.2 感覚異常に対する鍼灸治療の現状  下肢のシビレ感は鍼灸臨床で取り扱う機会の多い症状であり、鍼灸治療によるシビレ感に対する効果について、芹澤らによるスモン(SMON:Subacute Myelo-Optico-Neuropathy)患者を対象とした臨床研究でシビレ感に一定の効果があることがすでに認められている17)。また、糖尿病性神経障害に対する鍼灸治療は、症状の出現部位に関連する神経に置鍼や鍼通電による効果を認めており、特に痛覚過敏期で効果がみられることが多く、この時期の治療手段として用いる価値はあるとされている18)。さらに、閉塞性動脈硬化症を伴った例では、腰下肢への置鍼・鍼通電療法による効果を趾尖容積脈波、上下肢血圧比(ABPI)を測定し、歩行距離やQOLで評価した結果、改善傾向であったとの報告もある19)。  腰部脊柱管狭窄症に対しては、障害高位の夾脊穴刺鍼、陰部神経鍼通電刺激、神経根鍼通電刺激による効果の評価にNumerical Rating Scale(NRS)、Visual Analogue Scale(VAS)を用いて臨床的に検討し、症状の改善を認めている20,21,22,23)。他にも、JOA scoreや跛行距離を用いて、治療効果を判定している報告がある24)。閉塞性動脈硬化症では、患者21名への鍼治療に対し、下肢虚血症状の程度に用いるFontaine分類25)のⅡ度の全症例において、治療継続とともにサーモグラフィにより測定された足部皮膚温は上昇し、冷感、シビレ感、チアノーゼ、間欠跛行などの臨床症状の改善が認められた26)。これらのことから、末梢動脈疾患のガイドラインであるTASCⅡ27)の重症度Ⅰまでが、鍼治療の主に適応であるとしている28)。しかし、シビレ感に対する客観的な評価を行っている報告は少なく、鍼灸治療の有効性も明確にはされていない。シビレ感は主観的なものであり、客観的に把握することが難しいのが現状である。そこで、近年開発された感覚障害の客観的評価方法として、知覚・痛覚定量分析装置Pain Visionが活用され始めている29)。  以上のことから、シビレ感のメカニズムと鍼灸・手技療法の関連を客観的に検討することは重要であり、本研究ではPain Visionを用いてシビレ感に対する鍼治療および手技療法の有効性と機序の検討を行った。 1.3 Pain Visionについて(図-1)  Pain Visionとは、患者がもつ痛みの強さを、痛みを伴わない電気刺激による異種感覚に置き換え、定量化する機器である。皮膚に痛みを発生させないパルス状電流(50Hz,0~150μArms,パルス幅0.3ms)を与え、刺激量を徐々に増大させながら、痛みの大きさに相当すると感じた電流値を痛み対応電流とする。そして、電極と皮下の神経系との相対的位置や電流の刺激を感覚として脳内で認知する際の個人差によるばらつきをなくすため、患者が増大する刺激を最初に感じた電流値を最小感知電流とする。このようにして得られた痛み対応電流値と最小感知電流値から、100×(痛み対応電流‐最小感知電流)/最小感知電流という計算式により「痛み度(pain degree)」として、痛みの大きさが数値化できる。(図-2)  Pain Visionの特長として、知覚神経線維のAβ、Aδ、C線維は不応期の違いから最適刺激周波数が異なるが、本装置に使用されている周波数は主としてAβ線維とAδ線維の一部を刺激する。鈍い痛みを伝えるC線維をほとんど刺激しないため、痛みを伴わず異種感覚として認識することが可能となっている。(図-3)  測定方法は、まず前腕内側に双極電極を装着し、徐々に刺激電流を増大させ、患者が刺激電流を感知した時点でハンドスイッチを押す。これを2回繰り返し、平均値を最小感知電流値とする。次に、被験者の持つ「痛み」と前腕内側の刺激電流が同等と感じた時点でスイッチを押す。これも2回繰り返し、平均値を痛み対応電流値として、「痛み度」を算出する30)。(図-4)  Pain Visionは様々な評価に用いられており、長谷川らは205名の糖尿病患者を対象に上下肢の電流知覚閾値(CPT)を測定し、閾値は前腕に比べて足趾で明らかに上昇し、臨床的評価や神経伝導検査データと相関が高いとして、糖尿病性神経障害の評価に用いることのできる指標の一つであると報告している31)。また、疼痛患者25名に対して各治療前後に痛み度とVASにより疼痛の程度を評価し、VASと最も強い相関を示したことから、Pain Visionにより主観的な感覚である疼痛の治療効果を評価することは十分可能であるとしている32)。  合田らは、維持透析患者と健常人を対象にCPTを測定し、透析患者の方が健常人より有意に高値で、血液透析前と比較し透析後は有意に低下した。また、糖尿病患者と非糖尿病患者による比較では、両群間において有意な差はみられなかった。しかし、血液透析患者における知覚神経障害を早期発見するため、Pain Visionを用いて定期的にCPTを測定することは有用であるとしている33)。  馬殿らは、糖尿病患者にCPT測定と神経学的感覚検査を行い、Pain Visionは神経伝導検査に比べ感度や他の神経線維障害の情報が得られない点はあるが、神経障害の程度を簡便かつ客観的に定量評価することが可能で、有用な検査方法であると報告した34)。  前川らは、帯状疱疹および帯状疱疹後神経痛患者18例を対象とし、治療前後に痛み度とVASの変化を検討した。治療により痛み度とVASは減少し、治療前後でそれぞれの有意差を認めた。痛み度とVASに相関性は認められなかったが、VASでの精神的影響やPain Visionの機械的誤差を考慮すれば治療効果の指標となると報告している35)。  佐々木らは、がん性疼痛患者を対象に2~7日間隔で最小感知電流値、痛み対応電流値、痛み度およびVASを評価した。痛み対応電流値、痛み度はVASとの相関が有意に認められたため、Pain Visionを用いることで痛みを客観的数値化により評価できる可能性があるとしている36)。  さらに、鍼灸領域の研究に用いた有働らは、慢性疼痛患者23名に単刺術、置鍼術、鍼通電のいずれかの鍼治療と温熱療法または光線療法を適宜選択し、治療前後にVASと比較検討を行った。治療後に痛み度とVASは有意に低下し、治療後の変化は87%において一致しており、鍼治療の効果判定にPain Visionは有用であると報告37)されていて、今後の鍼灸治療の評価法の一つとして期待されている。 1.4 正座による感覚異常  正座に関する感覚異常についての報告は少ないが4,38,39)、明確となっていない感覚異常の機序を解明するため、血流やシビレ感の程度、感覚神経などの視点から検討が行われている。  佐藤らは、末梢循環改善とシビレ感軽減の関連について検討するため、健康青年女子を対象に正座負荷による下肢のシビレ感を「ジンジン」、「ピリピリ」、「チクチク」、「ざわざわ」の4種類をそれぞれVASで評価し、温度計測器により右第2趾の皮膚温、レーザードップラー血流計により右第1趾の皮膚血流量を測定した。シビレ感と皮膚温に関連性は認められなかったが、「ジンジン」は正座中、正座負荷後の血流量減少にともなって、「チクチク」は正座解除によって血流量の増加が始まると著しく出現したことから、健康人のシビレ感は血流量の変化と関連があることを示唆している4)。  また、早水らは正座負荷時と正座負荷後においてのシビレの経時的変化を客観的評価法であるPain VisionとNeurometerおよび主観的評価法であるVASを用いて検討し、その結果として正座負荷後のシビレのVAS値は正座中に比べ上昇しPain Visionによる痛み対応電流値、Neurometerともに相関が認められ、正座中よりも正座負荷後に強くシビレを自覚したことから佐藤らの報告と一致したとしている38)。  Chibaらは、正座により生じる下肢のシビレについて、電気刺激による皮膚感覚の閾値と皮膚温の関係を検討した。その結果、正座負荷後の電気刺激で皮膚感覚の閾値は上昇したが痛覚閾値にあまり上昇は認められなかったため、シビレが生じるときでも痛覚には影響が及ばない可能性があることなどが報告されている39)。 1.5 鍼灸刺激による血流の変化  鍼刺激による皮膚・筋・神経の末梢血流の変化については、様々な血液循環動態の測定機器により、数多くの基礎的研究、臨床的研究で報告されている。  皮膚血流の変化について、松本らは頚腕症候群患者の手背皮膚温と手掌深部温をサーモグラフィにより観察し、それぞれの部位に低温が認められた。さらに、サーミスターおよび深部温度計によって測定した結果、患側の手部皮膚温と深部温がともに低温を呈していたが、頚部の鍼治療により手部の温度の改善が観察された。このことから、頚部への鍼刺激によって手部の血流改善が起こることを明らかにした42)。  矢野らは、指尖容積脈波計を用いて鍼刺激に対する手部および足部の血流変化を観察するため、ヒトの足三里穴と三陰交穴への置鍼、鍼通電、あるいは表面電極通電を20分間行い、示指と第3趾の容積脈波が拡張傾向を示したと報告している43)。  Ernstらは、ヒトに対する合谷穴の鍼刺激と鍼通電刺激による皮膚温の変化について、サーモグラフィを用いて測定した。鍼刺激、鍼通電刺激ともに全身性に皮膚温の上昇がみられ、鍼通電刺激により脊髄分節性に皮膚温の低下が観察された。皮膚温上昇には交感神経活動の抑制が関与し、皮膚温低下には交感神経活動の分節性の亢進が関与することを示唆した44)。  木村らは、鍼刺激が高位中枢を介して皮膚血流と皮膚交感神経活動(skin sympathetic nerve activity:SSNA)に及ぼす影響について、正中神経のSSNAの変化を微小神経電図法によって観察した。反対側の合谷穴に鍼刺激を行ったところ、一過性にSSNAが亢進し皮膚血流量の低下が認められ、刺激後はSSNA、皮膚血流量ともに刺激前値への回復傾向を示した。鍼刺激によるSSNAの抑制は刺激中および刺激後にはみられないため、鍼刺激により高位中枢を介してSSNAが促進されたと報告している45)。  野口らは、麻酔下のラットを用いて鍼通電刺激による皮膚、筋および腎血流に及ぼす影響を検討し、足蹠部への刺激では皮膚血流と血圧の増加とともに腎血流の低下が、下腿部への刺激では皮膚血流と血圧の低下とともに腎血流の増加が観察されたと報告した。この反応は交感神経α受容体遮断薬の投与で消失することから、鍼通電刺激による皮膚血流の変化について交感神経α受容体を介した内臓血流の反射性変化に伴う血圧依存性の受動的反応であると報告した46)。  鍼灸臨床において皮膚への刺鍼時に刺入部位の周辺に発赤が出現する反応47)は多々みられるが、鍼刺激による血流の局所性反応の機序のひとつとして軸索反射を介する反応も考えられる。免疫組織化学的方法により、鍼通電刺激(10V,10Hz,30min)で一次感覚ニューロンの末梢側終末から軸索反射の伝達物質であるサブスタンスPやカルシトニン遺伝子関連ペプチド(calcitonin gene-related peptide:CGRP)が放出されることが報告されている48)。  筋血流への変化について、松本らはヒトの下腿三頭筋部に雀啄刺激を行い、下腿中央をストレンゲージプレスチモグラフィにより血流量を測定した。下腿血流量の増加がみられ、皮膚温は有意な変化を示さなかったことから、血流量の増加は主に筋血流量の増加によるものと推測している49)。北島らは、麻酔下でイヌに足三里穴への鍼通電刺激を行い、水素クリアランス法により観察した結果、後肢の筋血流量は通電前に比べ44.7%の増加を示し、有意な増加が認められたと報告している50)。いずれも、鍼刺激による筋血流の増加には筋支配の交感神経が関与していると推測される。  野口らは、レーザードップラー血流計を用いて、鍼通電刺激によるラットの大腿二頭筋の血流に及ぼす影響を検討した。足蹠部への鍼通電刺激を30秒間加えたところ、血圧の上昇に伴い筋血流の増加が認められ、交感神経α受容体遮断薬投与すると消失した。鍼通電刺激によって起こる筋血流の増加反応は、内臓血管のα受容体を介する昇圧反応により間接的に起こる受動的な反応であると報告している51)。  阿部らは、ウサギに対し1Hz~10Hzの低頻度鍼通電刺激を行い、刺激頻度の増加とともに収縮中の筋血流量は促進したと報告した52)。徳竹らは、健常者を対象に腓腹筋への低周波鍼通電刺激を行った結果、血圧、心拍数に変化はみられなかったが、刺激した腓腹筋の深部体温の上昇を認めている53)。また、吉川は前脛骨筋への低周波鍼通電刺激による筋内温度の上昇を報告しており54)、いずれもその機序として筋収縮による筋ポンプ作用の関与を示唆した。  鶴らは、電解式水素クリアランス法により麻酔下でウサギの前脛骨筋血流を測定し、前脛骨筋への雀啄刺激による影響を観察した。刺激後に血圧は変化しなかったが、血流量の増加が認められた。坐骨神経切断後の鍼刺激においても血流増加反応が認められたことから、鍼刺激後の筋血流増加は高位中枢を介する反射性の血管拡張の関与は少なく、主に軸索反射による血管拡張が関与しているものと推測している55)。大久保らは、健常成人に対し近赤外分光法を用いて僧帽筋の血流を測定し、測定範囲の中心部と測定範囲外(測定範囲の中心より30mm外方)に鍼刺激を行い筋血流の変化を比較した。ともに血流量の増加が認められたが、外側刺激部よりも中央刺激部の増加率が高かったため、鍼刺激による筋血流の増加は刺激部位に限局した範囲で起こることを示唆した56)。  Satoらは、麻酔下ラットの大腿二頭筋の血流量の変化について、レーザードップラー血流計を用いて測定した。L3‐5レベルの脊髄神経後根に30秒間の電気刺激をしたところ、血圧反応を伴わない筋血流の増大が生じ、CGRP拮抗薬投与で消失した。このことから、軸索反射が誘発されCGRPによる血管拡張を通じて筋血流量が増大した可能性があるとしている57)。  神経血流については、矢野らが鍼通電刺激の神経血流に及ぼす影響について検討するため、麻酔下でラットの坐骨神経血流をレーザードップラー血流計により測定した。測定肢の反対側足底に低頻度刺激、高頻度刺激を行った結果、神経血流は低頻度刺激では変化せず、高頻度刺激で増加がみられた。一時的な神経血流の増加と血圧上昇が観察されたことから、神経血流の増加は血圧依存性によるものと考えられた。交感神経α受容体遮断薬を投与後に鍼通電刺激を行うと、血圧の上昇と神経血流の増加がともに消失したため、鍼通電刺激による神経血流の増加反応は交感神経活動による血圧上昇によるものと推測している58)。  植木は、ウサギの坐骨神経幹内の血流に及ぼす鍼刺激の影響について、電解式組織血流計を用いて15分間隔で測定した。L7/S1棘突起間の外方1cmへの雀啄刺激後15分間の置鍼を行ったところ、総頚動脈圧は変化を示さなかったが、神経血流は刺激中から刺激30分後まで持続的な増加を示したことを報告している59)。  また、山口らもウサギの傍脊椎部への鍼刺激が坐骨神経の血流に及ぼす影響を検討するため、坐骨神経の神経束間血流量を水素クリアランス法による電解式組織血流計により測定した。L3/L4棘突起間1cm外方刺激群、L7/S1棘突起間1cm外方刺激群と無刺激群を比較し、鍼刺激群の神経血流増加を認めている60)。  井上らは、レーザードップラー血流計を用いてラットの腰部への鍼刺激による坐骨神経血流の変化について検討した。L6脊椎近傍の置鍼時は血流量の有意な変化はなかったが、回旋刺激時は約半数に血圧の変化と同期した反応が認められた。また、坐骨神経の電気刺激において同側で血圧の変化はみられずに血流量のみ増加を示し、この増加反応はムスカリン受容体遮断薬の投与によりやや減少した。この結果から、軸索反射によるCGRPの関与やコリン作動性の血管拡張神経の関与が示唆されている61)。  以上のように、鍼刺激と血流の関係についての研究成果は蓄積されつつあり、2002年の山口40)や2006年の松本41)によりレビューされている。この中で鍼刺激の効果は遠隔部刺激による変化と刺激局所の変化に大別されて、末梢血流変化の機序が提唱されており、正座による下肢の循環障害にも大きく関与するものと考えられた。 第2章 下肢の感覚異常に対する鍼通電刺激および軽擦刺激の効果と評価 2.1 実験の目的  今回、シビレ感に対する鍼治療および手技療法の効果とその機序を検討するため、虚血によるシビレモデルとして最も簡易で可逆的な正座負荷により下肢のシビレ感を誘発し研究を行った。本研究では、健康成人の正座によるシビレ感をPain Vision® (㈱オサチ)を用いて客観的に評価するとともにシビレ感覚の種類を聴取した。さらに末梢血流状態をレーザードップラー血流計で測定することで、鍼治療の作用機序としてのシビレ感と末梢血流の関連を検討した。 2.2 対象と方法 2.2.1 対象  本研究は、研究実施に先立ち本学倫理委員会の承認を得た(承認番号:26-1)。その規定による文書により同意を得た健康成人11名(32.09±11.64歳)を対象に、正座負荷を行い誘発された知覚異常に対して無刺激、鍼通電刺激および軽擦刺激を行い足趾皮膚血流量とPain Visionで評価した。 2.2.2 実験プロトコール  被験者は実験の流れについて説明を受けたのち、Pain Vision®(オサチ社製)の測定を体験し、測定方法を理解した上で実験を開始した。体位の変換は安静腹臥位5分、正座負荷15分、正座解除後腹臥位15分の順序で、腹臥位の際には額に半円枕、胸当て枕と足関節の下に半円枕を入れて行った。無刺激時では正座解除後15分間は安静腹臥位とした。(図-5)  なお、被験者ごとに無刺激および鍼通電刺激、軽擦刺激の順はランダムに割付し、実験の間隔は1週間以上あけて行った。 2.2.2.1 鍼通電刺激(Electro Acupuncture:EA) 正座解除1分後から2分間、腹臥位の状態で右下腿三頭筋部(承筋穴‐承山穴)を1Hzの連続波で刺激した。鍼は㈱セイリン社製ステンレス鍼50mm20号鍼を用い、鍼通電機器は㈱全医療器製オームパルサーLFP-4000Aを使用した。承筋穴(腓腹筋上で下腿の最大膨大部中央)、承山穴(腓腹筋上でアキレス腱への筋腱移行部)ともに刺入深度は1~1.5cmとし、通電刺激は強い痛みを伴わず、かつ足関節運動が起こらない程度の筋収縮が得られるレベルで行った。 2.2.2.2 軽擦刺激(Massage:Mas)  正座解除1分後から2分間、腹臥位の状態で右下腿後面を手技療法の代表として中等度の圧力の手掌軽擦法にて求心性に刺激した。手掌軽擦は、パウダー(Jonson & Jonson社製;ベビーパウダー無香性)を用いた乾式で、アキレス腱部から膝窩にかけて約1秒間に1回のリズムで行った。 2.2.3 評価方法 2.2.3.1 Pain Visionの測定  Pain Vision®㈱オサチ社製は、前腕内側に双極電極を装着し徐々に刺激電流を増大させ、被験者が電気刺激を感知したときの値を最小感知電流値、被験者の持つ「痛み」と前腕内側の電気刺激が同等の感覚となったときの値を痛み対応電流値として測定する。(痛み対応電流値‐最小感知電流値)/最小感知電流値×100の値により「痛み度」を算出する。  通常、Pain Visionで測定された値は「痛み度」と記載されるが、今回は「痛み」を右下腿で感じている「シビレ」に置き換えてPain Visionを測定したので、「痛み度」を「シビレ度」に変えてnd(numbness degree)と表記した。Pain Visionの測定は図-5に示すように、正座負荷前2分(p1)、正座負荷後5分(p2)、10分(p3)、13分(p4)、正座解除後3分(p5)、5分(p6)、10分(p7)の計7時点で行った。 2.2.3.2 シビレ感の聴取  Pain Visionの測定時に、佐藤らの分類4)によるシビレの言語による表現方法を参考に、「ジンジン」、「ピリピリ」、「チクチク」、「ザワザワ」の4種類から最も近い「シビレ感」を聴取した。 2.2.3.3 足趾皮膚血流の測定  足趾皮膚血流は、室温25.0~26.5度、湿度50~60%の室内で行い、左右第2趾底にレーザードップラー血流計(ALF-2100, Advance社製)の皿型プローブを装着し皮膚血流(FLOW, T/C=1.0sec)を連続測定し、PowerLab (ADInstruments)を介してコンピューター内のハードディスクに記録した。 2.2.4 統計処理  血流データの解析には、LabChart7(ADInstruments. v7.2)を使用し、統計処理はInStat (v3.0b)を用いて行った。  血流データは、各Pain Visionの測定開始時から2分間の平均値を代表値として用い、左右測定側ごとのp4を刺激前値とした経時的な5群間の変化率をRepeated measures analysis of variance(ANOVA)および刺激前値に対する群内の経時的変化をDunnett multiple comrarisons testで比較した。また、左右下腿で測定した無刺激側と鍼通電刺激側または軽擦刺激側の2群間比較はPairedt-testで行った。全ての解析において、危険率5%未満を有意とした。 第3章 結果 3.1 正座負荷による左右足趾皮膚血流の変化    足趾皮膚血流(1v=5ml/min/100g)の変化の典型例とまとめのグラフを図-6に示す。  正座開始により足趾皮膚血流は0に近い値となり正座中持続した。正座解除により足趾皮膚血流は急激な増加を示した後、徐々に正座前値に復していった。(図-6A)  Pain Vision測定と同期させた各測定ポイントで足趾皮膚血流の変化を2分間計測し11例の平均値で観察したグラフを図-6Bに示す。正座負荷により両足趾の血流量は著しく低下し、正座前平均値±標準誤差(Standard error:S.E.)は、5.45±1.73vから0.60±0.10vと有意な減少を示し正座解除まで持続した。正座解除を機に血流は7.90±2.29vと急激に増加し、虚血時の約13倍に達した。その後は徐々に減少し3.96±0.94vと正座負荷前の値以下に復した。(図-6B) 3.1.1 Pain Visionで測定した「シビレ度」の鍼通電刺激による経時的変化  正座負荷後、正座解除後の合計7ポイントの経時的変化をPain Visionによる右下腿の「シビレ度」で評価した。無刺激群と鍼通電刺激群、各11例の「シビレ度」の平均値と標準誤差を図-7に示す。  無刺激群で、47.62±6.37nd(p2)、41.82±11.18nd(p3)、58.25±19.17nd(p4)、142.58±61.21nd(p5)、62.95±20.22nd(p6)、37.69±9.03nd(p7)、鍼通電刺激群では、50.75±7.94nd(p2)、56.00±14.06nd(p3)、58.45±13.01nd(p4)、152.84±57.44nd(p5)、73.31±33.46nd(p6)、39.52±10.08nd(p7)と変化し、無刺激群と鍼通電刺激群ともに測定ポイントp5で示す介入直後の「シビレ度」に10.25±13.78ndと危険率5%未満の有意な増加が認められた。しかし、この変化において無刺激群と鍼通電刺激群の2群間に有意な差はなかった。 3.1.2 正座解除後の足趾皮膚血流の変化と鍼通電刺激による影響  正座開始13分後の血流(p4)を元に正座解除後の左右足趾皮膚血流の変化を無刺激群と鍼通電刺激群で比較したグラフを図-8に示す。  その結果、左右無刺激群(Rt or Lt cont)では、右足趾の平均値±標準誤差は11.91±3.64倍、5.36±1.66倍、5.96±1.77倍、5.98±1.62倍に、左足趾は11.93±3.20倍、5.36±1.20倍、5.34±1.06倍、5.28±0.44倍と変化し経時的変化が左右両群に有意に認められた。しかし、左右2群間で比較した各変化には有意な差が認められなかった。(図-8A)  右下腿部に鍼通電刺激(Rt EA)を加えた際の左右足趾皮膚血流の正座解除後の変化では、右鍼通電刺激肢は15.02±4.86倍、6.61±1.84倍、6.02±1.54倍、6.54±1.98倍となり、左無刺激肢(Lt cont)は9.04±2.51倍、4.61±1.26倍、4.63±1.23倍、4.49±1.59倍と経時的な有意な変化が両肢で観察された。さらに右鍼通電刺激肢と左無刺激肢との間に差が認められ、鍼通電刺激中(EA)および5分後(p6)10分後(p7)の鍼通電刺激肢の足趾血流量が5.98±3.18(EA)、1.39±0.76(p6)、2.05±0.77(p7)と危険率5%未満で有意に増加していることが観察された。(図-8B) 3.1.3 シビレ感の種類と鍼通電刺激による分布の変化  Pain Visionの測定とともに感じているシビレ感の種類について、4種類の言葉による分類を行った。その結果、無刺激群では正座負荷により「ジンジン」を訴える者が最も多く正座解除まで続いた。正座解除直後の訴えは、「ピリピリ」や「チクチク」が増えたが、時間経過により「ジンジン」が漸増していった。鍼通電刺激群でも、正座中および正座解除直後は同様の経過を辿った。しかし、鍼通電刺激群では正座解除5分後に「チクチク」がなくなり「ジンジン」「ピリピリ」も減少していた。(図-9) 3.2.1 Pain Visionで測定した「シビレ度」の軽擦刺激による経時的変化  正座負荷後、正座解除後の合計7ポイントの経時的変化をPain Visionによる右下腿の「シビレ度」で評価した。無刺激群と鍼通電刺激群、各11例の「シビレ度」の平均値と標準誤差を図-10に示す。  無刺激群で、47.62±6.37nd(p2)、41.82±11.18nd(p3)、58.25±19.17nd(p4)、142.58±61.21nd(p5)、62.95±20.22nd(p6)、37.69±9.03nd(p7)、軽擦刺激群では、54.03±12.53nd(p2)、70.23±23.96nd(p3)、72.84±26.50nd(p4)、107.83±42.33nd(p5)、42.02±8.11nd(p6)、33.90±8.52nd(p7)と変化した。  無刺激群と軽擦刺激群ともに測定ポイントp5で示す介入直後の「シビレ度」に有意な増加は認められたが、軽擦刺激群の変化がやや少なかった。しかし、この変化において無刺激群と軽擦刺激群の2群間に統計学上の有意な差は認められなかった。 3.2.2 正座解除後の足趾皮膚血流の変化と軽擦刺激による影響  軽擦刺激の結果、足趾皮膚血流は左右無刺激群(Rt or Lt cont)では経時的変化が正座解除直後に左右両群に有意に認められたが、左右2群間で比較した経時的変化の測定各時点での変化には有意な差が認められなかった。(図-13)  右下腿部に軽擦刺激(Rt Mas)を加えた際の左右足趾皮膚血流の正座解除後の変化では、右軽擦刺激肢は14.50±3.21倍、10.26±4.86倍、10.42±4.83倍、10.31±4.09倍となり、左無刺激肢(Lt cont)は11.51±3.20倍、5.36±1.88倍、5.44±2.03倍、7.37±2.96倍と経時的な有意な変化が両肢で観察された。  さらに、統計学的な差は認められないが、右軽擦刺激肢と左無刺激肢との間で、軽擦刺激中(Mas)および5分後(p6)10分後(p7)の 足趾血流量が増加している傾向が観察された。 3.2.3 シビレ感の種類と軽擦刺激による分布の変化  軽擦刺激によるシビレ感の変化について鍼通電刺激時と同様に、シビレ感の種類について4種類の言葉による分類を行った。  その結果、無刺激群に比べて正座解除後の訴えは「ジンジン」を訴える者の減少が鍼通電刺激群より少ない傾向を示した。さらに、正座解除直後の訴えでは「ザワザワ」が増加していた。(図-14) 3.3 「シビレ度」と足趾皮膚血流量の無刺激群・鍼通電刺激群・軽擦刺激群の3群比較  「シビレ度」において刺激時およびp5時点で軽擦刺激群が最も減少していたが、統計学上の有意差は認められなかった。しかし、時間経過で観察すると3群の変化は次第に消失していった。  また、足趾皮膚血流量は刺激後の経過において、軽擦刺激群が最も増加している傾向を示した。しかし、各計測時点で3群間を分散分析で比較すると有意な変化ではなかった。(図-13) 第4章 考察 4.1 シビレ感の評価法としてのPain Vision  シビレ感は人により「異常知覚」「知覚鈍麻」「錯感覚」「運動麻痺」などの症状を指し、複合的な感覚として自覚されていることも多い4)。知覚・痛覚の障害の程度を評価する方法は数多くあるが、大半は主観的要素を多く含み複数症例の値の比較は困難であった62,63,64)。  近年活用されているPain Visionは、皮膚上に装着した刺激電極を介して漸増性パルス電流を与え、被検者が刺激の知覚を合図することにより定量評価できる装置である。感覚神経線維の不応期は、Aβ線維が0.4‐1ms、Aδ線維が1.2ms、C線維が2‐10msであり、2000Hz、250Hz、5Hz刺激によって、Aβ線維、Aδ線維、C線維が選択的に興奮する65)。そのことを利用し、主にAβ線維、Aδ線維を刺激するように電流を与え、痛みを発生させずに測定することが可能となっている。  同類のNeurometer(Neutron Inc, USA)のように感覚神経の種類の区別は出来ないが、操作が簡便で短い時間で測定を終了することが可能である66)。また、PVによる電流刺激は実際の痛み刺激とは感覚が異なり32)シビレ感覚に近いため、短時間で消失する正座負荷による感覚障害モデルを対象とした実験に適していると考えられたが、今回の研究では介入による感覚の変化は認められなかった。 4.2 正座負荷で出現するシビレ感について  ヒトにおいて、実験的に四肢の虚血や虚血再灌流、持続的な筋の強直によって、シビレ感を生じさせることができる67)。同様に正座によるシビレ感の発症の機序として、下腿の血管圧迫による虚血により生じる末梢神経の酸素不足が考えられている。植村は、まず末梢神経血流が虚血状態になることでSchwann細胞の代謝が障害され、有髄線維の機能が停止することを示している。この有髄線維の機能停止により、抑制されていたC線維が興奮しslow painの伝達が起こり「ジンジン」という感覚が生じる。さらに続くと、C線維も機能を停止して無感覚となると説明している1)。  一方、慢性のシビレ感に関しては末梢神経の途中の軸索に何らかの病変が起こり自発的な神経の興奮が中枢に伝えられる異所性発火(ectopic firing)および、髄鞘部分で短絡する非シナプス伝達のエファプス伝達(ephaptic transmission) によるものがあると考えられている68)。  太い神経線維は、細い線維よりも外からの圧迫に強い影響を受け早く障害される69)ため、大径有髄神経線維であるAβ線維の機能停止により触覚が低下し、次に中径有髄神経線維であるAδ線維が機能低下する、無髄神経線維であるC線維は冷たくなると興奮を伝えなくなるが、虚血には比較的抵抗を示す。C線維は異常興奮すると「ジンジン」と感じる異常電流が流れ、シビレが感じられるようになる70,71)。  この太い神経ほど圧迫に弱いとする考え方に関しては、Waller(1862)に始まる圧迫阻血による神経ブロックの数多くの研究2)やMicroneurographyを用いたTorebjörkとHallin72)による研究により支持されている。また、正座負荷後の下腿皮膚感覚を調べた研究31)で痛覚閾値に変化がないことが報告されており、細い無髄神経の感覚は障害されにくいことが証明されている。 4.3 シビレ感覚の分類と変化  佐藤らの分類4)によるシビレの言葉表現の「ジンジン」は血流の減少に伴い無髄線維により伝達される感覚であり、「チクチク」「ピリピリ」は血流量の増加し始めたときに著明に出現する有髄線維により伝達される感覚であると考えられる。  Hayashiらは神経線維を選択的に評価できる正弦波刺激装置を用いて、電流知覚閾値を測定したところ、有髄線維がシビレ感に関連する可能性を示し73)、Ochoaらは微小神経電図法を用いて、健康な被験者で誘発された上腕の虚血再灌流によるシビレ感が有髄線維であるAβ線維における著しい群発放電に付随するものであると示唆した74)。また、シビレ感の中でもtingling(ヒリヒリ)はAβ線維、pricking(チクチク)はAδ線維の関与が推測されている67)。  今回の実験においても、正座負荷により著しい足趾皮膚血流の減少が観察され、まず有髄線維が虚血による機能低下を起こしたと推測される。その結果、有髄線維の抑制の低下により無髄線維を介する感覚である「ジンジン」が高率で出現した。さらに、正座解除による急激な足趾皮膚血流の増加も観察され、正座中の約10倍となっていた。この時点で「シビレ度」も最高値となり、痛みに近い感覚を表現している「チクチク」を訴える被験者が多くなり有髄線維の機能回復を伺わせた。 さらに、シビレ感の種類の変化において、無刺激群では正座解除によりslow painの表現である「ジンジン」が減り、有髄線維の感覚表現である「チクチク」が増えていること、「ジンジン」が有髄線維の機能回復に従い経時的に漸増していくことから通常の正座からの回復過程を表現していた。 4.4 シビレ感に対する鍼灸および手技治療  シビレ感の軽減方法として、医療現場ではマッサージや罨法による末梢循環の改善、良肢位保持による神経の保護、弾性包帯による過剰刺激の予防、リラクゼーション訓練やイメージ訓練などが行われているが、そのメカニズムについては不明な点も多く、有効な治療法についても確立されていない4)。  一方、鍼灸治療は痛みや知覚障害の治療に多く用いられており、昭和48~50年に芹澤らによりSMON患者の治療に取り入れられ、その効果の一つとして異常知覚を段階的に軽減することが厚生省の特定疾患調査研究の成果として認められている17)。またその効果の機序として、西條らはthermographyによりスモン患者の知覚異常と下肢の冷感に対する鍼通電療法の効果を評価し、下肢冷感の客観的改善とthermography所見および異常知覚の改善の相関が高いことを報告し、末梢血流と知覚障害改善との関連を明らかにしている75)。  さらに、数多くの研究により鍼治療では刺激部位で軸索反射が誘発される局所的な血管拡張が起こり、その血流改善により症状が緩和されるとする考えが広く支持されている。  Jansenらは、ラット皮膚筋弁への鍼通電刺激が血流増加反応を引き起こし、鍼通電刺激による刺激局所の血流増加反応には軸索反射が関与するとしており、軸索反射では強力な血管拡張物質であるCGRPやサブスタンスPが伝達物質として作用することを報告した76)。  臨床研究において、閉塞性動脈硬化症に対しては、神経系を介しての血管拡張による末梢循環改善作用が考えられており、CGRPなどの液性物質の関与の可能性を指摘している77,78,79)。安野らは末梢血のCGRPを測定し、鍼刺激後からCGRPの増加が認められ、血管拡張物質であるCGRPの分泌による血管拡張に伴う末梢循環改善の関与を報告した77)。また、小田らは下肢阻血モデルラットに前脛骨筋への鍼通電を実施したところ、筋血流量が顕著に増加しただけでなく、筋線維と筋繊維の間に変性が生じ、毛細血管新生とVEGF(血管内皮細胞増殖因子)産生を認めたため、鍼治療により側副血行路の発達の可能性も期待できると報告している80)。糖尿病性有痛性神経障害については、それぞれの病期において、残存した有髄神経にインスリン作用不足に基づく高血糖の持続により脱髄が生じておこるものと考えられ、鍼治療の効果について、比較的に痛覚過敏期が他の病期より早期に効果が認められやすく、鍼治療による通電刺激は効果が期待できることが示唆された。その機序として、末梢神経および脊髄内の発痛物質でもあるサブスタンスPの遊離を抑制し、低下した痛みの感受性閾値が上昇するためとしている18)。末梢神経は、栄養動脈により酸素や栄養素が供給されているが、Kiharaらは神経血流低下が認められた糖尿病性神経障害のラットにおいて薬物投与を行い、神経血流が改善されると神経伝達速度が回復した81)という報告もあり、神経血流が感覚神経障害に強く影響すると考えられている。  以上のような基礎および臨床研究の結果から、鍼通電刺激や軽擦刺激が血流を増加させ「シビレ度」低下を発現すると予想されていた。しかし、鍼通電刺激群および軽擦刺激群の足趾皮膚血流が無刺激群と比較して増加していることが観察されたのに対してPain Visionで測定した「シビレ度」の変化には差が認められなかった。  しかし、鍼通電刺激と軽擦刺激を比較すると自覚的な「シビレ感」の種類の変化に、刺激による特徴が認められた。すなわち、鍼通電刺激群におけるシビレ感の種類の変化においては鍼通電刺激直後に大きな違いはないが、経時的変化において「チクチク」および「ジンジン」ともに早い時期から減少していた。このことから鍼通電刺激により有髄線維、無髄線維の双方に対する末梢血流増加が起こり、神経機能が回復しシビレ感の低下を早めたものと考えられた。  無刺激群、鍼通電刺激群、軽擦刺激群の3群で比較すると、軽擦刺激群は最も血流増加が多かったが、正座解除後に「ジンジン」を訴えるものが鍼通電刺激やコントロール群に比べて、わずかしか減少していなかった。このことは、求心性の軽擦刺激により直接的に皮膚や筋の血流が環流することによる血流増加が起こるが、軽擦刺激は侵害刺激ではないので軸索反射による有髄線維の血流改善は行われにくいと考えられる。このことにより、有髄線維によって抑制を受けている無髄線維が伝える「ジンジン」感は改善されにくかったものと考えられた。 第5章 本研究の限界と今後の展望  今回の実験は、同意を得た健康成人ボランティアを対象とした実験研究で一回の測定に約1時間を要した。各被験者には、1週間以上の間隔を開けて合計3回の正座負荷を行った。その結果、予定していた実験期間に11名の測定が可能であったが、反応ごとに分類し検討するには不十分な例数であった。  しかし、足趾皮膚血流とともにPain Visionならびにシビレ感の種類を聴取したことで、シビレ感と末梢血流障害が密接に関与し、鍼治療および手技療法が末梢血流障害を改善しシビレ感を軽減する可能性が示唆された。  また、鍼通電療法と手技療法(軽擦刺激)では効果のあるシビレ感覚に違いがあることから、双方の治療に効果の作用機序の異なりが示唆された。  このことにより、症例を追加し検討を続ければ鍼灸治療および手技療法の双方の効果のメカニズムの一端が解明できると考えられた。 第6章 結論  今回の研究では、シビレ感と血流の関連を客観的に評価する目的で、末梢循環改善とシビレ感軽減の方法としての鍼通電療法および手技療法である軽擦法の効果について検討した。  その結果、正座負荷により、足趾血流は著しく減少し正座を解除すると足趾血流が急激に増加し同期して「シビレ度」が増大するのが観察された。  この減少に対して、鍼通電刺激および軽擦刺激を加えると以下の変化が起こることがわかった。 1.正座解除後の片側下腿に鍼通電刺激または軽擦刺激を加えると、無刺激側より足趾血流量は増加していた。 2.Pain Visionで測定した「シビレ度」には無刺激、鍼通電刺激、軽擦刺激の間で有意な変化は認められなかった。 3.鍼通電刺激群と軽擦刺激群では介入後に訴えるシビレ感の種類が異なっていたことから1)鍼通電刺激群では軸索反射による神経血流の変化が関与し、2)軽擦刺激では筋ポンプ作用による血流変化が関与しているものと考えられた。 謝辞  本研究の実施および修士論文の執筆にあたり、熱心なご指導、ご鞭撻をいただきました筑波技術大学技術科学研究科 野口 栄太郎教授に心より厚くお礼申し上げます。研究や実験方法など細部にわたり、貴重なお時間を割いて指導していただきました。深く感謝いたしております。  当初より研究において、多くのご指導ならびにご支援をいただきました筑波技術大学技術科学研究科 大越 教夫教授に心より感謝申し上げます。  研究の実施および修士論文について、様々なご助言やご協力をいただきました筑波技術大学保健科学科 成島 朋美特任研究員に心より感謝申し上げます。  研究を進めるにあたって、貴重なご助言や激励をいただきました筑波技術大学の多くの先生方に心より厚くお礼申し上げます。  実験の実施にあたり、ご協力をいただきました筑波技術大学付属東西医学統合医療センター 櫻庭 陽准教授および研修生の方々に心より感謝申し上げます。  研究の実施において、ご支援ならびにご協力をいただきました特任研究員および大学院生に心より感謝申し上げます。  最後になりましたが、研究に関する文献収集にあたり、筑波技術大学視覚障害系図書館の職員の皆様には大変お世話になりました。心より厚くお礼申し上げます。 引用文献 1. 植村 研一.頭痛・めまい・しびれの臨床—病態生理学的アプローチ.医学書院.東京.1987;105-113 2. 上田 英雄,武内 重五郎,豊倉 康夫編集.臨床症状シリーズ―しびれ―.南江堂.東京.1981;27-32 3. 宮崎 東洋,井関 雅子,光畑 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