パーキンソン病患者の各種症候に対するあん摩療法の有効性に関する研究 平成24年度 筑波技術大学大学院修士課程技術科学研究科 保健科学専攻 周防 佐知江 目次 第Ⅰ章 緒言 1 Ⅰ-1 背景:パーキンソン病における補完代替医療(CAM) 2 Ⅰ-2 PDにおけるあん摩・マッサージ療法と診療ガイドライン 3 Ⅰ-3 あん摩・マッサージ療法の効果に対する一般的機序 4 Ⅰ-4 本研究を始めるにあたり 5 Ⅰ-5 本研究におけるあん摩療法の定義と位置づけ 5 第Ⅱ章 PD患者の各種症候に対するあん摩療法の直後効果 8 Ⅱ-1 研究の目的 9 Ⅱ-2 対象および方法 9 1.対象 9 2.インフォームド・コンセント 9 3.方法   10  1)施術対象となる各種症候の抽出 10  2)施術方法 10  3)評価 10  4)施術から評価までの手順 11  5)統計解析 11 Ⅱ-3 結果 12 1.基本項目および介入前の比較 12 2.自覚症状(VAS) 12 3.関節可動域 12 4.上肢機能検査 13 5.歩行機能評価 14 Ⅱ-4 考察 14 1.あん摩療法の直後効果およびこれまでの先行研究との比較 14 2.PD患者の各症状および各評価項目に関する文献的検討 15  1)自覚症状(VAS) 15  2)関節可動域 16  3)上肢機能評価 16  4)歩行機能評価 17 第Ⅲ章 PD患者の各種症候に対するあん摩療法の継続施術効果 19 Ⅲ-1 研究の目的 20 Ⅲ-2 対象および方法 20 1.対象 20 2.インフォームド・コンセント 20 3.方法 20  1)施術対象となる各種症候の抽出 20  2)施術方法 20  3)評価 21  4)施術から評価までの手順 22  5)その他の併用治療と測定時間 22  6)検討 22 Ⅲ-3 結果 23  1.自覚症状(VAS) 23  2.関節可動域 23  3.上肢機能検査 23  4.歩行機能評価 24  5.MDS-UPDRS 24  6.PDQ39 25  7.PFS-16 25  8.特性不安 25 Ⅲ-4 考察 25 1.各症例の継続施術効果の検討 25 2.継続施術効果の文献的考察 26 3.各症状および各評価項目に関する文献的検討 29  1)MDS-UPDRS 29  2)PDQ39 29  3)PFS-16 30  4)特性不安 30 第Ⅳ章 介護老人保健施設内のPD患者の肩関節可動域制限に対するあん摩療法の効果 32 Ⅳ-1 研究の目的 33 Ⅳ-2 対象および方法 33 1.対象 33 2.インフォームド・コンセント 34 3.方法 34  1)施術方法 34  2)評価 34  3)直後効果における施術から評価までの手順 35  4)継続施術効果における施術から評価までの手順 35  5)その他の併用治療と測定時間 35  6)統計解析 35 Ⅳ-3 結果 35  1.基本項目および介入前の比較 36  2.直後効果 36  3.継続施術効果 36 Ⅳ-4 考察 37  1.老健施設内の高齢者の生活について 37  2.直後効果および継続施術効果の検討 37 第Ⅴ章 結論 39 第Ⅵ章 本研究の限界と展望 41 謝辞 43 参考文献 45 図・表 資料 筑波技術大学 修士(鍼灸学)学位論文 第Ⅰ章 緒言 第Ⅰ章 緒言 Ⅰ-1 背景:パーキンソン病における補完代替医療(CAM)  パーキンソン病(PD)は、主に中年期以降に発症する原因不明で進行性の神経変性疾患で、神経伝達物質であるドーパミンの減少により起こる。四大症状として振戦・筋固縮・無動・姿勢反射障害が定義されており、これらは運動症状の骨格をなしている。姿勢、筋の過緊張、上・下肢の運動障害などの症候も上記四大症状の範疇に入る運動症状である。また、前記運動症状に加え、痛みを中心とした感覚異常や不眠、便秘、発汗過多、抑うつや疲労感、思考停滞などの感覚症状や自律神経症状をはじめとするさまざまな非運動症状がある。国内患者数は15万人以上で、有病率は人口10万人あたり100~200人と考えられている(古和ら, 2012)。これを70歳以上に限定すると10万人当たり700人と言われ、今後、超高齢化社会において、患者数はさらに増加することが予想される。  治療の基本はL-DOPAを中心とした薬物療法であるが、手術療法として深部脳刺激治療も可能となり、選択の幅は広がっている。しかし長期治療により効果の減弱、ウェアリング・オフ現象などの問題点が出現し、療養生活上での症状や心身の負担軽減に対して、世界的に補完代替医療(CAM)の利用が選択肢の一つとして有用と考えられている。  PDに対するCAMのエビデンスに関して、国際的には米国神経学会の診療ガイドラインにreviewされており、マッサージなどの手技療法および鍼灸療法についての有用性は、十分なエビデンスが得られていないため肯定も否定も出来ない(Level U)と報告されている(Suchowersky et al., 2006)。また、日本神経学会によるパーキンソン病治療ガイドライン(2011)においては、マッサージなどの手技療法および鍼灸療法に関する記載はない。  しかし、近年CAMの利用についての検討も増えており、米国の研究ではPD患者201例を対象にインタビューによる調査を行ったところ、81例(40%)がPDの症状のために少なくとも1種類のCAMを使用しているとの報告がある。その中で、最も一般的なCAMは、ビタミンE(68%)、マッサージ(14%)、鍼(10%)などであった。また、CAMの使用者は若い年齢層、病初期、高収入、高い教育水準に相関があるが、Hoehn&Yahr重症度分類(H&Y)、罹病期間、L-DOPAの治療期間、手術の有無、日内変動の存在に相関はなかったと記述されている(Rajendran et al., 2001)。英国におけるPD患者80例を対象に行ったアンケート調査では、44例(54%)がCAMあるいは鎮痛薬などの非処方薬の少なくとも1種類をPDの症状または他の兆候のために使用されていた。その中でPDの症状のために最も一般的なCAMは、マッサージ(9人;16%)とアロマテラピー(8人;14%)であったと報告されている(Ferry et al., 2002)。  アルゼンチンにおいてPD患者300例を対象に行ったインタビューによる調査では、77例(25.7%)がPDの症状を改善するためにいくつかのCAMを使用しており、また一方で114例(38.0%)は、PDには関係なく少なくとも1度は生活の中でCAMを使用していたと記載されている。CAMの使用と罹病期間、発症側、PDの症状、H&Yとの間に相関はなかった。また、鍼(49.4%)、ホメオパシー(41.6%)、ヨガ(49.4%)、マッサージ(37.7%)はPDの症状改善のために最も広く使われている治療法であり、PDの治療の開始後に、症状軽減のためマッサージ、鍼、ヨガを利用する患者の大幅な増加がみられると報告されている(Pecci et al., 2010)。  アジアにおいては、韓国でPD患者123例を対象に行ったインタビューによる報告では、運動症状(57.6%)、疲労(19.6%)、疼痛(4.3%)、便秘(5.4%)、その他の理由(13.0%)の改善を目的に、合計94例(76%)がCAMを使用していた。そのCAMの内訳は、漢方薬(76.6%)、伝統的な食物(44.7%)、非処方薬(31.9%)、伝統的な療法(7.4%)、マッサージ(7.4%)と行動療法(7.4%)であったと報告されている(Kim et al., 2009)。  わが国においては、神経難病患者・介護者におけるCAM利用の実態について、紀平ら(2011)による報告がある。これによると、PDを含む神経難病患者に対してあん摩・マッサージ・指圧が最も多く利用されており、さらに「1年前に比して病状が進行・悪化している」かどうかとは関係なく、利用患者の51.3%が「全般的健康感の改善」に有効であった。また、茨城県内PD患者に対するあん摩・マッサージの普及状況を調査した報告では、患者の11.7%があん摩・マッサージを利用し、さらに神経内科医の29.8%が、筋硬直改善や四肢の運動改善・疼痛緩和を目的に、あん摩・マッサージを推奨していると記載されている(大越, 2007)。 Ⅰ-2 PDにおけるあん摩・マッサージ療法と診療ガイドライン  PD患者に対するマッサージの効果に関しても研究されつつあり、文献調査によると、2・3週に1回から週2回の施術を、4週間から6ヵ月継続することにより、尿中のストレスホルモンレベル低下、ADLと不眠の改善(Hernandez-Reif et al., 2002)、抑うつや精神的な健康観の改善(Stallibrass et al., 2002)、などの報告がある。また、あん摩療法の直後効果における先行研究としては、Donoyama et al.(2012)が「PD患者の様々な愁訴に対するあん摩療法の有効性の検討」をケースシリーズスタディとして報告している。  診療ガイドラインにおけるPD患者に対するマッサージ療法の効果に関するreviewでは、6例を対象としADL・QOLと歩行機能改善の報告(Paterson et al.,2005)、および39例を対象としUPDRS(PDの重症度評価)や臨床評価・不安・上肢の運動症状改善の報告(Craig et al., 2006)の2件の研究についての記述がある。その中で、歩行や一般的な幸福感についての改善を認め、マッサージ療法はPDの症状や中枢のドーパミンに影響を与え、有効性がある可能性が示唆されるため、より大きな比較試験において運動機能改善の範囲および持続期間を確認する必要があると記述されている(Zesiewicz et al., 2009)。  一方、PDの症状軽減を目的とする他の療法として代表的な理学療法においては、先行研究も多数ある。PD患者に対する理学療法の効果に関する1,827例を対象とした39件の研究によるsystematic reviewとmeta-analysisでは、歩幅とPDQ39についての改善は認められないが、歩行速度とUPDRSの総合得点および下位項目のADL評価と運動能力評価について有意な改善を認めている(Tomlinson et al., 2012)。また、米国神経学会診療ガイドラインにおいても、集学的リハビリテーション、能動的音楽療法、トレッドミル訓練、バランス訓練、および「キュー」による運動訓練などの様々な運動療法は、改善効果は少なく、持続性はないが、PD患者の運動機能改善におそらく有効であろう(Level C)と報告されている(Suchowersky et al., 2006)。さらに日本神経学会によるパーキンソン病治療ガイドライン(2011)においても、①運動療法は、身体機能、健康関連QOL、筋力、バランス、歩行速度の改善に有効である(グレードA)。②外部刺激、特に聴覚刺激による歩行訓練で歩行は改善する(グレードA)。また、音楽療法も試みるとよい(グレードC1)。③運動療法により転倒の頻度が減少する(グレードB)と報告されている。 Ⅰ-3 あん摩・マッサージ療法の効果に対する一般的機序  マッサージ療法の生理学的機序のひとつとして、筋の過緊張の改善は一般的に言われているが、これについては局所の軸索反射による組織循環改善の関与が報告されている(Goats, 1994)。このような循環改善に関連し、Mori et al.(2004)は健常男性29名の筋疲労を対象に、軽擦法、揉捏法、圧迫法を行った結果、近赤外線分光法により筋血流の上昇があったことを報告している。また血液生化学検査に及ぼす影響についての報告では、9人の健康なボランティアを対象に、22の検査項目をマッサージの2、24、48時間後にそれぞれ測定した結果、クレアチンキナーゼ(CK)および乳酸脱水素酵素(LDH)に著しい上昇を認め、マッサージの効果について、筋肉の物理的損傷とそれに続く細胞膜活動の増加を引き起こす可能性として示唆している(Arkko et al., 1983)。筋や腱にストレッチ刺激を与えることにより、筋症状が改善する可能性もある。Kubo et al.(2001)は、健康男性7人の下腿三頭筋を超音波にて観察したところ、ストレッチ刺激により腱組織の粘度低下・弾力性増加がみられたとし、この結果は関節可動域の改善に影響を与えると報告している。  マッサージ療法の効果に関する1,802例を対象とした37件のmeta-analysisでは、直後効果としては血圧、心拍数、STAI(状態不安)に有意な改善があり、継続施術効果としてはSTAI(特性不安)、抑うつ、痛みに有意な改善があると報告されている (Moyer et al., 2004)。また、マッサージ療法の心理的ストレスに対する効果を生理学的側面から評価したmeta-analysisでは、うつ病(性虐待と摂食障害を含む)、痛み症候群、自己免疫疾患(喘息や慢性疲労を含む)、免疫疾患(HIVと乳がんを含む)、その他仕事・老化・妊娠によるストレスを有する患者を対象とした介入について、唾液および尿中コルチゾールの有意な減少(平均31%)によるストレス緩和効果と、尿中セロトニン(平均21%)およびドパーミン(平均31%)の増加による賦活効果を認めている(Field et al., 2005)。  PD患者の筋症状に関するマッサージ療法の効果の機序についての研究は十分ではないが、おそらく前述の健康成人に対する効果と同様であると思われる。またPD患者16例に対する効果として、日常生活動作および不眠の改善と、尿検査におけるストレスホルモンであるノルエピネフリンのレベル低下の報告(Hernandez-Reif et al., 2002)もあり、マッサージ療法は生理学的にも作用しながら、PD患者に良い影響を与えるものと予測される。 Ⅰ-4 本研究を始めるにあたり  あん摩療法が今後さらにPDなどの神経難病等に対する代替医療としての役割を高めていくためには、患者を対象とした研究により有効性に関する十分なエビデンスを示す必要がある。そのエビデンスやメカニズムがわずかであっても証明されることにより、医療におけるあん摩・マッサージ療法の普及はさらに高まっていくことが予測されるため、東西統合医学を実践する場としての本学における研究の重要なテーマだと思われる。以上より、本研究においてPD患者の各種症候に対するあん摩療法の有効性の検討を行った。 Ⅰ-5 本研究におけるあん摩療法の定義と位置づけ  本論文中においては、あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律昭和22年12月20日法律第217号により、厚生労働大臣が行う試験(国家試験)に合格して、あん摩マッサージ指圧師免許を取得している者が、現在の日本における着衣で通常一般的に行う徒手による療法のうち、特に「指圧」のみに限局した方法を除いたものを「あん摩療法」と記述する。  現代のあん摩マッサージ指圧師が行う療法をどのような言葉で表すべきかということについてはその定義が定かではない。「あん摩」と「マッサージ」は科学的にどこが異なるのかについて、学術的に十分な解明されているとはいえない。この背景には、日本のあん摩・マッサージ界の高等教育としての学術的位置づけが十分でなく、本療法・業を取り巻く社会の状況、すなわち、「あん摩」「マッサージ」「指圧」それぞれの言葉が誕生して、さらに一つの業を表す言葉となった社会的・政治的背景などもあると考えられる。しかし、それについては、本論文の主なる課題でないことからここに詳細を述べないが、「あん摩」と「マッサージ」の違いについて、以下に簡単に考察する。  現在、日本で通常一般的に行われている手で行う療法は導引・按蹻として中国から奈良時代までに伝わったと考えられている。導引は、呼吸法を伴う自分で行う運動法であり、按蹻は按摩であり、中国の古典理論、引用五行説に基づく臓腑経絡経穴論によるものとされている(和久田, 2008)。  一方、マッサージは明治18年(1885)に軍医が持ち帰ったヨーロッパのマッサージ書により日本にもたらされたとされている(芹澤, 1989)。そのマッサージ書は1890年に「按摩術」と翻訳された。かねてより盲学校であん摩を指導していた奥村三策は翻訳を待たずして原書を読んで生徒にヨーロッパからのマッサージを教え、同年に日本最初の病院マッサージ師を輩出した(野口, 2006)。  同時期、Kellogg, Hoffa, Müller, Bum, Wernerらのマッサージ書が翻訳され、長瀬時衛、佐伯理一郎による「マッサージ治療書」、河合杏平の「西洋按摩術講義」が出版され、マッサージの普及と病院での活用が広まったとされている。この医療マッサージを行う技術者は多くが盲学校や盲人養成施設の出身者であったということから考えても、現代日本で行われているあん摩やマッサージは中国から伝来した按摩の技法とヨーロッパから伝来したマッサージの技法がミックスされて後世に伝わったことが考えられる(松澤, 2001a)。  教育的にも、あん摩マッサージ指圧師養成機関では、現在、あん摩・マッサージ基礎実習は、東洋医学的理論よりも西洋解剖学的解釈で教育がなされるのが一般的である。よって、現在、あん摩とマッサージを区別して語ることは困難であると考える。  国家試験レベルでは、あん摩は着衣で遠心性に行い、マッサージは皮膚の上から求心性に行うと定義されている(芹澤, 1989;東洋療法学校協会編:あん摩マッサージ指圧理論. 1985)。しかし、その二者を区別すべき科学的根拠は未だ不明瞭である。また、文献からみても、江戸時代の按摩書である『和漢三才図絵』(1712)では、上半身裸で背部の皮膚上に施術される絵が残り、『按摩手引』(1799)や『按腹図解』(1827)でも、皮膚への直接の施術が示されている。また、『導引口けつ抄』(1713)では、施術の遠心性、求心性に拘らない施術法が示されている(和久田, 2008)。さらに、もっとも最近編纂された鍼灸医学辞典(森 和, 西條 一止編, 2012)では、按摩=推拿として扱われており、その英訳として、「massage」と示されている。  これらの点から、現代日本で行われている「あん摩(按摩)療法」と「マッサージ」は同一のものであり、「マッサージ」とは、あん摩療法の英語訳として日本に定着した名称であると考えるのが妥当であろうと考える。  徒手による治療法、いわゆる「手当」は人類の発祥とともに世界各地で発達したと考えられている(Woodham et al., 1997)。従って、世界各地にそれぞれの文化を背負って発展した徒手による治療法があり、それらの英語訳としてmassageという語が一般的に使われていると考えられる。  本研究において、あん摩療法のどのような施術技法を用いたかについては、論文中本文「第Ⅱ章、Ⅱ-2対象および方法、3.方法、2)施術方法」および「表1」で詳細を述べる。また、文献的検討については、本邦のあん摩療法に加え、あん摩の基本手技に属する方法を用いて筋や腱を対象に施術を行っている諸外国のマッサージ療法も含め、医療的な観点で記述されているものを抽出した。 第Ⅱ章 PD患者の各種症候に対するあん摩療法の直後効果 第Ⅱ章 PD患者の各種症候に対するあん摩療法の直後効果 Ⅱ-1 研究の目的  PD患者においては、療養生活上での症状や心身の負担軽減を目的に、世界的にCAMの利用が選択肢の一つとして有用と考えられ、なかでもあん摩・マッサージ療法は最も一般的なCAMとして報告されている(Rajendran et al.,2001; Ferry et al., 2002; 紀平ら, 2011)。  PD患者に対するマッサージ療法の有効性についても研究されつつあるが、報告は散発的で、より大きな比較試験において運動機能改善の範囲および持続期間を確認する必要があると指摘されている(Zesiewicz et al., 2009)。  直後効果における先行研究としては、Donoyama et al.(2012)によるケースシリーズスタディとしての報告があるが、統計学的に検討した先行研究はない。  このため本研究においてはPD患者に対するあん摩療法の直後効果の有効性を示すことを目的として、施術群とコントロール群を設定し、先行研究の内容をもとに新規の研究として実施した。症候、症例数および評価項目を増やし、直後効果としてあん摩施術がPDのどのような症候に有効であるか、症候別の有効性として検討を行った。また、得られた結果について統計解析を行い、各種症候に対する直後効果の有効性として検討を行った。 Ⅱ-2 対象および方法 1.対象  2011年8月11日から2012年11月29日において、本学保健科学部附属東西統合医療センター(以下、統合医療センター)神経内科を訪れた外来PD患者(Hoehn&Yahr重症度分類(H&Y)I~IV;以下、H&Y I~IVと記載する)を対象とした。施術群は、本研究の趣旨を理解し、あん摩療法を希望した19例(男性11例、女性8例;平均年齢63.5±7.8(SE)歳)であった。患者プロフィールを表2に示す。またコントロール群は、PD患者で施術をせずに前後の測定のみを実施した15例(男性8例、女性7例;平均年齢64.4±8.3歳;H&Y Ⅱ~IV)を対象とした。 2.インフォームド・コンセント  本研究は、国立大学法人筑波技術大学研究倫理委員会の承認を得て実施した。対象者には担当医師および施術担当者より、研究内容の説明、研究実施により生じる被験者への利益と不利益及び危険性、研究結果の公表、プライバシーへの配慮、同意撤回の自由の確保について、説明文書(資料1)と口頭による説明を行い、研究協力の同意(資料2)を得た上で実施した。 3.方法 1) 施術対象となる各種症候の抽出  PDの病態を悪化させている各種症候の中から、患者の愁訴をもとに以下の項目に従い、評価の対象および施術の重点部位を判断した。 (1)医師による神経学的所見 (2)日常活動動作 (3)関節可動域が標準値以下である、又は左右差がある部位 (4)体表所見による圧痛や筋肉の硬結部位 2) 施術方法  施術は、あん摩療法の基本手技のうち軽擦・揉捏・圧迫・振せん・運動法の5手技を施術部位に応じて使用し、表1に準じて行った(Donoyama et al., 2012)。患者は側臥位の姿勢にて、症状や可動域制限の少ない軽症側から施術を行い、次に体位を逆にして患側を施術した。施術方法は、頚部から体幹および上・下肢に対する一般的な施術に加え、前記3.方法 に応じた部位に対し、重点的に施術する方法を組み合わせて行った。片側施術時間は表1での基本時間を、A.背腰部:5分、B.肩~上肢:3分、C.頚部:3分、D.殿部~下肢:3分、と設定し、さらに施術重点部位については各部位3~5分加えて行い、合計約30~40分間とした。 3) 評価  評価は、直後効果(施術前後の値の比較)について、以下の4項目の評価スケールを用いて比較検討した。 (1)自覚症状  自覚症状は、Visual Analogue Scale(VAS)を用いて評価した。10cmの直線上に、左端を症状なし、右端を予測可能な最大の症状として、現在の症状がどのあたりにあるかを対象者自身に示させた(図1)。さまざまな愁訴を「こり・はり感」、「動かしにくさ」、「痛み」、「疲労感」の系統別に分類した。 (2)関節可動域  「肩関節の動かしにくさ」に対する評価として、痛みを伴わない自動運動による肩関節屈曲・外転角度の関節可動域と結帯を用いた。関節可動域の測定には、日本整形外科学会および日本リハビリテーション医学会により決定された「関節可動域表示ならびに測定法」(平成7年4月改訂)に基づき、角度計(goniometer)を用いて測定した。肩関節屈曲・外転ともに基本軸は肩峰を通る床への垂直線、移動軸は上腕骨、交点は肩峰とした(図2)。なお結帯については、肩関節伸展・外転・内旋位における、第7頚椎棘突起から母指間距離を測定した(図3)。  また姿勢保持困難の症候に対しては、「首下がり」については頸部の、「前傾姿勢」については腰部の、リラックスした状態での前屈角度について測定を行った。測定は側面写真を撮影して行った。外耳道、肩峰、大転子を同定し、それぞれを結ぶ線を引き、外耳道と肩峰を結ぶ線と肩峰と大転子を結ぶ線の角度を頸部前屈角度、肩峰と大転子を結ぶ線と垂線の角度を腰部前屈角度として評価した(図4)。 (3)上肢機能評価  「上肢運動障害」の症候の評価には、ペグボードSOT-2102(酒井医療)を使用した。本機器は、20の穴が配置された台座(L230×W280×H22mm)と20本の円筒形のペグ(直径15×H50mm)からなる(図5)。測定は、20本のペグをそれぞれ一本ずつ片手のみを使用して、出来るだけ速く全ての穴に挿し終える時間を左右共計測し、利き手(全対象で右手)と左手、患側と軽症側について評価した。 (4)歩行機能評価  「歩行障害」に対する評価は、PD患者の歩行の評価として一般的に用いられている歩行速度、歩幅とケーデンスを測定した。歩行速度は、方向転換の要素を含めるため10m、1往復の時間を測定した。歩幅(step length)は、25mの直線歩行による歩数を測定し、1歩(step)あたりの距離を求めた。ケーデンスは25m歩行にて歩数と同時に時間を測定し、1分間あたりの歩数を求めた。具体的な歩行測定は、立ち止まった位置から10m往復歩行、25m歩行の順で行い、また転倒の危険を避けるため脇で補助者の見守りのもとに、できるだけ無理のない普通の速度で歩くように指示した(大越ら, 2008)。 4)施術から評価までの手順 (1)施術群19例の各種症候をもとに、施術前に評価項目の測定を行った。 (2)約30~40分間のあん摩施術を行った。 (3)施術後、施術前の(1)と同項目について測定を行い、施術前後の値を比較・検討した。「肩関節痛可動域制限」は、左右の肩関節を痛みや可動域制限の強い患側と軽症側に分けて評価した。また「上肢運動障害」は、患側と軽症側に加え、利き手(全症例で右手)および左手についても比較・検討した。 (4)コントロール群についても、施術群と同様に各種症候の抽出を行い、30分間の安静の前後に測定を行い評価した。 5)統計解析  施術前後の得られた測定データについて、統計解析ソフトIBM SPSS 20.0を使用し、施術群とコントロール群の比較を行った。全てに分散分析(ANOVA)および介入前後の値の差(介入後-介入前)についてのt検定(独立サンプルの検定)を実施した。また正規分布をとらないものは、介入前後の値の差(介入後-介入前)についてのU検定(独立サンプルの検定)を追加し、p値0.05未満を有意とした。 Ⅱ-3 結果 1.基本項目および介入前の比較  基本項目である性別、年齢、罹病年数、H&Yについて、施術群とコントロール群の比較を行った。表3に示すように、いずれの項目も両群間に有意な差は認められなかった。また介入前の評価項目についても、両群間に有意な差は認められなかった(表4)。直後効果として得られた全体の結果を表5に示した。 2.自覚症状(VAS)  自覚症状は、「こり・はり感」、「動かしにくさ」、「痛み」、「疲労感」の4系統の中で、「こり・はり感」と「動かしにくさ」にて有意な改善を認めた(表5)。  「こり・はり感」は、施術群では全19例中9例(以下、n=9/19と記載する)でみられ、コントロール群では全15例中4例(n=4/15)でみられ、t検定を行った。両群の介入前後の値の差(介入後-介入前)における(平均±標準偏差)は、施術群が-29.7±12.2、コントロール群は-0.3±4.0で、施術群はコントロール群に比べて有意な改善を認めた(p=0.001)(図6)。  「動かしにくさ」は、施術群(n=10/19)とコントロール群(n=6/15)についてt検定を行った。両群の介入前後の差を比較すると、施術群が-30.4±22.2、コントロール群は-5.7±6.2で、施術群はコントロール群に比べて有意な改善を認めた(p=0.007)(図7)。  「痛み」は、施術群(n=6/19)とコントロール群(n=4/15)についてU検定を行った。両群の介入前後の差を比較すると、施術群が-28.5±26.8、コントロール群は4.0±7.3 で、両群間に有意差は認められなかった(p=0.067)。  「疲労感」は、施術群(n=12/19)とコントロール群(n=6/15)についてU検定を行った。両群の介入前後の差を比較すると、施術群が-22.0±21.6、コントロール群は-7.3±13.0で、両群間に有意差は認められなかった(p=0.102)。 3.関節可動域  関節可動域は、肩関節患側の外転および患側の結帯において有意な改善を認めた(表5)。  患側の屈曲および外転角度は、施術群(n=10/19)とコントロール群(n=6/15)についてt検定を行った。屈曲角度における両群の介入前後の差を比較すると、施術群が10.5±8.6度、コントロール群は2.5±6.1度で、両群間に有意差は認められなかった(p=0.068)。外転角度においては、施術群が16.5±13.6度、コントロール群は0.0±3.2度で、施術群はコントロール群に比べて可動域の有意な拡大を認めた(p=0.004)(図8)。  患側の結帯は、施術群(n=16/19)とコントロール群(n=12/15)についてU検定を行った。両群の介入前後の差を比較すると、施術群が-2.6±4.8cm、コントロール群は-0.0±0.5cmで、施術群はコントロール群に比べて可動域の有意な拡大を認めた(p=0.007)(図9)。  軽症側の屈曲および外転角度は、施術群(n=10/19)とコントロール群(n=6/15)についてU検定を行った。屈曲角度における両群の介入前後の差を比較すると、施術群が8.5±13.3度、コントロール群は-0.8±8.6度で、両群間に有意差は認められなかった(p=0.263)。また外転角度においても、施術群が13.5±15.8度、コントロール群は5.8±10.2度で、両群間に有意差は認められなかった(p=0.368)。  軽症側の結帯は、施術群(n=16/19)とコントロール群(n=12/15)についてU検定を行った。両群の介入前後の差を比較すると、施術群が-0.9±2.5cm、コントロール群は0.4±0.9cm で、両群間に有意差は認められなかった(p=0.059)。  頚部前屈角度は、施術群(n=5/19)とコントロール群(n=4/15)についてU検定を行った。両群の介入前後の差を比較すると、施術群が-5.0±5.0度、コントロール群は0度で、両群間に有意差は認められなかった(p=0.19)。  腰部前屈角度は、コントロール群が1例しか設定できず、2群間の比較による統計解析は行えなかった。 4.上肢機能検査  「ペグボードの遂行時間」は、患側・軽症側および利き手(右手)・左手の全ての評価で有意差は認められなかった(表5)。  施術群(n=19/19)とコントロール群(n=14/15)について、患側および利き手(右手)・左手ではU検定を行った。両群の介入前後の差を比較すると、患側は、施術群が-2.55±4.61秒、コントロール群は2.25±9.55秒で、両群間に有意差は認められなかった(p=0.077)。利き手(右手)は、施術群が-3.17±3.82秒、コントロール群は1.13±10.37秒で、両群間に有意差は認められなかった(p=0.152)。左手は、施術群が-1.31±4.70秒、コントロール群は0.80±3.66秒で、両群間に有意差は認められなかった(p=0.271)。  また軽症側ではt検定を行ったが、施術群が-1.93±4.13秒、コントロール群は-0.31±5.13秒で、やはり両群間に有意差は認められなかった(p=0.323)。 5.歩行機能評価  歩行機能は、歩行速度および歩幅において有意な改善を認めた(表5)。  施術群(n=19/19)とコントロール群(n=14/15)について、歩行速度ではU検定を行った。両群の介入前後の差を比較すると、施術群が-1.03±1.22秒、コントロール群は0.05±1.64秒で、施術群はコントロール群に比べて速度の有意な改善を認めた(p=0.003)(図10)。  歩幅およびケーデンスではt検定を行ったが、両群の介入前後の差を比較すると、歩幅では、施術群が2.7±3.1cm、コントロール群は0.2±1.9cmで、施術群はコントロール群に比べて歩幅の有意な改善を認めた(p=0.014)(図11)。ケーデンスでは、施術群が1.39±6.11steps/分、コントロール群は-2.22±4.88steps/分で、両群間に有意差は認められなかった(p=0.07)。 Ⅱ-4 考察 1. あん摩療法の直後効果およびこれまでの先行研究との比較  本研究における外来PD患者に対するあん摩療法の直後効果としては、コントロール群に対し施術群は「こり・はり感」(p=0.001)、「動かしにくさ」(p=0.007)において自覚症状の有意な軽減が認められた。関節可動域では、肩関節患側の外転(p=0.004)と患側の結帯(p=0.007)において、自動運動の可動域に有意な拡大が認められた。歩行機能評価では、10m1往復時間の有意な減少(p=0.003)と歩幅の有意な増大(p=0.014)とケーデンスの不変(p=0.07)が認められ、結果として歩行機能の改善が認められた。  Donoyama et al.(2012)の先行研究においては、7例の自覚症状に対して1例ごとの評価で、それぞれ上・下肢や半身の「重だるさ」、「全身の倦怠感」、「疲労感」、肩の「こり」、筋肉の「痛み」の全7例のVASの軽減が報告されている。また、3例の患側の五十肩様症状(凍結肩)に対して全3例の肩関節屈曲と外転の可動域拡大が報告されている。また5例の歩行障害に対しては、4例の10m1往復時間の減少と、1例の介助歩行から自立歩行可能という歩行機能の改善が報告されており、本研究の結果はこれらを統計学的に裏付けるものとなった。本研究にて多くの患者の訴えをもとに設定した自覚症状の項目は、PDの代表的な非運動症状を含む症状、および一般的にあん摩療法が施術の対象とする筋骨格系の運動症状の両者が含まれ、これらの症状の軽減はあん摩療法の重要な役割であると思われた。  一方、本研究においては「痛み」と「疲労感」に関しては有意な改善が認められなかった。その理由としては、「痛み」、「疲労感」における施術群とコントロール群のn数の少ないことも要因の一つと考えられる。また、PDに起因する疼痛は、体性感覚症状としての疼痛、筋骨格系の疼痛、PD発症時やoff時の固縮や無動に基づく漠然とした疼痛、変形性脊椎症や変形性関節症、拘縮による疼痛などに大別され(Ford, Pfeiffer, 2005)、「疲労感」とともに抗パーキンソン病薬の内服で軽減することも多い、慢性的な症状と考えられている。このため1回のあん摩施術では、PD特有の「痛み」や「疲労感」の有意な軽減まで至らなかったことは妥当な結果とも考えられる。  PD患者に対するマッサージ療法について、直後効果の検討を行っている先行研究は、他に、PD患者10例に対する30分間のオステオパシー療法についての報告があり、年齢を統一させた健常者のグループに対し、施術前後で歩行速度、歩幅、ケーデンス、上肢の振りの統計的に有意な改善を認めているが、患者データや評価法の詳しい記載はない(Chaitow, 2008)。 2. PD患者の各症状および各評価項目に関する文献的検討 1) 自覚症状(VAS)  VASは痛みを代表とする自覚症状の治療効果を表す評価として、広く臨床にて使用されており、PD患者の非運動症状に対しては、インタビューとVAS、LANSS(神経障害症状評価)、STAI、Beckうつ尺度による調査の報告がある。それによると96例中63例(64.9%)の患者が痛みを訴え、そのうちの3例(2.8%)は、痛みがPDの最初の症状であった。痛みはアカシジア(末梢神経障害による異常感覚症状を伴わない、じっとしていられない感覚)の存在と相関がみられたが、痛みと性別、病期、重症度、ドーパミン作動薬およびL-DOPAの使用、L-DOPA治療期間と現在のL-DOPA投与量、抑うつ、不安、睡眠障害、PDの発症年齢または病初期からの病歴との間に相関はなかったと記述されている(Hanagasi et al., 2011)。またPD患者57例とコントロール群95例に対し、痛みと健康関連QOLについて比較するために、VAS、SF-36、質問紙を用いてアンケート調査を行った報告もある。それによると痛みの問題は両群ともに共通してみられたが、PD患者の場合は長引く罹患期間に伴い、頻繁に起こる筋肉の緊張のようなうずく痛みに苦しめられ、健康関連QOLの低下との相関が有意に認められた。さらにPD患者のうち16例は、理学療法またはマッサージが苦痛の軽減に有用だと認識していると記述されている(Quittenbaum, Grahn, 2004)。  このようにVASは、自覚症状の数値化を可能にし、また手軽であるために他の評価法との併用を可能にし、関連性を調べるうえで役立っている。本研究において「こり・はり感」、「動かしにくさ」などの自覚的所見としてVASを評価に用いたことは、肩関節の自動運動制限や歩行機能障害などの他覚的所見において同時に改善が得られたことで、さらにあん摩療法の有効性が深まったと思われる。 2) 関節可動域  PD患者に対する理学療法やマッサージ療法などの非薬物治療の効果判定の先行研究においては、一般的にPDの四大症状や歩行障害に対する改善度を評価に用いることが多く、自動運動による関節可動域角度の測定を行っているものはない。しかしながら本研究においては、あん摩療法の治療効果が期待でき、評価が簡易にできる点に注目して評価を行った。  PDの症状としての肩関節可動域制限は、固縮による痛みと動作緩慢による動作開始障害を主な原因とし(Jankovic, 2008)、ときにこれらが拘縮性の運動制限(矢吹ら, 1990)に移行したもので、肩の理学的所見および受動運動の可動域は基本的に正常で、自動運動と抵抗運動の可動域は時々動作緩慢により制限される(Vaserman-Lehuédé, Vérin, 1999)ものである。またPDの前傾姿勢の主な原因は、頚部と体幹の軸方向の固縮にdystonia(筋失調症)や体幹の伸筋のmyopathy(筋疾患)が含まれ、歩行により増悪し、座位や背臥位、または壁や背の高い歩行器やテーブルにもたれると軽減するものである(Jankovic, 2008)。前屈の角度は1日の間で始終変化がみられ、疲労とストレスにより増悪し、腰痛の原因になるとの報告(Lepoutre et al., 2006)もあり、両症状とも、固縮や動作緩慢などの軽減により、改善が見込まれるものである。このため本結果において、肩関節患側の外転と結帯に有意差が認められたことで、あん摩療法は特に肩関節患側の筋の過緊張を軽減し、自発動作を促した可能性がある。 3) 上肢機能評価  PDによる上肢機能の障害は、小字症、食事や衛生面など日常生活動作の遅延や困難などの症状として現れ、評価は通常、指を叩く、手を握る、手の回内-回外運動など、素早く繰り返す交互の動きの速度や振幅の減少の観察で行われる(Jankovic, 2008)。PD患者に対するペグボード遂行時間の調査は、9本のペグであるが、262例を対象に行った研究により、上肢機能の評価として臨床的有効性が報告されており、遂行時間に影響を与える因子としては、利き手の相違、年齢、動作緩慢の重症度と歩行評価におけるすくみ足の有無であると指摘されている(Earhart et al., 2011)。  マッサージ療法の効果としては、継続施術効果ではあるが、4週間のNMT(神経筋療法)の効果としてCraig et al.(2006)がペグボード遂行時間の有意な改善と8日後の維持を報告している。しかしながら、本研究の直後効果としては有意差が認められなかった。理由としては、1回の施術のみではペグボードという巧緻性の運動機能を改善するほどの効果を得ることは困難であると考えられる。遂行時間に影響を与える因子を考慮し、症例数を増やし、継続施術での評価が必要になると推察される。 4) 歩行機能評価  PD患者の歩行機能は、特徴的に、腕振りの減少・小刻み歩行・突進歩行などの症状やすくみ足により障害される(Jankovic, 2008)。突進歩行のために速度と重症度が比例せず、すくみ足のために回転や目標物に近づく動作が困難となる。このため歩行の評価は、ターニングさせ戻って来るtaskを課すことが重要であるが、代表的なものとしてはTimed up and go test(TUG)がある。これは椅子に座った姿勢から立ち上がり、3m先のミニコーンを回ってきて,再び座るまでの時間を測定するもので、PD患者の歩行障害に対する理学療法の先行研究においても、TUGと歩幅やケーデンス(平地を直線歩行した時の1分間当たりの歩数)などを総合的に評価したものが多い(Tomlinson et al., 2012)。  本研究においては、PD患者に対するビデオを利用した腕振り運動プログラムによる歩行の改善において使用された、10m1往復時間と歩幅、ケーデンスを評価に用いた。これについてはビデオモニター上のモデルの腕振りや足踏み動作を真似る形式の運動療法を約3週間在宅で実施し、歩行速度と歩幅に有意な改善を認めている。また歩行パラメーター前値と患者背景について、10m往復時間前値はH&Yと正の相関があり、歩幅前値はH&Yと負の相関があったと報告されている(大越ら, 2008)。  PDの歩行についてMorris et al. (1994a,b)は、歩幅の減少に対する代償機能によりケーデンスの増大がみられることを報告し、PDの歩行運動減少(gait hypokinesia)は、十分な歩幅を発生する中枢神経の運動プログラミングの障害であると推定している。よって本研究の結果において、歩行速度および歩幅において有意な改善を認め、ケーデンスが不変であったことは、あん摩施術が歩行機能の安定に関与した可能性が示唆される。  また、マッサージ療法の継続効果としては、歩行運動能力に関する医療評価(MYMOP)の改善(Paterson et al., 2005)や、TUG(Timed Up and Go)の改善(Martin, 2005)の報告がある。一方、理学療法においても1,827例を対象とした39件の介入についてのsystematic reviewとmeta-analysisで、一般的な理学療法、エクササイズ、トレッドミル訓練、視覚や聴覚や触覚などの「外的感覚キュー」を利用した運動訓練において、歩行速度の有意な改善と、ケーデンスの不変が認められている(Tomlinson et al., 2012)。しかしいずれも3週間から1年間の継続治療による効果であるため、本研究における直後効果の有意な改善とは、改善要因が異なると考えられるが、あん摩療法の有効性について継続効果や症例数の増加など、さらに十分な検討を追加することにより、より高いエビデンスが検証されると推察される。 第Ⅲ章 PD病患者の各種症候に対するあん摩療法の継続施術効果 第Ⅲ章 PD病患者の各種症候に対するあん摩療法の継続施術効果 Ⅲ-1 研究の目的  上記第Ⅱ章において、PD患者の各種症候に対するあん摩療法の直後効果の有効性を示した。しかし、本来慢性進行性で多彩な臨床症状を呈するPD患者対しては、長期的な有効性が求められる。したがって、本研究においては、直後効果での評価の対象を継続し、あん摩療法の継続施術の有効性を示すことを目的として行った。さらに評価においては、単なる症候のスケールではなく、より日常の臨床的評価を可能とする項目としてMDS-UPDRSによる重症度、QOL、疲労、不安など身体的・心理的症候を加えて検討を行った。また、症例数が不十分であったため統計解析は行わず、各評価および各症例について継続施術効果の個別的な検討を行った。 Ⅲ-2 対象および方法 1.対象  前記第Ⅱ章の直後効果の検討であん摩施術をした患者の中から、継続施術を希望した6例の登録を行った(表6)。当初の登録は6例であったが、最終評価が完了したのは4例であり、46歳女性H&Y Ⅱ(表中の患者ID番号P16;以下、P16と記載する)、76歳男性H&Y Ⅲ(P17)、62歳男性H&Y Ⅲ(P18)、56歳男性H&Y Ⅳ(P19)を対象とした。脱落症例の内訳は、1例が毎週の通院困難、1例が自宅での転倒による骨折である。研究期間は2011年9月27日から2012年5月8日である。 2.インフォームド・コンセント  対象患者には担当医師および施術担当者より、継続施術の内容の説明、研究により生じる被験者への利益と不利益及び危険性、研究結果の公表、プライバシーへの配慮、同意撤回の自由の確保について、説明文書(資料1)と口頭による説明を行い、研究協力の同意(資料2)を得た上で登録を行った。 3.方法 1) 施術対象となる各種症候の抽出  前記の第Ⅱ章の直後効果の検討において抽出した施術を継続したが、施術の重点部位については、毎回の施術時に愁訴や体表所見を確認し、変更があればその部位を加えた。 2) 施術方法  施術は第Ⅱ章と同様に、あん摩療法の基本手技を使用し、表1に準じて行った。施術体位、施術方法、施術時間も同様に行った。 3) 評価  評価は、継続施術効果(初回施術前と施術期間終了後7日目の値の比較)について、次の8項目の評価スケールを用いて行った。すなわち各症例の継続施術効果の評価は、(1)~(4)については、介入前後のそれぞれの数値の変化で判断した。(5)~(8)は、基準が定められているのでそれに従った。  (1)自覚症状:第Ⅱ章と同様。  (2)関節可動域:第Ⅱ章と同様。  (3)上肢機能検査:第Ⅱ章と同様。  (4)歩行機能評価:第Ⅱ章と同様。  (5)MDS-UPDRS(Movement Disorder Society-sponsored revision of the Unified Parkinson’s Disease Rating Scale):医師によるPDの重症度評価  (6)PDQ39(Parkinson’s Disease Questionnaire-39):PDに特異的なQOL評価  (7)PFS-16(Parkinson Fatigue Scale):PDに特異的な疲労評価  (8)特性不安(Trait Anxiety Inventory):状態-特性不安検査(STAI)のうち、不安を感じやすい性質の評価  継続施術効果の検討にあたり、新たに加えた評価スケールについて、以下に説明する。 【MDS-UPDRS】  MDS-UPDRSは、医師によるPDの重症度評価であり、信頼性、妥当性が高く国際的に広く使用されている。PartⅠ(精神機能評価:認知機能障害、幻覚、うつなど)、PartⅡ(ADL評価:日常生活動作)、PartⅢ(運動能力評価:言語、振戦、固縮、姿勢反射障害、歩行、無動症状など)、PartⅣ(治療の合併症:ジスキネジア、日内変動など)の4領域からなる(Goetz et al., 2008)。全ての合計である総合得点と、項目別の平均得点で比較した。点数が高いほど、重症度が高いことを示す(表7)。 【PDQ39】  PDに特異的なQOL評価であるPDQ39は、運動能力(mobility):10項目、日常生活活動(ADL):6項目、精神的な健康観 (emotional well-being):6項目、病気であることによる精神的負い目(stigma):4項目、社会的サポート(social support):3項目、認識、認知:4項目、コミュニケーション:3項目、身体的不快感:3項目の8領域・計39項目からなる患者への質問表である。各々、0(全くなかった)~4(いつもあった)の5段階で評価する。全項目の平均値であるSingle Indexと、項目別に100点満点に換算してスコア化したもので比較した。点数が低いほど、QOLが良好となる(表8)。 【PFS-16】  PDに特異的な疲労評価であるPFS-16は、16項目からなる患者への質問表であり、1(全く違う)~5(全くその通り)の5段階で評価し、全項目の平均値で比較した。点数が高いほど疲労度が高いことを示し、原著論文では3.3以上を指標とすれば、疲労を問題視する患者を感度84.7%、特異度82.1%で最適に特定できると報告されている(Brown et al., 2005)。(表9) 【特性不安】  状態-特性不安検査(STAI)のうち、ストレス状況に対して不安を感じやすい傾向の強さの評価尺度として20項目からなる特性不安を使用した。不安によって「いつも」どうなっているかを問う質問に「ほとんどない」「ときたま」「しばしば」「しょっちゅう」の4段階で回答させ、全項目の総合得点で比較した(表10)。男性では、23点以下が「非常に低い」、24~32点で「低い」、33~43点で「普通」、44~52点で「高い」、53点以上で「非常に高い」領域に属する。女性では、23点以下が「非常に低い」、24~33点で「低い」、34~44点で「普通」、45~54点で「高い」、55点以上で「非常に高い」領域に属する(表11)。 4) 施術から評価までの手順  ① 対象者の各種症候をもとに、評価(1)~(4)について施術前測定を行った。  ② 約30~40分間のあん摩施術を行った。  ③ 施術後、①と同項目について測定を行い直後効果として評価した。  ④ 継続施術を希望した対象者4例に、登録と(5)~(8)についての測定を行った。  ⑤ 2ヵ月間(毎週1回、計8回)の施術を継続して行った。  ⑥ 施術期間終了後7日目に、(1)~(8)について測定を行った。   5) その他の併用治療と測定時間  本施術期間においては治療薬の変更は行わなかった。鍼灸、リハビリテーション、デイサービス及び健康補助食品等の患者が日常的に行っている治療法については、変更しないことを条件に併用を認めた。また薬物治療等による日内変動の影響を少なくするため、施術および測定はほぼ同一時間になるように実施した。 6) 検討  施術前後の得られたデータについて、各評価項目および各症例についての検討を行った。 Ⅲ-3 結果  各症例について得られた結果を表12に示した。 1. 自覚症状(VAS)  「こり・はり感」はP17の1例で施術前47から継続施術終了後23へ減少した。「動かしにくさ」2例のうちP17は施術前37から継続施術終了後45と増加したが、P18は施術前28から継続施術終了後19と減少した(図12)。「痛み」2例のうちP16は施術前88から継続施術終了後11と減少したが、P19は施術前50から継続施術終了後も不変であった。「疲労感」3例のうちP16は施術前88から継続施術終了後11、P17は施術前61から継続施術終了後43と2例で減少したが、P18は施術前7から継続施術終了後16と増加した(図13)。 2. 関節可動域  肩関節可動域は3例で評価した。  患側の屈曲角度はP16が施術前140度から継続施術終了後160度、P17は施術前110度から継続施術終了後130度と2例で増大したが、P19は施術前135度から継続施術終了後120度と減少した。患側の外転角度はP16が施術前135度から継続施術終了後165度、P17は施術前120度から継続施術終了後130度、P19は施術前95度から継続施術終了後115度と3例全て増大した(図14)。患側の結帯はP16が施術前25㎝から継続施術終了後14㎝、P17は施術前25㎝から継続施術終了後21㎝、P19は施術前16㎝から継続施術終了後10㎝と3例全て減少した。  軽症側の屈曲角度はP16が施術前160度から継続施術終了後170度、P19は施術前145度から継続施術終了後150度と2例で増大したが、P17は施術前140度から継続施術終了後は不変であった(図15)。軽症側の外転角度はP16が施術前170度から継続施術終了後175度、P19は施術前125度から継続施術終了後150度と2例で増大したが、P17は施術前150度から継続施術終了後135度と減少した。軽症側の結帯はP16が施術前15㎝から継続施術終了後12㎝、P17は施術前26㎝から継続施術終了後24㎝、P19は施術前16㎝から継続施術終了後10㎝と3例全て減少した(図16)。 3. 上肢機能検査  上肢機能は、ペグボード遂行時間を4例で評価した。  患側(左手)の遂行時間は、P16は施術前36.00秒から継続施術終了後30.47秒、P17は施術前49.41秒から継続施術終了後48.98秒、P19は施術前98.87秒から継続施術終了後90.87秒と減少がみられた。P18だけは患側(右手)であるが、施術前30.69秒から継続施術終了後32.67秒と増加した。  軽症側(利き手)の遂行時間は、P16は施術前32.60秒から継続施術終了後29.69秒、P17は施術前47.11から継続施術終了後42.98秒、P19は施術前62.46秒から継続施術終了後57.18秒と減少がみられた。P18だけは軽症側(左手)であるが、施術前31.7秒から継続施術終了後40.57秒と増加した(図17、図18)。  施術前後で遂行時間の減少がみられたのは、患側・軽症側・利き手・左手の全てで3例であった。 4.歩行機能評価  歩行機能は、歩行速度および歩幅とケーデンスを4例で評価した。 10m1往復時間は、P16は施術前19.10秒から継続施術終了後18.11秒、P17は施術前20.70秒から継続施術終了後18.28秒、またP19は施術前20.62秒から継続施術終了後18.42秒と3例で減少がみられた。P18は施術前18.97秒から継続施術終了後20.89秒と増加した。  歩幅は、P16は施術前54.4㎝から継続施術終了後56.8㎝、P19も施術前65.8㎝から継続施術終了後75.8㎝と2例で増加した。P17は施術前62.5㎝から継続施術終了後は不変だった。P18は施術前58.1㎝から継続施術終了後50.0㎝と減少した。  ケーデンスは、P16は施術前140.8から継続施術終了後134.2と減少した。P17は施術前112.89から継続施術終了後120.90と増加した。P18も施術前123.10から継続施術終了後125.16と増加した。P19は施術前120.6から継続施術終了後124.9と増加した(図19)。   5.MDS-UPDRS  MDS-UPDRSの総合得点は、P16は施術前23から継続施術終了後12、P18は施術前30から継続施術終了後25、P19は施術前97から継続施術終了後82と3例で減少したが、P17は施術前64から継続施術終了後68と増加した。  下位評価項目別平均得点の比較では、精神機能評価は施術前7.75から継続施術終了後7.25、ADL評価は施術前12.25から継続施術終了後9.75、運動能力評価は施術前30.75から継続施術終了後27と3例で減少し、運動能力評価での改善度が高かった。また治療の合併症については施術前後において2.75で不変であり、合併症の症状は抑えられていた(図20)。 6.PDQ39  全項目の平均値であるSingle Indexは、P16が施術前23.7から継続施術終了後18と1例のみの減少であった。P17は施術前2.6から継続施術終了後6.4、またP18も施術前19.2から継続施術終了後27.6、 P19も施術前28.2から継続施術終了後31.4と増加した(図21)。 7.PFS-16  全項目の平均値は、P16は施術前2.1から継続施術終了後1.2、P19は施術前2.9から継続施術終了後2.3と2例で減少した。P17は施術前1から継続施術終了後は不変だった。P18は施術前3から継続施術終了後3.2と増加した(図22)。 8.特性不安  全項目の総合得点は、不安傾向の強かったP16は施術前50から継続施術終了後42、P18は施術前48から継続施術終了後45と、2例で減少した。P17は施術前21から継続施術終了後34、P19は施術前41から継続施術終了後42と増加したが、正常域内の変化であった(図23)。 Ⅲ-4 考察 1. 各症例の継続施術効果の検討  各症例の継続施術効果について検討する(表12)。  P16は重症度分類H&YはⅡで、年齢は46歳と最も若く、罹病期間も2年と短い。また、施術前の特性不安の値は最も高く、高不安領域に属していたことから、年齢と病に対する精神的な受け入れに関連して不安定な状態であったと思われる。しかしながら、VASの「痛み」「疲労感」、両側の肩関節可動域、両側のペグボード時間、10m1往復時間と歩幅、MDS-UPDRS、PDQ39、PFS-16、特性不安で、施術前に比較し継続施術終了後の数値は改善したため、全ての評価で良好な変化を示したと考える。  P17は重症度分類H&YはⅢで、年齢は76歳と最も高いが、施術期間の前後でPFS-16、特性不安の値は正常域内にあり、精神的には安定していたと思われる。継続施術終了後にMDS-UPDRSが増悪し、PDの病状悪化の傾向がみられたが、VAS の「こり・はり感」「疲労感」、患側の肩関節可動域と軽症側の結帯、両側のペグボード時間、10m1往復時間については、施術前に比較し継続施術終了後に数値が改善し、良好な変化を示したと考える。肩関節軽症側の屈曲、歩幅は施術期間の前後で不変であり、VASの「動かしにくさ」、肩関節軽症側の外転、PDQ39は継続施術終了後に悪化傾向を示したが、継続施術終了後に数値が改善した評価項目の方が多かった。  P18において、継続施術終了後に数値が改善し良好な変化を示したと思われるのは、VASの「動かしにくさ」、MDS-UPDRS、特性不安のみである。VASの「疲労感」、両側のペグボード時間、10m1往復時間、歩幅、PDQ39、PFS-16は、継続施術終了後に悪化傾向を示した。P18は重症度分類H&YはⅢで、P17と同じであるが、罹病期間は4例の中では1年と最も短い。また施術前の特性不安の値も高不安領域に属し、正常域内ではあるがPFS-16の値も高かったことから、病に対する精神的な受け入れに関連して不安定な状態であったと思われ、そのことが上肢機能や歩行の改善を得られなかった一要因であると推察される。しかしながら継続施術終了後に不安症状の軽減はみられたため、継続施術が精神的な安定に良い影響を与えた可能性があると思われる。  P19は重症度分類H&YはⅣで、罹病期間も13年と最も長かったが、施術期間の前後でPFS-16、特性不安の値は正常域内にあり、P17同様、精神的には安定していたと思われる。また、患側の屈曲を除いた肩関節可動域、両側のペグボード時間、10m1往復時間と歩幅、MDS-UPDRS、PDQ39、PFS-16については、施術前に比較し継続施術終了後に数値は改善し、良好な変化を示したと考える。VASの「痛み」は不変で、肩関節患側の屈曲とPDQ39は継続施術終了後に悪化傾向を示したが、P17同様、継続施術終了後に数値が改善した評価項目の方が多かった。  あん摩療法の継続施術効果については、定期的に生体に物理的な刺激を加える事による身体面への影響と、定期的に顔を合わせ、会話をしながら一定時間過ごす事による精神面への影響を、総合的に考える必要があると思われる。少数例による検討ではあるが、本結果においては、特に施術前に精神的に安定した症例においては、継続施術終了後に数値が改善した評価項目の方が多かった。一方、施術前に精神的に不安定な症例においては、継続施術終了後に数値が改善した評価項目は少なかったが、不安症状の軽減がみられた。以上から、継続的なあん摩施術は、PDの重症度に関わらず身体面および精神面へ影響を及ぼし、上肢機能や歩行や、不安症状などに一定の改善を示すものと思われる。 2. 継続施術効果の文献的考察  本研究は症例数が不十分であったため統計的エビデンスを示すことはできなかったが、まずマッサージ療法の統計的解析を行っている3件の文献について述べる。  Craig et al.(2006)は、PD患者18例(年齢62±12歳、H&Y 1.8±1.0)をNMT(神経筋療法)群、また比較対照群として14例(年齢65±9歳、H&Y 1.3±0.5)をMR(音楽療法)群とし、週に2回45分×4週間の介入を行い調査した。評価は、UPDRS、CGI-Change(臨床の印象評価)、PDQ39、BDI(鬱の自己評価尺度)、BAI(不安の自己評価尺度)とフィンガータッピングやペグボード・歩行の速度について、治療開始前、最終治療直後、最終治療の8日後に行った。それによると、MR群はUPDRSの振戦とPDQ39、BDI、BAIなどの非運動症状のみが有意に改善したのに対し、NMT群はUPDRSのADL評価と運動能力評価、特に運動能力評価の振戦と動作緩慢の項目、CGI-Change 、PDQ39、BAI、フィンガータッピングとペグボードの速度が有意に改善し、UPDRS、CGI-Change、フィンガータッピングとペグボードの速度については8日後も維持がみられたと報告している。このようにNMTは運動症状と特定の非運動症状の改善が可能であり、持続効果は運動症状の方が高かった。その効果のメカニズムについては、ストレスの指標となる振戦が著明に軽減していることから、リラクゼーション効果によるものであると考察している。本研究では、最終評価が施術7日後4症例中3例でUPDRSとペグボードの速度の改善がみられた。Craigらの報告では、UPDRS、ペグボード速度が8日後も改善を維持しており、本研究の結果を肯定するものと考えられる。また、PDQ39では直後は有意差をもって改善を示していたが8日後の改善は有意でなく、本研究での改善が4例中1例であったことも想定内の結果を考えられる。  Hernandez-Reif et al.(2002)は、PD患者16例(年齢50-70歳、H&Y≦2.5)を、マッサージ療法群とレラクゼーション・エクササイズ(RE)群に分けて、週2回30分×5週間の施術を行ない、日常生活動作スケール、不眠スケールについての質問紙法による評価を行った。その結果、マッサージ群では日常生活動作と不眠の改善が得られたが、RE群は不眠の改善のみであった。同時に測定した尿検査においてストレスホルモンであるノルエピネフリンのレベルが低下し、これについて著者らは、マッサージ療法はリラックス効果が高く、その結果日常生活動作と不眠の改善をもたらしたと記述している。本研究との比較では評価項目が異なり、直接の比較はできない。  PD患者25例(年齢55.3-78.3歳、罹病年数0.4-16.5年、H&Y 2.1±0.4)に対し、推拿マッサージ(10分)、鍼、音楽にのった気功を全て含めた治療(計30分)を6ヵ月行った報告もある。評価は、UPDRS、H&Y、PDQ-39、BDI(ベック抑うつ尺度)、S&E(日常生活活動)について行い、結果は、UPDRSの下位評価項目の運動能力評価はおそらくPDの進行に伴い悪化したが、PDQ-39の合計スコアとBDIは有意に改善している(Eng et al., 2006)。UPDRSとPDQ-39の評価が相反することのように思われるが、UPDRSはPD症状そのものを評価していおり、PDQ-39は主にQOLを評価するという観点から推拿マッサージ等の治療が長期のQOL向上には有用であることを意味しているものと考えられる。本研究は2カ月であり、また方法も異なりEngらの研究とは比較できない。  以下の文献については、統計解析がされておらず、年代順に列記する。  Steefel(1996)によると、PD患者におけるマッサージ療法は、抗パーキンソン薬を約33%減少させることができ、固縮を改善し、治療後3〜5時間は振戦の軽減をもたらすと報告されている。またOklahomaのマッサージ療法研究所において、振戦が不安のために増悪した時に、C7の脊椎のレベルに関するトリガー・ポイントに強い圧力を加えることで、振戦の振幅を大幅に縮小させるとの記述もあるが、研究内容についての詳しい記述はない。  PD患者をアレクサンダーテクニック群29例(年齢64.1±9.1歳、罹病年数4.8±4.3年)、マッサージ群29例(年齢66.1±10.3歳、罹病年数4.7±3.7年)、非介入群30例(年齢64.8±10.8歳、罹病年数4.9±3.5年)の3群に分け、週2回×12週間の介入を無作為に割り付け、SPDDS(自己パーキンソン病障害スケール)、BDI(ベックうつ病調査表)、Attitudes to Self(自己に対する姿勢についての評価)、介入後の変化に関するアンケート調査による評価を行ったものもある。結果は、アレクサンダーテクニック群がSPDDS、BDI、Attitudes to Selfについて最も改善がみられたが、BDIについてはマッサージ群にも同様の、またアンケート調査における癒し効果と健康観や一般的な治療効果については、マッサージ群に最も効果がみられたと報告されている。それぞれの介入方法を以下に補足する。アレクサンダーテクニックとは、どのような癖のためにどのような負担が生じているのかを自分で気づいて、その緊張を生じるような自動的な反応を抑制しつつ、負担の少ない新しい自己の使い方を学習する方法で、介入は訓練された繊細な指導者の手を用いたhands-onと呼ばれる指導を40分間行っている。マッサージ群については、スウェーデン式を基本とする軽擦法と、揉捏法および圧迫法を40分間行っている(Stallibrass et al., 2002)。  Paterson et al.(2005)はPD患者6例(年齢60-78歳、罹病年数2-19年)に対し、週1回45分×8週~21週間の全身マッサージを行い、PDQ-39(パーキンソン病質問表)、MYMOP(医療上の自分自身の評価)、MCQ(薬物変化アンケート)、介入前と介入後の半構成的インタビューにて評価している。その結果では、PDQ-39とMYMOPの自信度や幸福感などの精神的な評価に加え、日常生活動作や歩行などの運動評価にも改善が現れ、質問表の結果と、面接や臨床所見によるデータは十分一致したと記述されている。  PD患者2例(症例1;年齢63歳、罹病年数20年、主症状は振戦:症例2;年齢90歳、罹病年数1年、主症状は歩行障害)に対して行った、週2回45分×4週間の全身マッサージによる報告もある。結果は、両者ともUPDRSの総合得点と運動能力評価、運動症状に対する評価であるSTL(time from stand to lie)、TUG(Timed Up and Go)、TBL(tandem balance with the left)、SHM(maximum standing height)、およびQOL評価であるPDQ39の改善があったと記述されている(Martin, 2005)。  PD患者14例(年齢38-74歳、罹病年数3-29年)に対する2~3週に1回50分×8回のリフレクソロジーを、PDQ39にて評価した報告もある。その結果、時間の経過とともにPD症状が進行性に悪化しながら、治療過程においては、精神的な健康感の改善があったと記述されている(Johns et al., 2010)。フレクソロジーは、反射を利用し、身体各部の有益な反応を起動する目的で行う手足のマッサージである。 3. 各症状および各評価項目に関する文献的検討 1) MDS-UPDRS  MDS-UPDRSは、薬剤投与やドーパミン産生細胞の移植術、深部脳刺激術などの効果判定として、それまで世界中で最も汎用されたUPDRS(Unified Parkinson’s Disease Rating Scale)(Fahn et al., 1987)を改良し、2008年に発表されたPDの重症度評価指標である(Goetz et al., 2008)。従来のUPDRSと比べて,非運動症状評価項目の増加など現在のパーキンソン病診療のニーズを満たすための改訂と、尺度使用に関する注意書が詳しく記載されるなどの改良が見られ、世界共通のパーキンソニズム測定尺度として普遍的な利用が見込まれるものである(近藤智善, 2010)。  マッサージ療法の効果について、MDS-UPDRSにて評価されている先行研究はないが、UPDRSにおいては、Craig et al.(2006)、Martin(2005)による改善の報告がある。また、理学療法の効果に関するsystematic reviewとmeta-analysisにおいては、UPDRSの総合得点およびADL評価と運動能力評価の有意な改善を認めている(Tomlinson et al., 2012)。  CAMに求められている役割は、これらの研究のように病態の悪化の経過を遅らせる、または病態の悪化傾向に反してその他の症状を軽減させることであろうと思われ、施術効果に関して、PDの重症度としてのUPDRS評価は重要であると思われる。 2) PDQ39  QOLについては、PDQ39(Peto et al., 1995)の日本語版で日本人PD患者への適用の妥当性が検証されているものを用いて評価した。河本ら(2003)は156例の認知症でないPD患者を対象に、PDQ39日本語版に加え、UPDRS、SF-36(健康状態調査票)、EQ5D(QOL尺度)、NAS-J(障害や慢性疾患への心理的適応を測定する尺度)の調査を施行し、SF-36およびUPDRS、H&Yとの相関性を報告している。さらにPDQ39とNAS-Jなどの他のQOL尺度との対比の結果、疾病の受容、自己効力感がPD患者のQOLを高める可能性を示唆している。PD患者57例を対象にVASとSF-36、質問紙を用いてアンケート調査を行った調査では、痛みと健康関連QOLの低下との相関が有意に認められたと報告されている(Quittenbaum et al., 2004)。  マッサージ療法の効果について、PDQ39にて評価されている先行研究は、Eng et al.(2006)、Craig et al.(2006)による合計点の改善、Paterson et al.(2005)、Johns et al.(2010)による下位評価項目の精神的な健康観の改善の報告があるが、本研究においては症例が少ないため、PDQ39の改善例が1例(P16)のみであった原因について、関連性を予測することは不可能である。しかしながらP16はVASの「痛み」も減少しており、このことがPDQ39の改善に影響を及ぼした可能性はあると思われる。また、今回は下位項目による検討は行わなかった。 3) PFS-16  疲労についてはPFS-16(Brown et al., 2005)の日本語版(阿部, 2001)を用いて評価した。Friedman et al.(1993)は、58例の認知症でないPD患者に対しFSS(Fatigue Severity Scale)とGDS(抑うつ評価)による30項目のアンケートとVASを使用し、疲労とうつについて58人の健常者と比較したところ、PD患者は健常者より疲労とうつ症状が強く、また疲労は軽度のうつ症状と相関があるが、多くのうつ症状のない患者も重度の疲労症状をもっていたと報告している。Okuma et al. (2009)は、PFS-16日本語版に加え、UPDRSの運動能力評価、SDS、PDSS(睡眠障害の評価)、PDQ39を使用し、361例の認知症でないPD患者を対象に、疲労の有症率とその寄与因子について調査を行った。結果は、疲労は151例(41.8%)に認められ、多重ロジスティック回帰分析では、PDSSとPDQ39の各スコアに有意な相関が認められた。このためH&Y、罹患期間、L-ドーパ投与、UPDRSの運動能力評価、抑うつなどの他の因子には有意な相関は認められなかったと報告している。また、PDの疲労はQOL低下と有意に相関する症状で、PD患者は健常者に比べて筋肉が疲れるスピードが2倍速く、易疲労性が特徴であるなどの報告もある(Ziv et al., 1998)。  マッサージ療法の効果についてPFS-16にて評価されている先行研究はなく、PDの疲労に関しては未だ未解明な点も多いため、今回あん摩療法の効果を期待して評価を行った。しかしながら4症例のPFS-16平均スコアの最大は3.2以下で、全対象の施術前後において疲労を問題視する基準値以下であった。このため、あん摩施術が慢性的な疲労感におよぼす影響を推測することは不可能であるが、2例で平均値の減少がみられた。   4) 特性不安  本研究においては、STAI(Spielberger et al., 1983)の日本語版20項目(水口ら, 1991)を用いて、ストレス状況に対して不安を感じやすい傾向の強さを測定した。  PDの不安についてNPI(精神神経学的試験)による評価では、537例のPD患者のうち49%に不安症状がみられたと報告されている(Aarsland et al., 2007)。本研究で使用したSTAIについては、Mondolo et al.(2007)がPD患者に対して行った研究において、妥当性が検証されている。これによるとPD患者の不安症状は、「リラックスすることが出来ない」、「落ち着きのなさや穏やかに出来ない」、「緊張しているように感じる」などを特徴とするが、臨床症候および運動症状における障害の重症度と不安症状との間に、相関はないと報告している。また、PD患者の痛みについての研究でも、痛みと不安症状との間に相関はないと報告されている(Hanagasi et al., 2011)。一方、Shulman et al.(2001)は、99例の認知症のないPD患者の不安、抑うつ、疲労、睡眠障害、異常感覚の5つの症状に対し、BAI(ベック不安評価)、BDI(ベックうつ病評価)、FSS(疲労重症度スケール)、PSQI(睡眠障害の評価)、感覚の症状(痛み、しびれ、チクチクとうずく感じ、ヒリヒリと焼け付く感じ)のアンケート、UPDRS、H&Y、S/E(ADLスケール)を用いて評価した。結果は、患者の36%が抑うつ、33%が不安、40%が疲労、47%が睡眠障害、63%が異常感覚の症状と相関があり、5つの非運動症状を全く持たない患者は12%のみであった。また59%の患者が2つ以上、25%近くが4つ以上の非運動症状を持っており、併発疾患の増加はPDの重症度と相関していると報告し、PDにおける多様な非運動症状の併発の認識の重要性を示唆している。  このように、不安症状とPDの重症度や他の症状との相関性は見解が分かれている。またマッサージ療法の効果についてSTAIにて評価されている先行研究もないが、本研究においては、不安傾向の強い2例(P16、P18)が継続施術後に正常値の範囲内または正常値近くまで改善しており、P16についてはVASによる痛みと疲労感の改善も得ている。 第Ⅳ章 介護老人保健施設内のPD患者の肩関節可動域制限に対するあん摩療法の効果 第Ⅳ章 介護老人保健施設内のPD患者の肩関節可動域制限に対するあん摩療法の効果 Ⅳ-1 研究の目的  平成16年度に厚生労働省特定疾患治療研究事業PD関連疾患として受給者証が交付されたH&Y重症度III度以上のPD患者23,058人の臨床調査について、谷口ら(2008)の報告によると、PD患者の生活状況については在宅療養の割合が60%と最も多く、入院あるいは入所中の患者は18.9%であった。しかし一般に介護老人保健施設(老健施設)の入所者は、在宅での介護困難が想定されるため要介護度が高く、PD患者においても多くがH&Y重症度が高いと推定される。特にPD患者においては転倒の危険性が高く、老健施設に入所を契機に自由に歩行する機会が減少し、車いすや臥位の生活時間が主体となると予想される。  座位姿勢で生じやすい拘縮についての調査では、日常的な車いす座位は、骨盤の後傾や腰椎前彎減少、胸椎後彎増大などにより、脊柱全体がC字型になり、さらに顔面を正面に向けるよう努力することで、頚椎の過伸展(前彎増大)の無理な姿勢を繰り返すことになると記述されている。このため長時間の車いす座位では、頚部から胸郭および、頚部から肩甲骨に付着する筋肉の過剰な緊張や短縮を引き起こし、体幹や下肢と共に、頸部や肩関節・上肢の拘縮を増悪させると報告されている(上田, 2008)。  また、PDの症状として、固縮や動作緩慢に起因する肩関節運動の障害が出現することもある。これは他動運動による可動域制限や筋力低下を伴わない動作開始障害(Jankovic, 2008)で、自発動作や身振りが減少するため、疾病期間が長期にわたると、病態として可動域制限を引き起こし、その後拘縮に移行しやすい。Yucel et al.(2010)は、PD患者28人の臨床的特徴と肩の病態との関係性を調査するため、肩の病状や痛みの無いPD患者とコントロール群の肩関節のMRIを施行し評価した。それによると、PD患者では重症度・安静時振戦・固縮・長い罹病期間に相関して、MRIにて棘上筋裂傷および烏口突起下滑液包への浸出液の浸潤が認められたと報告している。  以上のように、PD患者は本来の病気でも運動障害を有しているが、老健施設の安静や車いす生活などの生活環境が、肩や上肢の運動障害を悪化させ、関節拘縮の要因となり、ADLやQOLを更に低下させると考えられる。このため本研究においては、老健施設内のPD患者の肩関節可動域制限に対するあん摩療法の有効性について、直後効果および継続施術効果の検討を行った。 Ⅳ-2 対象および方法 1.対象  2011年9月6日から2012年11月16日において、つくば市内2ヵ所の老健施設に入所中のPD患者(H&Y Ⅴ)を対象として行った。特に肩関節痛や可動域制限の訴えを有し、あん摩施術を行ったのは10例(男性5例、女性5例;平均年齢82.5±3.0歳)である。さらに継続施術を希望した患者は6例(男性4例、女性2例;平均年齢84.3±1.5歳)である。患者プロフィールを表13に示す。R1からR6は継続施術を行った対象者である。またコントロール群として、了解の得られた対象患者について、直後効果として6例(男性3例、女性3例;平均年齢81.5±3.0歳)および継続施術効果として5例(男性2例、女性3例;平均年齢83.6±2.5歳)を施術をせずに、肩関節可動域の測定のみを実施した。 2.インフォームド・コンセント  本研究は、国立大学法人筑波技術大学研究倫理委員会の承認を得て実施した。患者および家族に対しては担当医師および施術担当者より、研究内容の説明、研究実施により生じる被験者への利益と不利益及び危険性、研究結果の公表、プライバシーへの配慮、同意撤回の自由の確保について、説明文書(資料1)と口頭による説明を行い、研究協力の同意(資料2)を得た上で実施した。 3.方法 1) 施術方法  施術は、あん摩療法の基本手技である軽擦・揉捏・圧迫・振せん・運動法の5手技を使用し、表1に準じて行った(Donoyama et al., 2012)。患者は側臥位の姿勢にて、症状や可動域制限の少ない軽症側から施術を行い、次に体位を逆にして患側を施術した。施術方法は、頚部から体幹および上・下肢に対する一般的な施術に加え、肩関節および上肢の可動域制限又は左右差がある部位や体表所見による圧痛や筋肉の硬結部位に対して重点的な施術を組み合わせて行った。片側施術時間は表1での基本時間を、A.背腰部:5分、B.肩~上肢:3分、C.頚部:3分、D.殿部~下肢:3分、と設定し、さらに肩関節および上肢ついては各部位3~5分加えて行い、合計約30~40分間とした。 2) 評価  「肩関節の動かしにくさ」に対する評価として、痛みを伴わない自動運動による肩関節屈曲・外転の関節可動域を用いた。関節可動域の測定には、日本整形外科学会および日本リハビリテーション医学会により決定された「関節可動域表示ならびに測定法」(平成7年4月改訂)に基づき、角度計(goniometer)を用いて測定した。肩関節屈曲・外転ともに基本軸は肩峰を通る床への垂直線、移動軸は上腕骨、交点は肩峰とした(図2)。ただし、対象者10名のうち1名(R6)については簡単な会話は可能だが自動運動に対する理解が悪く、正確な自動的関節可動域測定が困難であった。このため痛みの有無を随時確認しながら他動運動を行い、痛みを伴わない最大可動域にて測定を行った。 3) 直後効果における施術から評価までの手順  (1)対象者10例に対し、自動的な肩関節可動域の測定を行った。  (2)約30~40分間のあん摩施術を行った。  (3)施術後、同様の測定を行った。  (4)直後効果は、初回施術前後の値を比較・検討した。また左右の肩関節を、痛みや可動域制限の強い患側と軽症側に分けて評価した。  (5)コントロール群についても、30分間の安静の前後に同様の測定を行い評価した。 4) 継続施術効果における施術から評価までの手順  (1)対象者6例に対し、2ヵ月間(毎週1回、計8回)の施術を継続して行った。  (2)施術期間終了後7日目に、再度、自動的な肩関節可動域の測定を行った。  (3)継続施術効果は、初回施術前値と2カ月間の施術期間終了後7日目の値を比較・検討した。  (4)コントロール群についても、2ヵ月間の空白期間の前後に同様の測定を行い評価した。 5) その他の併用治療と測定時間  本施術期間においては治療薬の変更は行わなかった。リハビリテーション等の患者が施設において日常的に行っている治療法については、変更しないことを条件に併用を認めた。また薬物治療等による日内変動の影響を少なくするため、施術および測定はほぼ同一時間になるように実施した。 6) 統計解析  施術前後の得られた測定データについて、統計解析ソフトIBM SPSS 20.0を使用し、施術群とコントロール群の比較を行った。全てに分散分析(ANOVA)と介入前後の値の差(介入後-介入前)についてのt検定(独立サンプルの検定)を実施した。また正規分布をとらないものは、介入前後の値の差(介入後-介入前)についてのU検定(独立サンプルの検定)を追加し、p値0.05未満を有意とした。 Ⅳ-3 結果 1.基本項目および介入前の比較  基本項目である性別、年齢について、施術群とコントロール群の比較を行った。表14、表15に示すように、直後効果(施術群10例、コントロール群6例)および継続施術効果(施術群6例、コントロール群5例)の対象についてのいずれの項目も、両群間内に有意な差は認められなかった。また介入前の評価項目についても、両群間に有意な差は認められなかった(表16、表17)。直後効果および継続施術効果として得られた結果を表18、表19に示した。 2.直後効果  直後効果としては、患側の外転角度において可動域の有意な拡大を認めた(表18)。  患側の肩関節屈曲角度については、U検定を行った。両群の介入前後の値の差(介入後-介入前)における(平均±標準偏差)は、施術群が6.0±8.4度、コントロール群は3.3±5.2度で、両群間に有意差は認められなかった(p=0.635)。  患側の外転角度については、t検定を行った。両群の介入前後の差を比較すると、施術群が15.0±12.9度、コントロール群は1.7±5.2度で、施術群はコントロール群に比べて可動域の有意な拡大を認めた(p=0.013)(図24)。  軽症側の屈曲角度については、U検定を行った。両群の介入前後の差を比較すると、施術群が7.5±7.9度、コントロール群は0.0±3.2度で、両群間に有意差は認められなかった(p=0.056)。  軽症側の外転角度については、U検定を行った。両群の介入前後の差を比較すると、施術群が8.5±8.8度、コントロール群は2.5±4.2度で、両群間に有意差は認められなかった(p=0.22)。 3.継続施術効果  継続施術効果としては、患側および軽症側の外転角度において可動域の有意な拡大を認めた(表19)。  患側の屈曲角度については、t検定を行った。両群の介入前後の差を比較すると、施術群が22.5±21.4度、コントロール群は0.0±7.9度で、両群間に有意差は認められなかった(p=0.054)。  患側の外転角度については、U検定を行った。両群の介入前後の差を比較すると、施術群が34.2±11.1度、コントロール群は3.0±9.7度で、施術群はコントロール群に比べて可動域の有意な拡大を認めた(p=0.004)(図25)。  軽症側の屈曲角度については、t検定を行った。両群の介入前後の差を比較すると、施術群が17.5±20.4度、コントロール群は-4.0±16.7度で、両群間に有意差は認められなかった(p=0.093)。  軽症側の外転角度については、t検定を行った。両群の介入前後の差を比較すると、施術群が25.8±13.6度、コントロール群は-10.0±19.0度で、施術群はコントロール群に比べて可動域の有意な拡大を認めた(p=0.005)(図26)。 Ⅳ-4 考察 1. 老健施設内の高齢者の生活について  老健施設における高齢者の居場所・姿勢・行為に関する実態調査については、大宮ら(2011)の報告がある。これによると、老健施設の入所者50人(平均要介護度3.4:歩行自立群13人.歩行介助群7人.車いす自立群9人.車いす移乗のみ介助群6人.車いす移動・移乗介助群15人)を対象に、日中の活動時間である9~17時に10分ごとに入所者の居場所、姿勢、行為の実態を計48回観察し集計した。その結果、歩行自立群.歩行介助群.車いす自立群.車いす移乗のみ介助群.車いす移動・移乗介助群の全ての群において、居室やデイルームにおける座位での「無為・睡眠」が最も多かったと記述されている。  通常、介護老人保健施設は在宅復帰を目的としているため、食事・入浴・排泄などの支援や介助のほかに、施設により設定時間の差はあるものの、リハビリテーションを中心とした医療サービスやレクリエーションなどの文化的交流のサービスも行っている。しかし限られた時間だけのケアやリハビリテーションには限界もあり、施設患者のADL維持・向上という問題は重要な課題となっている。 2. 直後効果および継続施術効果の検討  老健患者に対するあん摩療法の直後効果としては、コントロール群に対し施術群は、患側の外転における自動運動の可動域に有意な拡大が認められた(p=0.013)。また継続施術効果としても、患側の外転(p=0.004)と軽症側の外転(p=0.005)における自動運動の可動域に有意な拡大が認められた。  本研究においては、対象が重症度の高い老健施設入所患者という特異的な条件であり、長期入所による廃用性障害をきたしていることが予測された。このため、自動的な肩関節障害可動域のみを評価に用いた。今回の結果で直後効果としては、より症状が強く重点的な施術を行った患側の外転の可動域に有意な拡大が認められた。そして8回の継続施術後も患側の外転、さらに軽症側の外転の可動域に有意な拡大が認められたことで、効果の累積がみられた可能性が示唆された。これによりあん摩療法は、固縮や廃用性障害に伴う筋緊張や痛みに働きかけてこれを軽減させ、その後増悪軽減を繰り返しながらも効果を累積させ、結果的に生じた関節可動域の拡大が、さらに動作緩慢の軽減や廃用症候群の改善に良い影響を与え、肩関節の自発動作を促した可能性がある。  上田(2008)は、人が座位姿勢を安定して持続できるのは、常に動くことで自己身体の認知を高め、自己と周りの環境の相互関係を確認しているためであるとし、自己身体の認知を高める働きかけの重要性を指摘している。本結果により、あん摩療法は、重症度が高く日常活動レベルが低いために意識的に身体を動かすことの少ない老健施設内のPD患者が、車いすなどの座位姿勢においても、自己身体の認知を高め、日常生活の活動レベルを維持または向上させ、その結果廃用症候群の予防に貢献できると推察される。  以上から、老健施設のPD患者に対する短期的および継続的なあん摩施術の有効性が検証された。 第Ⅴ章 結論 第Ⅴ章 結論 今回の研究結果から以下の結論を得ることができた。 1. PD患者に対するあん摩療法は、施術直後に、自覚症状の「こり・はり感」、「動かしにくさ」、自動的な肩関節可動域の「患側の外転と結帯」、歩行機能の 「歩行速度」および「歩幅」を改善させた可能性が統計学的に示唆された。 2. 継続的施術効果については、症例数が4例と少なく、統計解析は出来なかったが、3症例にて、UPDRS・上肢機能・歩行機能の改善や維持がみられた。 3. あん摩療法は、重症度が高く日常活動レベルが低いため、意識的に身体を動かすことの少ない老健施設内のPD患者に対しても、施術直後に自動的な肩関節可動域の「患側の外転」を改善させ、継続施術により「患側および軽症側の外転」を改善させたことで、効果の累積がみられた可能性が統計学的に示唆された。 4. 医療機関、老健施設のPD患者に対する短期的および継続的なあん摩施術の有効性が示唆された。 第Ⅵ章 本研究の限界と展望 第Ⅵ章 本研究の限界と展望  今回の結果は、本学統合医療センター神経内科を訪れた外来PD患者19例、およびつくば市内2ヵ所の介護老人保健施設PD患者10例によるもので、統計的には直後効果を中心とした検討となったが、あん摩療法がPD患者にとって有益である可能性が示唆された。しかし、PDという慢性緩徐進行性の神経難病の特異性を考慮すると、長期間にわたり有効で実施可能な施術方法が望まれる。今回の研究では、外来患者は個々の症例検討であったが、継続施術の対象となる外来患者を増やし、対照群との比較試験にて継続施術効果を評価することが必要となる。また個々の要因のなかで、あん摩施術がどのようなメカニズムでPD患者に有効であったかの検証が重要となろう。  もし、これらの十分な有効性が証明できたなら、PD患者に対するあん摩療法を広く外部に広めることが本学の学術的使命と考えられる。今後、学会や英文誌での発表を予定している。 謝辞 謝辞  本研究の実施および修士論文の執筆にあたり、終始暖かい激励とご指導、ご鞭撻をいただきました筑波技術大学技術科学研究科 大越教夫教授に心より感謝申し上げます。大越教授には、研究を進めるために患者様のリクルートをはじめとする様々な環境を整備いただき、貴重なお時間を割いてご指導いただきました。心より厚くお礼申し上げます。  研究の実施および臨床において、貴重なご指導とご助言をいただきました筑波技術大学技術科学研究科 野口 栄太郎教授に心より感謝申し上げます。  研究の実施にあたり、手順から分析に至るまで細部にわたるご指導をいただきました筑波技術大学技術科学研究科 殿山 希准教授に心より感謝申し上げます。  筑波技術大学在学中よりお世話になり、研究を進めるにあたり貴重なご助言をいただきました筑波技術大学の多くの先生方に心より感謝申し上げます。  研究を進めるにあたり、文献の収集にてお世話になりました筑波技術大学視覚障害系図書館の職員の皆様に心より感謝申し上げます。  研究を進めるにあたり、ご支援、ご協力をいただき、精神的にも支えていただきました特任研究員、大学院生および研修生の方々に心より感謝申し上げます。  最後になりましたが、本研究の実施にあたり、被験者を快く引き受けていただき、ご協力くださいました患者様に心より感謝申し上げます。本当にありがとうございました。 参考文献 参考文献 Aarsland D, Brønnick K, Ehrt U, De Deyn PP, Tekin S, Emre M, Cummings JL. 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The back including the shoulder, the back, and the lower back  (1) Stroking starts at the base of the neck along the upper shoulder to the shoulder joint  (2) Downward strokes along the full length of the back, starting at the base of the neck down to the waist  (3) Thumb kneading by circular or linear (back and forth) movement: the upper shoulderfrom the side of the 7th cervical vertebra (Cv7) to the acromion along the trapezius  (4) Thumb kneading by circular or linear movement: from Cv7 via the superior angle of the scapula and the supraspinous fossa to the acromion, on the levator scapulae, rhomboid, and supraspinatus.  (5) Thumb kneading by linear movement along the spine: from the side of Cv7 to the side of the 5th lumbar vertebrae (Lv5) on the erector spinae and the quadratus lumborum  (6) Thumb or other four-finger kneading by circular or linear movement on the medial and lateral border of scapula  (7) Heel of the hand kneading by circular movement on the infraspinous fossa  (8) Downward strokes again along the length of the back, starting at the base of the neck down to the waist  (9) Stroking again starting at the base of the neck along the upper shoulder to the shoulder joint B. The upper limb and the hand  (1) Stroking down from the shoulder to the fingertips  (2) Palm grasp kneading over the upper limb on the deltoid  (3) Palm grasp kneading over the upper front limb on the biceps brachii  (4) Palm grasp kneading over the back of the upper limb on the triceps brachii  (5) Thumb kneading on the back of the forearm  (6) Palm grasp kneading on the front and the side of the forearm  (7) Thumb kneading on the hand  (8) Knead and squeeze each finger along the full length using the thumb and the index  (9) Stroking down from the shoulder to the fingertips C. The neck  (1) Stroking starting at the superior nuchal line along the neck to the base of the neck  (2) Thumb kneading over the back of the neck on the semispinal capitis, the splenius capitis, and the trapezius descending part  (3) Thumb, two-finger (thumb and index), or four-finger kneading to the side of the neck, on the sternocleidomastoid  (4) Apply four-finger kneading to the front of the neck  (5) Thumb kneading and pressure along the superior nuchal line  (6) Stroking again starting at the superior nuchal line along the neck to the base of the neck D. The lower limb and the foot  (1) Stroking from the buttock to the toes  (2) Kneading over the buttock with the heel of the hand  (3) Palm kneading on the front thigh, on the quadriceps femoris muscle  (4) Palm grasp kneading to the back thigh or hamstrings  (5) Palm grasp kneading on the patella  (6) Thumb kneading on the front lower leg  (7) Palm grasp kneading on the calf muscles  (8) Palm grasp kneading of the Achilles tendon  (9) Finger kneading over the top of the foot  (10) Thumb kneading and pressure on the sole  (11) Knead and squeeze each toe along the length using thumb and index finger  (12) Intermittent palm pressure on the entire leg  (13) Stroking again from the buttock to the toes Order of given massage: less severe side (A→B→C→D) → severe side (A→B→C→D) Notes:  1) First, patients were given a brief massage on their less severe side while lying on their severe side, and then given a full massage on their severe side while lying on their less severe side. The full massage focused on specific locations where patients felt pain and wanted symptom relief.  2) For patients who were suffering from frozen shoulder, the following massage method for a diseased shoulder joint was added into the sequence. Shoulder joint method  (1) Stroking around the shoulder joint  (2) Thumb kneading or four-finger kneading by circular or linear movement along the shoulder joint  (3) Palm grasp kneading on muscles anterior to the fossa axillaris  (4) Palm grasp kneading on muscles posterior to the fossa axillaris  (5) Passive muscle stretching exercises and joint mobility to extend the range of motion of the frozen shoulder joint  (6) Stroking around the shoulder joint again (Donoyama, et al. 2012) 表2 外来PD患者プロフィール 表3 外来PD患者対象症例の群間比較  性別・H&Y重症度についてはχ2検定、年齢・罹病年についてはt検定を行った。基本項目について、両群間に有意な差は認められなかった。 表4 外来PD患者 介入前評価の群間比較 表5 外来PD患者 直後効果 検定結果 表6 外来PD患者プロフィール:継続施術対象者 表7 MDS-UPDRS 表8 PDQ39 パーキンソン病が原因で、次のようなことを経験することはどのくらい頻繁にありましたか?この1ヵ月についてお答え下さい。 表9 PFS-16 表10 特性不安 表11 特性不安評価基準 表12 外来PD患者 継続施術効果 結果 表13 老健施設内のPD患者プロフィール 表14 老健施設内のPD患者対象症例の群間比較(直後効果) 表15 老健施設内のPD患者対象症例の群間比較(継続施術効果) 表16 老健施設内のPD患者 介入前評価の群間比較(直後効果) 表17 老健施設内のPD患者 介入前評価の群間比較(継続施術効果) 表18 老健施設内のPD患者 直後効果 検定結果 表19 老健施設内のPD患者 継続施術効果 検定結果 資料 資料目次 資料1   研究内容の説明文 資料2   研究協力の同意書 資料3   第77回日本温泉気候物理医学会総会・学術集会(2012.6.8.仙北市)にて発表 ・周防 佐知江,殿山 希,大越 教夫.パーキンソン病患者の肩関節可動域制限に対するあん摩療法の効果.日本温泉気候物理医学会雑誌.2012;76(1):61 ・殿山 希,周防 佐知江,大越 教夫.パーキンソン病患者のさまざまな愁訴に対するあん摩療法の効果.日本温泉気候物理医学会雑誌.2012;76(1):61 資料1 研究内容の説明 パーキンソン病の患者様へ  この説明文書は、あなた様に今回の研究内容を正しく理解して頂き、あなた様の自由な意思に基づいて、この研究に参加するかどうかを判断して頂くためのものです。 この説明文書をお読みになり、担当者からの説明を聞かれた後、十分に考えてからこの研究に参加するかどうかを決めて下さい。 1.研究課題名 パーキンソン病患者の各種症候に対するあん摩マッサージ療法の有効性に関する研究 2.研究責任者 筑波技術大学保健科学部保健学科 教授 大越 教夫 〒305-8521 茨城県つくば市春日4-12-7 電話:029-858-9590(東西医学統合医療センター) 3.研究の概要 本研究はパーキンソン病患者様に対して、以下の2つに分けて実施する予定です。 (1)各種症候に対するあん摩マッサージ療法:パーキンソン病患者を悩ます症状の中であん摩マッサージ療法が有効と考えられている病態を抽出し、各患者様の症候に適合した施術を行い、その直後効果および2ヶ月間施術効果を評価します。 (2)在宅指導用 DVDを用いた施術の実施:(1)の結果有効と考えられる症候に対する在宅指導用DVDを作成・配布し、一定期間在宅での施術を行って頂きます。 4.研究内容 (1)各種症候に対する手技療法 ①パーキンソン病患者様へ、全身または個々の症候に適合した30分の施術を2回、または毎週1回2ヶ月間(計8回)継続して行います。 施術の内容としましては、頚部から体幹及び上・下肢に対しまんべんなく施術する方法と、患者様の病態を悪化させている各部位に対し重点的に施術する方法とを組み合わせて行います。 ②治療の前後にアンケートや手足の運動速度・手足の角度、歩行速度・歩幅、姿勢などの計測を、状況に応じて症候の写真・ビデオ撮影などとともに行い、その効果を評価します。 (2)在宅指導用 DVDを用いた施術の実施 ①在宅用のDVDを用いて、各患者様のQOL向上を目的とした指導プランによる施術15~20分を在宅にて週3~4回以上実施して頂きます。 ②1ヶ月経過時に来院し、マッサージ師による施術チェックを受けて頂きます。 5.実施日 H23年9月~H25年3月 6.実験により生じる被験者への不利益及び危険性  ・あん摩マッサージ施術時は、患者様の状態を常に把握し、無理のないよう十分な注意のもと実施します。歩行測定時の転倒の可能性はありますが、測定時補助者による見守りを行うことで、転倒を回避します。  ・転倒する可能性の大きい患者様には歩行に関する施術や評価は実施しません。  ・施術による関節痛などの関節症状の悪化の可能性もありますが、過度の施術にならないよう十分な注意を払い実施します。  ・家庭で実施するDVDによるあん摩マッサージ施術は,家族でも簡易にできる安全なレベルの内容を実施するため指示通りに実施すれば危険性は少ないくなります。しかし、指示以上に過剰に実施すると,疲労による筋痛・関節痛などが起こる可能性もあり、患者様には1回あたりの実施時間を15~20分以内にして頂くようお願いします。  ・(1)においては、評価スケール測定時に約60分の時間を必要とします。またスクリーニング、1ヶ月観察期間直前、施術期間8回、1ヶ月観察期間後の合計11回、本学での所要時間が長くなります。  ・(2)においては週3~4回以上2ヶ月間継続して、DVDを見ながらの自宅におけるあん摩マッサージ施術を実施しなくてはならないという精神的負担がかかる可能性があります。  ・これらが不快や苦痛に感じる場合には、いつでも同意を撤回することができその後の外来等でも不利益を受けることはありません。   7.プライバシーへの配慮  実験で得られたデータの管理は厳重に行い、被験者の人権に配慮したデータの取り扱いをします。また個人が特定されるおそれのあるデジタルカメラやDVDの映像は、本研究用にのみ使用し、学会や論文等で発表の際にはモザイク等の修正を行い、顔の描写を避けるようにします。   8.実験結果の公表  実験結果については、学術雑誌、学術研究発表会等で公表しますが、個人が特定されるような情報は一切公表しません。 9.実験に参加しない自由の確保  この実験への参加は任意です。あなた様の自由な意思が尊重されます。一旦、参加に同意した場合でも、いつでも不利益なく同意を撤回することができます。また、研究に参加しないことによって、あるいは途中で参加を撤回されても不利益な対応を受けることはありません。 資料2 同意書 筑波技術大学 保健科学部 保健学科 教授 大越 教夫 殿  私は、本研究(パーキンソン病患者の各種症候に対するあん摩マッサージ療法の有効性に関する研究)に関して担当者から別紙の実験説明書を頂き、実験内容などについて十分な説明を受けました。また、実験に参加することに同意した後であっても、いつでも参加を取りやめることができ、そのことによって私自身が不利益を被ることがないことを確認しました。また、本研究の実施者は私の人権保護に最大限配慮し、私に関するデータが、私個人と特定されるような形で公表しないものと了承しました。私は別紙の実験説明書に記載の事項を理解し、本実験に参加することを私の自由意思により同意いたします。 平成 年 月 日 住所 氏名 (自筆署名) (代理署名) 資料3