+ノートテイカー養成の手引き 日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワーク(PEPNet-Japan) はじめに  この冊子は、初めてノートテイク活動に取り組もうとする人を対象とした、初心者向けのノートテイカー養成講座の進め方や、指導方法の例をまとめたものです。近年、全国各地の大学・短期大学において、高等教育機関における情報保障を担うノートテイカーを養成する試みが広がってきています。この結果、それぞれの実践の中で、各大学や利用学生の現状に応じたノートテイクの方法やその指導方法のノウハウが蓄積されつつあります。しかし、その一方で、これから聴覚障害学生支援に着手しようという大学では、依然としてノートテイカーの養成に関する経験や情報がなく、円滑に支援をスタートできずにいるケースがあるのも事実です。また、取り組みを重ねている大学同士の情報交換もまだ十分とは言えず、どの大学でも同じようにノートテイカーの養成や確保に関する悩みを抱えているのが現状ではないでしょうか。  PEPNet-Japanでは、このような全国的な状況をふまえ、各大学で実施されているノートテイカー養成講座に関する情報を収集するとともに、より効果的な指導に向けたノウハウの蓄積を行ってきました。この成果の一部として、このたび本ノートテイカー養成の手引き(試行版)を発行するはこびとなりました。本稿では、各大学の実践をもとにノートテイカーを養成する際におさえてほしいポイントを整理するとともに、指導方法やカリキュラムの例を掲載しています。ここにあげられた内容は、長年高等教育現場にてノートテイカーの養成に関わってこられた多くの実践者からの貴重な情報をもとに作成したものです。しかし、これらはあくまで各大学や利用学生に合った養成講座を組んでいただくための参考資料に過ぎません。個々の大学において聴覚障害学生が十分に快適な大学生活を送れるよう、それぞれのニーズに応じた講座を展開していっていただければ幸いです。  聴覚障害学生支援を進める過程において、大学が中心になってノートテイカーを養成するという取り組みは、聴覚障害学生支援に対する大学の姿勢を示す貴重な第一歩となります。同時に、聴覚障害学生がより快適な大学生活を送るためには、ノートテイクのみに止まらずニーズに応じて多様な情報保障手段を選択できる環境の整備が必要です。ノートテイカー養成の取り組みをきっかけに、全国の聴覚障害学生支援体制全体がますます充実していけるよう、大学としての積極的な取り組みが増えていくことを切に願っています。 2006年9月24日 日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワーク(PEPNet-Japan) もくじ 指導内容 Ⅰ 聴覚障害学生への理解と情報保障について  8 Ⅱ ノートテイクの利用体験  18 Ⅲ ノートテイクの基本  21 Ⅳ ノートテイク練習①  26 Ⅴ ノートテイク練習② 講義を書く  28 Ⅵ さまざまな授業に対応したノートテイクの方法  41 Ⅶ ノートテイクの体験談  46 Ⅷ ノートテイクのルールとマナー  49 Ⅸ 模擬講義とノートテイク評価  52 Ⅹ ノートテイカー養成講座プログラムの例  54 資料 Ⅰ 聴覚障害学生支援の全国的状況  58 Ⅱ ノートテイカー養成の実際  64 指導内容 Ⅰ 聴覚障害学生への理解と情報保障について 目的  日ごろ、聴覚障害学生はどのような状況に置かれているのか、なぜ情報保障が必要なのかを伝えます。可能な場合は、聴覚障害講師が担当したり、聴覚障害学生の意見を随時聞いたりする方法をとると、より効果的です。経験談を交えながら、利用者の視点でのノートテイクの意義と必要性を話すことによって、受講生にノートテイカーの役割をつかんでもらうことがねらいです。聞こえない人と接したことのない受講生にも、この機会に慣れてもらうことが期待できます。 1.聴覚障害について カリキュラムの一例 ・耳のしくみ ・音の大きさと聴力のレベル ・音の聞こえ方 ・補聴器について (1)おさえたいポイント:聴覚障害を構成する諸要素を知る  聴覚障害は、聴力の高低だけでなく、失聴の時期やそれまでに受けた教育などの複合的な要素で成り立っていることを理解してもらいます。受講者には実感しにくい部分ですので、カリキュラムに余裕のあるときに、講座の冒頭ではなく2~3回目以降に持ってきてもよいでしょう。市販の手話学習者向けのテキストにもわかりやすく解説されたものがたくさんあります。 (2)進め方の例:ゲーム感覚で  講師の一方通行になりがちな部分ですので、楽しくアレンジしてみませんか。例えば、ひと通り話したところで、2人ずつペアを組んでもらい、一人がもう一方に今しがたの説明を1分間にまとめて伝えるというゲームをすると程よい緊張感が生まれるでしょう。あるいは、復習する際、前回の話を講師が繰り返すのではなく、受講生から前回欠席した学生に5分間で伝え合ってもらうと理解度をはかることもできます。 (3)ひと工夫するなら:聴覚障害講師を巻き込んで  耳のしくみや聴力に関する話は聞き慣れない用語が多く、頭を素通りしてしまいがちです。聴覚障害講師にも参加してもらって、聴力や聞こえ具合を尋ねながら進めると参加者の関心が高まるようです。なお、現役の利用学生に対しては、こうしたプライベートな質問は注意が必要です。 【参考資料】 ・『聴覚障害学生サポートガイドブック』第1章(P.1~9) ・『大学ノートテイク入門』第1章(P.23~28) ・Tipシート「聴覚障害」「聴覚障害幼児・児童・生徒を囲む教育環境」 2.コミュニケーション方法について カリキュラムの一例 ・どんなコミュニケーションの手段がある? ・それぞれの手段の長所と短所 ・場面に応じたコミュニケーション ・聞こえる人から見た長短と聞こえない人から見た長短 (1)おさえたいポイント:万能なコミュニケーション手段はない  「この聴力レベルならあのコミュニケーション手段」という方程式が成り立たないのが聴覚障害です。どんな場面にも対応できるコミュニケーション手段を持たないこと、状況に応じてふさわしいコミュニケーションの手段が変わることをしっかり伝えます (2)進め方の例:Q&Aゲーム・コミュニケーションの手段と長短  初心者向けのコミュニケーションゲームに、聴覚障害学生に対して「家族は何人ですか?」「学食で好きなメニューは?」といった質問をして答えてもらうQ&Aゲームがあります。一つ質問するごとに「身振りは使わない」「鉛筆は使わない」とどんどん制約を設けていくと、逆に新鮮なアイディアが生まれるかもしれません。聴覚障害やコミュニケーションに対する意外な思い込みに気づくきっかけとなるでしょう。アメリカではこの種のシミュレーションゲームの一つとして「It’s a Deaf, Deaf Worldゲーム」が行なわれているようです。(資料参照)  また、どのようなコミュニケーションの手段があるかを考えるだけでなく、それぞれの長所と短所を挙げてもらう方法も有効でしょう。聞こえる人から見た長短と聞こえない人から見た長短は必ずしも一致しません。つい自分の立場で判断しがちですので、各手段ごとに「誰にとっての長所・短所なのか」を考えることで、「通訳は聴覚障害者のためだけのものではない」というコミュニケーションの双方向性に気づかせたいところです。(資料参照) (3)ひと工夫するなら:あいさつの手話を覚えよう  ノートテイカーの中には、ノートテイクそのものはスムーズにできるけれども、授業が始まる前や終わった後、どう聴覚障害学生と接していいか戸惑う人も多々見られます。あいさつ一つにしても「紙とペンがない!どうしよう!」ではなく、「ニコッと手をふるだけでいいんだよ」と伝えたり、「おはよう」「元気?」といった簡単な手話を学ぶ時間を設けたりするのも一方法です。 【参考資料】 ・『聴覚障害学生サポートガイドブック』第2章(P.11~30) ・『大学ノートテイク入門』第1章(P.29~31) ・「Q&Aゲーム」 ・「コミュニケーションの手段と長短」 ・It’s a Deaf, Deaf Worldゲーム(http://www.pepnet-j.com「第3回アメリカ視察報告」よりダウンロードできます) 3.聴覚障害学生の置かれた状況とニーズの多様性について カリキュラムの一例 ・さまざまなサポート手段 ・利用者体験 ・聴覚障害学生の一日 (1)おさえたいポイント:多様なサポート手段があることを念頭におく  聴覚障害は、どんな状況にも対応できるコミュニケーション手段を持たないと同時に、どんな状況にも対応できるサポート手段も、またありません。今行なっているサポートは利用学生のニーズに合っているかどうか、気になるところでしょう。その取り組みやすさから普及しつつあるノートテイクも、サポートの一手段であることを忘れずに、より有効なサポート方法の検討を重ねていきたいものです。 (2)進め方の例:利用者体験を取り入れよう  受講生が2人一組で、一人がノートテイカー役、もう一人が聴覚障害学生役になり、模擬講義でのノートテイクを体験すると、その後の取り組みが目に見えて真剣になってきます。(詳細は次項「利用者体験」を参照)  ここで、教師役が一方的に話すだけでなく、「教職課程を取っている人は手を挙げて」というような指示や質問、さらには冗談を盛り込むと、「どうしてみんな手を挙げているんだ?」「何を笑っているんだろう」と情報が遮断されて自分が取り残される感覚がいっそう伝わるでしょう。 (3)ひと工夫するなら:何が不便か知ろう  「Aくんの一日」と称して「朝起きて、着替えて、ご飯を食べて・・・」と一日の流れを追っていく中で、もしAくんが聴覚障害だったら何が不便になるかを話し合い、参加者の聴覚障害学生もしくは聴覚障害講師にも「もしあなたがAくんだったらどんなところが不便?」と聞いてみるのはどうでしょうか。聴覚障害のイメージが具体性を帯びてくるだけでなく、聞こえる人が「不便だろうなあ」と感じる部分と聞こえない人が「ああ、困った!」と感じる部分にズレがあるかもしれません。(資料参照) 【参考資料】 ・『聴覚障害学生サポートガイドブック』第4~6章(P.60~101) ・『大学ノートテイク入門』第1章(P.32~38)第5章(P.135~147) ・Tipシート「高等教育における聴覚障害学生支援」「授業における教育的配慮」「入学当初のサポート」 ・PEPNet-Japan作成ノートテイカー指導者養成用DVD ・「Aくんの一日」 4.情報保障の意義と役割について カリキュラムの一例 ・利用学生からのコメント ・聴覚障害講師による講演 ・情報保障をする上でのマナー (1)おさえたいポイント:「授業がわかる喜び」を伝える  ノートテイカーから寄せられる声の多くに、「先生はこんなにたくさん話しているのに、思うように書けないジレンマがある」というものがあります。利用学生にとっては、100%ではないにせよ、ゼロだった情報が5にも10にも増えていく喜びがあり、「授業ってこんなに楽しかったんだ」と実感する瞬間でもあります。情報保障の必要性だけでなく、その意義も聴覚障害の講師にぜひ語っていただきたい大切なテーマです。 (2)進め方の例:聴覚障害学生の声を聞く時間を設けよう  短時間(5~10分)でもかまいませんので、あらかじめ、利用学生にノートテイクの感想を話してもらうようにお願いしておくとよいでしょう。新入生の場合は、すぐ話が途切れることもありますので、講師から「ノートテイクをはじめて経験した時期は?」「高校まではどうしていたの?」と引き出しながら話をつないでいくとスムーズになるようです。利用学生にとっても、情報保障の経験を人前で話す機会は少ないですので、自分の体験を客観視できる貴重な場となるでしょう。  また、役割と同時に、ルールやマナーも学ぶことで、ノートテイカーとしての守備範囲が明確になります。この時も、具体例をもとに、避けてほしい行為を一つ一つ聴覚障害学生に確認しながら進めるとよいでしょう。(詳細は「ノートテイクのルールとマナー」の章を参照) (3)ひと工夫するなら:外部講師を依頼するには  Pepnet-Japanのメンバーや他大学のコーディネーターを講師として迎える大学も多いようです。この場合は単発的な講座になりがちですので、近隣地域で活動する通訳者で講義通訳の経験が深い方や、同じ大学を卒業した聴覚障害の先輩に講師をお願いすると継続的な関わりも期待できるでしょう。 【参考資料】 ・『聴覚障害学生サポートガイドブック』第3章(P.31~57) ・『大学ノートテイク入門』第4章(P.116~133)第5章(P.148~155) ・Tipシート「聴覚障害学生の心理的支援」 5.情報保障者に期待すること カリキュラムの一例 ・利用者との交流会 ・スキルアップ講座 (1)おさえたいポイント:情報保障の主体を意識する  ノートテイカーの養成において、聴覚障害講師を招くのも、利用者体験を盛り込むのも、マナーについて学ぶのも、講義を受けるのは聴覚障害学生が主体になるからに他なりません。先生の話がノートテイカーにはわかるが聞こえない学生にはわからない、というような主客転倒した事態をいかに避けて、「今授業を受けているんだ!」という手ごたえを感じてもらえるような、奥行きのあるノートテイクを目指したいですね。 (2)進め方の例:第3者にもチェックしてもらおう  ノートテイクは、ともすると聴覚障害学生と担当ノートテイカーの二者間のやりとりで終わってしまい、スキルアップの機会を逃しがちです。その都度利用学生に意見を求めることも欠かせませんが、ノートテイカー同士でノートテイクした用紙をコメントしあったり、時にはコーディネーターや講義を担当する教師、外部からの講師も交えてサポートについて話し合ったりして、より広い視野で見直す機会を意識的に設けるとよいでしょう。 (3)ひと工夫するなら:大学ならではのノートテイクを  大学での情報保障と、大学以外での情報保障には、いくつかの共通点と相違点が見られます。地域で活動するノートテイカーや通訳者と連携することでサポートがスムーズになる大学もあれば、利用学生の好みとは大きな隔たりが生じてしまう大学もあるようです。そのいずれにしても、身近な資源の組み合わせ次第で取り組めるのが、ノートテイクの特長でもあります。ぜひ聴覚障害学生の意向を充分に汲み取った上で、持てる資源を最大限に活かしてそれぞれのノートテイクを追求していってください。 【参考資料・文献】 ・『聴覚障害学生サポートガイドブック』第7~8章(P.103~128) ・『大学ノートテイク入門』座談会(P.11~22)第2章(P.39~45) 教材例 (表) 〈コミュニケーションの手段と長短〉(作成:中尾) 項目/種類/注意点/長所/短所(長所/短所は記入欄のため空欄) 口話(発語+読話)/・ゆっくりはっきりと・文節で切る 筆談/・簡潔に具体的に 空書/・楷書ではっきりと・漢字か仮名かは目的に応じて 補聴器使用(聴能活用)/・十分なフィッティング・静かな環境 指文字/・口型と一緒に見える位置で・速すぎない 身振り(表情)/・ややオーバーと思うくらいに 手話/・独自の文法を持つ言語であることを踏まえて。(表ここまで) 教材例1 〈Q&Aゲーム~初心者向け~〉 ◎ねらい  「聴覚障害者と話すには手話が必要」という思い込みは多いものです。いざ話をする段になると緊張してしまい、紙に書けばよいといった基本的なことすら思い浮かばないことがあります。実際に聴覚障害者とのやりとりし、さまざまなコミュニケーションの方法があることを実感してもらいます。 ◎進め方の例 ・あらかじめ質問を書いたメモを用意しておきます。(1枚1質問) ・一人ずつ聴覚障害者に質問して答えてもらいます。 ・質問の手段は自由ですが、前の人が1度使った手段を使うことはできません。 ◎その他 ・「出身はどこですか?」「家族は何人ですか?」といった身近な質問から始めて、下記の例のような抽象的な質問へとレベルアップさせるとスムーズです。 ・「教室にあるものなら何でも使ってOK」と促すと、「黒板に書く」「携帯メールを打つ」「テキストに載っている50音表を指差す」などの工夫が生まれるでしょう。 ・一人質問するごとに使える手段が限られてきますので、なかなか思いつかない人には、「ヘルプ」と他のメンバーに助けてもらってもよいでしょう。 ・一番手っ取り早い方法は、「質問メモをそのまま見せる」かもしれません。 ・モノに頼るだけでなく、「聞こえる講師に手話通訳を頼む」という方法も考えられます。 ◎質問例 ・おすすめの映画(本)は何ですか? ・好きな(嫌いな)科目は何ですか? ・何のサークルに入っていますか? ・学食で好きなメニューは何ですか? ・携帯はどこを使っていますか?(教材例1ここまで) 教材例2 〈Aくんの激動の一日〉(作成:中尾) Aくんは、地方から出てきてワンルームマンションで一人暮らししている大学生。昨夜はサークルのコンパで大盛り上がり、二次会のカラオケでも大熱唱。おかげで今朝は爆睡。 もしAくんが、聴覚障害学生だったら、どんなところが不便になるでしょうか? 7:00 目覚ましを二つかけておいたが、止めてまた寝てしまったらしい。 7:20 隣に住むBくんが、ジョギング帰りに声をかけてくれてようやく起床できた。今日は1限から。しかも1番目にレポート発表。危ない、危ない。 7:45 大学までは1時間。大慌てで着替えて家を出る。夜中に食べた石焼ビビンバがまだもたれているのか、食欲ナシ。牛乳1杯。ともかくシャワーで眠気と酒臭さを消した。髪はドライヤーで乾かす暇もない。 7:55 走った!最寄りZ駅から電車に乗る。なんとか間に合いそう、一安心。 8:10 乗り換えるY駅の一つ手前で突然電車が動かなくなる。しばらくすると車内放送があり、Y駅構内で人身事故発生、発車の見通しは立っていないとのことで車内は騒然。駅前からバスがあり、臨時便も出すと再放送。バスでY駅まで出ることにし、改札で事故証明をもらう。完璧遅刻。同級生のCくんに携帯で連絡。先生に伝えてくれるとのこと、感謝。 8:40 3台目のバスにようやく乗り込む。 8:55 Y駅から電車に乗り継ぐ。 9:45 教室到着、遅刻者多数。ホッ。発表は最後にしてくれていた。なんとか終了。レポート内容について突っ込まれてあたふた。二日酔いのせいか頭もボーっとしてるのに気分も最悪。 10:30 2限は空き時間なので、ともかくCくんから他の発表の様子について聞く。二日酔い強烈。相変わらず食欲はない。 13:00 調子が悪く帰りたかったが、3限の演習は出欠が厳しいので帰れない。講師のオヤジギャグを聞いているうちに、腹が立ってきた。ムカムカする。 14:30 3限終了。身体の節々が痛み始め、変だと思っていたが頭も痛くなる。友達におでこを触ってもらったら「熱い」。調子が悪いのは二日酔いのせいだけではないみたいだ。 14:45 大学の保健センターに行って検温。8度2分、病院に行くように言われた。大学近くのX病院に電話したら、3時まで受け付けているとのこと。名前を告げてこれから行くと伝える。 15:05 受付の窓は閉まっていたが、ベルを押して名前を告げたら受け付けてくれた。診察の結果は風邪。 16:00 隣の薬局で長い説明を聞いて3種類の薬を受け取る。解熱剤は1日3回までとのこと。 17:30 コンビニで弁当、ヨーグルト等を買って帰宅。スプーンをもらえばよかった。隣のBくんに話すとアイスノン枕を貸してくれた。ドアに宅急便の不在通知票が挟まっていた。電話したらこれから持ってくるとのこと。とりあえずヨーグルトをお腹に入れて薬を服む。 18:00 宅急便が届く。母親から・・・細々と入っている。実家に電話するが留守、留守電に「荷物が届いた」とだけ入れる。アイスノンをして寝る。 21:45 目が覚めたら解熱剤が効いたのか、少し楽になっている。7度3分。携帯をチェック、バイト仲間のD子からのメールで明日のバイトを思い出した。電話してシフトを変えてくれるよう頼んだ。弁当をレンジでチンして少し食べる。あまり味がしない。ともかく水分を摂る。 22:15 最近話題のテレビをボーっと見ていたらバイト帰りのBくんが様子を見に寄ってくれた。薬を飲む。 22:30 やっぱりだるくてテレビを消して寝る。何かやたら大変な一日。(教材例2ここまで) Ⅱ ノートテイクの利用体験 目的  技術的な学習に入る前に、ノートテイクを受ける利用者の立場の体験をし、利用者のニーズに応えるためのノートテイクのあり方について理解を更に深めます。 進め方の例(50分で構成した場合の例) 時間配分/指導内容/備考 5分/目的の説明・準備 20分/利用者体験/ノイズ、ウォークマン、講義ビデオ、OHC 15分/体験の共有(感想発表など)/感想シート 10分/まとめ 1.体験をする  ノートテイクの利用者の立場を体験する研修としては、様々な方法が考えられ、実践されています。受講生の人数や教室の機材環境、講座の目的などに照らして、適した方法を取るとよいです。ここでは、一例として3つの方法を紹介します。  (1)ノートテイクを通して授業を受ける体験 ・受講生はヘッドフォンで音楽やマルチトーカーノイズ、ホワイトノイズなどを聞いて周囲の音を遮断します。 ・講師又は教員が授業を行います。普段どおりの話し方で進めます。 ・すでに技術を身につけ活動経験のあるノートテイカーが、ノートテイクを行います。複数人のノートテイカーが確保できれば、受講生の隣に座って、直接ノートテイクを読んで受講してもらいます。難しい場合は、OHC上で筆記したものを投影し、全員で見られるようにします。  *教員やノートテイカーの確保、ヘッドフォンなど機材の準備が難しい場合は、DVD教材を活用できます。但し、その場で講師が話をするほうが、臨場感があり、情報が入ってこないことへの不安や焦り、先生の様子と文字を結びつけながら理解していく感覚などが、実際の利用者の状況と近いものになると考えられます。 ・受講生には、ノートテイク、話し手の様子、板書等を見ながら、授業の要点をメモに取り、自分のノートを作成するように指示します。 ・ノートテイクを通して授業を受けたあと、フィードバックを行います。 (2)文字を通して情報を受け取る・伝える体験 ・受講生が2人1組になって、1人が書き伝える役、1人が利用者役になります。 ・書き伝える人には、自分のパートナーに今起こっている音の情報を書いて伝えてください、と教示します。 ・(1)同様、講師が話すかDVD映像を用いて授業を展開します。 ・書き手の負担が大きくなりすぎないよう、5分程度で役割を交代します。 (3)文字を通してコミュニケーションをとる体験 ・受講生が2人1組になって、筆談で会話をします。 ・「2分でお互いの自己紹介をする」「3分で趣味について話す」「5分で気になるニュースについて話す」など制限時間とテーマを決めて、文字だけで会話をするように伝えます。  時間によって、(3)→(2)→(1)と段階を追って体験をしたり、講座の初めと終わりに同じ体験活動をして、感じ方の違いを話し合ったりするような構成もできます。 2.整理・まとめをする  体験したこと内容の整理をします。受講生に感想を発表してもらったり、ペアで感じたことを話し合う時間を設けたりして、体験を共有します。 (1)指導のポイント  利用者体験では、実際に体験したことをどのように整理し、ノートテイクに結び付けていくかが重要になります。次のような点について、受講生から感想や意見を聞きながらまとめていきます。あらかじめ感想を記入したりノートを取ったりするためのワークシートを用意しておくと進行しやすくなります(教材例を参照)。 ①普段授業を受けているときとの違い(耳から情報を得ることと目から得ることの違い) →タイムラグを伴うノートテイクと、板書や先生の様子を同時に見ながら授業を受けることには、耳で聞いて受講するのとは違ったペースがあることを押さえる →利用する学生にも、ノートテイクの読み方(使い方)に習熟する必要があることに気づく ②自分のまとめたノートについて →ノートテイクを見ながら自分のノートを作ることができるので、ノートテイカーの役割は、代わりにノートをまとめることではなく、利用学生が自分でノートを作るために情報を伝えることだということを押さえる ③ノートテイクを見て感じたこと ④ノートテイカーとして必要と思われること →限られた時間の中で、正確に書き伝えるには、様々な判断と技術が必要になることを確認する。 →利用者の立場を常に考慮した情報保障が必要であることを確認する。 ②の体験の場合は、上述の4点に加え、伝える側の体験に関する下記の内容も加えると体験学習がより深まります。 ⑤書き伝えているときに感じたこと ⑥うまく伝えられなかった点について、どうすれば解決できると考えるか。 (2)指導上の留意点  この体験学習は「情報保障の利用体験」であって、聴覚障害そのものの疑似体験ではないということをよく確認する必要があります。ここで行うのは、あくまで、ノーテイクを利用するという立場を経験してみるというものです。実際には、聴覚障害者は全く音が聞こえないという人から、部分的に話し声を聞き取っている人まで様々です。したがって、完全に音声を遮断した状態を、「聴覚障害の体験」とは言えないのです。  また、単に「聞こえないと授業がわからない」「情報が足りない」という否定的なイメージや、「ノートテイクは難しくて自分にはできない」という苦しい体験だけが印象に残っては、せっかくの体験学習の意味がなくなってしまいます。「情報が得られないからこそ、技術を習得して質の高いノートテイクを提供することが必要なのだ」という心構えにつながっていくように、体験の意味を伝えましょう。 Ⅲ ノートテイクの基本 目的  情報保障の意義やノートテイクに必要とされる技術を理解した上で、実際に、具体的な書き方を学びます。 進め方の例(60分で構成した場合の例) 時間配分/指導内容/備考 10分/通訳のプロセスについて 15分/書き方について/ノートテイクの実例、OHC 5分/道具について/ペン、ルーズリーフ 25分/簡単なノートテイク練習 5分/まとめ 1.通訳のプロセスの理解  受講生の「ノートテイク」に対するイメージは様々です。「自分の文章構成力を高めたい」「字のきれいさを生かしたい」「専門分野の知識があれば簡単にできる」「自分のノートも上手にまとめられるようになるだろう」など、中にはノートテイクに対する明らかな誤解も含まれています。  ここでは、ノートテイクとは具体的に何をする仕事かを、一般的な同時通訳のモデルを用いて確認していきます。 (1)通訳の流れを知る 聞く・記憶する・理解する・・・集中して聞き、話の展開や話の主旨をつかみます。 要約する・・・理解した内容を、主旨を損なわずに書ける量の文章に再構成します 表出する(書く)・・・再構成した文章を実際に文字にあらわしていきます (2)指導のポイント プロセスの中で特にポイントになる次の3点を押さえます。 ☆聞く・・・自分が授業を受けるときのように、話の要旨やキーワードをポイントにして聞く聞き方では、聞いたことを文字で書いていくことはできません。話の展開に沿って集中して聞き続けます。 ☆要約する・・・要約というと、長文の要旨を限られた字数にまとめる要約を想起しがちですが、ノートテイクの場合は、話し言葉から書き言葉へ変換するため、趣も異なります。語尾や、余談、たとえ話なども、教師の思想や授業の雰囲気を伝えるための省いてはならない情報となります。 ☆表出する・・・ノートテイクは、どんなに一生懸命書いても、読み手に伝わらなければ意味がありません。どういう書き方が見やすく安心して読めるのかは、利用学生と一つ一つ確認しながら決めていくようにします。 2.書き方のポイント  次の内容は、ノートテイクの書き方のポイントです。利用学生のニーズに沿った書き方をするのが原則ですが、ここでは一般的な例を挙げていきます。以下の3つの視点に立って、書き方を工夫していくと良いでしょう。 (1)読みやすい書き方  たくさんの文字が書かれていても、字が小さかったり乱暴に書かれているために利用者が読めなければ、情報保障になりません。 ・用紙に日付や授業名、ページ番号を入れる ・見やすい大きさの文字で書く ・適当な余白をあけて書く ・文法的に正確な文章で書く ・一文が長くなりすぎないようにする ・汚くてもいいので読める字で書く ・話し手が複数の場合は、話者を明示する ・多様な解釈が可能な記号は安易に使用しない (2)忠実な書き方  ノートテイクは、限られた時間の中で、話し言葉の要点をつかんで書き言葉に換えていく作業です。一字一句正確にすべて書くことではなく、話された内容に忠実に書くことを目指します。 ・話の主旨に忠実に書く ・主体を明確にする ・一度書いた内容に訂正があるときは、わかりやすく示す ・不確かな情報は、不確かであることをはっきり伝える (3)遅れない書き方  書く速さは話す速さの5分の1という以上、多少の遅れを生じながら書いていくのがノートテイクの現状です。そのため「遅れをため込まない」ための書き方が必要になります。遅れすぎると、利用学生が授業に参加する機会を逃してしまう上、ノートテイカーも聞いた内容の記憶が困難になって忠実で見やすいノートテイク作業に支障を来たします。 ・画数の多い漢字はカタカナ書きして下線を引く ・一般的な略字や略記を活用する ・繰り返し使われる言葉についてはその場で略記を作成して活用する ・自分の力に応じた要約率で書く 3.ノートテイクに必要な道具  どんな紙が見やすく整理しやすいのか、何で書くのが読みやすいのか、ニーズや嗜好は利用学生によって様々なので、意見を聞きながら道具を選んでいきます。以下は一般的な例です。初めてノートテイクを利用する学生の場合、いくつか使い比べてみると意見を出しやすいようです。 (1)用紙  利用学生から見て見やすく扱いやすいものを選ぶようにしましょう。一般的に、罫線のあるB5サイズやA4サイズの、レポート用紙やルーズリーフを使用しています。罫線のない用紙を使用している場合もあります。ルーズリーフのように両面が使用できる用紙の場合は、片面に書き終えたあとすぐに裏面に移ると直前の内容が読めなくなってしまうので、ページの打ち方に注意が必要です。 1人目 1の表/2の表/3の裏/4の裏 2人目 5の表/6の表/7の裏/8の裏 (2)ペン  利用学生から見て字が読みやすく、ノートテイカーにとって使いやすくいものを選ぶようにしましょう。一般には黒のボールペンが主流のようです。芯のつぶれにくい太めの水性ボールペンや、グリップの太い事務用のボールペンが使いやすいようです。シャープペンシルや鉛筆は、芯が折れやすかったり字が薄くて見にくいため、あまり好まれないようです。 (3)カラーペン(赤、青など) 配布された資料に説明を書き込んだりする場合は、赤ボールペンなどを使用すると印刷された文字と区別して見やすくなります。 (4)ペンライト ビデオやパワーポイントを使用する際、教室を暗くする場合があります。ノートテイクのために多少の照明を残してもらう配慮が必要ですが、手元にライトがあると、安心してノートテイクが続けられます。ノートテイカーではなく利用学生が携帯している場合もあります。また、小型の電気スタンドを学生課などで貸し出している場合もあります。 (5)バインダー  実習などを伴う授業で、席を離れて活動する場合には、バインダーがあると立った上体でもノートテイクが続けられます。  このほかにも、授業の形態やノートテイクの方法によって、必要なものが出てきた場合は、随時対応できるのが望ましいです。利用学生にとっての使いやすさを第一に考え、ノートテイカーの書きやすさも十分考慮しながら、方法を決めていけるといいです。 4.交代の方法  通常は、90分の授業を2人のノートテイカーが担当します。利用学生の両隣りに座り、交代して書きます。1人当たり、B5の用紙で1~2枚、時間では10分程度で交代するのが一般的なようです。ノートテイカーによって同じ時間内に書く量は異なるので、負担が偏らないような交代方法をあらかじめ相談して決めておきます。  交代のタイミングは、次に書き手となる人が管理します。パートナーが完全に書き終えてから書き始めるのでは遅いので、最後の2~3行に入ったのを見て、書き始めます。内容が重複してもかまいません。そのほうが、漏れ落ちなく交代できたことが確認できて、利用学生の安心につながります。  交代方法をあらかじめ決めておいても、自分の番が来るまで完全に休憩しているわけではありません。パートナーのノートテイクの様子を見て、漏れ落ちがあるような場合は、用語や数字をメモしておいて、後で補えるようにします。また、配布資料やテキストを参照する場合には、参照箇所を指し示したり、必要に応じて資料に説明をメモしたりします。パートナーが話についていけず手が止まっているときは、早めに交代するという判断も必要です。(ペアでの連携方法は「様々な授業に対応したノートテイクの方法」で扱います) 【参考資料】 「大学ノートテイク入門」第2章(p40~72) Tipsheet「手書きのノートテイクとパソコンノートテイク」 Ⅳ ノートテイク練習① 目的 講義Ⅱの内容を踏まえ、実際に話し言葉を聞きながら書き言葉に変換していく練習を行います。 進め方の例(60分で構成した場合の例) 時間配分/指導内容/備考 5分/準備/ルーズリーフ、ペン 10分/ノートテイク練習/練習題材 15分/評価/OHC、評価シート、ノートテイクの実例 10分/ノートテイク練習(2回目) 15分/評価 5分/まとめ 1.話し言葉を聞いて書く (1)練習題材の選び方・作り方のポイント  話し言葉を書く、と言っても、ノートテイク練習に適した題材を用意し、段階を踏んで練習していくことが大切です。順番が前後しますが、2.で挙げたようなポイントを想定して、練習題材を用意するのがよいでしょう。次のような要素の含まれる題材であると、上述のポイントに結びつけながら解説がしやすくなります。 ・名前、住所などの固有名詞 ・誕生日、日付、人数などの数字 ・同音異義語 ・画数の多い漢字を含む語 ・講義Ⅰで指導した略記や略字を含む語 ・あいさつ、雑談 ・話す速度は自然な速さで。一文ごとにやや間をあけて受講生に配慮する。 ・原稿を読み上げるのではなく、前置きや繰り返しなど話し言葉独特の冗長さがあるほうがノートテイクしやすい。但し、文末や接続詞などははっきりと話す。  ノートテイク練習は、実際の授業と同じく、同じ教室で今話されていることを書く、つまり講師や教員がその場で模擬授業を行うのが、一番望ましいと言えます。その他、臨場感に欠けるという難点はありますが、以下のようなものもうまく取り入れながら講座を構成することができます。 ・授業や講演の録画映像  授業者(講演者)の了解を取った上で録音・使用することが前提です。 ・授業を録画した映像  これも授業者の了解が必要です。映像を伴う分録音よりは書きやすくなります。 ・教養番組などの映像  専門領域を取り扱っていて、映像が見やすく音声も聞き取りやすいという使いやすさがある反面、放送番組の話し言葉は非常に簡潔にまとめられています。ノートテイカーにとっては省略すべき冗長な言い回しが少ないため、遅れずに書くのが大変難しい練習材料となりがちです。使用する際は注意が必要です。 2.練習のポイント  最初のノートテイク練習となるこの実技では、次のようなポイントの習得に重点をおきます。自己評価シートなどを用意しておくと、何に気をつけて書けばよいか、整理しながら練習を進めることができます。(教材例を参照) (1)読みやすさ ・利用学生が読みやすい文字の大きさで、適当な余白を取って書く。 ・箇条書きや単語の羅列ではなく、文章で書く。句読点をはっきりつける。 ・書くときの姿勢(手や上体でノートを隠さないように)に注意する。 (2)忠実さ ・固有名詞や数字を正確に書く ・聞き漏らした箇所や、聞き間違いの恐れがある箇所を明示する ・不確かな漢字はカタカナで書く ・あいさつ、質問など、話の中核と関係ない部分も書き伝える ・大幅な言い換えや、受講生自身の解釈が行わない (3)即時性 ・略記を活用する ・画数の多い漢字はカタカナ書きする ・自分の力に応じた要約率で書く Ⅴ ノートテイク練習② 講義を書く 目的 実技Ⅰで学習した方法を実践しながら、大学の講義をノートテイクする練習をします。一般的な談話と異なり、聞きなれない専門用語や複雑な言い回しを含んでいる大学の授業をノートテイクする際に留意する点などを学びます。 進め方の例(60分で構成した場合の例) 時間配分/指導内容/備考 5分/準備/ルーズリーフ、ペン 10分/ノートテイク練習/練習題材 15分/評価/HC、評価シート、ノートテイクの実例 10分/ノートテイク練習(2回目) 15分/評価 5分/まとめ 1.講義を聞いて書く (1)題材の選び方  講師による授業、またはビデオ、録音テープなどを使って、講義を聞いて書く練習をします。ここでは、板書や資料、プレゼンテーションなどは使用せず、講話のみで進める授業を扱います。時間は10分程度、受講生の状況に応じて決めます。  講師が授業者となる場合、「講義」を意識して、急に早口になったり専門性の高い内容を扱うと、受講生にとってはポイントが見えにくくなってしまうので注意が必要です。利用学生や受講生の学部がまとまっている場合は、その専門領域の内容から入るのがスムーズでしょう。 2.練習のポイント (1)指導のポイント:“授業”の特性を理解しながら  この実技での指導ポイントとして、練習①で挙げた内容に加え、以下のような点が重要になります。一般的な話と講義との違いは、単に内容が専門的になって言葉が難しくなるということだけではなく、話し手(先生)の考え方が伝わったり、授業に参加できたりすることを押さえます。 ・用語の難しさに振り回されず、話の展開をつかんで書く ・用語、数字を正確に書く ・書き漏らしや聞き間違いをごまかさず、わからないということもはっきり書き伝える (2)指導方法の例:評価の方法  ノートテイク練習が終わった後の評価方法として、いくつかの方法を挙げます。 ○自己評価 ノーテイクのポイントを列記したチェックシートを用意して、自己評価を行います。練習のポイントや自分の達成度が把握しやすく、他者評価、利用者評価と組み合わせることで、より自らの課題がわかりやすくなります。 ○他者評価  受講生同士、あるいは講師から、ノートテイクを評価します。 ①チェックシートの使用  自己評価と同様にチェックシートを使って他の受講生に評価をしてもらいます。 ②コメントの書き込み  講師や受講生が、ノートテイクに直接コメントを書き込んで評価する方法です。受講生同士で行う場合は、「字の大きさ」「字の読みやすさ」「一文の長さ」など、自己評価では判断しにくい項目を具体的に決めて行うと、効果的です。 ③OHC投影  受講生のノートテイクをOHCで投影し、全員で見ながら講師が評価をします。具体例を挙げながらポイントの説明ができるので、受講生にはわかりやすい解説となります。また、他者のノートテイクを見ることで、よい点を取り入れていくことができます。可能であれば、講師による評価だけではなく、利用者評価、自己評価も、OHCを使い、受講生全体で共有できることが望ましいです。 ○利用者評価  聴覚障害学生や聴覚障害者講師など、利用者の立場からの評価です。チェックシート、書き込み、OHCなど他者評価にあげた方法を組み合わせて、利用者の立場での意見を伝えます。講座でこういった機会を十分に取ることで、授業の現場でも自然に意見を聞いたり出し合ったりできる、利用者とノートテイカーとの関係の基盤を作ります。 ノートテイク練習の題材例(講義を書く) テーマ「知的障害者にとってのバリアフリー」 「バリアフリー」という言葉は、この10年で大変一般的な用語になりました。 この言葉を聞いたことがないという人は、もうほとんどいないのではないかと思います。 ただ、その具体的なところについては、まだコンセンサスが図られていないのではないでしょうか。 「バリアフリー」と聞いたときに、みなさんはどんなことを思い浮かべますか。 駅のエレベーターとか、階段のスロープとか、道路の段差をなくすとか、そういうことがパッと思いつくという人が、大半だと思うのですが、みなさん、いかがですか? では「知的障害者のバリアフリー」というと一体どういうことか見当がつくでしょうか。 実際、車椅子のイメージと一緒にこの「バリアフリー」という言葉は普及していったと思いますが、そういった事柄は、バリアフリーのごく一側面に過ぎないわけです。 障害者白書というのが内閣府から出されています。 これは1995年のものなので当時は総理府と言っていましたが、この中にバリアとは何かということが4つに分類されて整理されています。 1つは、物理的なバリアです。 高さ、長さ、重さ、時間などの物理的な要因をさしています。 2つ目は、文化・情報のバリアです。 見る、聴く、話す、嗅ぐ、味わう、触れるといったことができないために生じるものをさすそうです。こういう制約が、文化的な営みの制約につながるということです。 例えば、聴覚障害者にとっては、手話通訳などのサービスがない状態では、聴く、話すという点で大きな不利を被ることが、生活の様々な場面であると思われます。 3つ目は、意識上のバリア。これは容易に想像ができると思いますが、偏見や憐憫などの人の心が要因になっています。 4つ目は制度上のバリアです。欠格条項がその良い例です。個人としての能力や意思に関わらず、障害を理由に様々な機会を奪われている状況をさしています。 こうしてみると、知的障害者にとっては、大きく分けてこの2つ目の文化・情報のバリアというのが大きく関わっているということが想像できると思います。 受け取った情報から判断をして適切な行動に移るということに、困難がある場合が多いのですね。ですから、必要最低限の情報を、わかりやすい形で、しかもどこでも同じ形、つまり規格化されている。そういう手がかりがあるということが、彼らにとってのバリアフリーにつながると言えます。絵があるだけじゃだめ。規格化されていないことがバリアなんです。(題材例ここまで) ノートテイクの例1(ルーズリーフに手書きで書かれたメモ) バリアフリー(以下まるバ)について話します。 まるバは、この10年で普及、今きいたことない人はいないのでは。けれども具体的なことはまだ共通リカイがはかれていない。 まるバとは何か。障害者白書に定ギがのっている。内カクフが19・・に出したもの。 1.ブツリ的まるバ ダンサ、重さなど。イメージしやすい。 2.情ホウのまるバ きく・見る・ふれるなどできないためにおこる。 3.イシキのまるバ へんけんや同じょうなど心の要因。 4.制度のまるバ 欠格条項が良い例。障害者白書をリユウに機会がうばわれることをさしている。 まるバについて、こういった側面から見て、とりのぞいていく必要。(例1ここまで) ノートテイクの例2(ルーズリーフに手書きで書かれているメモ) バリアフリーについて 10年間で普及 きいたことない人いない 具体的なこと共通していない 内カクフ 障害者白書19・・ バリアとは何か?4つ 1物理的 ダンサあり、オモサあり。 2情報のバリア みる・きく・はなす・ふれる× 聴しょう・手話なし不利・・・情報のバリア 3意シキのバリア 心の要因 4制度のバリア 欠カク条コウ 能力ではなく障がいの有無でキカイをうばわれる バリアフリー 4つのバリアをふくめてとりのぞく…共通理解必要(例2ここまで) ノートテイクの例3(ルーズリーフに手書きで書かれているメモ) バリアフリーについて バリアフリーについて話す。この10年で一般の用語になった。聞きなれたものになったが、共通にはなっていない。バリアフリーは障害者白書にのっている。「バリア」の定義が4つある。1.物理的なバリア。イメージしやすい。段差など。2.情報のバリア。見る、きく、ふれることができなくてできるバリア。3.意識のバリア。きこえないことで、不利なことが多い。3.意識のバリア。「偏見」など、人の心。4.制度のバリア。障害によって機会がうばわれること。4つに整理されている。いろんな側面で考えていくことが、必要になる。(例3ここまで) 練習題材とノートテイクの例 【先生の話】 いいですか。それでは今日の本題に入ります。まず最初にですね、レジュメを見てください。今日のテーマは、そこに第4章近代的人間観、優性学と優生思想と書いてありますね。結論的に言えば、こういうことですね。近代の人間観の中にですね、えー、私たち人間の中に、まあ簡単に言うと、生きていていい人間と生きていてはいけない人間とに分けていくような考え方、まあ命の不平等というふうにも言いますけど、生命の不平等ということを実は近代的人間観は色濃く持っている。その最も中心的になってくる思想が優生思想という耳慣れない言葉です。聞きなれない言葉ですね。優生思想ということばについて聞いたことある人?ああ、何人かいますね。優生思想というのは、皆さん方はどうでしょうかね。家庭科だとか保健体育なんかの時間にちょっと習うかと思うのですが、優生保護法、もうこの法律はないのですが、さきほどのレジュメの裏を見てください。1948年優生保護法、そして1996年に母体保護法へと書いてありますね。優生保護法っていう法律は、今日は十分に話はできないと思いますけどね、知的障害を持っている女性が強制的に不妊手術をさせられるとか、優生思想、優生とはどういうものなのかを最初に少しお話したいと思います。(先生の話ここまで) (日本福祉大学 「哲学」の授業より) 【ノートテイクの例2の文章】 いいですか?では本題に。 レジュメを見て。 テーマは「第4章~」と書いてある。 近代の人間観の中に、私たちの中に生きていていい人といけない人に分けるという考え方です。(板書) 生命の不平等を色濃くもっているということ。 その中心になるのがユウセイ思想。 知ってる?何人かいますね。 みなさんは、保けんや家庭科で習ったかも。 「ユウセイホゴ法」というもの。今はこの法律はない。 レジュメを見て。 1948年、ユホゴ法 ~ と書いてある。 1996まで日本にはこの法律があり、 知的シのある女性が強制的にフニン手術をされたりした。 今日はこれについて話す。(ノートテイク例2ここまで) ≪コメント≫ 例1・2とも、「優生思想」「生命の不平等」「優生保護法」などのキーワードを落とさないように意識して書き伝えています。ところどころ文法的なねじれがありますが、要旨を捉えています。また、レジュメと重複する箇所や繰り返し話されていることには極力時間をかけずに書く工夫をしていて、学生への問いかけや具体例など、授業特有の情報を盛り込んだノートテイクになっています。 ノートテイクの例1 いいですか?今日の本ダイ。 レジメ見てください。…視線の誘導が必要な情報を遅れずに伝えています。 今日のテーマ、第4章「~」…レジュメを読上げているので、どこを読んでいるかわかるように「第4章」だけ書き、後半を省略して次に書き進んでいます。 ケツロン的に言うと、近代の人間カンの中に、人間に生きていていい人といけない人に分けていくような考え方。 (生命(いのち))の不平等というときもある。 もっとも中心の思想が優性思想。まるユ。…このあと頻出すると判断して、記号を作り書き込んでいます。 きいたことある人いる?何人かいるね。 まるユというのは、たぶんカテイカやホケン体育でならったかな。 ユーセイ保護法。…少し長めの用語が繰り返されたため、記号を作るのではなく、矢印を引いて、対応しています。 今はもうないが。 レジメのうら。レポートのとこのよこ。 1948年(ユーセイ保護法の矢印が引かれている。) 1996年に母体ホゴ法へ。…年号や法律名は、もらさず正確に伝えています。 戦後日本は(ユーセイ保護法の矢印が引かれている。)があった。 (ユーセイ保護法の矢印が引かれている。)の名のもとに知的障害の女性がキョーセイ的にフニン手術されたり。(例1ここまで) ノートテイクの例2 いいですか?では本題に。 レジュメを見て。テーマは「第4章~」と書いてある。 近代の人間観(「観」は画数の多い字ですが、様々な字が想起される音であるため、あえてカタカナでなく漢字で書いています。)の中に、私たちの中に生きていていい人といけない人に分けるという考え方です。(板書)…先生が板書中ということを伝え、利用学生の視線を誘導しています。 生命の不平等を色こく持っているということ。その中心になるのがユウセイ思想。知ってる?…タイミングは少し遅れましたが、学生への問いかけを書き伝えています。 何人かいますね。 みなさんは保けんや家庭科で習ったかも。 「ユウセイホゴ法(以下まるユ)」というもの。今はこの法律はない。 レジュメを見て。1948年、まるユホゴ法~と書いてある。 1996まで日本にはこの法律(「優生保護法」を「この法律」と言い換え、時間を短縮しています)があり、知的まるシ(「障害」という語の記号を活用しています。)のある女性が強制的にフニン手術をされたりした。 今日はこれについて話す。(例2ここまで) 教材例 ノートテイクの評価項目① <1回目> ・聞きながら、書くことができたか(手をとめないで、理解しながら) 1 2 3 4 5 ・文章で書くことができたか(句読点を使う、主語述語がある) 1 2 3 4 5 ・□話されたことに、忠実に書けたか(用語や数字、漢字、内容の正確さ、話し方、言葉遣い) 1 2 3 4 5 ◇よかった点(自己評価・先輩や講師からのアドバイス) ◇課題(自己評価・先輩や講師からのアドバイス) <2回目> ・聞きながら、書くことができたか(手をとめないで、理解しながら) 1 2 3 4 5 ・文章で書くことができたか(句読点を使う、主語述語がある) 1 2 3 4 5 ・□話されたことに、忠実に書けたか(用語や数字、内容の正確さ、話し方、言葉遣い) 1 2 3 4 5 ・略字や略号を使ったか 1 2 3 4 5 ・見やすい字で書けたか(見やすい大きさ、行間、字のくせやくずれ過ぎがないか) 1 2 3 4 5 ◇よかった点(自己評価・先輩や講師からのアドバイス) ◇課題(自己評価・先輩や講師からのアドバイス) ノートテイクの評価項目② ・聞きながら、書くことができたか(手をとめないで、理解しながら) 1 2 3 4 5 ・文章で書くことができたか(句読点を使う、主語述語がある) 1 2 3 4 5 ・□話されたことに、忠実に書けたか(用語や数字、内容の正確さ、話し方、言葉遣い) 1 2 3 4 5 ・□略字や略号を使ったか 1 2 3 4 5 ・見やすい字で書けたか(見やすい大きさ、行間、字のくせやくずれ過ぎがないか) 1 2 3 4 5 ・話題の変わり目に改行しているか 1 2 3 4 5 ・大切な情報が書けているか 1 2 3 4 5 ◇よかった点(自己評価・先輩や講師からのアドバイス) ◇課題(自己評価・先輩や講師からのアドバイス) ◇2回目の練習での改善点 ノートテイクの評価項目(ペアで書く練習) ・遅れずに書けたか(略語の活用、話を理解しながら手を止めずに) 1 2 3 4 5 ・話されたことに忠実に書けたか(用語や数字、内容の正確さ、話し方、言葉遣い) 1 2 3 4 5 ・書き漏らした部分や不確かな情報がわかるように書き伝えたか(下線や?マーク、空白の活用、漢字や英語のつづり) 1 2 3 4 5 ・先生の話以外の必要な情報も書き伝えたか 1 2 3 4 5 要約(サポート) ・話の要点が書かれているか 1 2 3 4 5 ・漢字や英語、数字を正確に書けたか 1 2 3 4 5 ・メインのノートテイカーが書き漏らした内容を書けているか 1 2 3 4 5 ・交代のタイミングを見て合図することができたか 1 2 3 4 5 ◇よかった点(自己評価・先輩や講師からのアドバイス) ◇課題(自己評価・先輩や講師からのアドバイス) ノーテイクのチェック項目(利用者評価用) Ⅰ 書かれたノートに対する評価 見やすさ □字の大きさ、間隔は適切か □丁寧な字か □話題の変わり目に改行しているか □日本語として意味のわかる文か □文が長すぎないか □略字や略号の意味がわかるか 信頼性 □情報がもれた箇所がはっきりわかるか □確かな情報と不確かな情報の区別がはっきりわかるか Ⅱ 書き方に対する評価 通訳態度 □見やすい位置で書いていたか □交代はスムーズだったか □タイミングを逃さず書いていたか □通訳者のマナーに反する行動はなかったか サポート □時間の管理(交代の合図)がきちんとできたか □資料や板書が使われたときにうまく対応できたか □必要な時にフォローができたか Ⅲ 問題点・不満・要望の整理(通訳者・ろう学生ともに) □具体的に、客観的に問題提起できているか Ⅵ さまざまな授業に対応したノートテイクの方法 目的  大学の授業のノートテイクは通常2人ペアで行います。また、授業は、板書、教科書、配布資料、ビデオ教材、OHPを使ったり、ディスカッション、質疑応答など、様々な形式で進められます。語学や実験などの授業もあります。実際の授業に対応するために、授業方法に応じてパートナーと役割分担をしながらノートテイクを進める方法を学びます。また、書く練習だけではなく、情報保障がしやすい環境づくりをどう進めていけばよいかについても知識を深めます。どんな場面でも柔軟な対応のできるノートテイカーになることが期待されます。 進め方の例 時間配分/指導内容/備考 10分/練習内容の説明 10分/ノートテイク練習/ルーズリーフ、ペン、練習題材 15分/評価/OHC、評価シート、ノートテイクの実例 20分/授業に合わせた書き方の事例・様々な情報保障手段の紹介 5分/まとめ 1.授業場面を想定したノートテイク練習 (1)練習題材の選び方  ここで取り上げる練習題材は、実際に利用学生が履修している授業形態から選択することが望ましいです。①板書やスライド、パワーポイントなどを、ノートテイクと結びつけて理解する場合、②配布プリントや教科書など、手元にある資料を使用する場合、③質疑応答や発表など、学生と教員のやりとりがある場合と、3つの要素に着目して題材を用意すると、指導のポイントも整理しやすくなります。  授業形態に応じた書き方、パートナーとの交代方法については、「大学ノートテイク入門」に詳しいのでそちらを参照してください。(p73~77)  また、ここでは、ノートテイク練習だけでなく、実例を紹介して様々な方法があることを知る機会とします。利用学生の体験をもとに事例を話したり、ノートテイク以外のパソコン通訳や手話通訳を導入することで改善された例などについて、情報提供して視野を広げます。 (2)指導のポイント:方法は1つではない  わかりやすいノートテイクの書き方はいろいろな方法が考えられますが、利用学生が見やすくわかりやすい方法を聞き出しながら決めていくのが基本です。配布資料に説明を書き込んでいいかどうか、音読箇所を指すときどうしたらわかりやすいか、など、本に書いてある通りに実践してよしとするのではなく、この方法でよかったかどうか、いつも利用学生に確認する姿勢を大事にするよう伝えます。 2.授業に応じたノートテイクの方法 (1)板書のある授業  板書がある場合、ノートテイカーは全部写したほうがいいのか、と多くのノートテイカーが悩むようです。けれども、写す、写さないと一概に決めることはできません。板書に何が書かれているかによっても、対応は変わってきます。  板書があった場合のポイントは以下の4点です。 ・ノートテイカーは、音声の情報を最優先に書く ・ノートテイカーは板書の内容ではなく「今先生は板書をしている」という情報を伝える ・記録として板書を写すのは利用学生が自分でできる (但しノートテイクの利用に慣れていない学生は、写すタイミングを逃してしまうこともあるので、ノートテイカーが配慮する必要もある) ・板書に書かれた文字情報をノートテイクにうまく活用する (聞き取りにくかった言葉を確認する、図やグラフは大まかな形を写してノートテイクに活用する、など) 具体例は、「ノートテイク例」や、「大学ノートテイク入門」(p73、93)を参照してください。 (2)パワーポイントを使用する場合  パワーポイント、スライド、OHPなどの視覚教材は、聴覚障害学生には有効な教材だと思われがちです。確かに目で見てわかる資料は授業内容の理解を促しますが、先生の説明との関連性がわかってこそ生きるものです。ですので、ノートテイカーは、視覚教材と、音声による先生の説明を結びつけながら伝える必要があります。  これらの教材がある場合は、ノートテイク用にコピーを用意してもらい、配布資料のように手もとで参照したり書き込んだりしながら情報保障にあたれるようにしましょう。 ペアでノートテイクを行っている場合、一人は先生の話を通常通り書いていき、もう一人が資料にキーワードを書き込んだり参照箇所を示したりする分担方法が有効です。 (3)ペアで役割分担する際のポイント  2人のノートテイカーが協力しながら情報保障を行うことはとても有効ですが、分担方法をきちんと確認しておかないと、思わぬ弊害も出てきます。「2人がノートに字を書いていると、どちらを読めばいいのかわからない」、「先生にあてられたり、教科書を開いてと言われたときに、急に肩を叩いて知らされるとびっくりする」「板書は自分で写せるのに、ノートテイカーも写していると、先生の説明を書いてほしいのに・・・といらいらしてしまう」といった、利用学生の声も聞かれます。 ・どちらがメインで書いているのかをはっきりさせる ・ノートテイクを読んでいる利用学生のペースを大事にする(すぐに知らせる必要があるときは、肩を叩く、メモで知らせるなど、方法を相談して決めておきましょう) ・役割分担が適切だったかどうか、利用学生の意見を聞いて、方法を改善していく 3.情報保障環境を整える  授業の進め方や教材によっては、ノートテイク方法の工夫よりも、教員の協力や環境整備の効力が大きい場合もあります。最善の情報保障を行うためにはどうしたらいいのか、その場にいる人全体の問題として、解決方法を講じる必要があります。 (1)複数の話し手がいる場合  ゼミやグループディスカッション、質疑応答など、先生以外の学生も発現をする機会、自由に意見を交わす機会も、授業の中では当然出てきます。話し手が複数になると、ノートテイクでついていくのは非常に難しくなります。 ノートテイクの書き方の工夫については、「大学ノートテイク入門」p75,75,86に具体例の記載があります。 こういった場面では、授業者である先生に次のような配慮を依頼して、情報が保障できる条件を整えていきます。 ・ディスカッションの場合は司会役を決めてもらう ・司会者は、発言者の名前を言って指名し、2人の人が同時に話すことがないよう、場を整理しながら進める ・学生には聞き取れる声量で話してもらう ・レポート発表などの場合は、読上げ原稿などを提供してもらいノートテイクに活用する  このような環境調整でもまだ難しい場合は、パソコン通訳や手話通訳など即時性の確保できる情報保障手段の導入を検討することも一つの方法です。 (2)ビデオ教材を使用する場合  専門分野によっては、ビデオ教材が多用されることもあります。ビデオ教材には、ナレーションの音声、映像に伴う音声、先生による説明など、情報が交錯しています。何を優先して書くべきかの判断はもとより、十分に情報を伝えることも非常に困難です。状況に応じて、以下のような環境改善の働きかけが必要です。 ・ナレーション担当、映像音声担当に分かれて2人で分担して書く ・ビデオ上映中は、先生は話さないようにお願いする ・見る前に、教材の説明をしてもらう ・ビデオ内容のレジュメ、文字起こしなどの用意を依頼する ・パソコン通訳や手話通訳など即時性の確保できる情報保障手段を導入する ノートテイクの例(板書への対応) (メインのノートテイカー) ・長い英文…先生が板書している時間を使って写している ・日本語のみ書いている (サブのノートテイカーのメモ) ・時間に余裕のあるサブが正確に ・板書された英語とノートテイカーが書いた日本語の対応がわかるように書いている Ⅶ ノートテイクの体験談 目的  体験談を話す側、聞く側、それぞれに目的があります。  体験談を話す利用学生は、これまでの情報保障を受けた経験を振り返ることで、ノートテイクに対する考え方を整理する機会になります。また、普段はノートテイカーと話す時間が取れない場合が多いため、ノートテイクに対するニーズを伝える貴重な機会でもあります。 受講生は、利用学生の体験を聞くことで、今後の活動へのイメージを持つと共に、利用学生個々のニーズを知り、活動に生かすことができます。 進め方の例(20~30分で構成した場合の例) 時配/指導内容/備考 5~10分/ノートテイク利用体験談(利用学生から)/実際に受けたノートテイクの紙など 5分/質疑応答・講師からの補足 5~10分/ノートテイク体験談(先輩のノートテイカーから) 5分/質疑応答・講師からの補足 1.事前の打ち合わせ  ふだん人前で話しなれない学生に協力を得るため、できるだけ事前に、話してほしい内容を詳しく伝え、講座の前には打ち合わせの機会を持つとよいでしょう。以下に、体験談を依頼する際の留意事項をまとめました。 (1)利用学生の体験談  在学している聴覚障害学生に、ノートテイクに求めるものは何か、ノートテイクがつかないときはどのように授業を受けているのか、テイクを受けた経験があれば、どんなノートテイクがわかりやすかったか、またはわかりにくかったかといった体験を話してもらいます。それに加え、可能であれば、大学に入学するまでの教育環境やその中での経験、現在のコミュニケーション手段についても触れてもらうと、受講生の利用学生に対する理解が深まります。但し、人前で話した経験が少なかったり、聞こえないことについて触れたくないと感じている聴覚障害学生も少なくありません。事前によく打ち合わせをし、どんな内容を伝えるか、相談しておきます。講義Ⅰの内容とうまく連動するように、講師から関連する内容を質問して、答えてもらう方法を取ってもよいでしょう。 (2)ノートテイク経験者の体験談  同じ学内に、すでにノートテイク活動をしている学生がいる場合は、ノートテイカーとしての経験談を話してもらいます。ノートテイクを始めたきっかけ、初めて活動したときの経験、失敗談、工夫した点、後輩へのアドバイスなどが具体的な内容になります。この場合も、事前に打ち合わせをして、講師から話してほしい内容を引き出しておくとよいです。  ①②いずれも、体験談の中に、守秘義務に触れる内容や特定の個人への批判が含まれることのないように、打ち合わせの段階できちんと確認をしておきます。 2.講師からのフォローとまとめ  体験談の内容を受けて、講師からさらに補足やまとめをして理解を促します。 学生の話はまとまりにくい場合があるので、キーワードとなる言葉を繰り返したり、より具体的に話してほしいことを質問して補足を促したりします。時間配分に工夫をして受講生からの質問も受け付けられることが理想です。  質疑を行う際には、手話や筆談を使って直接コミュニケーションを取ったり、通訳者をうまく活用したりして、受講生と利用学生とがやりとりをする機会としても丁寧に進めたいところです。 教材例 体験談の例(利用学生) 「はじめて出会った情報保障」  「情報保障?」それを聞いたのは大学に入って間もないころでした。また、それは私にとって思いもがけないものでもありました。補聴器の装用によって今まで普通に生活してきたので、そのような保障を受けたことがなかったからです。  大学に入ると苦労したことは講義です。今までは黒板や教科書など視覚に訴える教材がほとんどでした。そのためまず、「聴覚障害」を意識することはありません。だけど、大学では違っていました・・・。教科書を使ってもそれはほんの一部にすぎず、講師がノンストップで話しているのが現状です。講師も毎回きちんと決まっているわけではなく、初めての音(声)に慣れない私にとって、聞き慣れない音に慣れようとするに必死でした。初めての単語や肝心な所が聞き取れなかった時は本当に焦りを感じました。そのため、全ての講義においても聞き逃すまいと全神経を集中させていました。1年次から講義の少ない中でかなりの負担を感じた私は大学生活に絶望を感じました。また単位をとり損ねるのではないかという不安もあり卒業までが前途遼遠に思えてきました。  そのような窮地に陥った私は、Nさんの紹介を受けて「情報保障」の存在を知りました。そこでは、同じ聴覚障害を持つ先輩、Fさん、Sさん、Kさんも被通訳者として活動していました。そこで先輩の話を聞くと「ノートテイクによって講義の内容が良くわかった。」などと様々な感想をもらいました。そして私も「情報保障」について考え始めました。  私は難聴といっても補聴器を装用すれば普通の人の話声を理解することができます。そのため私が保障を受けるとほとんどの人は疑問をもつでしょう。通訳者の方々には貴重な時間を割いてまで通訳についてくれることは嬉しい反面、申し訳ない感じがします。でも、私自身、補聴器を装用したからといって全ての音が聞こえるわけではありません。健聴の学生と対等に講義を受けるためには、やはり、「情報保障」が必要です。そして、これから入ってくる聴覚障害学生のためにも、「情報保障」の認識が広がっていけばいいなと思います。 <コメント>  大学に入ってから、情報保障を利用し始めた時期の思いを話しています。  高校まではどうやって勉強してきたのか、なぜ大学に入って初めて情報保障のニーズが高まってくるのかについては、ぜひ受講生に伝えたいところです。  通訳者に対して「申し訳ない」という、正直な気持ちを話しています。受講生には、利用学生にそういった気遣いを強いない、対等な関係づくりを目指してほしいということを講師から補足するのも良いでしょう。 Ⅷ ノートテイクのルールとマナー 目的  ノートテイカーは、情報を書き伝える技術のほかに、活動上のルールやマナーを知り、それらにかなった行動をしていくことが求められます。様々な場面を想定して、活動する上で知っておくべき通訳者のルールについて学習します。また、通訳者としての姿勢についても考えます。 進め方の例(60分で構成した場合の例) 時間配分/内容/備考 5分/準備・導入 10分/質問への解答/「ルールとマナー」に関する質問を配布 30分/解説/受講生が各自で考えた解答を尋ねながら 15分/質疑応答・まとめ 「ルールとマナー」に関する質問の例 ・パートナーが話に追いつけなくて困っている ・事前学習のために、資料やレジュメが欲しい ・ノートテイクを引き受けた時間に、別の重要な予定が入ってしまった時 ・ノートテイクしづらい(先生が早口、周りがうるさい……) ・教室の前の方から順番に資料が回ってきた ・うまく書けなかったら、聴覚障害学生に謝るべき? ※上記のような状況の時に、どうするかを考えさせる。 1.「通訳者」としてのルール (1)守秘義務  通訳者には、医師やカウンセラーと同様、職務上知りえた情報を他に漏らしてはいけないという守秘義務が課せられています。学生ノートテイカーであってもこのルールは守る必要があります。例えば、教員の個人情報や、個人としての考え方、公表されていない最先端の研究に関わる話など、授業者から発せられる情報は、「職務上知りえた情報」であり、授業に出席して得た知識とは異なるのです。同様に、利用学生の発言内容や、成績、評価などを知る可能性がありますが、これもプライバシーに関わることなので、守秘義務の対象となります。 (2)体調管理  ノートテイクは、利用学生に対して90分間の情報を保障するという、責任を伴った仕事であるといえます。自己管理の不十分さから体調を崩してノートテイクを休まざるを得なくなったり、睡眠不足の状態でノートテイクを担ったりすることがないようにしたいものです。また、手話通訳者や要約筆記者の職業病として、手や肩の疲労と通訳のストレスが原因で起こる頸肩腕障害があり、こういった症状の予防も念頭に置く必要があります。具体的な方法としては、以下のようなものが挙げられます。 ・無理のないスケジュール管理をする(忙しい時や体調の優れないときにノートテイクを引き受けすぎない) ・ノートテイクのあとは休憩する時間を取り、心身の疲れをためないように心掛ける (3)スケジュールの管理  ノートテイカーが担当する授業に遅刻しては、情報保障という責任を果たすことができません。時間の厳守が要求されます。学生ノートテイカーは、自分の授業を受けるときとは違い、授業前に準備の時間が取れるよう、余裕をもって現場に移動することを特に意識してほしいです。  また、都合でノートテイクに入れなくなった場合は、早めに連絡する必要があります。代わりのノートテイカーを探したり、一人のノートテイカーでどのように対応するかなど早急に対応する必要があるからです。体調不良、交通の乱れなど突然の事故で休んだり遅れたりする場合も、連絡方法を確認しておき、速やかに対応できるように準備しておくことが大切です。 ノートテイカーにそのような意識を持たせると同時に、大学としても、連絡方法の周知徹底を図っておくことが求められます。 2.ノートテイカーの役割 (1)越権行為の禁止と情報保障の最優先  ノートテイカーの役割は、音声の情報を文字で伝える「通訳」を行うことです。ノートテイカーの仕事の範囲を超えた、それ以上の手助けを担う必要はありません。また、必要なときに必要な情報を伝えられなければ、役割を果たしたとは言えません。仕事範囲に関わる具体例としては次のようなことがよく挙げられます。 ・配布資料が回ってきたら、利用学生が自分でノートテイカーの分も取って後ろへ回す。配布されてきたことにノートテイカーが先に気づいたら、自分でとるのではなく、肩をたたくなどして利用学生に知らせる。 ・授業担当教員に話しかけられた場合は、話された内容を利用学生にきちんと伝える。 ・出席をとる場合、利用学生が自分で返事をする方法をあらかじめ決めておく。代わりにノートテイカーが返事をする場合も、「今呼ばれた」ということを利用学生に伝えてから返事をするようにする。 3.十分な情報保障のための努力 (1)環境調整  十分な情報保障を行うためには、ノートテイカーが技術を向上させるだけでなく、ノートテイクがしやすい環境づくりの努力も必要です。教員、職員、学生など、周囲に働きかけ、通訳の環境を整備します。 (2)教員に配慮を依頼する  十分なノートテイクのためには、教員の配慮も必要です。ノートテイクをしにくい状況がある場合には、教員に働きかけて状況改善を図ります。その際には、教員に配慮をお願いしたいということを利用学生に伝えます。配慮を依頼できるような関係作りが大切です。  配慮の依頼が必要な状況は以下のようなものが考えられます。 ・教室が暗くなる ・ビデオ教材のノートテイクが追いつかない ・話がはやくて追いつけない ・声が小さい(不明瞭)  また、授業で使用する資料を事前に提供してもらうなど、授業前後の協力もノートテイクに役立ちます。 (3)利用学生やパートナーとの連携を図る  利用学生やパートナーとうまく連携を取ることで、良いノートテイクにすることができます。 ・交代や分担の方法を話し合い、よりよい対応方法を見つけるようにする ・利用学生の意見を聞き、次回に生かせるような関係を作る ・利用学生に、通訳環境を考慮して座席を選んでもらう。 ・授業の内容や形態に応じて、個別のルールを決めておく。  (利用学生の発言方法、語学の授業における単語の書き方など) (4)職員やコーディネーターと連携をとる  ノートテイクを休まなければならないときに、早めに伝えるなど、コーディネート役を務める人との連絡はきちんとするようにします。 また、コーディネーターを通して、教員や他の学生の理解を求めることもあります。 Ⅸ 模擬講義とノートテイク評価 目的  講座のまとめとして、実際の授業に近い形で、臨場感ある場面でノートテイク練習を行います。また、ノートテイクに対する自己評価、利用者評価、教員による評価の視点を整理し、今後の課題を発見して活動に生かせるようにします。 進め方の例(60分で構成した場合の例) 時間配分/内容/備考 10分/準備・導入 20分/模擬授業/模擬授業担当の教員を依頼 20分/評価/OHC、評価シート 10分/質疑応答・まとめ 1.模擬授業でノートテイク練習 (1)教員と授業内容の選択方法  ノートテイカー養成講座で模擬授業を担当された先生方は、情報保障の現場を初めて身近に見て、ノートテイカーの役割の大きさに驚かれることも少なくありません。授業者である自分にも何かできることはないのかと、意識を持ってくださることもしばしばです。できれば利用学生が受けている授業の担当者など、身近な先生に依頼できると良いでしょう。専門分野も、一般教養や利用学生の専門領域など、実際にノートテイカーが経験する可能性のある内容であるほうが、効果的な練習となるでしょう。もし別の専門分野の先生にお願いする場合には、入門的な内容にしていただくなど、受講生にとってハードルが高くなりすぎないよう配慮してもらいましょう。 (2)模擬授業の方法  大学の教官に20~30分程度の講義をしていただき、それをペアでノートテイクします。先生には講座の主旨を理解していただき、できるだけ普段通りの話し方で、板書や資料を使いながら専門分野についてお話いただくようお願いします。 2.ノートテイクの評価項目と評価方法 (1)回収して全員のものを様々な視点で 講義のあと、受講生の書いたテイクを回収し、教員、講師、聴覚障害学生それぞれの視点で評価を行います。全体の中から、見やすく忠実に書けていると思われるものを選び、講師の視点、聴覚障害学生の視点、講師の視点で講評します。このときもOHCを使用します。ノートテイクに対する様々な評価の視点を学んでもらいます。 (2)数人のものをピックアップして  全員のものを回収して講評する時間的な余裕がない場合は、2~3人のものを抽出して、教員、聴覚障害学生、講師がそれぞれに評価を行います。あらかじめ対象者を決めておき、聴覚障害学生や講師が書いている経過を見ておくと、コメントがしやすくなります。 (3)自己評価表を活用して  講師や教員から模擬授業のポイントを解説し、受講生は解説をもとにチェックシートを用いた自己評価を行い、まとめとする方法です。短時間で課題を整理することができます。但し、過小評価、過大評価などの偏りが出ないように、注意が必要です。①②と組み合わせて行うことも効果的です。 (4)指導のポイント:利用学生の視点を生かす  利用学生による評価は、ノートテイク活動を行う中でも、常に大切な視点です。利用学生の視点から、ノートテイクに対するコメントをきちんと伝えてもらうようにしましょう。ただし、その学生特有のニーズや嗜好と利用者一般の意見とが混同すると、受講生が混乱する場合があります。講師は、利用学生の意図を汲み取り、必要に応じて補足説明をしながら整理していきます。  また、教員による評価を行う場合、箇条書きや用語解説のように、要点が整理されたノートテイクを好ましいと判断されることがあります。ノートテイクの過程を初めて見る教員は、「みんな良く書けている」と一様の評価をする場合も少なくありません。授業者の立場で、本当にこのノートだけを情報源とした場合に、学習は達成できるのかどうかという意見をもらえるよう、講師からの説明や働きかけが必要です。 Ⅹ ノートテイカー養成講座プログラムの例 1.初心者を対象としたノートテイカー養成講座プログラムの例① (短期集中型:5時間×2日) 1日目 オリエンテーション/15分 講義Ⅰ「聴覚障害学生への理解と情報保障について」/45分 休憩/10分 講義Ⅱ「ノートテイク利用体験・ノートテイクの基本」/60分 昼休み/60分 実技Ⅰ「ノートテイク練習」/60分 ノートテイクの体験談/30分 休憩/10分 実技Ⅱ「講義のノートテイク練習①」/60分 質疑応答/20分(1日目ここまで) 2日目 講義Ⅲ「ノートテイクのルールとマナー」/60分 実技Ⅲ「講義のノートテイク練習②」/60分 昼休み/60分 実技Ⅳ「様々な授業に対応したノートテイクの方法」/60分 休憩/10分 模擬講義とノートテイク評価/80分 休憩/10分 質疑応答/20分(2日目ここまで) <このプログラムの特徴> ・土日など、連続した2日間を使って養成する集中講義型です。 ・初心者を対象としたノートテイカー養成に必要とされる時間数を確保しています。 ・実技の時間が十分確保できるので、利用学生の在籍学部や学年が多様で、様々な授業に対応する必要がある場合に適しています。 ・技術指導に重点を起きたい場合は模擬授業を2回に増やしたり、理解啓発も兼ねた講座の場合は利用者体験の時間を延長したりするなど、目的に応じて変更が可能です。 2.初心者を対象としたノートテイカー養成講座プログラムの例② (短時間分散型:3時間×3日) 1日目 オリエンテーション/15分 講義Ⅰ「聴覚障害学生への理解と情報保障について」/45分 休憩/5分 講義Ⅱ「ノートテイク利用体験・ノートテイクの基本」/60分 実技Ⅰ「ノートテイク練習」/60分(1日目ここまで) 2日目 ノートテイクの体験談/30分 実技Ⅱ「講義のノートテイク練習」/60分 休憩/10分 実技Ⅲ「様々な授業に対応したノートテイクの方法」/60分 質疑応答/20分(2日目ここまで) 3日目 ノートテイク体験談/30分 講義Ⅲ「ノートテイクのルールとマナー」/60分 休憩/10分 模擬授業とノートテイク評価/60分 質疑応答/20分(3日目ここまで) <このプログラムの特徴> ・同じ曜日の午後などを使って3週にわたって開講する例です。単科大学で、授業の少ない時間帯が決まっている場合などは、受講生が集まりやすいこの方法を採用しています。 ・初心者を対象としたノートテイカー養成に必要とされる時間数をほぼ確保しています。 ・各回の間が空いてしまうので、課題を出したり、講師が評価したノートテイクを次回に返却したりするなどの工夫が必要です。 ・体験談の時間を多く確保しています。3日目の時間は、受講生がこれまでの自己評価を発表し、課題を整理する機会に換えてもいいでしょう。 3.初心者を対象としたノートテイカー養成講座プログラムの例③ (二分型:5時間×1日+フォローアップ5時間×1日) 学期開始前 オリエンテーション/10分 講義Ⅰ「聴覚障害学生への理解と情報保障について」/30分 講義Ⅱ「利用者体験・ノートテイクの基本」/30分 休憩/5分 実技Ⅰ「ノートテイク練習」/45分 昼休み/60分 実技Ⅱ「講義のノートテイク練習①」/60分 休憩/10分 実技Ⅱ「様々な授業に対応したノートテイクの方法」/60分 ノートテイクの体験談/15分 講義Ⅲ「ノートテイクのルールとマナー」/45分(学期開始前ここまで) 学期終了時(次学期開始前) ノートテイクの体験談/30分 実技Ⅲ「講義のノートテイク練習②」/60分 講義Ⅳ「ノートテイクのルールとマナー」/30分 昼休み/60分 実技Ⅴ「利用者体験」/60分 休憩/10分 模擬講義とノートテイク評価/60分 質疑応答・まとめ/60分(学期終了時ここまで) <このプログラムの特徴> ・初心者養成にどうしても十分な時間を割けない場合、大幅に短縮したカリキュラムで養成し、学期終了後にフォローアップ講座を設ける例です。 ・講義、実技とも短時間で指導するため、受講生によって習得度に差がでる可能性が高くなります。学内に支援担当職員がいて、ノートテイカーの活動の様子を見ながら随時指導や対応ができる場合は、この方法でも可能です。 ・活動を終えた後、反省会、意見交換会を兼ねた講座が設けられるので、ノートテイカーのスキルアップや活動への定着が期待できます。 資料 1.高等教育機関における聴覚障害学生支援の現状  高等教育で学ぶ障害学生については長い間実態がつかめず、学生の数すら正確に把握されていない状況にありました。しかし、90年代中盤以降、毎年継続的に全国調査を行っている全国障害学生支援センター(旧:わかこま自立生活情報室)1)に加え、2000年以降は国立大学協会2)、日本障害者高等教育支援センター3)などによる大規模な全国調査が実施され、断片的ではありますがその実態が浮かび上がってきています。最近では日本学生支援機構4)が国の行政機関としてはじめて障害学生の実態を把握したことが大きな話題にのぼっており、ようやく障害学生支援に社会的なスポットがあてられるようになってきたことがわかります。  ここでは、日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワーク(PEPNet-Japan)が、筑波技術大学障害者高等教育研究支援センターの協力を得て実施した聴覚障害学生支援に関する全国調査5)6)の結果を中心に、聴覚障害学生支援の現状について見ていくことにします (1)聴覚障害学生の在籍と支援状況  調査の結果、全国の大学の約50~60%に障害学生が、約30~40%に聴覚障害学生が在籍していることが明らかになっています。各大学に在籍している聴覚障害学生数は、約8割の大学で1~3名となっており、逆に10人以上の聴覚障害学生を受け入れている大学は、全国でも6校とほんの一握りです。ここから、聴覚障害学生は全国の数多くの大学に点在して在籍している様子がうかがえます。  在籍する聴覚障害学生の授業受講に対する支援には、手書きによるノートテイクがもっとも広く用いられています。前述の調査の結果、聴覚障害学生を受け入れている大学のうち、約半数が何らかの形で大学が関与した形でのノートテイクを行っているようです。 図1 聴覚障害学生の在籍および支援状況 (円グラフ) Q 聴覚障害学生は在籍していますか? 全国大学・短大の33.0%に聴覚障害学生が在籍 Q ノートテイクによる支援は実施していますか? 約半数でノートテイクによる支援を実施  これらの大学において用いられている支援体制の例は概ね図2のように示されます。ここでは、聴覚障害学生の依頼に応じて学生課や教務課の中の担当職員がボランティアの学生を募り、ノートテイクに必要な基礎的知識を習得するための養成講座を開講してノートテイカーを育てています。その上で、ある程度の知識と技術を身につけた学生がノートテイカーとして登録し、聴覚障害学生の要望にあわせて授業に派遣される形になっています。  こうしたシステムは、本来大学として備えておくべき体制ではありますが、現在のところは聴覚障害学生の入学を受けて、各大学の中で検討され、構築されていくのが一般的な現状になっています。多くの場合、入学決定後に大学生活にともなう支援事項について検討するための面談の場が設けられ、ここで支援内容と担当部署が決定されて支援の実施に向かうという経過をたどるようです(図3)。 図2 ノートテイクによる支援体制の例 事務職員からボランティア学生へ募集の矢印、ボランティア学生から事務職員へ登録の矢印、事務(学生課・教務課)からボランティア学生へ謝金の矢印 事務職員から聴覚障害学生へ派遣の矢印、聴覚障害学生から事務職員へ依頼の矢印(図2ここまで) 図3 支援体制の構築過程 面談・支援内容の決定・担当者の決定・人員の確保・養成講座の開講・情報保障者の派遣・支援の組織化…下から上へ矢印が伸びている。(図3ここまで) (2)ノートテイカー養成講座の実施状況  聴覚障害学生支援の大きな特徴は、ノートテイクやパソコン要約筆記(パソコンノートテイク、パソコン通訳などとよばれることもある)、手話通訳等、授業における情報保障を担当する人材を恒常的に確保していかなければいけないという点にあります。そのため、各大学ではさまざまな形態で情報保障者の確保や養成のための取り組みが行われています。  このうち、最も多く実施されているのがノートテイカー養成講座の開講で、現在ノートテイクを実施している大学の約半数で行われています。さらに、近年ではこのような養成講座を大学の正規のカリキュラムに取り入れ、実施する大学も出現してきました。表1にはこうした大学のカリキュラム例を掲載しましたが、恒常的に人材を養成・確保できる方法のひとつとして、今後ますます注目されていくことでしょう。また、正規の科目外で実施するノートテイカー養成講座であっても、大学としての障害学生支援全体の年間計画に位置づけ、計画的に人材の養成を行っている大学も多く見られます。図5にはこのような取り組みの例を掲載しました。いずれもノートテイクの必要性を一過性のものではなく、大学として今後も聴覚障害学生を受け入れ、支援していく姿勢を表したもので、今後の大学のあり方にもつながる取り組みではないかと考えられます。 図4 ノートテイカー養成講座の実施の有無と形態 (円グラフ) Q ノートテイカーの養成講座は実施していますか? あり47%、なし34%、不明28% (3)全学的支援体制の整備状況  最後に、障害学生支援を進めるために必要な全学的な支援体制の整備についてふれておきます。2000年以降、障害学生支援委員会といった、障害学生への支援の問題について全学的に協議・検討を行う委員会を設置する大学が増加してきましたが3)5)6)、この数は全国の大学の6~10%程度に上っており、最新の日本学生支援機構4)の調査では114校(回答校全体の11.4%)に設置がなされているとの結果が出ています。  同様に障害学生支援のための専任スタッフの配置についても30校程度の報告があり4)、少ないながらも大学として本格的に障害学生支援に乗り出そうとする姿勢がかいま見られます。また、手話通訳や要約筆記等の資格を有する専任スタッフを学内に配置する取り組みも徐々に広がりつつあり、毎年数校ずつではありますが、確実にその数は増えてきているようです。 支援に必要な人材を確保し、養成・派遣していくことは、大学にとって負担の大きい業務でもあります。しかし、貴学を志し学ぶ意欲を持った学生に対して十分な学習環境を提供しうる体制を持てるということは、大学にとっても大きな価値につながるはずです。ぜひ、大学の財産として障害学生支援をとらえ、少しずつでも状況を改善していければと考えています。 【参考文献】 1)全国障害学生支援センター(1994~2005)大学案内障害者版.全国障害学生支援センター(旧:わかこま自立生活情報室) 2)国立大学協会(2001)国立大学における身体に障害を有する者への支援等に関する実態調査報告書. 国立大学協会. 3)日本障害者高等教育支援センター(2004)大学内の支援(サポート)組織に関するアンケート調査報告書.日本障害者高等教育支援センター. 4)日本学生支援機構(2006)大学・短期大学・高等専門学校における障害学生の修学支援に関する実態調査報告書. 5)白澤 麻弓(2005)一般大学における聴覚障害学生支援の現状と課題 ~全国調査の結果から~. 第2回「障害学生の高等教育国際会議」,予稿集pp.9-10. 6)白澤 麻弓(2005)聴覚障害学生に対するサポート体制についての全国調査.http://www.PEPNet-J.com 7)白澤 麻弓(2006)聴覚障害学生支援の全国的状況.日本地誌学生高等教育支援ネットワーク(PEPNet-Japan)TipSheet. 表1 授業としてノートテイカー・パソコン要約筆記者を養成している大学の例 ※パソコン入力による情報保障については、基本的に「パソコン要約筆記」という用語を用いたが、大学によってその他の名称を用いている場合はその表記方法に準拠した。 広島大学 講義名/①障害者支援ボランティア概論 ②障害者支援ボランティア実習A・B 形態/①集中3日間(2単位) ②前期・後期:各15時間(各1単位) 内容/①障害に関する理解等 ②前期:技術講習 後期:授業での実習 登録/実習終了後、さらに活動を続けたい学生は登録ボランティア学生として活動(時給820円)。 その他/ノートテイク・パソコン要約筆記の他に文字おこしコースもあり。通訳が向かない学生は途中でコース変更可能。 愛媛大学 講義名/障害者支援ボランティアⅠ・Ⅱ 形態/前期:集中4日間 後期:実習10時間+講義5時間 内容/前期:障害に関する理解等 後期:技術講習、授業での実習 登録/実習終了後、さらに活動を続けたい学生はノートテイカーとして活動(謝金あり)。 その他/授業の中ではビデオの字幕挿入、ラジオの文字おこし等も体験。 静岡福祉大学 講義名/①福祉情報表現技法 ②パソコンノートテイク技法 形態/①前期:15時間(2単位) ②後期:15時間(2単位) 内容/①情報保障に関する知識、タッチタイプ練習 ②実践的な支援技術の習得 登録/後期「パソコンノートテイク技法」では授業におけるノートテイク活動を実習と位置づける。 その他/パソコンノートテイクに特化した授業内容。明確な評価基準を設定し、入力操作等の基本技術を重視。 四国学院大学 講義名/パソコン要約筆記法Ⅰ・Ⅱ 形態/前期・後期:各15時間(各2単位) 内容/情報保障に関する知識、技術講習、現場での実習 登録/受講後は、有償ボランティア(時給660円)として活動。この他に、年2回のノートテイク講習会、「日本手話Ⅰ、Ⅱ」(週2回、前期後期各30回2単位)「日本手話Ⅲ」(通年週一回2単位)を実施。 その他/パソコン要約筆記に特化した授業内容。聴覚障害者団体やボランティア団体の活動と連動した現場実習あり。 長野大学 講義名/情報保障技術B(要約筆記) 形態/前期:集中10時間 内容/聴覚障害者への情報保障(パソコンの活用)に関する専門知識、技術の習得 登録/別途、授業における支援者を養成する市民及び学生向けノートテイク講習会(手書きのノートテイカー)を並行して実施。 その他/情報保障技術AとCはそれぞれ点字・朗読法と手話に関する内容。 図5 年間を通して計画的にノートテイカー・パソコン要約筆記者を養成している大学の例(年表) ※パソコン入力による情報保障については、基本的に「パソコン要約筆記」という用語を用いたが、大学によってその他の名称を用いている場合はその表記方法に準拠した。 同志社大学(2つのサイクルがある) (1つ目のサイクル) 4月 スタッフ登録・活動開始 7月 懇談会 10月 障がい学生支援制度概要説明会 入門講座(ノートテイク・パソコン通訳) 11月 基礎講座(ノートテイク・パソコン通訳)(1つ目のパターンここまで) (2つ目のサイクル) 5月 障がい学生支援制度概要説明会 入門講座(ノートテイク・パソコン通訳) 6月 基礎講座(ノートテイク・パソコン通訳) 7月 応用講座(ノートテイク・パソコン通訳) 9月 スタッフ登録・活動開始 1月 懇談会(2つ目のパターンここまで) 筑波大学 4月 入門講座 スタッフ登録・活動開始 7月 懇談会 8月 応用講座 2月 懇談会 Ⅱ ノートテイカー養成の実際  学内でノートテイカーの養成を実施する場合、開講する養成講座が、効果的にノートテイカーの確保や登録・派遣に結びつくものでなければなりません。そのためには、「ノートテイクをはじめたい」と感じた学生が、いつでも受講できるような体制が、必要になってくるでしょう。また、活動をはじめた学生のフォローアップやスキルアップのために、継続的に、テイカーの状況に合った講座や学習会を、開講していくことも大切になります。そのため、大学の中で聴覚障害学生の修学支援体制を形成し、効果的に運営していくためには、ノートテイカーの募集に始まり、養成、派遣、フォローアップ、スキルアップ、そして聴覚障害学生とノートテイカーの交流会や懇談会を一連の流れとしてとらえ、年間計画を作成するとともに、それに基づいて運営していくことが大切です。そして、はじめの1年間だけではなく、1年1年の積み重ねが出来るように継続的な体制構築を視野に入れることが重要になってきます。  ノートテイカーのコーディネートを行う事務担当者は、ノートテイカー1人ひとりのスキルと個性をつかみ、技術の向上をうながすようにします。学生の顔を見ながら、状況を適切に把握し、アドバイスを伝えていくことも大変重要です。その際には、ノートテイカーを派遣する講義に関する情報や、ノートテイカーが担当している聴覚障害学生に関するさまざまな背景情報を、有効に活用することが必要でしょう。そのために、コーディネーターの重要な情報源として、ノートテイカーや利用者、各講義に関する情報収集のためのカルテを作成し、情報の蓄積を図っていくことが大切になってきます。  また、ノートテイカーの養成と同じように、ノートテイクを利用する聴覚障害学生に対して、ノートテイクを使って学んでいけるように、より学びを深めるための「自分なりの利用方法」を、習得するための体制を整えていくことも、必要になってきます。聴覚障害学生自身も、ノートテイクに対する知識、ノートテイクの限界、いろいろな情報保障の方法について、学んでいくことがとても重要なのです。ノートテイクを、自らの「耳代わり」として使うことで、自分のノートのとり方やノートテイクに対するニーズも変化するものです。ノートテイカーや聴覚障害学生の変化を、見のがさずとらえることで、支援体制を、より良いものへと変化させることができますし、それを活かすことで、コーディネートに関する仕事の広がりが出てくるだけでなく、支援を続けていくための体制へと、つなげていけると考えられます。  次ページ以降には、このような修学支援体制の構築と運営に有用なフォーマットをいくつか掲載しました。いずれも同朋大学からご提供いただいたものですが、参考までにご利用いただければ幸いです。 年度活動計画の組み立て方 1.軸となる養成講座の計画を検討します。 (講座の時期を決めることで、活動や登録・活動を始める派遣の開始時期がわかる。) 2.登録後の活動の組み立てを考えます。 (情報要素収集のための「カルテ」を作成すると、変化やニーズに気付ける。どんなことを記入するかは、書き方を参照してください。必要な項目など、使う人によって、加えたりして、活動や運営に合った形にしていってください。) (夏休み・春休みが入ることで、全くノートテイクしない時期があり、ノートテイカー の技術の維持、成長が難しくなります。休みに入る前、講義が始まる前に、学習会を実施することを、おすすめします。) 3.登録票で、より早い活動時間の把握や、ノートテイカーや聴覚障害学生のニーズ(支援の欲しい順番)をつかみ、ノートテイカーの派遣ローテーション(ノートテイカーの活動できる時間や履修科目がわかる)に活かすことができます。 4.科目引継ぎ表は、ノートテイカーの派遣業務に使用します。ノートテイク支援をよりやりやすくするための表です。 ①派遣科目のファイルを作ります。(科目引継ぎ表をファイルしていきます。) このファイルには、講義で配られた資料も、追い番号をとって、とじます。 テキストを使用する科目には、テキストをコピーして、テイクの記入に使います。 ②派遣されたノートテイカーのペアで1枚記入をします。 ③ビデオの急な使用があったか、字幕はどうだったかも含め、講義内容の記入ができ、何をやったかを残していきます。派遣に行くときは、このファイルを持っていけば、使用資料もあり、また事前に内容を把握確認に使えるだけでなく、講義情報をつかむ手立てにも使えます。 5.ノートテイク用紙管理表は、書き終えたノートテイク用紙(補助紙)は、ノートテイク利用者に渡していません。(ノートテイク利用者は、講義時間内に自分でノートを作成します。)一定期間保存し、必要に応じて貸し出しをするための表です。封筒に貼り、使用します。 以下(各種書類) 年間活動事例(ノートテイカーの養成) 講義カルテの例 ノートテイカー個人カルテの例 利用者個人カルテの例 ノートテイク利用科目登録票の例 ノートテイク活動時間登録票の例 科目引き継ぎ表の例 ノートテイク用紙管理表の例 2 ノートテイクの評価  ノートテイカーを効果的に養成するためには、ひとりひとりのノートテイカーのスキルがどの程度にあるかを把握することは非常に重要です。現在のところ、このようなノートテイカーのスキルを評価する尺度の必要性が叫ばれてはいますが、残念ながら有効な手法が見いだされていないのが現状です。そのため、ここではノートテイカーの到達レベルや技術レベルを把握するための評価基準について提案したいと思います。  この評価方法は、要約文の評価の数値化や手書きノートテイクとパソコンノートテイクに共通する評価手法の提案、またノートテイカーに必要な技能内容の明確化、およびノートテイカーの役割と責任範囲を明示することを目標として作成しています。 採点の前提となる考え方は以下の通りです。 •ノートテイクを情報コミュニケーション支援における補完的方法として位置づける。 •話し方や態度よりも話の内容に関する伝達の度合いを評価する。 •ノートテイカーの個別な技術的な課題(養成課題)を明らかにする。 •採点基準となる数値に可変性をもたせる。 •第三者による評価を可能とする。  採点のポイントは以下の4点で、①②は情報が欠損するごとに減点する減点法を用い、③④では誤認や間違いの数によって減点する方法を用いています。 ①実用情報保障単位 ②大意と展開 ③情報バイアス ④文法の間違い  ここでは、次の原文およびノートテイク例を利用して採点を行った例を提示します。 原文 それでは始めさせていただきます。私は一応、進行をつとめさせていただきます中川町の町内会の幹事をおおせつかっております中林と申します。さて、本日の会合のテーマですが、先日来、懸案になっていました地域での要約筆記サークルの結成について、もう少し、話を進めたいと思います。実は、先週のことになりますが、9月11日、木曜日のことでした、中川町の有志が10人と言ってましたかね、そう10人、とにかく、集まりまして、ぜひ要約筆記サークルを作りたいという報告があったんですわ。(原文ここまで) Aさんのノートテイク例 始めたい。 私は進行役の中川町内会幹事の中林。 本日のテーマが、懸案の「地域での要約筆記のサークル結成」について。 9/11(木)、中川町有志10人が集まり、サークルを作りたいとの報告があった。(Aさんのノートテイク例ここまで) 採点方法 (1)実用情報単位  原文に含まれる実用情報単位は、29単位と同定できるため、以下の採点基準を設定。 /始めたい。/=1 /進行役の/中川町の/町内会の/幹事、/中林だ。/=5 /本日の/会合の/テーマ、/先日来、/懸案の/地域における/要約筆記サークルの/結成について、/もう少し/話を/進めたい。/=11 /先週、/9月11日、/木曜日/中川町の/有志が/10人/集まって、/ぜひ/要約筆記サークルを/作りたいという/報告が/あった。/=12 採点基準 29単位=減点ゼロ 28~20単位=10点減点 19~10単位=20点減点 9単位以下=30点減点 (2)大意と展開(骨組み)  この原文は、以下の4つのトピックで構成されているため、以下の採点基準を設定。   1.話のはじまりの合図を明示する部分 2.自己紹介の部分 3.会合テーマあるいは集まりの目的を説明する部分 4.状況説明あるいは背景を説明する部分 採点基準 4か所=減点ゼロ 3か所=10点減点 2か所=20点減点 (3)情報バイアス ノートテイクされた文章内に含まれる誤認や過剰情報等の数を以下の基準で採点。 採点基準 なし=減点ゼロ 1~5か所=10点減点 6~10か所=20点減点 (4)文法のまちがい ノートテイクされた文章内に含まれる文法の間違いを以下の基準で採点。 採点基準 なし=減点ゼロ 1~5か所=10点減点 6~10か所=20点減点 Aさんのノートテイクの採点例 【 】実用情報単位の欠落:8箇所 文法の間違い:1箇所 始めたい。 私は進行役の中川町内会幹事の中林。 本日の【会合の】テーマが、【先日来】懸案の「地域での要約筆記のサークル結成」について。【もう少し】【話を】【進めたい。】 【先週、】9/11(木)、中川町有志10人が集まり、【ぜひ】【要約筆記】サークルを作りたいとの報告があった。 採点結果 (1)実用情報単位 -10点※21単位伝達されている (2)大意と展開 減点なし (3)情報バイアス 減点なし (4)文法上のまちがい -10点※1箇所あり 合計 100-0=80点 ノートテイカー養成の手引き 2006年9月24日 試行版発行 編著者 日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワーク(PEPNet-Japan)ノートテイカー養成技術教材作成事業メンバー(2006年時点) 代表 太田 晴康(静岡福祉大学) 吉川 あゆみ(関東聴覚障害学生サポートセンター) 中島 亜紀子(関東聴覚障害学生サポートセンター) 土橋 恵美子(同志社大学) 苅田 知則(愛媛大学) 瀬戸 今日子(同朋大学) 田中 啓行(関東聴覚障害学生サポートセンター) 三好 茂樹(筑波技術大学) 河野 純大(筑波技術大学) 白澤 麻弓(筑波技術大学) 発行 日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワーク(PEPNet-Japan) 〒305-8520 茨城県つくば市天久保4-3-15 筑波技術大学障害者高等教育研究支援センター支援交流室聴覚系WG Copyright (C) 2006 The Postsecondary Education Programs Network of Japan PEPNet-Japanは日本財団の助成により運営されているPEN-International(本部:ロチェスター工科大学 NTID内)の活動の一部で、筑波技術大学によって運営されています。