全盲学生に対する画像診断教育-X線画像,MRI画像,超音波断層像,シンチグラムを触図に- 視覚部・理学療法学科 吉田 次男 要旨:本研究の目的は全盲学生に対し臨床医学の分野における画像診断を,言葉だけでなく改善された触図を用いてより深く理解させることである。X線や超音波,MRI,放射性同位体を用いた検査からの画像情報はX線フィルム上にグレースケールを以て焼付けられる。これらの画像を,全旨学生が臨床医学における画像診断の勉強の為に使う触図とて作製するために単純化し,ある基準を以て編集することができる。 キーワード:触図,X線CT,MRI,超音波断層像,シンチグラム 1.はじめに  筑波技術短期大学鍼灸学科及び理学療法学科の学生(全盲及び弱視)に対する教育カリキュラムには臨床医学が含まれている。臨床医学には様々な内科的,外科的疾患が含まれるが,今やX線(単純撮影のみでなく,造影検査やCT検査も含めて),超音波,MRI,放射性同位体(核医学)等を用いた画像診断抜きにはこの臨床医学は語れなくなってきている。また,病院や診療所等の臨床現場でのカンファレンス,症例検討会のような集まりにおいてもX線フィルムを中心とした画像情報が多用されている。  ところが従来多くの場合画像診断教育は全くないかまたは,単に言葉による説明だけが行われてきたようである。現代にあってはたとえ全盲の鍼灸師,あんま・マッサージ・指圧師,理学療法士であっても臨床家としては画像診断について何も知らないという訳には行かなくなってきていると考えられる。生理学,病理学の分野では既に触察図譜シリーズ生理学(触察図譜研究会編,桜雲会出版),触察図譜シリーズ病理学(同)が出版されている。今後,臨床医学関係の触図の出版も計画されている。  全盲学生に画像診断を理解させるのはなかなか難しいが,以上の様な状況のもとでは,全盲学生に対し臨床医学の分野における画像診断を,言葉だけでなく改善された触図を用いてより深く理解させることは意義のあることと考えられる。幸いなことにX線,超音波,MR,放射性同位体を用いた検査からの画像情報はほとんど全てX線フィルム上に焼き付けられ得るものであり,黒と白及びその中間の色々な段階の灰色で表示される(グレースケール)。この黒,白,灰色で表示された画像を一定の規則に従い簡略化して触図上に表し,学生の教育に資することは画像診断の理解において意義があると考えられる。 2.材料と方法 2.1 材料,機器 オリジナルX線フイルム(X線CT画像,MRI画像,超音波断層像,シンチグラム) 普通コピー器,立体コピー器,イメージスキャナ(エプソンGT-8000),パソコン(NEC9801),ソフトウエア(シルエット,ペイントブラシ,ページメーカー等) 2.2 方法  大きく分けて3通りの触図作成過程を考えた(図1)。1番目の方法は,X線フィルム上の画像をもとに主として手書きで模式図を作り,それをイメージスキャナーを用いてコンピューターに取り込んで,取り込み画像の編集(譜調の調節,加筆,省略,削除等)を行う。次に編集済みの画像を立体コピー器にかけて触図を作製する(図2,3,4)。  2番目の方法は,X線フイルム上の画像をイメージスキャナーを用いてコンピューターに取り込んで,後は1番目と同じ操作をする(図5)。  3番目の方法は,X線フイルム上の画像を濃度等を調整しながら普通コピー器にかけてコピーし,それをイメージスキャナーを用いてコンピューターに取り込んで,後は1番目と同じ操作をする(図6)。 2.3 画像編集の原則  X線画像についてはX線吸収の高い部分ほどドット密度を高くした。最もX線吸収の多い部分はべた塗りで,最もX線吸収の少ない部分は何も模様をつけなかった(無地)。その間の灰色を,白に近いほど高密度のドットで表した。また,X線フィルムの譜調の数を減らして3,4段階位にした。同じ譜調部分には同じ模様(ドッ卜)をつけた。MRI,超音波断層像についてはフイルム上の最も白い部分をべた塗りで,最も黒い部分を模様なし(無地)で表し,その間の灰色を白に近いほど高密度のドットで表した(表1)。シンチグラムでは放射性同位体集積の高いところ程ドット密度を高くした(表2)。 図1 触図作製の方法 図2 第2頸椎CT画像をもとにした触図用原図 図3 頭部MRI画像(T1強調画像)をもとにした触図用原図 図4 上腹部超音波断層像をもとにした触図用原図 図5 全身骨シンチグラムをもとにした触図用原図 図6 67Gaシンチグラムをもとにした触図用原図 3.結果  触図用原図の一部を図2から図6まで示す。これらの原図を立体コピー器にかけて最終的な触図とした。 4.考察  シンチグラムはあまり細かな構造の描出を目的としていないため,触図としては理解しやすいと思われる。次いで1つの断層面を描出するX線CT,MRI画像及び超音波断層像が触図としては理解しやすいと思われる。今回は触図化しなかったが,胸部や腹部の単純x線写真では臓器が1枚のフィルム上に重なり合って写るため,触図としては他の画像よりもやや理解しにくいと思われる。実際の教育現場での画像診断教育における触図に対する本格的な評価,検討はこれからである。 表1 画像編集の原則(X線画像,NRI画像,超音波断層像) 表2 画像編集の原則(シンチグラム) 5.結論  X線CT画像,MRI画像汗超音波断層像,シンチグラムも工夫次第で十分学生の授業に使えそうな触図にでき得る。 6.おわりに  本研究において多大なるご教示,御協力をいただきました鍼灸学科の伊藤 隆造教授に深謝いたします。 引用文献 1)吉田 次男:全盲学生に対する画像診断教育,障害学生の高等教育国際会議要約集,1993. 2)岩井 恵,上田 正一・他:教材(立体コピー)の研究,筑波大学理療科教員養成施設昭和60年度卒業論文集,1985. 3)板井 悠二・他:放射線医学,東京,文光堂,1992.