理学療法士養成における情報処理教育の現状と課題 松澤 正(理学療法学科助教授) 要旨:近年,医療の分野においても,情報処理の波が押し寄せており,医療の一翼を担う理学療法の現場においても,情報処理化が進むものと予測される。そのような中で,理学療法士養成においては,情報処理教育がどのようになされているのか,現状は明らかでない。そこで,全国の理学療法士養成校に対してアンケート調査を行い,その教育の現状と課題を検討した。調査内容は,情報処理教育の考え方,実施状況,必修・選択の別,授業時数,教育内容,活用法,授業担当者,機器の整備状況である。調査結果として,理学療法士養成において,情報処理教育は必須のものであり,授業時数は,授業時数は一般的に30時間であった。教育内容は現場に役立つようなワープロ機能,統計処理機能であった。将来的には,文献模索,電子カルテ等の技術も必要であり,さらに,個別指導が望まれる。 キーワード:PT養成,情報処理,教育 1.はじめに  近年は,情報化社会といわれる時代であり,職場においてはOA化の流れの中で,誰もがワープロ,パソコンを操作する時になっている。このような状況の中で理学療法士の職場においても,報告書の作成,カルテの記入,評価結果の保存等に情報処理技術を活用し,また,理学療法の研究においても情報処理技術が益々必要とされる状況となっている。  理学療法士養成の中では,このような情報処理技術の教育がどのようになされているのか,これまで調査報告は皆無であるので,理学療法士養成における情報処理教育の現状を知り,その問題点と方向性を探ることは有意義と考え,本研究を行った。 2.目的  本研究では,理学療法士養成校の情報処理教育の現状を調査し,今後,必要とされる情報教育の方向性を探り,理学療法士養成校におけるカリキュラムへ反映させることを目的とした。 3.研究方法 3.1 調査手続き  調査対象は全国の理学療法士養成校49校にアンケート調査用紙を郵送し,回答を得た。  調査期間は平成3年9月から10月に行った。 3.2 調査内容  情報処理教育の現状と将来計画を含めて,下記のような点について18項目の質問紙を設定して,○印で回答を得た。 ①情報処理教育への考え方 ②情報処理教育の実施状況 ③必修・選択の別 ④授業時数 ⑤教育内容 ⑥活用法 ⑦授業担当者 ⑧機器の整備状況 3.3 分析手順  主として単純集計を行い,設立母体(学校形態)別に養成校を分類して分析した。 4.結果 4.1 アンケート回収率  養成枝49校中44校(90%)の回答を得た。 4.2 情報処理教育の必要性  必要と回答のあったのは42校(95%)であり,必要でないと回答のあったのはわずか2校(5%)のみであり,各養成校とも情報処理教育の必要性を認識していることが明らかである。 4.3 情報処理教育の実施状況  情報処理教育の実施状況は,図1に示すように29校(66%)が実施している。短大と盲学校は100%実施しているが,私立専門学校50%,国公立専門学校40%となっている。今後,実施計画校を含めると,図2に示すように37校(84%)で,私立専門学校78%,国公立専門学校70%となり,各養成校とも情報処理教育を重視していることがわかる。  実施しない養成校は7校であり,その理由は図3に示すようであった。6校がカリキュラムに余裕がない,機器の整備に余裕がないことをあげており,その他,個人で学習すればよいということをあげている。 4.4 必修・選択の別  計画校を含めて実施校の必修・選択の別は図4に示すようであった。回答のあった36校中22校(61%)が必修,14校(39%)が選択であった。学校形態別では短大は85%が選択であり,その他の養成校は必修が83%以上であった。このことは,履修形態による特色がよく現れているものである。 4.5 授業時数  情報処理教育の授業時数は図5に示すようであった。計画校を含めて回答のあった35校中,最も多いのが30時間で18校(51%),35時間の3校(9%)を含めると60%となり,次に15時間の12校(34%)であり,両者のどちらかの時関数で実施していることが明らかになった。また,学校形態による特色はみられなかった。 4.6 教育内容  教育内容をどこに置くかは,授業時数との関係があるが,計画校を含めて回答のあった37校の教育内容は図6に示すようであった。統計処理機能をあげているのが27校(73%)で最も多く,次に,ワープロ機能を21校(57%)があげている。このように,多くの養成枝の教育内容が理学療法の研究に必要な統計処理機能や事務処理に必要なワープロ機能を習得させることに目標を置いていることがわかる。 4.7 情報処理技術の活用  情報処理技術の柄用については,計画枝を含めて回符のあったのが37校であった。図7に示すように,卒後の理学療法研究の統計処理や業務上での事務処理に活用することに期待しており,教育内容とも一致し,理学療法の現場ですぐに役立つ技術であることを示している。 4.8 情報処理教育担当者  計画校を含めて回答のあった34校の担当者の状況は図8に示すようであった。専門職の指導者が常勤,非常勤を含めて25校(73%)であり,理学療法士が担当しているのが9校(27%)であった。また,常勤と非常勤の割合は半々であった。このように,3分の1は理学療法士自身が担当していることは,現場に役立つ情報処理教育を行っている現れと考えられる。 4.9 機器の整備状況  計画校を含めて回答のあった35校の情報処理機器の整備状況は図9に示すようであった。学生2人に1台を整備しているところが17校(49%),学生1人に1台の整備が6校(17%)であり,多くの養成枝が少人数で機器を取り扱えるように努力していることを示すものである。 図1 情報処理教育実施状況 図2 情報処理教育実施校(計画校を含む) 図3 情報処理教育を行わない理由(7校) 図4 情報処理教育必修・選択(実施・計画校)36校 図5 情報処理教育実施時間数(実施・計画校)35校 5.考察  近年のコンピュータの進歩はめざましく,医療の分野においても,保険請求の記録,検査結果の記録等において情報処理の波が押し寄せている。21世紀の医療の現場においては,電子カルテ化の方向も示されている。医療の一翼を担う理学療法の現場においても,それらの情報処理化が到来するものと考えられる。そのような予測が各養成校において認識されていることが,養成校において95%が情報処理教育の必要性を認めている結果になったものと,思われる。しかし,そのような予測と共に当面の教育目標が現場にすぐに役立つ技術であるワープロ機能や統計処理機能であることも受け止めなければならない。  今後,小学校・中学校・高等学校における情報処瑚教育の充実が予測される中で,大学,専門学校課程における理学療法士養成においては,入学する学生のニーズも多様化するものと考えられる。そのような状況の中では各人に対応するような個別指導が重要になってくる。  また,理学療法の学問体系化に必要な文献検索の技術や医療現場における電子カルテ化への対応など,課題は残されているものと考える。 6.まとめ  今回の調査結果から次のようなことがまとめられる。 ①理学療法士養成の中で,情報処理教育は必須のものとなっている。 ②授業時数は30時間が一般的である。 ③教育内容は現場にすぐに役立つワープロの技術,統計処理の技術である。 ④将来的には,文献検索,電子カルテ等の処理技術が必要である。 ⑤また,学生のニーズの多様化による個別指導が重要である。 図6 情報処理教育内容(実施・計画校)37校 図7 情報処理の活用(実施・計画校)37校 図8 情報処理教育担当者(実施・計画校)34校 図9 情報処理機器1台当り学生数(実施・計画校)35校 文献 1)森 忠三他:診療録の情報処理化一電子カルテについて-医療とコンピュータ,Vol.2 No2 120-126,1989 2)吉和 久幸:病院内情報システムと電子カルテ,医療とコンピュータ,Vol.2 No2 127-132,1989 3)関谷 富男:生理機能検査とコンピュータ,医療とコンピュータ,Vol.2 No.3,1989