インターネットを利用した日米間画像伝送実験 荒木勉*・William Clymer***・渡辺隆** *筑波技術短期大学機械工学科,**同電子情報学科, ***National Technical Institute for the Deaf Rochester NY, USA. 要旨:この報告は,インターネットを利用して,日本と米国の研究者の間で行なった画像交換実験の記録である。この実験の成功によって,カラー静止画像,簡単なカラー動画,音声,およびドロー系の図面などが,Macintoshとそのソフトウェアを用いて,インターネットという伝送媒体を経由して日米間など世界規模で交換できることが確かめられた。 キーワード:Macintosh,画像処理,画像伝送,インターネット,電子メール 1.はじめに  この実験は,著者の一人(荒木)が,本学の姉妹校である米国ナショナル聾工科大学(NTID)の教官,W.Clymer他2名に本学の写真を画像データとしてネットワークを利用して送ったことに始まる。当時,天久保キャンパス構内のネットワークが誕生したばかりであり,インターネットを使用する環境がやっと整った頃でもあった1)。  本学にも,インターネットという世界規模の伝送媒体を通じて電子メールなどを利用する環境ができた。この有力で,魅力あるネットワークを通じて,画像も送れないだろうか?そしてこれを地球の裏側まで送り届けることはできないか?というような動機から,日米間画像伝送実験が始められた。ネットワークを利用して画像や図形情報の交換が可能になれば,テキストのコミュニケーションに加えて,画像に豊富な情報をのせて利用することができ,密度の濃いコミュニケーションが可能になる。  MacintoshにはEudoraという非常に便利な電子メールソフトがあり,Eudoraを利用すると添付書類としてデータファイルやソフトウエアが簡単に添えられ,メールと一緒に送ることができる1)。この方法により,同じ研究学園都市にある東京家政学院筑波短期大学情報処理科の教官との間で,授業風景等の写真画像のデータファイルを交換し,相互に画像を再現できることが実験的に確認されていた。また,学内においても,ネットワーク参加教官に,それぞれのMacintoshシステムの環境の中で,うまくファイルが開けるかどうか,送っては試していた。しかし,これらは全て共通の通信ソフトウェア,Eudoraを利用しての試みであった。  実験開始当初は,NTID側の様子はほとんど情報がなく,Macintoshを使用していることは分っていたが,それがネットワークに接続されているかどうかなどの詳細について全く不明であった。もちろん,Eudoraは利用していないと思われた。その程度の,情報にもとずいて,実験的に画像データを送り届けたのである。  写真やビデオ映像などの画像情報は,最近のマルチメディアの普及によって,コンピュータで扱うことが容易にできるようになった。特に,Macintoshパソコンでは,静止画像はもとより,QuickTime movieを使って動画も簡単に扱うことができる。この実験では,本学側ではコンピュータにビデオポード内蔵のMacintosh Quadra840AVを用いている。ビデオ映像をビデオ端子からコンピュータに直接入力し,MacintoshのCRT上に再現できる。このビデオ映像を見ながら一部をストップモーションとして取り出したり,動画としてカラー映像のコンピュータファイルとしての記録保存,といったことが簡単にできる。 2.使用したネットワークと電子メールについて  ここで利用しているインターネットと,MacからUNIXに接続して送受信する電子メールについてまず簡単に述べる。 (1)インターネット  インターネットまたは英語でinternetは,その言葉通りの意味としては,複数のネットワークを結合したネットワークの複合体のことを意味している。しかし,頭文字が大文字のInternetは,ネットワーク共通の通信規約としてIPまたはTCP/IPを使って通信を行なうネットワークを意味する。このInternetは北アメリカを発祥の地として,ヨーロッパ,日本,韓国を含むアジア,オーストラリア,ニュージーランドなど世界の主要地域をカバーしている。日本では,大学,研究所,企業などがこのInternetに接続して情報交換に活発に利用されるようになっている。今後,研究者のコミュニケーションの手段として必須のものになりそうな勢いである。このInternetはこのTCP/IP(またはIP)プロトコルを使った通信のための世界規模の実験室となっている。 (2)電子メール (a)テキストデータ  コンピュータネットワーク上でのテキストのやりとりは,電子メールとして知られる。インターネット上ではテキストは国際基準のISOコード(JIS-7コード)が使用されているので共通の性格がある。通常の電子メールは,1-10kB程度の容量のものがほとんどである。 (b)画像データについて  画像データはテキストと違ってコンピュータやソフトによってフォーマットが異なっているので簡単にネットワーク上でやりとりするのは難しい。画像ファイルには,PICmQuickTimeなどいろいろformatがあるが,全てbinaryである。また画像データの容量は今回の実験に使用されたサイズの小さいものでも,種類により40-500kB程の大きさになるので,Textに比べて非常に大きなものとなる。 (c)MacとUNIXメールの接続  UNIXマシン同士のメール交換はsmtp(simple mail transfer protocol)というプロトコル(通信手順)が使用されており,これが世界標準の手順として普及しているので,Macintoshからインターネットを利用して世界規模の情報の交換に加わるには,このメールシステムと接続する必要がある。MacとUNIXマシンの間のメールをやり取りをするためには,プロトコルとしてsmtpを直接使うか,あるいは今回のようにPOP(Post Office Protocol)を使う方法がある。また,UNIXではsendmailというソフトウエアがメールの受信,配送を行っており,受信したメールはサーバの/var/spool/mail/