本学視覚部学生の健康状態について-自覚症状チェックテストを行って- 視覚部体育 伊藤 忠一・香田 泰子 聴覚部体育 及川 力・齊藤 まゆみ 要旨:健康の概念は時代の要請を反映しながら変化してきている。最近はウエルネスという概念が提唱され,健康は他から与えられるものではなく,自分の健康は自分で守るという生き方が問われて来ている。生きる為の目標を確立すると共に自己の現状把握を正確に行うことが,そのための第一歩であると考えている。 今回現状把握の目的で実施した自覚症状チェックテストの結果は,学習支援の為に備えた学習機器が健康を阻害する一因になっており,学習方法を含めて日常生活の見直しの必要を示していた。「健康になる為の三大要件である栄養,運動,休養をバランスよく生活時間の中に組み入れ,日常の行動様式と生活態度の変容を促し,自分自身に適合したライフスタイルを確立すること」を自分の課題として考えていくことの必要を改めて提起したい。 キーワード:ウエルネス 視覚障害 学習方法 運動不足 1.はじめに  健康状態を最高の水準に保つ為の努力は学習能率の向上に効果的であると共に将来の幸福な人生に直結している。健康状態・ストレス状態を自覚症状チェックテストで,自己点検する作業を通して,健康水準を自覚し,生活改善の対策を考えることは,健康が他から与えられるものではなく,自ら求めるものであることを学ばせる導入部分として必要な過程であると考えた。検討を深める為に聴覚部学生,盲学校専攻科生に同じチェックテストを実施,その結果と比較することによって視覚部学生の特徴を明らかにしようと試みた。 2.調査の対象と方法  視覚部学生・聴覚部学生・盲学校専攻科生(筑波大学付属盲学校・大阪府立盲学校・徳島県立盲学校)  日本ウエルネス協会が作成したチェックテスト表(註1)から40項目の設問を選び,アンケート形式で回答を求めた。 視覚部学生には,結果を示し対策について回答を求めた。 期間 平成5年11月-平成6年1月 3.調査結果と考察  回答結果の集計は表1,2,3の通りである。チェックテスト表を作成した協会では評価基準として次のように示している。 1)身体のチェックテスト  自己診断して3つも4つも気にかかることのある人や例え1つでも,しつこく繰り返すものがある人は要注意です。一度,医師に相談することをすすめます。 2)ストレスチェックテスト  幾つかひっかかる項目があれば,日常生活の見直しが必要です。セルフケアがうまくいかないときは一度,医師に相談する。 3.1身体のチェックテスト  ここでは,視覚部と聴覚部の比較を試みた。()内の数字は聴覚部  4つ以上に○をつけた学生を%で示すと  男子 50%(21.6)女子50%(26.5)である。○印の多い項目,上位5つを列記すれば次の通りである。%で示す。 男子 1.疲れやすくなった…50(31) 2.寝つきが悪い…39(17) 3.タバコを吸う…33(25) 4.よく頭痛がする…31(8) 5.めまい,立ちくらみがある…31(19) 女子 1.めまい,立ちくらみがある…50(38) 2.疲れやすくなった…40(50) 3.よく下痢や便秘をする…37(38) 4.よく頭痛がする…33(9) 5.肥満している…30(15) 5.寝つきが悪い…30(9) 評価基準として,示された内容からみれば半数の学生は身体の健康状態が医師の指導を要するレベルである。 3.2 ストレスチェックテスト  4つ以上に○をつけた学生を%で示すと  男子 83%(43.2)女子 83%(43.2) である。○印の多い項目,上位5つを列記すれば次の通りである。%で示す。 男子 1.目が疲れる…67(30) 2.朝,気持よく起きられない…61(51) 3.背中や腰が痛くなる…58(23) 4.よく肩がこる…56(22) 5.以前に比べて疲れ易くなった…56(35) 6.どうも頭がすっきりしない…42(22) 女子 1.背中や腰が痛くなる…90(18) 2.よく肩がこる…87(21) 3.朝,気持よく起きられない…83(50) 4月が疲れる…80(38) 5.以前に比べて疲れ易くなった…53(38)  この結果では,80%の学生は,日常生活の見直しが必要であることを示している。 4.学生の感想  学生の書いた代表的な内容を要約し,箇条書きすると次の通りである。健康度もストレスも共通した生活内容に起因していると考えている学生が多かった。 ア.食生活が不規則で,栄養摂取に片寄りがある。 イ.夜更かしが多く,睡眠時間が少ない。 ウ.学習内容が多く授業に追われている。 エ.学習方法が変わりパソコンの前で過ごす時間が多くなった。 オ.座っている時間が長く,身体を動かす時間が少ない。 力.行動範囲が限られているので,気分転換が出来にくい。 キ.大学の生活に馴れていない。 ク.時間に追われて生活に余裕がない。 ケ.レポートや課題が多く,精神的に休まる時間がない。 コ.弱い視力を最大限に使って勉強している。 健康問題を考えるときに,常に生活改善の柱としてあげられる,運動・栄養・休養そして規則正しい生活の必要性にまとめることができる。 5.考察 5.1 聴覚部学生との比較(表4,表5参照) ア.特に目立つのは,ストレスの★よく肩がこる★背中や腰が痛くなる★目が疲れるの項目で,これはパソコン・拡大読書器を利用する際の姿勢,目にかかる負担,使用時間数の違いによるものと思われる。 イ.今回のテスト項目に限ってみれば,日常の生活行動では,視覚障害の方が聴覚障害よりハンデェキャップが大きいということが言える。 ウ.チェック数と項目を概観してみると視覚に障害があることが,生活のあらゆる場面で不利に影響していることが示されている。 5.2 学生の生活 ア.生活時間の自己管理が出来ていない。大学に来て,今までの他律的生活から解放され急に自由な時間を与えられても戸惑うことが多く不規則な生活になり易い。 イ.他人任せの生活から一人立ちの生活に移行する事の不安から,本来の生活のリズムを掴むことが困難である。 ウ.食事が学生の自由であることから,内容が自分の好みに片寄り,栄養摂取がアンバランスになり易い。食生活が不規則になりがちである。朝食を摂る学生が少ない。 エ.週に一回の体育の授業が身体を動かす唯一の時間である学生が多い。運動不足が原因となって現れる項目にチェックしている。 オ.高校時代より学習量が多く,パソコン等を利用する時間が飛躍的に増えている。 5.3 解決の方向 ア.機能的障害を起こしている学生は少ないので,この段階では日常の生活を改善する事でチェック項目を減らすことが可能である。 イ.時間の使い方を工夫する事によって生活のリズムを回復させることや日常生活の中でのリラクゼイションを心がけることが必要である。 ウ.運動不足を解消する為に現在の運動施設の開放の他に利用を促進するプログラムを考える組織をつくり,気軽に参加できるようにする事が必要である。 エ.知識としてもっている健康に関することを実行に移す努力とそれが受け入れられる環境づくりが必要である。 6.まとめ  今回,行ったチェックテストで,学生の健康状態が,警報期にあることが明らかになった。運動不足,目の使い過ぎの症候が顕著に結果に出ていた。聴覚部の学生との比較では,日常生活のあらゆる面で不利な状態にあることが明らかになった。盲学校専攻科生の結果は程度の差はあるが同じような傾向であった。健常者との比較検討は課題として残った。全盲と弱視・眼疾などによっても不利な状態に違いが予想出来るが検討が出来なかった。学習支援環境を改善したり,生活しやすい条件を整えたりする必要を痛感した。 表1 項目にチェックした数 表2 健康チェックテストの結果(項目ごとにチェックされた割合(%)) 表3 ストレスチェックテストの結果(項目ごとにチェックされた割合(%)) 表4 健康チェックテスト有意差検定結果 表5 ストレスチェックテスト有意差検定結果 参考資料 1)雑誌ウエルネスムーブメント No.316 P6-7 1992年7月 日本ウエルネス協会