デザイン学科学生の就職の現状とその問題点-就職と密接に関係する聴覚障害者のデザイン教育の一考察- デザイン学科 小池田 康夫 要旨:現代は技術革新が早く,産業構造の再構築とりエンジニアリングが急速に進展している。世界経済のポーダーレス化は更に進む傾向にある。また社会も多様化し,高齢化も世界一ハイスピードで進んでいる。この影響を受けて,雇用も流動化が進んでいる。社会のニーズに適応するために大学の教育・研究も自由化,多様化が要請されて,改革の端緒についた。聴覚障害者の大学教育はそれ以前の教育と就職後の教育も含めての生涯教育として考えなければ効果が上がらない。教育の効果は10~20年先でなければ効果が分からなく不確実な性質のものであるから,常に将来を見据えてのシステム構築が必要で,その結果が学生の質の向上につながり社会のニーズにもマッチしていくと考えられる。特にデザインは学問というよりは,境界領域の広い分野で社会の潮流と深く関係しながら進むプラクティカルなものであるので,なおさらである。就職の実績は数少<触れるにとどめるが以上の視点からいろいろな情報を基に考察を試みた。 キーワード:リストラクチャリング,リエンジニアリング,情報化コンピュータ 1.はじめに  縄文から弥生への変革を採集から稲の栽培生産の第一次産業革命と考えれば,明治の改革は第二次産業革命といえる。しかし,近代化,西欧化が始まったが,稲作と家を中心とした伝統的な生活は変わらなかった。そして狭い国土で人的資源を基に富国強兵へと進んだ。雇用も年功序列が建前の縦社会で秩序がそれなりにあった。戦後アメリカより民主主義が輸入されて文化革命が起こった。そして東洋のスイスを目指し,勤勉と緻密さの国民性もあいまって,半導体は産業の米といわれ電子立国へと進み今日に至っている。この間に核家族化,横社会への移行と価値の多様化が進み,雇用も流動化が進んでいる。国際経済も外貨保有高と円高の影響からリストラクチャリング,リスエンジニアリングなしに生き残れない時代になった。大学も眞の改革が求められている。これからの雇用はこれらの結果として改善されていくであろう。 2.社会の組織と個人のリストラクチャリングとりエンジニアリング 1)技術革新のスピード化とME(マイクロエレクトロニクス)化 ①生産の効率化  戦後は物資が不足していて国民の生活に便利な安価な製品を普及させるのが産業の使命であった。しかし現在は生産は大量生産から多種中・少量生産に変化している。ロボットと未熟練労働との組み合わせのシステムになり,技能の熟練者の雇用は減少した。 ②販売から生産までの情報化  消費者(=生活者)の多様化はマーケティングを必要とし販売の激化から販売前線からの実績や注文のデータは逐一ダイレクトに生産現場とどき,デザインをはじめ生産が流動化しているのでコンピュータ化が普通になってフレキシブルに対応している。リエンジニアリングの傾向である。 ③効率化と情報化の一般化  生産と販売以外にも通信,金融,運輸,医療,教育も従来の定型化していたサービスでは成立しなくなり,日々の変化に対応出来るシステムにならざるをえない。業務の内容と方法も同様である。ここでもコンピュタの利用がなければ目標が達成出来なくなった。 2)金融経済の国際化  金融市場は相場の情報が24時間を通じて瞬時に全世界に伝わり変動する。このことが景気と共に経済を流動化させる。企業体はこれに対処する経営を迫られる。リストラクチャリングをしなければ生き残れない。又,円高も突如として発生する。流通小売業は輸入品の販売などで差益が出ずるが,メーカーは差損の圧迫から海外の生産化と開発化に必死である。雇用も当然流動化し短期の増減が生ずる。 進む日本型雇用のリストラ 3.社会の変化 1)高齢化のハイスピード化  高齢化率(65歳が全人口に占める%)が21世紀には25%になるといわれている。諸外国に較べて3~4倍のスピードである。このことは勤労所得が得られなくなり,病気や機能低下による社会保障給付の高負担につながる。しかし,一部には資産を持ち収入もそれなりの層もいて,シルバーマーケットの創造にもつながる。又若年層への教育コストに較べて高齢者は既に豊富な知識,経験によるノウハウを持っている高質の労働力ともいえるので,これを活かすシステムが必要となる。中途採用もこの機能の活用である。 2)女性の就労率の向上  戦後女性の高学歴化とパートを含む就労は大変高くなった。核家族化と高学歴化の影響で住宅や教育費の面で家計を助け一部には又生き甲斐にもなっている。 何才ぐらい迄働きたいか 短大以上の学歴の割合(女性30~40歳) 4.教育のリストラクチャリングとりエンジニアリング  雇用を引き受ける企業体の業務内容は前項の潮流から次のように変化している。 1)ハードからソフトへ  手で作ることから機械,ロボットなどへの自動化 2)手作業から情報化へ  コンピュータ・通信の応用によるハイスピード化 3)単純から複雑へ  ワープロ,図面のオペレーターから計画,企画へ 4)固定から流動化へ  生涯同一の業務から組織変革への対応へ 5.社会のニーズにマッチした教育改革と進路指導 1)学力についての概念の変更  本学の学生についてよく学力が高いということで評価される。しかし,これは従来の一定のシステムでの画一的な教育についての評価である。このような教育が戦後の我が国の発展を支えて来たことも事実であるが,最早それでは限界である。具体的には a.教科書や先生の板書を記憶又は書き取って,試験の範囲を確認し,答案に解答することである。 b.もう一つは類題を解く度合いを計ることである。  双方共に知識を記憶する意味の学力のことである。しかし,最近はコンピュータによるデータベースを利用する技術が発達していて以前ほど実社会では役に立たない。勿論デザインでも基礎的な知識の記憶は必要である。しかしその上で,たとえそれが聴覚障害者にとっては不得意であったとしても,学生の個性を発見して,考える教育をしなければクリエイティブな力をつ身につけることが出来ず実社会では役立たない。特にデザインにおいてはそうである。 2)学生の多様化と入試のマルチチャンネル化 a.聴覚障害学生の多様化 ①聴力レベル差 ②コミュニケーション媒体差 ③知的能力差(①②による過去の情報不足によると推定され,理解力にも表れる) ④心の障害の克服度の差(甘えとヤル気,実行力に表れる) ⑤パーソナリティの差(①~④との相関が複雑) b.学生の志向の多様化 ①デザインの専門分野を目指す ②デザインの関連分野で良い ③文学・芸術の関連分野に関心を持つ ④その他  これらの多様化の原因は全国で唯一の大学で専門が限定されることとデザインに対する認識が暖昧であることに起因すると思われる。このような多様化している学生の入試が総合点による画一的評価では対応出来ない。個性にマッチした評価の多様性への思い切った改革が必要である。 3)一般教養と専門教育の統合化  大学改革の基本である一般教養と専門教育の統合化は実行が必要な段階にきている。4年制大学では高校の延長のようなことは別システムで行なわれるべきある。一般教養と専門教育共に科目内容,カリキュラム編成などリストラをして総合的に再検討しなければ学生の多様化と社会のニーズにマッチした進路計画が立てられない。 ①日本語による文章力の教科の必要性  デザインコンセプトの作成とレポート作成プレゼンテーション特に研究レポートには是非,即時に必要である。  又読書とともに抽象概念生成に役立つはずである。 ②デザイン用語は外国語が多く境界領域のものなので,美術・芸術も含めて原書購読やマルチメディアを利用したCAIが有効と思う。  企業実習や専門教育中に先ず困っている問題であるこれらは伝達と表現の両機能に分けて教育すべきである。 ③デザイン造形能力育成の為の立体認識のシステム化  (要素解析をした後での基礎的造形トレーニングと連携した幾何学,製図,CADの伝達と表現の学習)の確立が望まれる。 4)デザインにおける基礎と応用の繋がりとクリエイテイブな思考力を育成するシステムのための解析研究も望まれる。  実力をつけるには3段階がある。 ①基本の会得(修)→1年 ②自分の応用力を発揮させる(破)→2年 ③新規の自分自信のクリエイテイブなものを出す(雛)→3年  現実には短大では②の段階迄で,③の段階は4年制か大学院でなければ難しく,マンツーマンでなければ困難であるが実験は始めている。 4)クリエイティブな力をつけるカリキュラムの弾力化  カリキュラムも学生の個性にマッチしてピックアップ出来て必修を少なくする。これは教官のレパートリーの広さが条件になるので総合的な検討が必要になる。 5)新10年一日の教育方法  学生は複雑に多様化している。一方主要な考え方や内容はあまり変わらない。同じ内容でも学生の対象に応じて事例や表現又は,教育方法そのものを変えなくてはならない。授業計画も骨子はともかく変化に応じて柔軟な対処が必要である。  以上本学は特殊教育であるから高校教育で導入され始めた「教育上の例外措置」の精神で柔軟に対処するべきと思う。 6)デザイン業務の高度化と専門化  社会の多様化と企業経営が高度化と専門化するにともない,デザイン業務も同様の傾向になった。 a・高度化  組織的な共同作業を前提とした,統計,調査,分析,コストアナリシス,技術部門,営業部門(海外も)との調整とデザイン,まとめ,プレゼンテーションまでをする企画力がデザイナーに要求される。 b・専門化 ①計画・設計までのデザイン専門家 ②デザインに関係する素材,表面処理,耐久性,製造法,コストの調整をする専門家 ③マーケットニーズとの関係で色彩計画ができる専門家 ④使用される場にマッチした物理量と心理的な明暗を計画できる照明の専門家 ⑤衣服はもとより,インテリア,車両内装にマッチした織物を設計出来るテキスタイルデザイナー ⑥ヒューマンインターフェースの専門家 ⑦モデル材料の専門知識とテクニックをマスターして精密なモデルをハンド又はNCを駆使するモデルメークの専門家 ⑧伝統工芸の精繊な技術に適応できる専門家  これらの社会的ニーズは現在もあり,障害者雇用法の枠を満たした企業にはこのような高度化,専門化の教育での対応が迫られると思う。  これらの教育をサポートするためには.教育,研究資料の情報検索がまず研究室でアクセスできることが最低限必要である。本学,つくば中央図書館,筑波大学図書館,国会図書館まで。 ・次の段階ではインターネットとマルチメディアを利用して筑波の国立・民間研究所と国内の同様機関更に海外にまで広げたい。これでスピードアップと国際化が促進され,とかくクローズになりがちな障害者の外部との交流が進められ教育効果が大きくなる。 ・デザインのコンピュータリテラシーの教育方法も確立していくことが必要である。 7)教官のリフレッシュ教育  教育の組織・システムのリストラ以外に教官個人もリストラをしなければ高度な進路指導は出来なくなる。教官は一定期間授業と校務を離れて大学内か企業体で研修ができるよう制度化がなければ社会の進歩に追従できることが難しくなり,教育と進路に影響するようになる。又文部省で推進している産業界から大学にきて研究する「リフレッシュ制度」の研究生と交流をすれば相乗効果が望める。 8)特殊教育特有の事項 ①障害克服のトレーニングが必要  実質的学力とデザインカがあって人柄が良くても職業意識や学習意欲を欠く学生は単なる知識の教育では効果が薄い。アフターフォローにエネルギーを使うよりビフォアーフォローで効果を挙げたい。 ②成績の評価法の改善  学生と教官に共通の基準値を他大学並に近ずける。これらをサポートする高度なスタッフ(現在の医学聴覚の専門家以外に脳生理の専門家,言語学・コミュニケーションの専門家,心理学の専門家,教育学の専門家,職業指導の専門家)が必要。高等教育の特殊教育研究所の設置も検討しなくてはならないと思う。 9)家庭教育  家庭や高校までの環境も影響するので,ご両親や高校の先生方のリフレッシュ教育も大切と思う。障害が始まった時からの生涯教育の中での進路や就職という位置づけでなければならない。 デザインCADの変化と特徴 (出所)コンピュータデザイン講座(印刷学会出版部) 6.おわりに  一般大学を対象にした,日本の41社に対するアンケートと本学の学生の適性を考えた進路を比較する。 本学科の平均的適性イメージ 採用時の重視能力