動画圧縮技術を活用した読話訓練システム 聴覚部教育方法開発センター 小林 正幸 要旨:動画圧縮技術を活用した読話訓練システムを開発したので報告する。システムの機能,特徴等は次の通りである。(1)マウス等の簡単な操作で訓練が可能。(2)圧縮された読話用の動画は,ハードディスクやCD-ROMからランダムにまた瞬時に提示可能。(3)動画は,再生,繰り返し再生,ポーズ,コマ送り,スロー再生等の提示が可能。(4)訓練結果の蓄積が可能。(5)ヒント,正答,訓練結果,ヘルプ等が提示可能。 キーワード:読話,訓練,動画圧縮,マルチメディア,パソコン,ハードディスク,CD-ROM 1.はじめに  訓練者はマウスやキーボードの簡単な操作で,圧縮された読話用の動画をハードディスクやCD-ROMからランダムにまた瞬時に取り出せ,再生,繰り返し再生,ポーズ,コマ送り,スロー再生等の制御や,訓練結果のフロッピイディスクへの蓄積,読話するためのヒント,正答,訓練結果,ヘルプ等を提示できる読話訓練システムを開発したので報告する。 2.ハードウェアのシステム構成  読話訓練システムと,圧縮した読話用動画ファイルをCD-ROM(CDRディスク)へ追記するためのCD-ROMレコーダシステムは,次の通りである。 2.1読話訓練システム  図1にシステムの構成を示す。 (1)パソコン ・FM TOWNSⅡモデル MX20(富士通製) ・CPU:i486DX2(66MHz) (2)ハードディスクドライブ ・NT-530TW(ニューテック製) ・記憶容量:521.3MB (3)ビデオカード ・ビデオカードⅢ FMT-418(富士通製) (4)VTR ・コンピュータービデオデッキ CVD-1000(SONY製) (5)CD-ROMドライブ ・パソコンに標準装備(内蔵型) ・データ転送:300KB/秒 (6)CRT (7)キーボード (8)マウス(9)増設メモリ 2.2 CD-ROMレコーダシステム  図2にシステムの構成を示す。 (1)パソコン ・PC-9821Ap2/U8W(NEC製) ・CPU:i486DX2(66MHz) (2)ハードディスクドライブ ・LHD-BH1000(ロジテック製) ・記憶容量:1028MB (3)CD-ROMレコーダ ・LCW-750(ロジテック製) ・記憶容量:650MB(CDRディスク) (4)CRT (5)キーボード (6)マウス(7)増設メモリ 図1 読話訓練システム 図2 CD-ROMレコーダシステム 3.ソフトウェア  ソフトウェアは,FM TOWNSⅡに添付されている「TownsシステムソフトウェアV2.IL31」の「TownsGEAR」を利用して,「GearBASIC」言語で作成(ファイルサイズは約200KB)した。 3.1 動画の取り込み,保存  「TownsGEAR」のムービーキャプチャ機能を利用して,VTRから読話用の映像をビデオカードを通して取り込み,確認した後,圧縮した動画ファイルとしてハードディスクへ保存する。 (1)映像サイズ ・160×120ドット ・80×60ドット (2)取り込みスピード ・30フレーム/秒(映像のみ) ・15フレーム/秒(映像・音声) ・10フレーム/秒(映像・音声) ・7.5フレーム/秒(映像・音声) 3.2 機能,特徴  開発したソフトの機能,特徴は次の通りである。 (1)「イニシャルメニュー」処理  イニシャルメニュー画面を図3に示す。 ①「ヘルプ」ポタン  マウスで左クリック(以下「マウスで左クリック」を「クリック」と略する)すると,システムの解説や使用方法等が提示される。 ②「単語の読話」ボタン  クリックすると,単語訓練用の動画がランダムに設定される。その後「動画提示」処理へジャンプし,単語の読話訓練が可能となる。 ③「文章の読話」ボタン  クリックすると,文章訓練用の動画がランダムに設定される。その後「動画提示」処理へジャンプし,文章の読話訓練が可能となる。 ④「ハードディスク」ボタン  クリックすると,ハードディスクから動画を読み出すモードに設定される。 ⑤「CD-ROM」ボタン  クリックすると,CD-ROMから動画を読み出すモードに設定される。 ⑥「終了」ボタン  クリックすると,読話訓練が終了する。 (2)「動画提示」処理  動画提示画面を図4に示す。 ①「動画提示」ウインドウ  訓練用の動画が提示される。このウインドウ内をクリックすると,動画の再生が開始され,もう一度クリックすると動画はポーズ状態になる。クリックする毎に動画の再生,ポーズを繰り返す。 ②「再生」ボタン  クリックすると,動画の最初のコマ(フレーム)から再生する。 ③「ポーズ」ボタン  再生,スロー再生,スロー逆再生,繰り返し再生中にクリックすると,動画はポーズ状態になる。 ④「スロー再生」ボタン  再生またはポーズ状態でクリックすると,動画はスロー再生になる。 ⑤「スロー逆再生」ボタン  再生またはポーズ状態でクリックすると,動画は逆方向(巻戻し方向)のスロー再生になる。 ⑥「コマ送り」ボタン  再生またはポーズ状態でクリックすると,再生中の時は,動画はポーズ状態になり,次の1コマ(1フレーム)が提示される。クリックする毎に次の1コマが提示される。 ⑦「コマ戻し」ボタン  再生またはポーズ状態でクリックすると,再生中の時は,動画はポーズ状態になり,1つ前のコマが提示される。クリックする毎に1つ前のコマが提示される。 ⑧「繰り返し再生」ボタン  クリックすると同一動画が繰り返し再生される。 ⑨「出題」ボタン  クリックする毎に,読話用動画がランダムに「動画提示」ウィンドウに提示される。 ⑩「解像度」ボタン  クリックする毎に,「動画提示」ウインドウが低解像度表示と高解像度表示に切り替わる。 ⑪「解答入力」ボタン  読話した単語や文章をキーボードから,ひらがなで入力する。その後「実行」をクリックすると,「正答」または「誤答」メッセージが提示される。図5に解答入力画面を示す。 ⑫「ヒント」ボタン  クリックすると読話するためのヒントが提示される。図6にヒント提示画面を例示する。 ⑬「答」ボタン  クリックすると出題した読話動画の正答が提示される。図7に正答提示画面を例示する。 ⑭「訓練結果」ボタン  訓練の成績や提示単語,解答入力単語,正答等の一覧を提示する。この提示画面で「印刷」ボタン(左上のボタン)をクリックすると,訓練結果がプリントアウトされる。また,訓練結果は,訓練毎にテキストファイルとしてフロッピィディスクへ蓄積され,ワープロソフトでも確認可能である。図8に訓練結果を例示する。 ⑮「ヘルプ」ボタン  クリックすると,表示されているボタン等の機能や操作方法,解説等が提示される。図9にへルプ画面を示す。 ⑯「終了」ボタン  クリックすると,イニシャルメニュー画面に戻る。 ⑰「音声」アイコン  「動画提示」ウインドウに提示されている動画が,音声付きで提示されるときに表示される。 図3 イニシャルメニュー画面 図4 動画提示画面 4.読話訓練用動画データ  試作した読話訓練用の動画データは,単語訓練用が10単語,文章訓練用が10文章で構成されている。動画の取り込みサイズは160×120ドットで,圧縮された動画データの全ファイル容量は約18Mバイトである。  ハードディスクとCD-ROMからの動画再生速度の比較のため,ハードディスクと同一の動画データをCD-ROMに書き込んだ。  表1に読話訓練用の単語と文章の一部を示す。 図6 ヒント提示画面 図7 正答提示画面 図8 訓練結果 図9 ヘルプ画面 5.おわりに  読話訓練用動画の再生画面の評価は,次の通りである。 (1)画質の劣化が多少ある。 (2)映像サイズがフル画面サイズでないため,多少見にくい。 (3)ハードディスクからの再生では,動画の取り込みスピードが30フレーム/秒でも,ほぼコマ落ちなく提示でき,実用上問題ないと思われる。 (4)CD-ROMからの再生では,動画の取り込みスピードが30フレーム/秒では,コマ落ちが多く実用にならないが,15フレーム/秒ではハードディスクと比較して多少コマ落ちはあるが,ほぼ実用可能と思われる。  今後の課題は,次の通りである。 (1)読話用リストの作成。 (2)収録した読話用映像の動画ファイル化(ハードディスク及びCD-ROMヘの書き込み)。 (3)読話訓練システムの評価やヒント提示形式等の改良。 参考文献 1)石原 保志,小林 正幸,大沼 直紀:字幕付ビデオを利用した読話訓練教材の開発に関する研究(1),日本特殊教育学会第29回大会発表論文集,680-681,1991 2)小林 正幸:聴覚障害者のための読話訓練システムの試作,日本特殊教育学会 第32回大会発表論文集,38-39,1994 表1 読話訓練用の単語と文章の一部