筑波技術短期大学コンピュータ・ネットワーク 筑波技術短期大学 渡辺 隆・内野 權次・荒木 勉・安東 孝治・貞本 晃・土田 理・村上 裕史 高橋 秀知・河原 正治・山田 奨治・高野 雄二・三宅 輝久・宮川 正弘・小川 靖彦 要旨:本学では昨年度に学内コンピュータ・ネットワークの整備が行われ,聴覚部,視覚部にそれぞれ本格的学内LAN(Local Area Network)が構築された.これにより,教官研究室,実験室,講義室などのすべての部屋からネットワークへのアクセスが可能になった.また,学内ネットワークの完成披露式が8月2日に行われ,聴覚部,視覚部,NTID(本学の姉妹校)を結んだメールの交換やデモが行われた現在,各種パソコンをネットワークに接続するための利用手引きの整備,フリーウェアを中心としたソフトウェアの整備などを行っており,教官,事務職員,学生が手軽に使用できるようなネットワークの実現をめざしている。 キーワード:コンピュータ・ネットワーク,LAN 1.経緯  1993年度補正予算により,学内ネットワークを構築することが決まり,仕様について聴覚部,視覚部でそれぞれ関係者による検討がなされた。  聴覚部においては,情報処理センター設置準備委員会のメンバーを中心とするワーキンググループが設置され,ネットワークの基本仕様が次のように決定された。 (1)基幹ネットワークとして,画像伝送などのマルチメディア利用に適した,100Mbps程度以上の高速ネットワークを構築する。 (2)この基幹ネットワークに接続するサブネットワークとして10Mbpsイーサネットを採用して,全教官研究室,実験室,事務室より容易にアクセスできるようにする。 (3)ネットワーク専任スタッフがいないので,管理のしやすさを配慮したネットワークを構築する。  視覚部においては,上記(2),(3)に加え,情報処理センター設置準備委員会を中心に,ネットワークに接続される機器の音声利用が可能(音声対応)であることに配慮したイーサネット方式のネットワーク構築が進められた。構築された学内ネットワークを第1図に示す。  その後,学内LANの完成を祝してネットワーク完成披露式が1994年8月2日に挙行された。この完成式において,聴覚部,視覚部間及び本学の姉妹校であるNTID(ナショナル聾工科大,米国ニューヨーク州ロチェスター)と結んで,画像・音声メールの交換が行われ,鮮やかな画像と明瞭な音声メッセージがNTIDより届いた[1]。また,音声合成装置を使用した日本語talkのデモを聴覚部と視覚部を結んで行うことにより,聴覚障害者と視覚障害者の間での情報交換の可能性が試みられた(第2図)。 2.ネットワーク利用の現状 (1)聴覚部  ユーザ登録及び利用状況を第1表に示す。教官の約半数,事務職員の20%が主として電子メールの交換にネットワークを利用している。また,それに付随して,画像および音声データ,ソフトウエアの交換,更に各種データベースの利用,ネットワークニュースの利用などが活発に行われている。学生の利用は,電子工学専攻において授業の関連で開始されており,電子メールなどの応用面だけでなく,ネットワーク技術の基礎教育に使われている[2]。今後,学生の利用も盛んになると思われる。  ユーザが利用するパソコンはMacintoshが多く,全体の90%を占めている。これはMacintoshが画像,音声などのマルチメディアを手軽に扱えるハードとソフトを備えていることによる。また,ネットワークへの接続も容易で,フリーソフトによるネットワーク利用が可能である[3]。しかし,DOS/V機,PC-9801などのインテル系のマシンもWindowsにより画像や音声を手軽に使用できるようになったので,今後DOS/V機などによるネットワーク利用も活発になりそうである。  コンピュータ・ネットワークは視覚情報が主体のメディアであるため,聴覚障害者とのコミュニケーションやそれに関連する研究教育に強力なツールとして活用できる。これから急速に利用が活発化することが予想される。 (2)視覚部  高度情報化プロジェクト,情報処理学科と教育方法開発センタにおいて1992年(H4)から筑波大と専用線で結んで運用されていたLANが新設ネットに接続され,全学LANの運用が開始された(1994.7)。教育方法開発センターによりDECNetプロトコルによるネットワーク経由の点字図書の公開が行われた(1994.10)。電子図書閲覧室のLANがネットワークに結合されIPXプロトコルによるネットワークを経由した電子図書(CD-ROM等)の利用が出来るようになった(1994.12)。寄宿舎の居室から学生たちが学科等の計算機や電子図書を利用している。学内外との電子メールだけでなく電子ニュースも日常生活やソフトウエアなどについての情報を共有するために情報処理学科を中心とした学生や卒業生に利用されている。  視覚に障害を持つ人にとって一般社会への能動的参加の手段としてネットワークの持つ意義は大きいが,音声によるネットワークの利用に関連しては音声データを扱える(ディスプレー上に表示されたテキスト情報を音声化可能な)接続ボードやソフトウエアなどについて多くの問題が残されている。 第1図 筑波技術短期大学ネットワーク概念図 第2図 ネットワーク利用例 第1表 ユーザ利用状況(天久保キャンパス,1994年11月10日現在) 3.今後の課題 (1)管理体制  学内LANの管理は,各学科から選出された委員によって構成される情報通信処理システム委員会が中心となって行っており,ネットワークの拡張や予算措置の問題などの管理全般に携わっている。一方この委員会の下に数人規模の小委員会があり,ネットワークシステムの運用の技術的サポートについてはこの小委員会のメンバーが担当している。また,学科毎に1名の学科担当者を選出し,学科内のユーザがネットワークにアクセスする上でのトラブルなどに対応している。  本学にはネットワーク担当専門の教職員がいないため,学科やセンタの熱意ある教官(教職員)の努力によってネットワークの技術的維持・管理が行われている。本来はユーザであるこのような教官のボランティア的活動だけでは,今後より複雑化するネットワークの管理は困難である。一日も早い,専任スタッフによる管理体制の実現が望まれている。 (2)維持費用  ネットワークを維持するためには,サーバ,ルータなどの通信機器の保守などの費用がかかる。特に,本学の場合は第1図からわかるように,聴覚部,視覚部,筑波大学の3つの地点を相互に結ぶ必要があり,その回線,64kbpsデジタル専用線2回線,の費用(年額約120万円,固定料金)が主なものである。今後利用が活発化するに従い,より高速の回線(より高額の支払)も必要になると予想されるので,現在,費用負担についての長期計画が検討されている。 (3)利用の多様化  コンピュータ・ネットワークの利用形態をハードウェアで見ると,当初MacintoshをLocalTalkで接続して使用していたのが,Macintoshのイーサネットヘの接続が加わり,更にDOS/V,PC-9801,各種WSなど多くの異なる機種が接続されるようになった。一方,ソフトウェアの面では,当初電子メールの利用だけであったが,ニュース,各種データベースのアクセスが登場している(ただし電子メールの利用が圧倒的に多い)。このように,非常に多様なハードウェア,ソフトウェアについてのサポートが必要となる。  また,現在は研究ベースで開発されたTCP/IPプロトコル(インターネット共通の通信方式)の利用がほとんどであるが,ネットワークの利用が普及するに従い,商業ベースのプロトコルであるIPX(ネットウェア)やAppleTalkなどのプロトコルが,ネットワーク上に混在して来ると思われる。従って,マルチプロトコルのサポートも重要な課題である。 (4)聴覚部学生寄宿舎へのネットワーク拡張  今後のネットワーク拡張の計画として,今回のネットワーク構築で実現できなかった聴覚部学生寄宿舎のネットワーク化の検討が進められている。実現すれば,視覚部と同様に寄宿舎の居室より学科等の計算機の利用等が可能になる。  コンピュータ・ネットワークは視覚・聴覚障害者の教育,及び関連研究には強力なツールとなる。今後,ますます多様化して活発な利用が期待される。 (5)視覚部でのネットワークによる障害者支援  視覚障害者にとってネットワークの持つ意義は大きいが,音声によるネットワーク利用については,CRTに表示されたテキスト情報を音声出力する音声合成ドライバとネットワークアダプタやソフトウェアとの互換性に多くの問題が残されている。  このネットワーク構築が実現できたのは,学長,副学長をはじめ,前期委員会(情報処理センター設置準備委員会)の委員の方々のなみなみならぬ努力に拠るところが大きい。ここに謝意を表したい。 参考文献 1)荒木,Clymer,渡辺,インターネットを利用した日米間画像伝送実験,筑波技術短期大学テクノレポート,第1巻,pp87-93,1994. 2)渡辺,安東,加藤,清水,貞本,天久保キャンパス(聴覚部)構内コンピュータ・ネットワーク構築の試み,筑波技術短期大学テクノレポート,第1巻,pp94-102,1994. 3)渡辺,荒木,青山,天久保キャンパスネットワークユーザーズガイド第1版,筑波技術短期大学情報通信処理システム委員会(聴覚部分科会),1994年7月.