運動強度指標としての脈拍数 理学療法学科 和才 嘉昭・須田 勝・薄葉 眞理子・高橋 憲一 要旨:運動時の強度指標に用いられる心拍数の推移について,酸素摂取量との相関で,特にその回復時間に着目し測定した結果,心拍数の回復にはかなりの遅延現象が認められた。この遅延現象を80.100.120.140.160%AT負荷の実施により段階的に把握分析し,負荷の増量に従い増長する心拍数回復時間より,運動時の強度指標には単に心拍数のみでなく,その回復時間にも着目一考の必要性を痛感した。 キーワード:%AT・負荷強度・運動指標 1 はじめに  運動療法では運動強度の指標として,1)酸素摂取量,2)心拍数,3)血中乳酸濃度,4)呼吸ガス,5)METs,6)RMR,7)主観的強度とあるが1,11),必要機器・計器の少なく多忙な臨床の場では,運動推移で酸素摂取量と心拍数が高い相関を示す理由から2),心拍数を以て強度指標としているのが現状である。(表1) 2 目的  今回は運動における心拍数の推移が,負荷量の増減で如何なる変化を見せるのか,特に運動後の心拍数の回復時間を測定し,検討してみたので報告する。 3 実験方法 3.1 AT値の測定8,10)  運動時の酸素摂取量や分時換気量から求められる各自のAT(無酸素閾値)の決定。  方法はオランダ・ロード社製・電動式エルゴメーター・コリバル400型,ミナト医科学製エアロ・モニターAE-10を用いて,毎分20Wの漸増負荷(ランプ負荷)でAT値を求めた。 3.2 負荷実験  AT時点のW数を100%としその80%・100%・120%・140%・160%つまり%-ATの段階的負荷にてそれぞれ実施し,脈拍の推移を測定した。 3.3 負荷方法3.6.7) 1)3分間安静呼吸,2)3分間の20Wウオーミングアップ,3)3分間休息,4)各%-AT負荷での運動を行った。  各%-AT負荷運動の間には30分間の休憩を設け,記録は10秒間隔で,特に心拍数の回復推移を明確に記録するよう努めた。(表2) 3.4 被験者  筑波技術短期大学・理学療法学科男子学生5名・平均年齢21.4才である。 表1 運動強度指標 表2 %-AT負荷運動 4 回復時間の算出  回復時間の算出は,各%-AT負荷運動後心拍数・酸素摂取量の上昇値がウオーミング・アップ終了後の安静レベルの値まで低下するのに要した時間で計算した。 5 ベース・ラインの決定  負荷運動で高進した心拍数の回復判断は,各%-AT負荷時の最大心拍数から,ウオーミング・アップ前の安静時の心拍数の82.6±8.6回と,ウオーミング・アップ後の82.8±7.8回の2つの値が有意差の無いことから,脈拍毎分83回をベース・ラインとし,その値までの復元時間を測定した。 5.1 心拍数と酸素摂取量の回復  すでに成書に唱われているように4.5),両者は相関を示したが,酸素摂取量と心拍数の回復度合いは心拍数に著明な時間的延長が記録されている。(図1) 5.2 最大心拍数からの回復  各%-AT負荷後の最大心拍数から毎分83回までのベース・ラインにいたる復元状況は,負荷が大きくなるに比例して,要する時間も長くなっている。(図2) 5.3 主観的指標との関係  ポルグ9)の主観的強度(中等度以上の運動)は,脈拍数と自覚的苦しさの度合いで段階づけしている。即ち90回―かなり楽,110回―楽,130回―ややきつい,150回-きつい,170回-かなりきつい,190回-非常にきつい,となっている。(図3)  今回の実験結果の最大心拍数からすれば,%-AT80や100では心拍数は130前後であり,ややきつい域で,%-ATが120や140では心拍数は150前後になり,きつい域に達する。これが%-AT160になると心拍数は170回近くになり,かなりきつい域に達する。 5.4 目標心拍数との関係12)  次に体力増進時の「目標心拍数」との比較では,A式;最大心拍数180-安静時心拍数×70%+安静時心拍数で計算すると150回となり,一方B;式220-年齢―安静時心拍数×70%+安静時心拍数で計算すると162回と高い心拍数値を示すようになる。従って前者では%-ATl20が,後者では%-AT140域に相当する値となる。 5.5 アンダーソン基準との関係  片麻痒患者に適応きれるアンダーソン基準の上域135回で考えれば,%-ATでは100が妥当な指標となる。(図4)  何れにしてもこれらの指標は,健康学生各個人の実際値からの割り出しであり,絶対値としての使用は危険が伴う。 図1 O2と心拍数回復時間比較 図2 %AT負荷と回復時間 図3 ボルグ指標との比較 図4 目標心拍数との比較 6 心拍数回復時間  最大心拍数からベース・ラインまでに3分間で回復したのは,%-AT80の1分32秒と,%AT-100の2分56秒のみであり,その他は%-ATが高くなるにつれて,3分間復元に対して2倍,3倍,5倍と回差数列的に長くなっている。(図5) 図5 三分間回復比較 7 考察とまとめ  今回の実験より運動の強度指標に利用される心拍数の測定は,%-AT基準での実施により心拍数の上昇,回復時間の両者より成書通りの80~100前後が適当と思われるが,心拍数の回復時間が負荷を増す毎に著明に増長することから,単に心拍数の測定のみでなく,回復時間の如何をも考慮にいれるべきだと痛感した。  この実験結果は,少人数の健康学生の場合である関係から結論は控えたいが,年齢,性差,特に病態の種類や程度の異なる患者の,運動指標に心拍数(脈拍数)を用いる場合には,脈拍の回数は勿論のこと,測定触知時間の刻み(15×4,30×2,60×1)の一考,加えてベースラインへの復元に要する時間のチェックも忘れてはなるまい。 参考文献 1)荒川規矩男他編;運動療法の実際,P23-24,南江堂,1991. 2)中村隆一他著;基礎運動学,P398-405,医歯薬出版,1992. 3)外岡立人著;Herat Rate Training, P26-33, エイ出版者,1989. 4)武者春樹他著;本邦における心疾患運動療法の現状,リハビリテーション医学,VOL31,N0.9,P641-650,1994. 5)糖尿病治療研究会編;糖尿病運動療法の手引き,P49-56,医歯薬出版,1989. 6)宮村実晴他編;体力トレーニング,P144-151,真興交易医書出版,1989. 7)波多野義郎他編;成人病の運動処方・運動療法,P53-65,医歯薬出版,1989. 8)塚越和巳他著;Anaerobic Thresholdからみた脳血管傷害片麻揮患者の全身持久力評価の検討,P585-591,総合リハビリテーション医学,VOL21,N0.7,1993. 9)Borg G.; An introduction Borg' RPE Scale Movement Pub. New York 1985. 10)Beaver WL. et al.;A new method for detetecting anaerobic threshold by gass exchange P2020-2027. J Appl Physiol 60, 1986. 11)吉田敏義他編;運動処方,P191-l97,杏林書院,1982. 12)日本体力医学会監訳;運動処方の指針,南江堂,1982.