触図原稿のデータベース化とネットワークによる利用 鍼灸学科 伊藤 隆造・理学療法学科 前島 徹・一般教育等 村上 佳久 要旨:視覚障害者の教育のために作成した触図の原稿をデータベース化したので,その利用方法の-形態としてネットワークによる利用方法を紹介した。 キーワード:触図,ネットワーク,データベース  重度の視覚障害者が指先で触って使う触図を作成する方法はいくつか開発されているが,その簡便ざからカプセル紙に原稿をコピーして作る方法が世界的にも広く使用されるようになってきている。この方法の一般的な作製上の注意点や利用法については前報(テクノレポート2号)で述べたので,今回は筑波技術短期大学視覚部で使用されている鍼灸学科および理学療法学科関係の触図原稿の学内ネットワークによる利用方法について具体的に説明する。現在のところ教官自身が重度の視覚障害者の場合は想定していないが,将来的には検討したい。  なお,このレポートでは視覚部で平成8年3月にフル稼働予定のネットウェアによるネットワーク利用について解説する。 1章 医学関係の触図原稿のデータベースの内容  触図データベースでは各図をファイルとして収納してある。ファイルの管理のために次のような分野に分けて整理してある。各分野は更に細分してあるので目的の図がありそうな分野をマウスでクリックして選び,画面に呼び出す。同じ図を2ヶ所以上に登録してあるものもある。個々のファイルにはアルファベットと算用数字でファイル名が付けてあり,その最初の2ないし3文字からどの分野のファイルであるかを推定できるようにしてある。  ファイル名の終わりの3文字が.SRHのファイルは「シルエット」の図であり,、JSH,JAH,、JBHのファイルは「花子」のファイルである。「花子」では両方のファイルが読み込むことができる。前報(テクノレポート2号)で述べたようにMACやWINDOWSで使う上級の描画ソフトを含めて6つのソフトを新しいバージョンのものも検討してきたが,触図が単純でなければならないこと,色彩の不要なこと,1ヶのファイルの必要メモリー量を総合的に判断して,この2つのソフトを採用している。  これらのファイルはTIFFファイルに変換することによってMACやWINDOWSやUNIXなどで使う上級の描画ソフトに読み込んで使うこともできるが,各ファイルの記憶量が大きくなるという欠点のゆえにデータベース化はしていない。したがって今回は説明を省略する。  なお,「花子」と「シルエット」はジャストシステム社製の描画ソフトウェアである。  分野により収録されたファイル数に差が大きい。これは,データベースの入力が進行中であるためである。 く解剖学>AN,OS,MY,ART,VEN,LYMNV,SEN,VIS  総論,骨学,筋系,脈管系,神経系,感覚器,内臓一総論,呼吸器,消化器,泌尿器,生殖器,内分泌器,発生学,局所解剖一体表解剖 く生理学>PH  総論,代謝,内分泌,循環,呼吸,体液,消化・吸収,生殖,筋・運動,神経,感覚 く生化学>BC <薬理学>PHM <病理学>PAT  基礎一般,病因,循環障害,退行病変,進行病変,炎症,腫瘍,免疫,先天異常 <東洋医学>OR  一般,漢方,経穴,鍼灸理論,鍼治療,灸療法,按摩など <鍼灸論文集>AC <臨床医学総論>CLG  診断総論,理学検査,神経検査,生理機能検査,透過検査,症状診断,治療法,臨床心理,放射線科 <臨床医学各論> <感染症>,<内科一般>,<麻酔科>,<救急処置>,<一般外科>SRG,<消化器系>GIT,<呼吸器系>RES,<循環器系>CIR,<泌尿器科>URO,<産科・婦人科>GYN,<小児科学>PED,<代謝一内分泌疾患>MET,<アLルギ1-膠原病>ALE,<眼科>OPH,<耳鼻咽喉科>ORL,<口腔外科・歯科>DEN,<皮膚科>DER,<精神科>PSY <神経病学>NEU  総論,診断・治療,脳・脊髄血管障害,脳・脊髄腫瘍,感染性疾患,末梢神経障害,変』性疾患,神経・筋疾患 <運動器系(整形外科)>ORT  総論,診断・治療,疾`患別各論,部位別各論,外傷総論,外傷各論,神経損傷,血管損傷,脊髄損傷 <リハ医学>REH  総論,運動学,障害測定評価,理学療法,運動療法,義肢装具,日常生活,作業療法,疾患別各論 注 <鍼灸論文集>は鍼灸学科の論文講読で使う基本的な論文のデータベース化が進行しており,その付図を触図化したものである。 2章ネットワークによる触図原稿の利用  A描画ソフト「シルエット」利用の場合  A1 ネットワーク用の「シルエット」起動ディスクをフロッピーディスクドライブに差し込み,セットしてから電源スイッチをいれる。  A2 起動した「シルエット」の画面の下欄の「ファイル」をマウスでクリックして開くメニューの中で「読み込み」をクリックし,ファイル一覧画面でドライブをクリックすると「触図データベース」につながる。この時,ネットワークを意識することなしに自然とネットワークディスクを参照している。マウスの操作は左クリックがコマンドの選択と実行で右クリックが取り消しであり,ドラッグが図形の描いてある枠の移動と上枠と右枠にあるスクロールバーの移動に使うなどである。  A3 次に1章のリストを参考に希望する分野のディレクトリーとサブディレクトリーを順々に選んでクリックして開くとその中のファイルの一覧が現れる。  A4 画面の下欄の「名前」をクリックして「見出し付」をクリックすると各ファイルの説明がついた一覧画面になる。これを参考に目的のファイルを選んでその上でクリックする。  A5 モニター画面に選んだ読み込んだファイルが図示される。全体を見るには画面右上の「1/1」などの分数の示されている枠をクリックして倍率を1/4にする。モニター画面に出ていない部分を見るには画面の上と右の枠の端近くにある矢印をクリックして移動させる。  A6 手元に「シルエット」用に予め設定されたプリンターが接続されている場合は,「印刷」「印刷」とクリックして印刷する。用紙はA4で縦に印刷される。「シルエット」は少し古いソフトなので新しいプリンターで印刷できないことがある。  ネットワークにつながれたプリンターを利用する場合は,「シルエット」起動時に設定することにより,共通利用のどのプリンタに印刷するか選択することもできる。(プリンターの設定についてはネットウェアの管理者に相談して下さい。)  A7 作業を終了するには,「終了」をクリックする。  A8 原図の修正と追加  触図データベースはそのまま印刷して立体コピーの原稿として使えるようになっているが,使用目的に応じて分かり難いところを消去したり,説明を追加したりして自分用の触図原稿を作成して自分用のデータとして蓄積していってもよい。  弱視者用に同じ図に点字の代わりに文字を記入した図にするにはB5で述べる方法で14ないし18ポイントの大きさで記入する。点字と漢字など両方を入れた図のデータベース化は進行中である。  触図利用者と通常の図を使える学生を1つのクラスで指導するときは,点字の入った図の4/5くらいの縮小コピー図を弱視者に配布して,説明しながら文字を記入させることで弱視学生にも有効な教材となっている。  A8-1 図の一部を修正するには「表示」「入力プレーン」をクリックし,Aと決定をクリックして,「編集」「消去」で修正部を消去し,「描画」の「曲線」や「点」などを選び必要に応じて描き変える。  A8-2 「シルエット」で点字を追加記入するときは,3の操作で「入力プレーン」をBにする。「描画」のメニューで「部品呼出」をクリックして登録してある点字のメの字の列を一つ選んでクリックすると枠に囲まれて画面に追加される。これを「編集」の「消去」を使って1ヶずつ不用な点を消して点字とする。「枠操作」の「移動」をクリックした後,動かしたい枠にポインターを移動してマウスを使い目的の位置までドラッグし,ボタンを離す。  A8-3 「編集」によって間違って消去した場合は,直後ならば「f・10」キーで元に戻る。「枠操作」の「削除」で点字や画像の一部を枠ごと消去するとそれまでの修正作業が取り返しがつかなくなるので,確認のメッセージが出たときは慎重に操作する必要がある。  A8-4 修正した図は自分用のフロッピーディスクやハードディスクに保存するか,ネットワークの自分用のスペースに保存する。「保存」をクリックし,ドライブを選び,ファイル名を変更して実行する。  B 描画ソフト「花子」を利用する場合  「シルエット」にくらべて「花子」で描いた図は,線の種類や太さの変更が容易であり,図の拡大,縮小に伴う線の太さが変わらないなどの利点があるが,触図で必要になる粗い塗りつぶしのパターンが使えないなどの欠点もあるので,線画を「花子」で描いて塗りつぶしはシルエットで行うという使い分けをしている。データベースの図を選んで印刷するだけであればMS-DOS用の「花子」でもよいが,「花子」の図に点字や文字を入れるのはWINDOWS用「花子」で行っている。「だれ触」を参考にしてWINDOWSを使い慣れていないひとでも容易にできる。  B1-A ネットウェアによりネットワークに接続しているパソコンでWINSOWSを起動し,WINDOWSのプログラムマネージャーの画面で「花子」を起動する。  B1-B WINDOWSの使えないパソコンではMSDOS用の「花子」を起動して使う。ただし,WINDOWS用「花子」と異なり,「だれ触」が使えない。  B2 「シルエット」のときと同様にファイルを探し,読み込む。  B3 「花子」は「シルエット」と異なり,1頁の図が多数のプレーンを重ねて描画できるが,データベースのファイル(.SRH,、JSH,、JAHまたは.JBHのついたもの)を読み込むとプレーンAに図が,Bに点字が読み込まれる。画面左下のAないしBをクリックすると入力表示プレーンのメニューが出るので,ここで詳細をクリックして入力と表示プレーンの枠を選ぶ。文字はプレーンCに入力している。Bを消してAとCだけを表示しておいて印刷すれば,文字入りの図となる。逆にcを消して印刷すれば,触図原稿となる。  印刷は印刷のアイコンをクリックして行う。どのプリンターを使うかについてはA6と同様予め選択と設定が必要である。  B4 点字の追加入力ないし削除  入力画面をBプレーンとし,「だれ触」により入力する。不要な点字を削除するには図形選択でその点字をクリックすると枠で囲まれるので「編集」そして「消去」をクリックする。点字の修正は「A」文字入力をクリックして消したい点字の後ろにカーソルを置き,「BS」キーで消し,入力し直す。点字を入力するときは文字のフォントをBrailleにし,日本語入力を点字入力用に変更して行う。  B5 文字の入力  入力画面をcプレーンとし,「だれ触」に従って入力する。18ポイントのゴシック文字で大多数の学生に使える大きさになる。文字を修正したいときは点字の修正と同様に行う。  B6 図の修正  シルエットの図の修正は,一部だけであれば「花子」でもよいが「シルエット」の方が操作しやすい。「花子」のファイルの場合は,「花子」で行う。  B7 ファイルの保存  「シルエット」の場合と同様に修正した図は自分用のディスクにファイル名を変更して保存する。  注:「だれ触」は,初心者でもパソコンを利用して点字の入った触図や拡大文字の入った図を作成できるように操作の手順をまとめたものである。「花子」だけでなく他のWINDOWS上のソフトウェアでも触図や拡大文字入りの図を作成できる。 3 パソコンネットワークの基礎知識  今回ネットワークで触図がデータベースを利用できるようにシステムを構築したが,これは,ネットウェアというパソコン用のネットワーク基本ソフトで行った。その特徴について以下簡単に紹介する。 A 共通ソフトの利用  ネットウェア(NetWare)は,パソコン用のネットワーク用基本ソフトとして世界中で最も利用されている。ネットウェアを利用すると,自分のパソコンにハードディスクがなくても,ネットワークのディスクを自分のハードディスクのように利用でき,ネットワークの中のソフトも共通利用が可能である。触図作成に利用している「花子」や「シルエット」が手元になくても,利用ライセンスのあるネットワークで利用できる。「花子」や「一太郎」などはパソコンを起動したときのメニュー画面からネットワークの中のソフトを利用出来る。ただし,「シルエット」は,かなり古いソフトでありMS-DOSのバージョンが異なるのでAで述べたように専用のフロッピーで起動して使うようにした。 B ファイルの共通利用  すでに作成された触図の原図に限らず,参考書や共通文書などを相互利用したい場合は,みんなで利用できる共通ファイルにしておくと便利である。この場合多くの利用者で共通利用するものは書き換えられないようにしておく。自分なりに変更した触図はネットワーク上の自分専用のの保存場所に保存することも出来る。  AやBのような機能を利用すると自分のパソコンにハードディスクがなくてもフロッピーで起動し,ネットワークに接続すれば,起動したソフトで保存場所を選ぶだけで使うことが出来,ネットワークの中のディスクに保存もできる。ネットウェアはこのようなファイルサーバと呼ばれる機能を利用するのに最も適しているネットワーク用の基本ソフトである。  C ネットワークへの接続  接続が簡単なのも特徴の一つである。一般的にネットワークに接続する時はIDやパスワードを入力して,利用者を特定するが,ネットウェアではIDやパスワードなどの入力なしに利用できる。ネットワークヘの接続(ログイン),切断(ログアウト)を意識しないで自動的にこれらの操作を行うようにネットワークの端末として自分の使うパソコンを設定すればよい。  以上のようにネットワークを利用することにより初心者でも比較的容易に触図の原稿を利用し,触図および弱視者用の図を作成出来るようになった。