肢位と筋力第2報 肢位別握力値と持久曲線の比較 筑波技術短期大学 理学療法学科 和才 嘉昭 須田 勝 薄葉 眞理子 高橋 憲一 要旨:肢位別の1回目15回,2回目15回の休憩前後30回の,握力連続測定での疲労値からみた筋持久力は,立位,端座位,背臥位の順となった。また立位1に対し端座位0,95,背臥位0,91の持久率となった。疲労曲線より訓練時の勇気づけはタイミングが必要である。 キーワード:肢位/筋力/持久力/握力/疲労 1目的  成書によれ筋力は①muscular strength②muscular power③muscular enduranceなる用語が用いられ,それぞれ①単一筋群の力②仕事量③ ①+②総和の時間的,頻度的持久性と意味づけられている1)。筋持久力と疲労とは表裏関係にあり,その様相は継続的出力時の,時間的,頻度的にみた筋力値低下の値変動の推移より把握し分析できる。  第1報では肢位と筋出力の関係を握力値の比較で発表したが2),今回は肢位と持力疲労とが如何なる関係にあるのか,同じく肢位別の継続的握力測定値にで比較検討した3)。 3方法 1)測定肢位  測定肢位は①開脚立位②ベットの角に端座位③ベット上に背臥位の3つの肢位を選び,それぞれの肢位で右手握力を測定した。 2)握力計  握力計は竹井機器・TKK-510 Grip Dデジタル握力計1個を使用した。 3)測定手技  各々3つの肢位で右手握力値を,日を改め,体側垂下法にて4)5)前後15回づつ連続,間に5分間の休憩を入れ計30回実施し,その値を記録した。特に疲労出現に並行して見られる,握力値低下の推移を持久力の目安とした6)。 4)被験者  筑波技短理学療法学科学生,男7名,女6名,平均年齢21,4歳,全員右利きの計13名に実施した。 4結果  実験の目的が肢位と筋疲労の関係調査のため男女比較については別の機会にゆずる。 1)立位1.2回:反復15回握力値曲線の比較  表1に見られるように1回目最高約30kg,最低約23kg,平均約26kgで13%の減少率。2回目最高同じく30kg最低22kg,平均約25kgとなり,1回目との比較では約15%の減少率である。1.2回共に1/3前半は同じ値を示したが,後半では1回目の下降は少なく,2回目は漸次平均した下降を示している。 2)端座位1.2回:反復15回握力値曲線の比較  表2に見られるように1回目最高約29kg,最低約22kg,平均約25kgで約14%の減少率。2回目最高28kg最低21kg,平均約22kg,1回目との比較では約17%の減少率。2回目1/3後半に逆転と乱れはあるものの平均的に下降している。 3)背臥位1.2回:反復15回握力値曲線の比較  表3に見られるように1回目最高約26kg最低約21kg,平均約23kgで約11%の減少率。2回目最高約27kg最低約19kg,平均約23kgで約13%の減少率。1回目は上下変動の著しい,且つ前1/3に値の逆転が認めらる。後半は並行した下降を示している。 4)肢位別1回目:反復15回握力値曲線の比較  表4では,立位,端座位,背臥位の順に,それぞれ回が進むにつれて,握力値は下行傾向を示している。特に背臥位において上下変動の著しい曲線が記録されている。  また平均値も同じく立位,端座位,背臥位の順になっている。 肢位別 平均 標準偏差 立位 25.9kg ±8.5kg 端座位 24.6kg ±8.4kg 背臥位 23.4kg ±8.1kg 5)肢位別2回目:反復15回握力曲線の比較  表5に示す曲線では立位に高く,端座位,背臥位では同じ値での推移が10回目まで続き,それ以降は端座位高位となり,それも立位と同程度の値で並行し下降している。  また平均値でも立位を除き,端座位,背臥位で同じ値で記録されている。 肢位別 平均 標準偏差 立位 25.3kg ±8.9kg 端座位 23.8kg ±8.3kg 背臥位 23.1kg ±7.9kg 表1 立位1.2回の比較 表2 端座位1.2回の比較 表3 背臥位1.2回の比較 表4 肢位別1回の比較 表5 肢体別2回比較 5考察  各表に示された曲線で理解できるように,肢位別前後1.2回の握力値曲線の比較では,立位1回目15回の最高値での可能15回を基準に考えると,立位では(86.8%:84.6%)端座位では(82.4%:79.8%)背臥位では(78.5%:77.4%)と,それぞれの持久率となる。  今回の肢位別握力値の推移から考えられる持久力傾向は,3群間平均比較では共に立位・背臥位の間で統計処理上有意水準5%で差が認められたが,その他の間には差は認められなかった。  筋出力では,単に運動当該部の筋肉のみでなく,運動特性である集団活動機構が関係し7),運動時の姿勢,構えを基本に,働筋,共同筋,拮抗筋、中和筋,とりわけ固定筋の働きが大きく影響する。またこれら筋群間の強度的,時間的,空間的な同調と,更に運動を活性化する意識の集中度合も影響する。同じことがまた疲労や持久力についても言え,特にここでは声援や勇気づけに基づく刺激の波及現象とし9),端座位2回目後半の曲線上昇に記録されている。 6筋電図所見  固定筋の重要性を,各肢位での握力測定時の筋放電様相図1に求めると,その作用の強いと考えられる立位測定時の,下腿三頭筋群や大腿四頭筋群の筋放電に僅かながら観察できる。 図1 節電図所見 7まとめ  運動時の肢位と筋力並びに頻度持久力の関係を,立位・端座位・背臥位の3つの異なる肢位で行なった握力値の比較からでは,立位に於いて筋力,持久力共に最も強く現れた。特に立位1回目の最高握力値で15回可能だとした基準比較では,次のようになる。 肢位別 握力減少率(疲労) 立位 1回目 約13% 2回目 約15% 端座位 1回目 約18% 2回目 約20% 背臥位 1回目 約22% 2回目 約23% また今回の実験から 1)肢位別筋持久力について握力値で比較。 2)持久'性を表裏関係の疲労より検討。 3)握力測定での持久力は立位,端座位,背臥位の順に強い。 4)肢位別握力値の強弱は立位100に対し端座位で約95%,背臥位で約91%である。 5)筋出力も筋疲労も肢位が影響する。 6)訓練時は筋力のみでなく,疲労出現の様相に注意する必要がある。 7)勇気づけ、声援等はタイミングが大切である。10)とまとめることが出来よう。 参考文献 1佐藤 昭夫監訳:人体生理学シュブリンガーフエアラーク東京p.64-78 1994 2和才 嘉昭他:肢位と筋力第4回茨城県総合リハ論文集p.5-8 1994 3和才 嘉昭:筋収縮相からみた筋疲労第8回運動療法研究回論文集p20-22 1981 4川端 愛義編:体力測定と健康診断p.101-102 南江堂 1971 5和才 嘉昭他:測定と評価p287-288 医歯薬出版 1994 6宮野 佐年他:握力測定に付いて2・3の検討 第49回関東リハビリテーション医学懇話会 1986 7Teraoka et al:Studies on the peculiarity of grip strength in relation to body position and aging Kobe J Med Sei 25p.1-17 1979 8William D McArdle et al:Exercise Physiology p.372-376 Lea&Febiger 1986 9中野 昭二:運動の仕組みと応用 歯薬出版 p.7 1982 10中村 隆一他:運動学実習 第2版 p.36-37 医歯薬出版 1989