福祉先進国よりの学び-RNIB,CNIB,RF&D訪問から- 筑波技術短期大学視覚部情報処理学科 夏目 武 1はじめに  学会や国際会議への出席等で海外へ出かける機会が比較的多い。この視覚障害者向け高等技術教育・研究、特に情報処理の分野の世界に入ってまだ2年も経過していないので、ともかく世界の状況を把握する事から始めている。この間イギリスのRNIB(Royal National Institution for the Blind),カナダのCNIB(Candadian National Institute for the Blind)、アメリカのRFB&D(Record for the Blind and Dyslexic)の3つの施設を訪問する機会を得た。わずかな時間ではあるが、訪問先設備を見学し、その関係する人々と合い、話し、議論する機会に恵まれた。ここではこれらの視覚障害補償施設の概要と考え方、社会システムの現状、又人々との会話を通して得たもの又感覚等をまとめてみた。一つの経過と報告であるが、現時点での関連情報と自己の指針とに基づいた自らの教育・研究の方向付けと主張をまとめた。 2 RNIB(Roya INational Institution for the BIind)  RNIBは128年前の1868に設立されている。本部はロンドンのGreat Portlandにあり、-224 Great Portland Street,London WIN 6AA,UK(Tel:+41 171 388 1266),Peteborugh, Sterling, Edinburgh, Nothern Ireland,に全国のサービス拠点をおいている。7 Education Centers,9 Schools, 2 Collegesが付属している。二つのCollegeはRedhillとLoughboroughにあり前者が一般職業訓練学校であり、後者はコンピュータの技術訓練学校である。1994年10月現在、RNIBは2,300人の職員と12,000のボランティア活動とで支えられている。おもな支援サービス活動は以下のようになる。 21.生活関連サービス 22.情報メディアサービス 23.ヒンピュータを含む補償機器類の相談と展示販売 24.職業訓練 25.雇用情報と相談 26.資金に関する相談 27.住まいと住宅機器類の相談 28.娯楽 29.図書館サービス  このGreat Portlandのオフィスに来れば、最新の情報と補償機器と生活の方法と職業訓練が提供される事である。また視覚障害者向けモデル台所があり、生活の知恵と自分に適した機器と器具類を入手することが出来るのである。 3 CNIBC(Candadian National Institute for the Blind)  CNIBは1918年に第一次世界大戦の傷病兵のために設立されている。本部は1929年にBayview Avenue, Toronto, Ontario Canada(Tel:+1 416 480 7019)に設立されて現在にいたっている。1995年8月現在で約1,900人のスタッフと約25,000人のボランティアで78,000の登録された視覚障害者に対してサービス活動が進められている。その活動は以下の7つのサービスとして行われている。 31.相談(Councelling and reterral) 32.回復訓練(Rehabilitation teaching) 33.歩行訓練(Orientation and mobility training) 34.視力改善(Sight enhancement) 35.補償機器類の技術援助(Technical aids) 36.職業訓練と就職(Carrier development and employment) 37.図書館サービス(Library service)  例えば5.技術援助プログラムではTechnical aids depertmentが組織化されていて、全国に7つのサービス拠点がある。それらの拠点では補償機器の情報サービス、機器の試験的操作と評価、実機試運転、機器選択のための比較試験操作運転、適切な機器の選択又は開発のための相談であり、内容としては 1)音声コンピュータ,2)拡大文字印刷,3)CATVのコンピュータ利用,4)点字コンピュータ,5)点字印刷機,6)携帯コンピュータ,7)大型モニター,8)市販ソフトウェア等である。Information Resouce Center(IRC)の組織のもとに図書館サービスをおこなっている。そのサービスは現在の最新技術水準に基づいた電子化システムを採用することにより行われている。情報の電子化プロセスとその生産ファイルのデータベース化及びCD-ROM化、それらの情報の探索、閲覧、参照、収集の機能とセンターのみならず事務所、学校、家庭などどこからでも自由に活用できるネットワークサービスを含む。その内容は以下のようになっている。 -1.他の施設の図書館との連結によりあらゆろの情報収集可能 -2.電子広告、報告書類のCD-ROM化とその閲覧 -3.百科事典、辞書類のCD-ROMによる利用 -4.定期刊行物、新聞のCD-ROM化 -5.日々の新聞情報のオンライン提供 -6.世界規模で提供されているあらゆるデータベース情報の検索と閲覧 -7.情報の点字表示と印刷、文字拡大と印刷、及び音声化 4 RFB&D(Recording for the Blind & Dyslexic)  RFBとしては1948年第二次世界大戦時の視覚障害を受けた傷病兵の為に設立されているが、1995年7月に現在の名称変更を行っている。Dyslexiaは失語症、読み書き障害の日本語が対応しているが、同施設を利用している人々のうちでこれに類するもの-the Dyslexicの障害の割合が50%を越えざらに増加の傾向がある為の変更と聞いた。  これは現状に合った視覚障害の状態を明確に反映している点で非常に興味があるし、我々の状況を鑑みる上で重要である。著者の訪問目的はIEEEの技術関連の定期刊行物の入手方法についての設定の為であった。しかし多くの実りある情報と人々との議論を通した深い示唆を得る機会に恵まれた。当然ながらこの組織は非営利団体-NNO(National Nonprofitable Organization)であり、視覚障害者の為の教育教材で小学校から大学までの総ての教育水準に対応していて、コンピュータによるテキストファイル又は音声録音の形態で提供するのが主とした目標である。全国に31のサービス拠点である支部(Audio Studios)を持ち、4,500人のボランティアにより支えられている。1994年現在で213冊の録音図書(Audio books)と3,000タイトルのテキストファイルブック(E-textby Computer disk)が用意されている。1994年では約36,000人の利用者が報告されている。又これらの情報源を適切に活用するために、コンピュータソフトウェアBook ManagerやMegadots及び録音テープの為のTalk-manなどが提供されている。  1994年のRFB年報(RFB Annual report)からのデータでは年の総額予算約24.65M$のうち66%が寄付や遺産の提供やボランティアサービスなどによるもので政府からの基金は僅かに15%である。国立-Nationalとはいえ一般の人々による一般の人々の為のもののようにみえるのがすばらしいことである。一つの活動形態として参考にすべきものであろう。  なお同所のResearch & Project DevelopmentではDirectorのGeorge Kerscher氏を中心に技術論文のText file化をSGML(Standardized General Mark-up Language)を用いて行うプロジェクトが進んでいる。著者の訪問時点ではIEEEと共同で実現化の段階にあり、いろいろな利用状況のパイロットサイトを作り実環境下での評価に入っている。著者もこの評価に個人的に参加の予定である。 5 先進性について  著者の観察を一般化して議論を進めるのには余りにも情報が貧弱である。しかしこれらからの観察が今いる日本国民として受けてきたり、みてきた数々の福祉行政、公的サービスや施行例などの立場と重ね合わすと、キーワードを中心に議論と自らの主張を展開することはそんなに基本的で且つ本質的事象とその展開と比しても大きな外れはないものと考えたい。 ADA(Americans with Disabilitv Aid)and Other countries  1994年までの時点ではイギリスもカナダもADAに対応したそれぞれの国の法案は否決されたと聞く。しかし基本的な福祉サービスと行為は今までと変わらず、当事者にとっての失望感は全く感じられなかった。唯、法的基盤が有るか無いかだけの問題のようである。本質的には障害そのものは国民社会に統合されていて国民全員の問題なのであり、当事者だけのものではないという認識は確固たるものがある。その共通した規範を追及していくとやはり長い間、培われてきたキリスト教的人間観もしくは社会観に到達してしまう。即ち個人の生を等しく相互に尊重することから始まる自立と自已表現と自己選択の自由に基づく人と人間の行動形態である。福祉とか支援・援助等の行為もこの様な基盤に立って考えると非常に理解し易くなる。もしこれを無理せずに日本の現状に当てはめて考えると、キリスト教的伝統や知恵の乏しい日本の社会では理論的には不可能なのかもしれない。それは慈悲とか恵みとかいう仏教的伝統もしくは平面的関係ではなく、高低差のある関連性の中で存在し続ける関係の中で形成言れてきた社会の中では完全には解けない問題なのかもしれない。新しい時代に生きていく為の方便の一つである、国際化の旗印のもとに時間を掛けて、国際的な事例による啓蒙宣伝と当事者の実践による宣教の力と法制化による規制以外に適切な方法はないのであろうか。 Mission statement  以下はCNIBの資料より引用した文章である。先の主張を如実に示したものであり、あらゆる支援活動-Serviceはこの考え方に基づいているのである。他のRNIBやRFB&Dでも同等な表現をしている。これらは先に示した主張を裏付けている一例とみても外れてはいないと思う。  To integrate into the mainstream of community life,according to their ability to function within that conununity.  日本の場合、1993年の心身障害者対策基本法の改訂においても完全参加と平等の実現という言葉が使用されているが、表現が大きく一つわかり難いのである。 Blind-Deaf dual disability  1994年のCNIBの報告書によれば視覚・聴覚二重障害者の実数は正確に把握されていないが2,000人は越えているという。RNIBの報告の中では6,000人とある。そして何時でも対応できるように、将来発生するその人たちへの諸支援を視覚障害支援体制の拡張としてその準備を完了している。その主な支援活動を以下に紹介する。 0)介在者(Intervenors)と共に行う諸行動に対する方法、 1)カウンセリング、 2)利用できる補償機器類の紹介と説明訓練、 3)安全歩行及び移動訓練、 4)読み書きの為の基本言語開発、 5)会話・応答方法の開発と学習、 6)生活訓練・教育、 7)その他娯楽、情報の解釈、参考資料の参集等。  もしもこの様な支援活動の中で生かざれるならば、当然高等教育とその社会還元への道もある筈である。本学を顧みる時、現在のような独立した関連性の非常に薄い視覚・聴覚の二学部ではこの様な支援活動は出来ないし、高等教育の可能性は生じない。日本全国の高等教育機関をみても本学以外での可能性はさらに少ないし、皆無に近い。全国の中で本学のみがその可能性を持っている事と秘められた使命が存在している事を認識したい。併せて4年生大学への移行計画の中に加えられるべき検討事項として留めておきたい Volunteer Service and donation and legacy/bequest  先に示したように各施設のボランティアの数はRNIB 1,200人、CNIB 25,000人、RFB&D 4,500人とその規模の大きさに驚く。又彼等の活動を支える寄付金の大きさもこれらの数と相関して大きい。CNIBでの資料からは彼等のあらゆる活動はボランティアによるものだと言い切っている。そして彼等独自のボランティア活動に対する支援組織と制度が完備している。現社会システムとして捉えるべきものであるり、日本との単純な比較と批判は裂けるべきかもしれない。しかしその根源にあるシステムの仕組みは学び、研究せねばならないと考える。CNIBの報告書の中に次のような記事が記載きれている。かってはボランティアは若い婦人方が彼女達の子供を学校に送り届けた後、子供達が戻ってくるまでの時間を過ごす為の一時的で単純で多くの責任を伴わない活動として捉えられていた。  しかし現在は活動形態が大きく変化してきていることを記述している。活動主体が主婦から男女の区別なく若者から年寄りまで、富める人々から貧しい人々、又いろいろの分野の専門家が自らの専門を生かす活動をもとに、いろいろの参加形態が出来上がっている。従って、そこには参加への任意の使命感と約束と責任とが生じている。加えてボランティア活動に対する国単位の表彰制度が適切に機能していて、個々の参加者にとっては彼等のプロジェクトへの参画とそこでの活動は、その者自身のの励みであり、誇りとなるばかりか所属する組織内での信頼と高い評価や名声を得るのである。どうすればこの様な方向に向うのか又適切な運営すべき方策等は今後の研究課題となろう。これは我々の教育活動に与えられる大いなる秘められた力であり、エネルギーとなることを認識したい。例えば我々が抱えている懸案事項の一つである教育情報データベースの開発と作成などへの参画が可能となれば、本学の教育環境は大いなる発展を見るであろう。 Dr. Gil's words: Welfare activities by a nation itself  Dr. J M. GillはRNIB Scientific Research Unitの長である。イギリス国内-UKにとどまらずヨーロッパ連合-EUのプロジェクトリーダーとして活躍している人である。これは彼との会話の中で、日本の福祉関連の後進性について論じていた時の言葉である。EUのいろいろの国との共同研究の中から得たものであろうか、非常に教訓的である。換言すれば、他国のまねでは正しい福祉事業は出来ない事、その国独自の方法で且つその国の速度で行うべきものである事、である。この調和は国単位から一つの組織単位又個人の活動能力でも適用できる行動指針であると思われる。著者の用いた言葉、先進性は技術先進`性とでも読み直すべきかもしれない。さりとてそれらは行動目標の作成への重要な情報と成り得るものであろう。 Technologies for accessibility 現在可能な障害支援機器はコンピュータとネットワークの活用である。各施設ともその最新技術を活用しているし又その為の準備を進めている。RNIB Scientific Research Unit Projectsをみれば、明快である。即ち1)Graphic user interface,2)Smart cards,3)Visual display,4)Orientation and Navigation system,5)Computer access methods,6)Rehabilitation market,7)Handy Net through EU nations etc.  SBCSの世界からDBCSの漢字世界に導入することは必ずしも容易でないが、便宜的技術輸入は必要であることを主張したい。そして早く同じ技術水準の下で共同プロジェクトに参画したいものである。また世界各国のコンピュータメーカーのUni-codeの採用によりコンピュータ言語体系の同一世界の実現が可能になり、共通の適用プログラムが利用出来る様になるかもしれない。 Copy right 各国とも著書の電子ファイル化に伴う著作権問題は解けていない。RFB&Dでは登録会員制として、特定使用者とその範囲を限定して対処している。今回のFB&D訪問ではその専任担当部門を設けて著書一点一点を契約している現場を観察することが出来た。現状での一つの解かもしれない。 6教育・研究現場より  これらの観察と体験の後で自分自身の教育・研究環境を考えつつまとめていく時、著者自身の経験不足も伴って、その環境の貧弱ざと、遅れを認識する時Dr.Gillの教訓を忘れて自分の,組織の,国の,それぞれの立場での力の無さに焦りと空しさまで感じてしまうのである。個々の努力とその成果はいたる処で観察できるが、それそけれ関連が薄く、まとまりが無く、全体の力が分散しているかのごとく発展の中心がない様に観察される。これらが単なる未熟者の感覚であり、一般社会の当事者から見れは否定されるべき感覚であって欲しいのである。 7これから  組織の中で限られた資源を有効に活用し迅速に効果を期待するには独立的で個人的な活動は否定きれるべきである事は多くのプロジェクト管理の中からの教えである。共通し理解されている目標のもとに研究行動も組織化されなければならない。少なくとも世界の技術水準に追いつき、彼等との共同作業が出来るような環境になるまでは必要であろう。国単位の福祉の縦割り行政の統合化の様な社会システムの改善は別の論点でまとめるとして、ここでは高等技術教育環境に即した障害補償の為の技術開発分野での、当面の選択されるべき課題は以下のようなものであろう。 71.大学電子図書館の設立の為の技術的基盤の研究 72.SGML又はHTMLによる技術テキストファイルの作成技術の確立 73.図情報の表示伝達技術の開発研究 74.点字を含む学術資料データベースの設計研究 75.GUIを基盤としてコンピュータ表示システムの研究 76.17”CRT Displayの現平均価格10万円を原価目標にした新Braille Displayの開発 77.電子図書作成プロセスの最適化の研究 78.EDR電子辞書を含む総合的辞書機能の開発研究 79.ボランティア制度の適正モデル化とその確立 7A.二重障害者対応の高等教育環境整備と必要とする補償機器類の開発研究 8参考資料 1.RNIB at WORK 1994(1994) 2.Your guide to RNIB(1995) 3.IN TOUCH Bulletine No.77 0ct.,1994 4.Factsheet - Employment Develpoment & Technology No.12 and No.20(1995) 5.RNIB Directory(1994) 6.J.M.Gill:RNIB Research and Development Unit Oct.,1994 7.1994-1995 Annual Review - In praise to Volanteers 8.1993 Annual Review CNIB(1994) 9.Brief of CNIB Informatin Resource Center(1995) 10.Briefs of CNIB(1995) 11.Brief of RFB&D Service at a Glance(1995) 12.Briefs of RFB&D - Learning through Listening(1995) 13.Annual report - RFB 1994 14.RFB Impact - Spring 1995