視覚部における視覚障害学生への配慮・支援についての現状と課題 (1)教官を対象とした調査 石田 久之* 伊藤 隆造** 長岡 英司*** 黒川 哲宇**** 宮村 健二** 前島 徹***** 西條 一止** *教育方法開発センター **鍼灸学科 ***情報処理学科 ****一般教育等 *****理学療法学科 要旨:視覚部教官55名を対象として,授業における視覚障害学生への配慮・支援について,アンケート調査を行った。調査は,Ⅰ.授業の準備,Ⅱ.教室内の授業の方法,Ⅲ.授業後のアフターケア,Ⅳ.学生の学習状況の評価,V.教職員に望まれるものの5項目,総数52の質問について行った。回収率は80%であった。77%以上の教官が,点字,拡大,触察の3種の教材を中心に準備を行うという分析結果を得た。また,拡大教材を中心に準備する教官も10%を越した。学生の視覚障害の状況などについての知識は,80%以上の教官がその必要性を示した。更に,電子ファイル化した文書のネットワークを介してのやり取り,視覚障害機器の現状の把握,視覚障害者の特性についての理解が必要なことは,75%以上の教官の意見であった。 キーワード:視覚障害,障害補償,授業,調査 1.目的  少なからずの教官が,多少とも戸惑いを持って始まった視覚部の教育も,すでに,6年目後半をむかえ,各教官それぞれが自分なりの視覚障害者の教育に対する考え方と具体的な教授・教育方法を確固としつつあるということができる。  この時期にあたって視覚部では,平成八年度自己点検・自己評価の一環として,その教育活動について,特に,視覚障害学生への授業における配慮と支援という視点から,現状と課題の分析を行った。  現在の各自の教育活動を改めて見直し,学生の期待に応えるための具体的手だてを交換しあい,より質の高い授業を行うために視覚部教官として望ましい姿を模索しようとしたものである。 2.方法 2.1調査対象  調査対象は,視覚部専任教官とし,非常勤講師は除外した。教授,助教授,講師,助手,全55名に調査用紙を配布し,回答を依頼した。 2.2調査期間  調査回答期間は,平成8年10月及び11月とした。 2.3調査内容  「授業における視覚障害学生への配慮・支援に関する調査」と題するこの調査は,次の5項目から成っている。 Ⅰ.授業の準備  点字,拡大,触察(触図),録音各教材の準備と,学生に関する予備知識について。質問1から16まで。 Ⅱ.教室内の授業の方法  実際の授業場面における各種配慮について。質問1から10まで。 Ⅲ.授業後のアフターケア  授業の理解度や補習などについて。質問1から3まで。 Ⅳ.学生の学習状況の評価  試験やレポートを課す際の配慮について。質問1から3まで。 V.教職員に望まれるもの  障害補償の考え方,教材準備,各種機器への対応などの望ましい姿について。質問1から20まで。 2.4回答方法  項目IからⅣまでは,2~4の選択肢よりの多岐選択方式とした(複数回答可)。  項目Vは,1(NC),2,3,4,5(Yes)の5段階のスケール上で,一つを選ぶものとした。 2.5結果の分析  結果は,各選択肢の度数とその全体に対する割合を求め,まとめた。また,一部のデータについてはクラスター分析を行った。 3.調査結果  視覚部教官44名から得た回答(回収率80%)を以下に示す。 3.1授業の準備  表1は,4種の各教材の利用状況を示したものである。「はい」はその教材を利用する教官の数,「いいえ」は利用しない教官数を表している。  点字教材は34名(77.3%),拡大教材は37名(84.1%)の教官が利用しており,触図も26名(59.1%)が準備している。他方,録音教材の利用は10名(22.7%)となっている。  これら4種の教材の利用状況を属性として,44名の教官を対象とし,クラスター分析を行った。  教材利用という視点から見ると,基本的には3種以上を利用する教官と,利用が2種以下の教官に大別できる。前者が34名(77.3%),後者が10名(22.7%)である。3種以上利用する教官の中では,点字,拡大,触察の各教材を利用する教官が多く(26名),全教官数に対する割合は59.1%となっている。利用が2種以下のグループでは,拡大教材を中心に利用する教官が5名(11.4%),全く,或いは,ほとんど教材を利用しない教官も5名(11.4%)であった。  視覚部の77%以上の教官が,点字,拡大,触察など,複数の教材を準備して授業に臨んでいる。また,理学療法学科のようにほとんど点字の準備が必要ない場合もあることを考えると,極めて高い割合で,何らかの教材を準備していることがうかがえる。  学生に関する予備知識については,36名(81.8%)の教官が必要であるとしている。視力や疾患などにより,読みやすい文字の種類,大きさは異なることから,教材の準備においても,それらの知識は重要な情報と考えられる。 3.2授業の方法  表2は,実際の授業場面においての,視覚障害学生への配慮・支援について,調査した結果である。  講義概要の配布は19名(43.2%),板書は22名(50.0%),方向指示用語の使い方の注意は35名(79.5%)の教官が行っており,講義の録音は43名(97.7%),パソコンによるノートテーキングは44名(100%),電子辞書・図書の利用は43名(97.7%)が許可している。一方,スライドなど視覚教材の使用は4名(9.1%),拡声器の使用は5名(11.4%)であった。  これら8つの授業方法を属性としてクラスター分析を行った。  基本的には概要を配布し板書をする教官群(23名:52.3%)と,基本的に概要はなく板書もしないという教官群(21名:47.7%)に大別できる。前者は更に,スライドなど視覚教材の使用の有無,方向指示語の使い方への配慮の有無によって3つにグループ化できる。この中でもっとも大きいグループはスライドを使わず,指示語については配慮しているというグループで,14名(31.8%)を数える。 3.3授業後のアフターケア  授業内容の理解度を知るためには,折に触れて,過去の内容を質問するという教官が35名(79.5%),また,小テストを行う教官は7名(15.9%)であった。  遅れが目立つ学生への対応及び通院などで欠席した学生への対応については,特に何もしないという回答がもっとも多く,それぞれ,26名(59.1%),23名(52.3%)であった。以下,教材を手渡しして自己学習させる,補習・特別指導を行うという順になる。 3.4学生の学習状況の評価  試験を行う場合は,選択方式及び論述式を併用する教官がもっとも多い(30名:68.2%)。  試験の点字解答を自分で読む教官は28名(63.6%),墨訳を他者に依頼するのは13名(29.5%)であった。  また,レポートを課す場合の提出用の文字について,電子ファイルは30名(68.2%),印刷した墨字は22名(50.0%),点字は14名(31.8%)が可とした(以上,複数回答)。どれでもかまわないとの回答は10名(22.7%)であった。  視覚部の半数以上の教官は,点字を読もうと思えば読むことはできるが,やはり,墨字の方が速く,労も少ないことから,できれば墨字でということであろうか。 3.5教職員に望まれるもの  表3~6は,第Ⅴ項目について,クラスター分析(R分析)を行い,回答が類似する質問を4つに分類したものである。1が‟NO"を,5が‟Yes”を表し,3はどちらともし、えないという回答である。  表3は,「障害補償にたいする考え方」として分類した質問と,その回答の各スケールにおける度数である。  障害補償は,個々の教官が考えなければならない問題であり,本学教官として研究領域の専門性の追求ばかりでは不十分であるが,同時に,技官等からの援助も必要である,との回答が多い。  表4は,「障害補償にたいする準備」として分類したもので,7つの質問からなっている。全て実際に行うか否かは別として,できる“体制”は作っておかなければならないと考えられる質問群である。点字の読み書き,拡大・触察教材の作成,各種障害補償機器の操作については,3~5の回答が多い。  しかしながら,実際の作成に際しては,どうであろうか。これに対する回答を,表5の「教材準備の実際」に示した。  各質問とも,最も多い回答は,3のどちらともいえないというものであり,1,2の回答も多く,自由記述欄の意見をふまえると,点字,触察教材などのスペシャリストによる作成,そのことが可能となるシステムの構築が望まれていると,見ることができ,現実問題としても,教材作成における技官への依存はかなりのものがあると推測できる。  表6は,「視覚部教育の特殊性」として分類した項目である。この分類における4と5の回答の総数は,33名(75.0%)~42名(95.5%)と極めて多い。  点字を読むことができるべきと考えてはいても,やはり,晴眼者(教官)には,墨字が扱い易いものである。このことから,電子ファイル化したレポートなどの文書のやり取り,また,これをネットワークを介して行うということは,視覚部教官にとっては,必須のことと考えている教官が多いことが明らかである。また,教育の対象である視覚障害者,及び,その支援機器についての理解も重要であると思われる。 表1 教材利用状況 表2 教室内の授業の方法 表3 障害補償にたいする考え方 表4 障害補償にたいする準備 表5 教材準備の実際 表6 視覚部の特殊性 4.まとめ  障害への配慮・支援の必要性の認識とそれを実際に教官自身が行うべきかは別の問題であり,より強力な支援体制の構築が課題である。 視覚部における視覚障害学生の配慮・支援についての現状と課題 (2)学生を対象とした調査 黒川 哲宇・宮村 健二・前島 徹・伊藤 隆造・長岡 英司・石田 久之・西條 一止 要旨:視覚部に在籍する115名の学生を対象として,視覚障害学生に対する配慮や支援の現状と問題点をアンケート調査によって把握することとした。質問の内容は,文字による資料の提供,グラフィックな資料の提供,授業中の配慮,レポートの形式など26項目であった。また,弱視学生に対しては,それぞれの視覚特性をきいた。その結果,点字や拡大文字,あるいは図の資料はおおむねどの授業でも提供きれていた。図の資料が提供きれない場合は,授業内容の理解に多少影響を及ぼしていた。板書や視聴覚機器,あるいは指示語などは授業中配慮きれて使われていたが,授業中の教官の声が不明瞭であるということが指摘された。資料の提供,ノート,レポート作成などでのコンピュータの利用はたいへん普及していることがわかった。 キーワード:視覚障害,高等教育,サポートシステム 調査対象  視覚障害関係学科に在籍する学生115名を対象としてアンケート用紙を配布し,回答を得た。対象学生の内,点字使用者は23名,墨字使用者は92名であった。回収率は,点字使用学生が86.96%(20名),墨字使用学生が91.30%(84名)であった。 結果 1.個人的特性  墨字使用学生の場合,視覚障害の質や程度が資料などの読解に影響を与えるので,それぞれの対象者の視覚特性を聞いた。その結果,おおよそ次のような傾向を得た。 1)視力の程度  眼鏡等で矯正したよい方の眼の視力値を記入してもらった。本調査では,本学の弱視学生の視力を,0.04までを重度弱視,0.04から01までを中度弱視,0.1以上を軽度弱視として分類してみた。その結果,重度弱視が12名(14.46%),中度弱視が34名(40.96%),軽度弱視が37名(44.58%)となった。なお,本調査対象とした学生の中で,点字使用の場合でも測定可能な視力を持つものがあったので,それらの対象者を全盲学生とはせず,点字使用学生と呼ぶこととした。 2)視野の程度  視野の障害も視覚障害の重要な要因とされる。今回の調査においては,具体的な視野障害の度数は聞かなかったが,自分の視野が「非常に狭い」のか,「狭い」のか,「異常なし」なのかをプロットしてもらった。その結果,「非常に狭い」が13名(15.66%),「狭い」が28名(33.73%);「異常なし」が42名(50.60%)であった。つまり,本学の弱視学生の半数近くはなんらかの視野障害を持っていることがわかる。 3)視力と視野の関係  視力と視野について,それぞれ3つのカテゴリー別にクロスさせてみたところ,各視力カテゴリー別における視野障害の比率は,重度弱視内で58.34%,中度では44.11%,軽度弱視では51.35%であった。 4)補助具などの使用  弱視学生が資料などを読むときに,ルーペや拡大読書器を使用することがあるが,文字拡大をしていない資料を渡されたときに,どのような方法であれば読むことができるかを調べた。その結果,12ポイント程度の墨字の資料をそのまま読めると答えたものが53名(63.86%),ルーペを使えば読めるものが24名(28.92%),拡大読書器を使えば読めるとしたものが3名(3.61%),それらの補助具でなくて文字拡大をすれば読めると答えたものが3名(3.61%)いた。少なくとも,60%以上のものは,通常の文字サイズの資料を何らかの補助的手段を使わずに読むことができることがわかった。逆に言えば,その他の4割弱のものが何らかの補助手段が必要であるということである。  ところで,補助的な手段を用いないと墨字資料が読めないものは視力の低いケースであるかどうかを検討してみた。視力と必要な補助手段との関係を調べたところ,「そのままで読める」と回答したものが視力の高い群に多いことがわかった。しかし,重度弱視学生の中にも「そのままで読める」と答えたものがいたり,0.1以上の視力がありながら,ルーペを使わなければ普通サイズの墨字を読むことができないものがいた。 5)読みやすい文字サイズ  質問紙の最初のシートに,10ポイントから24ポイントまで,5種類の文字サイズで印刷した文章を例示して,実際に読んだ場合に,どの文字サイズが自分では読みやすいかをチェックしてもらった。その結果,10ポイントの文章にチェックしたものが12名(14.46%),12ポイントを好んだものが24名(28.92%),14ポイントが27名(32.53%),18ポイントが17名(20.48%),24ポイントを好むものが3名(3.61%)であった。この場合は,ルーペや拡大読書器を常用している人はその状態で読むことを想定してチェックしてもらっている。12ポイントで印刷された資料を拡大なしの墨字資料だとした場合,回答した弱視学生の43.38%(14.46%+28.92%)は,文字拡大資料を必要としていないと考えてよいのかもしれない。 2.文字による資料の提供  視覚部では,一般的な授業で配布される,点字を含めた文字による資料は,普通サイズの墨字のものと,拡大文字のもの,および点字資料である。電子化したファイルや,録音教材などもあるが,授業が始まるときに配布されるものは,上記の3つであると思われる。ここでは,墨字使用学生と点字使用学生両方について,文字資料の提供の現状についてみていくことにする。 1)好みのメディア  授業で渡される資料はどのような形態が好きかを聞いたところ,点字使用学生の場合は,紙に出力された点字資料がもっとも好きであると答えたものが10名(50%),電子化された漢字仮名ファイルが6名(30.00%),電子化された点字ファイルが3名(15.00%),録音されたテープが1名(5.00%)であった。授業中どのような方法でノートを取っているかを聞いておいたので,その答えと好きなメディアとの関係を調べてみた。漢字仮名ファイルを希望した6名の内,3名がパソコンでノートを取っており,残りの3名はノートは点字で取っていた。また,1名はパソコンと点字両方を使ってノートしていた。一方,電子化した点字ファイルを希望したものの場合,3名全員がパソコンを使ってノートを取っていた。一方,弱視学生の場合は,墨字による印刷物がもっともよいと答えたものが57名(67.86%),電子ファイルと答えたものが20名(23.81%),録音きれたテープと答えたものが3名(3.57%)であった。また,電子ファイルがよいと答えた20名の学生の内,ノートをパソコンで取っているものは13名であり,残りのものは通常の筆記具でノートを取っていた。また,2名のものはパソコンと筆記具の両方を使ってノートを取っていた。 2)点字あるいは拡大資料の準備状況  学生が受講している授業で,普通サイズの墨字資料が配布されている場合に,点字資料がどの程度配布されているかを聞いたところ,80%以上用意されていると答えたものが13名(65.00%)で,30%以下と答えたものが3名(15.00%)であった。大部分の授業で点字資料が用意されているということがわかる。  一方,拡大資料がどの程度準備されているのかを聞いたところ,80%以上用意きれていると答えたものが53名(64.64%)で,30%以下と答えたものが14名(17.07%)であった。したがって,点字資料と拡大資料の準備状況はほぼ同じであることがわかる。 3)文字の資料が用意されていない場合の理解度  普通サイズの墨字資料は用意されているのに,点字や拡大資料が用意されていなかった場合,授業内容がわからないことがあるかを聞いた。その結果,弱視学生の内,46名が資料を拡大する必要がないと答えていた。点字使用者の25%,拡大資料利用者の33%が,資料がなくても教官の説明だけで十分であると答えていた。しかしながら,点字使用者の75%,拡大資料利用者の67%は,頻度の多少はあっても,資料が用意されていないために授業内容がわからないことがあると答えている。 4)文字資料が用意されていない場合の対応  点字や拡大資料が用意されていないとき,学生はどのような対応をしているかを聞いた。点字使用学生の約8割,弱視学生の約5割が資料がないまま授業を受けている。点字使用者の4人に一人,弱視学生の5人に一人ぐらいは,あらためて資料を作ってほしいと,どこかに資料作成を依頼するか,自分で作成している。依頼先は,授業担当教官や学科等の技官,あるいは友人などをあげているが,教育方法開発センターやボランティアをあげたものはいなかった。  この問いでは,複数項目に回答してもよいことになっていたので,「資料がないまま授業を受けている」場合に,わからなかったところを「資料作成はしないで,友人に聞く」というケースがどのくらいあるかをクロスさせてみた。その結果,「資料がないまま授業を受けている」点字使用者16名の内,8名(50.00%)が「資料作成はしないで,友人に聞く」としている。弱学生の場合は,21名中,10名(47.62%)が同様のケースに該当していた。ただ,弱視学生の場合は,普通の資料は読めるので拡大資料は不必要であるとした39名は除いて集計してある。両群とも同じような状況であった。  一方,「資料がないまま授業を受けている」場合は,授業内容がわからないことがあるはずである。「資料がないまま授業を受けている」と回答したものが,「資料がないためにわからないことがあるか」という問いにどう回答しているかをクロスした。点字使用学生の場合は「資料がないまま授業を受けている」と授業内容がわからないが,弱視学生では資料がなくても理解できると考えているものの比率がやや高いようである。拡大資料ではないが,一応,資料は用意されているわけで,不十分ながらそれを見ているのとも考えられる。 3.グラフィックな資料の提供  授業で配布される資料は,文字によるもの以外に,グラッフィクなものがある。一般的には,全盲学生用には触図であり,弱視学生用には見やすく改良した図ということになる。 1)図による資料の準備状況  授業で図が用意されている場合,全盲学生用の触図や弱視学生用の拡大図が用意されているかどうかを聞いた。その結果,点字使用者では,触図は80%以上用意されていると答えたものが9名(45.00%)で,30%以下と答えたものが4名(20.00%)であった。また,弱視学生では,拡大図は80%以上用意されていると答えたものが41名(49.39%)で,30%以下と答えたものが30名(36.14%)であった。約半数の授業で付加的な図の資料を用意していることがわかるが,文字による付加的な資料の提供が65%であったことに比べると,その率がやや低いといえる。 2)図の資料が用意されていない場合の理解度  普通の図による資料は用意されているのに,触図や拡大図が用意されていなかった場合,授業内容がわからないことがあるかを聞いた。弱視学生の内,38名が図の資料を見やすく改良する必要はないと答えており,これらの学生は拡大資料がなくても困らないはずなので集計からは除いてある。点字使用者の25%,拡大資料利用者の31%が,資料がなくても教官の説明だけで十分であると答えていることがわかる。しかしながら,点字使用者の75%,拡大資料利用者の69%は,頻度の多少はあっても,グラフィックな資料が用意されていないために授業内容がわからないことがあると答えている。これは,文字による資料がない場合の理解度の結果とよく似ている。 3)図による資料が用意されていない場合の対応  触図や拡大図資料が用意されていないとき,学生はどのような対応をしているかを聞いた。点字使用学生の約8割,弱視学生の約6割が資料がないまま授業を受けている。点字使用学生と弱視学生の10人に一人ぐらいは,あらためて資料を作ってほしいと,どこかに資料作成を依頼するか,自分で作成している。依頼先は,授業担当教官や学科等の技官,あるいは友人などをあげているが,教育方法開発センターやボランティアをあげたものはいなかった。特に,点字使用者の場合は,改めて触図資料を作成を依頼するということが大変少ないということがわかった。  この問いでは,複数項目に回答してもよいことになっていたので,「資料がないまま授業を受けている」場合に,わからなかったところを「資料作成はしないで,友人に聞く」というケースがどのくらいあるかをクロスさせてみた。その結果,「資料がないまま授業を受けている」点字使用者19名の内,6名(40.00%)が「資料作成はしないで,友人に聞く」としている。弱学生の場合は,26名中,11名(42.31%)が同様のケースに該当していた。ただ,弱視学生の場合は,普通の資料は読めるので拡大図資料は不必要であるとした39名はこの集計からは除いてある。文字による資料の問いと同様に,両群とも同じような状況であった。  一方,グラフィックな「資料がないまま授業を受けている」場合は,授業内容がわからないことがあるはずである。「資料がないまま授業を受けている」と回答したものが,「資料がないためにわからないことがあるか」という問いにどう回答しているかをクロスした。ここでも,資料を拡大する必要はないと答えた弱視学生39名は除いてある。点字使用学生の場合は「資料がないまま授業を受けている」と授業内容がわからないが,弱視学生では資料がなくても理解できると考えているものもいる。拡大ではないが,一応,資料は用意きれているわけで,不十分ながらそれを参考にしていると思われる。ただ,弱視学生の場合,文字資料では資料がなくても比較的困らないが,図の資料はないと授業に差し支えるという傾向がうかがえる。 4.授業中の配慮  文字やグラフィック資料の準備状況の他に,授業担当教官が授業中にどのような配慮をしているかについて調べることにした。今回は,板書,視聴覚機器の使用,指示語の3つの問題について聞いた。教官が授業中に黒板に書いた文字や図は全盲学生には見えないし,弱視学生にも見えないことがある。また,板書のある箇所を指し示して,「あれ」とか「これ」という代名詞を多用して話をすると,黒板が見えない学生には何についてはなしているのかを理解することができない。さらに,スライドなどの視聴覚機器は授業によっては必要であろうが,スクリーンに投影された映像を見ることのできない学生にとっては,授業の理解度に問題を生じるであろう。このような観点から,本学の現状を検討してみることにした。 1)板書について  授業ではどのくらいの率で板書が行われているかを聞いた。その結果,点字使用者では,80%以上の教官が板書をすると答えたものが14名(70.00%)で,30%以下と答えたものが4名(20.00%)であった。また,弱視学生では,それぞれ,35名(42.17%)と23名(27.71%)であった。点字使用学生の履修している授業で板書の率が高くなっていることが目立つが,実際にそうなのか,点字使用学生が,弱視学生に比べて板書が気になるのかはこれだけだとわからない。  板書が見えないために,授業内容がわからないことがあるかを聞いた。弱視学生の内,18名が板書は見えるので問題ないと答えているので除いて集計してある。点字使用者の28%,弱視学生の15%が,板書が見えなくても教官の説明だけで十分であると答えていた。しかしながら,点字使用者の72%,拡大資料利用者の85%は,頻度の多少はあっても,板書が見えないために授業内容がわからないことがあると答えている。文字による資料やグラフィック資料がないときと比べると,弱視学生は板書が見えなくて困っているようである。  板書が見えないとき,学生はどのような対応をしているかを聞いた。板書は見えなくても教官が説明してくれるので困らないと回答したのは,点字使用学生,弱視学生ともに約3割であった。点字使用学生の約3割,弱視学生の3割弱が板書が見えないまま授業を受けている。  点字使用者の40%,弱視学生の24%ぐらいは,板書の内容を説明してほしいとか,板書の内容を資料にして配布してほしいという要求をしている。  この問いでは,複数項目に回答してもよいことになっていたので,板書が見えないので「わからないないまま授業を受けている」場合に,「わからないところは友人に聞く」というケースがどのくらいあるかをクロスさせてみた。その結果,「わからないないまま授業を受けている」点字使用者6名の内,2名(33.33%)が「わからないところは友人に聞く」としている。弱学生の場合は,15名中,9名(60.00%)が同様のケースに該当していた。ただ,弱視学生の場合は,普通の資料は読めるので拡大資料は不必要であるとした18名は除いてある。弱視学生の方がわからないところを友人に聞く率が高い。 2)視聴覚機器の使用  授業ではどのくらいの率で視聴覚機器が使われているかを聞いた。その結果,点字使用者では,80%以上の教官が視聴覚機器を使用すると答えたものが2名(10.00%)で,30%以下と答えたものが18名(90.00%)であった。また,弱視学生では,それぞれ,1名(1.19%)と78名(92.85%)であった。スライドなどの視聴覚機器は,授業ではあまり使われていないようである。  スライドなどが見えないために,授業内容がわからないことがあるかを聞いた。弱視学生の内,20名がスライドなどは見えるので問題ないと答えているので除いてある。点字使用者の38%,弱視学生の31%が,スライドが見えなくても教官の説明だけで十分であると答えていた。しかしながら,点字使用者および弱視学生の7割程度は,頻度の多少はあっても,スライドなどが見えないために授業内容がわからないことがあると答えている。  スライドなどが見えないとき,学生はどのような対応をしているかを聞いた。スライドなどは見えなくても教官が説明してくれるので困らないと回答したのは,点字使用学生,弱視学生ともに約3割であった。点字使用学生の約3割,弱視学生の3割弱がスライドなどが見えないまま授業を受けている。これは板書の時の傾向とよく似ている。点字使用者の19%,弱視学生の20%ぐらいは,スライドの内容を説明してほしいとか,スライドの内容を資料にして配布してほしいという要求をしている。  この問いでは,複数項目に回答してもよいことになっていたので,スライドなどが見えないので「わからないないまま授業を受けている」場合に,「わからないところは友人に聞く」というケースがどのくらいあるかをクロスさせてみた。その結果,「わからないないまま授業を受けている」点字使用者5名の内,2名(40.00%)が「わからないところは友人に聞く」としている。弱学生の場合は,21名中,9名(42.86%)が同様のケースに該当していた。ただ,弱視学生の場合は,スライドは見えるので問題ないとした20名は除いてある。点字使用者と弱視学生の傾向は似ていた。 3)授業中の指示語の使用  授業ではどのくらいの率で「あれ」とか「これ」などという指示語が使われているかを聞いた。その結果,点字使用者では,80%以上の教官が指示語を使用すると答えたものが3名(15.00%)で,30%以下と答えたものが11名(55.00%)であった。また,弱視学生では,それぞれ,13名(15.48%)と44名(52.38%)であった。指示語は,授業ではあまり使われていないようである。  教官が指示語を使うことによって,授業内容がわからないことがあるかを聞いた。点字使用者の42%,弱視学生の43%が,教官が指示語を使用しても内容はわかるので問題ないと答えていることがわかる。しかしながら,点字使用者および弱視学生の6割弱は,頻度の多少はあっても,指示語の使用のために授業内容がわからないことがあると答えている。  教官の指示語によって授業内容がわからないとき,学生はどのような対応をしているかを聞いた。教官が説明してくれるので困らないと回答したのは,点字使用学生が約3割,弱視学生ともに約4割であった。点字使用学生の約4割,弱視学生の3割が指示語によって内容がわからないまま授業を受けている。点字使用者の2%,弱視学生の11%ぐらいは,指示語の内容を説明してほしいと要求をしている。 4)教官の不明瞭な声  授業中の教官の声が小さかったり,不明瞭であることによって授業内容がわからないことがあるかどうかを聞いた。この項目は,視覚障害学生の配慮とは少し違う領域に属することであるが,一応聞いてみた。意外なことに点字使用学生の90%,弱視学生の80%が教官の声についての問題点をあげている。 5.レポートの形式について  従来のレポートは,レポート用紙に手書きで墨字を書いて提出するものであった。しかし,パソコンやワープロの発達によって,いまではほとんどのレポートはこれらの機器を利用して作成される。視覚部では,視覚障害補償システムを利用した文書作成方法を入学時に集中的に指導することにしており,その技能を利用してレポートを作成することにしてきた。ここでは,レポート作成とコンピュータ利用との関係が,学生の意識の中ではどうなっているのかを調べることにした。 1)現状におけるレポート作成方法  現在,レポートはどのような形態のものを提出することになっているかについての回答によると,紙に出力された漢字仮名文書で提出するやり方がもっとも多いことがわかった。また,「漢字仮名ファイルをフロッピーで」という回答は,点字使用者では75%と高いのに比べて,弱視学生では37%と低いことが目立つ。  ところで,点字使用学生の60%(12名)は点字でのレポート提出をしていない。これらの学生はどのような方法でレポート提出しているのかを,「紙に出力した点字文書」にチェックしなかったものが,他のどの項目にチェックしたのかを調べてみた。その結果,「漢字仮名ファイルをフロッピーで」が7名(58.33%),「漢字仮名ファイルを電子メールで」が3名(25.00%),「紙に出力した普通サイズの墨字文書」が11名(91.67%)であった。したがって,これらの点字使用学生は,いわゆる墨字情報でレポートを提出していることになる。 2)レポート作成方法の好み  従来まで,レポートは手書きで作成したのであるが,今回の調査では手書きでレポートを作成するということを想定しなかった。手紙などの人と人が一対一で通信する場合は手書き文書というものが意味をなしてくるだろうが,いわゆる公式文書や技術文書では手書きよりも印刷様式の方が選択されるからである。現状の提出方法では,点字使用者といえども,漢字仮名混じり文書の作成が求められていることがわかったが,学生自身ではその問題がどのように意識されているのだろうか。レポート作成方法についての学生の好みを聞いたところ,点字資料学生が点字文書でなく,墨字のしかもコンピュータで処理する方法でレポートを提出する方を好んでいるということがうかがえた。一方,弱視学生の場合は,ワープロで作成するところまではコンピュータが関係するが,提出となると,紙に印刷された文書が優先され,フロッピーや電子メールはあまり好まれていないようである。  レポート提出方法の好みを聞くときに,同時にそれがなぜ好きかも聞いておいた。好きな項目とその理由についてのクロス集計をしてみたところ,点字文書がよいと答えた2名は,当然「慣れているから」であるが,墨字のレポート提出がよいと答えた5名の内1名が、慣れている」という理由を挙げているのは興味深い。点字や漢字仮名ファイルを電子メディアで提出するのはコンピュータ処理を想定しているからであるが,、慣れているから」という理由を挙げているものも若干含まれているのは,コンピュータ処理が学生には一般的になってきた現れであろう。理由として「教官に便利だから」という項目をあげた点字使用者は一人もいなかった。  弱視学生の場合,「慣れているから」「紙に出力した普通サイズの墨字文書」を提出すると答えたものがもっとも多かったが,電子ファイルを電子メディアを利用して提出する学生の20%程度が、慣れているから」という理由を挙げているのは,点字使用者の場合と同様に,コンピュータ処理が日常化してきた現れなのであろうか。ここでは,10%弱が「教官に便利だから」という理由を挙げているのは点字使用者とは違う傾向である。 3)レポート作成上の問題点  教官に指定された形式でレポートを提出できないときに,学生はどうしているのだろうか。点字使用者の場合は,弱視学生に比べて「自分のやり方を通している」と答えた比率が少なく,そのかわり,「友達の助力で,指定された形式になおしている」の率が高くなっている。点字使用学生がレポートを作成するときには,弱視学生の助力を仰ぐ機会が多いのかもしれない。また,コンピュータを利用して,「どのような形式でも作成できる」ようになった学生が3割程度になっていることがわかる。 4)将来のレポート形式  近い将来,レポートはどのような形式で提出することになるかについて聞いた。点字使用者の延べ16名がコンピュータを利用した提出形式を選択しており,紙に出力した点字文書としてレポートを提出するという回答はなかった。弱視学生の場合は紙に印刷した文書が4割程度で,残りがコンピュータを利用したレポート提出を理想としていた。次に,理想的なレポートとその理由をクロスしたときの結果を示す。点字使用学生の場合,延べにして11名がコンピュータの利点をあげており,9名が慣れをその理由としているが,慣れを理由としたもののほとんどがコンピュータが介在したレポート作成・提供であり,コンピュータの利用は近い将来日常化するという意識の反映であろうと思われる。弱視学生では,延べ46名がコンピュータ利用の利点を理由としているが,25名は、慣れているので」「紙に出力した普通サイズの墨字文書」が理想的であるとしている。ただ,レポートを作成する手段はワープロであろうから,文書作成にはコンピュータの利用は必要であると考えていることにはちがいない。 6.支援や配慮についての総合的評価  質問紙の最後に,視覚部の全体的な配慮や支援についての満足度を5点尺度で評価してもらった。その結果,配慮や支援の現状をプラスにとらえているのは,点字使用学生では10名(50.00%),弱視学生では36名(43.38%)であり,マイナスにとらえているのは,点字使用学生では5名(25.00%),弱視学生では20名(24.09%)であった。満足していない部類に属す学生は,点字使用学生も弱視学生も同じような比率であった。  ところで,学生からの総合評価の値はどのような要因が影響しているのであろうか。5段階評定を一応メトリックな変数と考え処理することにした。  点字使用学生のデータで,コンピュータをよく利用する学生とその評価点との関係をみてみた。授業中に点字盤でノートを取る群を1とコード化し,パソコンでノートを取る群を2とコード化して,依存変数を総合評価としたときの1要因の分散分析を行ったところ,点字盤群の評価点の平均が2.5,パソコン利用群は2.9であった。総合評価の評点は,1が「配慮や支援が十分満足」,5が「きわめて問題が多い」ということにしたので,得点が低い方が満足度が高かったことを示している。パソコン組の配慮・支援に対する総合評価が厳しいという傾向はあるが統計的には有意ではなかった(F=0.346,df=1/16,p>0.05)。  次に,「授業中に点字の資料がないために授業内容がわからないことがあるか」という問いに対して,「点字資料がなくても教官の説明で内容がわかる」と答えたものを1とし,多少ともわからないことがあると回答したものを2とコード化して総合評価点との関係をみたところ,2つの群間に有意な差はなかった(F=3.75,df=1/18,p>0.05)が,1の群の平均値が1.80で,2群の平均値が3.00であったところから,「点字資料がなくても教官の説明で内容がわかる」と答えたものは,視覚部の視覚障害支援に対してプラスの評価をしている傾向がうかがえる。  さらに,触図の準備状況と総合評価との関係もみてみた。「触図資料がなくても教官の説明で内容がわかる」としたものを1としてコード化し,頻度の差はあるが「わからないことがある」と答えたものを2とコード化して,1要因の分散分析を行った結果,差は有意ではなかった(F=1.901,df=1/18,p>0.05)。しかし,1群の平均値が2.00で,2群が2.933であったところから,「触図資料がなくても教官の説明で内容がわかる」としたものが,プラスの総合評価をしている傾向がうかがえる。  弱視学生について,視力と視野の程度が総合評価に与えた影響を2要因の分散分析によって確かめたところ,視覚的な障害の程度が評価に影響を与えてはいなかった。また,何らかの補助手段を使えば小さな墨字の資料を読めるかどうかという項目と総合評価との関係もみられなかった(F=0.282,df二3/79,p>0.05)。さらに,好みの文字サイズとの関係も同様に有意ではなかった(F=0.089,df=5/78,p>0.05)。  一方,「授業中に拡大資料が用意されていないために,授業内容がわからないことがありますか」という問いに対して,「資料を拡大する必要がない」としたものを1に,「拡大資料がなくても教官の説明で内容がわかる」としたものを2と,頻度の多少はあるが「わからないことがある」としたものを3として再コード化して,総合評価値との間での分散分析を行ったところ,有意な結果を得た(F=4.502,.f=2/79,p<0.05)。ちなみに,1の平均値は2.513,2では2.214,3の場合は3.138であったから,「拡大資料がなくても教官の説明で内容がわかる」と答えたものの評価が一番高かったことがわかる。