理学療法学科の3年次臨床実習における学生の成績について 筑波技術短期大学 理学療法学科 須田 勝・川合 秀雄・薄葉 眞理子 小池 勝明・高橋 憲一・松澤 正 要旨:平成6年度から平成8年度までの理学療法学科3年次の実習成績について,実習病院の臨床実習指導者により記載された「臨床実習評価表」をもとに分析を行った。その結果,理学療法士としての資質には問題はないが,理学療法の進め方と症例報告書の作成は,やや不得手であるという傾向が認められた。今回得られたデータから,不得手な面を明確にしながら,今後の学生の指導に生かして行きたい。 1.はじめに  「理学療法士および作業療法士法」の指定規則で理学療法士養成機関の学生の卒業条件として,810時間の臨床実習を義務づけている。本学理学療法学科でもこの規定に基づき,1年次,2年次および3年次において,それぞれ1週間,3週間,16週間の学外の病院・施設において臨床実習を実施している。各学年毎の臨床実習の内容の概略を述べると以下のとおりである。 (1)l年次臨床実習:1週間の見学実習で,病院における医療およびリハビリテーション医療の理解と,医療機関における理学療法士の役割と位置づけを理解することを主な目的としている。 (2)2年次臨床実習:3週間の評価実習で,授業で学んだ基礎医学,臨床医学および理学療法専門科目をもとにして,実際の患者を通して理学療法に必要な評価の実際を学習することを主な目的としている。 (3)3年次臨床実習:1期目8週間,2期目8週間の合計16週間の病院・施設における理学療法の実地修練で,病院の理学療法士の指導監督のもとで患者の評価から治療計画の立案,治療の実施までの一連の実習を行い,理学療法士としての知識,技術を習得し,あわせて医療人として責任ある態度を養うことを主な目的としている。  今回,私たちは本学理学療法学科の学生が病院実習において,どの様な部分を得手,不得手としているのか,また実習を通してどの様に成長しているのかを知り,今後の指導に役立てるため,病院の臨床実習担当の理学療法士によって記載された「臨床実習評価表」(全国理学療法学士,作業療法士学校養成施設連絡協議会関東ブロック会作成)の評価表に基づいて,(1)成績の分布状況,(2)中間評価から最終評価までの学生の進歩の程度,(3)本学理学療法学科学生の臨床実習における得手,不得手な点,(4)総合成績の分布状態,に関する分析を行った。 なお,「臨床実習評価表」の評価基準は以下のとおりである。 「優」:わずかな助言・指導を与えるならば,・・・ができた。 「良」:時々助言・指導を与えるならば・・・ができた。 「可」:十分な助言・指導を与えるならば・・・ができた。 「不可」:十分な助言・指導を与えても・・・ができなかった。 2.方法  平成6年から平成8年までの本学理学療法学科3年次生の「臨床実習評価表」に記載された成績を項目別に集計し,分析を行った。各年度毎の学生数は平成6年度が6名(男6名,女0名),平成7年度が16名(男8名,女8名),平成8年度が10名(男5名,女5名)の合計32名,延べ64名である。また,評価表を記載していただいた病院・施設は延べ64箇所である。 3.結果 1)中間および最終評価の成績分布状況  表1は3年次の「臨床実習評価表」の評価項目と中間および最終評価時の成績分布状況を示している。 (1)「Ⅰ.専門職としての適`性およびふさわしい態度」の項目について,平均で見ると,中間では「良」が42%,「優」が33%,「可」が22%,「不可」が3%の評価を受け,最終では「優」が43%,「良」が43%,「可」が13%,「不可」が1%の評価を得ており,本学の大多数の学生は理学療法士としての資質には問題ないことを示している。 (2)「Ⅱ.理学療法の進め方」の項目について平均でみると,中間では60%の者が「可」,30%の者が「良」,8%が「不可」,2%の者が「優」であった。すなわち,中間評価時点では約60%の学生が,“十分な助言・指導”を与えないと一連の理学療法を進めていくことができないことを示している。一方,最終では53%の者が「良」,35%の者が「可」,8%の者が「優」,4%の者が「不可」であった。すなわち,最終評価時点で過半数の学生は“時々助言・指導”を与えれば,一連の理学療法を進めていくことができるように進歩したことを示している。 (3)「Ⅲ.症例報告書の作成・提出・発表」の項目について平均でみると,42%の者が「可」,35%の者が「良」,13%の者が「優」,10%の者が「不可」であった。一方,最終では50%の者が「良」,31%の者が「可」,18%の者が「優」,1%の者が「不可」であった。 2)中間および最終評価の成績の進歩の状況  「優」=4点,「良」=3点,「可」=2点,「不可」=1点として平均点を求め,中間および最終評価時における成績を各評価項目毎に比較したものが図1~図3である。これらの図より,すべての評価項目において,中間よりも最終の方の点数が高くなっている。すなわち程度の差はあるが,すべての評価項目において進歩が認められている。 (1)「Ⅰ.専門職としての適性およびふさわしい態度」の項目について,進歩の大きかった上位3項目をあげると,〈患者との信頼関係が作れる>,〈知識・技術に対する向上心・探求心を発揮する>,〈患者に節度ある言葉を使い,礼儀をつくせる〉の順であった(図1)。 (2)「Ⅱ.理学療法の進め方」の項目について,進歩の大きかった上位3項目をあげると,〈必要に応じて治療計画を変更できる>,〈得られた情報から問題点をあげることができる>,〈治療目的を設定できる〉の順であった(図2)。 (3)「Ⅲ症例報告書の作成・提出・発表」の項目については,3項目ともほぼ同程度の進歩を示している(図3)。 3)中間および最終評価における「優と良」の割合と「可と不可」の割合  いわゆる“手のかかる学生”,“比較的,手のかからない学生”がどの程度いるのかを見ることと,“手のかかる学生”がどの程度“比較的,手のかからない学生”に進歩したのかを見るために,「良」以上を“比較的,手のかからない学生”,「可」以下を“手のかかる学生”として(評価基準参照),それらの中間および最終評価における割合を求めた(図4~図6)。 (1)「1.専門職としての適性およびふざわしい態度」の項目について平均でみると,中間では「優と良」が75%,「可と不可」が25%であり,最終では「優と良」が86%,「可と不可」が14%であった。すなわち,最終評価時には中間で“手のかかる学生”のうち約半数が“比較的,手のかからない学生”に進歩しており,結果として90%弱の学生が,あまり臨床実習指導者の手を煩わせないで実習を行うことができるレベルに達していることが分かる(図4)。 (2)「Ⅱ.理学療法の進め方」の項目について平均でみると,中間では「優と良」が38%,「可と不可」が62%であり,最終では「優と良」が68%,「可と不可」が32%であった。すなわち,この項目においても最終評価時には中間で“手のかかる学生”のうち約半数が“比較的,手のかからない学生”に進歩しており,結果として70%弱の学生が,あまり臨床実習指導者の手を煩わせないで一連の理学療法を実施できるレベルに達していることが分かる(図5)。 (3)「Ⅲ.症例報告書の作成・提出・発表」の項目について平均でみると,中間では「優と良」が49%,「可と不可」が51%であり,最終では「優と良」が67%,「可と不可」が33%であった。すなわち,この項目においても最終評価時には“手のかかる学生”が51%から33%ヘと減少しており,結果として70%弱の学生が,あまり臨床実習指導者の手を煩わせないで報告書の作成・提出・発表を行うことができるレベルに達していることが分かる(図6)。 4)「臨床実習評価表」に見る,本学学生の得手,不得手な点 (1)「Ⅰ.専門職としての適性およびふさわしい態度」については,〈知識・技術に対する向上心・探求心を発揮する〉こととく患者との信頼関係が作れる〉ことが不得手であるようである。また,〈医療人としての身だしなみ〉やく実習病院・施設の規則を守る〉ことには大部分の学生が気をつけていることが分かる。 (2)「Ⅱ.理学療法の進め方」については,全体的に不得手の様であるが,その中で特に不得手な部分は,〈得られた情報から問題点を上げること〉と,〈必要に応じた治療計画の変更〉およびく担当症例に即した基礎知識〉を備えていることである。一方,比較的得手な部分は,〈面接および他部門からの情報収集〉と,〈患者へのオリエンテーション〉およびく経過記録とその報告〉である。 (3)「Ⅲ.症例報告書の作成・提出・発表」については,提出期限を守ることは得手の様であるが,報告書の作成と発表はやや不得手の様である。 5)総合成績の分布状態  実習を総合的に評定した総合成績の分布状態は,「優」が約10%,「良」が約55%,「可」が27%,「不可」および「保留」が8%であり(図7),全体の約3分の2の学生が「良」以上と判定されている。 表1 各評価項目毎の成績分布状況 図1 中間評価と最終評価の比較 図2 中間評価と最終評価の比較 図3 中間評価と最終評価の比較 図4 「優と良」と「可と不可」の中間・最終評価における割合 図5 「優と良」と「可と不可」の中間・最終評価における割合 図6 「優と良」と「可と不可」の中間・最終評価における割合 図7 総合成績の百分率 6.まとめ  平成6年度から平成8年度までの理学療法学科3年次臨床実習の評価表に基づいて,本学学生の平均的なプロフィールを求めて分析を行ってみた。以下に簡単に分析結果をまとめる。 (1)成績の分布状況  「Ⅰ.専門職としての適性およびふさわしい態度」に関しては概ね高い評価を得ているが,「Ⅱ.理学療法の進め方」と「Ⅲ.症例報告書の作成・提出・発表」については,平均的にみて「可」のレベルにある。総合成績でみると全体の3分の2が「良」以上であった。 (2)中間評価から最終評価までの学生の進歩の程度,  すべての項目において,中間よりも最終評価における成績の方が良くなっている。ここで注目に値するのは,「Ⅱ.理学療法の進め方」における学生の進歩の状況である。すなわち「優と良」の割合と「可と不可」の割合が最終評価において劇的に逆転していることであり,このことは学生の並々ならぬ努力と,実習指導者のねばり強い指導の存在を示している。 (3)本学理学療法学科学生の臨床実習における得手,不得手な点,  医療人としての資質は良いものを持っているが,専門の分野に関する知識・技術に関しては,まだ不十分なものがあると考えられる。  以上のことから,本学理学療法学科の学生は理学療法の専門分野に関する知識・技術はいまひとつ不十分ではあるが,真面目に努力している良い面を持っている。また理学療法士としての資質も十分備えているので,今後,不得手な面に関するフォローアップ,すなわち実際の理学療法の進め方についての具体的な指導と,症例報告書の作成についての事前の指導を十分行うことにより,より充実した臨床実習が行えるようになるものと思われる。