公開講座「健康と東洋医学」の概要と受講者の動向 筑波技術短期大学鍼灸学科 森 英俊・大沢 秀雄・西條 一止 要旨:筑波技術短期大学鍼灸学科では,地域の住民を対象に,東洋医学の啓蒙と普及を目的に公開講座「健康と東洋医学」開設している。平成4年度開設以来,これ迄延べ604人の受講者があった。アンケート調査の結果,受講者の性別は女性が多く(63%),年齢は40歳代が最も多かった(34%)。広報の方法としては地域のミニコミ誌が最も有効であった。講座の内容や回数については,適当であるという意見が過半数をしめているが,実技の時間を増やしてほしいとういう要望が多かった。 キーワード:公開講座,東洋医学,鍼灸,あん摩,マッサージ,指圧,漢方薬 1.緒言  近年,東洋医学への社会的関心が高まってきている。筑波技術短期大学は国立大学で唯一鍼灸学科をもつ大学であり,鍼灸医学に関する啓蒙・普及することは,私達の責務であると考える。  このような考えから,本学鍼灸学科および附属診療所の所属教官は平成4年度より,公開講座「健康と東洋医学」を開設し,鍼灸療法・手技療法・漢方療法等の東洋医学に関する知識と実技の講習を行い,地域の住民への普及・啓蒙をはかってきた。本年度で開設5年となるので,一つの区切りでもあり,これ迄の公開講座の概要を紹介するとともに,毎回(平成5年度~平成8年度)受講者を対象に実施してきたアンケートの結果を分析したので報告する。 2.公開講座「健康と東洋医学」の概要 (1)講座の目的  健康な生活をおくるために東洋医学の知恵をどのように活用できるかを地域の人々に講義し,家庭でできるツポ療法と指圧や按摩などの手技療法を実技を中心に指導した。 (2)実施期間  平成4年度から平成7年度までは春(5月~7月)と秋(9月~11月)に開設し,8回シリーズで実施した。受講者の多数から,実技をさらに詳しく勉強したいとの要望等があったことから,平成8年度(6月・7月・9月・10月)は,11回シリーズに増やして行った。回数の関係で年1回の開催とした。 (3)開設曜日・時間 毎週金曜日,18:30から20:30の2時間 (4)実施場所 筑波技術短期大学視覚部大学会館講堂 (5)受講対象 一般市民 (6)講座内容  東洋医学に関する基礎的な知識と,一般市民が家庭でできる,ツボ療法,指圧やマッサージなどの手技療法,及び物理療法や運動療法を指導した。平成8年度の講座内容と講師の一覧を表1に示す。図1に灸の実習風景,図2に手技療法の実習風景を示す。 (7)講師及び補助者について  各回とも,1~2人の講師で講習を行っている。しかし,講習内容が灸や指圧などの実技が主体であること,また受講者数が80名近い大人数のため,最低6名以上の補助者(鍼灸師・あん摩マッサージ指圧師の有資格者である,鍼灸学科研究生及び附属診療所臨床研修生)を用いた。 表1 公開講座の内容(平成8年度) 図1 灸の実習風景 図2 手技療法の実習風景 図3 公開講座受講者数の推移 3.講座受講者の受講者数  平成4年度から8年度まで,計9回実施し,受講者数の合計は604人(延べ人数)で,1回当たりの平均人数は74.4人であった。受講者数の年次推移を図3に示す。平成6年春は予算執行が遅れ,募集期間が短かったために受講者数が少なかったと思われる。また,平成7年秋は募集期間が夏休みにかかったため,受講者数が少なかったと思われる。このことは,今後の募集にあたって考慮する点であると思われる。 4.アンケートの実施方法  平成5年度春の講座より,公開講座の最終回に以下のような無記名アンケート調査を実施した。 [アンケート項目] 1.性別 2.年齢 3.職業(自由記載) 4.本講座を何でお知りになりましか。(複数回答可) ①新聞の地方版 ②地域のミニコミ誌(常陽リング・ウイクリーなど) ③ポスター→どこに貼ってあったポスターですか? ④本学教職員より ⑤その他 5.本講座の受講動機は何ですか。(複数回答可) ①東洋医学についての知識は殆ど無かったが,この機会に知識を得ようと思った。 ②東洋医学について以前から関心があり,この機会にさらに多くの知識を得ようと思った。 ③東洋医学の治療を以前から受けたことがあり,この機会にさらに詳しい知識を得ようと思った。 ④医療関係の職業に従事しているため,この機会にさらに詳しい知識を得ようと思った。 ⑤その他 6.本講座(講義・実習)を受講した感想をお書き下さい。 7.東洋医学について,今回の講座以外で内容の知りたい事がありましたらお書き下きい。 8.その他(要望がありましたら,何でもお書き下さい) 5.アンケートの集計結果 (1)回収率  平成5年~平成8年までの受講者,延べ483人中,304人(回収率62.9%)の回答があった。なお,講座の最終回に行ったため,最終回の欠席者などには実施していない。 (2)性別  図4に受講者の性別を示す。304人中,男112人(36.9%),女192人(63.2%)で,女性が過半数以上を占めた。 (3)受講者の年齢  図5に受講者の年齢分布を示す。10歳代から70歳代まで広い年齢分布を示している。特に40歳代が最も多く,304人(無回答6名)中,102人(33.6%)であり,次いで50歳代と30歳代が多かった。 (4)受講者の職業  今回の調査では,職業を選択枝で分類せず,自由記載とした。未記入もあり,正確な数値は算出できなかったが,様々な分野の人が受講していた。主婦が特に多く,公務員,教員,会社員が比較的多い傾向にあった。 (5)本講座を何で知ったか  図6に受講者が本講座を知った情報源を示す。地域のミニコミ誌から情報を得ていた人が圧倒的に多く,304人中174人(57.2%)であった。ついで新聞の地方版,ポスターと続いていた。ポスターはどこに貼られていたかについてさらに質問したところ,職業が教員や公務員,大学生の場合,所属の大学や研究機関等の掲示板と答えたものが多かった。その他の記載の中につくば市の広報と挙げている者が19名いたので,項目として追加した。 (6)受講の動機  図7に受講の動機についてまとめた結果を示す。最も多かったのは「東洋医学について以前から関心があり,この機会にさらに多くの知識を得ようと思った」で304人中146人(48%)で,次いで「東洋医学についての知識は殆ど無かったが,この機会に知識を得ようと思った」「東洋医学の治療を以前から受けたことがあり,この機会にさらに詳しい知識を得ようと思った」「医療関係の職業に従事しているため,この機会にさらに詳しい知識を得ようと思った」の順であった。 (7)本講座(講義・実習)を受講した感想  自由記載であったので,回答のあったものについて集計した。 1)回数・時間  平成5年度から平成7年度は8回シリーズで行っていたので,この範囲で集計すると。226人中,適当と答えた人が155人(68.6%)で,回数や時間が少ないと答えた人が68人(30.1%)であった。多いと答えた人は3人(1.3%)であった。少ないと答えた人も,適当と答えた人も,実技時間の増加を要望していた。そこで,平成8年度は回数を8回から11回に増やし,実技の回数を増やす講座にしたところ,回答のあった40人中,適当と答えた人が31人(77.5%),少ないと答えた人が9人(22.5%)となり,適当であると答える人が多くなった。  その他,開催曜日について,勤務の関係で休日に行って欲しい,主婦で家事の時間があるので日中に行って欲しい,短期集中講座を開設して欲しいなどの要望もあった。 2)講座の内容  自由記載であるため,著者らが分類した。講座内容が良かった,興味があった,有益であった,わかりやすかったなどの感想は304人中160人(52.6%)に記載があった。次いで実技の時間や内容を増やして欲しいが46人(15%),もっと詳しい,高度な内容を希望するが27人(8.9%),その反対に難しい内容が一部あったが21人(6.9%)であった。  プレゼンテーションの方法については,実技の箇所をビデオで拡大して,会場の後ろに座っている人でも見えるようにしたことや,補助員が適切に指導したことなどが,感想として書かれていた。 (8)東洋医学について,今回の講座以外で内容の知りたい事  以下のような項目が挙げられていた。 ・病気別講座 ・薬膳 ・気功 ・ヨガ ・つくば市内の漢方薬店,鍼灸師の紹介 ・チベット医学 ・太極拳 ・スポーツマッサージ ・呼吸法 ・食事療法 ・鍼灸師(専門家)になる方法 (9)その他,感想・意見など  様々な感想・意見が書かれていたが,その中で,複数の人が記載している内容について挙げる。 ・鍼や灸を実際に体験できてよかった。 ・この講座をさらに続けていって欲しい。 ・もう1回受講したい。 ・楽しく受講できた。 ・講師の先生がテレビに出ていて,興味をもった。 ・中級編・上級編を開設して欲しい。 ・指圧や灸などのコース別を作って欲しい。 ・休憩時間を設けて欲しい。 ・資料や材料の斡旋をして欲しい。 ・実技の時間を多くして欲しい。 ・一般の人もこの大学を受験できたらよい。 ・イスが疲れるので,疲れにくいイスに変えて欲しい。 ・診療所の漢方外来の時間を増やして欲しい。 ・テキストがあり,後から見ることができるので良い。 ・経穴の一覧の図が欲しい。 ・健康相談の窓口も欲しい。 ・研究・治療施設の見学をさせて欲しい。 ・経穴の名称にフリガナを付けて欲しい。 ・さらに勉強したいので,推薦図書を紹介して欲しい。 ・受講者が多すぎる。 ・若かったら,私も鍼灸師になりたいと思った。 ・アシスタントの先生が,皆さんとても親切だった。 図4 受講者の性別 図5 受講者の年齢分布 図6 本講座を何で知ったか 図7 受講の動機 6.考察  本講座の受講者の性別は女性が多かった。これは鍼灸治療院に訪れる患者の性別が女性が多いという著者らの報告1)と一致している。  受講者の年齢は40歳代が最も多かったが,この年代は社会的に種々のストレスを受けやすく,また成人病など健康に問題が起こってくるため,健康への関心が高いことを伺わせる。著者らの報告!)でも,鍼灸治療院に訪れる患者の年齢は35-45歳が最も多く,今回の結果と一致している。  職業は女性が多いことも反映し,主婦が多かった。また,教員,研究所勤務,公務員,大学生などが比較的多く,筑波研究学園都市の特徴を反映していると思われる。また,医療従事者も多数,受講しており,この事は将来,鍼灸・手技療法などが現代医学の中で普及していく素地になると思われる。  受講生が本講座を知った情報源は圧倒的に地域のミニコミ誌から情報を得ていた人が多く,広報の方法で最も有効であることがわかった。  受講の動機では,「東洋医学について以前から関心があり,この機会にさらに多くの知識を得ようと思った」 ・「東洋医学の治療を以前から受けたことがあり,この機会にさらに詳しい知識を得ようと思った」を併せると75%になり,本講座の受講者が東洋医学に関心があり,実際に治療の受けたことのある人が多いことがわかった。  講座内容については概ね良好な評価を得られたと思われる。講座の目的は鍼灸を正しく理解してくれる人達を増やし,上手に附属診療所を活用してもらえるようにということが直接の目的であったが,地域の人々と大学との接点もできた。実際に受講者の一部は本学附属診療所の鍼灸治療や漢方外来を受けるようになっている。また,平成7年度より鍼灸学科で実施している学生の手技療法の実習のボランティアに本講座の受講者が多数協力して下さっている等2),本学鍼灸学科の教育の発展にも寄与し,いろいろな点でプラスになっている。  受講者より寄せられた意見や感想をもとに,さらに内容の改善を図りたいと考えている。 7.まとめ  鍼灸学科で実施してきた,公開講座「健康と東洋医学」の概要について紹介すると共に,受講生のアンケート結果を報告した。開かれた大学が今日の大学の姿である。象牙の塔でなく,地域と共に,人々と共に本講座の益々の充実を図って行きたい。  稿を終えるに当たり,これ迄,本公開講座にご尽力頂いた教官,事務職員,研究生,研修生の各位に深謝します。また,アンケートの集計は鍼灸学科研究生浅賀辰也氏の多大な協力を頂きました。併せて深謝いたします。 引用文献 1)宮本 俊和,小林 英雄,森 英俊,西條 一止:鍼灸受療者の実態,日本温泉気候物理医学会雑誌50:139-146,1987. 2)形井 秀一,宮村 健二,小林 聰,野口 栄太郎:ボランティアを導入した按摩・マッサージ・指圧実習について,筑波技術短期大学テクノレポート3:83-86,1996.