聴覚障害学生の健康生活・食生活の現状調査報告 聴覚部一般教育等 及川 力・齊藤 まゆみ 要旨:学生の健康や食生活に関する実態を明らかにするために,①健康に関すること,②喫煙と飲酒に関すること,③食事の頻度や摂り方に関すること,④食事作りに関すること,について調査を実施した。 そのうち,今回は男女間について検討した結果を報告する キーワード:聴覚障害,健康生活,食生活,大学生 1.目的  全員が聴覚障害者である本学の学生は,ほとんどが学生寄宿舎で生活している。  大学での生活は高校までと多いに様相が異なり,ストレスが多い。学習時間が長くなり疲労が増す上,高度な内容の授業が多いため理解に苦労する。授業担当者から出される課題もかなりの数にのぼる。高校時代のようにサークル活動に多くの時間を割ける学生は限られていることから,特に男子において運動不足が大きなストレスになっている2)。学生問のコミュニケーション方法の違いや付き合い(他人との距離の取り方)も入学1年目は大きなストレスの原因となる。  また,食事面をみると,高校までは自宅通学であろうが寄宿舎生活であろうが,とにかく常に3食は用意されていた。大学には食堂が設けられているが,営業は昼間だけで朝夕は利用できない。  このように本学に入学した途端,あらゆる条件が変わってしまうわけである。  こういった状況の中で,学生は健康維持のためにどのような生活を送っているのだろうか。  学生の健康や食生活に関する実態を明らかにする目的で調査をしたので,このうち今回は男女間について検討した結果を報告する。 2.方法  調査は1997年10月末から11月上旬にかけて質問紙法により行った。対象は聴覚部に在学中の学生のうち,保健体育科目を受講している149名で,このうち126名(男子85,女子41)を有効回答として分析の対象とした。なお,「10月1ヶ月間の状態について」回答するよう依頼した。  比率に関する検定にはX2検定を用い,5%以上を有意とした。 3.結果及び考察 3.1健康に関すること  健康に「自信がある」と「まあ自信がある」を合わせて『自信がある」「あまり自信がない」「全く自信がない」を合わせて『自信がない』として検討した。全体では7割強の学生が『健康に自信がある』と回答した。男女別にみると,『自信がある』と『自信がない』の比率は男子でおよそ8:2,女子でおよそ6:4であり,『健康に自信がある』と答えた比率は男子に多く,両者には統計的有意差が認められた(P<0.01)。  「健康面で何か気掛かりなことがある」と答えたのは全体の6割強に達した。また,その割合は男子(58.5%)よりも女子に多く70%を越えたが,有意な差は認められなかった。気掛かりの内容は①疲れやすい(48.8%)②やる気が出ない(45.0%)③目覚めが悪い(26.3%)④風邪を引きやすい(23.8%)⑤いらいらする(22.5%)などであった。  普段,健康維持のために心がけていることがあるのは,男女とも8割弱にのぼった。その内容としては①睡眠を十分とる(55.1%)②運動やスポーツをする(42.9%)③栄養のバランスに注意する(41.8%)④タバコを吸わない(29.6%)⑤3食きちんととる(24.5%)が上位5位を占めた(複数回答)。この中で興味をひくのは2番目の「運動やスポーツをする」の項目の男(52.2%)女(22.6%)の割合に2倍以上の開きがあることである。両者には統計的有意差が認められた(P<0.01)。上位5項目中,有意差が認められたのはこの項目だけで,女子は男子にくらべて,健康維持のために日頃運動やスポーツを心がけている割合が少ないといえる。 3.2喫煙と飲酒に関すること  タバコを「たまに吸っている」及び「吸っている」を合わせて『吸っている』として検討した。その結果,学生の喫煙率は全体で24.6%(男子30.6%,女子12.2%)であった。1997年の20歳以上の喫煙率は男性56.1%,女性14.5%(平均34.6%)であり,学生の数値はいずれの場合も20歳以上の喫煙率を下回った。大学生の調査。では喫煙率は41.5%とする報告もある。しかし,中学・高校生を対象とした喫煙実態調査3)では高校3年生の男子で約27~37%,女子で約5~15%という報告があり,本学の実態はむしろこれに近い。  喫煙本数では吸っている学生31名中,5本以内が最も多く12名,ついで11~20本が8名,10本以内が5名,わからないが5名であった。  お酒の嗜好度については,「好き」及び「まあ好き」をお酒の『好き』な群,また「あまり好きではない」及び「きらい」をお酒の『好きではない』群として検討した。その結果,全体では『好き』54.0%,『好きではない』46.0%とほぼ同じになったが,男女別に見ると,『好き』と答えたのは男子49.4%に対して女子63.4%となり,お酒に関しては女子の方が好む傾向が見られた。なお,『好き』と回答した68名の学生に1週間の飲酒頻度を尋ねたところ,「週1回」が50%,ついで「全く飲まない」が38.2%,「週2,3回」が11.8%で,男女間に大きな違いはなかつた。喫煙や飲酒に対する指導は,従来あまり行なっていないが,このような実態調査をした以上,今後検討されるべきだろう。 3.3食事の頻度や摂り方に関すること  学生に朝,昼,夕の3食をきちんと摂っているかどうか,また,どのようにして摂っているか尋ねてみた。  その結果,昼食,夕食はかなりの高率で摂っているものの,朝食をほとんど食べない学生が全体で3割程度いた。また,少なくとも週2日以上朝食を摂っている学生(88名)の中では,「自炊」している者が多く(男子66.7%,女子87.5%),男子では「テイクアウト」(25.0%)がそれについでいた。  昼食を「自炊」だけで賄っている学生は4割を越えた。特に女子はほぼ5割であり,「自炊と大学食堂の併用」者を合わせると女子全体の85%を占める。女子で昼食を「大学食堂」だけで賄っている学生は,ほんのわずかだった。男子は女子とは様相が異なり,昼食では「自炊」か「大学食堂」利用かの2極に分化している。  夕食は,女子は昼食と同様の傾向を示すが,男子は「自炊」「外食」「自炊と外食併用」がほぼ同じ割合となった。  今回の調査では,自炊やテイクアウトの中味までは調べておらず,単に自分で作る,出来合いのものを買ってきて食べる程度しか規定しなかったので,自炊といってもただパンに牛乳だけということも十分考えられる。今後,摂取している内容にまで踏み込んだ調査(栄養調査)をする必要があると思う。  朝食に関しては,本学学生の場合,勉学その他でかなり忙しい生活を強いられていることから,ことに忙しいと考えられる朝の食事を大学の食堂で摂れるようにすることが必要と考えられる。 3.4食事作りに関すること  最後に全員に,食事の問題で何か困っていることがあるか尋ねた(複数回答)。その結果,①食事を作る時間がない(57.1%),②食事を作る設備が不十分である(46.0%),③買い物をするのがめんどうである(41.3%),④後片付けがめんどうである(34.9%),⑤とにかくめんどうである(24.6%),が上位5つを占めた。  また,自分でほとんど食事を作ったことのない学生を除く,学生全員(111名)に「料理を作る時に気を付けていることは何か」尋ねた結果,①野菜を多くとる(61.3%),②栄養のバランスを考える(55.9%),③インスタント食品を減らす(30.6%)という回答が多かった。  「困っていること」,「気を付けていること」のいずれの回答にも大きな男女差はなく,男子も女子も食事や食事作りに関する認識はほぼ同じであることがあきらかとなった。  学生の回答の中で「時間がない」,「買い物や片付けが面倒」などは学生の努力によって何とかなる面もあるが,約半数の学生が「設備が不十分」と答えている施設・設備面では大学にもまだまだ改善の余地があるように思われる。 図1 健康に自信がありますか 表1 健康に関する項目(N=126) 図2 健康面で気掛かりなことは何か(複数回答) 図3 健康維持のために心がけていることは何か 表2 喫煙と飲酒に関する項目(N=126) 図4 お酒を飲むことは好きですか 図5 朝食をどれくらいの頻度で摂っていますか 表3 食事の頻度等に関する項目(N=126) 図6 食事作りで困ったこと 図6 食事作りで困ったこと 4.おわりに  調査した男子学生の中に,朝食も昼食もほとんど摂らないと回答した学生が1名いた。当然のことながら,健康にはあまり自信がないと答えていた。10月は学園祭が行われたし,もしかしたら就職活動や家庭からの仕送り等が影響していたのかもしれないので,あくまで特殊な状況だったと考えたい。この例は極端だとしても,常時朝食を抜く人(30.2%)及び週2,3回食べる人(23.8%)を合わせて,半数を越える学生が週の半分以上朝食を摂らないで登校する状況は,例え大学といえども,健康教育の観点からやはり改善されるべきではないかと考える。朝食抜きは生理学的及び脳生理学的に身体に悪影響が出るからである。  それと同時に,今後は摂取している食事の内容(栄養調査)等についても検討する必要があろう。  こういった食生活から引き起こされる身体の変化については,保健管理センター等と協力して今後調査する必要があると思われる。 《参考文献》 1)和泉 光則(1997),学生の喫煙と学内マナーに関するアンケート調査,1996年度北海道東海大学教育開発研究センター所報(第9号),P.73-81. 2)及川 力(1994),聴覚障害学生の健康生活上の課題,筑波技術短期大学テクノレポート1,p.38-41. 3)国民衛生の動向,(財)厚生統計協会,1996年 第43巻第9号,p、99-102.