取手市民を対象とした手技療法に関するアンケート結果 筑波技術短期大学鍼灸学科 坂井 友実、野口 榮太郎、和久田 哲司 要旨:取手市民460名を対象に、手技療法に関する意識調査をアンケート方式で行い、回収できた428名について分析した。専門家による施術を受けたことがある者は38%で、定期的に専門家による施術を受けている者は全体の7.5%であった。「施術を受けていない理由」として、多い順に「必要がないから」(32%)、「料金が高そう」(24%)、「治療院がない」(21%)であった。「効果がない」をあげた者は僅か4%にすぎなかった。「施術を受けていない理由」として、40歳代以下では、「料金が高い」をあげており、50歳代以降の年代では「料金が高い」というより、その必要性を感じていない者が多かった。「定期的に施術を受けていない理由」として、「健康になった」(28%)、「効果がない」(13%)、「料金が高かった」(13%)であった。 40歳代以下と50歳代以降では、その年代を境にして「施術を受けていない理由」、「定期的に施術を受けていない理由」に異なる傾向が見られた。 キーワード:疫学調査、手技療法、アンケート調査 1.はじめに  筑波技術短期大学鍼灸学科では、取手市保健センターからの協力依頼を受け、同市主催の「健康まつり」で、市民を対象とした手技療法のボランティアサービスを、平成9年3月の第8回から行っている。この「健康まつり」には開催期間の2日間で約1800名にのぼる参加者があり、鍼灸学科からは、教官3名と学生20名が動員され、460名にもわたる希望者に手技療法のサービスを行っている。  また、あん摩・マッサージ・指圧などの手技療法に対する国民の受容の高さは、「マッサージ器」などの健康機器の売れ行きが上昇していることからも容易に想像できるが、開業治療院などで行われる手技療法に関する国民の意識はどうであろうか。漢方や鍼灸などの東洋医学に関する意識調査は数多くあるものの、手技療法に関するそれは少ない。  今回、このボランティアサービスを希望した取手市民を対象に、簡単な手技療法に関するアンケート調査を行ったので報告する。 2.方法  表1に示した用紙に、身体的状況や愁訴、施術希望の部位と併せて、手技療法に関する質問項目を設け、記入してもらう方法をとった。このアンケートは、手技療法のサービスを行う前に記名の上、答えてもらい回収した。  対象となったのは、「健康まつり」に参加した取手市.近隣市町村住民約1800名のうち手技療法のボランティアサービスを希望した460名で、このうち回収できた428名について分析した。期間は平成10年3月14,15日の2日間である。 3.結果  表2と図1は、今回分析の対象とした428名の男女別、年齢別内訳を示したものである。 男女別では、428名のうち、男97名(22.7%)、女331名(77.3%)で男女比は1:3.4で圧倒的に女性が多かった。 年齢別では、50歳代が150名(35.0%)と最も多く、次いで60歳代が119名(27.8%),40歳代が63名(14.7%)となっており、この3者で全体の約8割近くを占めていた。この傾向は、男女とも同じであった。  「専門家の施術を受けたことがありますか」という質問に対しては、「ある」と答えた者が163名(38%)、「ない」と答えた者が255名(59%)、解答なし11名(3%)であった。約4割の者が専門家によるあん摩・マッサージ・指圧などの手技の治療を経験していた。年齢階級別に施術経験の有無の割合をみてみると、年齢が高くなると「ある」が多くなり、「ない」が少なくなるのは当然であるが、30~50歳代では「ある」が36~37%で、「ない」が60~64%でほぼ近値であるのに対して、30歳未満では「ある」19%、「ない」が81%で、30歳未満とそれ以降の年代を境として、上昇及び下降の程度が大きくなっている(表3,図2)。  次に、「施術を受けていない理由」についてみてみると、「必要がないから」が255名中82名(32%)で最も多く、ついで「料金が高そう」65名(24%)、「治療院がない」57名(21%)となっている。「効果がない」をあげた者は11名で僅か4%にすぎなかった(表4,図3)。施術を受けない理由を年齢階級別にみてみると、30歳未満、30歳代、40歳代では、「料金が高そう」を理由の第一番目にあげる者が多く、それぞれ30歳未満42%、30歳代49%、40歳代32%となっている。「治療院がない」が2番目で、それぞれ30歳未満27%、30歳代30%、40歳代25%となっている。「必要がない」を理由にあげている者は、それぞれ30歳未満23%、30歳代18%、40歳代20%となっている。これに対し、50歳代、60歳代では、「必要がない」を理由のトップにあげており、それぞれ50歳代37%、60歳代37%となっている。「治療院がない」は50歳代21%、60歳代14%で、「料金が高そう」は50歳代14%、60歳代16%であった(表5-10,図4-9)。施術術を受けていない理由として40歳代以下では、「料金が高そう」という意識で、50歳代以降の年代では「料金が高かそう」というより、その必要性を感じていない。40歳代以下と50歳代以降では、その年代を境にして理由が異なっている。  「定期的に施術を受けていますか」という質問に対して、「いる」と答えた者は163名中32名(20%)、「いない」と答えた者は119名(73%)、「解答なし」12名(7%)であった。アンケート対象者全体からみると、「いる」と答えた者は7.5%であった。  年齢階級別にその割合をみてみると、「いる」と答えた者は30歳代6%、40歳代9%であるのに対して、50歳代25%、60歳代21%、70歳以上33%と50歳代を境にして高くなっている(表11,図10)。  次に、「定期的に施術を受けていない理由」についてみてみると、多い順に「健康になった」が119名中33名(28%)、「解答なし」31名(25%)、「その他」25名(20%)、「効果がない」16名(13%)、「料金が高かった」16名(13%)となっている。「下手」であると答えた者は僅か1名(1%)であった(表12、図11)。年齢階級別では、各年代とも「解答なし」、「その他」の占める割合が多くなっているが、この両者以外の項目をみてみると、30歳未満、30歳代、40歳代では、「健康になった」(それぞれ、20%,22%,28%)、「料金が高かった」(それぞれ、20%,17%,17%)を理由にあげる者が多い。これに対して50歳代、60歳代では、「健康になった」(それぞれ、32%,22%)が最も多いものの、「料金が高かった」(それぞれ,13%,8%)を理由にあげる者よりも、「効果がない」(それぞれ,25%,11%)を理由にあげる者が多くなっている。年齢階級別にその割合をみてみても、「効果がない」を理由にあげている者は16名いるが、そのうち14名が50歳代、60歳代であった。「定期的に施術を受けていない理由」について、どの年代も「健康になった」、「解答なし」、「その他」をあげる者が多いが、「料金が高かった」を理由にあげる者の年代は、50歳代以降の年代より、40歳代以下の年代でその割合が多くなっている(表13-17、図12-16)。 表1 アンケート用紙 表2 性別年齢別人数 図1 性別年齢別人数 表3 施術の有無 図2 施術の有無 表4 施術を受けていない理由 図3 施術を受けていない理由 4.考察  今回のアンケート調査の対象となったのは、「健康まつり」の参加者で手技療法を希望した者であることから、健康に対する意識が高く、手技療法に関心の高い集団であることが推測される。また、男女比が均等ではなく、女性が男性の3倍以上にのぼり、50歳代、60歳代の中高年に多いのは、「健康まつり」の参加者が家庭の主婦層が多く、しかも時間的ゆとりを持てる年代が多いためと考えられる。  「専門家の施術を受けたことがありますか」という質問に対して、38%が施術経験「あり」と答えており、定期的に受けている者はそのうちの20%、対象者全体からみると7.5%であった。国民生活基礎調査によると、症状に対する対処法として、鍼灸・あんま・柔道整復師の治療を受けている者は、全体の約8-1%である。これは、手技以外の鍼灸・柔道整復を含めてのものであり、手技に関してだけのものではない。今回の調査で7.5%が定期的にあん摩・マッサージ・指圧などの手療法を受けており、手技の受療率は高いと考えられる。しかし、鍼灸・柔道整復の治療院でも手技療法を併用しているところがあるので、アンケート対象者がこれらの治療院で受けた手技も「あり」と答えていれば、ほぼ平均的と思われる。  次に、「施術を受けていない理由」についてみてみると、40歳代以下では、開業治療院の「料金が高い」という意識を持っており、50歳代以降の年代では「料金が高い」というより、その必要性を感じていない者が多い。さらに、「定期的に施術を受けていない理由」でも、「料金が高かった」を理由にあげる者の年代は、50歳代以降の年代より、40歳代以下の年代でその割合が多かった。40歳代以下と50歳代以降では、その年代を境にして理由が異なっている。今回、対象となった多くが家庭の主婦であり、40歳代以下の年代では子供の養育費や教育費、家のローンなどが最優先され、個人のことは後回しにせざるを得なくなり、一家の家計をあずかる立場としては経済的な負担が大きいと考えられる。子育てから解放され、子供が独立して生計を立て、経済的にも、時間的にもゆとりが出てくる、50歳代以降になって専門家の施術を受けようかという意識が高くなるものと推察される。  また、「施術を受けていない理由」に「治療院がない」をあげている者が21%いるのに対して、「効果がない」をあげた者は、僅か4%にすぎない。この事は、手技は効果があると思っているが、約2割は治療院がないことを理由にしている。治療院があれば、施術を受ける可能性があるということである。この場合の治療院がないということは、単に自分の住んでいる近くに治療院がないのか、自分の気に入った治療院がないのか、いくつかの意味が考えられるので今後の検討が必要である。  また「定期的に受けていない理由」に「その他」、「解答なし」が多かったが、これは設問項目が不十分であったことも考えられ、アンケートにあげた項目以外のものを設ける必要がある。 表5 施術を受けていない理由 図4 30歳未満 施術を受けていない理由 表6 施術を受けていない理由 図5 30歳代 施術を受けていない理由 表7 施術を受けていない理由 図6 40歳代 施術を受けていない理由 表8 施術を受けていない理由 図7 50歳代 施術を受けていない理由 5.まとめ 1)取手市民460名を対象に、手技療法に関する意識調査をアンケート方式で行い、回収できた428名について分析した。 2)専門家による施術を受けたことがある者は38%で、定期的に受けている者は全体の7.5%であった。 3)「施術を受けていない理由」として、多い順に「必要がないから」(32%)、「料金が高そう」(24%)、「治療院がない」(21%)であった。「効果がない」をあげた者は僅か4%にすぎなかった。 4)「施術を受けていない理由」として、40歳代以下では、「料金が高い」という意識を持っており、50歳代以降の年代では「料金が高い」というより、その必要性を感じていない者が多かった。 5)「定期的に施術を受けていない理由」として、「健康になった」(28%)、「効果がない」(13%)、「料金が高かった」(13%)であった。 6)40歳代以下と50歳代以降では、その年代を境にして「施術を受けていない理由」、「定期的に施術を受けていない理由」に異なる傾向が見られた。 表9 施術を受けていない理由 図8 60歳代 施術を受けていない理由 表10 施術を受けていない理由 図9 70歳代 施術を受けていない理由 表11 定期的な施術の有無 図10 定期的な施術の有無 謝辞:このアンケート調査を実施するにあたり、配布から回収まで御協力頂いた取手市保健センターの保健婦の皆様に深甚の意を表します。また、アンケートの集計に協力して頂いた鍼灸学科6期生の大池 哲哉、前田 智洋、三輪 佳永の3君に深謝いたします。 文献 1)東京都衛生局:豊かな社会の健康意識-東洋医学に関する都民意識の分析調査報告書-東京都情報連絡室1990 2)東京都衛生局:豊かな社会の健康意識-専門家による東洋医学意識調査報告書-東京都情報連絡室1991 3)厚生省統計協会:国民衛生の動向44巻9号1997 表12 定期的に施術を受けなくなった理由 図11 合計 定期的に施術を受けなくなった理由 表13 定期的に施術を受けなくなった理由 図12 30歳代 定期的に施術を受けなくなった理由 表14 定期的に施術を受けなくなった理由 図13 40歳代 定期的に施術を受けなくなった理由 表15 定期的に施術を受けなくなった理由 図14 50歳代 定期的に施術を受けなくなった理由 表16 定期的に施術を受けなくなった理由 図15 60歳代 定期的に施術を受けなくなった理由 表17 定期的に施術を受けなくなった理由 図16 70歳代 定期的に施術を受けなくなった理由