スペイン視覚障害者協会(ONCE)にみるスペインの障害者福祉 デザイン学科 伊藤 三千代 要旨:スペインでは宝くじを売る視覚障害者や身体障害者、ONCEと書かれたブースが街のあちらことらに存在する。スペイン視覚障害者協会(ONCE. Organizacion Nacional de Ciegos Espanoles)は視覚障害者の自立と社会参加のため組織された社会福祉団体で東くじの売上で運営をまかない、障害者のノーマライゼーシヨンの実現を可能にする条件の設備を実践してきた。またスペイン政府は1982年以降、障害者の教育と雇用の保障、公共施設の改善を進め、ONCEや他の障害者団体と連帯し官民一体となっての障害者全体のノーマライゼーションの実現を目指している。今凹は昨年(1997年)6~7月に訪問したマドリッドとグラナダのセンター、点字図書館、テープライブラリー、博物館といったONCEの施設と活動を紹介する。 キーワード:スペイン ONCE 視覚障害者 障害者福祉 教育 1.ONCE誕生の経緯  スペイン視覚障害者協会(通称ONCE)は1938年12月13日、視覚障害者の自立と社会参加を目指し設立された。 翌39年、財源確保を目的にスペイン政府が視覚障害者助成宝くじシステム「クポン・プレシエゴス」を創設し、1940年代に視覚障害者以外の身体障害者が組織に加えられ次第にスペイン全国的規模の組織へと発展する。1950年代、現行の組織の原形が形作られ、ONCEクーポン券の販売員数も飛躍的に増加し、それにともない視覚障害者の教育・職業訓練機関が発足、「図書センター」の前身がつくられた。しかし、1975年のブランコ独裁政権が終わるまで善意に支えられた貧しい障害者団体であり盲人救済のためのチャリティーくじにすぎず、スペイン内戦の戦災によって視力を失った軍人が多数参加していたため、独裁政権と良好な関係を保ち続けることができたといわれている。1978年のギャンブル法改正を背景に1985年、財政的に崩壊寸前だったONCEを若手グループが改誼、チャリティーくじから庶民に親しまれる宝くじに生まれ変わった。1988年、財団が設立し、翌4年FUNDOSA(フンドサ)グループ設立、他の障害者団体と連帯し政府管轄の社会福祉協会と調印、官民一体となっての障害者全体のノーマライゼーションの実現を目指して機能している。 2.1 ONCEの活動  ONCEは「視覚障害者も平等の憲法に定められた“公共の福祉”を享受する権利を持つ」との原則にたち視覚障害者の社会参加を推進し、視覚障害者への教育、雇用、研究、文化等の活動を提供している。リハビリテーション、職業訓練、社会参加への基金ベース、イベロアメリカ諸国の障害者援助にも貢献してきた。国家レベルでは点字図書の出版センター、中央図書館、理学療法大学を設立し、各組織レベルではアシスタントスタッフサービスや各地出張所を設けている。 2.2文化事業  視覚障害者が参加できるさまざまな文化活動が企画され7万人近くが参加している。特に音楽サークル活動が盛んであり、スポーツ分野では93年の競技会では26種目,約3000人が参加し、毎年各学校対抗の競技会がが開催されている。また、オリンピック大会、バスケット、自転車競技など各スポーツのスポンサーになっている。 2.3視覚障害者用補助機具の開発  点字印刷機、白杖、読書補助用特殊眼鏡などの研究開発、生活用品や機器の開発を行っている。 2.4雇用機会の提供  クーポンの販売、電話、理学療法士、会計士、自由業など多岐に亘る斡旋が行われている。成人労働者が失明した場合の適職の斡旋や職業訓練講座への経済的援助、専門家への経済的援助、中小企業会計士講座など一般企業に対する身体障害者の雇用拡大の積極的な働きかけをしている。1995年のデータによると会員雇用者(有職者、学生、専業主婦除く)は92.5%で、ONCE関連の雇用で4万7224人(86.2%)ONCE以外が1070人(3.8%)、会員失業者は7.5%である。 3.ONCEの教育  幼児教育、初等教育、中等教育、職業訓練、大学教育、生涯教育と広範囲に亘って活動が行なわれている。幼児6200人、児童・学生6500人以上に教育援助(1995)、幼児教育では家庭と一体化した教育を目標に視覚障児の早期発見、早期治療のため各地区の公共機関との協力の強化、最新の教育心理学の積極的な現地への受け入れを行っている。他に図書館、特別訓練設備、スポーツ施設などのが完備された5つの教育センターがある。  義務教育では、普通校に入学した際、アシスタントサービススタッフを通して特別に補助教材が支給され、担当教師への教育心理学的側面からの助言、学校に対する教材の無償提供(スペインでは義務教育の大半が私学)を行っている。  職業訓練校では、電話オペレータ、速記術、ピアノなどのコース、秘書額、商業簿記、語学、ラジオ関係コースがある。  マドリッドの医学療法大学では1995年に55人、1996に年66人で86%学生が資格を習得している。一般大学希望学生にはアシスタントサービススタッフの援助サービスも行われる。  他に生涯教育として音楽、語学といったコースが設けられている。 4.1ONCEの雇用  ONCE関連企業グループはマス・メディア、ホテル、旅行代理店、サービス業関係、建設業、不動産などすべての分野に亘り、95年ONCEのデータによると全体の雇用者合計4万7224人中、健常者が1万2722人、障害者は3万4502人である。  ONCE財団では、1988~94年の7年間で雇用総数1万300人、さらに大企業への雇用促進、職業訓練を行なっている。  ONCE企業グループのFUNDOSA(フンドサ)とコーポレーションは身体・知能障害者の雇用促進のために設立、現在スペイン第3位企業体であり、34の自社企業、51の雇用促進特別センターが設置されている。 FUNDOSAグループには25社が直接経営、5000人従業員内73%が障害者。オンセ企業コーポレーションでは会員の985人を雇用、経済的社会的収祐の両立を目的(視覚障害者、障害者全体の発言権を至る所に配置しようという意図を含む)にONCE会員の盗難保険、年全積立、貯蓄等の提供と不動産、旅行代理店、銀行、生命・損害保険会社、出版社、ラジオなどへの投資を行っている。 4.2ONCEのクーポン  宝くじ収益は点字本の出版、盲導犬の育成、奨学余制度、初等教育から大学までの盲学校運営といった公共の福祉のための活動に使われる。  宝くじの仕事は売り上げに準じてさらに収入を得られるが基本給が保証されており経済的に自立できる基盤は整えられている。ONCEでくじ売りとして働く視覚・聴覚障害者は95年のデータによると2万1398人、そのうち視覚障害者が66.57%、その他の障害者は33.43%である。 5.ONCEの成果  現在、国内に400拠点があり、支部として拠点を持たない地方はソーシャルワーカー、擁護教諭などの基本的サービスを享受できるアクセスラインが常備されている。視覚障害者に関する調査・研究機関への資金援助、視覚障害の早期発見・治療を促進し、各機関(病院など)との連絡の緊密化している。その他補助活動として、視覚障害が歩きやすい都市計画を推進し公共機関との連絡を強化。盲導犬養成校の開設、国立リハビリテーションセンターでは日常生活適応訓練、特別治療、視力回復訓練等、7箇所3000人以上患者が治療を受けている。高齢視覚障害に対しては在宅ケアの普及、介護人付集合住宅の普及、コミュニケーションを目的とした集会所・クラブの普刀t、経済的援助を行っている。 6.ONCE関連施設の視察  以下の施設を訪問した。 MADRID ・CONSEJO GENERAL ORGANIZACION NACIONAL DE CIEGOS OFICINA DE INFORMACION ・DEPARTAMENTO DE SERVICIOS SOCIALES PARA AFILIADOS ・NEGOCIADO DE SERVICIOS SOCIALES PARA AFILIADOS ・TIENDA EXPOSICION ・CENTRO BIBLIOGRAFICO Y CULTURAL DE A ONCE ・MUSEO TIFLOLOGICO GRANADA ・DIRECCION ADMINISTRATIVA GRANADA ・BIBLLIOTECA O.N.C.E 【写真】 ・マドリッドセンター ・グラナダセンタ- 1992年完成。点字図書・テープライブラリー、視覚障害者用機器・教具の売店、眼科医、中途失明者.弱視者用リハビリプログラム ・点字図書テープライブラリー ・博物館 1992年完成。世界の重要建造物の模型(音声解説、点字資料、ガイド付)展示室、スペイン国内の重要建造物の模型(音声解説、点字資料、ガイド付)展示室、視覚障害作家作品展示室、企画展示室 参考文献 ONCE. Organizacion Nacional de Ciegos Espafioles,:「ASISOMOS La ONCE a las puerta del siglo XXI」,pp3-112(1996), Estudio Pere-Enciso REVISTA DELAONCE:Perfiles, 第128号, pp22-31(1997) Museo Tiflologico:GUIA DEL MUSEO TIFLOLOGICO,Organizacion Nacional de Ciegos Espanoles Centro Bibliograficoy Cultural de la ONCE 桜井 悦子:「オンセの働きと組織-特集スペインのオンセに兇る福祉に対する-考察」他,季刊ろばのみみ、第104号,pp14-71(1996),ろばのみみ舎 中山 瞭:「白い杖の王国-海外リポート」WE,LL第1巻,pp76-79(1996) 戸門 一術:スペインの実験, 1994, 朝日新聞社 原 誠他:スペインハンドブック,1982,三省堂 東谷 岩人:スペイン入門,1992,三省堂 野々山 真輝帆:スペイン辛口案内,1992,晶文社 石井 慎二:スペイン[情熱]読本,1996,pp40-51,宝島社