熱可塑性CFRPに対する超音波穿孔加工─ 針状工具による穴加工特性 ─ 後藤啓光,谷 貴幸 筑波技術大学 産業技術学部 産業情報学科 キーワード:熱可塑性,CFRP,超音波 1.諸言 CFRP(炭素繊維強化樹脂)はマトリックスとなる樹脂により熱硬化性CFRPと熱可塑性CFRP(Carbon Fiber Reinforced Thermo Plastics)の2種類に分けられる。熱可塑性CFRPに用いられる樹脂は温度を上げることにより軟化する性質があるため,短時間のプレス成形に向いており,航空機のほか,スポーツ用途や自動車用途などの量産品への応用が期待されている1)。現在, CFRPに対する二次加工法としては穴加工に対する需要が多いため,切削加工2,3),が主として選択されるが,工具磨耗やデラミネーション(層間剥離)などが課題となっている。そのため,研削加工4),放電加工5,6,7),レーザー加工8)などの様々な加工手法も検討されはじめている。しかしながら,いずれの加工手法を用いても,CFRPに対して二次加工を行った場合,連続繊維の炭素繊維を切断してしまうこととなり,機械的特性の低下を避けることは困難である。そこで,本研究では針状の工具に対し,超音波を付与することにより,マトリックス材である熱可塑性樹脂を軟化させながら,炭素繊維の切断を抑制した状態での穴加工(穿孔加工)手法を考案し,実施した。 2.超音波穿孔加工について 本研究で実施する穿孔加工の構想を図1に示す。針状工具に超音波を付与し熱可塑性CFRPに対して押し付ける。超音波の付与によって生じる,工具-CFRP間の摩擦熱によってマトリックス材である熱可塑性樹脂が軟化し,孔加工が実現する。この際,炭素繊維の一部は弾性変形9)し,孔の周囲に寄せられ残留する。 3.実験方法 3.1 実験試料 試料には東邦テナックス株式会社製の熱可塑性CFRPを使用した供試材の代表的な仕様を表1に示す。なお,炭素繊維には弾性変形が容易なポリアクリルニトリル(PAN)系の繊維が使用されている。 図1 超音波穿孔加工の構想 表1 供試材 製品名称W-3161/P-B32 炭素繊維品番HTS40 3K 生地綾織(3K) 繊維直径5 [μm] (実測値) 厚さ1 [mm](0.2 [mm]×5層) マトリックス樹脂ポリエーテルスルホン(PES) 炭素繊維含有率57 [Vol%] 樹脂含有率37 [Wt%] 引張り強さ 1,000 [Mpa] 3.2 実験装置 実験装置の概要を図2に示す。超音波発振装置としてナカニシ株式会社製のソニックカッター:S-15CBSを使用した。実験装置の主な仕様および使用した針状工具の仕様を表2および表3に示す。超音波振動を付与した針状工具に対し,試料台に設置した材料を自重で押し付ける方式とした。なお,針状工具の突き出し長さは13mmとした。 図2 加工装置 表2 加工装置の主な仕様 発振周波数39.5 [kHz] 最大振幅24 [μm p-p](実測値) 出力30 [W] 振動子ボルト締めPZT型 加工時の荷重300 [gf](2.94 [N]) 表3 針状工具の主な仕様 材質タングステン(W) 先端SR(SR)2, 12, 25 [μm] 先端角度5 [°] 全長25 [mm] 直径500 [μm] 4.実験結果 4.1 穿孔加工の実施 工具先端SRが25μmの針状工具を用いて超音波穿孔加工を試みた。加工結果を図3に示す。直径500μm程度の孔加工が実現した。(a)に示す入口側や(c)に示す出口側の写真から,加工孔の周囲には炭素繊維が押しのけられていることが確認できる。しかしながら孔の中央部には切断された繊維も観察された。また,(b)に示す側面の状態から,入口側,出口側ともに孔の外周部に盛り上がりが確認された。なお同様の加工を熱硬化性樹脂にも試みたが孔加工は実現できなかった。 図3 加工孔の観察結果 4.2 加工速度 図4に示す先端形状の針状工具を用い,孔加工を実施した。図5には各形状の工具で20回ずつ穿孔加工を実施した時の平均加工時間を示している。針状工具の先端SRが2μmおよび12μmの時,加工時間に大きなばらつきが見られるが,いずれの工具を使用した場合も1回当たりおおよそ0.6秒程度で加工が行えた。加工後の針状工具の先端形状を図6に示す。針状工具の先端SRが2μmおよび12μmの場合に大きな消耗が確認された。一方,先端SRが25μmの場合,ほとんど消耗が観察されなかった。このような工具の消耗が加工速度のばらつきに影響を与えたと考えられる。また,この後1,000回程度穿孔加工を実施したが,加工速度には大きな変化は見られなかった。 図4 針状工具の先端形状(使用前) 図5 穿孔加工に要した加工時間 図4 針状工具の先端形状(加工後) 5.まとめ 本研究では針状の工具に対し,超音波を付与することにより,マトリックス材である熱可塑性樹脂を軟化させ,炭素繊維の切断を抑制した状態で穴加工(穿孔加工)が実現する手法を提案し,実施した。その結果,厚さ1mmの熱可塑性CFRPに対して1秒程度で炭素繊維を残留させた状態での孔加工が実現できた。しかしながら,一部の炭素繊維は切断されており,入口側,出口側ともに加工孔の周囲に盛り上がりが確認された。 参考文献 [1] 寺田幸平:炭素繊維強化熱可塑性プラスチック―現状,応用分野および課題―, 精密工学会誌, Vol.81, No.6, 2015, pp.485-488,(2015) [2] 柳下福蔵:CFRP(炭素繊維強化プラスチック)の切削加工,日刊工業新聞社,(2014) [3] 田中秀岳:熱可塑性炭素繊維強化樹脂の穴あけ加工,精密工学会誌, Vol.81, No.6, 2015, pp.507-510,(2015) [4] 拓殖英明,竹腰久仁雄,山神成正,加賀忠士,坂東直行,小川大介,渡辺義見:2軸回転砥石を用いたCFRPの穴あけ加工法におけるSiC砥石の耐久性,砥粒加工学会誌,Vol.57, No.5, 2013 May., pp.314-319,(2013) [5] 伊藤智泰,早川伸哉,糸魚川文広,中村隆:炭素繊維強化樹脂の放電加工の試みと加工現象の観察,精密工学会誌,Vol.77, No.12, 2011, pp.1140-1145,(2011) [6] 丸井暁,松本哲典,酒井克彦,鈴木康夫:型彫り放電加工による炭素繊維強化プラスチックの加工に関する研究,2011年度精密工学会春季大会学術講演会講演論文集,pp.11-12,(2011) [7] 金子健正,山田隆一,永澤茂,福澤康:放電加工によるCFRP-Ti重積材の穴あけ加工,2015年度精密工学会春季大会学術講演会講演論文集,pp.43-44,(2015) [8] 萩原祐希,酒井克彦,静弘生:CFRPのファイバレーザ加工における加工パラメータが熱影響部に及ぼす影響,電気加工学会全国大会(2015)講演論文集,pp.45-46,(2015) [9] 温品恭彦,松井醇一,伊藤基:炭素繊維単繊維試料の引張り荷重-伸び挙動,日本複合材料学会誌, Vol.15, No.5, 1989, pp.210-221,(1989)