大面積シリコン光センサー用テストベンチの開発 稲葉 基 筑波技術大学 産業技術学部 産業情報学科 キーワード:高エネルギー物理学実験,大面積シリコン光センサー,テストベンチ 近年,高エネルギー物理学実験分野では,大面積のシリコン光センサー(Si-PD)を用いる検出器が増えてきている。Si-PDは,磁場中でも使いやすく,光電子増倍管(PMT)のような数キロボルトの直流高電圧を必要とせず,信号チャンネル数や有感領域の大きさと形状の設計自由度が高いため,検出素子としての応用範囲が広い。また,信号チャンネルごとの利得校正をおこなう手段としてレーザ光を使わないのであれば,最初からアルミ蒸着膜等でSi-PDの受光面を塞いで,可視光~赤外光に対する感度を下げておくことも可能である。鉛板やタングステン合金板といった物質量の大きい金属板とSi-PDを交互に積み重ね,各層のSi-PDの出力信号の大きさから入射粒子のエネルギーを求める検出器が電磁カロリーメータ(EMCal)である。半導体素子であるSi-PDは,光や高速荷電粒子の入射がなくても,温度やバイアス電圧の上昇にともなって暗電流が増加する。また,ある点から電流が急激に増加するブレークダウンが起こり,そこがSi-PDの動作限界となる。高いエネルギー分解能と広いダイナミックレンジを持つEMCalを開発するためには,高い精度で温度制御可能なテストベンチを構築し,Si-PDの暗電流,ブレークダウン電圧,寄生容量,有感領域,バイアス電圧依存性,温度依存性等を調べておく必要がある。本研究では,93mm×93mmの大きさの64信号チャンネルSi-PDの基本特性を調べるためのテストベンチを開発した。高さ50cm×横幅50cm×長さ65cmの暗箱の中に,自作した温度制御システムやバイアス電圧発生回路,3軸電動ステージ,3色LEDパルサー等を設置し,暗箱の外からエレクトロメータ,ファンクションジェネレータ,直流電圧源を接続して,これらを1台のデータ収集用パソコンから制御できるようにした。本研究のテストベンチの一番の特徴は,シビアコンディションにおけるSi-PDのブレークダウン電圧(もしくはブレークダウンが起こらないこと)を安全に調べられることである。ペルチェ素子と水冷キットによる室温から±20℃の範囲でのSi-PDの暗電流計測に加え,カートリッジヒーターによる最大105℃までのテストが可能で,制御プログラムが電流の急激な上昇を検知して,Si-PDやエレクトロメータが壊れる前に自動的にバイアス電圧を下げる機能を持たせた。また,アルミ蒸着膜等で受光面が塞がれていないSi-PDでは,3色LEDパルサーのそれぞれの波長の光軸との相対位置関係を変えながら,有感領域の範囲を調べられるようになっている。開発したテストベンチを用いて,サンプルSi-PDの暗電流とブレークダウン電圧の計測をおこなった結果,作成した制御プログラム通りに,温度と逆バイアス電圧を変化させながら,急激に電流が流れ始めた時点までの計測を繰り返してデータを収集し,サンプルSi-PDを壊すことなく,逆バイアス電圧-暗電流特性を調べることができた。ペルチェ素子の発熱・吸熱制御による温度安定性は±0.2℃未満と良好で,24時間後と48時間後の実験データの再現性も申し分なかった。また,逆バイアス電圧と正弦波信号を同時に印加することによるSi-PDの寄生容量の見積もりをおこない,本研究で開発したテストベンチを用いてSi-PDの基本特性を調べることができることを確認した。 謝辞 本研究は,国立大学法人 筑波技術大学の平成29年度学長のリーダーシップによる教育研究等高度化推進事業,競争的教育研究プロジェクト事業,産業技術に関する研究の助成を受けたものです。