障害者を対象とするウェアラブル防犯カメラシステムの検証・評価に関する研究 服部有里子 筑波技術大学 産業技術学部 産業情報学科 キーワード:ウェアラブルカメラ,カメラ撮像装置,画像認識技術,人工知能 1.はじめに 視覚や聴覚の障害者,女性や子供達が犯罪被害に遭遇するケースが絶えない現実がある。そのような被害を少しでも減らすことを目的として,犯罪を抑止するための身に着けられる防犯カメラシステムを開発した。身体に取り付けたカメラで周辺の状況を画像で撮影し,サーバにリアルタイムにアップロードすることにより,犯罪発生時に犯人を特定する証拠となるとともに,身に着けていることで記録していることをアピールし,犯罪発生を抑止する効果が期待できる。本研究ではカメラで撮像した画像をリアルタイムにアップロードし,画像認識技術と組み合わせることで異常な状況を検知するシステムを開発し,その機能・性能を検証した。 2.課題設定と要求条件 ウェアラブル防犯カメラを身に着ける対象として,視覚や聴覚の障害者,女性や子供達を想定する。ウェアラブル防犯カメラシステムが満たすべき要求条件を以下にまとめる。 • 軽量・コンパクトなカメラによりハンズフリーで360°全方位の画像を撮像可能であること。 • 遠隔地のサーバへ高画質な画像(200万画素)を即時に伝送できること。情報伝送が高速で低遅延(伝送遅延0.5秒以下)であること。 • 外部への情報漏洩を防ぐためにセキュリティ性の高い情報伝送が可能であること。 3.ウェアラブル防犯カメラシステムの開発 3.1 システム構成 ウェアラブル防犯カメラシステムは,カメラ撮像装置・通信モジュール・データサーバ・画像データ解析装置・PCから構成される(図1)。ウェアラブルカメラにより一定間隔で撮影した画像データを通信モジュールによりリアルタイムにサーバへ送信して蓄積し,画像データ解析を行うシステムである。 図1 ウェアラブル防犯カメラシステムの構成 3.2 カメラ撮像装置 カメラ撮像装置は,約1 lxの暗さでもカラーで明るく浮かび上がらせて撮影できる。解像度200万画素(1920×1080ピクセル),10秒毎の撮影間隔で内蔵バッテリにより約6時間の連続動作が可能である。また,通信回線が不安定な環境下でもSDカードへの画像データ蓄積が可能である。 3.3 データ通信モジュール データ通信モジュールは,カメラ撮像装置で撮影した画像データを携帯電話網(LTE)により遠隔地のサーバへ伝送する。データ伝送時はゆらぎの大きいモバイル回線でも解像度,フレームレート,ビットレートを動的に制御して安定した接続が可能である。 3.4 PC側ソフトウェアの開発 ウェアラブルカメラとネットワーク経由で接続し,PCで撮影映像を見るために必要なソフトウェアを開発した。最大6台のカメラ映像をマルチ画面で同時に閲覧することができる。 (1)ライブビュー 接続中のカメラのシングルビューとマルチビュー(2/4/6画面)の閲覧,シングル画面での最大4倍ズームなどを制御できる。 (2)カメラ制御 カメラの動画撮影と記録,マルチ画面時の同時記録,静止画撮影とその静止画の取得を制御できる。 (3)カメラ設定 カメラの画角(約110度/約92度/約44度)やホワイトバランス,逆光補正,カラーナイトビューといった設定をPC側から制御できる。 (4)カメラ状態の表示 PC側でカメラバッテリー残量やSDカード挿入状態を表示,確認できる。 4.ウェアラブル防犯カメラシステムの検証・評価 (1)生産・製造工程での作業管理 ウェアラブルカメラにより,工場内の作業工程をモニタリングし,品質,仕上がり状況などを一括管理,記録できる。品質不良品の不良箇所を早期に発見し,遠隔指示や対策を行うことができる。 (2)事件・事故の検証用画像の記録 緊急時の事件・事故も常時記録により証拠を確保できる。巡回パトロールで画像を記録し,現行犯の証拠や不審者の動向確認で活用できる。 5.おわりに 今後は,人工知能技術の画像認識により異常な状況を検知し,自動的に警報を出すシステムを開発する。画像データ解析技術による画像認識アルゴリズムの検討により,異常な状況を判断し,自動的に警報を出すシステムが構築され,ユーザメリット拡大,システム構成の合理化が期待できる。 参照文献 [1] パナソニックコネクティッドソリューション社.ウェアラブルカメラ映像配信ソリューション,パナソニックビジネスソリューション,https://panasonic.biz/cns/sav/products/wearable/index.html [2] 服部有里子.障害者を対象としたウェアラブル防犯カメラシステムの開発.筑波技術大学テクノレポート.2017;25(1): p.141-142.