ヘレン・ケラーの切手 大沢秀雄 筑波技術大学 保健科学部 保健学科 鍼灸学専攻 要旨:2018年はヘレン・ケラーの没後 50年に当たり,記念切手展を開催した。これまでに発行されたヘレン・ケラーの切手は 16件であった。 キーワード:ヘレン・ケラー,アン・サリヴァン,視覚障害,聴覚障害,郵便切手 1.はじめに 1840年,イギリスから最初の郵便切手が発行され,我が国では 1871年に発行された。切手の本来の目的は郵便料金の前納の証紙であるが,国家が発行していることから,発行する国や地域の歴史・地理・自然・文化,そしてその時々の政策や経済情勢が強く反映されることが報告されている[1]。 筆者はこれまで,史料としての郵便切手(その他の郵便物を含む)を分析し,視覚障害者及び聴覚障害者教育の歴史や現状について調査研究を行い,その成果を障害者教育の専門雑誌 [2],郵便関係の専門雑誌 [3,4],単行本 [5],国内外の切手展 [6,7],オープンキャンパスや学園祭などの機会を通して広く公表し,切手を通して視覚障害に対する啓発活動を推進してきた。 さらに,我が国の障害者福祉に多大の影響を与えたヘレン・ケラーに関しては,郵便物に加え,非郵趣品(絵葉書,写真,新聞,書籍,コイン,シール,バッジなど)も調査・収集を行い,競争切手展のオープン郵趣部門にも出品し,当該部門の最高賞を2度,受賞した[8,9,10]。 2018年はヘレン・ケラーの没後 50周年に当たることから,この機会にこれまでに発行されたヘレン・ケラーに関する切手の概要を報告する。また,2018年 5月,切手の博物館において,ヘレン・ケラー没後 50周年記念切手展を開催したので,報告する。 2.ヘレン・ケラー [8,9,10] ヘレン・ケラー(Helen Keller,1880~ 1968,アメリカ)は 2歳の時の熱病で視覚と聴覚を失った。7歳の時に出会ったアン・サリヴァンによる教育によって,やがてラドクリフ大学を卒業した。その後,多くの執筆活動,世界各地の歴訪などによって身体障害者の教育・福祉に尽くした。特に我が国には3度来日し,我が国の障害者福祉制度に大きな影響を与えた。 3.ヘレン・ケラーに関する切手 [8,9,10] 2018年 11月までに発行されたヘレン・ケラーに関する切手の一覧を表 1に示す。これまで,16件の切手が発行された。正刷切手発行後の加刷切手は含めていない。また,Pスタンプやフレーム切手は除いた。 生誕 100年の記念切手が 6件,ライオンズクラブに関する切手が 5件,国際障害者年の切手が 2件の順に多かった。 表1 ヘレン・ケラーに関する切手(発行順) 発行国 年 発行理由 種類   1 パナマ 1961 ライオンズクラブ 25年 1   2 アメリカ 1980 生誕 100年 1   3 ブラジル 1980 生誕 100年 1   4 ベネズエラ 1980 生誕 100年 1   5 インド 1980 生誕 100年 1   6 スペイン 1980 生誕 100年 1   7 モーリシャス 1980 生誕 100年 4   8 モルジブ 1981 国際障害者年 1   9 ガイアナ 1981 国際障害者年 1   12 ドミニカ 1992 ライオンズクラブ 75年 1   10 リベリア 1999 ライオンズクラブ 1   11 ニカラグア 1999 ライオンズクラブ 1   13 日本 2000 20世紀デザイン切手 1   14 ギニア 2007 ライオンズクラブ 90年 2   15 シエラレオネ 2017 ルイ・ブライユ没後 165年 1   16 スペイン 2018 第 11回ヘレン・ケラー世界会議及び第5回世界盲ろう者連盟総会 1   3.1 ヘレン・ケラーに関する最初の切手(図1) ヘレン・ケラーに関する最初の切手はパナマ(1961)からライオンズクラブ 25年の切手として発行され,ヘレン・ケラー盲学校が描かれている。校舎が描かれ,右下にラインズクラブの記章と白杖が描かれている。なお,1963年に加刷切手も発行されている。ライオンズクラブとヘレン・ケラーについては後述する。 図1 パナマ(1961) 3.2 ヘレン・ケラー生誕 100年 生誕 100年に当たる 1980年に母国のアメリカから片手式指文字で会話するヘレン・ケラー(7歳ごろ)とアン・サリヴァンを描いた切手が発行された(図 2)。また,類似図案の切手がブラジルから発行された(図3)。 図2 アメリカ(1980) 図3 ブラジル(1980) インドからは老年期の肖像が描かれた切手が発行された(図 4)。スペインの切手には老年期の肖像と指文字による会話が描かれている(図5)。ベネズエラの切手にはヘレン・ケラーのイニシャルの HKの点字がエンボス加工で印刷されている(図6)。 図4 インド(1980) 図5 スペイン(1980) 図6 ベネズエラ(1980) モーリシャスからは 4種セットで発行された。図 7は点字本を読む青年期のヘレン,図 8はラドクリフ大学の卒業式が描かれている。残りの2種はかごを編む盲人男性,聴能訓練を行う聴覚障害児が描かれている(図は省力)。 図7 モーリシャス(1980) 図8 モーリシャス(1980) 3.3 国際障害者年 1981年は国連によって,国際障害者年と宣言された。テーマは「完全参加と平等」で,約 120か国・地域から切手が発行された。国際障害者年の切手には障害を克服した偉人が採用されており(点字を発明した盲人のルイ・ブライユ,聴覚障害者の音楽家のベートーヴェンなど),ヘレン・ケラーの切手もモルジブとガイアナから発行された。 モルジブは単片 4種と小型シート1種が発行され,そのうち,小型シートの切手に壮年期のヘレン・ケラーとアン・サリヴァンが描かれ,サリヴァンが読む本を指文字でヘレンに伝えている。 図9 モルジブ(1981) ガイアナは 4種のうちの 1種に老年期のヘレン・ケラーとガイアナ人の作家,活動家のRajkumari Singh(1923-79,小児期にポリオに罹患)が描かれている(図10)。 図10 ガイアナ(1981) 3.4 ライオンズクラブ ライオンズ国際クラブは 1917年,シカゴの事業家メルビン・ジョーンズによって設立された国際的な社会奉仕団体である。1925年,オハイオ州セダーポイントで開催された国際大会で,ヘレン・ケラーが盲人の支援を呼び掛けた。これをきっかけに,ライオンズクラブは盲人に対する支援活動を積極的に行うようになった。そのため,ライオンズクラブに関する記念切手にヘレン・ケラーが採用されている。前述のパナマ(1961)の切手を含め,5件の切手発行があった。 ドミニカ(1992)の切手は老年期のヘレン・ケラーの肖像が描かれている(図11)。ニカラグア(1999)は 6種小型シートのうちの1種で,老年期のヘレン・ケラーと犬が描かれている(図 12)。ヘレン・ケラーは愛犬家として知られている。リベリア(1999)は 6種小型シートのうちの1種で,老年期のヘレン・ケラーとポリー・トムソン,墨点字でLIONSが描かれている(図13)。ポリー・トムソンはヘレン・ケラーの後半生を支えた秘書で,我が国にもヘレンと共に来日した。 図11 ドミニカ(1992) 図12 ニカラグア(1999) 図13 リベリア(1999) ギニア(2007)からはヘレン・ケラーを描いた 2種の小型シートが発行されている。図 14は 3種連刷シートのうちの1種で,ヘレン・ケラーとライオンズクラブによる視覚障害者支援が描かれている。もう1種は小型シートで,ヘレン・ケラーと国連での NGO憲章作成が描かれている(図は省力)。 図14 ギニア(2007) 3.5 20世紀デザイン切手(図15) 日本(2000)から20世紀デザイン切手第 8集の10種シートの 1種として,昭和 12年のヘレン・ケラー初来日時のサイン入り写真が採用された。本切手の原図は東京ヘレン・ケラー協会が所蔵しているものである[11]。 3.6 ルイ・ブライユ没後 165年(図16) シエラレオネ(2017)より,ルイ・ブライユ没後 165年の切手として,単片 4種と小型シート1種が発行された。単片 4種のうち 1種に点字本を読む青年期のヘレン・ケラーが描かれている。 図15 日本(2000) 図16 シエラレオネ(2017) 3.7 第 11回ヘレン・ケラー世界会議及び第5回世界盲ろう者連盟総会(図17) スペイン(2018)から第 11回ヘレン・ケラー世界会議及び第5回世界盲ろう者連盟総会の記念切手として,青年期のヘレン・ケラーと杖が描かれた切手(シール式)が発行された(図17)。 図17 スペイン(2018) 4.ヘレン・ケラー没後 50周年記念切手展の開催 2018年は我が国の障害者福祉に多大の影響を与えたヘレン・ケラーの没後 50周年に当たることから,2018年 5月 11日(金)~ 13日 (日 ),切手の博物館(東京都豊島区目白1-4-23)おいて,ヘレン・ケラー没後 50周年記念切手展を開催した。 筆者が所蔵する障害者関連切手コレクションのうち,「ヘレン・ケラー その生涯と業績」,「視覚障害」,「聴覚障害」,「障害者スポーツ」など 480リーフを展示した。また,ヘレン・ケラーのサイン入り著書の展示,視覚障害の参観者用に点字エンボス切手を実際に触れる体験コーナー,代表的な切手の拡大提示を行った。 図 18は今回の切手展の小型印とフレーム切手で,サンリヴァンの指文字をたどる7歳のヘレン・ケラーが描かれている。これは東京ヘレン・ケラー協会の所蔵する写真を基に同協会の許可を得て,作成した(意匠デザイン:公益財団法人日本郵趣協会土浦支部会員・大沢知子)[12]。 図 19は会場風景である。3日間の会期中,切手収集家,視覚障害者,聴覚障害者,点訳・音訳ボランティア,手話通訳者など約 300名の参観があった。 図18 ヘレン・ケラー没後50周年記念切手展小型印台切手は本切手展で作成したフレーム切手 図19 ヘレン・ケラー没後50周年記念切手展会場風景 謝辞 ヘレン・ケラー没後 50周年記念切手展の小型印の使用,フレーム切手作成に関し,東京ヘレン・ケラー協会・馬場敬二理事長に心より御礼を申し上げます。 本文中に掲載の切手画像の縮尺は等倍です。紙の媒体にカラーで印刷した場合,郵便切手類模造等取締法に触れる恐れがありますので,ご留意下さい。 引用・参考文献(切手展作品を含む) [1]内藤陽介.切手と戦争 もうひとつの昭和戦史.新潮社.2004. [2]大沢秀雄.視覚・聴覚障害に関連した切手.筑波技術大学テクノレポート.2007;14(2):p.281-287. [3]大沢秀雄.視覚障害に関連する切手.切手の博物館研究紀要.2007;4:p.3-25. [4]大沢秀雄.聴覚障害に関連した切手.切手の博物館研究紀要.2009;6:12-41. [5]大沢秀雄.切手が伝える視覚障害-点字・白杖・盲導犬-.彩流社,2009. [6]大沢秀雄.視覚障害(切手展作品).全日本切手展2015,金賞,東京,2015年 7月. [7] Hideo Ohsawa. The Blind(切手展作品).マレーシア国際切手展,大金銀賞,クアラルンプール,2014年 12月. [8]大沢秀雄.ヘレン・ケラー(切手展作品),スタンプショウ '10第 11回オープン切手展,金銀賞・オープン切手展大賞(郵便事業株式会社賞),2010年 4月 [9]大沢秀雄.ヘレン・ケラー その生涯と業績(切手展作品)第 50回全国切手展,金銀賞 +ベストオープン賞,東京,2015年 11月 [10]大沢秀雄.没後 50年に寄せて ヘレン・ケラー その生涯と業績.郵趣.2018;72:p.402-407. [11]東京ヘレン・ケラー協会のホームページ(cited2018- 11-27)http://www.thka.jp/ [12]日本郵便,小型印公示のホームページ(cited2018- 11-27)http://www.post.japanpost.jp/kitte_hagaki/stamp/kogata/ Postage Stamps Featuring Helen Keller Hideo Ohsawa Department of Health, Faculty of Health Science, Tsukuba University of Technology Abstract: This year, 2018, is the 50th anniversary of Helen Keller’s death. We held a commemorative stamp exhibition in Tokyo. Sixteen stamps featuring Helen Keller have been issued so far. Keywords: Helen Keller, Anne Sullivan, Blind, Deaf, Postage stamp