東西医学統合医療センター鍼灸施術部門2017年度患者動態調査 成島朋美,櫻庭 陽,松下昌之助 筑波技術大学 保健科学部 東西医学統合医療センター 要旨:本調査の目的は,2017年度における東西医学統合医療センター施術部門の患者動態を調査・分析し,臨床実績および患者特性を明らかにすることである。調査は,施術部門の患者データベースを用いて行った。対象期間は2017年4月1日から2018年3月31日までとした。調査の結果,鍼灸外来の患者総数は8,650人で,内訳は初診患者302人,初診扱い患者(前回施術後半年以上が経過した患者)182人,再診患者8,166人であった。患者総数は,前年度から若干の減少を示し,初診患者数および初診扱い患者数についても前年度からの減少が認められた。初診患者は女性(193人,63.9%)が多く,年代は50,60代(各64人,21.2%)が最多であった。愁訴は腰痛,肩こり,下肢痛が多く,本邦の鍼灸患者の愁訴と同様であった。 キーワード:鍼灸,統合医療,患者動態 1.はじめに 筑波技術大学保健科学部附属東西医学統合医療センター(以下,当センター)は,1992年に筑波技術短期大学の附属診療所および施術所として開設し,2005年10月からは四年制に移行した筑波技術大学保健科学部附属の医療センターとして臨床・教育・研究活動を行い、開設25年を迎えた地域医療に根ざした機関である。 2017年度の当センター専属の常勤スタッフは12名で,専任教員5名(医師1名,鍼灸師2名,理学療法士2名),医療スタッフ5名(看護師2名,薬剤師1名,臨床検査技師1名,診療放射線技師1名),事務2名である。その他に契約職員,非常勤職員が在籍している。当センターは,診療部門と施術部門からなり,相互が独立した部門でありながら,情報を共有し統合医療の実践を図っている。診療部門は,曜日および午前・午後ごとに,循環器内科,精神科,脳神経外科,リハビリテーション科,神経内科,整形外科,漢方内科,腎臓内科,内科,内分泌・代謝内科を開設している。診療は,当センターおよび本学鍼灸学専攻,理学療法学専攻,保健管理センター所属の医師免許を有する教員7名が担当した。また,リハビリテーション科は,当センター所属の理学療法士3名と理学療法学専攻の教員6名,特任研究員1名が担当曜日ごとに2~4名体制で運営した。施術部門は,2015年度からあん摩・マッサージ・指圧外来を開設し、鍼灸外来と合わせて運営している。鍼灸外来は当センター所属の教員2名と鍼灸学専攻の教員9名,特任研究員1名が担当曜日ごとに2~4名体制 で施術を担当した。また,施術部門では,2017年度に8名の臨床研修生を受け入れており,2年目以降の研修生を合わせた計18名が各指導教員の元で臨床に従事した。あん摩・マッサージ・指圧外来は月曜と水曜の午後に開設し、鍼灸学専攻の教員2名、特任研究員1名と研修生4名が担当曜日ごとに2~6名体制で施術を行った。 この研修制度は1993年の発足以来,鍼灸学校養成施設を卒業し国家資格を取得した鍼灸師を対象とする卒後臨床研修として,鍼灸臨床に必要な技能および環境維持業務や受付補助業務を通じた施術所運営に必要な技能の習得を目的として運用されている[1,2]。当センターは,本学保健科学部の教育・研究に関わる臨床の場として機能するとともに,西洋医学と東洋医学を統合した診療・施術を通じて,地域医療に貢献することを目的に活動している。また,前述の鍼灸師を対象とした卒後臨床研修や日本東洋医学会の研修施設として,人材育成に取り組んでいる。当センターの活動を継続・向上させていくため,患者動態を調査・分析し,臨床活動の実績や課題について考察することは重要な意義をもつ。そこで本研究は,2017年度における当センター鍼灸外来の患者動態を調査・分析し,臨床実績および患者特性を明らかにすることを目的に実施した。 2.方法 調査は,施術部門の受付で管理する患者データベースを用い,個人情報の取り扱いに十分に留意して実施した。調査対象期間は,2017年4月1日から2018年3月31日 までとした。調査項目は,開設日数,患者総数,初診患者数,初診扱い患者(前回施術後半年以上が経過した,初診患者に準ずる患者を指す)数,再診患者数,月および日あたりの平均患者数とした。さらに、初診患者については性別,年代,居住地域,鍼灸マッサージ治療経験の有無、主訴について調査した。主訴の調査は,治療対象とした愁訴を“愁訴部位”と”愁訴(病態)の種類”の二要因に分類し,複数の愁訴を有する場合には各々を独立して集計した。なお,割合の算出において端数処理を行ったため,合計が100.0%にならない場合がある。 3.結果 3.1 鍼灸外来の患者動態 2017年度の開設日数は232日であった。患者総数は8,650人で,内訳は,初診患者302人,初診扱い患者182人,再診患者8,166人であった。 月別の開設日数および総患者数を図1に示す。一月あたりの平均患者数は724人,一日あたりの平均患者数は37人であった。月別の患者数は,11月(786人)が最多で,次いで6月(782人),10月(780人),最少は2月(638人),次いで1月(658人),4月(684人)であった。月別の一日あたりの平均患者数は11月(40人)が最多で,次いで12月(39人),6月(38人)であり,最少は2月(34人),次いで3月(35人),1月および4月(各36人)であった。 図1 総患者数と開設日数および初診患者数の月別推移 3.2 初診患者動態・特性調査 月別の初診患者数を図1に示す。一月あたりの平均初診患者は25人,一日あたりの平均初診患者数は1.3人であった。月別の初診患者数は4月(37人)が最多で,次いで6月(35人),10月(29人),最少は1月(9人),次いで9,12月(各21人)であった。月別の一日あたりの平均初診患者数は4月(1.9人)が最多で,次いで6月(1.7人),10月(1.4人)であり,最少は1月(0.5人),次いで9,12月(1.1人)であった。 性別は女性193人(63.9%),男性109人(36.1%)であった。 年代別の初診患者数を表 1に示す。年代別では50,60代(各64人,21.2%)が最も多く,次いで70代(58人,19.2%),40代(46人,15.2%)であった(表 1)。  居住地域別では,つくば市内が155人(51.3%),つくば市外の茨城県内131人(43.4%),茨城県外の関東13人(4.3%),関東以外が3人(1.0%)であった。 初診患者の鍼灸マッサージ経験の有無を表2に示す。半数の152人(50.3%)がいずれかの療法を経験していた。鍼灸両方を経験していたものは80名,鍼を経験していたものが50名で経験者の大半は鍼治療経験者であった。一方で,140人(46.4%)は受療経験が無かった。 表1 初診患者の年代 表2 初診患者の鍼灸マッサージ経験の有無 初診患者302名について主訴の分析を行った。その結果、治療対象とした愁訴の数は,1つが209例(69.2%),2つが77例(25.5%),3つが15例(5.0%),4つが1例(0.3%)で,平均は1.4であった。 表3 初診患者の病態(愁訴)の種類 表4 初診患者の主要な愁訴部位と愁訴(病態)の種類 愁訴部位は頚肩部が92例(19.2%)で最多,次いで腰部が79例(16.5%),下肢が69例(14.4%),臀部が29例(6.1%),背部が23例(4.8%)であった。愁訴(病態)の種類を表3に示す。愁訴(病態)の種類は,痛みが282例(58.9%)で最多,次いでこり・張りが76例(15.9%),しびれが35例(7.3%)であった。愁訴部位の上位3部位における愁訴(病態)の種類は,頚肩部ではこり・張り(46例,50.0%),腰部では痛み(74例,93.7%),下肢では痛み(49例,71.0%)が最多であった(表4)。 4.考察 4.1 鍼灸外来における患者動態 2017年度の鍼灸外来における患者総数(8,650人)は前年度[4]に比べ18人の減少(-0.2%)を示した。さらに,初診患者数(302人)は前年度(367人)と比べ65人(-17.7%),初診扱い患者数(182人)は前年度(189人)と比べ7人(-3.7%)の減少がみられた。一方で,再診患者数は8,166人で前年度(8,112人)と比較して54人の増加がみられている。開設日数は232日と前年度(240日)より8日少なくなっており,2割近い大幅な初診患者数の減少が見られているが,患者総数としては0.2%の減少に留まった。これは,研修生数が18名と前年度(15名)と比較して施術者数の確保ができていたこと,適切な鍼灸治療の提供により再診患者数を維持できていたことが要因と思われる。初診患者の減少について要因の特定は困難であるが,当センターはこれまで広報活動は行っておらず,新規患者獲得について検討する必要があると考えられた。 月別の患者総数が多かったのは順に11月,6月,10月であり,初診患者数が多かったのは順に4月,6月,10月であった。なお,初診患者数は,例年7月が多く2015年度,2014年度では最多[5,6],2013年度は2番目に多くなっていたが[7],前年度は4番目[4]、本年度は8番目に留まっていた。一方,月別の患者総数が少なかったのは順に2月,1月,4月であった。これらは例年の考察にあるように年度替わりの時期は研修生の退所や入所に際し,一時的な施術者数の減少が起こることが影響していると考えられた。 4.2 鍼灸外来における初診患者の特性 初診患者は,男女比が約4:6となっており,当センターの過去の報告 [4-12]とほぼ同様であった。年代別では,県内の人口構成に比して50~70代で1.4~1.7倍と割合が高かった。これは当センター鍼灸外来の利用者には,退行変性を基盤とした愁訴を有し,かつ社会活動が比較的活発な年齢層の受診が多いためと考えられるが、80代の割合も1.1倍となっており,家族等に送迎されながら来院する高齢者層がみられている。また、当センターでは診療やリハビリといった医療提供が受けられるため、家族がリハビリを受けている間に鍼灸治療に来所する,またはその逆の形態が見られている。居住地域については,つくば市内(51.3%)に加え,つくば市以外の県内からの患者(43.4%)も例年同様に多くみられた。これは,来所時の自動車利用率の高さ[13]が影響している可能性が考えられる。鍼灸マッサージ治療経験の有無については半数がいずれかの治療を経験していた。当センターへの受療の転機等については今後調査が必要である。 初診時に治療対象とした愁訴の数は,1つないし2つの症例が94.7%を占めた。これは当センター鍼灸外来では,愁訴に優先順位を付け,治療対象や目的を明確にした施術を推奨していることが要因と考えられる。愁訴では,腰痛が最多で,次いで下肢痛,頚肩部のこり・張り(いわゆる肩こり)であった。平成28年度 国民生活基礎調査の有訴者率[14]は,男性では腰痛,次いで肩こり,女性では肩こり,次いで腰痛が多くみられる愁訴となっており,当センターで鍼灸施術の対象となっている愁訴との一致がみられた。また,鍼灸師を対象としたアンケート調査[15]や国民生活基礎調査の健康票に基づく調査[16]の結果ともほぼ一致がみられた。一方で,診療部門および地域の医療機関との連携により整形外科疾患以外の愁訴や病態(頭痛,顔面神経麻痺,骨盤位など妊産婦ケア)への鍼灸治療も行われていた。また,当センターでは,研修生らによる学術活動を推奨しており,学会発表等を通じた臨床成果の社会還元を図っている。 参照文献 [1] 山下 仁,津嘉山 洋,丹野 恭夫,他.鍼灸師の卒後研修.筑波技術短期大学テクノレポート.1998; 5: p.211-216. [2] 福島 正也,櫻庭 陽,平山 暁,松下 昌之助.筑波技術大学東西医学統合医療センターにおける卒後鍼灸臨床研修制度.医道の日本. 2017;76(2): p.148-155. [3] 茨城県庁企画部統計課人口労働.茨城県の年齢別人口(茨城県常住人口調査結果)四半期報.(平成30年11月1日取得)http://www.pref.ibaraki.jp/kikaku/tokei/fukyu/tokei/betsu/jinko/nenrei/index.html [4] 福島 正也,櫻庭 陽,松下 昌之助.東西医学統合医療センター鍼灸外来における2016年度患者動態調査.筑波技術大学テクノレポート.2018;25(2): p.36-41. [5] 福島 正也,櫻庭 陽,松下 昌之助.東西医学統合医療センター鍼灸外来における2015年度患者動態調査.筑波技術大学テクノレポート.2017;25(1): p.58-63. [6] 福島 正也,櫻庭 陽,佐久間 亨,松井 康,平山 暁,木下 裕光.東西医学統合医療センター施術(鍼灸)部門 2014 年度患者動態調査およびインシデント・アクシデント分析.筑波技術大学テクノレポート.2016;23(2): p.44-49. [7] 福島 正也,櫻庭 陽,近藤 宏,佐久間 亨,松井 康, 平山 暁,木下 裕光.東西医学統合医療センター施術(鍼灸)部門 2013 年度患者動態調査およびインシデント・アクシデント分析.筑波技術大学テクノレポート.2015;23(1): p.46-50. [8] 近藤 宏,櫻庭 陽,佐久間 亨,他.筑波技術大学保健科学部附属東西医学統合医療センター 2012 年度 鍼灸部門 外来報告.筑波技術大学テクノレポート.2013;21 (1): p.103-107. [9] 近藤 宏,櫻庭 陽,萩野谷 泰朗,他.筑波技術大学保健科学部附属東西医学統合医療センター 2011 年度 鍼灸部門 外来報告.筑波技術大学テクノレポート.2012;20 (1): p.99-103. [10] 近藤 宏,櫻庭 陽,平山 暁,他.地域医療における統合医療を目指して 筑波技術大学保健科学部附属東西医学統合医療センター 2010 年度 鍼灸部門 外来報告.筑波技術大学テクノレポート.2012; 19 (2): p.73-77. [11] 近藤 宏,櫻庭 陽,堀 紀子,他.鍼灸臨床における統合医療を模索して 筑波技術大学保健科学部附属東西医学統合医療センター 2009年度鍼灸部門外来報告.筑波技術大学テクノレポート.2010; 18 (1): p.111-115. [12] 近藤 宏,津嘉山 洋,堀 紀子,他.質の高い鍼灸医療を目指して筑波技術大学保健科学部附属東西医学統合医療センター鍼灸部門 外来報告2008. 筑波技術大学テクノレポート.2009; 17 (1): p.73-77. [13] 櫻庭 陽,武笠瑞枝,水木知恵,他.筑波技術大学保健科学部附属東西医学統合医療センター 患者の利用状況やサービスに関するアンケート調査2. 筑波技術大学テクノレポート.2014; 21(2): p.73-77. [14] 厚生労働省.平成28 国民生活基礎調査の概況.(平成30年11月1日取得)https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa16/ [15] 小川 卓良,形井 秀一,箕輪 政博,他.第5回現代鍼灸業態アンケート集計結果【詳報】.医道の日本. 2011;70 (12): p.201-244. [16] 矢野 忠,安野 富美子,藤井 亮輔,他.国民生活基礎調査「健康票」における「最も気になる症状」の治療に対するあんま・はり・きゅう・柔道整復師(施術所)の利用状況(前編).医道の日本.2017;76(4): p.126-134. Statistical Report of Outpatients at the Department for Acupuncture and Moxibustion in 2017 NARUSHIMA Tomomi, SAKURABA Hinata, MATSUSHITA Shonosuke Tsukuba University of Technology Center for Integrative Medicine, Department of Health, Faculty of Health Sciences, Tsukuba University of Technology Abstract: This study aimed to clarify the clinical results and patients’ characteristics and analyze the dynamic statistics of outpatients at the department for acupuncture and moxibustion, Center for Integrative Medicine, Tsukuba University of Technology, in the fiscal year 2017-18. The total number of outpatients was 8,650 (302 first-time visits, 182 patients who visited after 6 months of the last visits, and 8,166 revisits). The total number of outpatients showed some decrease, and the number of first and semi-first-time patients decreased since the fiscal year 2016-17. The first-time outpatients’ trends were as follows: 193 females and 109 males; the age groups of 50-59 years and 60-69 years were the most; and common complaints were low back pain, stiff shoulder, and leg pain. The trends were similar to those of acupuncture patients in Japan. Keywords: Acupuncture, Moxibustion, Integrative medicine, Outpatient