聴覚障害のある女性のキャリア発達促進のための学習プログラムの開発研究 小林洋子 筑波技術大学 障害者高等教育研究支援センター キーワード:ろう・難聴女性,キャリア,発達障害 1.はじめに 2014年の障害者権利条約の批准や 2016年 4月からの障害者差別解消法の施行等に伴い,高等教育機関を卒業した聴覚障害を含む障害者が自立して社会生活を営む力を育むだけでなく,実生活におけるライフステージ全体を通じ必要な学習を継続的に行うことが望まれている。筑波技術大学(以下,本学)では,障害者の人間関係形成能力,社会形成能力,自己理解・自己管理能力などの育成を目的として,授業やセミナー,ガイダンスなどを通してキャリア教育を行ってきている。 一方,ライフステージを通じ,キャリア発達を促進するための学習機会に関する開発研究については現状と課題ともに十分に検証されているとは言えない(石原,2016)。その中でも,聴覚障害のある女性については,ライフステージを通じて生活がどのように変化し地域社会に参画しているのかといった現状はあまり認識されていない。ひいては,個々人のライフイベントを踏まえニーズに対応したキャリア発達を促進するための学習機会はほとんど検証されていない。 本研究では,聴覚障害のある女性が生涯の各ライフステージにおいて必要とされる個人の生活や社会生活を自立して生きるための必要な知識やスキルを身につけ,キャリア発達を促進し,実生活で実践するための効果的な学習プログラムの開発研究を行うことを目的とした。 2.概要 2.1 講座の開催目的及び参加対象者 聴覚障害のある女性のキャリア発達促進のための学習プログラムの開発研究を行うにあたり,教育機関に在籍中もしくは卒業し社会に出ている聴覚障害のある女性を対象とした講座を開催し,講師と参加者との交流や共同学習を行う機会を設けることにした。 本講座では,聴覚障害のある女性が職場や地域社会などで直面する課題や改善策などについて模索していくことを目的として開催した。参加対象は,聴覚障害のある女性のほか,聴覚障害のある女性のライフキャリアに関心のある方などを対象とした。今回初めての取組みであったため,学内 HPへの案内の他に関連団体への案内周知にも力を入れた。 なお,本講座の開催にあたり,本学がこれまで蓄積してきている聴覚障害のある女性のエンパワメント推進に取組む団体との連携性やネットワークを活用し,効果的な学習プログラムを提供するための実施体制を構築することを考慮した。 2.2 日程及び企画内容 本講座は,2019年 2月24日に都内の貸会議室を会場として実施した。企画構成にあたっては,関連団体と話し合いを重ね,テーマと内容を検討した。題材は「ろう・難聴(聴覚障害)女性の視点からキャリアデザインについて考えてみよう」とし,テーマについてはキャリアと発達障害の 2テーマとし,レクチャーとグループワークおよび全体交流会を行う構成とした(表1)。 表1 講座の内容 第1部:レクチャー 13:00~14:00 テーマ1:働くろう難聴女性を取り巻く環境~当事者へのインタビュー調査等と通して~ テーマ2:ろう難聴児のでこぼこって?~発達障害の視点から~ 第2部:グループワーク 14:00~15:00 テーマ1:セルフイメージを上げて,自分らしい働き方やキャリアを考えてみよう テーマ2:なんらかのハンディのある子どもをもつろう難聴母親の育児について話し合ってみよう 第3部:全体交流会 15:00~16:00 3.実施報告 社会で活躍する聴覚障害のある女性をはじめ男性および本学卒業生数人も含め,計 35名の参加があった。 まず第一部のレクチャーでは,参加者全員が聴講する形で,本講座のテーマであるキャリアと発達障害について,それぞれ「働くろう難聴女性を取り巻く環境〜当事者へのインタビュー調査を通して」,「ろう難聴児のでこぼこって?〜発達障害の視点から〜」というタイトルで,情報提供を行った。 続く第二部では,キャリアと発達障害それぞれのテーマに分かれてグループワークを行った。事前にメールによる申込を受け付ける時点で,参加希望者にキャリアと発達障害,どちらのグループワークへの参加を希望しているか聞きとりを行い,当日はすぐにそれぞれのグループワークに参加していただけるようにした。また,グループワークが円滑に進むよう,進行担当と助言者が進行方法に工夫を凝らし企画した。テーマ毎に 2グループ,合わせて 4つのグループに分かれ,最近の出来事や悩み事など意見を交わしながらをお互いにディスカッションした。最後に,全体交流会を行い,参加者全員で情報交換を行った。 4.まとめと今後の課題 本研究は,聴覚障害のある女性が生涯の各ライフステージにおいて必要とされる個人の生活や社会生活を自立して生きるために必要な知識やスキルを身につけ,実生活で実践するための効果的な学習プログラムの開発研究を行うことを目的としたものである。教育機関に在籍中もしくは卒業し社会に出ている聴覚障害のある女性を対象とした講座,講師と参加者との交流や共同学習会を通して,学習プログラムの検証を行った。 本研究のような聴覚障害者の男性女性それぞれの違いに着目した開発研究自体は極めて少なく,とりわけ聴覚障害のある女性当時者の視点からみた研究開発は皆無であり,わが国の聴覚障害教育及び障害者支援の発展にとって大きな意義を持つと考える。 参照文献 [1]石原保志,大杉豊,小林洋子,他.聴覚障害学生及び大学等を卒業した聴覚障害者のキャリア発達に関する研究.筑波技術大学テクノレポート.2016; 24(1): 57-58.